最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 剣士が持っていった物は偽物……ハッキリとした声音で告げられた事実に、亜麻色の少年は混乱する。
 そんな中、話を聞いていた女王の父親は本物の証を彼女に提示するのだった。

 side NATUKI. → No side.


ハーフボンゴレリング

「………まぁ、ナツならあれが偽物ってわかるよな。」

 

 わたしの言葉に戸惑いの表情を浮かべるバジルを横目に、父さんは身に纏っていたスーツの懐から一つの箱を取り出す。

 その箱は、先程スクアーロさんが持ち去ってしまったものと全く同じデザインのもので、バジルが驚いて目を見開く。

 

「その通りだ。S・スクアーロが持って行ったのは偽物で、本物はオレが持っていた。」

 

 そう言って父さんは箱の蓋を開く。そこには7つの指輪と思われるカケラが入っており、こちらを見据えてくるようだった。

 そのうちの一つ……6つのカケラに囲まれるように箱に鎮座していたカケラを父さんは手に取り、わたしの方に手渡してくる。

 ボンゴレファミリーのエンブレム……それと思われる紋様が刻まれている、青の石が目立つカケラだ。

 

「ナツが持つのはそれだ。ボンゴレファミリーのボスの証……ボンゴレのエンブレムが刻まれた指輪だ。」

 

 “これで首にかけるといい"と言って、手渡してきたのは指輪を通しておけるチェーンだった。

 それを受け取り、カケラを通したわたしは、すぐにそれを首にかけて指輪に視線を落とす。

 

「これの正式名はハーフボンゴレリングと言って、本来ならば、ナツが高校を卒業する頃に託されるはずだったボンゴレファミリーの家宝でな。

 ずっと、ボンゴレファミリーのボスと共に時を過ごし、見守ってきたボンゴレファミリーのボスの証だ。

 見ての通り、今は半分に分かれてるため、ハーフボンゴレリングと言われているが、ナツに託される時は一つの指輪となって渡されるはずだった。」

 

 真剣な表情でボンゴレリングの説明をする父さんの言葉に耳を傾ける。

 渡されるはずだった……と言うことは、もう片方指輪のカケラが存在しており、そのもう片方に何かあったのだろう。

 ここから考えられることは……

 

「……S・スクアーロ……彼が所属しているヴァリアー側に、なんらかの原因で片割れが奪われ、今回、もう片方のカケラであるこれも奪わんとしていた……」

 

「!?」

 

「考えられることと言えば、これくらいかな。ボンゴレにヴァリアー側を支持する人間がいたのか……それともボスになろうとしている張本人である誰かが奪ったのかはわからないけど、流れとしては辻褄が合う。」

 

 ボンゴレ側のセキュリティに問題があったのか、それを上回るヴァリアー側の実力者がいたのか……そこら変も把握しきれていないけど、何をするべきかは理解できる。

 

「……父さん。私以外に選ばれた人を教えて。わかってはいるんだけど、答え合わせがしたい。

 本当は、こんなことしたくないんだけど、必要なことであるのもわかってるから。

 だから、私が直接みんなに渡して、私自身も覚悟を決める。選ぶことになってしまったみんなを守り、同時に互いに支え合いながら、確かな未来を歩くために。」

 

 わたしの言葉を聞いて、父さんが目を丸くする。でも、直ぐに小さく頷いて、静かに口を開いた。

 

「わかった。オレも、父親として娘にこんなことを背負わせなくちゃならないことに心苦しく思うが、その分しっかりとサポートをする。継承していない今も、継承し終えた先の未来も。

 ナツのファミリーとして、オレが選出したのは………」

 

 父さんが選んだわたしのファミリーになる者達の名前に耳を傾ける。

 次々と挙げられて行く、共にこの道を歩かなくてはならない大切な6人の名前は……予想通り、わたしの直感とプリーモの血が教えてくれていた人達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ボンゴレリングの話を済ませ、この日は解散することとなった家光達。

 たまたま会ったと言う体で、奈月と共に帰宅した家光は、我が家である沢田家の自室にて、複雑な表情を浮かべてベッドに座り込んでいた。

 

「……心苦しいな、家光。」

 

「リボーン……」

 

 そんな彼の元に、リボーンが姿を現す。現れた友の姿に、家光は一瞬驚いたような表情を見せたが、直ぐにそれは曇り、彼の問いを肯定するように頷いた。

 家光が頷いたのを確認したリボーンは、少しだけ無言になったあと、彼が座るベッドの上に飛び乗った。

 

「娘に……なんつー顔をさせてんだろうな……オレは。」

 

「…………。」

 

「本当はこんなことはしたくない……でも、必要なことであることもわかってる……そう言った時のナツの顔……お前も見ただろう?」

 

「……ああ。」

 

 家光の問いかけに、リボーンは10代目の守護者として名を上げられた者達の名前を聞いた時の大切な少女の顔を思い浮かべる。

 とても辛そうに、だけど現実を受け止めているかのように、真剣な表情で、自身の手元に託された指輪の片割れを見つめる姿だった。

 

「オレだってわかってる。ナツの守護者として相応しいのはあの時挙げた6人で、その6人以外は考えられない。

 だが……やっぱりつれーわ……。ただでさえ、ナツは周りを大切にする子で、大切な人が傷つくのを最も嫌って、本来ならば、友人と呼べる人間を巻き込みたくないはずなのに……。」

 

「……だが、巻き込まなくてはならなくなった。」

 

「………きっと、答え合わせをしたいって言葉に含まれていたのは、そうであってくれって意味じゃない。

 自身の脳裏に浮かんじまったメンバーではない人間であってくれって願いからの言葉だったんだ。」

 

 ─────……そう。やっぱり彼らになっちゃったんだね。

 

 頭を抱え、苦しげに言葉を紡ぐ家光の隣で、リボーンは話を最後まで聞いた少女が紡いだ言葉を思い出す。

 そうなることはわかっていた……まるで、そう告げるかのような静かな言葉には、確かに落胆の声音が含まれていた。

 きっと、自身が手渡すと言った理由は、友人達を巻き込まなくてはならないことと、その命を誰1人として散らせたりはしないと言うことを、彼女自身が決意するためだったのだろう。

 覚悟を決めると同時に、選んでしまった大切な友人達の命の責任を、自身が一身に引き受けるために。

 そして……

 

「……辛いとか、苦しいとか、そんなことを思ってしまっても、家光に指輪を手渡す役割を担わせなかった理由の一つは、ただでさえ大きな責任を背負っている家光に、これ以上背負わせないため……だろうな。

 あくまで選んだのは自分自身……そうすることで、これから先自身の守護者として選んだ人間が、苦しさや辛さから恨みを抱くようなことになったとしても、その矛先は家光にではなく、自分自身に向けられる。

 自分が選んだわけじゃない。家光が選んだんだと言う責任転嫁を絶対にしないためにも、自分でその責任を背負うつもりなんだろう。」

 

「っ……オレは!!何年もこっちの世界に身を置いてる!!自身に様々な恨みを向けられることには慣れてるんだ!!だから……っ……!!」

 

 どこまでも人を気遣い、逃げることなく向き合おうとする愛娘。

 長く裏の世界にいるからこそ、どれだけマイナスの感情が蔓延っているかを知っている家光は、少しでもその矛先を分散させようと考えていたのだが、愛娘本人がそれを許さなかった。

 

「……ナツらしいと言えばナツらしいが、やっぱやるせねー気持ちにはなるよな………。」

 

 リボーンの呟きに、家光は俯き歯を食いしばる。その目からは、わずかに涙が滲んでおり、自身の娘が向き合おうとしている現実を悲観しているようだった。

 隣でその姿を見つめたリボーンは、自身が被っているボルサリーノを目深に被り、無言を返す。

 娘と向き合い、一般とはかけ離れていても、親子としての関係を修復していた家光の心境を悟ったように。

 

 ─────……こんなことになるくらいだったら、顔を合わせて親子をやり直したくはなかったかもしれねーな……。

 離れていた方が、まだ、苦しさは違ったかもしれない……そう思いたくもなるだろうな。

 

 ─────……今回の件は、10代目として名を挙げられた少女の試練であり、その守護者達の試練でもある。

 だが、それ以上に……お前にとっての試練でもあったようだな、家光。

 

 そこまで考えて、リボーンは自身の手元を見る。そこに握り締められていたのは、彼が愛用している一丁の拳銃。

 それを見つめたリボーンは、視線を銃から静かに逸らした。

 

 ─────……いや、お前だけじゃねーな……。今回の件は、オレにとっても辛い戦いになりそうだ。

 

 ボンゴレに属している者に、リボーンは手を出すことができない。

 独立暗殺部隊であるヴァリアーは、彼が手を出せない条件を満たしている場所だった。

 つまり、戦いに彼は一切関与することができない。できることがあるとすれば、戦いが始まる前に、戦いに臨む守護者達の刃を研ぎあげることくらいなのである。

 守護者達が傷つけば、間違いなく奈月自身も傷つき、その精神にヒビが入る。

 その上、ヴァリアーは強力な力を持つものや、奪うことを厭わない者達がほとんどだ。

 奈月自身の身体も、無事で済むとは限らない。

 

 ─────……大切な女が傷つく姿を……隣で見つめることしかできないのか……。

 

 脳裏に過った結論に、リボーンも思わず歯を食いしばる。

 これまで感じたことがない苦しさに耐えるように。

 

「……家光。」

 

「……なんだ……。」

 

「………自身が責任を負うことを防がれたのなら、せめて、小さな体で責任と向き合おうとしてるナツが安心できるように、ナツの周りをしっかり鍛えるぞ。

 ナツの守護者として選ばれた奴らは、全員、その身にとんでもねー種と原石を抱えている奴らばかりだ。

 確かに、深く干渉することはできねーかもしれねーが、できないなりに外側からサポートをしてやれ。

 オレも……できる限りのことはして行く。ナツなら大丈夫だからな。オレ達には視えねートンデモ連中から様々なことを教わっているみてーだからな。」

 

「オレ達には視えねートンデモ連中……?」

 

 不安から疑問へと感情が移行した家光を見て、リボーンは口元に笑みを浮かべる。

 彼女が度々口にする、ある存在を思い浮かべながら。

 

「ああ。ナツには秘密の友人(・・・・・)って奴がいる。しかも、そのうちの1人は、どうやら“ジョット(・・・・)”って名前みたいだぞ?」

 

「!!?」

 

「手紙にちらっと書いてあっただけだから、真偽はわからねーけどな。もしかしたら、もしかするかもしれないぞ。」

 

 そう告げるリボーンの目には、これが本当であるのなら、奈月と言う少女は確かな力に守られると言う確信が宿っていた。

 もし、その名前がかつての始まりの空のものであるのなら、自分が出る幕がないと言うのも頷けると言うわずかな諦めも含まれていたが、それでもまばゆい一等星と言える程の希望であることは間違いなかった。

 

「ただ、これが真実であるのなら、ナツが持つであろう力は間違いなく強力なものになる。

 それなら、今、オレ達にできることは、他の守護者をナツに追いつけるように鍛え上げることになる。

 ナツの方に手を加える必要がない分、他の守護者に手を加えて、確かな力を身につけさせた方が、ナツの心も守れるはずだ。

 まぁ、しばらくは辛いだろうけどな。ナツの友人を巻き込む分、その負担は間違いなくナツに来る。

 だからせめて、追加でナツに負担が行かないように、堰き止めることくらいはしないとな。」

 

 リボーンの言葉を聞いた家光は、少しの間無言になったあと、それに応えるように頷いた。

 その表情から暗いものは消え失せて、娘を守るための父親として、それでいて先達たる大人として、確かな決意が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ……家光とリボーンが言葉を交わす中、彼らの話の中心となっていた奈月は、自室にあるベッドに座り、手元にあるボンゴレファミリーのエンブレムが記された箱を静かに見つめていた。

 いつも彼女の部屋に入り浸る子供達の姿はない。少しだけ考えたいことがあるからと言って、子供達を自身の母親と、共に暮らしているビアンキに任せているために。

 

『……大丈夫……ではなさそうだな………。』

 

『ああ。精神的にキてるのがハッキリとわかる。』

 

『友人を巻き込まなくてはならないことが辛いのでござろうな。とても優しい少女であるが故に……。』

 

『実際、マフィアの世界は危険しかないし、ナツの友達も確実に傷つく……そんな世界に引き込むわけだから、辛くない方がおかしいものね。』

 

『一部の者は、マフィアの世界を知っている。だが、ナツキのファミリーに選ばれた人間は、一般の出がほとんどだ。』

 

『……ナツキが手を伸ばせば、絶対についてくる人間ばかりでもあるけど、こっちの世界に来てほしいなんて、常人だったら言えないよ。

 例え、必要なことであっても、どうしても強い躊躇いを抱く。』

 

『………………。』

 

 そんな彼女の様子を、ジョット達は外から見つめる。

 自分達を繋ぎ止める楔となっている少女との間にある繋がりを通じて、彼女の暗い感情に心を痛めながら。

 

『……少しだけ様子を見て来ます。1人でも誰かがいた方が、気分も落ち着くでしょうから。』

 

 各々が心配の声を口にする中、1人だけ黙っていたDが口を開く。

 彼の様子を見て来ると言う言葉に反応を真っ先に示したのは、Gだった。

 

『おい……D。ナツキに妙なことするわけじゃねーだろうな?』

 

 それは確かな懸念だった。D・スペードと言う男がどのような人間であるか知っているからこそ出た言葉だった。

 ボンゴレファミリーと言うファミリーは強くなくてはならない……その意見と執着のもとで動いている彼が、躊躇いを抱いている10代目の少女に、何かするのではないか……警戒を含んだ声音で問いかける。

 

『するわけがないでしょう?それなりに私にも情はあります。今の彼女にあれこれ言うつもりはありません。

 それに、彼女はボスになるのであれば正しい選択肢を取りました。これに関して文句を言うつもりはありませんよ。

 まぁ、その選択肢を選んで自身で精神的にダメージを受けていることに関しては少し思うところがありますし、長引かせるようであれば少々口出しをするつもりですが、あの子はそれだけはしません。

 少しだけ吐き出す場所を作る必要がありますが、それさえあれば立ち直るために立ち上がれる子ですからね。それくらいの手間はかけてあげるつもりですよ。』

 

 Gの問いかけに、Dは静かに言葉を返して姿を消す。

 Gは直ぐに後を追おうとするが、それはジョットに止められた。

 

『……ジョット、なんで止めんだ?』

 

 わずかな苛立ちを抱きながらも、Gは制止して来たジョットに声をかける。

 彼の問いかけに、ジョットは少しだけ無言になったあと、静かに口を開いた。

 

『……今のDなら大丈夫だ。まぁ、警戒するなとまでは言うつもりもないが、今は少しだけ好きにさせよう。』

 

 ジョットの言葉に、少しだけ考え込んだGは溜め息を一つ吐く。

 長らく連れ添って来た幼馴染みの目が、本当に大丈夫だと言っていたために。

 

『………わーったよ……。お前がそう言うならな。』

 

 自身の言葉に従ってくれたGを見て、ジョットは小さく笑みを浮かべ、静かに奈月の部屋へと視線を向ける。

 カーテンにより遮られているため、部屋の中を見ることは叶わないが、そこで繰り広げられるであろう師弟同士の会話により、少女は前を向くと確信して。

 

 

 

「思ったより早く、覚悟を決めることになってしまったようですね、ナツキ。」

 

「……Dさん……せめて霊体の姿か仔猫の器に入ってほしかったかな。なんでよりによって本来の姿(そっち)の器で来たの。

 しかも、服装が現代寄りになってるせいで現代を生きるお兄さん感が強いし。」

 

「お前が私の服装を場違いだと言ったから、現代であるお前の時代の服装に合わせてあげたまでですよ。

 こっちの姿できたのは、小動物などの温もりよりも、人間側の温もりの方が、今のお前は欲してると思っただけです。

 事実、私がこちらの姿で来たことにより、随分と精神の不安定さが落ち着いているようですしね。」

 

「………なんだ、バレてたんだ。」

 

「どれだけお前を側で見ていたと思うのですか?それなりに付き合いが長くなれば、誰だって異変に気づくものですよ。」

 

 少しだけ気づいてほしくなかったと言わんばかりの反応を見せる奈月に、Dはしばし無言になる。

 程なくして奈月に近寄ったDは、ベッドに座り込み、指輪を眺めている彼女の隣に静かに腰を下ろし、自分の座高より若干数低い少女へと視線を向ける。

 

「……まだ、迷っているのですか?現実はすでに見えていると言うのに。」

 

 静かに問われた疑問に、奈月は静かに顔を上げ、隣に座るDを見つめる。

 しかし、直ぐに首を左右に振り、迷いはないことを示した。

 

 それが事実であるか否かなど、一年以上近くにて共に過ごしていたDはすぐに理解できた。

 確かに、隣に座っている自身の唯一の弟子は迷いだけは抱いていなかった。

 では、なぜ、彼女が暗い顔をしているのか……その答えは一つだけだった。

 

「……罪悪感と恐怖……と言ったところですかね……。」

 

「!」

 

 Dが呟いた言葉に、奈月は目を見開く。

 それは、図星を意味する反応だった。

 

「まぁ、お前の性格からして、それくらいは抱きますよね。いいでしょう。少しだけ吐き出しなさい。

 変えることができない現実である以上、お前は名を挙げられた者達に指輪を託すことしかできない。

 ですが、それと思うことを吐き出すと言う行動は別物です。弱音ばかりを吐いていられない……それが、これから先の道のりではありますが、まだ、少しだけ弱音を吐ける状況ですし、自身の気持ちの整理と頭の切り替えのためにも吐き出していいですよ。」

 

 Dの言葉に、奈月は何度か瞬きを繰り返し、静かにその顔を上げる。

 そして、自身の思いを吐き出すために、小さく言葉を紡ぎ始めた。

 

「……Dさんの言う通り、私はこの指輪をみんなに託すことに対してかなり罪悪感があるし、恐怖もある。

 これを手渡すってことは、みんなの未来を私が決めつけるようなものだから。

 ……隼人は、元からマフィアが何かを知っているアンダーグラウンドの人間だし、託すことに心配はしてない。

 同じくマフィアを知っている骸は、マフィアを嫌っている人ではあるけど、私の味方をすると言ってくれた人だから引き受けてくれるとわかってるし、マフィアの証をマフィアを嫌う彼に手渡すことに罪悪感がないわけじゃないけど、まだ、こっちの事情を知ってくれてる分、割り切ることはできる。」

 

 指輪が収められている箱の中にある2つのカケラ……その2つが嵐と霧の指輪のカケラであることを確認しながら、Dは静かに奈月の弱音に耳を傾ける。

 

「でも、武や了平さん、恭弥さんや骸の代理を務める話となってる凪、それと、ランボの5人に託さないといけない現実は、正直言ってかなり精神的に来てるとしか言えない。」

 

 雨、晴、雲、雷、そして、改めて触れた霧のカケラを見つめながら、奈月は表情を曇らせる。

 彼女が口にした者達は、一般の出である者達と、一般の出ではないが、名を挙げられた者達の中でもっとも幼い少年の名前だった。

 

「武には野球選手になる夢がある。了平さんはきっと、強いボクサーとして将来的には名を馳せていた。

 恭弥さんはこれからも大切な並盛を守るために、ずっとこの町に住み続けて、様々なことをこなしていただろうし、凪は素敵なお嫁さんとか、やりたいことを見つけて将来を生きていけたかもしれない。

 そして……誰よりも幼いランボは、もっと違うことを見つけて、新しい道を歩める可能性があったかもしれない……。

 そう考えるとね……。必要なこととは言え、こっちの世界に引き込まなくてはならない現実に、罪悪感しか出てこないし、もし、この先彼らが命を落とすことになったらと思うと、恐怖しか抱けない。

 ……恐怖に関しては……隼人と骸も……かな。ボンゴレは、マフィアの中で最も勢力のあるファミリー……前、Dさんはそう言ってたよね?」

 

 奈月からの質問にDは静かに肯定を返す。

 それを見た奈月は少しだけ困ったような表情をしながら、再び指輪に視線を落とす。

 

「だったら、やっぱり隼人と骸の命がなくなることも怖い。勢力が大きいと言うことは、その分敵も多いってことだもん。

 確かに、ボンゴレは強いかもしれない。その強さを自分で見たわけじゃないから、今はかもしれないって表現しかできないけど、きっと、強い人が沢山集まってるよね。

 ヴァリアーのスクアーロさんだって強かった。いざと言う時は、9代目に次いだ権利を発揮することになる父さんも、能力が高い人だと思える程だし、ボンゴレのお抱えであるリボーンも、誰よりも強い人だから、そんなレベルの人が集まっている。

 だから、確かに強いんだと思う。でも、それを私が継ぐことで、強さを維持できるかと言われたら、不安がないとも言い切れない。」

 

 もしも、脆さが発生してしまい、ボンゴレを崩壊させられてしまったら……そのせいで、守護者として選んでしまった仲間達を失ってしまったら……奈月の中には、常にその不安が渦巻いていた。

 彼女の口から出た言葉が、ボンゴレを想ったものであり、少なからず自身と同じ思想を持ち合わせていることを感じ取ったDは、無言だけを返すしかできなかった。

 

「だから、私はすごく怖いの。こっちの世界を彼らに歩かせるってことが。

 だから、罪悪感があるの。危険を知っていながらも、この証を託さなくちゃいけない現実に。

 ……うん。やっぱり訂正。迷ってないなんて嘘。私は、迷ってばかりだ。これを託すことの意味が、痛い程にわかるから。

 ……できることなら、みんなにはこっちの世界のことなんて知らないまま、穏やかに過ごしてほしかったな。」

 

 少しだけ泣きそうな声音で大切な人々の幸せを願う奈月に、Dは静かに目を閉じる。

 大切な存在に対して抱くその気持ちは、彼にも嫌と言う程に理解できていた。

 同時に、その願い叶うことなく、最愛を彼は失ってしまった過去も持つ。

 失うことへの恐怖、強くなくてはと言う焦り、それは、かつて彼自身が苛まれた感情だった。

 

「……泣きたければ泣きなさい。そのような表情をしている女性を見ると言うのは、少しばかり私にも辛いものがありますから。

 我慢しなくていいです。頭を切り替えるためにも、たまには泣くことも必要だと、今のお前なら理解しているでしょう?」

 

「………」

 

「ボスとしてはどうかと思うなどと冷酷なことは告げません。ですが、泣いたら直ぐに頭を切り替えなさい。

 先程も言ったように、お前の性格はすでに理解しています。敵対者には冷酷になれても、身内には冷酷になれず、優しさを多く向けてしまうことも把握できています。

 その考えを全て捨てろとまでは言いません。時には優しさを与えることも、組織を統率するためには必要なことですからね。

 ですが、頂点に立つ人間が切り替えもできない愚か者だと、優しさの与え過ぎにより組織に脆弱性を生み出しますし、お前が危惧することを現実にしてしまうでしょう。」

 

「………っ……」

 

「……そうなってしまう前に、頭を切り替える練習でもしなさい。今はこうして現界していますから、私の胸でも貸してあげますよ。

 ただし、声はなるべく抑えるように。お前のお目付役と父親にバレてしまいますから。」

 

 そう告げて手を差し出してくるDに、奈月は表情を崩しながら、その胸元へと飛び込むように身を委ねる。

 自身の胸元に飛び込んできた愛弟子の姿を確認したDは、すぐにその場で幻術を展開し、仮に彼女が我慢できずに声を出して泣き出してしまっても、声が漏れないようにしながら、自身より小さな体を優しく抱きしめ、その頭を優しく撫でる。

 

「……そこまで考え、辛苦に苛まれることになろうとも、自ら守護者に証のカケラを手渡すと言う選択肢を選び取る決断、お見事です。

 今夜だけは、ただの少女として泣くことに目を瞑りましょう。現実と向き合い、確かな責任を背負おうと努力しているお前へのご褒美です。

 ですが、明日になったらその時間も終わりです。やることが沢山ありますからね。泣いてばかりはいられませんよ。

 だから、今だけはしっかりと泣いて、弱音も全て吐き出して、明日に備えて眠りなさい。」

 

 自身が身にまとう現代の服……その布が濡れて行く感触を覚えながら、Dは静かに口を開く。

 

おやすみなさい、(Buonanotte,)私の女王。(mia regina.)

 

 “今だけは普通の少女のように、穏やかな夢を見てください”……囁くように呟いた言葉と共に、Dは泣いている少女の頭に一つだけ口付けを落とす。

 しばらくの間、これからの未来を憂いた心優しい少女は涙をこぼし、程なくして幼子のように泣き疲れて眠りに落ちるのだった。

 

 

 

 

 




 沢田 奈月
 現実と向き合い、覚悟を決めるため、自ら証である指輪のカケラを守護者に配ることを告げたボンゴレ10代目。
 だが、その想いとは裏腹に、強い罪悪感ともしもの事態への恐怖によりかなり精神へとダメージを負っていた。
 それに気づいたDにより、頭を切り替えるためにも弱音を吐き、泣いても構わないと告げられ、幼子のように涙を流し、そして、彼の腕の中で静かに眠りについた。

 D・スペード
 自身の弟子の精神へのダメージに気づき、罪悪感と恐怖を見抜いた始まりの霧の術士。
 彼女の側で一年以上過ごしていたこともあり、その性格を把握できていたため、その性格を否定することなく、しかし、ちゃんと歩き出せるように、頭を切り替えさせようと泣くことと弱音を吐くことを促した。
 幼子のように泣く少女の言葉に、自身の思想に被るものを感じ取りながらも、泣き疲れて眠りに落ちるまで側にいた。

 沢田 家光
 自身の娘が辛さと苦しさを抱きながらも、覚悟を決めるために証は自分が渡すと告げる姿に、かなりのダメージを受けていた門外顧問。
 少しでも愛娘が苦しくないようにと自身が守護者へと配ることも考えていたが、逆に愛娘からこれ以上責任は背負わせないと言う選択肢を取られ、そのことに涙を流していたが、リボーンから彼女が責任を背負うのであれば、そんな彼女を守れるように守護者を鍛え、彼女の負担をこれ以上増やさないことを考えるように言われ、頭を切り替えた。

 リボーン
 実を言うと、かなりの精神的なダメージを追っていた上、手出しができない自身の状況に不甲斐なさを感じていたアルコバレーノ。
 しかし、1番辛い思いをしているのは家光と奈月であることも理解していたため、自分まで落ち込んでいては意味がないと考え、暗い顔をする家光に、自分達がやるべきことは落ち込むことではないと告げ、家光の頭を切り替えさせた。

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