最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい 作:時長凜祢@二次創作主力垢
それを見た藍の少年は、自身と向き合う桜の花に一つの選択肢を突きつける。
桜の花が選んだのは………
骸が落ち着くまで抱きしめて、頭を優しく撫で始めてからどれくらいの時間が経ったのかわからない。
ただ、今は彼を抱きしめておかないと、彼はどこか苦しそうで、彼が大丈夫だと口にするまで、その体勢で座っていた。
「……ありがとうございます、桜奈。だいぶ気持ちが落ち着きました。」
「ん。どういたしまして。……まだ話す?辛いと思っているなら無理はしなくていいからね?」
「……確かに辛い記憶ですが、あなたには知っていてほしいんです。僕達が抱くマフィアに対する強い憎悪……これから先、あなたが向き合うことになるであろう暗闇の記憶を。
あなたが継ごうとしているボンゴレファミリーがこのようなことをしたわけではありませんが、あなたが率いるファミリー以外には、存在している可能性があるものです。
全てがそうではない。そんなはずはないと目を逸らしたくても、マフィアには必ず、忌々しい程の業が存在しており、それと向き合わなくてはならない機会も、ボスと言う立場に身を置く以上、何度もあるでしょうから。」
早めに知っていて損はない……そう伝えてくる骸を少しの間無言で見つめたわたしは、静かにそれに頷いた。
わたしが承諾したのを見て、骸は少しだけ辛そうな表情で笑う。感じ取れた感情は、わたしに対する申し訳なさ。
話すと決めたのは彼自身……だけど、その記憶はかなり苛烈さを持ち合わせているのだろう。
本当は話したくない……このまま聞かないで、自分の手を取ってほしかった……本当の望みが目の前で砕け、骸から強い悲しみを感じ取る。
その悲しみに対して、申し訳なさはある。だけどわたしは意見を覆さなかった。
向き合うと決めたのだから、最後まで向き合おう。それが、わたしに何かしらの影響を及ぼす可能性があったとしても。
「……桜奈の覚悟はよくわかりました。では、続きを話しますね。」
わたしが意見を覆さないとわかり、骸は少しだけ諦めたような様子で言葉を紡ぐ。
彼が話してくれたのは、憑依弾が禁弾として指定されたあとの話だった。
「憑依弾は、その扱い方の酷さから、マフィア全体に禁弾とされ。そのようなものを作り出したエストラーネオファミリーは、大罪人としてマフィア界を追放されました。
エストラーネオファミリーに属していた僕達は、人でなしのレッテルを貼られ、マフィア界全体から迫害を受けるようになったんです。
外に一歩出たら、害虫を駆除するかの如く命を奪われ、それにより命を落とした子供は少なくありません。
なんとか生き抜いていても、エストラーネオファミリーの人間の元にいることしかできず、逃げることも許されなかった僕らは………」
不自然なタイミングで骸の言葉が途切れる。それを不思議に思ったわたしは、静かに骸に目を向けた後、軽く首を傾げた。
「……桜奈。あなたに一つ、選択肢を与えても構いませんか?」
「うん、いいよ。どうしたの?」
しばらくして紡がれたのは、選択肢を提示したいという言葉だった。
すぐにわたしは構わないと骸に返し、何が聞きたいのかを問いかける。
「……このまま、僕から全て話しても構いません。ですが、あなたが本気で望むのであれば、僕の精神世界へとあなたを導きます。
そうすることで、あなたは僕の記憶を把握することができますから。僕があなたの記憶に触れたように。
ですが、この方法はあなたにも辛い思いをさせてしまいます。僕の記憶に触れると言うことは、僕の憎悪にも触れると言うことですからね。
あなたのように、春の陽だまりのように暖かく、この身を委ねてしまいたくなるような……溺れてしまいたくなるような清澄なる優しさを持つ人には、些か荷が重すぎる。」
“それでも、僕の記憶に手を伸ばしてみますか?”
骸から告げられたのは、とても重い選択肢だった。精神世界を通じ、相手の記憶に触れていく……この屋敷に初めて骸と来た時に、彼が行った、わたしの記憶巡りと同義のものだった。
それをこなした骸が、あのあとボロボロと涙を流してしまったことを思い出す。
わたしの記憶を見ただけで、あんなにも優しく泣いてくれた骸だけど、それは、わたしの悲しみと絶望だったからこそ、涙を流すだけにとどまった。
だが、骸の記憶となるとどうだろう?話を聞くだけでも彼の怒りや憎しみがわかってしまうというのに、記憶の深淵に踏み入れるとしたらどうだろう?
かなりの憎悪が焼きついて、今もなお復讐に生きる骸の記憶を知って、わたしは変わらずにいられるのだろうか?
そこまで考え、わたしは少しだけ骸から目を逸らす。
怖くないと言えば嘘になる。むしろ怖い以外の何物でもない。
わたしの直感も言っている。そこに踏み入れるのだとしたら、相当の覚悟を持たなくてはならないと。
だけど、それらの忠告を受けてもなお、わたしは、無意識のうちに骸に手を差し伸べていた。
「……触れていいなら連れてって。わたしにキミのことを教えてほしいな。」
無意識のうちに紡いだ言葉は、骸の提案に乗る言葉だった。口元に浮かべるのは自身でもわかる程の穏やかな笑み。
怖いと思っているはずなのに、わたしは応えることを選んでいた。
こちらの感情は筒抜けで、恐怖や不安を抱いていることを、きっと骸は知っている。
そうじゃないと、こんな風に驚いたような表情はしないよね?
「……本当に、いいんですか?今ならまだ引き返せます。こちらに記憶に触れることに、あなた自身も恐怖を抱いているでしょう?」
その答え合わせをするかのように、骸は再度確認してきた。骸を知ると言うことは、地獄のような世界を見ることになる……それを忠告するように。
わたしは静かにその場で頷く。構わないと言う感情と、怖いはずだという問いかけに対する肯定を見せるように。
「……誤魔化しても無駄かららハッキリと言うけど、骸の言ってる通り、すごく怖いと思ってる。
不安だとも思っているし、わたしの精神にどれくらいの影響が出るのかもわからない。
あまりにもリスキーなことなのは、ちゃんと理解してるんだよ。」
「だったら……!!」
「それでもわたしは骸を知りたい。骸が抱えてきたものも、骸が宿してる絶望も、骸が持ち合わせている憎悪もね。
……でも、怖いことには変わらないからさ。せめて、わたしの手をずっと握っててもらえるかな?
骸の過去の記憶は、きっと深い深い暗闇だから、何も知らないわたしは、生きる術を持たないままに、息が詰まって溺死する、深海の迷子になっちゃうと思うから。
だからね。わたしの手をぎゅっと強く握りしめて、わたしのことを離さないで。
キミが側にいてくれるのであれば、どれだけ苦しくて辛くとも、どれだけ怖くて悍ましくとも、わたしはきっと歩いていけるから。
ほら、前にも言ったでしょ?もし、本気で理解してほしいと望むようなことがあったら、キミのことを教えてほしいって。
それがどれだけ地獄でも、それがどれだけ暗くても、それがどれだけ冷たくて、息が詰まって苦しいものでも、わたしはしっかり受け止めるから。」
「─────……」
わたしの言葉に、骸はその場で無言になった。言葉にならないとか、思わず言葉を失ってしまうって、こう言うことを言うのだろうか。
そんなことを思いながらも、わたしは骸に手を差し出す。あとは全部キミ次第。連れて行くも行かないも、全てはキミの思うままに。
「……本当……あなたと言う
「確かに言われたね。でも、わたしは元から向き合うつもりだったよ。きっと、これは必要なことだから。」
呆れたように、だけど、わたしが受け止めようとしていることに歓喜するように、骸は泣きそう、だけど嬉しそうな笑みを浮かべる。
そして、連れて行ってと言うように、手を差し伸べていたわたしの手を取り、そのまま強く抱きしめてきた。
同時に体は腰掛けていたベッドに倒れ込み、わたし達は抱き合うように寝転んだ。
「……最後の確認です。本当に、僕の記憶に手を伸ばし、僕を受け止めるつもりなんですね?」
「うん。どれだけそれが悍ましいものだとしても、わたしはちゃんと受け止める。だから、わたしの手を握りしめて、絶対に離さないでほしいかな。
骸が隣にいてくれないと、わたしはきっと狂ってしまう。話しているだけでも、どれ程暗いものを宿しているのかがわかったから。
そんな世界の源泉に行くんだから、きっとわたしは壊れちゃうよ。」
「ええ。絶対に離しません。そこまで向き合おうとしてくださっているのに、お願いの一つも叶えないだなんて、今の僕にはできませんよ。」
「昔のキミだったら?」
「そうですね……きっとそれをくだらないと切り捨てて、そのまま見捨ててしまっていたでしょうね。
精神が弱っているのであれば、それだけ僕は付け入りやすくなりますから。」
「そっか。それなら、今のキミでよかったよ。少しでも寄り添ってくれるんだから。」
「少しだなんて言わないでください。僕は、あなたにだけは寄り添い続けようと考えているんですから。
それこそ、少しと言わず永劫にでも。あなたと出会ったせいで、僕はあなたから逃げられなくなってしまったんですよ?
離してくれと言われたとしても、絶対に離したりしません。縛りつけてでも側にいたい……側に置きたいと思ってしまう程に、僕はあなたから離れることができません。
責任はちゃんと取ってくださらないと、割に合わないじゃないですか。」
「それは大変だ。だったら側にいてあげないとね。間違いなくわたしの責任だし。」
「ええ。ですが、責任をちゃんと感じてくださるのであれば、どのような形でも側にいさせてくれるのであれば、僕はあなたの望みを叶えます。叶えられる範囲内で……ではありますけどね。」
強くわたしを抱きしめて、そう告げてくる骸に、わたしは静かに微笑む。
今から見るものは、本当に怖いもののはずなのに、本当に疎ましくて悍ましいもののはずなのに、不思議と気持ちは穏やかだった。
「……ここだと、少しだけ落ちそうで危ないですね。ちゃんとベッドに入って、落ちないようにしましょうか。」
「うん。」
骸と一緒にベッドの真ん中に移動して、寝る時のようにしっかりと毛布に潜り込む。
海が近いこの屋敷は、秋の色が近づきつつある今の時期は、少しだけ寒いから。
「それでは始めましょうか。僕の呼吸に合わせながら、精神の波長をしっかりと繋げてください。
タイミングを見計らって、桜奈を僕の精神世界へと引き摺り込みます。波長を合わせることで、感情なども際限なく流れ込み続け、それこそ先程言っていたように、深海に引き摺り込まれて溺れてしまうような息苦しさを覚えると思うので、辛くなったら言ってください。
僕がタイミングを見計らうと言うことは、主導権は常に僕が握り続けることになるので、止めることもできますから。
それと、少しだけあなたの負担を軽くします。僕があなたの精神の手綱を握ることで、あなたにも僕と同じ感覚や見え方が発生するため、だいぶ精神は楽になるはずです。」
「……それ、かなりハイレベルなことしてない?」
「精神への干渉は得意ですから。特に、桜奈は僕と極めて近い位置にいますからね。その分強く感覚を繋げることも、共有することもできるんですよ。
もちろん、微調整はそれなりに必要になりますし、主導権が僕の方にある以上、僕が持ち合わせている感覚全てを、あなたがダイレクトに感じることになるので、慣れるまでは苦しいと思いますけどね。」
“それでも、あなたの精神と心を守るには十分過ぎる処置です”と、穏やかに笑いながら告げてくる骸に、わたしは何度か瞬きをしてしまったが、感じ取れた骸の優しさはとても暖かくて、わたしはすぐに小さく笑った。
一緒に見ることや感じること……それを共有とよく言うけど、まさか、他の人が感じているものを共有することになるとは思いもよらなかった。
でも、骸がわたしを想い、そこまで手の込んだことをしてくれるのは嬉しくて、ありがとうと一言お礼を告げる。
「僕にくっついていいので、しっかりと力を抜いて、僕の呼吸に合わせて呼吸を繰り返してください。
僕と桜奈の感覚を一つに繋げて、準備ができたら精神世界へとダイブします。」
「わかった。……ちょっと体を密着させるよ。」
「構いませんよ。呼吸を合わせやすいように、しっかりと僕の呼吸を感じ取ってください。」
「うん。……ちょっと心臓がうるさいけど。」
「……仕方ないでしょう。自分の腕の中に愛してる女性がいるんですから。
前世を持つとは言え、恋愛なんて一度もしたことないんですよ僕は。」
「ふふ……そうだったね。でも、ちょっと落ち着いてほしいかな。呼吸と鼓動を合わせるのが大変だから。」
「最初はずれても仕方ありませんよ。ですが、安心してください。
ちゃんと同じ呼吸と鼓動になったタイミングで僕の精神世界へあなたを連れて行きます。」
「ん……」
しばらくの間、わたしと骸の呼吸と鼓動は交わることがなく、少しだけ時間を食ってしまう。
しかし、次第にわたし達は同じタイミングの呼吸と鼓動を感じ取れるようになってきて、精神の波長も、少しずつ重なるようになってきた。
それをわたしは感じ取りながら、静かに青天と黄昏の瞳に目を向けると、同じタイミングでその双眸がわたしに向けられ、同時に口元へと笑みを浮かべる。
そして、互いの笑みを確認したわたし達は、互いをしっかりと抱きしめながら目を閉じる。その瞬間、わたしの意識はブツンと糸が切れたように途切れるのだった。
小鳥遊 桜奈(沢田 奈月)
骸からの提案により、彼の精神世界へとダイブし、そこで彼の記憶を見ることを決意したボンゴレ10代目。
どれだけ苦しくて疎ましく、辛くて悍ましい暗闇でも、骸が手を離さず導いてくれるなら大丈夫だからと笑って、骸の精神世界へと向かった。
六道 骸
本当はこんな記憶は見せたくないと考えていたが、理解してほしいという願望も持ち合わせていた少年。
だからこそ、記憶を直接見るか、話だけで記憶を知るかの選択肢を彼女に突きつけたところ、直接知ることを選び、本気で理解してほしいと願っているなら、どれだけ辛くても受け止めると告げられた。
その返答に対し、何度か忠告をしたが、意見を覆さない彼女に、そこまで行くと手遅れだと呆れたように告げながらも、六道骸の全てを受け止める覚悟で向き合った彼女の精神を自身の精神世界へと連れて行った。