最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 翌日の放課後、桜は自身を迎えに来た跳ね馬と合流する。
 いったい何を自分に持ってきたのか……そんな疑問を抱きながらも待っていた跳ね馬と桜は移動する。
 自分のことを話すためにも。


 後半 side Dino.となります。


甘え桜育成計画 ver. 跳ね馬

 甘え桜育成計画と名付けられた計画が始まった翌日、甘えてもいいと言ってくれたメンバーに、周りに人がいない時はこれまで以上に距離を近づけ、奈月としてではなく、桜奈としての本来の性格を見せながら過ごし、授業を受けた放課後。

 

「ねぇ、校門の前にいるイケメン、誰?」

 

「わかんない。でも、めちゃくちゃかっこよくない?」

 

「わかる!アイドルとかモデルかな?」

 

「どうする?声をかけてみちゃう?」

 

 帰宅するために校門の方へと歩いていると、やけに女子生徒や女性教師が色めき立ち、きゃっきゃっしながら賑やかにしている様子があった。

 不思議に思いながら、校門の方へと目を向けてみると、見覚えのある金髪の青年が視界に映り込む。

 

「ディーノさん。」

 

「お?よ、ナツ。迎えに来たぜ。」

 

 誰がそこにいるのかすぐにわかったわたしは、周りの人間が遠巻きに見る中、真っ直ぐとその青年……ディーノさんに近寄り声をかける。

 すると、わたしの声に気づいたディーノさんはすぐに笑顔で迎えに来たと話しかけて来た。

 よく見ると校門の前には高級外車が止まっている。

 

 ─────……側から見たらどっかの社長とか芸能人だな。

 

 一般の学校の前にあるにはあまりにも場違い過ぎる車の乗りつけに少しだけ引きながらも、わたしはディーノさんに視線を戻す。

 

「てっきりイタリアに帰ったのかと思っていましたけど、まだ日本にいたんですね。」

 

「オレも本当は昨日の夜に変える予定だったんだけど、9代目の部下からナツ宛に預かり物を渡されてさ。

 ナツがしばらくあっちこっち行ってる時、9代目がこれから先ナツに必要になるだろうって、作らせたものらしいぜ?」

 

「……?何をですか?」

 

「んー……これに関しては、この場で話さない方が良さそうだな。」

 

「あ、なるほど。あっち関連の物ですか。」

 

 ディーノさんの言葉により納得できたわたしは、すぐに詮索をやめる。

 判断早いな……とディーノさんは少しだけ苦笑いをこぼしたが、すぐに頭を切り替えて、わたしの方に手を差し伸べる。

 

「そんじゃ、一緒に来てくれるよな、お姫様?」

 

「ちょっとディーノさん。爆弾発言やめろください。」

 

「でも手は取ってくれんだな。」

 

「まぁ、エスコートしてくれるみたいなので。」

 

 周りがわたしとディーノさんのやり取りに更に色めき立ち、一部の生徒からはヒバリさんと付き合ってたんじゃないの!?と驚かれる中、もはや慣れてしまったエスコートを受けるように彼の手を取れば、そのまま車の方へと移動させられる。

 ドアが開くと同時に車に乗り込めば、ディーノさんもすぐに乗り込んでベルトを装着した。

 

「ボス。何周りに見せつけて来てんだよ。」

 

「いいじゃねーか別に。こうした方が牽制にもなるし、ちょうどいいと思ったんだよ。」

 

「恭弥さんに咬み殺されないように気をつけてくださいね……?」

 

「……あー……まぁ、恭弥にバレたら真っ先に殴りかかられそうだな。喰らうつもりもねーけど。」

 

 “部下とかわたしが側にいない時に殴りかかれたらどうするんだろう……?”と首を傾げながらも、ベルトを装着しているとディーノさんが車の中にあった小型の冷蔵庫に手を伸ばす。

 冷たい飲料が入っていたそこからフルーツ系統のジュースが入ったビンを取り出したディーノさんは、わたしにそれを差し出した。

 

「飲むか?」

 

「もらいます。」

 

 手渡されたオレンジジュースを受け取ると、ディーノさんは小さく笑いながら、コーラを取り出していた。

 ……ディーノさん、コーラ飲むんだ。あまり見かけないからちょっとびっくり。

 いや、見かけるタイミングがないだけだと思うけど。普段はイタリアと日本に分かれてるわけだし。

 

「どこで話すか決めてなかったな……」

 

「そこら辺は安心していいぜ、ボス。リボーンさんからこれ預かってるからな。」

 

「ん?」

 

 運転しながらも、ディーノさんに何かを後手に投げ渡すロマーリオさん。

 ディーノさんは飛んできた何かをすぐに掴み、何を投げてきたのかを確認するように手のひらを開いた。

 そこには普通の家の鍵と言うにはかなり豪華な見た目をしている一つの鍵が掴まれていた。

 

「これ、訓練用兼来客の宿泊用に建造されてる屋敷の鍵の一つじゃねーか。」

 

「ああ。今回は姫さんに対する贈り物を渡す前に、姫さんからボスに大事な話をするんだろ?

 だからかリボーンさんがボスと姫さんが落ち着いて話せるようにって渡してきたんだよ。」

 

「……なるほどな。」

 

 その鍵はどうやら、訓練用兼来客の宿泊用に造られた屋敷の一つの鍵だったようだ。

 ディーノさんだけに話しができるようにとリボーンがロマーリオさんに渡していたらしい。

 

「大事な話か……。」

 

「何か?」

 

「いや、こっちの話だ。んじゃ、ロマーリオ。この鍵が使える屋敷の方に向かってくれ。ナツの話を聞いてやりたい。」

 

「了解だ、ボス。」

 

 わたしが疑問の声を漏らす中、ディーノさんはロマーリオさんに屋敷の方へと向かうように指示を出す。

 それを聞いたロマーリオさんは、すぐに車を屋敷へと向かうための道のりに走らせた。

 何度か瞬きを繰り返し、静かにディーノさんに目を向けてみれば、彼はわたしを見つめて小さく笑い、そっと頭を撫でてきた。

 

「屋敷に着いたら2人で話そうぜ。その方が、ナツも話しやすいと思うしな。」

 

 ディーノさんの言葉に静かに頷けば、彼は笑顔を見せる。

 そして、手にしていたコーラが入ったビンを静かにわたしの方に向ける。

 それが何を意味することかすぐに理解したわたしは、自身が手にしていたジュースのビンを、軽くコーラのビンに当てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ❀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュースを飲みながら移動すること数十分。ロマーリオさんが運転していた車は、とても大きな屋敷にたどり着いた。

 屋敷の門の外側と屋敷の門の内側の両方にはディーノさんが連れてきたから召集したらしいキャバッローネの部下が警備するために巡回しており、明らかにそっちの人間です感を醸し出している。

 

「……もはやオレのアジトの日本支部になってねーか?ここ。」

 

「そこはツッコまねー方がいいと思うぜ、ボス。」

 

 キャバッローネファミリーに所属している人間ばかりで形成された屋敷の警備隊に、ディーノさんが静かにツッコミ、ロマーリオさんがツッコむなと返す。

 ……正直言って、わたしもディーノさんのツッコミと同じことを考えてしまった。

 これじゃあ、本当にキャバッローネファミリーアジト日本支部にしか見えない。

 

「ナツキ様。」

 

 少しだけ呆気に取られながら目の前に広がる景色を見ていると、足元から声が聞こえてきた。

 穏やかな女性の声……それは、紛れもなく桜月の声だった。

 

「……桜月?」

 

「はい。あなた様のサツキにございます。」

 

 いつのまにか来たんだこの子……と驚いていると、桜月はわたしの肩に軽い身のこなしで飛び乗り、背中に背負っていた一枚の手紙を咥えて渡してきた。

 受け取ってみると、宛名にはディーノさんの名前が書かれて、送り主はリボーンとなっている。

 

「……ディーノさん。リボーンから手紙のようですけど。」

 

「リボーンから手紙?……って、ナツ。どうしたんだ?その肩の白狐。」

 

 肩に乗っている桜月を見ながら、ディーノさんが質問を口にする。

 すぐにわたしは桜月を抱き上げ、ディーノさんに見せた。

 

「この子は桜月と言って、わたしの新しい家族です。たまたま並中近くにある山の中で怪我をしているのを見かけたんです。

 野生の狐だったので、色々と気になることはありましたが、怪我をしてるこの子を放っておくことができなくて……手当てだけでも……と手を伸ばしたところ懐かれてしまいました。」

 

「キュイ!」

 

 わたしの説明に反応するように鳴き声を漏らした桜月は、わたしの腕からするりと抜け出して肩に乗り、そのまますりすりとわたしに擦り寄る。

 ふわふわな毛がダイレクトに頬へとこすりつけられてしまい、なかなかくすぐったかった。

 

「本当に懐かれてんな……」

 

「ええ。まぁ、可愛いからいいんですけど。」

 

 しばらくの間わたしに擦り寄った桜月は、わたしの両肩にバランスよく乗り、そのまま首へと襟巻きのように巻きつく。

 モフッとふわふわな真っ白尻尾に首元を覆われてちょっとだけ暑い。

 

「そんな狐を使ってまで、リボーンは何を送ってきやが……」

 

「……ディーノさん?」

 

 不自然に言葉を途切れさせ、固まってしまったディーノさん。

 不思議に思いながら彼の手元にある手紙に視線を向けてみれば、そこにはしっかりとした文字で“その屋敷はお前が自由に使っていいぞ。日本に滞在するときにでも利用してくれ。”と記されていた。

 それを見てわたしも少しだけ固まるが、すぐに彼の手元から封筒を取り上げて、封筒をひっくり返す。

 そこからこぼれ落ちてきたのは、おそらくキャバッローネファミリーのエンブレムと思われる装飾品がついた、同じ屋敷の鍵だった。

 

「……えっと……手持ちの屋敷が増えましたね………?」

 

「……いや、まぁ、確かにホテルで常に過ごすよりかはマジだけどよ!!」

 

 まさかの事態にディーノさんが頭を抱える。屋敷が増えると言うことは、それだけ維持費がかかるわけで、それなりに出費が嵩張ってしまいそうだ。

 

「金に関しては困ってねーし、屋敷が一つ増えることに関しても問題はねーけど、日本より本部があるイタリアにいることがほとんどのオレになんでこんなもんよこしてきたんだリボーンの奴……。」

 

「……まぁ、十中八九姫さん関連だろうな。これから先、何が起こるかわかんねーし、時間がある時にでも日本に来て姫さんの様子を見てほしいとか、そんな流れかもしれねーぞ、ボス。」

 

「……あり得そうだな。リボーンの奴、ナツが関わると過保護になっちまうみてーだし、小さいナリじゃあどうにもできねーことが発生することも考慮して、念の為にオレ達にもナツをサポートしてくれってことも考えられる。」

 

 呆れながらも冷静に分析したディーノさんが、わたしの手元にある鍵を手に取り、それをキーケースに取り付ける。

 

「そう言うことなら、この屋敷と鍵は受け取ることにすっか。時間がある時くらいは、ナツの様子が把握できるようにするため日本にも拠点がほしかったところだったんだ。

 毎回ホテルで過ごすのもあれだし、オレの個人的な拠点が日本にあれば、いざと言う時ナツも足を運びやすいと思ってたしな。」

 

 口元に笑みを浮かべながら、リボーンが用意したこの屋敷を受け取ることにしたディーノさん。

 その話を聞き、わたしは大きな安心感に見舞われる。時間がある時限定とは言え、ディーノさんのような大人が1人でも増えてくれるのはありがたかった。

 

「じゃ、屋敷ん中で話すか。ここなら、オレ達しかいねーしな。」

 

 屋敷に足を運んでいくディーノさんに着いて行き、屋敷の中に足を踏み込む。

 ディーノさんが隼人達を試す話をしていた時とは少々違う屋敷のようだけど、そこと同じくらい大きな屋敷ではあるようで、屋敷内にはキャバッローネファミリーの人達が各々で過ごしていた。

 

 ─────……まるでディーノさんがあとから知らされただけで、元からキャバッローネファミリーにあつらえたかのような雰囲気。

 

 結構リラックスしてるんだ……と次々挨拶をしてくるキャバッローネファミリーの人達と言葉を交わしながら屋敷を歩き、程なくしてたどり着いた大きな扉。

 今いる場所は屋敷の2階で、ここには基本的に幹部格の人がいるようだ。

 

「コーヒーと菓子を用意してくれるか?ナツと2人で話したいことがあるんだが、何もなしってのはあれだからな。」

 

「「了解、ボス。」」

 

 ディーノさんからの指示を聞き、了承の言葉を返しながら部屋のドアを開ける。

 相変わらずボスが寛ぐ部屋となっている場所は、かなり豪勢な部屋のようだ。

 

「じゃあ、届くもん届くまでゆっくりしとくか。」

 

 ディーノさんに手を引かれるままに部屋の中に足を踏み入れる。

 ……今回は、リボーンが何も伝えてないけど、ちゃんと話せるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ❀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボスであるディーノさんが使うと思われる部屋に招かれ、そこで用意されたお菓子とコーヒーを口にする。

 すると、不意にディーノさんが口を開き、わたしに声をかけてきた。

 

「……さて、じゃあナツの話を聞くか。とは言っても、なんとなく予測はできてるけどな。

 大方、ナツが無理して本来の性格を隠して抱えてることに関する話だろ?

 今回の家出も、周りに明かすことができなかった、明かして迷惑をかけたくなかった、だったら我慢した方がいいって考えからのものだと思ってたし、それを把握したリボーンから、強めに周りに手を伸ばして頼ること、甘えることをするように言われた感じなんじゃないか?」

 

 言われたことがあまりにもピンポイント過ぎて、わたしは思わず目を丸くする。

 見せられた送信履歴から、ディーノさんには恭弥さんや隼人達のように、こっちのことは話していないと思っていたのに。

 

「……何でわかったんですか?リボーンは、ディーノさんにはわたしのことを話してないと思っていたのですが……。」

 

 どうして当てられたのかわからず、疑問の声を彼にかける。

 するとディーノさんは小さく笑い、コーヒーを一口飲んだ。

 

「はは。やっぱりそれに関してだったか。予測はしていたけど、答えにまではたどり着いてなかったから、素直に言ってくれて嬉しいぜ。」

 

「む……カマかけましたね?」

 

「悪かったって。でも、ナツが周りに自分を隠して頼りになる人間を演じていたことには気づいていたから、話したいことに関しては本当に予測してたんだぜ?

 何回かナツがオレに甘える姿を見たことがあったし、そうしてる間はどこか息苦しくなさそうだったしな。」

 

 “オレの観察眼も侮れないだろ?”と聞いてくるディーノさんに、わたしは小さく頷く。

 いつもはリボーンからへなちょこだなんだと散々言われてるし、実際かなりのドジっ子お兄さんでもあったから安心していたのに、こうまで指摘されたら何も言い返せなくなる。

 

「……ナツのこと、教えてくれよ。まぁ、正直言って、ナツの内側に宿ってるもう1人のことも教えてほしい気もしなくもねーけど、リボーンにも詳しく話してなかったみてーだし、きっと、それだけ話しづらいことなんだよな。

 だったら、そのことに関しては今は話さなくてもいい。ナツがその気持ちになった時にでも教えてくれたらいいからさ。」

 

「!」

 

 ディーノさんから告げられた言葉に、わたしは思わず目を見開く。

 まさか、彼に桜奈の方を指摘されてしまうとは思いもよらず、どうしてそれを知っているんだと問うように視線を向けた。

 

「骸の影武者として動いていた奴が1人いたんだ。そいつが、骸は明らかにナツの中に宿る何かにも寄り添おうとしてるって言っててさ。

 それを聞いて、オレと家光は、なんらかの拍子にナツは多重人格になってんじゃねーかなって考えたんだ。

 実際、マフィアランドでオレは、ナツが一瞬だけ別人になったような印象を受けたことがある。

 それで、もしかしたら本来の性格がそっちで、今のナツは周りに合わせた性格なんじゃねーかなって思ってるんだ。

 でも、人が多重人格になる時は、高確率で自分の心を自衛するために新たな人格を作り出した可能性がある。

 それを話せってことは、相手のトラウマを抉るようなことになるってことだろ?

 だから、話してもいいと思った時でもいい。いつかナツと、ナツの中にいるもう1人のことを教えてくれねーかな。」

 

 穏やかな声音で紡がれた言葉に、わたしは少しの間無言になる。

 すると、桜月がわたしの肩に飛び乗り、顔を覗き込むように目を向けてきた。

 

「サクナ様。ここは一度、ディーノ様にもサクナ様のお話をされてはどうでしょう?

 リボーン様程ではありませんが、彼も頼れる立派な大人のオスであり、リボーン様同様、サクナ様のことを受け入れてくださります。

 頼れるオスは増やせるだけ増やし、サクナ様の周りを固めて精神の安定剤にすると言うのも一つの手かと。」

 

 桜月の言葉に少しだけ考え込む。言葉の途中途中に何やら獣特有のワードや、ガッツリと利用してやれと言う趣旨を感じ取れてしまうが、彼女が紡いだ言葉は、全て一理あるものだった。

 

「ナツ?」

 

「………少しだけ長くなりますが、聞いてくれますか?沢田奈月としての私ではなく、かつて、老齢になるまで生きることができなかったもう1人のわたし……今や、わたしの人格の一つとして宿り、だけど、確かな記憶と想い、意思を持っている四半世紀しか生きることができなかった、とある女の話を。」

 

 わたしの問いかけに、ディーノさんは驚いたように目を見開く。しかし、直ぐに彼はしっかりと頷き、わたしと向き直った。

 彼のゴールドオーカーの瞳には、しっかりと話を聞くための真剣さが宿っており、リボーンと同じく受け止めるつもりでいることを感じ取ることができた。

 その瞳を見つめながら、わたしは静かに口を開く。寂しがり屋で甘えたがり屋な、渇愛の果てに終わりを迎えた1人の女の話をするために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ───── side Dino. ─────

 

 

 

 ナツは語った。自身に宿るもう1人の人間……桜奈と言う名前を持つ1人の女の話を。

 その話はあまりにも壮絶で、作り話であってくれと望んでしまう程のものだった。

 

 二度に渡る肉親との死別。

 周りの理想を体現するために重ねた努力。

 大切な幼馴染みや、大切になりそうだった恋人との決別。

 親族から繰り返されてきた自身の扱い。

 精神の摩耗。精神の崩壊。その果てに訪れた最期の時。

 

 事細かに告げられるこれらの話の数々は、作り話と切り捨てるには、あまりにも生々しいものばかりで、痛い程に思い知らされた。

 ナツが話した桜奈の記憶……その全ては実際に目の前にいる大切な女が経験し、蝕まれ続けていた現実だったのだと。

 

「……これが、私に宿るもう1人のわたし……小鳥遊桜奈として生きていた女の四半世紀の記憶です。

 前世の記憶とでも言っておきましょうか……。物語の中だけの話かと思っていたのに、実際に存在するみたいですよ。」

 

 穏やかな声音で記憶を話したナツの雰囲気は、明らかに中学生のものではなかった。

 おそらく、これが桜奈としての彼女であり、語られた悲劇の記憶の持ち主そのものなのだろう。

 

「……すまん、桜奈。かなり辛い話をさせちまったな。」

 

 無意識のうちに、オレはナツではなく桜奈の名前を呼んでいた。

 目の前にいる女はナツではあるが、どうしても今の彼女には、ナツと言う名前ではなく、桜奈と言う名前であると本能的に悟っていた。

 

「気にしなくても大丈夫ですよ。向き合おうとしてくれたことがとても嬉しかったので、その誠意に応えただけですから。

 ……むしろ謝るのはこちらです。このような話を聞かせてしまって申し訳ありません。

 ですが、ありがとうございます。わたしと向き合ってくださって。」

 

 穏やかに笑う桜奈は、ナツの時とは違ってとても大人びていた。

 中学生ではなく、年上の女を相手にしているような錯覚すらも覚えてしまう程に。

 

「……リボーンもこの話を聞いているのか?」

 

「ええ。聞いてますよ。それと骸も。」

 

「骸も?」

 

「はい。ただ、彼の場合は今以上の精神的なダメージを与えてしまいました。

 なんせ、彼はわたしの記憶をそのまま見てしまったので、記憶にこびりついていたわたしの絶望やマイナスの感情もダイレクトに浴びることになってしまいましたから。」

 

 桜奈曰く、骸との間にはかなり特異な繋がりが存在しており、その繋がりの強さによって、相手の記憶まで見てしまうことがあるようだ。

 現に桜奈は骸の記憶を……骸は桜奈の記憶を互いにそのまま閲覧してしまった状態になっており、その副作用か互いの感情も互いの精神に刻み込まれた状態にあるとのことらしい。

 そのせいか、桜奈の記憶を見た骸は、最後の一瞬まで見たあとで大粒の涙をこぼし、その時の寂しさを埋めるかのように、2人でくっついて過ごし、相手からの愛情を感じることができる行動を拒まず、なおかつ相手が自分の愛情を感じられる行動を常に起こすようになったようだ。

 対する桜奈は、骸が持つマフィアに対する憎悪の記憶を全て見たあとからマフィアに対してそれなりに軽蔑や冷めた気持ちを抱くようになり、例え何らかの原因でマフィアが滅ぼうがどうでもいいとすら考えるようになったのだとか。

 

「それでも桜奈は、ナツとしてマフィアに戻ってきたのか?」

 

 だが、そこまでの認識が発生していると言うのにナツとしてマフィアのボスを全うするために、桜奈は戻ってきた。

 苦しくないのかと言う疑問をぶつけるように、オレは彼女に問いかける。

 

「……まぁ、正直マフィアに関しては切り捨ててもいいかと度々思うようにはなりましたが、その感情に従って何も行動を起こさず離脱したら、マフィアに苦しめられ、傷つけられ、骸達のような子供達が際限なく増え続ける可能性は否めなかったもので。

 だからわたしは戻ってきたんです。完全にマフィアは切り捨てるべき存在なのか、それともリセットすることができる世界であるのかを見極めるために。

 リセットできるのであれば、わたしはマフィアの世界をリセットします。かなりの時間がかかるとしても、取り締まることができるのであれば、骸達のような子供達が生まれる前に、その子供達を保護することができるでしょうから。」

 

「取り締まる……」

 

「ええ。骸達のように、二度と人生を狂わされるような人が生まれないように、マフィアの世界を取り締まります。

 その過程で助けることができる子がいるのであれば、守ることができる人がいるのであれば、それらもしっかりとこなしながらね。

 ……かつて、ボンゴレファミリーは、マフィアと言う存在ではなく、自警団だったとリボーンから聞いてます。

 だから、継承後、まずはかつての自警団として多くの人を守り、悪意を取り締まっていたボンゴレに戻して行こうかと思ってます。

 一気に戻すことができないのは百も承知なので、最初はマフィアとしてのボンゴレを動かし、やりたいことに着手して行く感じになりそうですけどね。」

 

 口元に笑みを浮かべながらそう言ってくる桜奈は、間違いなく本気だと言える目をしていた。

 とても長く厳しい道……それを理解していても、桜奈は人を助けるための組織を作ろうとしているのだとハッキリわかった。

 

「とは言え、これは継承をしたあとの話。今はまず、継承するために必要なものを身につけることに専念します。

 あとはまぁ、継承しても手が足りなければ意味がないので、そのための人員集めくらいしか今はできそうにないですね。」

 

 そこまで口にして、桜奈はオレの方に視線を向ける。琥珀色の瞳からは、どことなくオレにも協力を仰ごうとしていることが読み取れた。

 

「……そうですね。ディーノさんの力も、できれば借りたいところですが、そちらの事情もあると思いますし、無理にとは言いません。

 ですが、もしも力を貸してくださると言うのであれば、マフィアの世界を少しでもマシなものに変えるための手助けをしていただきたいです。」

 

 “ダメですか?”と首を傾げながら聞いてくる桜奈に、オレは一瞬目を丸くする。だが、直ぐに思考を巡らせて、彼女に対する答えを探し出した。

 それにより出てきたのは、その話に手を貸すと言う承諾の言葉だった。

 

「ああ、いいぜ。それが桜奈とナツのやりたいことなら、オレも協力する。まぁ、正直言ってオレは、2人が何を見てきたのかわからねーけど、軽蔑を抱くってことは相当な過去を骸は持っていたってことなんだろ?

 2人がマフィアを取り締まって変えて行きてーって思うくらいにさ。」

 

 オレの問いかけに、桜奈は静かに頷く。琥珀色にチラつく小さな炎は、マフィアに対する怒りのようだった。

 話にしか伝え聞いていない追放マフィアは、誰にでも優しい女ですら許せないことをしていたのだろう。

 

「だったら、オレはそれをこなす過程の2人が抱え込み過ぎないように支える。

 だから、桜奈もナツも何かあったらオレを頼ってくれよ。オレも2人の力になるからさ。」

 

 ハッキリと味方をするから頼ってほしいと伝えれば、桜奈は一瞬だけ目を丸くした。

 だが、直ぐに驚きは穏やかな笑みに塗り替えられ、彼女は安心したように頷いた。

 

「そう言えば、ナツと桜奈だと、どっちが本来のお前なんだ?」

 

 そんな中ふと脳裏に過った疑問。

 ナツと桜奈の2人……いや、なんとなくナツの内側にはもう一つ別の気配が混ざってるような気がするが、その気配はどちらかと言うとかなり遠いし、やっぱり2人か……。

 この2人のどちらが本来の妹分であるのか知りたくて、それに関して問いかける。

 

「わたしの本来の性格は桜奈の方です。前に指摘されていましたが、寂しがり屋で甘えん坊……それがわたしの元々の性格になりますね。

 ディーノさんがよく知る奈月の方は、仕事をこなしていた時の“私”をベースに、芽生えた後天的な人格です。

 家庭や周りの環境に合わせ、不自由なく過ごせるようにできたものとでも言いましょうか……。」

 

 桜奈自身もよくわかっていないようだったが、その理屈はなんとなくだが理解できるものだった。

 おそらく、かつての社会経験に基づき、なんでもこなせる自分として過ごす際に、真面目な委員長、もしくは上司タイプの人間としての人格を発生させることが一つのスイッチになっているのだろう。

 それが癖になっているのか、それともそうしないと脳を追いつかせることができなかったのか……。

 これらに関しては、流石のオレでも把握することができない。

 

 だが、今回の話のおかげで、ナツとして過ごしている時は、抱え込みやすく、桜奈として過ごしている時はリラックスすることができると言うことも理解できた。

 なら、今のオレがかけるべき言葉は一つだけだ。

 

「そっか。じゃあ、仕事モードの時はナツで、甘えたい時は桜奈ってことだな。

 だったら、せめてこうやってオレと2人でいる時くらいは、ナツとしてじゃなく、桜奈として過ごさねーか?

 なんとなくだけどさ。桜奈として過ごしてる今のお前はすごくリラックスしてるように見えるからさ。

 オレとしては、こうしてオレと桜奈達だけで過ごしている時まで、真面目なボス候補としての側面で過ごしてほしくないかな。」

 

 オレの言葉に、桜奈はキョトンとした表情を見せる。先程まではオレと同い年や、オレより年上の女のような表情を見せていたのに、なんだか今の桜奈は、中学生として年相応の表情をしているように見えた。

 こちらに向けられている琥珀色の瞳には、どうしてナツではなく桜奈として過ごしてほしいんだと言う疑問が浮かんでいる。

 同じマフィアの上に立つ立場にある人間同士、真面目なナツの側面で過ごした方がいいのではないかと思ったのだろう。

 

「折角桜奈のことを教えてもらったんだ。だったら、オレの前ではそれを隠さなくていいし、隠す必要はない。

 ロマーリオ達がいたら、流石に桜奈としての自分を出せねーかも知れねーけど、オレとこうして2人でいる時くらいはさ、桜奈として過ごしてもいいんじゃねーかな。」

 

 桜奈が何度も瞬きを繰り返し、少しの間無言になる。でも、直ぐにその表情はナツではなく桜奈としての穏やかな大人の女の表情に変わり、どことなく雰囲気が柔らかく、どこかぽやっとした印象を抱く。

 

「……そんな風に言われると、本当に甘え始めちゃいますよ。事情を知ってる人に甘えていいって言われたら、わたし、抑えが効かなくなっちゃうので。」

 

 それは一種の忠告だった。桜奈と言う存在……ナツに宿って生まれ落ちた、かつて四半世紀しか生きることができなかった1人の女のことを知ってる奴から甘えていいと言う許可を得たら、ナツとしての自分が維持することができなくなると言う警告だった。

 

「骸にも、リボーンにも言ってる言葉ですが、桜奈として甘えていいって許可をもらってしまったら、わたしは奈月を維持することができなくなります。

 流石に、事情を知らない人や、本来の自分を預けてもいいと思う段階にまで至ってない人が1人でもいると、もう1人の私を維持することができますが、そう言った人がいない時は、寂しがり屋で甘えん坊な桜奈に戻ってしまうんです。

 そっちのわたしでいる時は、自身を見せてもいいと判断している人に構ってほしくて、甘えさせてほしくて、とにかくくっつきたいと思うようになるんです。」

 

 そう言って桜奈は、椅子から静かに立ち上がり、向かい合って座っていたオレの膝の上に乗ってくる。

 まさかの展開に驚いて固まっていると、先程以上に近い距離にいる桜奈の琥珀色が向けられた。

 

「それでもいいんですか?こんな風に膝に乗ったり、頭を撫でてほしいってお願いしたり、抱きしめてほしいと望んだり……他にも、ディーノさんにくっつけるような行動を取るようになってしまいますよ?」

 

 よく知っている姿をしているはずなのに、どことなく幼く、だけどかつて大人だったのだとハッキリとわかる色香を見せる大切な妹分の様子に、顔に熱が溜まる感覚を覚える。

 自分から近寄ることは度々あったが、相手から近寄られるとは思わなかった。

 

「本来の性格のわたしはすごくめんどくさい女なんです。寂しがり屋で甘えたがり屋なわたしは、少しだけ、人の温もりに依存してしまう傾向がありますから。

 それでもディーノさんは構わないんですか?一度許されたらわたし、あなたとと言う止まり木を手放すことができなくなってしまいますけど。」

 

 眉をハの字に下げ、懇願するように告げてくる桜奈に、オレは一瞬言葉を失う。

 “できれば依存させないで”、“自分に期待をさせないで”、“よく考えた上で言葉を紡いで”……そんな感情が読み取れる表情は、これまで一度も見たことがなかった。

 同時に、その様子からナツは……桜奈は……誰かに甘えることや頼ることに、少しだけ臆病になっているのだと理解できた。

 きっと、これまで築き上げてきた自分自身とは全くの真逆で、失望されたり、離れられてしまう可能性がチラついてしまい、一線を踏み込むことを桜奈自身が拒んでいるんだろう。

 桜奈が言ってることが本当ならば、一度心を許せる……預けることができると認識してしまった存在から自立するのが難しくなり、手を伸ばして求めてしまうから。

 

 ……正直言って、何が正解で、何が不正解なのかわからない。だが、正解不正解を度外視し、オレ自身の意思に……オレ自身の想いに従うのであれば……。

 

「……構わねーよ。だって、ナツも桜奈もオレを手放せなくなるってことだろ?だったら、オレは余程のことがねー限り、離れろって言われなくなるってわけだ。」

 

 目の前にいる愛した女に捕まることを選びたい。

 捕まることを選んで……側にいることを選んで……オレもこの幼い女王を捕まえたい。

 

「最初は兄弟子として、ずっとお前を気にかけていた。オレなんかに比べて能力が高くて、ドンナになるべくして生まれた女なんだと思っていた。

 でも、時折様子を確かめるために日本に足を運んで、何度も交流を重ねる度に、いつしかオレは、ナツに……桜奈に甘えてもらいたいと思うようになっていた。

 初めは兄弟子と言う立場にいるからだと思っていたけど、ナツの様々な表情を見て、強さや能力の高さに隠れていた弱い部分も目の当たりにして、気がついたらナツを……桜奈を守りたいと考えるようになっていた。」

 

 寂しがり屋で甘えたがり屋がなんだってんだ。折角素直に甘えたい意思を見せてきて、自らこんなにも近くに寄ってくるようになったんだ。

 この機会を見逃して、元の兄弟子と妹弟子の関係に戻れるはずがない。戻ろうとすら思わない。

 

「どれだけ離れても、1日の最後は今アイツは何をやってんのかな……穏やかなか声が聞きてーな……次はいつ会えっかな……なんてうだうだ考える日々を送ってきた。

 それが何からくる考えなのかわからねー程、オレはガキじゃないんだぜ?」

 

 ようやく伸ばされた好きな女の手を掴まず離してしまうなんて、もったいねーことできねーよ。

 

「甘えたいなら好きなだけ甘えればいい。頼りたいなら好きなだけ頼ってくれたらいい。

 依存気味になっちまうなら、好きなだけ側にいたらいいし、このままオレのもんになってくれてもいい。」

 

 見つめてくる愛した女の耳にハッキリと聞こえるように、確かな言葉と確かな声で、ゆっくりと言い聞かせるように、受け入れる言葉を紡いでいく。

 

「桜奈の精神も含めたら、生きた年数はオレの方が少ねーかもしれねーけどよ。寂しがり屋で甘えん坊の女王様を受け止める器量くらいは持ち合わせてるさ。

 だから怖がらなくていい。一線を踏み越えてくれていい。立場上、ずっと側にいることは難しいけど、離れていても話し相手にいくらでもなれるし、こうして触れ合えるくらい側にいる時は、いくらでも甘やかして温めてやっから、これからはもっと甘えてくれよ、桜奈。」

 

 桜奈の体から、いつでも離脱できるように入れていたであろう力が抜け、完全にオレの上に座り込む。

 ほとんど無防備といっても過言ではないその姿からは、完全に心を許されたと言うことが把握できた。

 とは言え、本当にいいのかと言う疑問の光は、未だに琥珀色の瞳にわずかながらにチラついており、少しだけ苦笑いをしてしまった。

 

「疑問なんてそこら辺に捨ててさ。オレの言葉を信じてくれ。桜奈に甘えられるなんて、大歓迎以外の何もんでもねーよ。」

 

 わずかに残っていた疑心暗鬼が琥珀色から消え失せる。ちょっと懐き難い猫みてーだな……なんて、言葉にしたら怒られそうなことを考えながら、オレは桜奈の頬をそっと撫でた。

 

「一応、念を押しとくが、オレは甘えたがり屋な桜奈を否定しないし、拒んだりはしない。

 むしろ、オレは桜奈に甘えられたいし、このままくっついてもらいたい。」

 

 “なんせ本気で惚れた女だからな”……と、優しく桜奈の耳元で紡げば、桜奈は一瞬肩をビクッと大きく跳ねさせ顔を赤くした。

 ……もしかして耳が弱かったのか……?それは、知ることができてよかったような、ちょいとクるもんがあるような……。

 そんなことを考えながら、しばらく顔を赤くした桜奈と見つめ合う。まさかそんな反応をされるとは思わなかった。

 

「……耳が弱かったか?」

 

「………………。」

 

「無言って肯定って言われてんの知ってるか?」

 

 どことなく拗ねたような表情を見せている桜奈に、少しだけ笑い声を漏らした。

 まさかの弱点見つけちまったな。こんな反応されると、ちょっとだけイタズラ心が刺激されてちまうんだが、それはまぁ、もうちょいこの女王様の心を傾けることができてからかな。

 

「悪かったって。これからは気をつけるよ。」

 

「……そうしてください。」

 

 軽く膨れっ面になってしまった桜奈に謝罪の意味も込めて、緩やかに頭を撫でつける。

 オレの手がそれなりに気に入ってくれたのか、桜奈はどことなく気持ち良さげな表情を見せ、膨れっ面をやめた。

 怒られなくてよかったと、少しの安堵を抱きながらも、オレは桜奈の名前を呼ぶ。

 名前を呼ばれた桜奈は、直ぐに首を傾げながら反応してくれた。

 

 その姿に愛しさを覚えながらも、オレは静かに口を開く。

 

「……桜奈のことは、今日初めて聞いたけど、その話を聞いて、もっとオレはお前を幸せにしてやりたくなった。

 どうやらオレは、ナツとして頑張って走り続けるお前にも、桜奈として寂しさと甘えたい気持ちを見せてくるお前にも、オレは惹かれるみたいだ。」

 

 それを示すように、桜奈の頭を撫でつけていた手をそのまま後頭部の方へと滑らせて、無防備になっている淡い紅色の唇へと自身のそれを静かに重ねる。

 最初は触れるだけのものを、次第に角度を変えながら、深く想いを伝えるように。

 

「ん……ディーノ……さん……?」

 

 急なことに頭が追いついていないのか、それとも少しだけ酸欠になったのか、もしくはそのどちらもか。

 軽く頬を紅潮させ、蕩けたような目を向けてくる桜奈に、もう一度触れるだけのキスを落とす。

 

「急に悪かったな。でも、どうしても伝えたかったんだ。オレの想いとその本気をな。

 ……愛してるぜ、桜奈。桜奈さえよければ、これからはオレの腕の中でも甘えたがり屋な桜奈として過ごしてくれないか?」

 

 口元に弧を描きながら、これからはオレの元でも本来の桜奈でいてほしいことを伝える。

 オレの言葉を聞いた桜奈は、少しの間無言になり、程なくしてしっかりと承諾するように頷いた。

 そのことに確かな喜びを抱きながら、再びその唇を自身の唇で塞ぐ。

 

 “本当にこのまま、オレだけのナツと桜奈になってくれたらいいのに”……そんな望みを抱きながら。

 

 

 

 

 

 




 沢田 奈月/小鳥遊 桜奈
 ディーノに問われ、桜月に背中を押されるように、彼にも2人の自分を明かしたボンゴレ10代目。
 ディーノ曰く、桜奈としての側面が出ている時は、どこかぽやっとしていながらも、幼さと大人だったことがわかる色香を纏い、対象にくっついてしまう傾向があるとのこと。

 ディーノ
 ランチアの言葉により、奈月に宿る何かが、多重人格の何かではないかと思っていたら、想像のはるか上の複雑な事情をお出しされてしまったキャバッローネ10代目。
 桜奈としての彼女の話を聞き、これまで以上に彼女を幸せにしたいと望み、彼女にキスを落として想いを伝えた。
 一度心を許せる相手に本来の自分でいいと言われたら、その人から離れることが難しくなると口にした桜奈に、自ら捕まることを選び、伸ばされていた温もりを求める手を掴んだ。
 桜奈と奈月、どちらも女王自身であることはわかるが、あえて彼は2人と称し、どちらも愛して幸せにすると決めている。


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