最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 虹の黄色は桜に問う。まだ話を続けるかを。
 黄色の問いに桜は答える。まだ話を続けたいと。
 受け止める覚悟と話す覚悟、その両方が揃ってる今なら、最後まで話すことができるからと。

 side REBORN.


桜ガ語ル記憶ノカケラ Ⅱ

「時間帯は夜中だからな。流石に学校がある桜奈にコーヒーは飲ませることができねーから、ココアにしといたぞ。」

 

「コーヒーでもよかったんだけどな……」

 

「眠れなくなるぞ。」

 

「それはリボーンも同じじゃん。」

 

 あれから少しの間、桜奈を休憩させたオレは、近くにあったコンビニで缶コーヒーとココアを買い、車の中で待っていた桜奈へとココアを手渡した。

 さっきまで泣いていた桜奈だが、今はいつも通りの桜奈に戻っているようだ。

 休憩を挟んだのは正解だったかもしれない……そんなことを思いながら、買ったばかりのコーヒーに口をつける。

 助手席に座らせていた桜奈も、手渡したココアを口にしている。だいぶ落ち着いているようだし、今なら話を切り出せる。

 

「……桜奈。オレとしては、小鳥遊桜奈と言う本来の桜奈を教えてもらえることはすごく嬉しいが、桜奈自身はたびたび辛そうな表情をしているように見えた。

 さっきも言ったように、過去を話すのが辛いなら、今日一気に全部話さなくても、後日ゆっくり話すこともできる。

 一気に話すのが苦しいなら、今日は一旦切り上げて終わることもできるが、まだ話してみるか?」

 

 落ち着いている今だからこそ、問いかけることができることを口にすれば、桜奈はキョトンとした表情を見せてきた。

 しかし、その表情はすぐに穏やかな笑みに変わり、桜奈は左右に首を振る。

 

「気遣ってくれてありがとう、リボーン。でも、今しか話せるタイミングはないと思うんだよね。

 互いに話す覚悟と受け止める覚悟があって、話すための時間があるからこそ、最後まで話すことができる。

 これから先訪れるであろう沢山の問題は目に見えてるからね。その問題が出てきた時、こうして話すことはできなくなるし、この機会に話しておかないと、ずっとわたしは過去を黙ったままになってしまう。

 そう思うと、折角向き合おうとしてくれてるリボーンに申し訳ないよ。だから話す。」

 

 そこまで口にして、桜奈は何かを思いついたような表情を見せる。

 

「ああ、でも、やっぱりちょっと話すのは辛いところもあるから、少しだけ甘えさせてもらおうかな……。

 確か、海が見える公園が途中にあったよね?一旦そこに向かってもらえる?」

 

「?構わないが、急にどうした?」

 

「そこに行ったらわかるよ。」

 

 桜奈に促されるままに、移動の途中で見かけた公園へと移動する。

 海に面した位置にあるその公園には、いくつかのベンチが存在しているような場所だった。

 海の方に近い位置にもいくつかベンチはあり、そこに座って海を眺めることもできる。

 

「ここがいいかな。」

 

 桜奈に連れてこられた場所は、その中でも一際海がしっかりと見えるような場所で、水平線が見える程だった。

 隣にいる桜奈は、その景色をどこか懐かしむような表情で見つめては、口元に笑みを浮かべている。

 

「わたしが生まれ育った場所にもこんな場所があったんだ。ここなら落ち着いて話せそう。」

 

 そう言って桜奈はオレの手を引き、先にベンチに座らせる。

 そして、ベンチに座るオレの足の上にそのまま腰を下ろしてきた。

 

「…………は?」

 

 まさかの事態に間抜けな声が出る。ベンチに座らされたかと思えば自分が椅子にされてしまうなど誰が予測できるのか。

 困惑するオレとは裏腹に、膝の上に座ってきた桜奈はどこか満足げな様子を見せており、そのままこちら側に寄り掛かっている。

 

「ん〜……よし。」

 

 “何もよしじゃないが?”……一瞬口から出そうになった言葉を飲み込む。

 膝の上に座られることは別に問題はないが、急になんの予兆もなく不意打ちでされるのは少しばかり戸惑ってしまう。

 このオレが不意打ちを簡単に取られてしまったと言うのも戸惑いの原因だった。

 

「旅館で初めてリボーンが呪解した時、膝の上に座らされて思ったんだよね。

 リボーンってわたしの幼馴染みの1人と体格が全く一緒だから、なんだかしっくりくるなって。

 まぁ、あの時は甘えたいって状態じゃなかったから、あんな風にバタバタしちゃったけど、甘えたい状態になってる今だと本当に落ち着く。

 幼馴染み達の側にいる時、授業の時以外はずっと膝の上に座らせてもらっていたから尚更ね。」

 

 “ついでに抱っこして?”なんて、上目遣いで言ってくる桜奈に、年甲斐もなく火照りを覚えながらも落っこちないように腰に手を回す。

 どうやらそれは正解だったようで、桜奈は上機嫌に笑いながら擦り寄ってくきた。

 随分とまぁ可愛らしい様子に、急にどうしたと言う気持ちを抱きながらも頭を優しく撫でてやれば、とても嬉しげな様子を見せている。

 

「確か、お父さんの会社に来いって言われても行かなかったって話までしたよね。じゃあ、その後の話を始めようか。」

 

「このままで話すのか?」

 

「うん。これが1番落ち着いて話せそうだから。ダメ?」

 

「ダメじゃないが、色々当たってるんだが……?」

 

「それに関してはわたしにも当たってるし、気にしない方向で。」

 

「それはそれでどうなんだ……」

 

 サラッと言うようなセリフじゃないと思いながらも、桜奈の様子からこれがこいつにとってのベストな状態であることがわかってしまい、大人しく椅子になる。

 とは言え、好いてる女の柔らかい部分がガッツリ当たっているのも事実で、よくこいつの幼馴染みはこれに耐えていたなと思ってしまった。

 

「……話の前に質問なんだが、幼馴染みの1人とオレの体格が一緒ってことは、幼馴染みは複数人いたんだな?」

 

「うん。2人いて、どちらも男性で、片方は本当にリボーンと体格が全く一緒。」

 

「もう片方は?」

 

「骸と全く一緒。」

 

「………そうか。」

 

 桜奈が骸にやけに懐いていた理由と思わしきものを知り、少しだけ遠い目をしてしまう。

 割とあっさり触れさせていた理由が、まさかオレと骸が幼馴染みと体格が同じだったからとはな……。喜んでいいのか悪いのか……。

 

「じゃあ、骸にも甘えていたのか。」

 

「うん。骸達と一緒にいた間は、もっぱら骸に甘えてたかな。膝の上に乗っかってみたり、座ってる骸の膝を枕にしてゴロゴロしてみたり、あと、背後から抱きついて構って攻撃してみたり。」

 

「猫かお前は。」

 

「にゃ〜お。」

 

「おい。」

 

 悪ノリして猫の真似をしてくる桜奈に思わずツッコミを入れてしまう。過去を話すようになってからやけにこいつはぽやんとしている。

 表情から見て、何かしらの不調をきたしているわけではないようだが、まさか、これが本当の桜奈なのか?

 

「……随分と幼なげでぽやっとしてるが、まさか素でやってんのか?」

 

「ん?うん。リョウ達の前じゃ基本的にこんな感じだったよ。多分、骸達の前でも似たような状態だったんじゃないかな?

 わたし自身はそこまで自覚があるわけじゃないんだけど、よくリョウとスイからくっついてくる時の桜奈は幼さが増してぽやぽやになってて人懐こい猫にしか見えないって言われたことがある。

 言動もふわふわしてて、本当に子供が子供のまま大人になってるみたいだったらしいんだよね。

 リボーンがそう感じたってことは、多分同じ状態なんじゃないかな。」

 

 

「……CHAOSだな………。」

 

「カオスって言うな。」

 

 ムスッと軽くむくれながら言い返してくる桜奈に頭を抱えそうになる。

 まさか、こんなとんでも爆弾だとは思いもよらなかった。甘えたいと思ったら甘えられる対象として看做されたからこその扱いのような気もするが、ここまでとはな……。

 まぁ、甘えてもらえるのはむしろ役得ではあるが……妙に理性をぐらつかせてくるのはなんなんだ?

 見た目に反して幼さが何倍にもなってるせいで、色々と刺激されかける上、変な背徳感を覚えてしまう。

 

「……よくお前の幼馴染み達はこれに耐えたな。ついでに骸も。」

 

「ん〜?」

 

「……そんで当人は自覚なしと。」

 

 キョトンと何にもわかってない様子の桜奈の姿に溜め息を吐きそうになる。

 もしかして、桜奈がストーカーや強姦未遂に立て続けにあったのはこの無防備さのせいなんじゃないかとすら思ってしまいそうだった。

 だが、桜奈の性格上、こんな姿を見せるのはおそらくだが身内に対してのみ……会社内に身内と呼べる存在はいなかったようだし、その可能性は極めて低いような……いや、ストーキング中に桜奈が幼馴染みに人懐こい猫みたいに甘えてる姿を見たことにより悪化した可能性も考えられそうか……?

 

 ─────……桜奈に限ってそれはないと思いたいが、どうも否定ができないのがな……。

 

 そんなことを思いながら、オレの膝の上に乗ったまま大人しく腕の中に収まっている桜奈をくすぐるように撫でてみれば、腕の中で無防備になってる当人はクスクスと無邪気に笑ってくすぐったいと間延びした声音で言ってきた。

 ……甘えられている間、理性と戦わされそうな予感しかしないのは気のせいではないだろう。

 

「ん〜……話が脱線した……。こっちの話をするためにくっつかせてもらってるのに。」

 

 “このまま話すのか……”とツッコミを入れてしまいそうになりながら、目の前にあるふわふわの頭を優しく撫でれば、桜奈は気持ち良さげに目を細める。

 口元にも笑みが浮かんでおり、本当に好きなんだな……と感じてしまった。

 これで落ち着くと言うのであれば、甘えさせておいた方がいいのだろう。色々と刺激されて少し大変ではあるが。

 

「お父さんの会社に転職したらって言う親族の言葉を蹴っ飛ばして、ずっと働いていた会社で仕事をする日々は、辛いことがほとんどだったけど、それでも小鳥遊桜奈を通して見ている小鳥遊佳奈ではなく、ちゃんと小鳥遊桜奈として見てもらえていたから別に苦痛じゃなかった。

 確かに疲労感は強かったけど、自分を見てもらえないよりは何倍もマシだった。

 沢山の我慢は強いられたけど、わたしを見てもらえなかった時よりかはだいぶ気は楽だったし、頑張ることができた。

 これならまだ大丈夫。透明人間として扱われないから地獄でもなんでもない……そう思いながらの生活を繰り返して、大体2年くらいかな?わたしにある転機が訪れた。」

 

 桜奈の言う転機とは、ある男との出会いだった。

 同時、働いていた会社の社長を勤めていた男の秘書が体調を崩してしまったと言うことから、会社の中でも仕事ができる女だった桜奈が、その秘書の代わりを務めて、とある取引先の社長と顔を合わせた時のことだった。

 自社の社長のセクハラとも取れるセリフを浴びてもいつものように受け流して仕事をこなしていた時、取引先の社長から、どうやらヘッドハンティングの話を受けたようだ。

 その社長の容姿は、ディーノのような正統派な好青年であり、性格はどちらかと言うとヒバリに近い感じの若社長で、桜奈の能力の高さを評価し、うちで働かないかと誘ってきたようだ。

 父親とは違う、親族や身内でもない存在……不思議と懐かしさを覚えるような、希望の光。

 そう感じた桜奈は、その社長の誘いに最初は乗ろうとした。だが、同行していた社長から、行かないだろうと言わんばかりの圧を受け、かつてのストーカーや強姦未遂を犯してきた男達の姿がなってしまい、恐怖からその圧を肯定してしまった。

 

「あの時勇気を出して、取引先の社長さんの手を取っていたら、苦しい生活から逃れることができたかもしれない……これは、わたしの後悔の一つ。

 でも、当時の社長さんは本当に怖くて……もし、あの場でわたしが頷いていなかったら、わたしだけじゃなく、わたしがこれまで見てきた子達にまで火花が飛び散りそうだったからできなかった。

 本当は逃げたくて仕方なかったのに、わたしを見てくれた後輩や、同期の人達にその苛立ちの矛先が向けられてしまったらって、これまで以上に酷な仕事をさせられてしまったらって思うと、逃げたりしたらダメだと思ってしまった。

 その時にはすでに我慢に慣れていた。それならもう少し我慢して、周りに被害が向かないようにした方がいいって思ってしまったの。」

 

 少しだけ桜奈の体が震えを帯びる。琥珀色の瞳にも強い恐怖の色が浮かんでおり、どれだけ怖かったのかハッキリとわかってしまう程だった。

 逃げればよかっただろう……と言うだけであれば簡単だが、周りを大切にする桜奈のことを思うと、自分より周りが傷つくことの方が何よりも嫌なことだったのだろう。

 無責任に逃げてしまえとは、流石に言うことができなかった。

 

「わたしが断りを入れた時、取引先の社長さんは、残念だって少しだけ困ったように笑ってた。

 オレならば君に見合った仕事を与えることができたと思ったのにって、本当に残念そうだった。

 でもね、そのあとその社長さんは、ヘッドハンティングを諦めたあと、それならばプライベートの付き合いはどうだろうかって言ってきたんだ。」

 

「……告白されたってことか?」

 

「うん。公私両方のつながりを得ることができないのであれば、片方だけでも繋がりを得たいって言われた。

 “オレは君に惚れてるんだ。例え君が覚えていなくても”って、手の甲にキスまでしてきてね。

 あの時のわたしは、恋愛感情なんて知らなかったから、正直言ってよくわからないことの方が多かったんだけど、今ならハッキリとわかる。

 だって、秋良さんは恭弥さんや骸、ディーノさんやリボーンと全く同じ目をしていたから。」

 

 先程までの辛そうな表情から一転し、どこか幸せそうに、だけど、申し訳なさそうな表情をしながら、桜奈は自身の左手をそっと握りしめる。

 桜奈の視線の先にあるのは、今の体の左手の甲。そこを優しく触りながら小さく笑っている様子から、そこにキスを落とされたのだと理解する。

 その様子にわずかな苛立ちを浮かべる。桜奈に対する苛立ちではなく、桜奈が口にした、秋良と言う存在に対する苛立ちだった。

 まごうことなき嫉妬の念。今もなおその記憶にわずかな幸せを感じてしまう程に、桜奈は秋良と呼ばれる存在に対して好意を覚えているのだと……覚えてもらっていると言うのは、同じ女に惚れている身として、あまりにも悔しいものだった。

 そんなことは知らずに、桜奈は秋良と呼ばれる存在との思い出を語る。

 

「最初、急にそんなことを言われるとは思わなくて戸惑ったんだけど、秋良さんは試しに付き合って欲しいって言ってきたんだ。

 まずは数週間、少しでも楽しいと思ってくれたならまた付き合いを継続して、それで、幸せになれそうだと思えたら結婚を前提に本格的な付き合いをして欲しいって言ってくれたの。

 ゆっくり考えていいからって、その日は連絡先だけ交換して、そのまま解散したんだけど、話を聞いた同じ部署で働いていた女の子達がこんな出会いはきっと二度とないからって背中を押してくれてね。

 それならと思って、わたしは秋良さんの申し出を引き受けたんだ。」

 

 穏やかな声音で語られる思い出は、秋良と呼ばれる存在に対する嫉妬心を募らせてしまう程に幸せそうな話だった。

 最初のうちは戸惑いばかりで、どうすればいいかわからないことばかりだったけど、穏やかな日々の毎日だったと。

 仕事から離れても小鳥遊桜奈を見てくれる人は幼馴染み以外にいなかったため、すごく心地が良かったと。

 秋良と呼ばれる存在は、桜奈の男に対するトラウマに寄り添うように、桜奈が拒むことや怖がることは絶対にしなかったと。

 他にも、今は取引先の社長と社員ではないのだから、気を楽にしても大丈夫だと。

 その言葉は、ずっと理想の存在として見られてきた桜奈にとって、救いの言葉だったのだと。

 

「秋良さんは理想の小鳥遊桜奈ではなく、本来の小鳥遊桜奈としてわたし自身を見てくれていた。

 幼馴染みであるリョウとスイのように、仮面をつけてるわたしじゃなくて、それを外している内側のわたしと向き合おうとしてくれた。

 それはすごく嬉しかったし、わたしにとっての心の拠り所にもなったんだ。

 秋良さんは、いろんなところに連れて行ってくれたりもした。2人で旅行に行ってみたり、大好きな水族館やテーマパークでデートしたり……。

 ああ、テーマパークと言えば、ゆっくりしたいからって秋良さんが社員の慰安旅行イベントを開くにあたり、ご両親とお兄さんの3人と共謀して大型テーマパーク一つを丸々貸切にするなんてことやってたっけ……。

 その上、オレの恋人なんだからってわたしも誘ってくれて、ついでとばかりにわたしの後輩や同期達をわたし伝手に巻き込んだりもしてさ。

 今思えば、あの人のお金の使い方はとんでもなかったなぁ……。でも、そんなに使ってもお金は大量にあるから気にしないでって言っちゃうし。」

 

「その秋良って奴、相当な金持だったんだな。」

 

「うん。世界のお金持ちのランキングではTOP20以上の常連で、年収ランキングも上位にいたよ。」

 

「そんな環境にいたのなら大金があってもあそこまで戸惑わなくないか?」

 

「社会に出てからは一人暮らしだったから色々と節制してたんだよ。せめてセキュリティが高いマンションに暮らしてくれって言われたから、家賃と光熱費がバカにならなかったし。

 住んでた場所、コンシェルジュが常駐してるタワマンの上階で、オートロック完備な上、向こうの警備会社の中で最も信頼できる警備員が派遣されるような場所だったんだよ?

 オートロックだけでいいと思っていたけど、わたしが何回もストーカーと強姦未遂に遭ったもんだから、それだけじゃダメだって言われて、結局そんな場所に住むことになっちゃった。」

 

「……なるほどな。」

 

 桜奈がやけに大金に対して戸惑う理由を知り腑に落ちる。社長令嬢であり、社長と結婚前提の付き合いをしていた環境なら、大金に慣れていると思っていたが、一人暮らしの結果、金に関して色々と慎重になっていたのか……。

 

「秋良との生活は、楽しかったか?」

 

 そんなことを思いながら、オレは桜奈に問いかける。

 穏やかな気持ちで話してくれたのだから、きっと幸せだったはずだ。

 なのに、それを捨てる道を歩いてしまったのだから、何かしら理由があるはずで、それを確認するための質問でもあった。

 

「……うん。秋良さんとの時間は、とても楽しくて幸せだった。このまま一緒に歩いていけば、これまでの辛さも帳消しにできるんじゃないかって思う程に。

 でも、だからこそ怖かった。幸せだからこそ怖かったんだ。」

 

「幸せだからこそ怖かった……」

 

「うん。わたしね。一度完全に心を許したら、自分自身を抑えることができなくなるんだ。

 こんな風に甘えたくなるし、構ってほしいと思ったら、すぐに構ってくれとちょっかいを出しちゃう。

 リョウとスイ、それと骸は、そんなわたしでも構わない、ちゃんと受け止めるから我慢しないでって言ってくれた。

 だから甘えることができるんだ。でも、秋良さんにはわたしのこの性質を話してなかった。怖かったんだ。

 ……わたしは、自分が一度心を許した人に対しては、少しだけ依存してしまう傾向を持ち合わせてる。

 理想の桜奈ではなく、本当の桜奈は、甘えたがり屋の寂しがり屋で、甘えさせてくれる人にはとことんくっつきたくなる子供なの。

 だから、わたしの素を理解している上で、それでも構わないと許されてしまったら、わたしは自制が効かなくなる。

 自制が効かなくなったわたしは、ところ構わずくっついて甘えるようになっちゃうめんどくさい性格をしてるんだよ。」

 

 “だからこそ、手遅れになる前に、わたしの方から離れたんだ”……そう告げる桜奈は、どこか辛そうだった。

 甘えたいけど甘えたくない。めんどくさい性格をしているのを把握しているからこそ、周りから突き放されないように、自分だけが我慢して理想を体現し続けて、本当の性格を隠し通した方がいい。

 桜奈の思考は、このような状態になっているのだろう。

 

 ─────……妙に周りと一定の距離を置き、自分の元に踏み込ませない傾向があるとは思っていたが、そう言うことだったか。

 

 今の自分は本当の自分じゃない……だけど本当の自分を見せた瞬間、周りの理想は崩れ去り、自身は幻滅されてしまう。

 寂しがり屋で甘えん坊……幼い頃から親の温もりをしっかりと与えられて来なかったら桜奈にとって、温もりが離れていくと言うのは何よりも苦痛だった。

 それならいっそ、自分の方からそれを切り捨てて、周りから距離を置くことにより、あそこは自分の居場所じゃなかったと言い聞かせてしまう方が何倍も気持ちが楽だったのだろう。

 

 例えそれが自分が壊れてしまう道のりだったとしても、その選択を選ぶことを躊躇わなかったのは……

 

 ─────……ある種の破滅願望……だったのかもしれないな……。

 

 

 

 

 




 小鳥遊 桜奈(沢田 奈月)
 辛いことが沢山あったが、幸せなことも少なくはないと、記憶を語る転生者。
 自分の性格を把握していたこともあり、こちら側の都合で周りの幸せを奪いたくないと言う理由から、自ら幸せに手を伸ばすことができなかった。
 例えどれだけ自分が傷つこうとも、どれだけ自分が壊れようとも、その先にあるのが碌でもない終わりであろうとも、その歩みを止めることができなかった。

 リボーン
 急に甘えてきたことにかなり驚いたが、桜奈がその状態でかつての自身の話を続けたため、彼女を抱きしめたまま耳を傾けていた呪解中のアルコバレーノ。
 まさか、前世で彼女に恋人がいたとは思わなかったので、かなり嫉妬してしまったが、今度はそいつが羨むくらいにオレが桜奈を幸せにしてやると少しだけ考えていた。
 明かされていく過去の話から、彼女にはある種の破滅願望があったことに気づいてしまい、表情を曇らせる。


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