最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい 作:時長凜祢@二次創作主力垢
かつて恨めがましいと思っていた始まりの大空が残していった少女への想いを。
そして、それを受け入れる。彼にとって、新たな愛慕の物語の始まりだった。
side D.
私はナツキの元へと足を運ぶことをやめた。
しばらくの間は、見ていようかと思ったりもしたが、少しだけ眺めていたところ、ナツキとナツキを連れ出した少年・・・・・・六道骸の2人は、恋人のように仲睦まじく穏やかに過ごしていることが多く、それを目撃する度に煮えたぎるような嫉妬に駆られ、まともに動けなくなることが多発したために。
ナツキが他の男と仲睦まじく過ごす姿など、正直言って、耐えられそうになかったのだ。
それに、私は彼女に対する想いを認めたくなかった。不要だと思っていた。ゆえに私は、彼女に対する想いは気の迷いだと切り捨てて、彼女が戻ってきた時のことを考えて、ただの師弟としての感情だけに戻したかった。
きっと、距離を置いていれば、ナツキに対する想いも薄れる。それならば距離を置き、恋慕の情を捨ててしまえばいいと、この機会はちょうどいいものだと思っていた。
こんなものはただの願望で、それを願ったところで・・・・・・それを望んだところで・・・・・・無意味であるとわかっていても。
わかっていた。この想いを捨てることなどできないことも、この想いに蓋をしようとしても、どうせ溢れて止めることができないと。
しかし、そう願わずにはいられなかった。この恋慕を完全にナツキへと向けてしまうと、私は二度と、ナツキを手放すことができなくなり、同時に手元から逃すことができなくなるとわかっていたために。
それは、ある種の一つの情けだった。死人でありながら、大き過ぎる感情を持ち合わせている私の手元から、早くナツキが離れることができるようにするための猶予のようなものだった。
私のような人間に好かれるなど、きっと、彼女も願い下げのはずなのだから。
連れ戻さなくてはと思っていたのに、自身が抱く恋慕に触れることになってしまった瞬間、手放してやらなくてはならないと考えるとは・・・・・・。
なんと自分勝手なことか、恋慕を向けられたナツキには、同情するしかできなかった。
܀ꕤ୭*
・・・・・・そのように考えて、ナツキから距離を置くこと半月。
あれから私は、何度もナツキに対する感情を捨て去ろうと、極力彼女のことを考えないように過ごしていた。
しかし、それはどうも上手くいかず、考えないようにしようとする度に、彼女の姿や、初めて見かけた時の笑顔、彼女が六道骸の手引きにより姿をくらませてしまうまで、彼女と共に過ごしていた穏やかな記憶が脳裏に何度も流れていき、彼女との時間を恋しく思うようになっていた。
その恋しさは、寂しさと同時に、かつてエレナと共に過ごしていた時のような心地良さと愛おしさを帯びており、何度も溜め息を吐いてしまう。
“このような想いを抱くつもりはなかったのに”・・・・・・過った言葉に、思わず眉間へと皺を寄せる。
捨て去ろうとして、逆に恋しくなるなど、なんとも皮肉なものである。
あれから、プリーモ達とは会っていない。ナツキがあの場にいたからこそ、私もプリーモ達と過ごす時間を苦痛に思っていなかったのだから、ナツキがいない以上、苦痛でしかない彼らとの交流などするつもりは毛頭もなかった。
今、ナツキは何をしているのだろうか?仲睦まじく過ごしていた六道骸と、共に過ごして笑っているのだろうか?
六道骸がナツキに恋慕を向けているのは明白で、共に過ごすうちに、六道骸のものになってしまっているのだろうか?
様々な疑問を脳裏に浮かべては、それを振り払うように頭を左右に振る。
既にわかり切っている感情ではあるが、やはり認めたくない部分もどこかあり、何度も何度も否定する。
それが決して意味を持たぬ行動であろうとも、やはり私は、彼女に対する恋慕を捨ててしまいたかったのだ。
別に、この感情を不快に思っているわけではない。嫌悪を抱いているわけではない。
ただ、エレナに対する想いもある中、新たな恋慕を抱き、その対象が今を生きる生者であると言う事実に、思うところがかなりあった。
だからこそ、余計なことは考えないようにとこの想いを捨ててしまいたかった。
ほんの少しの居心地の良さを、穏やかな時間を過ごせた記憶を、持っているだけで十分だった。
なのに・・・・・・
・・・・・・ナツキがいなくなってから1ヶ月の時が経った頃。
ナツキが並盛へと戻ってきた。その表情には確かな嫌悪と、それでいて抱いた何かしらの決意が滲み出ていた。
戻ってきたナツキから話を聞いたところ、彼女はマフィアに対する明確な嫌悪感と軽蔑を向け、なんらかの拍子に滅んでしまおうがどうでもいいとのことだった。
彼女の中から感じ取れたのは、六道骸のわずかな気配。しかし、その気配はナツキの気配に混ざるようにして存在しており、マフィアに対する嫌悪感は、ナツキ本人が実際に抱いているものだとわかった。
彼女に紛れ込んでいる六道骸の気配から、彼女にそのような感情を抱かせたのは六道骸が影響していることは確かだった。
なぜ、そのようなことを言い出したのか、その疑問は、彼女がマフィアに戻るために見つけた一つの動機によるものだった。
“マフィアにより運命を歪まされ、人生を滅茶苦茶にされた子供達がいた。だからこそ、二度とそのような子供達が生まれないように、マフィアの世界を自分が取り締まる”。
“少しでも対応を変えることができたのであれば、追放されたマフィアとそのマフィアの被害者側となった子供達を少しでも分けて考えることができたのであれば、その歪みは防ぐことができたはずだから”。
その言葉を聞き、私はこれまで長らく過ごしていたマフィアの世界を思い返す。
これまでいくつも追放されたマフィアを見ることがあったが、確かに、追放されたマフィアに属していたからと言う理由だけで、迫害されてきた子供達はかなりいた。
きっとナツキは、もし、そのような子供達を少しでも追放したファミリーの人間としてではなく、ただの子供として保護し、しっかりとしたアフターケアができていたのであれば、歪で苦しい人生に狂うことはなかったと言いたいのだろう。
・・・・・・琥珀色に輝くナツキの瞳は、彼女自身の内側にあるものを見据えているようだった。
それは、間違いなく六道骸に向けられているもので、彼女が語る歪んだ子供というのは、六道骸だと判断するのに十分過ぎるものだった。
自身の中に、確かな嫌悪感と嫉妬が渦巻く。
ナツキに目を向けられている六道骸が・・・・・・彼女を動かすきっかけとなった六道骸が・・・・・ひどく妬ましく羨ましかった。
彼女が動くきっかけとなる・・・・・・ボンゴレとエレナが残した言葉を動機として、原動力として私が動いているように、六道骸は、ナツキが動くための動機と原動力になっている。
それは・・・・・・六道骸がナツキの特別となっているのだと表現するに足るものだった。
そのような感情を私が抱いていることに気づいていないのか、ナツキはこれからのことを口にする。
ボンゴレファミリーは、かつて弱い者を守るための自警団だった話を持ち出し、かつての弱い者を守る組織へと戻していくのが自分の今の目的だと。
そして、彼女は続けて言った。その道を歩むに至って、私の存在は必要であると。
彼女は、自身の考えを基に動く中で、私にマフィアのボスに相応しいかどうかを見極めてほしいと口にした。
これまで通り、様々な知識を教えながらも、否を突きつけたいと思った時は、遠慮なく言ってほしいと。
その果てに私と衝突が発生した場合、自身の考えに反するものであれば自身も真っ向からぶつかるつもりだが、修正しても問題がなければ私の意見を基に修正するようだ。
その言葉に、少なからず驚いてしまったが、眩い光を宿す琥珀色の瞳には、本気の感情しか渦巻いておらず、力強い眼差しに射抜かれる。
真っ直ぐと向けられたその瞳には、私だけが映っており、先程まで抱いていたマイナスの感情が一瞬にして霧散した。
我ながら単純だと思わなくもないが、私はその言葉に小さく頷き、見極めてほしいと言う言葉を承諾した。
同時に、もしも、こちらの及第点に触れることができなければ、その時は再教育だと口にすれば、その時は自身の力不足によるものであるため、甘んじて受けると返してきた。
あまりにも素直な返答に、軽く虚を突かれてしまったが、直ぐにそれは歓喜に消える。
その時が来たら、彼女の意識をこちら側のみに向けることができる。自身の中に、明確な独占欲が芽生えた瞬間だった。
エレナに対しても、それなりに独占欲等を抱いていた記憶はあるが、ナツキに対して抱いた独占欲に比べたら可愛いものだったかもしれない・・・少しだけそのようなことを考えながらも、私の弟子でなかったら容赦なく痛い目に遭わされていたかもしれないと引き攣った表情をするナツキに、全身の骨を折るくらいはしていただろうと告げれば、彼女はプリーモのマントの中へと隠れてしまった。
その姿にかなり苛立ちを抱いてしまったのは言うまでもない。
܀ꕤ୭*
・・・・・・ナツキが私の元に戻って1ヶ月が経った頃。とうとう本格的にマフィアとしての事柄が動き出した。
日本へと渡ってきたボンゴレリング。それを追ってきた暗殺部隊のS・スクアーロ。
彼が反応したボンゴレリングの話を聞いたナツキは、その日の夜、涙を流して自身の苦しみと弱音を吐き出した。
逃れることができない運命。自身の命を守るために、友人の命すらも巻き込まなくては行けないと言う現実に、彼女は体を震わせていた。
押し寄せてくる様々な不安・・・・・・まとわりつく多くの責任・・・・・・自身のために、人生を狂わせなくてはならない人間が沢山いると言う恐怖に苛まれ、それでいてなお、彼女は向き合おうとした。責任を他人に押し付けないようにと、自分でことを済ませる決断をした。
その判断は正しいと、ナツキに伝えた私は、今はまだ弱音を吐き出して、泣いても構わないと彼女に告げ、自身の胸を貸した。
今だけは、普通の少女のように・・・・・・その言葉も同時に送りながら。
しばらくの間、ナツキは私の腕の中で泣き続けた。幻術をかけることにより、声を押し殺さなくても問題はない環境を作り上げてみても、彼女は声を押し殺し、私が着ていた衣服を濡らし、わずかな嗚咽のみを漏らしていた。
確かに、沢田家光やアルコバレーノに勘付かれないようにと言ったのは私だが、実際にそれを実行してしまうとは・・・・・・。
その姿を見て、私は後悔を抱いた。幻術で隠しておくから声を出して泣いてもいいと告げていれば、もう少し彼女も素直に弱さを晒せていたかもしれないのに。
そんなことを考えているうちに、彼女は泣き疲れて眠りに落ちていた。
ようやく眠ったかと思いながら、彼女から離れようと思ったが、彼女の手は私の服を強い力で掴んでおり、離れることができなかった。
その姿はまるで、助けを求める幼子のようで、無理矢理離すこともできたが、私はそれを行わなかった。
いや、そのようなことを考える思考を持ち合わせていなかった・・・・・・が正しいかもしれない。
その時の私は思ってしまった。今のナツキは自身の内側に潜むようになった六道骸ではなく、目の前にいる私に助けを求めて縋っていると。離れてほしくないと望んでいると。
特別となっている六道骸ではなく、目の前にいたD・スペードに手を伸ばしているのだと。
それを証明するかのように、私が離れようとしたら、私より一回り程小さな手に、離れないでと言うように力が加わっていた。
自身に縋り付く目の前の少女に、私は抑えきれない歓喜を抱いた。彼女が今求めているのは、内側の片割れではなく私なのだと、この事実は強い支配欲と庇護欲を掻き立てた。
口元に歪な笑みが浮かぶ。私を必要としているナツキの姿は、見ていてとても気分が良いものだ。
求められたのであれば、それに応えるのも一つの愛情。
私は、眠るナツキを起こさないように、そっと壁際の方へと寄せて、その隣に自身の体を横たわらせる。
大の大人と、大人になるために成長し続けている少女の体が並んで横になるには、少しばかりこの寝具は狭かったが、それなら体を密着させてしまえばいい。
本来ならば、このような行動は周りから非難される可能性があるものだが、求めてきたのはナツキの方だ。
私はただそれに応えてやっただけ、これが事実なのだから、非難される筋合いはない。
そんなことを思いながら、私はナツキの体を自身の方へと引き寄せ、そのまま抱きしめながら目を閉じた。
普段はアルコバレーノや、彼女の雷の守護者となる子供が邪魔なため、このようなことはできないが、今この部屋には私とナツキしかいない。
邪魔がいないのであれば、私も自由に行動を取ることができると言うもの。気にせずそのまま眠りに落ちた。
܀ꕤ୭*
ナツキが弱音を吐き、自身に縋り付く姿を見せた日の翌日。彼女は不安と恐怖は消えなかったと口にしながらも、頭をしっかりと切り替えているようだった。
覚悟を決めたナツキは、それぞれ自身の守護者である者達に声をかけ、マフィアの世界に足を踏み入れる沢田奈月と言う女王についてくるかを問いかけて、確かな逃げ道を与えながらも、次々と守護者を獲得していった。
唯一、雷の少年に対しては、思うところがあったようで、プリーモがそんな彼女から弱音を聞く様子を見せていたが、彼女の恐怖や不安とは裏腹に、雷に選ばれた少年が自分の思いをナツキにぶつけた事により、彼女は全ての守護者を自身の陣営に引き入れた。
再びナツキは頭を切り替え、暗殺部隊を迎え撃つために、自身の能力の強化に着手することを宣言した。
それに伴い、私達は彼女の力を引き出すために、彼女の師として教えることができることを教える姿勢を取った。
この時、少々Gと衝突してしまったが、ナツキにそれは制された。その時に見たナツキの笑みと、紡がれた言葉は、私の記憶に焼きついている。
─────・・・・・・Dさんの感情に同情の言葉をかけるつもりはないよ。その悲しみや辛さは本人にしかわからないし、悲しかったねとか、辛かったねなんて言葉をかけたところで、上部だけの言葉になってしまうから。
─────・・・・・・でも、これだけは言える。今は過去に目を向けないで、私の今と未来に目を向けて。
─────・・・・・・確かに、暗い感情はなかなか忘れることができないものだし、何がきっかけで膨らんで爆発するかわからない。
─────・・・・・・だからと言って、忘れろなんて言わないし、忘れることなんてできるはずがない。
─────・・・・・・ベクトルや種類は違うけど、“わたし”も過去を忘れることができないし、なんらかの拍子にトラウマが再発してその感情に苛まれるから。
─────・・・・・・だけどそれを手放すことなんてできないし、それがあるからこそ形作るものがあり、今を生きる自分になる。
─────・・・・・・過去を振り返ることや、思い返すことは悪いことじゃない。時にはそれも必要で、それがあるからこそ動ける時もある。
─────・・・・・・でも、今は・・・・・・今だけはわたしを見て、わたしの
─────・・・・・・今のわたしには、
─────・・・・・・わたしが真っ直ぐと歩くためにも、未来をちゃんと走り抜けるためにも、今だけは過去ではなく、今を生きるわたしを見て。本当に……今だけでいいからさ。
懇願するように紡がれた、今だけは過去ではなく沢田奈月を見てほしいと穏やかに告げられた言葉。
その時にナツキが見せてきた穏やかな笑みは、ハッキリと美しいと言えるものだった。
─────・・・・・・今回の戦いが終わったあとなら、沢山考えてもいいし、過去の感情を吐露してもいい。わたしはそれを止めたりしない。
─────・・・・・・でも、今は時間がないから、蓋を完全に閉めろとまでは言わないけど、少しの間、わたしのことを見て、わたしのことを考えてよ、
鈴を転がすかのような心地よい声と、真っ直ぐと向けられた琥珀色の瞳・・・・・・自分を見てほしいと言うナツキの望みに、私の胸は大きく高鳴り、強い熱を帯びていく。
私の心が、沢田奈月と言う1人の少女に完全に奪われた瞬間だった。
蓋をして抑えていた恋慕は、一瞬のうちに溢れてしまい、完全に私は、この琥珀色に堕とされたのだと理解するのに時間はかからなかった。
私だけを見てほしいと言う独占欲。あらゆる敵意から守りたいと言う庇護欲。縋りつける相手は私だけにして、私の話だけを聞いていればいいと言う支配欲。その温もりを腕に閉じ込め、そのまま終わりを迎えたいと言う強い恋慕・・・・・・様々な感情が、決壊したダムから洪水のように流れ出でるような感覚に陥る。
・・・・・・エレナに対する想いも、強きボンゴレに対する想いも、決して失ったわけではない。
しかし、それ以上に強い恋慕が、目の前にいる琥珀色を全て私だけのものにしてしまいたいと言う欲望が、これまで施していた私の感情の抑制を振り払い、私の意識を塗り替えていく。
私と向き合い、私が抱く感情を否定することなく受け入れ、そのまま持っていてもいいと告げる1人の少女は、容赦なく私を突き落とした。
ここまで私を突き落としたのだから、お前も私に突き落とされてしまえ。
そうでなくては
「Dさ〜ん。ジョットさんが飛ばし過ぎて器がもう持たないんだけど。」
「・・・・・・何をやってるのですかプリーモ?」
「仕方ないだろう!?明らかにナツキのレベルが飛躍しているんだぞ!?常時超直感を使用してオレの攻撃を先読みしてくるってどうなんだ!?」
・・・・・・ナツキの声により、思考に沈んでいた意識が戻る。
自身の恋慕を思い返し、物思いに耽るとは・・・・・・本当に彼女は監獄のような女王陛下だ。
「おやおや・・・・・・あのプリーモの動きを上回る程の超直感とは、流石ですね、
「・・・・・・その呼び方、定着させるつもり?」
「ヌフフフ・・・・・・何度も言ってるでしょう?お前は私の特別な女性です。だからこそ特別な呼び名を使っているのです。これは、一種の私からの愛情表現ですよ。」
座っていた枝から飛び降りて、呆れたような表情を見せるナツキの前に着地する。
そして、着地した体勢を直して立ち上がった私は、目の前にいた少女の腰へと手を回し、そのまま自分の方へと引き寄せた。
「それとも、こちらに甘く口付けを落とされる方が好みでしたか?
それなら早く言ってくだされば、いくらでも深くて甘い口付けで、蕩けさせてあげたのですが・・・・・・。
なんなら、今からでも構いませんよ?腰が砕けても知りませんが。」
近くなったナツキの頬に、そっと片手を添えながら、わざと舌を見せるように、軽く舌なめずりをして見せて、親指の腹で淡い紅色の唇を撫でる。
私の言葉の意味に気づいたのか、ナツキは一瞬だけ固まったのち、顔を赤らめながら私から離れた。
術士であるとは言え、しっかりと体は鍛えているため、彼女を腕の中へとずっと閉じ込めることなど容易いが、今はまだ、そこまで閉じ込める必要はない。
「な、ななな、何言ってんのこのスケベ!!色気振り撒いて迫ってこないでよバカ師匠!!」
子供らしい罵声を口にしながら、離れていた位置にいるアラウディの方へと走り去るナツキ。
自身の方に走り寄ってきた彼女を見たアラウディは、彼女が自身の方へと近寄る前にコートのボタンを外し、そのまま両腕を開いた。
そこに飛び込むようにして、入り込んだナツキを確認するなり、彼は彼女をコートの内側へと仕舞い込む。
「変質者がいるね。近寄ったらダメだよ、ナツキ。」
「ゔ〜〜〜〜〜・・・・・・!!」
「威嚇ですか?ただただ可愛らしいだけなので無意味ですよ。」
揶揄うように言葉を紡げば、完全にナツキはアラウディのコートにすっぽりと隠れてしまった。
彼女にくっつかれているアラウディに対して、嫉妬がないと言えば嘘になるが、彼女が私を意識してあのような反応をしていると言う事実がその嫉妬心を打ち消した。
同時に加虐心も湧き上がってきたが、あまりいじめ過ぎたら嫌われてしまう可能性が高いため、今日はここまでにしておこう。
「・・・・・・ところでプリーモ?私はナツキの休憩時間や、プリーモ達を形成している器の持続時間などを計算した上で彼女のスケジュールを管理していたのですが、勝手に狂わせないでもらえます?」
アラウディのコートの中からひょっこりとリスのように顔を出して拗ねたような表情をしているナツキに、愛しさと加虐心を抱きながらも、私はプリーモに話しかける。
ナツキにちょっかいを出す私に対して苛立っていたプリーモは、私の言葉を聞いた瞬間、スッと私から視線を逸らす。
その姿に軽く苛立ちを覚えた私は、その頭を平手で思い切り叩いた。
「いったぁ!?」
「これくらいで済んだだけマシだと思いなさい。全く・・・・・・ナツキの成長速度に釣られてレベルを引き上げたくなる気持ちはわかりますが、そこまで急がなくとも彼女ならば十分な力をつけることができますよ。
それと、勝手にナツキの負担を増やさないでください。彼女にはしっかりとした休息も必要なのですから、回復が追いつかなくなる可能性を出さないでもらえませんか?」
痛みに悶えるプリーモを見下しながら、私はアラウディの方へと歩み寄る。
正確には、アラウディのコートに隠れているナツキに近寄ったのだが、彼女は私が近寄った瞬間、再び顔まですっぽりと彼のコートの中に潜り込んでしまった。
「そのように隠れなくても、今日はもうあのような意地悪はしませんよ。ほら、隠れてないでこちら出てきてくださいませんか?お前の愛らしい顔を見せてください。」
「今、今日はって言った?」
「言ったね。」
「それって明日はまたちょっかい出すってことじゃん!!」
「逆に聞きますが、なぜちょっかいを出されないと思ったのですか?好いた女性に自身を意識させ、堕としてしまいたいと思うのは人の性だと思いますが?」
「ゔゔ〜〜〜〜・・・・・・!!」
「仔犬の威嚇の真似ですか?可愛らしい以外の感想は出てきませんよ。」
笑いながらナツキにそう告げれば、コートの隙間から見えた彼女の顔が赤色に染まっているのが見えた。
私の一挙一動に反応を示してくるナツキの姿は、気分の高揚を煽ってくる。
このまま意識を他に向けることなく、私にだけ向けるようになったらどれだけ喜ばしいことか・・・・・・。
「さて・・・戯れ合いはここまでにして、一旦休憩を挟みましょうか。プリーモがスケジュールを狂わせてくれたので、練り直さなくてはなりませんしね。
今のうちにナツキはしっかりと体と精神を休ませなさい。軽食になりそうなものや、飲み物は買ってありますから、好きなものを選んで口にしていいですよ。」
ですが、あまりにもがっつき過ぎては確実にお前は逃げるでしょう。
ならば私は、今はまだ弟子を揶揄う師として過ごし、その意識がこちらへと向けられるのを奈落の底で待ち続けましょう。
じわりじわりと神経毒に侵すように、スローペースで迫りましょう。
そして、お前が奈落の縁に足をかけたならば、その時は覚悟しておきなさい。
そこまできたら最後、お前を私だけの色に染め上げて、その心も体も犯しつくして、こちらの方へと引き摺り込んであげますから。
─────・・・・・・待っていますよ、ナツキ。お前が私に堕ちるその時を。
それまでは・・・ええ・・・・・・。お前のことは大切な教え子としてたっぷりと可愛がってあげましょう。
もちろん、1人の異性としても。我ながら感情が拗れているとは思いますが、もはや抑えが効かなくなった以上、我慢などできるはずがないのです。
一度失った己が最愛。奪われたことにより失った温もりや、その穏やかさをお前が思い出させたのが悪いのですよ?
「・・・・・・初めての恋慕の情は、とても綺麗なものでしたが、あなたを失ってしまったあとで、新たな異性に芽生えた恋慕の情は、どうやら少々醜いものとなってしまったようです。
ですが、それでも私は手を伸ばしたいと望んでしまっているようで、どうも戻ることが難しいみたいです。」
責任転嫁をしながらも、私はかつての最愛へと語りかける。
すでにこの世に存在しない綺麗な愛が、答えを紡いでくれはしない・・・・・・わかりきったことを、脳裏に浮かべながら。
「あなたへの愛は忘れません。あなたの言葉も忘れません。ですが、新たな愛を見つけてしまったようなので、あなたへの愛は思い出と言う名の宝箱の中にでも仕舞っておきます。
ナツキ自身も、あなたへの想いは忘れなくてもいいと言ってますし、大切に保管して鍵をかけます。
それくらいは許してくださいね・・・・・・エレナ。」
呟くように紡いだ言葉。それを一つの区切りにして、私は今の最愛へと目を向ける。
彼女は私が買ってきた物の中からいちごジャムが入ったマシュマロを取り出し、もふもふと口にしていた。
「・・・・・・今度こそ・・・」
私は、自身の最愛を、失ったりはしない。
D・スペード
かつての最愛に対する愛に区切りをつけ、今の最愛に目を向けることを決めた始まりの霧。
生前の愛慕のような清澄な水辺のような綺麗な感情ではなく、支配欲や独占欲、庇護欲など、様々な感情が混ざり込んだ粘着質な愛慕であると自覚しているが、もはや止まるつもりは無くなった。
受け入れた結果、暴走と重さと湿度と甘さを含んだ想いへと今の最愛への感情が昇華されてしまっているが、当人は拗れを理解していながらも今の最愛を逃すつもりも、失うつもりも毛頭もなく、確実に自身に堕とすことを決めた。
沢田 奈月
哀れにもクソデカ激重恋慕を宿す始まりの霧に恋愛対象としてロックオンされてしまった大空の少女。
これから先、D・スペードから容赦なくちょっかいと言う名の愛情表現をされまくることになるのだが、本人は気づいていない。
・・・・・・が、嫌な予感はしているのか、寒気を感じている。
D除く初代ファミリー
・・・・・・ヤバい。めちゃくちゃ厄介な男が奈月への恋情に完全覚醒してしまった・・・・・・!!
奈月はオレ達が守らなくては!!