最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい 作:時長凜祢@二次創作主力垢
「ん?三郎のやつ、どこに行くつもりだ?」
「標的はあっちだぞ!?なんで反対側に移動してやがる!?」
それは唐突に訪れた異変。自分達を犯罪3兄弟だと豪語し、多くの人から金を奪い、生活していた3人組のうち、末弟たる青年に起きたものである。
この日、3兄弟は先日サイフを奪った1人の主婦を再び街中で見かけたため、同じくその金を奪おうとしていた。
だが、そのために動いた末弟三郎は、なぜか主婦とは全く違う方向へと足を進めていた。
まるで何かに引き付けられていくように、ふらふら、ふらふらとどこかへと移動していたのである。
一部始終を見ていた残りの2人は、あまりにもその行動が異常に見えており、冷や汗を流し始めた。
「おい、誰も反応してないぞ!?明らかに挙動がおかしくなっている人間が街中にいるってのに、全然気にしていない!!」
「気にしていないどころか、まるでそんなものはいないとでも言うかのように、日常生活を送っている。いったい何が起こったんだ!?」
犯罪3兄弟の長男、一郎と、次男の二郎は慌てて先程の主婦の方へと目を向ける。
子供4人と女性1人、計5人に囲まれながら、賑やかな日常を送っているその主婦は、相変わらず3人の子供と1人の女性の4人に話しかけられながら、間抜けな笑顔を見せている。
どこかその主婦と似ている1人の少女が呆れたような様子を見ているが、たまに4人に注意するように言葉を紡いでは、それをスルーされているのか頭を抱えてため息を吐いていること以外、特に変わった様子はない。
1人だけおかしな様子を見せている青年がいると言うのに、変わらない生活を送っている一般人達。
その異常性ある景色に、2人は顔を青くする。しかし、その間もどこかへと行こうとしている末弟の姿に気づいては、急いで今いる喫茶店の席から立ち上がった。
「急ぐぞ二郎!三郎の様子は明らかに異常だ!!カモ女はあとでいい!!三郎を追いかけるぞ!!」
「ああ!!チッ!!三郎のやつ何があったんだ……!!」
バタバタと慌てて末弟を追いかける一郎と二郎。喫茶店から慌てて飛び出していくその2人を見ていたのは、琥珀の双眸を持ち合わせている1人の少女のみだった。
「……ヌフフフ……引っかかってくれましたね。では、ちょっとしたお仕置きタイムの開始……ですかね。」
それを見た少女は不敵に笑い、自身の制服から携帯電話を取り出すように振る舞う。
そして、手にした携帯を開き、しばらくの間画面を見つめたあと、驚いたような様子を見せる。
「どうしたの、なっちゃん?」
「ごめん、母さん!ちょっと用事思い出した!!リボーン達もいるし、多分大丈夫だと思うから、私はそっちの用事を済ませてくるよ!」
「あら、そうなの?じゃあ、早く行ってらっしゃい。」
「ん。またあとでね。」
周りに違和感を抱かれないように、自然な流れで離脱する大空の子供の有幻覚。
1人の術士の力も合わさり、増幅された霧の力は、最強の赤ん坊とされている存在の感覚すらも誤魔化して、本当に彼女が途中で離脱したかのように錯覚させる。
「……想定以上の力ですね。おそらく、プリーモの血の影響がなければ、普通に霧としてもやっていけたかもしれません。
まぁ、別に私には関係ありませんが。必要ならば利用する……それに足る存在だったとのことです。
さて、ナツキと考えた作戦は既に佳境に入りました。盗むことに対するトラウマを植え付けることで、これから先、それをしようとする度に悪夢を見てしまう程の荒療治を……とのことですが、まぁいいでしょう。」
しばらく有幻覚を走らせて、かなり離れた場所まで移動させた傀儡の少女に伸ばされたのは、1人の男性の片手。
その手が少女に触れた瞬間、霧で形作られていたそれは、文字通りにその場で霧散し、1人の男性のみがその場に残る。
「全く……どうにかして早期解決したいけど、それに幻術は使えないか……などと言われるとは思いませんでしたね。
しかも、トラウマレベルになるくらいには、かなりの嫌がらせをしたいとは……。
それだけ母親が大切なのか……それとも、これまで繰り返してきたであろう犯罪の精算でもさせるつもりなのか。」
そんなことを呟きながら、男性は犯罪3兄弟を追うように、ゆっくりとした足取りで歩き始める。
向かっているその先で、復路のネズミ状態になっているであろう3兄弟をさらに追い込むために。
「まぁ、幻術の制御を学ばせるいい機会ではありますので、それなりに協力はしてあげましょう。
一応あなたは私の弟子な訳ですし、少しくらいは手を貸してあげると言うのもまた一興。」
男性の姿が霧に包まれ、再び大空の子供の姿へと変化する。その口元には、本来の少女が浮かべることがない、不敵な笑みが浮かび上がっていた。
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「は?ここはどこだ?」
まるで街灯に惹きつけられる虫のように、ふらふらと主婦の方向とは別の方角へと歩いていた三郎が、かすみがかっていた意識をハッキリさせた頃、己が明らかに知らない場所に足を運んでいたことに気がつく。
それは、木々が生い茂る山の中。明らかに街とはかけ離れた場所にいたそこに気づき、彼は混乱したように言葉を紡ぐ。
しかし、不意に視界に入り込んだ自身の腕、その異変が視界に映り込み、彼は顔を青くした。
三郎が視界に映した自身の腕……その異変とは、不気味な目が一つ、まるで睨め付けるかのように自身の方へと向いていると言うものだった。
「ヒィッ!?な、なんだよこれ!?なんでオレの腕に目が……」
そこまで口にした瞬間、それに呼応するかのように、目蓋が現れて静かに開く。
しかも、それは少しずつ自身の腕に広がっていき、徐々にその数を増やしていく。
「まだまだ妖とかが信じられていた時代、スリを働けば働く程、その力を強くし、宿主を飲み込む寄生型の妖がいたと言う話があった。
その妖の名前は百々目鬼……一説によると、スリを働いた人間の罪悪感に反応する……と聞いたけど、どうやらそうじゃないらしい。
女しかいないとも聞いた覚えがあったけど……もしかして、髪が長いから女に間違われたのかな。」
自身のみに何が起こったのかわからず、ただ顔を青くし、浮かび上がる目を消そうとする中、辺りに少女の声が響く。
弾かれたように声の方へと目を向けてみれば、そこには先程彼がカモにしようとしていた主婦の側にいた1人の少女の姿があった。
「な!?お前は……!!」
「どうも。スリをしていたおじさん。随分とおじさん、いろんな人からサイフを盗んでいたみたいだね。」
少女は口元に笑みを浮かべたまま、三郎のことを見つめる。
しかし、その目は明らかに一般人でもわかるほど冷めたものとなっており、三郎はその背中に寒気を覚える。
「しかも、私の母さんのサイフまで盗ったらしいじゃないか。よくもまぁ、育ち盛りの子供を持つ親のサイフを盗めたものだね。」
愛らしく首をこてんと傾げるが、その愛らしさとは裏腹に、表情が明らかに釣り合わない。
その不気味さに三郎は冷や汗を流しながらも、口を開く。
「っ……!そんなもん盗られる方が悪いんだろ!?無防備にヘラヘラ笑って隙だらけだから盗られんだよ!オレはそんな間抜けに警告を……」
「あ、ほらほら。手を見てみなよ。どんどん目が増えてるけど?」
明るい声音でそう指摘してくる少女に驚き、三郎は自身の腕に視線を落とす。
その瞬間彼の両腕は、次々と目蓋を開いて自身へと目を向け始めた。同時に聞こえてきたのは返せと言う言葉の繰り返し。
「ぎ……ギャアアアア!!!!」
頭に響くようなそれを聞き、三郎は大きな悲鳴をあげる。
「「三郎!!?」」
「に、兄ちゃん……たすけ………!!」
それを聞いたらしい自身の兄弟達の声に、三郎は助けを求めるように声を出す。
しかし、その声が彼らに届く前に、三郎の意識はプツンと切れた。彼が最後に見たのは、ほのかに光を帯びたスペードマークだった。
「ヌフフフ……。さぁ、次はどのような悪戯をしましょうか?」
糸が切れたマリオネットのように崩れ落ちた三郎。それを見つめていた琥珀の瞳を持つ少女は、不敵な笑みを浮かべ、その片割れにスペードマークを浮かべていた。
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「クソッ!!今こっちの方で三郎の声が聞こえてきたと思ったんだが……」
おかしな挙動を見せ、ふらふらと山の中へと入り込んだ三郎。それを追うように山へと入り込んだ犯罪3兄弟の次男、二郎は、舌打ちをしながら辺りを見渡す。
その場にあるのは生い茂る木々のみ。確かに聞こえたはずの三郎の声を頼りにここまできたのだが、その姿すら見当たらない。
「兄貴!そっちは!?」
これじゃあ埒があかないとおもい、二郎は一緒に森へと足を運んだ自身の兄、一郎へと声をかける。
しかし、その声に反応する者は、誰1人としていなかった。
「………兄貴……?」
おかしいと思い、二郎は周りへと視線を巡らせる。しかし、そこに兄の姿はなく、この場には二郎のみが存在している状態だった。
「兄貴!?おい、兄貴!!どこに行ったんだ!?三郎もどこにいるんだよ!?」
慌てて二郎は声を荒げるが、それに反応する声は一つもない。
いったい何が……冷や汗を流し、寒気のするような現状に頭を混乱させる中、彼は、視界に映る景色が一変していることに気づく。
「霧……?なんで霧なんかが広がって……」
その時、パキンとまるで陶器が壊れるような音が鼓膜を揺らす。急に聞こえたその音に、二郎はビクッと肩を震わせた。
同時に、自身の左手の指先から感覚が失われていることに気づく。
「ヒッ……ヒィイイッ!!?」
自身の片手からなくなった感覚がそのせいであると理解した二郎は、情けない悲鳴をその場であげる。
その間も彼の手には一つ、また一つとヒビが増えており、今にも壊れてしまいそうな状態だった。
「どっかで聞いたことがあるけど、心を込めて作られたものって、魂が宿ることがあるらしいね。そんで、大切にすれば大切にする度にその魂は喜んで、長らく大事にされていれば、完全に付喪神となって持ち主を守ることもあるんだとか。
でも、それって逆説的に、大切にしなければしない程、その魂は消滅するか、怒るかのどちらかになるとも考えられる。
いわくつきの道具とか、いわくつきの人形を持っていた人が、悪夢に苦しめられたり変な死に方をしたりするのって、もしかしたらその魂のせいだったりするのかな。」
「!!?」
自身の身に何が起こっているのかわからず、混乱に混乱を重ね、動けなくなっていた二郎の鼓膜に、少女と思わしき声が届く。
顔を青くしながら二郎が顔を上げてみれば、そこには三郎がサイフをスろうとした主婦の側にいた琥珀色の瞳を持つ少女が、木の枝の上にちょこんと座り、両足をぶらぶらと揺らしていた。
「な!?あの間抜けな主婦の側にいたガキ!?」
「人の母親に対して随分な言い草だな。人間をカモかそれ以外としか見てないんだ?そんなことを口にするから、悪いモノを引き寄せたんじゃないの?ほらほら、また腕が少し壊れてるよ。」
「ヒイイイ!?すみませんすみませんすみませんすみません!!」
淡々とした口調で指摘の言葉を口にする少女に、二郎は無我夢中でさ謝罪の言葉を紡ぐ。
だが、その謝罪など聞き入れないと言わんばかりに、二郎の腕は少しずつ崩れており、カケラが地面へと崩れていく度に、少し、また少しと感覚が擦り減っていく。
「あんたのこと少し調べたよ。どうやら、タチの悪い当たり屋をしては、その度に金を巻き上げていたらしいじゃないか。
そんなくだらないことのためだけに、いったいどれだけの人の想いを無碍にしたわけ?
ツボってさ、一つ一つ作り上げるためにどれくらいの時間がかかってるかわかる?
大した金額じゃないモノだとしても、それに注がれた想いや心、製作者が流したたくさんの汗とたくさんの時間が込められているのに、それを毎回壊しまくって、呪われてもおかしくない状態を自分で作ってるってわかってんの?」
少女が指摘の言葉を紡ぐ度に、二郎の腕に発生していたひび割れは急速に崩れ落ちていく。
それに倣うかのように、感覚も次々と失われていき、とうとう二郎は涙を流し始めてしまった。
「も!!もうしません!!もうしませんから!!た、たすけ……」
「……許さないってさ。」
必死の謝罪を行う二郎。だが、その謝罪と助けを求める手は、少女の言葉にバッサリと切り捨てられる。
同時に先程まであった地面が一気に崩れ去り始める。その底にあるのは固い岩肌のような大地。
「ギャアアアアアアアア!!!!」
地面が崩れたことにより、そこへと真っ逆さまに落ちていく二郎は絶叫をあげる。
助けを求めるように彼は琥珀色の少女へと手を伸ばすが、その少女の体は霧により覆われ、それがふわりと晴れた時には、寒色をまとった、自身を冷めた目で見下してくる男の姿へと変化していた。
その姿に目を見開いた二郎は、その青年が自身を助けるつもりなど毛頭もないことを悟り、絶望したような表情を浮かべる。
同時に感じた大地に自身が叩きつけられるような感覚と、陶磁器が壊れる際に鳴り響く破壊音が脳内に響き、そのまま二郎は意識を失った。
彼もまた、意識が途切れるその寸前、ほのかに光を帯びたスペードマークを網膜に焼き付けた。
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「二郎!?何があった!?」
何故か遠くの方で聞こえた兄弟の悲鳴に、犯罪3兄弟の兄、一郎は怒鳴るように声をかける。
しかし、彼の声に応える声は一つも存在しておらず、異常な光景に冷や汗を流す。
「くっ……この山はなんなんだ?辺りに霧が立ち込めているせいで方向感覚が狂わされる……っ」
いつのまにか辺りに広がっている深い霧。本来ならば、冬場に発生することがあるはずのそれが、この山に広がっていることに疑問は覚える。
だが、その疑問に答える声も辺りには存在していない。一郎は、完全に山の中で孤立していた。
そんな中、不意に頬に確かな痛みが走る。急なことに驚いた一郎は、一瞬だけ固まったのち、自身の頬に手を伸ばした。
すると、自身の手が僅かに濡れていることに気づく。おそるおそるその手を確認すると、そこには赤い液体が付着していた。
それが血であることを理解するのに、一郎はそこまでじかを有さなかった。
「な!?なぜ血が手に……っ」
その瞬間、何かが風邪を切るような音が辺りに響く。流れ出ている自身の血により、顔を青くしていた一郎は、悲鳴を上げながらその音を躱した。
「だ、誰だ!?誰がそこにいるんだ!?こ、ここ、こんなことをしてタダで済むと……っ」
腰を抜かしながらも威嚇をするように声を張り上げる一郎。だが、それに対する声は、返事とは全く違うモノだった。
彼の言葉に対して返ってきたものは、まるで呪詛のように響き渡る返せの声に許さないなどの、一郎を責める声だった。
その声は徐々に徐々に大きくなり、さらには増えて反響する。同時にその恨みと怒りがこもったが強くなる度に、一つ、また一つと彼の体には切り傷が生まれ、痛みも激しいものとなる。
「ギ、ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
痛みと一緒に頭に響く怨嗟の声に、一郎はとうとう大きな悲鳴をあげて、山の奥の方へと逃げ出してしまう。
「詐欺をしていた男には、なかなか良い薬となるでしょう。薬というには、少々精神に作用し過ぎるでしょうがね。
せいぜい逃げ惑えばいい。まぁ、どうせ、ナツキの力に私の力をかなり上乗せしたこの幻術から、逃げ出せるはずもないのですが。」
その姿を見送りながら、1人の少女はポツリと呟く。
彼女の双眸となっている琥珀色の瞳は、冷めきったような光を宿していた。
「さて、そろそろフィナーレといきましょうか。まぁ、勝手に終わってくれるような気もしますがね。」
言葉を紡ぎ終わると同時に、少女の姿は霧に包まれる。そして、寒色を纏う青年の姿へとその身を変貌させ、手元に自身が愛用している大鎌を出現させた。
「探していたご兄弟と会わせてあげますよ。もっとも……私達の幻術の中では、いつもの姿とは遥かに違うものとなりますがね。」
手にした大鎌を触媒として、青年は幻術の効果を変化させる。
その果てに犯罪3兄弟の長男、一郎が目の当たりにすることになるであろう兄弟の姿に、不敵な笑みを浮かべながら。
─────……同時刻。
命の危機を感じ、逃げ出していた一郎は、前方の方に見慣れた姿を捉える。
それは、紛れもなく自身が探していた弟達の姿であり、一郎は安堵の息を吐いた。
「二郎!三郎!探したぞ!!この山はおかしい!!早くこの場から撤収するぞ!!」
情けない弟達であれ、1人でいるよりは何倍もマシ。そう思った一郎は、すぐに2人の弟と合流し、今いる山を出るように促す。
だが、2人の弟はどう言うわけか動こうとしない。俯いたまま、その場に立ち尽くしている。
「おい?二郎?三郎?何をボーっとしてるんだ?早く山を出るぞ。明日また出直しだ。」
「…………兄ちゃん……」
どうして動こうとしない?疑問を浮かべながら、再び弟達に声をかける一郎。
すると、しばらくの間無言だった三郎が静かに口を開いた。
「もう……やめようよ……。確かに、これまでたくさん金を稼ぐことができたけど、オレ、もうやりたくないよ。」
「は?何を言って……」
「兄貴……オレも同感だ。もう……これ以上人を騙して金を奪うのはやめようぜ……」
「二郎まで何を言っているんだ!?今までそんなこと言わなかっただろ…………っ!!!?」
弟達から口にされたやめたいと言う言葉。一郎は何を言っているんだと2人に食ってかかったが、程なくして言葉を失った。
三郎の姿をしているモノには、身体中にびっしりと大量の目が浮かび上がり、二郎の姿をしているモノは、まるで壊れた陶器のように、身体中に割れたかのような損傷があったのである。
「ヒ……ヒイイイイイイイ!!?」
現実では絶対に起こり得ないはずの状況。だが、一郎の頭は何かに支配されているかのように、それが現実であると警告している。
「じ、二郎!?三郎!?いったい何が起こって!?何がどうしてこうなったんだ!?」
叫ぶように吐き出した疑問。しかし、それに答えたのは二郎と三郎ではなく、全く違う第三者の声だった。
「何がどうしてこうなったか?そんなの、おじさんがこれまでずっと弟さん達も巻き込んで、たくさんの犯罪を起こしたからに決まってるじゃん。」
「!!?」
聞こえてきたのは第三者の少女の声。驚いて声の方へと目を向けてみれば、そこには琥珀色の少女が立っており、その片手には身の丈はあるであろう大鎌が握りしめられていた。
あまりにも大きなそれにより、恐怖に飲まれた一郎は、その少女がターゲットにしていた主婦の側にいた子供の1人であることに気づかず、ガタガタと身体を震わせながら、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、言葉にならない声を口にする。
「詐欺に当たり屋、そしてスリ……随分とご兄弟仲良く金にまつわる犯罪を犯していたようですね。ほらほら、あなたの被害にあった人々が、慟哭をあげてますよ。」
目の前にいた少女が不敵な笑みを浮かべた瞬間、霧のように消えていく。
同時に聞こえてきたのは、先程一郎が嫌と言う程に聞いていた怒りの声。
だが、先程と違い、彼の側にいた、明らかにおかしい彼の弟達からも責めるような声が発せられ……
「あ……ああ……ああああああああああああああ!!!!」
発狂するようにその場で叫び声をあげ、逃げ惑うように足を動かすが、責めるような声は消えることはない。
それを見据えながら、琥珀色の少女は、寒色の青年へと姿を変え……
「私がいた時代にも、詐欺まがいなことをするような悪徳の貴族がいましたし、そいつらも弱者に手を出しては、その度に弱者を見ては嘲笑っていたものです。
まぁ、あちらの方が悪辣な気もしますが、結局のところ似たようなものでしょう。
これ以上、この子の周りで妙なことをされても困りますし、ここらで始末をつけさせてもらいますね。」
手にしていた大鎌を思い切り振り上げ、鋭利な刃を一郎めがけて振り下ろす。
刃が自身に届かんとした瞬間、一郎の意識はブツンと切れる。その際彼の脳裏には、ほのかに光るスペードマークが焼き付いた。
D・スペードに憑依された状態になることにより、霧の力やDによる精神攻撃を存分に発揮することができる状態となる霧属性としての奈月。
この時の意識や精神の主導権はDの方に移るため、沢田 奈月本人の意識は、多重の精神世界の中で眠りに落ちている。
Dの意思一つで彼が憑依していた間の記憶を引き継げたり引き継げなかったりするのだが、今回は引き継ぐカタチとなり記憶は残されることになる。
犯罪3兄弟
哀れにも霧に飲まれた状態のナツキ(霧包ノ奈月)により幻術によるホラー体験をさせられた3人組。
このあと3人とも匿名の連絡(霧包ノ奈月と思われる)により、警察に見つかるが、精神はかなりボロボロの状態だったのは言うまでもない。