最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

233 / 385
 虹の黄色から出された課題に、桜の花は取り掛かる。
 風紀委員長の彼ならば、桜に甘いから大丈夫だと言われるが、少しだけ不安に思いながらも、彼女は応接室へと向かう。
 果たして彼女は課題をクリアできるのか?


甘え桜育成計画 ver.雲雀恭弥

 少しの不安を抱きながらも、並盛中学校へと登校した。

 自分が通ってるクラスに足を運んだ瞬間、真っ先に京ちゃんに飛びつかれ、久しぶりだと笑顔を見せられた。

 そこから引っ切り無しにクラスメイト達が集まってきて、1ヶ月も旅行なんて羨ましいと言われたり、わたしの父親は何者なんだと言う質問をされたり、旅行はどこに行っていたのかなどの質問が飛び交った。

 真実を知っている隼人と武は、クラスメイト達の反応にかなり驚いているようだったが、いつのまにか彼らの側にいたリボーンが、この騒ぎの理由を2人に伝えていた。

 2人は納得したような様子を見せたあと、賑やかになっているこちら側へと目を向けて、安堵したような笑みを浮かべる。

 彼らにもあとで謝罪しないと……そんなことを思いながらも、わたしは手元にあったお菓子と男女関係なく使えるタイプの小物を見せ、好きなのを取ってくれとみんなに伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ❀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リボーンのフォローのおかげでなんとか乗り越えた朝の一幕。しかし、本番はこれからである。

 草壁さんに、1ヶ月間旅行に行っていたと言う嘘話は通用しないので、彼には正直に自分が家出騒動を引き起こしたことを伝えたわたしは、このことは他の役員には黙っていてほしいとお願いしたあと、表向きは旅行に言ってたことになってることを教えて風紀委員会の役員用のイタリアのお菓子を預けた。

 草壁さんはわたしがそんなことになっていたとは思わず、最初驚いていたが、直ぐにこちらのお願いを引き受けてくれた。

 

 そのことに安堵しながらも、たどり着いたのは応接室。

 久しぶりにみる物々しい雰囲気の扉の向こう側には、恭弥さんの気配がある。

 それを少しだけ見つめたわたしは、少しの間無言になり、入っていいものかと考え込んだ。

 

 リボーンを信じていないわけじゃないけど、やっぱり恭弥さんに甘えると言うのはかなり難易度の高い課題だ。

 なんでよりによっていきなりハールドを激高にしたんだあの人と文句を言いながら、ぐるぐるとわたしは思考を回す。

 

【……雲雀恭弥に甘えるのはかなり難しいと思いますが、むしろアルコバレーノはそれを狙ったのかもしれませんね。】

 

【それを狙った?】

 

【ええ。まぁ、所詮は僕の仮説に過ぎないのですが……】

 

 悩んでいると、リボーンはあえて難易度が高い相手を一番最初に選んできたのではと骸に言われる。

 その話を聞き、狙ったとは……と首を傾げていると、彼はその仮説の内容を教えてくれた。

 

 曰く、1番最初に甘えていいはずがないと思ってしまうレベルの対象に甘えさせることで、甘えることに関しての難易度を下げようとしているのではないかとのことだ。

 特に、わたしみたいに精神面に頑なな部分がある人間は自制心が強めなことが多く、まずはそのタガを大きく緩める必要があるのだとか。

 そこで、甘えたらダメだろと思っている相手にまずはその自制を軽く崩してもらおうとしているのでは……とのことらしい。

 

【精神や意識に付け入る際に使える手の一つですね。難易度が高いものから徐々に難易度を軽くしていき、抵抗力を奪う方法と似たようなものです。

 とりあえず、まずはアルコバレーノに従う方がいいかもしれませんね。】

 

【……解説どうも。】

 

 骸の解説に少しだけ頭を抱えたくなったが、これから先の予感を考えると、息抜きできる休憩ポイントが必要になりそうなことも事実だし、やっぱり行った方がいいのだろうか……。

 

「……さっきから気配があるのはわかってるのに入ってこないからかなり気になるんだけど?」

 

「ほぎゃあ!?」

 

「何その声。間抜け過ぎない?」

 

 う〜〜と頭を悩ませながら、応接室の前をウロウロしていたら、恭弥さんから話しかけられる。

 思考を回すことに意識を向け過ぎていたわたしは、まさか声をかけられるとは思わず、変な悲鳴を上げてしまう。

 それが面白かったのか、応接室から顔を覗かせていた恭弥さんは口元に笑みを浮かべていた。

 

【では、しばらく僕はこちら側をシャットダウンしておきますね。正直言って、僕以外に桜奈が甘えると言うのはかなり嫌ですが、これもあなたの精神を守るために必要なことですので。

 普段は奈月としてオンの自分で過ごさなくてはならない分、桜奈としてオフの自分で急遽休める避難先は必要です。

 あなたにとって、雲雀恭弥が本来の自分を晒すに足る存在であるのならば、止まり木くらいにはさせてもらった方がいいと思いますよ。】

 

 同時に脳裏に響く骸の声に、わたしは少しだけ無言になる。

 ……本来の自分を晒すに足る存在であるなら、恭弥さんも止まり木にした方がいい……か。

 

 ─────……言わんとしてることはわかる。わたしにとって、応接室は学校の中でも周りに合わせて過ごす必要がない唯一の場所で、落ち着く場所の一つだった。でも、本当に恭弥さんに甘えていいのかな……?

 

 リボーンは大丈夫だと言ってるけど、恭弥さんは甘えられることを最も嫌いそうな人だ。

 そんな人に甘えるなんて……

 

「何してるの。早く入りなよ。」

 

「……わかりました。」

 

 ぐるぐると考えながらも、恭弥さんに促されるままに応接室へと足を運ぶ。

 シャットダウンすると言う宣言通り、精神状態、疲労状態の把握のためにわたしの中に入り込んでいる精神の一欠片から生まれた端末のみを残して離れてしまっていた。

 

「赤ん坊から聞いたよ。奈月って、本当は甘えることやくっつくことが好きなんだって?」

 

「ぶほ!?なんつー情報を流してくれてんのあの人!!」

 

 応接室に足を踏み入れ、いつも通りソファーに座り込んでいたら、応接室の鍵をそのまま閉めてしまった恭弥さんからとんでもないことを言われてしまう。

 まさかの情報漏洩にその場で吹き出していると、恭弥さんはソファーに座っているわたしの直ぐ隣に座り込んだ。

 

「おいで。」

 

「………え?」

 

 不意に紡がれた“おいで”と言う言葉に驚いて顔を上げてみれば、隣に座ってる恭弥さんがわたしの方に片手を差し伸べていた。

 意味がわからず瞬きを返すと、彼は少しだけ無言でわたしを見つめ返したのち、座っていたわたしの手を掴み、自身の方へと引き寄せる。

 そこまで緊張してなかったこともあり、わたしの体は軽々と恭弥さんの方に引き寄せられ、そのまま膝の上に座らされた。

 

「六道骸の足に座ってたり、その連れの奴らにくっついたりしてる写真もあったし、赤ん坊が言ってることは本当なんだろ?」

 

「ゔ……その……はい……。わたし、本当は恭弥さんや、みんなが思ってる程、しっかり者の完璧人間じゃないんです……。

 能力面に関しては……まぁ、知っての通りで、普通の人に比べたらだいぶ高いんですけど……性格は、しっかり者とか、周りから思われてる程いいものではなく、実際はかなり子供っぽいと言うか、めんどくさいと言うか……」

 

 リボーンからの情報漏洩や、骸が見せたと言う写真などに言及されてしまい、取り繕う方が無理な奴だと悟ってしまったわたしは、ポツポツと自分の本来の性格に関して口にする。

 

「……わたし、どうも昔から周りの様子を見て、必要な人材がどんな存在かを分析してしまう癖があるんですよ。

 それで、努力すればなんとかなるレベルのものであれば、自分がその存在になって、必要にされたがる傾向があって……。

 多分、ある種の自己顕示欲のようなものだと思うんですけど、周りに見てもらえるように、必要にされるようにって、何でもかんでも抱えちゃうのが悪癖になってるみたいなんです。

 本当は、そんなことができる程、器用な精神なんてしてるはずがないのに、自分の精神をすり減らしても、それをしてしまうところがあるんです。」

 

 小鳥遊桜奈と言う前世のことは伏せながら、リボーンや骸からよく言われていた悪癖と言う単語を使いながら、自分の能力に関して教える。

 恭弥さんはわたしの説明を無言で聞きながら、膝の上にいるわたしの頭を、そっと撫でてくれた。

 

「一応、両親はいますけど、父は殆ど家に帰ることができない仕事に就いていて、母は殆どシングルマザー状態……。

 始まりは、そんな母の負担を減らすためにやってきたことでした。小さい頃から、わたしは不思議と洞察力だけは高かったので、度々父を心配しては、とても寂しそうに表情を曇らせて……だけど、子供のわたしの前ではそんな姿を見せないように気丈に振る舞おうとする姿を何度も見てきたので、少しでも母が笑えるように、ずっと母を手伝ってました。

 それで、母が笑顔を見せてくれて、理想の娘だって言ってくれて、それが嬉しくて……。

 いつのまにか母に褒められるために、いろんなことをするようになっていた気がします。」

 

 桜奈として生きていた時の影響もあるが、これも一つの事実だった。

 今世の母親は前世の母親とは違い、とても元気な女性だった。でも、その性格は前世の母親とは違い、あまりにも放って置けないもので、自分がしっかりしなくてはと思い、父親の代わりに少しでも守れるように、支えられるようにと様々なことを率先してやった。

 前世でも今世でも、やっぱり人の悲しむ顔や寂しそうにしている顔を見るのは大嫌いで、みんなには笑顔で過ごしてほしかったから。

 

「最初は母のためでしたが、学校に通うようになってから、多くの困ってる人を見るようになって、人を助けることが完全に癖として身についてしまったのか、誰にでも手を差し伸べてしまうようになっていました。

 少しでも多くの人が笑顔になれるなら、その笑顔のきっかけを作るためなら、どんなこともしてみせるという思いのままに。

 ……わたしは、人より才能に恵まれています。器用さにも恵まれています。例え、それが自身の精神の摩耗という代償が発生するものであったとしても、自身の力が役に立つのであればと、その人に合わせた能力を身につけて使います。

 お人好しだとか、偽善だとか、自己犠牲だとか言われたとしても、それはこれからも変わらない。」

 

 反省することも兼ねて、自身の悪癖に関しての言葉を紡いでいく。

 恭弥さんにこんなことを話すなんて……と少しだけ自己嫌悪を覚えながらも、わたしの口は止まらない。

 

「……骸と会うまではそんな考えしか持ち合わせていませんでした。でも、骸に会って、彼からそれが本当に自分が望んでいたことなのかと問われて、わたしは直ぐに答えることができませんでした。」

 

 わたしの心配をして、黒曜センターにまで足を箱をんでくれた、私を好きだと言ってくれた恭弥さんの前で、他の男性の名前を口にするのはどうかと思ったけど、自分の考えを口にするためには必要なことだった。

 恭弥さんは、一瞬わたしが骸の名前を出したことに少しだけ硬直する様子を見せたが、わたしが必要だと思ったことを悟ったのか、口出しはしてこなかった。

 

「わたしの本来の性格を知っていた骸から、1ヶ月間甘やかされる形で過ごしたんですけど……その……すごく息がし易くて、普段以上にのびのびと過ごせていたんです。

 それによりわたしは、自分が本当に望んでいたことが何か自覚しました。」

 

 そこまで言って、わたしは少しだけ口を噤む。バレてしまっているとしても、そこから先を口にするのはかなり抵抗があった。

 やっぱり……恭弥さんにこれを言うのは……

 

「……大丈夫だよ。前も言ったけど、僕にとって奈月は並盛と同じくらいに特別な子なんだから、言いたいことがあるなら言っていいよ。

 僕が見ていた奈月と、本当の奈月が正反対だとしても、僕は君を突き放したりしないから。」

 

「!」

 

 黙り込んで恭弥さんから目を逸らしていると、大丈夫だと優しく声をかけられる。

 そんなことを言われるとは思わなくて、恭弥さんに視線を向けてみれば、彼は穏やかな笑みを浮かべてわたしを見つめ返していた。

 

「だから言って。奈月のことを教えて。もう、奈月の想いとか考えと向き合わないで過ごすのはやめるから。

 これからもこれまで通りのことをしていたら、六道骸に君が連れていかれそうだしね。

 そんなの絶対に許さないし容認しない。奈月は並盛のもので、僕の大切な地域猫だから。」

 

「地域猫ってなんですか。わたしは猫じゃないですよ。」

 

「気まぐれにどっかに行ったり、気がついたら近くにいたり、構おうとしたら逃げてしまう君のことを称するにはちょうどいい表現だと思うけど?」

 

「もう……リボーンと骸だけでなく恭弥さんまでわたしを猫扱いして……。」

 

「君の性格にピッタリだろ。野生で生きるためにしっかりしてるかと思えば、餌や愛情を与えてくる人間には擦り寄って……その癖妙な意地を張っって、構おうとしたら気づくなと言わんばかりに構わせなくて、だけど放置されたら納得いかないって構われに来るところとかね。」

 

「むぅ……」

 

 周りに猫扱いされることに少しだけ拗ねながら、わたしは少しだけ恭弥さんから視線を外し、そのまましばらく無言になる。

 その間も恭弥さんの手は、わたしの頭を優しく撫でており、わたしの力は抜けていく。

 先程まで強張っていた体から力が抜けると言うのは、ある種のわたしの計測器。

 この人になら、本来のわたしを預けていい……本来の心を預けていいと言う、自分なりの見極め方だった。

 そして、体から力が抜けると言うのは、わたしにとっての甘えたいと言う感情の表れ……わたしは、恭弥さんに少しだけ甘えたいと思っていた。

 

「ねぇ。本当の奈月はどんな女の子なの?」

 

 恭弥さんの手が、頭から頬へと降りてきて、そのまま優しく触られる。

 彼の程よい太さがある長い指は、こっちの耳の後ろへと軽く伸ばされて、くすぐるように撫でられる。

 耳裏をくすぐる指にかなりのくすぐったさを覚えながらも、わたしは少しだけ考え込み、問いに答えるために口を開く。

 

「……わたし、本当は、ただの寂しがり屋なんです。しっかり者でなんでも卒なくこなしてしまう自立した人ではなく、寂しい、甘えたい、くっつかせてほしい、側にいてほしい……そう言った感情が常に内側に渦巻いている、甘えたがり屋の子供なんです。

 リボーンや骸からは、精神が追いつかないまま急いで大人にならざるを得なかった子供だと称されました。

 ……みんなが思っている程、わたしは完璧な女の子じゃない。」

 

 これだけは言いたくなかった……そんな気持ちになりながらも、わたしは恭弥さんの問いかけに対する答えを口にする。

 恭弥さんは、特に何かを言うでもなく、膝の上に座り、寄りかかっているわたしの頭を優しく撫で続ける。

 

「……すみません。こんなこと言って。でも、これが事実です。」

 

 “幻滅されたよな”……と、視線を逸らしながら、恭弥さんの元から離れようと体を離す。

 でも、わたしの体は立ち上がる前に、長いソファーに横たわる恭弥さんに釣られるカタチで転がされ、わたしは恭弥さんの上に寝転がる形で動きを止められた。

 

「……恭弥さん?」

 

「何?」

 

「……どうしてわたしをホールドして寝転んでるんです?」

 

 動けない……と困惑しながら、わたしの下にいる恭弥さんに声をかける。

 こっちは離れる気満々だったのに、これじゃあ離れることができない。

 

「こうしないと、奈月が離れていきそうだったからね。少しだけ動きを止めようと思って。」

 

 なぜよりによって止めようと思ったんだこの人……思わずジト目になりながら、こっちをホールドしてくる恭弥さんを見下ろす。

 この風紀委員長を見下ろせることができるの、間違いなくこの世ではわたしだけな気がする。

 恭弥さんより身長が高い人を除いてだけど。

 

「……どうして……?わたしは、恭弥さんが思ってる程強くないんです。どこかの群れに身を置いて過ごさなくては上手く生きていけないような人間なんですよ……?」

 

 わたしが離れないようにする恭弥さんに、わたしは疑問をぶつける。

 群れの中にいなくては、直ぐに壊れてしまうような存在を、どうして自分の元から離さないのか……。

 この人はかなりの群れ嫌い……群れないと生きることができない弱い存在は、側に置く価値はないと思うのに……。

 

「……奈月は狼の生態系って知ってる?」

 

「狼の生態系……ですか……?」

 

「うん。」

 

 急にこの人は何を言ってるんだと困惑する。いきなり生物の話をされたら、誰だってこうなるはずである。

 だけど、恭弥さんは気にしていないのか、疑問を浮かべるわたしに小さく笑って口を開く。

 

「狼って、つがいを見つけたら基本的にそのつがいとしか一生を添い遂げず、片割れがなんらかの原因で先にいなくなったとしても、基本的にほかの狼とつがいにはならないらしいよ。

 もちろん、特例と呼ばれる存在もいるにはいるようだけど、ある動物園では、つがいを失った狼に他の狼と一緒にしてみたけど仲良くはすれど、繁殖はしなかったんだって。

 それに、稀の事象ではあるけど、つがいと死別した狼があとを追うように命を終えた例もあるらしいね。」

 

 彼の上に寝転がっている状態のわたしの頭を優しく撫でながら、狼の生態系の話をする恭弥さんに、わたしは再び首を傾げる。

 彼はいったい、わたしに何を伝えたいのだろうか……。

 

「何も群れるのは草食動物だけじゃない。肉食動物も時には群れをなして狩りをする。

 ライオンだって狼だってね。特に狼は、上位の狼が獲物の前を塞ぎ、後方から下位の狼が逃げ道を塞ぎ、上位1位のオスとメスの狼がトドメを刺しに行くのが基本って話らしいね。」

 

 そこまで恭弥さんは言葉にして、わたしの方へと目を向ける。

 

「正直言って、今の僕は君に関しては群れだのなんだの言うつもりはない。

 確かに僕はそれを嫌うけど、たまたま視界に入った狼の生態系を見て、君となら別に構わないかなと思うくらいには寛容になってるつもりだよ。

 風紀委員会を狼の群れと称し、生徒や教師を草食動物の群れと見做せば、この並盛の上位1位は間違いなく僕と君だからね。それを統一してるのは僕達だ。

 僕達はつがいと言うわけではないけど、似たようなものなんだし、別に奈月には甘えられても構わないと思うくらいには、君が好きなんだけど。」

 

 わたしを体の上に乗せたまま、体を起き上がらせた恭弥さんは、わたしを自身の足の上に座らせたまま、頬を優しく撫でてくる。

 くすぐったさと気持ちよさ……2種類の感覚を目を細めながら感じていると、恭弥さんは小さく笑う。

 

「最初のうちは、僕についてくることができる女子生徒と言う物珍しさから側に置きたくなっただけだった。

 でも、一緒に過ごすようになってから、1人の異性として大切に想うようになっていた。

 前も言ったように、奈月は並盛と同じくらい僕の大切なものなんだよ。甘えられてもいいと思う程に。

 逃げたくなったり、疲れた時はここにおいで。確かに僕は結構仕事を抱えてる自覚があるけど奈月を構うくらいの余裕はあるから。

 それに、奈月の仕事の手際の良さから、効率を上げるためのヒントはすでにもらってる。

 好きな子に甘えられるくらいは造作もないよ。その相手をする時間を作っても、対して仕事に支障はないし。」

 

 わたしだけが見ることができる恭弥さんの穏やかな笑み。その黒の瞳から感じ取ることができる確かな恋慕と、甘えてきても構わないと言う優しい感情は、わたしの抑制を外すには十分過ぎるものだった。

 その言葉に応えるように、彼の膝の上に座ったまま静かに寄りかかれば、恭弥さんはそっと抱きしめ返してくれた。

 

「何事もオンとオフは大事だって聞くし、少しでもオフの時間がほしくなったら言って。その時はこんな風に休ませてあげるから。

 僕にとってもちょうどいい息抜きになるし、お互い様だと思わない?」

 

「……恭弥さんも、やっぱり息抜きしたくなるんですね。」

 

「当たり前だろ。僕をなんだと思ってるの?」

 

「……強引過ぎる僕様何様恭弥様。ついでに冷酷鬼畜風紀委員長。」

 

「喧嘩売ってる?」

 

「実を言うと、つい最近まではそう思ってました。」

 

「ちょっと。」

 

 恭弥さん相手に、こんなことを言えるのはきっとわたしだけ。他の人が言ったら真っ先にトンファーが吹っ飛んできそうなレベルのことを口にしても、彼に殴られることはないのだから。

 そんなことを思いながら、拗ねたような声音で言葉を紡ぐ恭弥さんを、寄りかかったまま見上げれば、むすっとした表情が視界に入る。

 

「でも、今から恭弥さんは、わたしが休める止まり木の一つです。基本的にはいつもの奈月のままですけど、2人きりの時くらいは、わたしも力を抜いた自然体で過ごせそうですから。」

 

「!」

 

 恭弥さんの胸元に軽くすり寄ると、彼は一瞬驚いたような表情を見せる。

 でも、直ぐに小さく笑っては、わたしの頭を再び撫で始めた。

 

「恭弥さんの息抜きにもなるみたいですし、甘えたい時や休みたい時はここに来るので、少しだけ相手をしてくれると助かります。

 やっぱり、ずっといつもの奈月でいるのはどこか疲れる時もあって、休みたいなって思うこともそれなりにあるので。」

 

 ポフッと胸元に寄りかかるようにくっついて、恭弥さんを見上げれば、彼は何度か瞬きをした。

 彼のキョトン顔は割とレアかもしれない……そう思いながら、彼の胸元に額をくっつける。

 

「……その……頭、もっと撫でてくれるとありがたいなと……。」

 

 自分からこんなこと言うのは少々恥ずかしかったけど、甘えたいと言う気持ちが少しだけ増してしまったため、撫でてほしいと催促すれば、恭弥さんはそれに応えてくれた。

 

「……やっぱり奈月って、元は猫だったんじゃない?」

 

「……もうなんだっていいです。とにかくなでなでを所望します。」

 

「今撫でてるだろ?」

 

「まぁ、そうなんですけど……」

 

 素っ気ない言葉を口にしながらも、恭弥さんの手を撫で受ける。

 この人、割と頭を撫でるの上手い……とちょっと失礼なことを考えながら大人しくしていると、応接室の窓の方から、感じ慣れた気配を感じ取った。

 そっと恭弥さん越しに窓の方を見てみると、そこには窓の清掃員の格好をして、どこから下げてるのかわからないゴンドラに乗ってるリボーンがいた。

 その手元には一つのプラカード。記されている文字は“レッスン1、雲雀恭弥に甘えろクリアだぞ⭐︎”だった。

 

 ………実年齢推定30代くらいの男性がその文面をプラカードに書いていると思うとなんかちょっと笑いそうになるの気のせいかな?

 せめて星マークは外してほしかった。

 

 

 

 

 




 沢田 奈月(小鳥遊 桜奈)
 リボーンの課題をクリアするため、応接室に行ってみたらまさかの情報漏洩が発生していたことにツッコミを入れてしまったボンゴレ10代目。
 急に雲雀から狼の生態系の話を聞かされ、最初は困惑していたが、肉食動物でも群れをなすことがあることや、狼の生態系にちなんだ彼からの例え話と確かな告白を聞き、ようやく彼の前でオフになることを選んだ。
 猫と言われて悪ノリすることもあれば否定することもある。でも、本人も実は割と猫寄りなのかもと思ってる節がある。
 雲雀相手に物怖じすることなく第一印象を口にする度胸がある。

 雲雀 恭弥
 奈月とのやり取りにより、やっぱりこの子は猫だと再認識していた風紀委員長。
 こっちの性格から、甘えられることやくっつかれることは好きじゃないはずと分析し、本来の性格を明かしたあと、離れようとした奈月をしっかりホールドして逃さなかった。
 確かに自分は群れが嫌いだし、甘えられることも好きではないけどそれは奈月以外に対して。
 狼やライオンも群れをなして生活しているのだから、奈月となら別に一緒にいてもいいし、甘えられるのも一種のボディーランゲージみたいなものだろ?と彼女限定で寛容になっている。
 サラッと暴露された自身の第一印象に軽く拗ねてしまったが、これからは疲れた時の止まり木にすると言われ、持ち直した。
 恥ずかしがりながらおねだりしてきた奈月に、新しい扉を開きかけたし、間違いなく将来的に開いてしまう人。

 六道 骸
 精神面の優秀アドバイザー。
 リボーンが真っ先に雲雀へと甘えさせに行った理由を分析し、仮説の一つとしてそれを桜奈に説明した。
 雲雀に甘えに行ってる間、彼女の精神世界から離れていたが、その間も彼女の精神世界に潜伏させている端末から彼女の精神状態を把握していた。
 最初は緊張し、様々なマイナスな感情を彼女が抱いていたことを心配していたが、最終的にそれが和らぎ、精神が安定し始めたため安堵した。
 ついでに嫉妬もした。やっぱり僕だけに甘えてくれませんかねあの子。

 リボーン
 実は桜奈が甘えやすいようにとちゃっかり情報漏洩をしでかしていたアルコバレーノなヒットマン。
 そろそろかと様子を見に行ってみたら、なんかヒバリの奴、桜奈におねだりされてねーか……?とちょっとショックを受けてしまった。
 なんにせよ、彼女がオフになれる相手が1枠増えたので一安心した。
 オレにもいつか甘える際の要望ねだりをしてくれ。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。