最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 師から向けられる感情の変化に気づきながらも、貝の女王は力をつける。
 喧嘩を止めた自身の言葉を聞いた始まりの霧に、さらなる影響を与えてしまうとは思わずに……。


 今回の話を一言で言うと→「……あるぇ………?」宇宙を背負う猫の図


女王の特訓

 ヴァリアーと対峙し、命とボンゴレリングの防衛を行えるようにと始まった特訓。

 ジョットさん達からまずやるべきこととして体力強化を行うこととなり、わたしは今、山の中にあった崖をジョットさんと一緒にロッククライミング中である。

 

「まさか、人生でこんなことすることになるとは思わなかった。」

 

「まぁ、アスリートでもなければそうだろうな。」

 

 よいせよいせと崖に点在している凹凸を上手く使い、しっかりと手や足をかけながら登っていたわたしは、隣にいるジョットさんと雑談しながら天辺を目指す。

 ちなみに、ジョットさんはDさんが作った本来の自身の肉体を模した器を継続して使っている。

 最初、Dさんが幻術でここら一帯を隠してくれるのであれば、別に器なしでも問題なかったのでは?と言う話をしたのだが、Dさんの有幻覚により作った器は、霧の死ぬ気の炎により作られた物であるため、器の中に入った者が自身が持つ属性の死ぬ気の炎を使用すると同時に、その消費量により器を形成する霧の死ぬ気の炎も消費されて行くと言う特性があるので、それなら器が壊れかけるタイミングで休憩を挟さんだらいいと考え、タイマー代わりに利用するとのことだった。

 どうやら、相当わたしが無理をして倒れかけたり失踪したりしたことがトラウマになっているらしい。

 絶対に休憩を挟んでやると言う強い想いがものすごく伝わって来た。

 

「よっと。よし、天辺に到着したな。」

 

「死ぬ気モードのまま、崖を往復で登ったり下りたり……割とハードなんだけど……。」

 

「確かに、最初のうちは厳しいかもな。死ぬ気の炎はいわゆる気力のようなもの。

 自身のエネルギーを変換して発生させる物だから、気力や体力が少なければ直ぐに疲れ果ててしまう。

 死ぬ気の炎を使った戦闘を行った場合、その消費量は間違いなく凄まじいものとなるため、気力切れによる弱体化も珍しくはない。

 そうだな……まずは3回往復することができたら上出来だろうか。」

 

「3回……?登っただけで結構疲れたんだけど……?」

 

「まぁ、今の奈月ならそうだろうな。」

 

「知っててやらせてたんかい……。」

 

 穏やかな人の割には意外にもスパルタな自身の御先祖様を睨みつけていると、彼はその場で笑い声を漏らす。

 

「下りる時は登る時と違って足場が見つけ難い。出っ張ってるかと思えばそこまで出っ張っておらず、出っ張ってないかと思えばかなり出っ張っていたなどの可能性は十分ある。ゆっくりと下りていくぞ。」

 

「ん。」

 

 どこか楽しげな様子で、崖の下へと向かい始めるジョットさんに並んでゆっくりと下りていく。

 時折、足をかけた場所が崩れる時があるとジョットさんからは言われたため、超直感も駆使しながら、なんとか下まで下り切った。

 

「下りるだけで精神と気力が擦り減った……」

 

「最初のうちはそうなるだろうな。だが、それは初めのうちだけで、最終的には意識しなくてもできるようになってくる。

 そうなると今度はこのクライミングに関してそこまで疲れを感じなくなり、何往復もできるようになる。」

 

「そうなんだ。……ところで、最終的に何往復できるようにするつもりなの?」

 

「最低でも10だな。そこまでできるようになったら体力問題はかなり解決する。」

 

「Oh………」

 

 ジョットさんからサラッと告げられた最終目標に思わず遠い目をしてしまった。

 10往復って、わたしの腕ムキムキになったりしないよね………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ❀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと。そろそろこの器に限界が来そうだな。」

 

「では、休憩を挟みましょうか。ナツキ。一旦休みますよ。」

 

「つ……疲れた………」

 

 あれから、ジョットさんに教えてもらいながらクライミングを繰り返し、3往復目に入った頃。

 なんとか3往復目である登りをクリアしたタイミングでジョットさんが使ってる有幻覚が若干ブレたため、休憩を挟むこととなった。

 

「初回で2往復半か。オレ達がナツキに会った時に比べたらかなり体力が伸びているな。」

 

「そうだね……。ヒバリと棒倒しで競い合っていた時の体力だと、1往復半辺りが限界だったと思うよ。」

 

「物理組とスピード組が訓練を早いうちからつけていた分、体力がついたって感じだな。」

 

「うむ!究極に頑張っているな、ナツキ!!」

 

「では、休憩と言うことでお茶を飲む時間にしましょうぞ。」

 

「Dが麓の方でお菓子とパン買って来たみたいだから、お腹が空いたならこれを食べるものね。」

 

「ランポウ。それらは全てナツキのために買って来たのですから、勝手に食べないでもらえます?」

 

「うっわ、出たよナツに対するクソ甘発言……。本当、Dってナツに対しては甘やかし気味になるものね……」

 

「彼女は私の女王なのですからそれくらいの対応は当たり前ですが?時に厳しく、時に甘く……それが、彼女を育てるのに最適だと判断したまでです。

 あなた方も知っての通り、放っておいたらいつの間にか無理をしてることを隠そうとしてしまう子ですからね。

 それならば、時にはたっぷりと甘やかして士気を上げ、それを糧に厳しく、しかし、確かな知識として頭に入るように丁寧に教えることこそ、彼女の負担を軽減させながら成長させるのにちょうどいい塩梅なのですよ。」

 

「……とか言いつつ、ナツの頭撫でてんだけどこの術士。」

 

 地面に座り込み、ゼーゼーと短い呼吸を繰り返していると、Dさんから優しく頭を撫でられる。

 その上彼は、わたしの横に来ては、「ゆっくりと呼吸を繰り返しなさい。そう。その調子です。」と優しく口にしながらもう片方の手で背中を撫でてきている

 Dさんの指示を聞きながら、呼吸を繰り返していれば、次第に短めの呼吸は落ち着いていき、いつもの呼吸に戻すことができた。

 

「はい、よろしい。とりあえず水分補給をしましょうか。」

 

「ん。」

 

「奈月。お茶でござる。」

 

「ありがとう、雨月さん。」

 

 雨月さんからお茶が入ったコップを受け取り、ちびちびとゆっくり飲んでいく。

 すると、側にいたDさんが置いてある荷物の中から一口サイズのバタークッキーを取り出していたので、それに手を伸ばした。

 Dさんはそれに気づくなり、クッキーを一枚摘んでは、わたしの口元に持ってくる。

 特に気にすることなく口を開けば、口内へとそれは放り込まれた。

 あ、これ、しっとり系のクッキーだ。サクサクのクッキーもいいけど、しっとりしたクッキーも割と美味しいんだよね。

 まぁ、どっちも口の中の水分持っていかれるけど。

 

「……何だか雛鳥に餌付けしてる気分になりますね。」

 

「?」

 

「こちらの話です。」

 

 お茶を飲んで一息。そしてまたクッキーと繰り返し口にしていると、Dさんから雛鳥のようだと言われてしまった。

 思わず首を傾げると、気にするなと言わんばかりにこっちの話と一言告げられ、再びクッキーが口元に近づけられる。

 気にしないでいいのか……と少しだけ思いながらも静かに口を開けば、再びDさんから口内にクッキーを放り込まれた。

 

「体力作りにはしっかりとした休息も必要だ。休憩を挟みながら特訓を行い、昼時に昼食を取り、そのあと少しだけ長めの休息時間を取ろう。

 長めの休息時間の時は、特に何かを考えることなくぼーっとしてるのがいいな。なんなら、昼寝で仮眠を取っても構わない。」

 

「休むことも訓練の一つ?」

 

「ああ。あと、休憩中も、無理をしない範囲で死ぬ気の炎を灯しながら過ごすことがオレのオススメだ。

 オレも、今のオレになるまでにかなりの時間を有したが、いつ、どこで、どのようなタイミングであっても死ぬ気の炎を灯せるように、一日中灯していたことがある。」

 

 一日中、死ぬ気の炎を灯していたなんて、ジョットさん凄い……。

 そんなことを思いながら、彼に視線を向けていると、彼の右隣にいたGさんが少しだけ頭を抱えていた。

 

「まぁ、そのせいで何回かこいつぶっ倒れたがな。あん時はマジで焦ったぜ……」

 

「…………ジョットさん?」

 

「何をやってるのですかプリーモ。バカなのですか?」

 

「君もぶっ倒れたんだ?」

 

「キリッじゃないものね。プリーモも人のこと言えないじゃん……」

 

「無理は良くないでござる。」

 

「うむ。究極に良くないな。」

 

「………もう過ぎたことだろう。なんでバラしたんだG……。」

 

 周りからの大バッシングをくらい、ジョットさんが少しだけ縮こまる。

 それに関してはどうやら反省しているようだが、ジョットさんも無茶をしてやらかしてるんだ……。

 そんなことを思っていると、Dさんがわたしの頭にポンッと軽く手をのせて来た。

 何度か瞬きをして視線をDさんに向けてみれば、彼は素晴らしい程の笑顔を見せている。

 

「ナツキ。お前はそこのバカな先祖のように間抜けを晒さないようにしなくてはなりませんよ?自己管理もできないボスなど不要ですので。

 お前はちゃんと休息を取り、気高く、美しく、そして意識の高い女王となり、そこの先祖すらも踏み台にしなさい。」

 

「(踏み台諸々は置いといて……だ)ん。自己管理は欠かさず行うことにするよ。無理をして倒れて、師匠(せんせー)に迷惑をかけないようにするためにもね。」

 

「良い返事です。本当にお前は良い子ですね。あと、迷惑……は、まぁ、時と場合によってはありますが、それより先に心配をしてしまうので、迷惑をかけないように、ではなく、心配をかけないように、と今度からは言いなさい。」

 

「んぅ……そこ撫で撫でするのやめてー……。」

 

 Dさんから1番くすぐったくなる場所をくすぐられやめてと口にするが、彼はやめようとせず、そのまま撫で回してくる。

 くすぐったさと気持ちよさが同時に来るため、思考が一気に停止してしまう。

 わたしの前世は人間のはずなんだけど、なんで撫でられて気持ちよくなってるんだ……。

 

「待て!待ってくれナツキ!!Dの言葉にサラッと返事を返すのか!?と言うかD!!オレの子孫とイチャつくんじゃない!!」

 

「今回ばかりは自業自得だぜ、ジョット。」

 

「ぶっ倒れるまで死ぬ気の炎を灯し続けるなんて早死にしようとしてるだけじゃないか。」

 

「今回ばかりはフォローも難しい故、諦めてくだされ。」

 

「ナツキまで倒れてしまっては元も子もないな。踏み台諸々は聞かなかったことにして、究極にDの言ってる通りだと思うぞ、プリーモ。」

 

「ナツに無理するなとかめちゃくちゃ言ってるけど、プリーモだって無茶しまくってたものね。オレ様し〜らない。」

 

「おやおや、今回は私の意見が正論として通ったようですよ、プリーモ?」

 

「味方が誰1人としていない!!!!」

 

 頭を抱えながら叫ぶジョットさんを見ながらお茶を飲む。

 うーん……誰か1人でも味方になってあげたらいいのに……。わたしは味方になる気ないけど。

 とりあえず、死ぬ気の炎を灯して過ごすことはとりあえずやった方がいいことはわかったけど、程々にしておこう。程々に。

 

 そんなことを思いながら、わたしは自身の額に死ぬ気の炎を灯し、そのままお茶を飲み続ける。

 そう言えば、今日は崖登りと下りの往復だけなんだろうか?

 

「今日の特訓て崖の往復だけ?」

 

「ん?いや、午前中は崖の往復。午後はオレやアラウディを中心とした戦闘訓練にするつもりだ。」

 

「そうなの?」

 

「ああ。初回で2往復半と言うことは、それだけナツキに体力がついていると言うことになるからな。

 これなら、午前中は崖の往復。午後からは戦闘訓練、および、オレが作り上げた技である零地点突破を教える。」

 

「零地点突破……?」

 

「自らの死ぬ気の炎を強力な冷気に変換して対象を凍らせることができる技だ。

 これにより発生した氷は死ぬ気の炎のような超圧縮エネルギーのため通常は溶けることはない。

 解凍手段は死ぬ気の炎のみでな。身内同士の対決となったときのため、死ぬ気の炎を封印するために完成させたんだ。」

 

「なるほど……」

 

 ジョットさんがわたしに教えたい力に関して説明してくれた。

 零地点突破……いざと言う時に死ぬ気の炎を封じるために編み出されたジョットさんの武器の一つ。

 初めにジョットさんが言っていた技は、これのことを言っていたようだ。

 

「今回の争いは、間違いなく死ぬ気の炎が強く関わってくる。それならば、覚えていて損はないはずだ。」

 

「うん。それは私も思う。でも、私に習得できるかな……。」

 

「大丈夫だ。ナツキは飲み込みが早いからな。1日2日では難しいかもしれないが、1週間もすれば身につけることができるだろう。

 なんせ、Dに教えられながらだが、幻術を1週間で使用できるようになったんだ。ナツキなら可能だろう。

 それに、オレはそれなりに時間をかけて完成させたが、あの時は自身の直感をフルに活用し、0から生み出したからであり、見本がある今ならば、もっと短い期間で使えるようになる。」

 

「言われてみれば確かに……」

 

「だが、オレは全てを教えるわけじゃない。一度だけ見せる零地点突破と、オレが伝える零地点突破のヒント……それを踏まえてナツキ自身が、零地点突破を完成させて行くんだ。

 これは、超直感の訓練にもなるからな。ヒントと見本を基に、ナツキ自身が答えを見つけてくれ。」

 

 ジョットさんの言葉に、わたしは数回瞬きを繰り返す。しかし、直ぐに彼が言ってる言葉を理解したため、静かに頷き返した。

 確かに、完全に身につけるためには全て教えてもらうよりも、自ら考えて身につけて行く方が何倍も忘れない。

 それなら、彼の言う通り、見本とヒントを基にわたし自身で身につけよう。

 もしかしたら、その過程で新しい力を作り出し、身につけることができるかもしれないから。

 

「おや……私はてっきり全てを教えようとしているのかと思っていましたが、意外にも考えてるのですね、プリーモ。」

 

「当たり前だろう。確かに、全てを教えることもできるが、この技はかなり高度なもので、付け焼き刃では扱い切ることができない。

 ナツキにもしっかりと技の特性を覚えてほしいからな。少しくらいは厳しくする。」

 

「ほう?考えなしではなかったのですね。こちらの忠告を聞かずに外部からの言葉に従った結果、私から大切な人を奪うこととなった愚か者だと言うのに。

 なぜ、そのような考え方ができたと言うのにあのような愚策に出たのか端端疑問ですよ。そうでしょう?プリーモ。」

 

「D……!!それは今関係ねーだろうが!!」

 

「私は事実しか言ってませんよ、G。私は、あの時のことを忘れてなどいないのですから。」

 

 DさんとGさんの殺気が空気を悪くする。本来ならば、これを止めるべき人はジョットさんだと思うのだけど、彼は、何かしら思うところがあるのか、表情を曇らせて黙り込む。

 

「……Dさん。Gさん。私は、みんなの確執を詳しく知ってるわけじゃないけど、今は少しだけ抑えて。

 正直言って、私はDさんの感情がわかるよ。Dさんが私に憑依した時のパスはわずかに繋がってるし、そこから深い悲しみや怒り、強い想いがその体に宿ってるってことが伝わってくるから。

 でも、Gさんの言ってる通り、今はそれどころじゃない。短い期間で戦える力を身につけないといけない分、一分一秒が惜しい。」

 

 それならばと、わたしはDさんとGさんに静止の声をかける。

 すると、DさんとGさんの殺気は一瞬にして霧散し、2人の意識はわたしの方に向けられる。

 

「……わりー……ナツキ。」

 

「……すみません、ナツキ。反射的に反応してしまいました。」

 

「……わかってくれたならいいよ。止まってくれてありがとう。」

 

 罰が悪そうなGさんに、どこか悲しげで辛そうなDさん。止まってくれた2人に一言感謝を述べたわたしは、辛そうなDさんに近寄り、その頬を優しく両手で包む。

 

「……ナツキ?」

 

「……Dさんの感情に同情の言葉をかけるつもりはないよ。その悲しみや辛さは本人にしかわからないし、悲しかったねとか、辛かったねなんて言葉をかけたところで、上部だけの言葉になってしまうから。

 でも、これだけは言える。今は過去に目を向けないで、私の今と未来に目を向けて。

 確かに、暗い感情はなかなか忘れることができないものだし、何がきっかけで膨らんで爆発するかわからない。」

 

 わたしに両手で頬を包まれ、顔を固定されたことによりしっかりと見つめ合う寒色の瞳。

 寒色のはずなのに、確かな暖かさを宿している瞳に、わたしの琥珀色をしっかりと重ね、絡み合わせながら、わたしは静かに言葉を紡ぐ。

 

「だからと言って、忘れろなんて言わないし、忘れることなんてできるはずがない。

 ベクトルや種類は違うけど、“わたし”も過去を忘れることができないし、なんらかの拍子にトラウマが再発してその感情に苛まれるから。

 だけどそれを手放すことなんてできないし、それがあるからこそ形作るものがあり、今を生きる自分になる。

 過去を振り返ることや、思い返すことは悪いことじゃない。時にはそれも必要で、それがあるからこそ動ける時もある。

 でも、今は……今だけはわたしを見て、わたしの師匠(せんせい)

 今のわたしには、Dさん(せんせい)の力も、ジョットさん達の力も必要なんだ。

 わたしが真っ直ぐと歩くためにも、未来をちゃんと走り抜けるためにも、今だけは過去ではなく、今を生きるわたしを見て。本当に……今だけでいいからさ。」

 

「………!」

 

 懇願するように言葉を紡ぎ、静かに首を傾げてみれば、Dさんは驚いたように目を丸くする。

 そんなDさんに小さく微笑み返しながら、わたしは静かに口を開く。

 

「今回の戦いが終わったあとなら、沢山考えてもいいし、過去の感情を吐露してもいい。わたしはそれを止めたりしない。

 でも、今は時間がないから、蓋を完全に閉めろとまでは言わないけど、少しの間、わたしのことを見て、わたしのことを考えてよ、師匠(せんせー)。」

 

 最後まで言葉を紡げば、Dさんは一度目を閉じて、フワリと優しい微笑みを見せる。

 そして、自身の頬に添えられている手に、自身の手をそっと重ねて、右手に軽く頬をすり寄せて来た。

 

「……全く……お前と言う子は、恐ろしい女王になりそうですね。」

 

「恐ろしい?」

 

 何で恐ろしいなんて言われたんだ……?と何度か瞬きを繰り返す。わたしの反応にDさんは、「無意識ですか……」と小さく呟き、どこか照れたように、だけど、少しだけ呆れたように、でも、凄く嬉しそうな表情をしたあと、わたしの両手を自身の頬から外し、そのまま右腕を勢いよく引っ張って来た。

 自然と崩されるバランスと同時に、首筋に柔らかいものが触れる感触を覚える。

 

「………え?」

 

 首筋付近の肌から感じ取れるくすぐったさと若干の湿り気を覚える柔らかさに混乱して思考が止まる。

 しかし、次の瞬間わずかな痛みとわざとらしく立てられたリップ音により、自身が何をされたのかを悟った。

 

「ちょ、何してくれてんのDさん!?」

 

 慌ててDさんの名前を呼べば、首筋に付着したのであろう唾液に小さく笑った際に発生した吐息が触れ、ヒヤリとした冷たさを覚える。

 わたしの右腕を掴む大きな左手にはそこまで力が込められていないのか、直ぐに抜け出せそうではあったが、突然のことに力が抜けてしまい、逃げることができない。

 

「首筋が隙だらけでしたのでつい。まさか、お前からそのようなことを言われるとは思いもよりませんでしたよ、ナツキ。」

 

 片手がつつ……と首筋を撫で、そのまま腰へと滑り降りる。もう片方の手はわたしの腕を掴み、Dさんの方へと引き寄せたまま、肩の上を通った状態で固定される。

 まるで社交ダンスを踊っているかのようなポージング。しかし、その実そのような煌びやかでほのぼのとしたものではなく、ケダモノに捕まった草食動物と言う表現の方が明らかに適したものだった。

 まさかの事態に驚いて、すかさずDさんの瞳を見上げれば、そこには普段から見えている支配欲や独占欲、執着心と混ざり合う形で、これまでの彼から向けられていなかった甘さと熱量を併せ持った感情がギラギラと宿っていた。

 

 ─────……あ……やらかしたかも………。

 

 それを見てわたしは、自身がやらかしてしまったことを悟る。散々周りから恋慕を向けられ、その時の瞳を何度も見て来たことにより、確信することができる感情だった。

 “色欲と恋慕”……ハニトラやロミトラの話をされた時、呪解したリボーンやビアンキ姉さんが見せてくれたそれの時とは全く別の、作られた感情ではない本物の感情が、Dさんの瞳から感じ取れた。

 偽ることを得意としている術士なら、偽物を本物のように見せることはできるだろう。

 しかし、Dさんから感じ取れたそれは、わずかな繋がりによりDさんから流入した本物の恋慕の情により偽物ではないとわかってしまった。

 精神を偽ることもできるはずだが、その偽りを全く感じ取れず、隠そうとして、我慢しようとして、堰き止められている状況であることから、偽りではないとわかってしまった。

 同時にわたしに流れているプリーモの血から、確かな警告を感じ取る。

 “これは偽りのものではない。本気で向けられてしまったものだと。”

 

 本気で向けられてしまったと言う警告から、これは受け取るべきものではなく、拒絶し逃げるべきものであると判断できる。

 だが、まるで、意識が完全に囚われてしまったかのように、目を逸らすことができなくなっていた。

 ……Dさんの瞳に、スペードマークは浮かび上がっていないと言うのに。

 

「まさか、エレナ以外にこのような感情を抱くことになるとは思いもよりませんでした。

 どうやら、私はいつの間にか絆され過ぎてしまったようですね。ええ、自覚はありますとも。

 しかし、まさか、お前からの言葉一つでここまで堕とされてしまうとは……何かしらのきっかけにより、堕とされる話は何度も聞いたことがありますし、それを上手く利用することにより、ハニートラップやロミオトラップと言ったものを行うわけですが、これら2つとは全く関係ない上、素でやられてしまい、それにより私が堕とされるなど……世の中何が起こるかわからないものですね。」

 

 言葉は刺々しさを帯びているはずなのに、言葉の端々には明らかな色と甘さが混ざり込む様子から、次第にわたしは血の気が引いて行く。

 あ、これ、手遅れだ……思考を過る確信の言葉に、冷や汗を流して視線を逸らす。

 だが、いつのまにかわたしの右腕を手放した左手が、顎の方に添えられたことにより、逸らしていた視線を強制的に絡まされてしまった。

 

「お前にこのような感情を向けることなど考えておらず、気のせいかとも思いましたが、どうやら気のせいではないようですね。

 目を逸らされてしまうことには腹が立ち、強引にでも視線を絡ませるだけでもその苛立ちは霧散する……。

 私以外の人間がお前に近寄ることを考えるだけで、苛立ちは振り返し、側にいるのであればそれはなくなる……。さて……どのように責任を取ってもらいましょうかね?」

 

 顎に添えられている手の親指が、わたしの唇を優しく撫でつける。本格的にまずいと思い、あたふたとその場で慌てていると、Dさんの顎めがけてグローブに覆われた手が放たれ、彼はそのまま吹き飛ばされた。

 同時にわたしの体はマントの中にすっぽりと収められる。

 

「ヒェッ……!?」

 

 あれ?と思って顔を上げてみれば、そこには思い切りキレている様子のジョットさんの姿があり、片手はDさんがいた位置を突き抜けるように止まっていた。

 

「オレの子孫に何手を出そうとしてるんだスケベジジイ!!」

 

 いや、あなたもジジイですけど!?と言うツッコミが過ってしまったが、結局無言のままジョットさんの腕の中で大人しくする。

 ジョットさん……あなた、Dさんに思い切り掌底打ちしましたよね!?て言うか殺気!!ジョットさん!!明らかに殺気がすごいからぁ!!

 てか待って!!ちょっと待って!!Dさんまさか伸びた!?幻術完全に解けてますけどぉ!?

 

 

 

 

 




 沢田 奈月
 Dとのわずかな繋がりから、彼の感情を悟りながらも、彼の感情を肯定し、受け入れ、忘れなくてもいいと告げながらも、今だけは過去ではなくわたしを見てと伝えたら、なぜかやらかしてしまった貝の女王。
 どうして出会した霧に好かれるの……?師からの恋慕から逃げ回らなくてはいけなくなった気配を察知。泣きそう………。

 D・スペード
 奈月に絆されつつも、奈月に恋慕を向けるつもりはなかったのに自身の感情の肯定や、忘れる必要はない、暗くてもそれは大切なこと、大切な感情だからと受け入れられ、その上でだけど今だけは自分を見てほしいと困ったように懇願して来た愛弟子に一気に堕とされた始まりの霧。
 自身が本気で愛せるのはかつての最愛と理想のボンゴレだけだと思っていたのに、実は目の前にも本気で愛せる新たな存在がいたことに驚きながらも、どのように責任を取らせてやろうか考えていたら、彼女のモンペ御先祖様から強烈な掌底打ちを顎に直撃させられて伸びた。
 は?予定がなかったのに堕とされたのですから逃すつもりなど毛頭もありませんが?
 彼女は可愛い私の女王陛下であり、可愛い私のナツキです。

 ジョット
 いろいろイジられまくったが、それとこれとは話が違うからなスケベジジイ!!と強烈な掌底打ちをDに思い切り食らわして気絶させた女王のモンペ御先祖様。
 オレもジジイだと?それが何だ?オレはナツキの血縁者であり先祖だが?ナツキのひいひいひいじいちゃんだが?
 ナツキはお前の女王でもなければお前のモノでもない!!オレの子孫だ!!

 初代組(大空&霧以外)
 おい、待て、D。マジで奈月に惚れたのか?惚れたのか!?お前ジジイで死人だろ!?(あんたらもジジイで死人です)




 ………あれ……?なんでDが恋愛バトルに参戦しちゃったの………?by作者 (予定はなかった)



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