時は遡り、ロデニウス大陸に侵入したE-4R早期警戒機のストライク1が母艦に通信を入れた直後。
ストライク1はさらに奥へと飛行を続けていたが、突如レーダーに先程の飛龍が編隊を組んで飛んでくるのを捉えた。それは明らかに人間が操縦していると分かる物であり、ストライク1のパイロットは機体の高度を即座に3000から9000まで上昇させた。
「機長、こりゃ俺達どこぞの国の領空を侵犯しちまってるみたいですぜ。ありゃ間違いなく俺らを排除しに来た飛龍ですぜ。」
「あぁ、そうみたいだ。母艦に追加で報告、『我未確認国家の領空を侵犯した可能性大、撤収する』」
機長は高度4000付近でこちらを見あげている飛龍部隊を見ながら機体を反転、母艦に帰投する進路を取った。
「どうやら、あちらさんは4000が限界高度らしいな。」
そう呟いて母艦へ帰投した。
一方その頃、ストライク1が領空を侵犯した国家"クワ・トイネ公国"の上層部は荒れに荒れていた。
「何処の国の飛龍なのかわかったのか!!」
「報告では摩訶不思議な形状に、頭部と思われる場所には人が居たという。おそらくムー等で運用されている飛行機械なるものでは無いのか?」
「となるとムーがこんなところまで来たというのか!!」
「いや、それは有り得ぬ。かの国は他国への侵略をここ400年行っておらぬ。更には近隣国との同調政策を進めているとも聞く。そのような国がいきなり侵略してくるとは到底思えぬ。更にはその飛行機械が来たと思われる方向には島など無い。たとえ列強2位の座に居るムーとてここまで来るのは不可能だ。」
「だが、ムー以外に飛行機械を運用している国は無い!! まさかロウリアの者共が飛行機械を用いるとは思えぬし、現れた方向から見てもロウリアとは無関係と見るべきであろう。」
「ロウリアは既に戦争の準備を進めていると聞く、このままでは我が国は成す術もなくあの国に国土を侵略されてしまう。だと言うのにこんな時に限って何故こんなことが!!」
ストライク1が領空侵犯したのはクワ・トイネ公国と言う国であった。この国は国土の大半が肥沃で、なんと穀物等の生産は国民が消費する量を遥かに凌駕し、国民は元より家畜ですらも美味い飯を食えると言う。しかし、軍事力を見ればとてもでは無いが万全とは言えない。隣国のロウリアと比べればなんと軍の規模は10分の1と言う脆弱さである。
それに加えて隣国のロウリアは新王が即位してからは亜人殲滅を国是に掲げており、近々ロウリアはクワ・トイネ公国と反対側の隣国クイラ王国に戦争を仕掛けるという噂話すらある程である。
この噂は時間を置く事に信憑性を増していた為、クワ・トイネ公国も軍備の拡張を行っていたが、元が農民であり、戦も経験したものがほとんど居ないのではどうしようも無く、軍備の拡張は想定を遥かに下回っていた。
「皆の者、落ち着きたまえ。」
ここで声を上げたのがさこの国のトップと言える立場のカナタである。
「この度のこの報告、本当なのかね? 最近は飛龍騎士達も疲労が重なっていると聞く。幻覚を見たという可能性は無いのかね?」
「カナタ殿、この報告は最初に発見した竜騎士のハウリの他にマイハークの住民や、迎撃に上がったイーネ以下第6飛龍隊の面々も証言している為嘘ではないかと。」
「しかし、だとしたら何者なのだろうか、竜騎士が目撃したというのは飛行機械なのだろう? しかし飛行機械を運用しているムーとは2万キロ以上も離れている。とてもでは無いがムーの物とは信じ難い。」
「だとしたら、最近第2文明圏外にて暴れていると聞く、あの国では?」
「あぁ、あの第八帝国を名乗る国か? しかしあの国も第2文明圏にあるとするならばわざわざここまで来る理由がない。それにあらゆる国に戦を仕掛けていながら、更に戦場を広げる馬鹿は居はしまい。」
「確かに仰る通りです。」
このような会話が延々と続くかに見えたその時
『きっ、緊急報告!! マイハーク沖合いに未確認の巨大船が出現!! マイハークに居られるパンカーレ提督が臨検を行った結果、その船は日本なる国からの使者を名乗る者が居たそうです。なんでも1週間ほど前に領空を侵犯した事の謝罪をしたいとのことです。』
晴天の霹靂とはこのことだろう。先程まで終わりの見えない議論の対象だった物の保有国を名乗るものが現れたのだ。
「なんだと!! 無断で国土に侵入しておいて今更謝罪だと!!」
「それに数日前のものだと? 今我々が話しているのはつい先程のものだ!! 2度も侵入しておいて最初のものしか謝罪しないとは可笑しな物だ!!」
そう、実はクワ・トイネでこの話が持たれるのは2度目だった。1度目は1週間前、この時侵入したのは日本が飛ばした早期警戒機E-2Cであった。そして今回侵入したのはイデア帝国海軍の空母から飛び立ったF-4R早期警戒機。航空機を知らない彼らにとって侵入して来たそれらが同じ国のものかどうかなど分かるはずもなく、今回の侵入と先週の侵入を同じ国のものだと勝手に決めつけてしまっていたのだ。
「落ち着きたまえ。それに私はその国に少し興味が湧いた。」
「なんですと、カナタ殿!!」
「今までの情報を整理する限り、かの日本なる国は我が国よりも遥かに高い技術を持っているように思う。ワイバーンよりも速く飛び、更に高く飛ぶことの出来る飛行機械を持つことが出来る技術、それは我が国では到底及ばない遥か彼方の技術だ。それ程の力を持っているのならばそれを背景に我が国に攻め入ることも出来たであろう。しかしかの国はそれをしなかった。」
「確かにそうではありますが」
「故に私は、その日本とやらの使者と会おうと思う。上手く行けばかの国の技術を僅かながら取り込めるやもしれぬ。そうすれば刻一刻と迫りつつあるロウリアからの侵略を跳ね返す力を得れるやもしれん。ここは、私の意見を聞いてはくれまいか。」
「カナタ様がそこまで言うのであるならば。わかりました。」
こうして、クワ・トイネ公国と日本が接触した。
両国の会談は滞りなく進み、日本側は食料となる穀物や野菜、家畜の餌となる飼料を輸入する代わりとして、既に使わなくなった古い技術をクワ・トイネに輸出することが決まった。
カナタの思惑は達成され、ロデニウス大陸諸国にとっては未知の高度技術を手に入れることに成功した。また、日本側も思わぬ奇跡に見舞われ、食料だけでなく軍を動かす為の必須資源たる石油までもを手に入れる事が出来た。
日本側が石油を手にすることが出来たのはまさに奇跡に近く、会談中に、外交官が口にした"黒く、粘り気のある燃える水"にクワトイネの相手が隣国のクイラで溢れるように湧いているという事を耳にし、すぐさま隣国へ飛んで行き、見事交渉を締結する事に成功したのだ。
しかし、上手くいく話があれば、上手くいかない話もある。それは、正に日本側の使者を載せたヘリ空母"あかぎ"がクワ・トイネからの臨検を受けていた時に発生した、"イデア帝国海軍機による領空侵犯"である。
当初、クワ・トイネ側は、その機体が日本のものであると思い込んでいた為、話が噛み合わず両者ともに頭の上にハテナが浮かんでいた。
そんな折にまたしてもクワ・トイネ上層部を慌てさせる情報が上がってきた。
それは、マイハーク沖に日本の船と似たような船の大艦隊が現れたという情報であった。
これがまさに、日本海軍の駆逐艦"まや"と接触した後、ロデニウス大陸へ進路を向けたイデア帝国海軍第1航空艦隊である。ヘリ空母"あかぎ"を上回る大きさを誇るゴンドワナ級航空母艦の"レセップス"麾下、空母1、戦艦2、巡洋艦5、駆逐艦12を有する大艦隊はマイハークを根拠地とするクワ・トイネ海軍を震え上がらせた。
この頃になって、ようやく日本本土から連絡を受けた使者団もクワ・トイネとの話が噛み合わない理由を知る事となった。
イデア帝国も、日本と同じく、予想外の事とは言え領空を侵犯したことに対する謝罪と僅かながらの穀物の輸入、イデア帝国にとっては枯れ果てた古い技術の輸出等の他にクワ・トイネ及びクイラの2国保護を名目に安全保障条約を締結、2国にイデア帝国軍が駐留する事となった。
それと同時にイデア帝国・日本国間での同盟も締結されることが決まった。
駆逐艦"まや"が持ち帰った情報は、日本の首脳陣を驚嘆させ、即座に返答、その結果が両国の使者が居合わせたマイハーク沖にて、空母ゴンドワナの会議室で両国の同盟締結が決定した。この同盟は日イ同盟と呼称され、以後第3文明圏にて絶大な影響力を持つものとなった。
場所は代わり、イデア帝国首都イングリーシア・皇宮会議室にて。
帝国は120年前に帝政から民主政に政体を変化させた、その際に皇宮は2つのエリアに区画分けされ、皇族の住むエリアと政治を行うエリアのふたつに別れた。皇帝は過去ほどの権力は失ったものの、ある程度の政治への参入は可能であり、重要案件を最終検討する最高議会にも国家元首や各省の大臣・各軍のトップ等と共に参加している
「これで、ようやく一息つくことが出来ます。近隣にある国は日本国を除いて、文明レベルは我が国の500年前とほぼ同じ、魔法という不確定概念がある為、それがどの程度影響するかは未知数ですが、明確に脅威と言えるほとではありません。また、日本国ですがどうやらかの国も転移してきた国家のようで、文明レベルは我が国の100~150年前と同等、魔法というものの存在が無かった世界のようで純科学技術で成り立っている国家のようです。」
最初に発言をしたのは、現地国家郡の調査報告を受けた外務大臣のカナード・ハルキンだった。彼は過去何度も大きな外交交渉を行ってきた有能な官僚であったが、今回だけは今までに無いほど手こずっており、今日ようやく報告することが出来た。
「その国は我が国の驚異とはならないのかね?」
そのハルキンの報告に食いつくように発言をしたのは、陸軍総司令官を務める陸軍上級大将のハイネマン・シュワルツェネッガーである。
彼もまた、陸軍学校を主席で卒業し、過去に起きた戦争においても大きな武勲を立て、国内に名が知れ渡る程の人間である。
彼が直接指揮を執る陸軍第1軍団は、他の軍団を圧倒する程の技量と統率力を有する。
そんな彼でも戦争を好んでいる程の狂人では無い、出来るのであれば外交によって解決することを望んでいる程だ。
なぜ彼が陸軍省のトップである陸軍大臣を差し置いて発言しているかと言うと、陸軍大臣は所謂文官であり、武官であり実戦を経験した事の有るハイネマンとは畑が違うからである。各軍に置いても大臣と総司令官は同等の立ち位置であり、常にお互いの情報を共有している。故に各軍大臣は現場に関する発言を余りしないのである。
「ご安心ください。先の同盟締結により、両国間での首脳会談を何度も行っております。かの国も、不要な戦争は好まない主義の様で、国交は順調です。目下の課題としましては、クワ・トイネよりもたらされたり、隣国ロウリアです。」
ハルキンの回答に安堵したのも束の間、他に問題があると聞いて気配が変わった。
「と言うと?」
自覚は無いのであろう、先程とはまるで別人かと思うほどの威圧を発しながらハルキンに聞き返した。
「ロウリア国内へ侵入させたスパイによると、クワ・トイネ、クイラ両国への侵攻は確定のようでます。我が国は両国保護を名目に軍を送ることが可能ですが、最悪、軍が到着するよりも前に侵攻が始まる可能性もあります。そして数が数ですので少数の部隊では負けはしませんが勝てもしない、最悪撤退も視野に入れなければなくなります。」
過去何度も体験してきただけあって会議室にいる面々は動揺のひとつすら見せない。ハルキンも同様に聞かれたことに淡々と返答した。
「どういうことだ?相手は一体どれほどの戦力を投入してきそうなのだ?」
陸軍を総括する人間なだけあり、すぐ様相手の規模と戦力を把握する為に質問をしたが、その返答は彼の予想を遥に上回っていた。
「現状は推測ですが陸上部隊のみで50万人、海上戦力では帆船ではありますが3300隻、人員およそ3万3000人です。」
一同に動揺が走った。自分たちが政治に携わってきた中でこれほどの規模の侵攻を受けた事はもちろん、他国で起きたことも無いほどの規模であったのだ。
「なっ!! 合計54万だと!! 馬鹿も程々にしろ!! そんな大部隊、まともに機能するわけが無いだろ。」
1種の間を置いて声を発したのは海軍上級大将ダルシュール・シンデバルである。陸上部隊の人数でも驚くべきであるが、海上戦力に置いても過去聞いた事のない規模である、如何に相手が帆船であったとしても3300という途方もない隻数に呆気に取られてしまったのだ。
「まぁ、まともに動かすつもりもないのかもしれません。あの国もクワ・トイネ同様文明レベルは我が国の500年以上前のレベル、的確な指示を出しての侵攻と言うよりかは大群で押し寄せて踏み潰す戦法をとるかと。」
そんな周囲の反応に対応するように航宙軍上級大将アナトリア・ルーベンスであった。彼女は航宙軍初の女性上級大将であり、過去発生した異星文明との大規模戦闘に置いても、彼女率いる部隊の目覚しい活躍によって勝利に導かれたとまで言わせるほどの手腕の持ち主である。また、彼女は39という若さで上級大将に登り詰めたのも1目置かれる所以だ。
「確かに、その文明レベルならばそう言う方法を取るのは分かるが、やはり如何せん数が多い。今即座に移動可能な部隊はどれほどある」
そして最後に発言をしたのはしたのが国家元首である、ドワイト・オスニエルである。如何に軍が発言をしたとて最後に決めるのはここにいる全員であり、それをまとめるのが国家元首の役目である。閣議を参加しているほかの大臣らは畑違いの話である為、聴くことに専念している。
オスニエルは即座に軍の細部を知る各軍の大臣に質問をかけた。
オスニエルがなぜ各軍の大臣に質問を投げかけたかと言うと、実働部隊を担う上級大将等は軍全体のことはある程度把握しているが、細かい所までは目が行き届かない、そこを補填するのが文官らの役目であり、正確な数を聞くならば大臣の方が詳しいからである。
「海軍は全部隊を即時投入可能、陸軍は第6軍及び第16軍が即時投入可能です。しかし陸軍を投入するには海軍の揚陸艦隊を用いる必要がある為、やはり即時にとは行きません。」
陸軍と海軍の各大臣は数秒会話をした後、陸軍大臣が代表して即応戦力の規模を伝えた。
なぜ此処で空軍と航宙軍が加わらないのかと言うと、空軍は未だに本国近辺での行動しか出来ない故、国外に進出する事が不可能であるためだ。
航宙軍は前世界に置いて、全国家が署名したカナレア条約がある為だ。
カナレア条約の内容を簡潔に纏めると、第1に各国が保有する航宙軍の大気圏内への侵入を禁止する事、第2に航宙軍に採用されている光学兵器等の大気圏内兵器への転用禁止する事等がある。
如何に異世界へ来たからと言って、即座に破棄出来るほどの物ではなく、また、航宙軍は帝国にとっての切り札的存在である為、未だに敵味方がはっきりしていないこの世界において、おいそれと見せられるものでは無いのである。
その結果、即応戦力を持つのは海軍と陸軍の2つだけとなったのである
「陸軍の空挺団や空輸可能な軽装部隊ではダメなのか?」
オスニエルは率直な疑問をハイネマンに質問した。
「確かに一時的には抑え込めるでしょうが大口径砲や戦車等は投入出来ませんし、補給物資も無いためすぐに弾薬が尽きるかと。」
ハイネマンは空挺団の利点と弱点を簡潔に分かりやすく説明した。
「焼け石に水ということか。元首、ここは直ぐに陸軍の第6もしくは第16軍のどちらかをロデ二ウス大陸へ送りましょう。あの大陸にある2国は我が国にとって重要なこの世界における友好国です。見捨てる訳にも行きませんし、日本国へのアピールにもなります。更には2国の地下に埋まっている大量の資源も見逃す事は出来ません。」
ここでハルキンが外交的視点からも軍の派遣を依頼した?
「そうだな。わかった、陸軍第6軍団をロデ二ウス大陸へ進出させよ、海軍も第一揚陸艦隊の全力を持って陸軍をロデ二ウス大陸まで送り届けよ。」
ハルキンの言葉が決定打となり、帝国陸軍の派遣が決定した。
「「「「了解しました!!」」」」
実働部隊を担う陸海軍の4人が瞬時に返答し、会議室を退出した。
数時間後、オスニエルの元に派遣する部隊の編成、規模が書かれた書類が届けられた。
ロデ二ウス大陸へ派遣される部隊は陸軍第6軍団から1個機動師団、2個砲兵師団、1個機械化歩兵師団、1個MS連隊、1個独立邀撃連隊、1個航空連隊の約5万人、海軍から未だロデ二ウス大陸近海に位置する第一航空艦隊から1個戦艦戦隊、3個巡洋艦戦隊、3個駆逐戦隊、の戦艦2隻、巡洋艦6隻、ミサイル駆逐艦12隻、第一揚陸艦隊を護衛する第1護衛艦隊から1個巡洋艦戦隊、2個駆逐戦隊の巡洋艦2隻、ミサイル駆逐艦8隻が投入されることが決定した。
帝国がこの世界に転移してからわずか1ヶ月、後世にロデ二ウス大陸戦争と記される戦争が始まる。
遂に帝国が動き始めました。ロデ二ウス大陸における帝国軍の活躍にご期待ください。