最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 暗い記憶の中に含まれていた暖かく優しい、確かな幸せを感じていた夢。
 しかし、その温もりは、次第に寒さを帯びていき、桜の花は、冷たい海の底へと散っていった……。

 MUKURO side.

 桜の花の終わり 水没の散桜




 ※この話には一部ショッキングな描写が含まれております。
 ※閲覧はくれぐれもお気をつけください。
 ※なお、この話はそれらを促すためのものではありません。
 



桜ノ記憶 紺碧ニ消ユル桜花弁

 カリスマ若手社長と言われていた青年、鷹坂秋良と出会した桜奈は、とても穏やかな温もりの中に身を置いていた。

 まずは試しに付き合ってみないかと言われ、会社にいる人間達からも背中を押され、試しに彼の側で度々過ごしていた彼女は、少なからず彼に心を開いていたように思う。

 

 決して会社での自身の立場のことは話そうとしていなかったが、鷹坂秋良の寄り添うような温もりに、自身の出生や、何度も出会したトラウマとも言える男達とのトラブル……プライベートと言えるものは、あらかた彼に話しているようだった。

 鷹坂秋良はその話に同情はしていなかった。同情がほしくて彼女が話したわけじゃなく、同調してほしかったわけでもないと、彼は把握していたがために。

 

 僅かに見えた記憶から、桜奈と鷹坂秋良は大学で共に過ごしたことがある学友であることはわかっていた。

 ただ、この時の鷹坂秋良と、大学で出会した学友であるフェリクス・アキラ・レオンハートと容姿があまりにも違いすぎるため、授業の時に話した程度の関係では擦り合わせることができなかったことから、同一人物であることを見抜けなかっただけ。

 しかし、鷹坂秋良は、類稀なる洞察力と観察眼により、彼女がどのような性格をしており、どのような言葉や感情を欲しがるのかを理解していたために、そっと寄り添うように彼女の話を聞き、自身のことを教えていた。

 

 ……その温もりに桜奈は確実に惹かれていた。それが恋であることに気づくことは、自己犠牲心が強く、自己肯定感が低い彼女には難しかったらしいが、確かに鷹坂秋良に惹かれていた。

 鷹坂秋良も、彼女の感情の変化には気づいていただろう。それだけ彼女は、どこか穏やかで優しい……僕がここ最近何度も見てきていた暖かい笑顔を度々見せていたのだから。

 だが、同時にそれは彼女の悪癖を誘発する原因にもなった。誰かに甘えたい……寂しい思いをしたくない……くっついていたい……構ってほしい……自身でめんどくさい女だと吐き捨てる要因となっている、彼女の本来の性質が、顔を覗かせようとしていた。

 

 桜奈はそれに気づき、その自我を抑えるようになった。それは次第に彼女の態度も変化させて行き、鷹坂秋良に対しても、本来の自分ではない方の自分で接するようになった。

 自分の本来の性格は出しては行けない……そんなものを見せてしまっては、めんどくさいと思われるだけだ……。

 ある意味で、鷹坂秋良は初手で悪手を出してしまったと言えるだろう。仕事ができる彼女を褒めること……彼自身にはそのつもりはなかったのだろうが、自己肯定が何かしらの功績を残すたびに見せる周りの反応により育てられた彼女にとっては、仕事ができるからと目をつけられたのだと誤認してしまう原因として十分過ぎる言葉だった。

 

 鷹坂秋良は、きっとそれに気づいていた。しかし、鷹坂秋良自身も、彼女が自身に応えてくれたのは、過去の繋がりではなく、今の繋がりだと言う考えから、桜奈の本当の性格を知っていると伝え難かった。

 周りに自身の本来の性格を隠そうとする彼女の性格からしても、そのようなことを口にしたら、彼女の思い込みの激しさや、自己暗示の強さから、離れていく可能性がある……と言うのも、一つの要因かもしれない。

 

「……きっと、互いに歩み寄るための勇気があれば、2人は幸せな道を、関係を築いていたのでしょうね。」

 

 桜奈が幸せになれたかもしれない道……それが向こうの世界にもあったことは、とても喜ばしいものだ。

 しかし、僕は同時に、その勇気のなさに感謝していた。

 

「……本当なら、こんなことを言うのは不謹慎ですが、あなたが勇気を出して桜奈に歩み寄らなかったことを嬉しく思いますよ、鷹坂秋良。」

 

 ─────……あなたが勇気を出さなかったからこそ、僕は桜奈と出会うことができて、変わることができたのですから……。

 

 吐き捨てるように出てきた言葉に、少しだけ気分が悪くなる。桜奈が幸せになる道を途絶えさせてくれたおかげで、彼女は僕の世界へとやってきた……その事実にひどく喜んでしまった自分自身が不快だった。

 

「……これだから、人間はあまり好きじゃないんですよ。」

 

 人間は必ず欲を持つ。不謹慎なものであっても、それが自身にとって喜ばしいものであるならば、喜びに満たされてしまうことがある。

 桜奈の幸せを願っているはずが、前世の彼女が不幸になったことに喜んでしまう自分がいる……なんとも矛盾に溢れていて、とても醜い欲望だ。

 

 少しの自己嫌悪を抱きながらも、僕は目の前にある花びらに手を伸ばす。

 数ヶ月の付き合いの果て、幸せを得ることができたかもしれない桜奈自身が、共に生きようと言ってきた鷹坂秋良に対して、自分よりも相応しい女性はきっといるはずだからと別れを告げ、自身の本性を隠すように、同時に終ぞ気づくことがなかった、彼に対する恋慕を切り捨てて消していくのを感じ取りながら。

 

 

 …………………

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 …………………

 

 

 それは、数ヶ月の付き合いを経て、結局は別れる道を選んだ桜奈の最後の記憶だった。

 鷹坂秋良との話を破断にしたのち、なんら変わりのない日常生活を送る桜奈の携帯端末に、父親からのメッセージが入った。

 久しぶりに来た父親からの連絡……家族を1番にしていた桜奈は、すかさずそのメッセージを開き、中に記されているものを確認した。

 

 そこに記されていたのは、“今まで支えてくれてありがとう。ずっと頑張ってくれてくれてありがとう。もう父さんは大丈夫だから、お前は幸せになりなさい”と言う文字。

 嫌な予感を感じた桜奈は、仕事があるにも関わらず、初めてその義務を放棄して、急いで父が暮らしている自宅の方へと走り出した。

 会社に行く途中であったにも関わらず、タクシーをその場で拾い、自宅の方へと移動する彼女は、何度も父親にメッセージを送っていた。

 

 “何があったの?”

 “既読がつくなら返事をして”

 “どうして何も言ってくれないの?”

 “どうして連絡をしてくれないの?”

 “やめて”

 “お願い”

 “返事をして”

 “置いていかないで”

 “父さん”

 “父さん!!”

 “ねぇ!!返事をしてよ!!”

 “お父さん!!”

 

 次々と端末に流れていく懇願の言葉。しかし、その話に返事は一向に返ってくることはなく、父親に呼びかける言葉ばかりが刻まれていく。

 桜奈の容体は少しずつおかしくなってきており、タクシーの運転手も心配して、大丈夫かと声をかける。

 だが、桜奈はそんな運転手の言葉など聞いていないのか、聞くための余裕が全くないのか、運転手に早く目的地に向かってと、過呼吸になりながらも怒鳴りつけている。

 そして、ようやくたどり着いた自宅前で、桜奈は財布の中に入っていた金額を全額運転手へと叩きつけては、急いで父親と暮らしていた場所へと足を踏み入れた。

 

 ……そこで彼女が見たものは、リビングで息絶えてしまった父親の姿だった……。

 

あ……ああ……っ……ああああああああああああああ!!!!

 

 変わり果てた父親の姿を見て、桜奈は膝から崩れ落ち、痛ましいほどの慟哭に吠える。

 遅かった、側にいてあげたら、もっと早く気づけたら、母さんに任されていたのに、どうして離れたりなんかした?、側にいてあげなきゃいけなかったのに、いやだ、いやだ、どうして、どうして、どうして、どうして……

 

 わ た し を ひ と り に し な い で ・ ・ ・ ・ ・ ・ っ

 

「……─────…………」

 

 桜奈が感じた絶望を一気に感じ取り、僕は言葉を失う。

 同時に景色には次々と大きなヒビが入り、とうとうその記憶は、ガラス窓が高所から落とされたかのように、大きな音を立てて砕け散る。

 それは………桜奈の精神が……完全に崩壊した瞬間だった……。

 

 どう言う運命の巡り合わせか……彼女の父親が自ら命を絶ったのも……桜奈が25歳の誕生日を迎える日だった………。

 

 

 …………………

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 見ていた記憶から、完全に鮮やかな色が失われた。広がる景色はモノクロで、かつての僕が見ていたものとよく似ている。

 完全に精神が壊れてしまった桜奈は、その表情から完全に感情と呼べるものが消えており、心からの笑顔どころか、作り上げられたそれすらも、浮かべなくなってしまった。

 

 父親の葬儀が行われる中、彼女の親族と思わしき人々が、痛ましい姿を見せる彼女に口々に言葉をかける。

 こっちの気持ちなど、わかるはずがない癖に……そんな悪態を抱きながらも、その言葉に力なく答える桜奈。

 彼女の親族達は、そんな彼女の姿を見つめることしかできない。

 

『……この度は、父の葬儀に足を運んでくださり、ありがとうございます。

 とても辛いことではありますが……きっと父は、先に逝ってしまった母の元に行ったのでしょう。

 あの人は、わたしが学生として過ごしている時、わたしの学費のこともあり、ずっと頑張ってくださいました。

 父親1人で仕事をくたくたになるまでこなし、わたしがしっかりと卒業できるようにと、度々問題集なども買ってくださいました。

 誕生日の時は、遅くなれどお祝いもしてくれました。感謝してもしきれません。

 母との死別を迎え、何度も辛い思いをしていたはずなのに、わたしに心配かけないようにと、一緒に過ごしてくださった記憶は、今でも昨日のように思い出せます。』

 

 1人の肉親として……命を落とした父親の娘として、桜奈はやることをこなしていく。

 その言葉から抜け落ちた感情が沢山あっても、それでも父親の娘として、彼女は責任を果たしていた。

 

『父はきっと、母と幸せに過ごしていると思います。だからわたしも、旅立って行ってしまった父に心配をかけないように、これからを精一杯生きていこうと思いますので、どうか皆様も、父と母の幸せを願いながら、これからを生きてくださればと思います。

 しばらくの間は、このことを忘れることはできないと思いますが、いつか必ず、みんなで前を向いて歩いて行きましょう。』

 

 親族の挨拶を口にして、涙を流しながらもようやく笑みを浮かべる桜奈。

 彼女の姿を見て、集まった親族達も涙を流しながら、その言葉に同意する。

 その姿を見て、桜奈は一度目を伏せたのち、ある方角へと目を向ける。

 見える景色は壁ばかりで、その先に何があるのかはわからない。

 

 最期の記憶を見るまでは……。

 

 

 

 …………………

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 …………………

 

 

 真っ暗闇になったかと思えば、近くから波の音が聞こえてきた。

 そのことに驚いて目を開けてみれば、そこはどこかの崖の上。そのすぐ上に座っていたのは、黒の髪を風に靡かせて、無言になっている桜奈の姿だった。

 辺りを見渡してみれば、葬儀が執り行われていた建物らしきものが僅かに見えた。

 

「ここは………っ」

 

 その景色はあまりにも覚えのある景色だった。精神世界で初めて桜奈と出会した時、流れる記憶の景色の中、1番長く景色として存在していたものだった。

 崖の上に座る桜奈は、目の前に広がる海に、闇に塗り潰された黒の瞳を向けている。

 

「っ…………!!」

 

 しかし、その表情に浮かんでいるのは、穏やかとしか言えない微笑みで、異常としか言えない状態だった。

 思わず絶句して桜奈を見つめていると、彼女は顔を空に向ける。視線の先には煌々と輝く満月が昇っており、暗闇の海に柱をかけていた。

 

『……そう言えば、昔は月ってあの世と思われていたり、生死や輪廻に関係しているとか言われていたんだっけ?

 所詮は物語に過ぎず、実際はなんの変哲もない天体だけど。』

 

 ポツリと呟くように言葉を紡ぎ、桜奈はその場で立ち上がる。

 その姿に本能的にまずいと感じた僕は、すぐに桜奈の方へと走り出し、届かないとわかっていても、彼女の腕を掴むために思い切り手を伸ばした。

 

『もし、本当に母さんと父さんが月にいるなら、いつか2人に会えるかな。所詮は夢物語の御伽話でも、少しくらいはそう思ってもいいよね。

 ……どうせ終わるなら、最期くらいは綺麗な景色が見たいから、今夜は最高のシチュエーションだ。』

 

 しかし、やはり僕の手は彼女の元に届くことはなく、立ち上がった彼女は、崖の方に背を向けて、そのまま地面を蹴り飛ばした。

 彼女の腕に触れそうな距離。だが、僕の手は虚しく空を切り、桜奈は海の方へと逆さまに落ちていく。

 

「桜奈!!!!」

 

 走り出した勢いのまま、僕の体も宙に投げ飛ばされる。

 暗闇に塗り潰されていた彼女の瞳は、いつのまにか光が灯り、その視線は遥か上空にある月に向けられていた。

 彼女は両目から涙をこぼしながら、その表情に笑みを浮かべる。

 

『……ごめんね……母さん。わたし……母さんとの約束……守れなかったよ……。』

 

 最後に残した言葉と共に、月光に照らされた海の中へと吸い込まれていく桜奈に続き、僕の体も記憶にある海の中へと落ちる。

 記憶であるがゆえに、海水による痛みなどを感じることなく目を開けることができた僕が、最後に見ることになった景色は、月光に照らされた透き通った海と……

 

『……あーあ……わたしも……幸せを手に入れた人魚姫になりたかったな……。これじゃあ……本来の物語の人魚姫じゃないか……。

 でも……大好きな海に泡となって消えることができるなら……それはそれでよかったかな……。』

 

 月光に照らされた海の中で、諦観してもなお、どこか幸せそうで、とても綺麗に笑う桜奈の姿だった………。

 

 

 …………………

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 …………………

 

 

 ……不意に、自身の片手が何かを掴む。

 長い記憶の旅から、意識を取り戻した僕は、それを確認するために、閉じていた目蓋を静かに開けた。

 僕の手が掴んでいたのは、精神世界の桜奈の腕だった。

 

「あ………」

 

 その桜奈は、先程まで見ていた記憶の中の彼女の姿に変わっており、ゆらゆらと広がる月光に照らされた海中に、黒い髪を遊ばせていた。

 その姿に、僕の目から涙が溢れる。触れることができなかった記憶の彼女と同じ姿をしている彼女に触れることができたことが、どうしようもなく嬉しくて……僕は、眠っている彼女の頬にそっと触れる。

 すると、目を閉じていた彼女の長いまつ毛が微かに揺れ、その目蓋の下からは、光を宿す黒曜石のような瞳が現れた。

 

「……泣いてるの?骸。」

 

 僕の姿を視界に入れ、話しかけてくる桜奈。彼女は僕の頬へと手を伸ばし、親指で流れ出る涙を拭ってきた。

 その手からは確かな温もりが感じ取れて、ますます涙が溢れてくる。記憶の中にいた彼女が、どれだけ傷つき、精神にヒビ割れを作り上げても、触れることも、声を届けることもできなかった彼女が、今、目の前にいて、僕も触ることができる。

 

「泣き過ぎだよ骸。まぁ……あんな記憶を最後まで見ちゃったんだから、優しいきみならそんな風に泣いてしまってもおかしくはないのかもしれないけどね。」

 

 穏やかに笑う本来の姿の桜奈は、普段見てきた彼女以上に大人っぽくて、尚且つ穏やかだった。

 気のせいか声もとても柔らかく、年上の女性とはこんな人を言うのだろうと、わずかに動く思考の中で考える。

 

「ごめんね……こんな姿で……。いつものわたしとは全然違うでしょ?あっちの方がずっと綺麗な容姿をしていて、こっちの見た目はそこまでいいものじゃないのに。」

 

 紡がれた自己肯定感の低い言葉に、僕は静かに首を左右に振る。

 確かに、こちらに生まれ落ちた桜奈の容姿は、とても綺麗で愛らしいものだった。

 しかし、目の前にいる彼女も十分過ぎるくらいに美しくて、こちらでの容姿に負けない程に魅力に溢れているものだった。

 

「……そんなこと言わないでください。本来の桜奈の姿も、奈月としてのあなたの姿に負けないくらいに綺麗です。

 桜奈の優しさや、心の清らかさ、穏やかな温もりを帯びた、春の陽だまりのような女性ですよ。」

 

「……そう言ってもらえるなんてね。ありがとう、骸。お世辞でも嬉しいよ。」

 

 優しく微笑み、僕の涙を指で拭い続ける桜奈。紡がれる言葉は、僕が口にする言葉に対する緩やかな否定。

 お世辞ではなく、本当に心から綺麗だと思っているのに、どうして彼女はそれを否定するような言葉を紡ぐのか。

 

 ……きっと、そのようにしたのは、彼女の前世の周りにいた人間達だろう。

 彼女の能力を当てにして、彼女が気分を害さぬように、自分達にずっと使われるように、機嫌取りに様々な賛辞の声をかけ続けて、何度も何度も媚び諂い、自分達から離れないように、じわじわと自我を殺し続けていたのだから。

 そう思うと苛立ちと殺意が湧いてくる。彼女を利用するどころか、彼女の自我を殺す原因を作り出し、今もなお呪いのように付きまとい、周りを優先する悪癖として絡みついているのだから。

 

「桜奈。僕はあなたの容姿に惹かれて好きになったわけではありません。心の底から、本気であなたの温もりに惹かれ、守りたいと思うようになったんです。

 自分は綺麗ではないなどと言わないでください。僕にとってあなたは、誰よりも綺麗な女性です。

 月のように寄り添うような……太陽のように照らしてくれるような……そんなあなたを本気で慕っているのですから。

 もちろん、寂しがり屋で甘えたがり屋なあなたのことも、本気で愛しているんです。

 僕は、あなたの全てを愛しいと想い、その全てがほしいと望んでいるんですよ。」

 

 それならば、僕がそれを打ち消そう。何よりも美しく、誰よりも優しく、ひっそりと海の底で咲き誇り、何度も花びらを散らされていた美しい桜を守るために。

 “どうか、あなたの本来の心ごと、全て僕だけのものに”……そんな望みを伝えるように、僕は桜奈の唇へと自身の唇を重ねた。

 

 

 

 




 小鳥遊 桜奈
 二度に渡って誕生日に大切なものを失い、精神を完全に崩壊させてしまっていた桜の花。
 様々な後悔と、果たせなかった約束……2つの罪悪感をか抱えたまま、月光が照らす海の中へと沈み、そのまま転生の道を辿っていた。
 あと少し勇気を出すことができれば、自らの終わりを辿ることなく、幸せな未来を迎えていた可能性が高かった。

 六道 骸
 記憶の旅を繰り返し、桜の最期を見たことにより、彼女を守りたいと言う強い想いを抱くようになった術士。
 もう二度と、彼女がそのような道を辿らぬように、全てを自分のものにして、そのまま遠くへと逃げていきたい。
 人間と言う存在の欲深さを、何かしら抱いてしまう人間道はやはり嫌いだと思っている。
 桜奈の記憶を辿る中で、向こうで終わりを迎える道を選んだことにより、彼女と出会うことができたのだと、不謹慎にも喜んでしまった自分自身にも嫌悪感を抱きながらも、自身の想いはもはや止めることができない状態になっている。

 鷹坂 秋良
 一歩勇気を出していれば、桜奈と幸せになれていた青年。
 もし、もっと彼女と歩み寄っていれば、違う未来があった。

 小鳥遊 隆晴
 皮肉にも、最期の最期で桜奈に目を向け、終わりを迎えた彼女の父親。
 自身の終わりがトリガーとなり、彼女から幸福を奪ってしまったのだが、終わりを迎えた彼自身は、それに気づけない……。


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