最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい 作:時長凜祢@二次創作主力垢
そんな彼女を見つめながら、古の霧は物思いに耽る。
彼の脳裏に過ったのは、彼女を初めて見た時のことだった。
side D
自身の幻術により、私を含めた始まりのボンゴレと、現世を生きる次代の女王のみが存在している山の中。
自身の眼下で行われているのは、始まりの大空と謳われ、歴代最強と呼ばれることもある初代ボンゴレ・・・・・・プリーモと、彼によく似た容姿をしているボンゴレ10代目・・・・・・次代の女王たるナツキの戦闘訓練が行われていた。
素手を使って戦闘を行うプリーモと、複数の武器を使いこなし、時にはトンファーを含めた足技による連撃を行うナツキの訓練とは思えない程の高度な戦闘訓練は、この数時間でかなりのスピードになっているようだった。
「・・・・・・本当に・・・・・・適切な教育を施せば施す程能力が伸びていきますね、私の女王は。
これまで見たことありませんよ。ここまで伸び代が長く、凄まじい勢いで成長していくボスなどね・・・・・・。」
呟くように言葉を紡ぎ、私は手元に視線を落とす。
そこにあったのは、私が作っておいたこの数日間のスケジュール。本格的な訓練を行うことになると思い、訓練の時間と休憩時間、訓練の内容など事細かに記してあるものだ。
─────・・・・・・このようなものを作ってしまうなど・・・・・・本当に、私は随分とお前に絆されてしまったようですよ、ナツキ。
自身の本来の肉体を捨て、器になり得る人間に憑依することにより時代を渡り歩いてきた。
しかし、この長い長い年月の中で、ここまで絆されてしまうボスになど一度も会ったことがなかった。
強きボンゴレを維持することができればそれでいい・・・・・・そのようなことしか考えていなかったと言うのに。
そんなことを考えて、ふと、私は彼女を初めて見た日を思い出す。
私が彼女を初めて見たのは、彼女の誕生日を祝う手伝いをしてほしいと言ってきたプリーモと出会すよりもかなり前の日だった。
その日、もはや慣れてしまった憑依による生活をいつものように送っていた私は、なんとなくボンゴレから離れたプリーモが移り住んだと言う日本へと足を運んでいた。
なぜ、急に日本に行こうと思ったのかはわからない。しかし、その時はどうしてか、日本に行こうと思ってしまったのだ。
あのプリーモがうるさいくらいに口にしていた日本が、どのような場所であったのか気になった・・・・・・と言うのもあったが、その時の私は、プリーモはイタリアから日本に移り住んだ後、何か残したのか気になっていたのだ。
どこに行くか決める事なく、当てもなくふらふらと移動する。そんな中聞こえてきたのは少女の嫌がる声で、反射的に声の方へと視線を向けていた。
そこにはやはりと言うか、明らかに中学生に上がったばかりとしか思えない少女が2人程、タチの悪いナンパに絡まれている姿があった。
あまり目立つことはしたくなかったが、流石に幼い少女2人に無体を働くような人間を見過ごすことなどできず、ナンパを止めに入ろうとした。
─────・・・・・・嫌がる女の子を無理矢理どこかに連れて行こうとでも思ってんの?見てるだけで反吐が出る。
そんな時に聞こえた少女の声と、痛みを訴える男の声。まさかの事態に驚き、そして、言葉を失った。
その姿はプリーモの生き写しとすら思ってしまう程のもので、夢でも見ているのではないかと思ってしまう程だった。
─────・・・・・・あんたらみたいな奴らを見てると虫唾が走るんだよ。嫌な記憶を呼び起こすからね。
宝石のような琥珀色の瞳には、わずかな恐怖が顔を覗かせていた。しかし、プリーモの生き写しとすら思ってしまう程の容姿と雰囲気を持ち合わせている少女は、ナンパに遭っていた2人の少女を背に庇い、真っ直ぐと男共を力強い瞳で見据えていた。
突如現れた第三の介入者に、男共は一瞬怯む。だが、目の前に現れた人間が少女であることに気づいた瞬間、下卑た笑みを浮かべていた。
─────・・・・・・なんだ嬢ちゃん。この子らの知り合いか?
─────・・・・・・そいつぁいい。だったら嬢ちゃんも一緒に遊ぼうぜ?オレ達が楽しい事いっぱい教えてやるからよ。
下品な笑みを浮かべながら、まるで品定めでもするかのように少女を見据え、くだらないことを口にする。
お前が言っている楽しいことなど、無理矢理体を暴くことだろうと吐き捨てたくなりながら、明らかにプリーモの血縁と思わしき少女も、このままでは危険だと判断し、仕方なく行動を取ろうとした。
しかし、私が動くより先に、少女の方が動いていた。
下劣な男から伸ばされた手・・・・・・それを、少女は掴んで引き寄せ、そのまま鳩尾を蹴り飛ばしたのだ。
確実に相手側に勢いが付き、小柄な少女の一蹴であれ、何倍もの威力になって痛みを覚える動きに、私は目を見開いて固まってしまった。
少女に蹴り飛ばされた男は勢いよくそのまま地面を滑り、鳩尾に走った痛みと、道路との摩擦により発生した擦り傷の痛みに悶えているようだった。
─────・・・・・・テメッ・・・・・・女だからって調子に乗ってんじゃねーぞ!!
それを見たもう1人の男は、すかさず少女に殴りかかった。しかし、その攻撃も少女は軽々と躱してしまい、走った勢いを基に、的確に鳩尾へと膝蹴りを入れ、男の動きを止めたあと、勢いよく振り上げた足を男の股間へと叩き込んでいた。
あまりにも強力過ぎる一撃に、一部始終を見ていた私は、思わず弱点に対する防御反応を出してしまったが、あれは仕方ないとしか言えないだろう。
─────・・・・・・女だからって調子に乗るな?もしかしてあんたら、女は男を立てるものだとか、性欲の捌け口の道具だとか思ってる?
─────・・・・・・んなわけないだろ。私達はお前らみたいなクズのためのオモチャじゃないんだよ!!
─────・・・・・・御自身の萎びたムスコ潰されたくなけりゃ、さっさとこっからいなくなれ犯罪者予備軍共!!
怒鳴りつけるように言葉を紡ぎ、明らかに殺意が含まれた目を向けてくる少女を見て、ナンパをしていた男共はその場から情けない悲鳴をあげながら逃げ去っていく。
股間を蹴り上げられた男もふらふらになりながら、泣きそうな声音で置いていくなと叫んで走り去っていき、その場には静寂が訪れた。
─────・・・・・・大丈夫だったかな、2人とも?
─────・・・・・・う、うん!あなたが助けてくれたから大丈夫だよ
─────・・・・・・アイツら、めちゃくちゃしつこくてさ。嫌がってんのに全然ナンパやめてくれなくて、最終的に腕掴まれたから気分が悪かったんだ。
─────・・・・・・気にしないでいいよ。嫌がってる子を見て放って置けなかっただけだしね。無事でよかった。
穏やかに笑いながら、2人の少女に話しかける琥珀色は、先程の恐ろしさが嘘だったかのように、優しい声音で奏でていく。
琥珀色の声を聞いて、2人の少女はホッとしたような様子を見せ、明るい笑顔を見せる。
─────・・・・・・私は笹川京子!助けてくれてありがとう!
─────・・・・・・私は黒川花。私からもお礼を言わせて。ありがとう。助かったよ。
そして、目の前にいる琥珀色に感謝の言葉を述べながら、自己紹介をこなしていく。
2人の少女から自己紹介を受けた琥珀色は、直ぐに彼女達へと笑い返し、静かに口を開いた。
─────・・・・・・私は沢田奈月。さっきは怖かったよね。全く・・・・・・どこにでもいるんだね、ああ言う連中ってさ。
─────・・・・・・まぁ、2人が無事ならよかったよ。でも気をつけなよ。世の中、どこに舌舐めずりをして下卑た目で品定めをしてるクズがいるかわからないからね。
─────・・・・・・2人ともすごく可愛いし、いつ、変な人間に食べられるかわからないからね。
─────・・・・・・それじゃあ、私はこれで。街中で遊ぶのは構わないけど、変な連中に絡まれないように、防犯ブザーとか持ち歩きなよ。
そう言って琥珀色・・・・・・ナツキと名乗った少女は、明るい笑顔を見せながら、人混みの中へと消えていった。
ナツキの笑顔を見たからか、2人の少女は顔を赤くして固まってしまい、2人の意識が現実に戻った頃には、ナツキの姿はどこにもいなかった。
一部始終を見つめていた私は、しばらくの間無言になり、そして、ナツキが立ち去って行った方角へと足を運んだ。
プリーモが残したであろう、ボンゴレの血縁・・・・・・その血を持ち合わせているプリーモの生き写しのような姿をした少女が、どのように過ごしているのかを調べるために。
その時の私の脳裏には、焼きつくように明るい笑顔が記憶されていた。
܀ꕤ୭*
あれから私は、憑依できる人間の体から離れ、遠く離れた場所からナツキのことを度々観察していた。
彼女は、一言で言うとお人よし。誰にでも人当たりがよく、多くの人間の相談事に乗り、困っている人がいたらすかさず手を貸すために声をかける。
的確なアドバイスや、仕事の効率の良さから、彼女はいろんな人の力になっていた。
時には教師や友人と口論になる様子を見せたりしていたが、全て相手に対する正論を突きつける事で黙らせて、自身の周りで諍いが起これば、自身が仲介となり話を聞き、改善するための案を出す。
その判断力の高さや、正論の準備は、どこか社会人・・・・・・さらに言うと、上に立つ人間に通ずるものがあり、彼女の能力の高さを垣間見る瞬間だった。
まぁ、それは全て彼女が持ち合わせている前世が起因しているものではあったが、知識だけであそこまで的確にまとめることなどできるはずもなく、確かなカリスマ性を持ち合わせているのだとわかる姿だった。
時には様子を見て自身が中心となって周りを動かし、最善を選び取り従わせ、必要な知識は身につけていく。
その姿はまさに、私が理想とする強きボンゴレのボスの姿だった。
これ程までに理想的なボスが世の中に存在していたのかと、頭を強く殴られたような衝撃を受けた私は、次代のボンゴレに必要なのは、間違いなく彼女のような存在だと思った。
しかし、イタリアにあるボンゴレファミリーの歴史を辿ってみたところ、日本に残したプリーモの血筋・・・・・・理想のボンゴレの女王となり得る少女の継承権は、ほとんどないに等しいものだった。
日本にもプリーモの血縁がいる・・・・・・その情報は確かに存在していたが、マフィアのボスを引退したあと、一般の人間として残りの生を全うし、マフィアとの関わりをほとんど絶っていたことが原因だろう。
あそこまで理想のボスは他にいない・・・・・・いるはずがない・・・・・・そのように考えてはいたが、ボンゴレファミリーの次期ボスは、ボンゴレファミリーの現代のボスと、門外顧問のリーダーが選出することが条件として存在していたため、各世代のボスの幹部や下につくものに憑依する事で生きながらえてきた私が何か言えるはずもなく、諦めるしかなかった。
だが、どう言う偶然か、これまで挙げられていた3人のボス候補が命を落としてしまい、秘蔵っ子と言っても過言ではなかったナツキへと白羽の矢が立った。
これでようやく、ボンゴレをさらに強くすることができる・・・・・・歓喜が湧いてきたあの時の記憶は、今もなお色濃く覚えている。
・・・・・・ボンゴレのボスとして、白羽の矢が立ったナツキ。彼女は、時を重ねるごとにボスとしての特性を色濃く出すようになっていた。
彼女が持ち合わせている鋭過ぎるまでの気配感知・・・・・・それは、彼女の中にあるプリーモの血がもたらす超直感による産物で、こちらがしばらく離れているうちに、彼女はそれを開花させていた。
反射神経もかなり高く、マフィアのボスとして育てるべくやってきたアルコバレーノの動きを先読みし、向けられるはずだったライフルの銃口を下げると言う高度な技を発揮した。
イタリアからやってきたファミリーの候補者とは、一般人であることなど感じさせない身のこなしで鮮やかに制圧し、悩みに暮れていたファミリー候補の少年の相談に乗ることで立ち直らせ、アラウディに良く似た少年と、互角とも言える戦闘を繰り広げた。
次々と伸びていくナツキの能力・・・・・・次々と人を惹きつけるカリスマ性・・・・・・その能力はボンゴレを強くするためには必要不可欠で、彼女に直接知識を教えることができたならば、どれだけいいかと思ってしまった。
・・・・・・そんな中訪れた運命の日。いつのまにか現世を彷徨くようになっていたプリーモと再会したことから、その歯車は加速した。
プリーモに見つかってしまうとは・・・・・・最初は嫌悪しか覚えなかった。しかし、プリーモから頼まれたことにより、その嫌悪は一瞬にして霧散した。
─────・・・・・・オレの子孫であるナツキ・・・・・・ボンゴレの10代目として選出された少女の誕生日が今日なのだが、どうもあの子は、誕生日に悪い感情しかないみたいなんだ。
─────・・・・・・お前がオレに対して、色々と思うところがあることはわかっている。わかっているんだが・・・・・・
─────・・・・・・今日だけは、その気持ちを飲み込んで、あの子の誕生日祝いを手伝ってもらえないだろうか。
─────・・・・・・折角の誕生日なのだから、あの子には笑顔になってほしい。だから、この通りだ。
頭を下げながら、ナツキの誕生日を祝いたいと言ってくるプリーモによって。
まさか、頭を下げてくるとは思わず、最初は驚いてしまったが、話を聞く限り、ナツキはプリーモが視えており、さらにはアラウディやG、ランポウや雨月と言った、かつての同僚達の姿も把握することができるようになっているとわかり、私はそれを承諾した。
顔を合わせることができるのであれば、視ることができるのであれば、これ程まで好都合なことはない。
しかし、私はただでプリーモの頼みを聞くつもりはなかった。長らくナツキを見守ってきたが、今の彼女がどれ程の能力を持ち合わせているのかを知りたかった。
そこで出した条件が、プリーモの姿をした私に彼女を迎えに行かせることだった。
私がナツキの実力を測ろうとしていることをプリーモは直ぐに気づいたのだろう。
こちらの言葉をあっさりと承諾し、存分に測ってくれと言わんばかりの様子を見せていた。
そこまで自信があるのかと思い、私は見抜くことが難しくなる複雑な幻術を使用することによりプリーモを騙り、自宅で待っていると言うナツキの元へと向かった。
するとどうです?彼女は一瞬にして私が偽物であることを見抜いてきたではありませんか。
まさかの事態に、私は一瞬驚いてしまった。だが、直ぐにそれは歓喜に塗り潰され、真っ直ぐと向けられる力強い琥珀色の視線は、ぞわりとした興奮を煽ってきた。
ここまで力を伸ばしたのかと、私の胸中には喜びが渦巻いていた。その能力はどれだけ伸びていくのか、それを側で見たくなった。
伸ばすことができるのであれば、私がそれを伸ばしてやりたい。他の誰かが伸ばすのではなく、全てを私が伸ばしてみたい。
そして、最後は、私が理想としているボンゴレの女王に・・・・・・そのようなことを考えていた。
のちに彼女が幻術を扱える才能の持ち主であると知り、その気持ちはますます増していた。
幻術も扱えるボンゴレのボス・・・・・・ああ、それは、なんと魅力的な逸材か・・・・・・。
私の心は、すでにプリーモが残した最高傑作の血縁に向けられていた。プリーモが残した最高傑作を、私の手でさらなる最高傑作へと成長させる・・・・・・死してなおボンゴレに手を伸ばし続けていた私が抱いた、新たな願望だった。
・・・・・・そう・・・・・・最初のうちは、理想のボンゴレを実現させるため、ちょうどいい駒を見つけたとしか思わなかった。
理想のボンゴレを作るための礎となり、あわよくばその糸を私が操ることができればそれでいいと思っていた。
しかし、その考えは次第に違うものへと変化していった。
ナツキと過ごす日々は、どこか穏やかで温かいものだった。
時には私の言葉に噛み付くように言い返してきて、生意気な子供だと思うこともあったが、確かに心安らぐ毎日だった。
知識欲に溢れた純粋な少女に、自身が知る限りの知識を与える。
知識を与えられた純粋な少女は、新しい知識に目を輝かせて、笑顔で感謝を述べてきた。
幻術の訓練をするために、試しに攻撃にはならない遊び程度の幻術を見せる。
非現実的で幻想的な世界を見た少女は、幼子のように笑って視界に広がる幻術を楽しんでいた。
幻術の基礎を教え、試しに使わせてみる。
あまりにもお粗末な結果になってしまい、普段は完璧としか言いようがなかった少女はその場で思い切り落ち込んでしまった。
その姿があまりにも面白く、なおかつおかしかったため、思わず声を出して笑ってしまう。
私に笑われたのが気に食わなかったらしい少女が、涙目になって拗ねたかと思えば、笑うなと言う言葉を連呼しながら私の胸元を何回も殴ってきた。
しかし、その拳はあまりにも拙く、胸元に衝撃が走る程度にしかならず、大した痛みは感じなかった。
その姿を見て、思わず子供だと少女を揶揄えば、子供で悪かったなと吐き捨てて、そのままツンと顔を逸らしてしまった。
加虐心に駆られた私は、そんな少女の顔を見てやろうと少女の顔を覗き込む。少女は直ぐに顔を逸らした。
負けじと何度も回り込むが、少女も負けじと顔を逸らすため、しばらくの間、その場でくるくると何回も歩き回った。
そのひと時はあまりにもくだらなく、しかし、とても楽しい時間だとハッキリと言えるものだった。
・・・・・・他にも、彼女と過ごすようになって、様々な表情を見ることになった。
私に対する警戒の表情。私に対する信頼の眼差し。慣れてきたらどこか人懐っこくなる彼女の笑顔は、プリーモ達と共にいる時間で荒んだ気持ちを不思議と癒してくれるようで、その笑顔を見ることが、いつのまにか一つの息抜きになっていた。
よくよく考えてみれば、この時すでに、私の感情は別のものへと変わっていたのかもしれない。
理想のボンゴレを作るための礎となる駒と言うものから、大切な1人の異性という感情に。
しかし、私はそれに気づかなかった。気づきたくなかった。見えないフリをしていたかった。
余計な感情は不要。全てはエレナが望んだ強いボンゴレのため。理想のボンゴレに相応しい女王だからこそ、仕えているのだと考え続けて。
そんな時、あの事件は起きた。
一瞬の隙をつき、連れ出されたナツキ。いつものように、彼女を見守っていた時に、発生したナツキの失踪。
突如自室のある2階から、荷物を持って軽い身のこなしで飛び降りて来た教え子の姿に、私の意識は囚われた。
同時に湧き出る嫌な予感は、冷気の如く体を駆け巡り、自身の脈拍は早鐘を打つ。
地面に着地した特別な教え子は、こちらの視線に気づいたように、静かに視線を向けていた。
いつもは宝石の琥珀のように透き通った瞳。しかし、その右目は悍ましい程に鮮やかな黄昏に完全に塗り潰されており、彼女の中から感じ取れたのは、全くの別人の気配だった。
私達の姿に気づいた誰かは、何度か瞬きを繰り返したのち、その表情を忌々しいものを見据える嫌悪のものへと変化させた。
これまで見たことがない、ナツキと言う少女の蔑む表情は、ないはずの心臓をダイレクトに掴み、握り潰すかのような痛みを生じさせる。
─────・・・・・・ああ、あなた達が奈月の秘密のご友人ですか。
─────・・・・・・ちょうどよかった。僕、あなた達に言いたいことがあったんですよ。
─────・・・・・・これは僕からの一つの宣戦布告です。あなた方がマフィアなどと言う組織さえ作らなければ、奈月は穏やかに人生を終えることができたはずなのに、それを残してしまった結果、彼女は自由を失った。
─────・・・・・・僕は奈月を自由にします。例え、そのためにどれだけの犠牲を出すことになろうとも、奈月をマフィアから引き離すために。
─────・・・・・・それにより、どれだけの命が散ろうとも知ったことじゃない。今一度考えてみたらいかがですか?
─────・・・・・・お前達が残したそれを継ぐことが、本当に奈月の幸せであるのかを。
吐き捨てるように告げられた言葉に、私はヒュッと息を詰まらせる。
ナツキの中にいるのは別人であるはずなのに、まるで、谷底へと突き落とすかのように言われた言葉を、ナツキ本人から言われたような錯覚を覚えてしまった。
それを知ってか知らずか、ナツキに入り込んだ何者かは、そのまま姿をくらました。
直ぐに追うこともできたはずだが、脳裏にこびりついたナツキの蔑むような冷めた表情に、行動する気力を奪われた。
あの眼差しを向けてきたのは、ナツキ自身ではなく、ナツキの中に入り込んだ存在であると言うのに。
私はナツキを探せなかった。探そうとして、冷めた眼差しの記憶が邪魔をして、探すと言う行動を行えなかった。
私はどこで間違えた・・・・・・?脳裏に過った疑問に、その時の私は答えを出すことができなかった。
D・スペード
自身の能力を引き上げるために、ジョットに訓練をつけてもらっている奈月を見つめながら物思いに更けていた始まりの霧。
実はジョット達より先に奈月の姿を見ており、どう見てもジョットの血縁である奈月を長らく観察していた。
実は奈月の家出騒動の時、1番メンタルがやばかった人。最初は駒としか見ていなかった少女に対しての感情は、彼女と日常を送る度に変化していたのだが、それに蓋をしていた。
沢田 奈月
ジョットに訓練をつけてもらっているボンゴレの女王。
ジョットの攻撃に対応するため、超直感をフルに活用して彼の行動に追いつけるタイミングで武器を持ち替えている。
訓練中のスケジュールをDに管理されている。
ジョット
奈月に戦闘訓練をつけている始まりの大空。
超直感を駆使して、自身の行動を直感による先回りで追いついてくる奈月に実はかなり焦っている。
待て待て待て待て!オレは超直感をそんなに継続使用したことないぞ!?どうやって継続して先見してるんだナツキ!?