最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 暗殺部隊に気に入られてしまった桜の花は、悩んだ末に1番絡んできた青年に連絡を入れる。
 特に話すことはないけれど、連絡しなかったら逆にうるさそうだしと思いながら。


争奪戦前夜

 明日は学校に顔を出してこいと言うリボーンから制服とスクールバッグなどを手渡され、それを受け取ったわたしは、初代ファミリーと共に過ごしている屋敷に戻って自由な時間を過ごしていた。

 

 生きる器である有幻覚の肉体を得て、食事と飲酒をする初代組と、夕飯を食べながらお茶を飲んで過ごすわたしの図と言うのはなかなかに凄まじい光景ではあるが、彼らにとってはもはやわたしもファミリーの一員・・・・・・さらに言うと、こぞって可愛がる対象となってしまっているため、ある意味で第二の家族となってしまった。

 

 ・・・・・・賑やかな夕食を過ごし、風呂も済ませ、あとは寝るだけと言った状況の中、わたしは自分が寝る時に使っている部屋の中であるものと睨めっこしていた。

 それは、ヴァリアーとの邂逅をした時、解散した時にベルから手渡された連絡先が書かれているメモ紙だ。

 そこに記されている物をジッと見つめながら、わたしは溜め息を吐く。

 命をかけて、正当な後継者の座の奪い合いをしようとしている相手に、あの暗殺者の少年はいったい何を考えているのか。

 こんなことXANXUSさんにバレたら間違いなく痛い目に遭うどころか命が危ぶまれる可能性だってあると言うのに。

 でも、だからと言ってこれを無視したら無視したでまたうざ絡みされてしまうのは確定しているし、連絡をした方がまだマシと言う可能性も否めない。

 

 ─────・・・・・・内藤程ではないだろうけど、ベルも絶対にめちゃくちゃ絡んでくるタイプだしなぁ・・・・・・。

 連絡しなかったら連絡しなかったで、めんどくさくなることが確定している以上、精神的な負担も考えて話し相手になるのがいいかもしれない。

 

 そこまで考え、深く溜め息を吐いたわたしは、手元にあるプライベート用の携帯電話の文字盤に指を滑らせる。

 記されている11桁の数字を記入し、通話開始ボタンを押せば、無機質なコール音が数回聞こえた。

 

【やっほー、姫♪やーっと連絡してくれた〜。全然着信しねーから無視されたかと思ったんだけど?】

 

 程なくして電話のスピーカー越しにベルの声が聞こえてくる。

 待ってましたと言わんばかりの明るい声音には、再び溜め息を吐きそうになった。

 なんで敵対者から連絡されてこんなに嬉しげなんだこの人は、呆れやらなんやらと様々な感情が自身の中に渦巻いた。

 

「無視をしたらめんどくさそうだと思ったからね。て言うか戦闘することが確定してる相手に連絡先を教えて大丈夫なわけ?

 XANXUSさんにバレたら1番危ないのはそっちだよ、ベル。」

 

 様々な感情を乗せたまま、こんなことしたら危ないだろうと告げると、彼は笑い声を漏らす。

 

【ダーイジョーブだって。バレなきゃいいだけだし、こっちの情報流そうってわけじゃねーもん。

 まぁ、オレ王子だし?ついでに天才だからバレるようなヘマはしねーよ。】

 

 楽しげな声音で言葉を紡ぐベルに、とうとう通話が繋がってることなどお構いなしに溜め息を吐いてしまった。

 溜め息吐いたら幸せって逃げんじゃねーの?だって?誰のせいで溜め息を吐かざるを得なくなってると思ってんだこの人は。

 

「て言うか、度々王子だなんだって言ってるけど何なわけ?」

 

 そんなことを考えながら、度々脳裏にあった疑問を口にする。わたしの問いかけを聞いたベルは、一瞬スピーカー越しに「へ?」と間抜けな声を出すが、「あ、忘れてた」と直ぐに言葉を紡いだ。

 

【なんでって言われても、オレが王子なの事実だから言ってるだけー。そう言や姫に言ってなかったな。】

 

「は?リアル王族の人なの?」

 

【そ。】

 

 短い返事のあとに紡がれたのは、いつだったか社会科や歴史の勉強の一環として調べたら出てきたこの世界の国連加盟国の中に含まれていた国の名前で、すかさず自分で購入したハイスペックなノートパソコンのキーボードを叩き、ネット検索をかけたところ、いくつか消去されたものがあったため、なんとなく調べていたデータ修復をかけてみた。

 そこには、確かにベルフェゴールの名前があり、彼の家族と思わしき名前・・・・・・も・・・・・・うん。

 

「・・・・・・えーっと、ベル?なんとなく君の話を元にネット検索とデータ修復をかけてみたところ、その国の王族、ほとんど死んでることになってるんだけど?」

 

 まさかと思いながら、ベルに自身の手元にあるパソコンに映し出されていた文字を見つめながら問いかける。

 わたしの言葉を聞いたベルは、「え、マジ?」と驚いたような声を漏らす。

 そのマジ?は、おそらくだけどデータ修復に対するものと思われる。

 

【姫ってマジでハイスペックじゃん。ヴァリアーに入った時、こっちのデータに強い連中にデータめちゃくちゃぶっ壊してもらったつもりなんだけど、修復できちまうもん?】

 

「正直言って、私もできるとは思っていなかった。」

 

【ししし!やっぱ姫っておもしれー!連絡先教えて正解だったわ!絶対姫、10代目候補じゃなかったらヴァリアーでもやってけるぜ?

 戦闘能力は申し分ねーし、頭もいいし、学んだこととかは絶対身につけるっしょ?】

 

 ベルの問いかけに少しだけ考え込んだわたしは、確かに学んだことは身につけないと落ち着かない性分であることを肯定する言葉を返す。

 すると、ベルは「やっぱりなー」と納得したような言葉を紡いだ。

 

【知識欲は人より強いって言ってたもんな、姫。だったら余計に姫、10代目候補じゃなかったらヴァリアー入れたわ。

 なんなら王子が姫達が負けた場合、姫だけは生かしてこっち入れようぜってボスに言っといてやるよ。

 姫の能力の高さなら、絶対即ヴァリアーの幹部格入りするに決まってるし、ボスも文句は言わねーからさ!】

 

「人を暗殺部隊入りさせようとするんじゃない。」

 

【関係ねーよ。オレ王子だもん。】

 

「それ言ってればなんでも許されるって思ってる?思ってるよね?」

 

 ベルの発言にしょっちゅう後付けされるだってオレ王子だもんの言葉に、それで全部許されてるのかあんたは、と呆れながらツッコミを入れた。

 ベルって語尾がだってオレ王子だもんなの?アニマル達とのんびり暮らす村や島生活の彼らみたいに?

 いや、長いわ。なんだよその口癖。

 

【あ、データはまたぶっ壊しといてくんね?ほら、王子って暗殺部隊に属してる天才だから、あんまり身バレしたくねーんだよねー。】

 

「はいはい。壊しておきますよ。」

 

 なんか、また一癖も二癖もある人に好かれたなと思いながら、修復したデータは一応USBメモリの中に入れておき、再びデータを破壊しておく。

 データの修復と破壊方法は探してみたら割とあるから、なんとかなった。

 ・・・・・・そう言えばハッキングってどんな感じにやるんだろ?まぁ、壊れたデータを修復してまた壊すなんてことする時点でなかなか人から外れた技術者だけど、どうせならハッキングとかもいつかやってみたいな。

 折角学んだことを吸収しまくれる頭脳と体があるから。

 

「ところで、なんで殆どの親族が亡くなってんの?」

 

【ん?ああ、双子のジルはゴキブリと間違えて殺しちゃってさー。そんで他の家族も色々うっさかったから殺した。】

 

「さらっと行われている親族殺し・・・・・・。リアル親殺しってどうなんだ。」

 

 て言うか、ヴァリアーって能力さえ高ければ、どんな身分でも入れるんかい。

 

【てかさ、そんな昔の話なんかどうでもいいからさー。姫のこととか教えてくんね?

 戦闘能力とかは争奪戦中に知るから別に話さなくっていいけど、個人的なこととか教えてほしいんだよねー。】

 

「個人的なこと?」

 

【そ。好きなもんとか嫌いなもんとか?あと趣味とか、その他もろもろ。ほら、言ったじゃん。姫のこと気に入ったって。

 最初は女王だなんだって呼ばれてる生意気な女がいんなーって思ってムカついてたけど、会ってみたらおもしれーことばっかしてんだもん。

 オレさー。自分より生意気な奴が大っ嫌いなんだけど、姫は逆。見た目の割には思い切った行動するし、自分より体がデカくても関係ねー!って感じに挑むし、ころころ雰囲気とか話し方とか表情が変わるし、能力も十分過ぎるくらいに高いしで、生意気でムカつく女って感情より、面白い女って感情しか出てこないんだよな。】

 

 ・・・・・・まさか、自分が乙女ゲームや創作物みたいなおもしれー女シチュに巻き込まれるとは思わなかった。

 しかし、ベルから告げられる言葉には本心以外が含まれておらず、本当に気に入られているんだと改めて認識する。

 そんなにわたしはツボをつくようなことをしていたのか?と言う疑問が脳裏を過ぎる。

 けど、まぁ、マイナスな感情を抱かれるよりかはマシかもしれない。

 

「まさか、そんな風に言われるとは思わなかったよ。まぁ、人より好かれやすい自信はあるから、予想外というわけではないんだけどね。」

 

 そんなことを考えながらベルに言葉を返せば、再び笑い声が聞こえてくる。

 この子、少しだけ不思議な国のアリスに出てくるチェシャ猫味があるな・・・・・・不思議なカラーリングのしましま猫を思い出しながら、わたしは静かに口を開いた。

 

「私の個人的な話が聞きたいんだよね?その中でもどんな話が聞きたいのか、ベルがピックアップする形で言ってもらえる?

 あと、話すのは別に構わないけど、明日のこともあるから23時回ったら話を終わらせるからね。」

 

【23時?・・・・・・って、あと2時間しかねーじゃん!話せる時間短くね!?】

 

「私は十分だと思うけど?」

 

 電話越しにブーブー文句を言ってくるベル。こっちにも事情があるんだよと思いながらも、日本とイタリアの時差の話を出し、そっちが元気な理由はわかるけど、こっちはそっちが眠くなる時間まで話したら、間違いなく途中で寝落ちすると告げれば、渋々文句を言うのをやめてくれた。

 まぁ、納得はしてないみたいだから、別に王子は寝落ちとか気にしねーのに・・・・・・と呟いていたけど。

 

【ちぇ〜・・・・・・姫とのんびり話せると思ったから連絡先教えたってのに・・・・・・まぁ、いいや。そんじゃあ、姫の好きな食べもんって何?】

 

「私の好きな食べ物?そうだね・・・・・・甘いものは全般的に好きだけど、マシュマロが甘いものの中で一等好きかな。

 時点でフルーツタルト。甘いもの好きでも甘すぎるものは進んで食べることはしなくて、フルーツや素材の自然な甘さが好ましくてね。ベルは?」

 

【王子は寿司〜。今日、拠点にしてるホテルに帰る前に夕飯食って帰ろうって思って寿司屋行ったんだけど、それがめちゃくちゃ美味くてさ。】

 

「へぇ・・・・・・外国の人って、割と生魚を食べるのに最初は抵抗があるって聞いたけど、ベルは好きになったんだ?」

 

【まぁね〜。んじゃ次。姫の好きな飲み物って?】

 

「好きな飲み物・・・・・・色々あるけど、よく口にしているのはハニーミルクティーだね。蜂蜜入りの紅茶にミルクを加えて飲むのが好きなんだ。」

 

【へぇ〜。今度オレも飲んでみよ。オレはミルクが好きだな。まぁ、たまに当たり外れあるし、ハズレ引いたらまっず!ってなるけどさ。】

 

「あ〜・・・・・・その気持ちはわからなくもない。」

 

 わたしから連絡したことにより始まった互いの個人的な話を聞く時間が始まった。

 好きなことから趣味など、自身の能力の情報以外の話を行う時間は、ひどく穏やかなもので、相手が敵対者であり、暗殺者の人間であることすら忘れてしまう程のものだった。

 会話内容はまるで見合い中の男女のようだったけど、それなりに楽しめるものでもあって、さながら友人同士の会話のよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ܀ꕤ୭*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【・・・・・・てなわけで、今度日本で活動してる殺し屋ちょっと()るつもりなんだよねー。】

 

「随分と変わった趣味をしてるね、ベルは。殺し屋を殺すのが趣味って聞いたことないんだけど。」

 

【だって有名どころの殺し屋ってどんなもんか知りてーんだもん。】

 

「話を聞く限り、ベルに勝てるような殺し屋さん、ほとんど居ないような気がするんだけど。

 それこそ、リボーンみたいなビッグネームくらいじゃない?君に勝てるのって。」

 

【当然じゃん。だって王子は天才だもん。】

 

「自覚してる上で殺し屋殺しと言う名の圧倒的な技術による狩をしてるとか、逆にタチが悪いな。」

 

 あれからずっと、わたしはベルと電話でのんびりと話していた。

 形式としては、ベルから知りたい話を出してもらい、それにわたしが答えて、ベルが次に答えるの流れを維持したままで。

 今は趣味の話になっていた。それにより必然的に聞いたベルの趣味は、なかなかに血生臭いものだったけど。

 なんなんだ、一国の王子の趣味『ご当地殺し屋殺し』って。ベルはご当地で有名なら実力を確かめてみたいじゃんとか言ってるけど、彼の嫌いなものに自分より生意気な奴ってあったから、ご当地とは言え有名になってんの気に食わねーって私情も含まれてる気がしてならないんだけど。

 

【姫は色んな趣味持ってんね。多くの知識を蓄えることもそうだけど、メインはアクセサリー作りと菓子作りなんだって?】

 

「うん。知識に関しては勉強の延長線で後天的にやるようにやったものだけど、アクセサリー作りと菓子作りに関しては元から好きだっあ趣味。

 まぁ、母さんが独り身・・・・・・と言うか、父さんが世界中飛び回ってる門外顧問とか言う複雑な立場にあったせいで、ほとんどシングルマザー状態だったから、趣味にかける時間なんて最近までほとんどなかったけどね。」

 

 ベルの趣味にかなり引きながらも、言及されたわたしの趣味に関する話をする。

 すると、ベルは「ふぅん・・・」と相槌を打ったのち、しばらく無言になる。

 ・・・・・・少しだけ嫌な予感がするな。

 

【だったらさ、今度姫が作った菓子食べさせてくんね?あとアクセサリーも持ってきて。】

 

「なんでさ。」

 

 そして、わたしの嫌な予感は大当たりだった。

 サラッと告げられた要求に、思わず某運命に出てくる彼らのような言葉が反射的に出てしまう。

 この暗殺者王子、本当にマイペースだな。

 

【だって姫が作った菓子とかアクセサリー気になるもん。だから今度持ってきてよ。なんなら明日の夕方でもいいぜ?】

 

「明日早々に持ってこいは無理がある。持って行けても夜だよ。アクセサリーはともかく、お菓子を明日の夕方に持って行くのは今日の夕方から作っておかないといけないんだ。

 簡単なものでもそれなりに時間はかかるからね。まぁ、タルトやパイくらいならその日の朝に仕込んで夕方に完成させるって手もあるけど、どっちみち既存のパイ生地やらなんやらを使うことになるからグレードが下がる。」

 

 とりあえず、アクセサリーに関しては元々家にあるものを持って行けばなんとかなるけど、お菓子に関しては難しいことをベルに告げる。

 気になってくれたのはありがたいけど、誰かに食べさせるお菓子なら、簡易的な物は食べさせたくないんだよね。

 

【でも、姫の周りにいる奴らはみんなそれも食ってんだろ?】

 

「ゔ・・・・・・それは・・・まぁ・・・。」

 

【だったらオレもそれでいいから食ってみたい。】

 

「いや、でも、本当に簡単に作るものばっかだし、自分で食べるように作る程度のものだから流石に・・・・・・」

 

 特にベルは王族様だし、尚更適当なものなんて食べさせられないでしょーに・・・・・・。

 本人だって絶対舌肥えてるだろうから美味しくないって思うって。

 

【いいから簡単なもんでも作ってきて。王子の命令聞けねーの?】

 

「私は君の国の国民じゃないよ。」

 

【関係ねーっての。】

 

 お決まりのだってオレ王子だもんが聞こえる中、わたしは小さく溜め息を吐く。

 多分これ、持って行くって言うまで粘ってくる奴だ。

 

「・・・・・・本当に簡易的なものしか作って行けないからね?味の保証はしないから。」

 

【姫の手作り菓子食えるならなんでもいいって。まぁ、1番は味もいいモン持ってくることだけど。】

 

「全く・・・・・・困った王子様だね、ベルは。」

 

 呆れながらそう言うと、電話の向こう側がしん、と静まる。

 何度か瞬きをしたあと、「ベル?」と静かに呼びかけてみるが、無言だけが返ってきた。

 親フラならぬ同僚フラグでもあったのか?と疑問を浮かべていると、「あのさ・・・」と言う小さな呟きが聞こえてきた。

 

【もう一回言ってくんね?】

 

「何を?」

 

【さっきの困った〜のくだり。】

 

「?困った王子様だね、ベルは?」

 

【もう一回。次はベルはを抜きにして】

 

「???困った王子様・・・・・・?」

 

 言われるがままにベルから頼まれた言葉を口にすると、再び彼は無言になる。

 ・・・・・・何がやりたいんだこの王子様は。

 

【今度は姫の一人称をつけてから呼んでみてよ。王子様の前に一人称な。】

 

「・・・・・・困った私の王子様・・・・・・いや、うん。何言わせてんのベル?」

 

 明らかにこれ言われたかっただけだろとツッコミたくなる中、何言わせてるんだと呆れながら口にする。

 こっちが呆れてることは声音からわかってるはずだが、彼は気にしていないのか、上機嫌な笑い声を漏らしていた。

 

【姫にそう言われんのなかなかいい気分になれんね。もっとそう呼んでよ。】

 

「ベル〜?私、沢田家光が選出した10代目候補。そっち、9代目(を騙る誰かさん)が選出した10代目守護者候補。ようするに敵同士。わかってる?わかってるよね?」

 

 敵の自覚ないのかオタクと言わんばかりに、自分とベルの関係性を改めて口にする。

 いやホント、何言ってるんだこの人は。敵対者と仲良くしてなんの意味があるわけ?

 

【なーに言ってんの姫。いくら姫が強くても姫がボスに勝てるわけないじゃん。技術力があっても筋力差とかスタミナの差とか?そっち方面で姫が負ける可能性の方が高いってわけ。

 つまり、姫は10代目候補から外れて、そんで王子のとこに来るの確定してんの。

 姫の能力の高さとか、金銭面とか?あと容姿とか、色んな要因でこっち側から気に入られてる分、王子だけじゃなくてスクアーロとかルッスーリアとかマーモンとかも姫のことは買ってくれると思うし、姫をこっち側に入れんのも秒読みってわけよ。】

 

「ちょっとベルフェゴール!?なんで色々と確定してる風に言ってくるわけ!?確かにXANXUSさんが強いのはわかるけどわたしだって力つけてるんですけど!?」

 

 サラッと告げられた言葉に、とうとう怒鳴るようにツッコミを入れると、スピーカーの向こう側が静まり返る。

 でも、すぐに楽しげなベルの笑い声が聞こえてきた。

 

【へ〜、姫ってそんな反応もできるんだ?さっきまでの素がもっと砕けたみたいな?距離近い感じがするからそっちもいいじゃん。】

 

「こっちはツッコんでんの!怒鳴ってんの!!なんで楽しげにしてんの!?」

 

【え〜?だって仲良くなった感が強いんだもん♪】

 

 ししししと音符がついてるような雰囲気で笑っているベルに深く溜め息を吐く。

 うん。理解した。ベルは内藤とはまた別の次元でめんどくさい人だ!!なんでわたしの周りこんな・・・・・・いや、マフィアが癖あり過ぎるんだな絶対!!

 

「ナツキ!!今何時だと思ってるのですか!?もう直ぐ夜中の11時になるのですが!?」

 

「ほぎゃあ!?」

 

「・・・・・・って、なんて声を出してるのですかお前は。」

 

 そう思いながら、ベルに対して文句を言おうとしたところ、修行場所の近くにある屋敷の寝室の扉が勢いよく開き、そこから入ってきたDさんが母親よろしく怒鳴り込んできた。

 ベルとの電話に集中していたわたしは、Dさんの声を聞くまで彼の接近に気づけなかったせいで、間抜けな悲鳴をあげてしまう。

 その瞬間、呆れたようなツッコミを入れられた。解せぬ・・・・・・。

 

「おや・・・・・・?」

 

 バクバクと早くなった心臓の音と焦りにより顔を青くしていると、わたしの方へと近寄ってきたDさんがわたしの手元にある携帯電話を取り上げる。

 あ・・・と小さく声をこぼし、現状を思い出して慌てるも時すでに遅し。

 Dさんは、わたしから取り上げた携帯電話に記されている文字を見ては、何度か瞬きをした。

 

「・・・・・・誰と話しているのかと思えば、まさか、争奪戦の相手になるはずの男と話していたとは・・・・・・。随分と楽しそうでしたねぇ・・・・・・ナツキ?」

 

 口は笑っているのに目は笑っていないと言う典型的な黒い笑みを浮かべるDさんの姿にダラダラと冷や汗が流れ始める。

 

【は?なんで姫の携帯から男の声が聞こえてんだよ。姫の守護者の誰か?だったらさっさと姫に携帯返してくんね?オレが話したいのお前じゃないんだけど?】

 

 ベルがDさんに対して不機嫌な声音で話しかける。それを聞いたDさんは、携帯電話を見つめたのち、口元に笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

 

「私はナツキの守護者ではありませんよ。非常に残念ながらね。ですが、彼女と深く関わりがあり、尚且つ深い関係を持ち合わせているとは言えますが?」

 

【は?】

 

「ちょ!?何言ってんの!?」

 

 何やらとんでもないことを言い出したDさんにすかさずストップをかけようと言葉を紡ぎ、同時に携帯電話を取り返そうと手を伸ばす。

 だけどDさんは、伸ばされてきたわたしの手を逆に掴み上げ、わたしの直ぐ後ろにあったキングサイズのベッドの方へと引き倒した。

 必然的にDさんに押し倒されるカタチでベッドに転がされてしまったわたしは急いで起き上がろうとするが、先読みしていたらしいDさんが、幻術を使用して掴んでいない方の手に黒い薔薇が咲き乱れている装飾紐で拘束し、そのままベッドに縫いつけたかと思えば、こちらの上に跨り、さらに押し倒してきた。

 

「え?あれ?嫌な予感しかしないんだけど!?」

 

「大丈夫ですよ、ナツキ。お前が痛がるようなことを、私がするはずないのですから。」

 

 確かにされたことありませんけど!!と言うツッコミが口から出るより先に、Dさんはわたしの唇へとキスを落としてきた。

 その際に彼はベルと通話が繋がっているわたしの携帯電話のスピーカーボタンを押しており、先程まで耳に当てなくては聞こえなかったベルの声がハッキリと聞こえるようになる。

 どう考えてもわざと聞かせることを目的にした行動に、わたしは目を見開くが、彼が張り巡らせているジャミングにより、一時的に狂わされてしまっている骸との精神の繋がりに生じた隙へ、Dさんの精神パスがねじ込まれているせいで、動きが鈍重になってしまい、キスが深くなろうが抵抗できなくなる。

 あの一夜でわたしの弱い部分を把握してしまったらしいDさんは、こちらの力が抜けるのを確認すると同時に幻術による拘束を解き、そのままキスを続行した。

 

 わざと湿り気を帯びた音を立て、こちらが声を我慢しようとするのを許さないそれは、マイクを通してベルに届いているようで、彼が何かを言ってることはわかる。

 だけど、ハッキリとした言葉が聞き取れなくなっているのは、間違いなくわたしにキスをしてきている彼の仕業だろう。

 

 わずかに残る冷静な部分で現状を分析してみるが、最終的にあの夜にあった頭が白く塗り潰される感覚に襲われると同時に、思考が途切れる。

 それに気付いたのか、Dさんはゆっくりとわたしの口を塞ぐのをやめ、意識が蕩かされているわたしの額に唇を軽く触れさせた。

 Dさんの視線がわたしの瞳を真っ直ぐと射抜く。キスの時に流し込まれていた、どれだけわたしを愛しているのかを思い知らせるような甘い恋慕の熱に浮かされながらも、見つめ返した寒色の瞳には、流し込まれていた感情に負けないくらい甘い光が揺らいでいる。

 

【おい!聞いてんのかよ!?】

 

「ああ、申し訳ありません。まだ通話が繋がっていたようで。」

 

【はぁ!?お前、絶対わざと繋げたままにしてたよな!?】

 

「はて、なんのことやら。彼女との口付けに夢中になり過ぎてしまったようで、全く記憶にありませんね。」

 

【こんの・・・・・・!!】

 

「ああ、そうそう。あなたが話そうとしていたナツキですが、現在わたしに組み敷かれたまま完全に蕩けきっているので、こちらの通話は終了させてもらいますね。

 流石に彼女も、私以外の男にこれ以上甘い啼き声を聞かれたくないと思うので。」

 

【何言って・・・・・・】

 

 スピーカー越しにまだ何かを言おうとしていたベルのことなどお構いなしに、Dさんは通話終了ボタンを容赦なく押す。

 同時にわたしの携帯電話の電源も完全に切り、そのまま枕元に投げ捨てた。

 ベッドの上とは言え投げないでよ・・・・・・と考えてしまうが、それを言う前に、一度快楽に染められて脱力した状態を維持するかのように、キスの雨に降られてしまい、言葉を口にすることはできなかった。

 

「・・・・・・全く。お前は本当に周りに好かれやすい女王ですね。まさか、暗殺部隊の男まで引っかけてしまうとは。

 プリーモに負けず劣らずの人脈吸収体質ではありませんか。9代目も中々に人脈を吸収しますし、あの沢田家光も、ナツキ程ではありませんが、吸収していきますし・・・・・・遺伝体質なのでしょうか・・・・・・。

 性格は全くと言っていい程にプリーモとは異なるのですがね・・・・・・」

 

「ん・・・っ・・・知らないよぉ・・・・・・そんなの・・・・・・っ」

 

 唇だけで食むように、耳朶の方へとキスを落とされて、わたしは声を漏らしながら、ベルを引っかけた理由なんてわからないと返す。

 これに関しては本気でそう思っているのだ。通話をしている間に、ベルからは確かな好意を感じ取ることができた。

 正直言って、彼は目元が見えないし、さっきのも電話越しだったから、その好意がどう言う好意なのかまでは定かではない。

 でも、声音からして好かれていることは間違いない・・・・・・けど、なんで好意に変化したのかはわからないのだ。

 

「能力が高いのも理解してるし、Dさんや骸に残されたいくつもの記憶の影響で、XANXUSさんや、スクアーロさんのような人からの殺気に怯むことも無くなった。

 レヴィ・ア・タンのような人と顔を合わせても、Dさんや、骸、わたしの側にいるって言ってくれるファミリーがいるからああやって接触することもできるようになった。

 それに、わたしが嫌な記憶を思い出さないようにって、Dさんが精神のカバーをしてくれたよね?」

 

 わたしの言葉に、Dさんが驚いたように目を丸くする。しかし、直ぐにいつもの笑みを浮かべたのち、どうしてそう思ったのか聞いてきた。

 

「自身の精神が精神世界に飲み込まれて、霧に包まれるような気配はなかったから、Dさんが憑依したわけじゃないのはわかってた。

 でも、彼らと対峙していた時、自分の精神が誰かに抱きしめられているような感覚があった。包まれているような感覚があった。同時に、Dさんの気配と温もりをその時に強く感じ取れた。」

 

 “あれは、Dさんが精神を守ってくれていた証拠だよね?”と静かに問いかけてみると、彼は何度か瞬きをしたあと、普段の笑みとは全く違う穏やかな笑みを浮かべて頭を撫でてきた。

 

「・・・・・・御名答。よくわかりましたね。流石は私のナツキです。」

 

「わたしは、Dさんのものじゃないよ・・・・・・。」

 

 紡がれた言葉に軽く言い返しながらも、わたしはベッドに押し倒した体勢で動かないDさんを見つめる。

 わたしの視線に気づいたDさんは、穏やかな笑みを崩すことなく目を閉じて、唇へと触れるだけのキスをした。

 同時に、わたしの上から退いた彼は、軽々とわたしを抱き上げたあと、体勢を変えて布団に転がし、そのまま布団を被せてくる。

 

「でも・・・・・・やっぱり、Dさんが守ってくれたから、わたしはあんな風に彼らへと対応することができたに過ぎないから、自分の力かと言われたら全然違うと思う。

 だって、Dさんや骸が精神を保護してくれなかったら、あの時のわたしは絶対に動けなくなってるもん。

 だから、なんで好かれたのか全くわからないんだ・・・。わたしの力だけじゃ、どうにもできなかったから。」

 

 そんなDさんに、ベルやヴァリアーに気に入られたのは自分の力によるものではなく、咄嗟にわたしを守ってくれたDさんのおかげで動けたことにあることや、Dさん達の協力がなかった場合の自分自身を想像したことにより出てきた確かな恐怖と嫌悪感に軽く震えながら、彼らに気に入られた理由がわからないと明かすとDさんはわたしの頭を優しく撫で始める。

 

 緩やかに頭を撫でてくる手の温もりを感じると同時に、自身の精神も穏やかな暖かさを持ち合わせている何かに包まれているような感覚に陥る。

 少しだけ探ってみれば、それはDさんの精神干渉により発生したものだと把握することができた。

 しかし、様々なことが理解できた頭は、次第に鈍くなっていき、抗いがたい眠気に襲われる。

 あ、眠らされる・・・・・・一瞬だけ過った答えは、直ぐに深い霧に包まれるかのように消えていき、わたし自身の意識も少しずつ遠のいていく。

 まだ、他にもやらないといけないことが・・・・・・なんとか眠らないようにしようとしても、わたしも、わたし自身の精神も、両目を大きな手で覆われてしまい、強制的に目蓋を閉ざされる。

 

「自分だけでは何もできないのは当たり前なのですから、別に恥ずべきことではありませんよ、ナツキ。

 言ったでしょう?必ず私がお前を立派な女王へと導くと。それは、お前を守ると言う意味でもあったのですよ?

 それに、今の私には、目の前にいる女王のたまごが優秀だから守り、育て上げると言う感情以上に、本気で愛しいと思える新たな恋慕を、新たな愛する対象を守りたいと言う想いが強いのです。

 だから、自分だけでは何もできないことや、恐怖に駆られて動けなくなってしまうことは気にする必要はありません。

 お前は私に守られておけばいいのです。寄り添われておけばいいのです。まぁ、時には自らボスとして判断を下すことも、自ら立ち向かうことも必要ではありますが、それ以外の時は、私に守られていてください。私に守らせてください。」

 

 懇願するような声音に、少しだけ軽くなった眠気に耐えながら、両目を覆っている大きな手を、そっと外してDさんに視線を向ける。

 わたしが目を開けてしまったことに、Dさんは少しだけ目を丸くしたが、直ぐに困ったように笑って、優しく目元を指の腹で撫でてくる。

 

「本来ならば、お前を守るためにある六道骸の繋がりにジャミングをして、嘘偽りの情報共有が行われてしまっているのは、彼が羨ましいからと言う勝手な私の嫉妬心によるものです。

 私だってナツキの精神を守ることができるのだから、お前は邪魔だと言う感情からの嫌がらせのようなものですからね。

 ですが、それだけ私はナツキを守りたいのです。もう二度と、私は私の手元から、私の愛する人の命を取り零したくありません。」

 

 エレナさんに対する想いは親愛へとすでに変化してしまった。

 しかし、あの時に刻まれた鮮明なまでの絶望と悲哀は、目の前にいる彼の心に深く傷を負わせてしまっている。

 彼にとっては、愛しい人を失う恐怖が明確なトラウマとなって渦巻いており、それにより感情は捩れに拗れて、今の想いへと変わっている。

 確かな悲しみと、強い罪悪感・・・・・・今の彼の瞳からは、それがハッキリと感じ取れた。

 悲しみは失ってしまった一度目の愛に対するもので、罪悪感は、想いに区切りをついているにも関わらず、未だに忘れることができないかつての愛に対する後悔とトラウマを少しでも癒すための代替え品のような扱いをしてしまう今の愛に対するもののようだった。

 

 正直言って、それに対してわたしは何かを言うつもりはない。彼の記憶を知っているからこそ、深い悲しみも絶望も少なからず理解できるから。

 でも、少しだけ気分が良くない自分もいるんだ。かつての過去を思い出してしまうから。

 きっと、Dさんもそれを理解している。理解している上で、どうしても重ねてしまったり、縋ってしまう自分がいるから、罪悪感を抱いている。

 そんな彼に、わたしができることは・・・・・・

 

「・・・・・・このせかいにいるいじょう、わたしはあなたのまえからぜったいにいなくならない・・・・・・とはいいきれない。

 どうあがいても・・・・・・このせかいは・・・せいとしがとなりあっているせかいだから・・・・・・」

 

 あなたの前から絶対に消えたりしない。寿命以外で死ぬつもりはない・・・・・・なんて無責任な言葉は言うことができない。

 絶対なんてものは世の中に存在しているはずもなく、どうしても不測の事態や突然の不幸に見舞われてしまうことだってある。

 それは、マフィアとか一般とか関係なしに等しく起こり得ることだから、明日死ぬかもしれないし、まだまだ死なないのかもしれない。

 老衰で穏やかにこの世を去れるかもしれないし、急な病に伏せてしまい、そのまま帰らぬ人になるかもしれない。

 日常生活を過ごしながら、平和な毎日を歩き続けるかもしれないし、急な事故に見舞われて、命を失ってしまうかもしれない。

 果てには・・・・・・自ら命を断つことにより、自身の終わりを決めてしまうかもしれない。

 だからこそ、気休めのための絶対ではなく、今、口にできる精一杯の一つの願いを・・・

 

「わたしだって・・・・・・ほんとうは・・・たくさんのふあんをかかえてる・・・たくさんのきょうふをかんじてる・・・。

 わたしもおなじだったから・・・。たいせつなかぞくを・・・あいしていたひとたちを・・・・・・りょうてからとりこぼしてなくしてしまったから・・・。

 こんかいのたたかいだって・・・へたしたらたいせつをうしなうかもしれない・・・・・・それだけあぶないせかいだもん・・・。」

 

 今の彼に告げられる、今のわたしなりの精一杯のワガママを・・・

 

「だから・・・ね・・・?わたしのてを・・・はなさないで・・・。わたしのことを・・・あなたがあんしんするまでだきしめていてもいいから・・・。あなたも・・・わたしのたいせつなひとだから・・・・・・。

 かこをわすれることはできない・・・・・・つらいことだといつまでもきおくにこびりつく・・・。

 だからね・・・わすれなくていいよ・・・。かかえていていいよ・・・。きもちがおちつくまで・・・かさねてくれてもいいよ・・・・・・。

 だって・・・いまのわたしには・・・たくさんわたしをみてくれるひとがいるから・・・ひとりくらいかさねてしまうひとがいてもきにならない・・・」

 

 忘れなくていいから。抱えたままでも構わないから。いつか・・・

 

「でも・・・・・・いつか・・・・・・ほんとうのいみでくぎりをつけることができたなら・・・・・・わたしだけを・・・・・・みてほしいなぁ・・・・・・」

 

 いつか、本当の意味でわたしだけを見てくれたら、それでいいよ。

 わたしは、見られなくなるのが1番怖いの。桜奈のわたしがそうだったから。だからわたしを見ていてほしいの。

 でもね。大切な宝物を失ってしまった辛さもわかるんだ。どうしても面影を探しちゃう気持ちもわかるんだ。

 あの時ああしておけばよかったって、わたしも沢山後悔したし、絶望だって沢山したから。

 それに耐えきれなくなって、わたしも2人の後を追ったんだよ。結局、2人には会えなかったけど。

 だけど、違う出会いがあった。新しい温もりがそこにはあった。眩しいくらいの沢山の愛が、この世界には沢山あった。

 でも、やっぱりわたしって欲張りだから、もっともっとほしいって思うの。

 大切な人からの愛情は・・・好きだなって思う人からの愛情は・・・どうしてもちょうだいって手を伸ばしちゃうの。

 

「いまはね・・・たまにかこをかさねちゃってもいいの・・・。でも・・・いつかそのこうかいと・・・・・こころのきずがなおったときは・・・・・・」

 

 “過去が混ざった感情じゃなくて、現在(いま)を彩るために溢れたあなたの愛をちょうだい”・・・・・・最後に出てきた本音だけは、繋がりを通してDさんに伝え、わたしは抗いきれなくなった眠気に従うように目を閉じる。

 目を閉じる時、驚いたようなDさんの表情が見えたけど、それに対する言葉を紡ぐことはできず、わたしはそのまま眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・全く、この子は本当に、突拍子もないことを言い出しますね。」

 

 聞こえてきた寝息に何度か瞬きを繰り返したのち、穏やかに笑ったD・スペードは、眠る手前に告げられた上、自身の方へと流し込まれた最後の本音に、嬉しさを帯びた声音を漏らしながらも、頭の中で反芻する。

 彼女が口にした言葉は、全て今の彼の感情を言い当てたものであり、最後の言葉は、彼に前を向かせるための確かな言葉になっていた。

 

 想いに区切りをつけていても、消えることがない失ってしまうことへの恐怖は、今でも彼の記憶と心に焼き付いてしまっており、今を生きる想い人をどうしてもその恐怖を埋めるための代替え品にしてしまう自分自身がいて、それに気づく度に彼は自身に対する嫌悪感と、腕の中で眠りに落ちている穏やかな少女に対する罪悪感を抱いてしまっていた。

 だけど、彼の腕の中にいる今を生きる1人の少女は、その想いすら肯定する言葉を紡いだ。

 そして、ただ肯定するだけではなく、いつかと言う言葉を交えながら、自身の望みと本音を告げた。

 

 それは、過去をどうしても忘れることができない彼に対する一つの応援だった。

 心の傷は、いつ治るものかわからない。だからこそ早くと言う言葉は使わずに、いつかと言う見えない期限を作り、傷を癒すために療養してほしいと、自身を利用しても構わないから、ゆっくりでもいいから治していこうと言うものだった。

 

 最後に流れてきた渇愛の本音は、ずっと愛を渇望し続けていた彼女なりの治療費請求のようなものかもしれない・・・・・・一瞬過った思考に、Dは思わず吹き出して、眠ってしまった少女を起こさぬように、声を殺して静かに笑う。

 この子ならばあり得そうだと思いながら、優しくその頭を撫でた。

 

「・・・・・・ありがとうございます、サクナ。重ねられる過去に苦しみを抱いているにも関わらず、重ねてしまう私のことを肯定してくれて。

 ええ。時間はかかりそうですが、ちゃんと前を向けるように私も歩いてみます。

 だから、もう少しだけ過去とお前を重ねさせてください。区切りをつけることができたその時は・・・・・・」

 

 “私の全てをお前にあげますから”・・・・・・。

 静寂に溶けるように消え誓いの言葉は、眠りに落ちている少女には届かない。

 だが、Dは今はそれで構わないと思っていた。未だに癒えぬ傷がある以上、どれだけ本心からそう思っていても重ねる自分に気づいている彼女には届かないとわかっていたから。

 だからこそ、今は眠りに落ちる彼女に届かぬ言葉を静かに紡ぎ、Dは優しく小柄なその体を抱きしめて眠りに落ちる。

 いつかの傷が癒えた時、目の前にいる2つの心を持ち合わせている少女へと、抱いている想いの全てを届けることができる日を夢に見て。

 

 

 

 




 沢田 奈月
 実はヴァリアーと対峙していた時、側にいたDによりその精神を守られていたことから恐怖心による行動不能を引き起こしていなかった貝の女王。
 Dが自身とエレナを重ねていることがあることに気づいていたため少しだけ苦しさを抱いていたが、誰かに重ねるわけではなく、確かに自分と言う存在を見てくれている人々に多く恵まれた現状により、それに対する嫌悪感はかなり薄れていた。
 だけど自身が好きだと思ってる人の愛情には手を伸ばしてしまう渇愛は完全に焼き付いている性質のため、いつかは自分だけに向ける愛情を彼にも与えて欲しいと思っている部分がある。

 D・スペード
 実はヴァリアーと対峙していた時、奈月の精神のカバーを行っていた始まりの霧。
 エレナに対する恋慕は確かに親愛に落ち着いていたのだが、かつての絶望と悲哀の記憶は明確なトラウマとなってしまっているせいで、無意識に奈月にそれを重ねる自身も存在していて自己嫌悪を持ち合わせていた。
 しかし、奈月から告げられた肯定の言葉や、利用してもいいと言う言葉のおかげで救われる。
 彼女の本来の名前である桜奈の名前を知っていたのは、繋がりが強くなっている今、彼女の記憶を覗くことができたことによるものだが、彼女から言われるまでは、彼女に届かないところで紡ぐ。

 ベルフェゴール
 奈月を気に入っている暗殺部隊の青年。
 彼女が口にした私の王子様と言う言葉にグッときてしまった。
 彼女と話しているとすごく楽しいし、彼女の趣味にも興味があるので要求した。
 話してる途中で男が乱入してくるわ、奈月はキスされているわでかなりの苛立ちを見せていた。
 奈月をヴァリアー入りさせたいと本気で思ってる。

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