僕の名前は井上和正。
都内の中学校に通う、どこにでもいる中学一年生。強いて人とは違う所を挙げるなら、音楽を、特にロックを人の倍以上に愛し、そして前世の記憶を持っているという点である。
母親は全国を飛び回る音楽大学の教授、父親は海外を拠点にするクラシックを専門にする音楽評論家。
家より仕事……いや、仕事というか趣味だろう。僕に負けず劣らずの音楽マニアな二人が家に帰ってくる事は滅多にない。小学生の頃は夜には帰っていた母さんも、僕が中学に上がったのをきっかけに、ほとんど帰らず日本中を飛び回って仕事に励んでいる。
必然的に、僕はほとんど独り暮らしのような状態で、悠々自適な中学生活を送るようになった。
朝6時。
スマホのアラームに起こされた僕は、眠気混じりにリビングに降りると、真っ先にコンポに電源を入れた。
Def Techの『Irie Got』を流したまま、朝食の準備を始める。
一応、一通りの家事は出来る僕だけど、所詮男の一人暮らしだ。朝からそんな全力で料理とかしない。たったひとり、自分の為に料理の時間を使うなら、音楽や勉強に時間を注ぎたかった。
パンを焼いてさっさとバターを塗ったら口に放り込む。
聞こえるのはパンの咀嚼音と、スピーカーから流れる音楽。
リビングにはレコードプレイヤー、音を強くするアンプ、1m以上もある大型のスピーカー。
そして山のように積まれたたくさんのCD達。
僕の日常は、音楽で満たされている。
中学校での僕は、基本的に目立たないようにしている。
理由は単純。僕は転生者だから。
前世と言うアドバンテージを持った人間が、おいそれと力を見せびらかしたり、それを自分の利の為に使う事は、なんとなく僕のポリシーに反する行いだと感じていた。と言うより、「一度死んだ人間がこれからを生きる人間を退かしてどうこうしよう」と言う気分になれなかったのである。未来ある子供の邪魔をしたくなかったのだ。僕は謙虚な日本人。
そもそも異世界に迷い込んだのは、ガワは子供の中身はおっさんだ。中学生たちの群れで馴染める訳もないし、馴染みたいとも思わない。元々人付き合いが得意じゃないから、こうして僕は独り音楽雑誌を読みながら、教室の隅で静かに過ごしている。
以前、僕に話しかけてくれた優しいクラスメイトも、僕が洋楽を聴いていると知ってからは疎遠になってしまった。多分、英語を知らない、海の向こうの名前も聴いた事もないアーティストだったから話が合わないと直感で分かったんだろう。
(まあ、別にいいんだけどね……)
洋楽やら古い邦楽やら、昔のロックを好む僕と、Mステで流れる今時の流行りのJ-POPを好む令和の子供。一体何をどう話を合わせろと。
まあ、僕が彼等と関わらない一番の理由は……。
「さっつー!昨日のドラマ観た?」
「観たよ~。相変らずイケてるよね、あの俳優」
「本当にそう!続編は劇場版になるって!一緒に観に行こ!あ、そうだ!なら委員長ちゃんとか隣のクラスの子も何人か呼んで、映画の後はカラオケとかカフェも行こっ!ふふ、今度の日曜日も楽しくなりそうね!(キターン!)」
「喜多は今日も元気だね~」
教室の真ん中で、楽しくおしゃべりをしている赤毛の女の子。遠目から見てもお洒落や髪型に気を遣い、そして笑顔で愛嬌を振りまいていると分かる。
このクラスの中心である、喜多郁代。僕が幼稚園の頃から同じ学び舎で過ごす、言うなれば僕にとって幼馴染に分類される女の子だ。
僕は彼女と出来るだけ接点を作りたくなくて、友人を作らないようにしているのだ。
「今日も喜多さん、可愛いな……」
「ああ、それな」
「分かる」
明るくて、可愛くて、お喋り好き。絵に描いたような陽キャ。僕のクラスの大半の男子を夢中にさせる、まさしくクラスのマドンナだ。尤も、本人はモテようと思ってそう振舞ってるわけじゃないのは、彼女と10年近く同じ学校、同じクラスとして過ごしているからよく分かる。根っからの良い子で流行り好きなのだ。
そして、この『ぼっち・ざ・ろっく!』と言う世界の登場人物。未来にロックを歌う結束バンドのボーカル。
何の因果か、僕は前世でファンだったバンドのメンバー、それもボーカルの喜多郁代の幼馴染と言うポジションを手に入れてしまったのだ。
(まったく……神様も、酔狂な事をするもんだなぁ……)
「百合が男に堕とされるのが好きなのじゃ!嫌われてはおるが、それだって一つのジャンルのはずじゃ!」
ファッキュー神様。ホーリーシット神のビチグソ。
元々社会人として過ごしていた僕はいつの間にやら死んでいたらしく、百合の間に男を挟む事を性癖とするド畜生な神様に『ぼっち・ざ・ろっく!』と言う漫画の世界に転生させられてしまった。
ぼっち・ざ・ろっく、通称ぼざろ。
女の子達の青春漫画を中心にした雑誌に掲載されるきらら漫画。その中で、ロックバンドを主題にした物語だったという事を覚えている。僕自身、その漫画を読んだわけじゃないから内容は知らない。けれどその漫画の大ファンだった友人が色々僕にその漫画を原作としたアニメやアルバムやシングルを勧めて来てくれたのだ。布教とも言う。彼のおかげで興味がなかったアニメのサントラや主題歌を知る事が出来たのだから、そういう点では結構感謝している。
熱心なカプ厨で、百合の間に男を挟む事を忌み嫌う愉快な奴だった。もし奴が今の僕の状況を見たら……羨ましがるか、僕をぶっ殺しに来るかのどっちかだなぁ。
そんな訳で、僕は前世の親友の言葉と言うか性癖に倣って……と言うより遠慮して、喜多ちゃんとはなるべく関わらないようにしていた。
幼稚園児の頃は『郁代ちゃん』なんて呼んで一緒に遊んだりもしたが、小学生に上がって本格的に誰かと関わる事に消極的になり始めてからはほとんど話す事もなくなった。僕が望んだ通り、彼女はいつからか僕と顔を合わせても挨拶をする程度の小さな関係性で留まっている。
例の神様が何を望んで僕に第二の人生を与えたのかはよく分からない。
仮に僕がぼざろという作品に何か影響を与える事を望んでいるなら、それだけは絶対に避けたかった。
僕が関わる事で、彼女が歌わなくなり、結果、僕が前世で何度も聴いた結束バンドの名曲が生まれないなんてことになったら、目も当てられない。
音楽を愛する僕にとって、それだけは絶対に避けたかった。
二度目の人生を与えてもらってアレだけど、僕は神様の言う通りの生き方をする気はまっぴらだ。けれどそれはそれとして、結束バンドの曲は聴きたいと言う欲が僕の中にあるのも事実。
僕には音楽があればいい。
それだけで、本当に。それだけで、よかったはずなのに。
「そういえば、あの映画の主題歌、サブスク出てたけど聴いた?」
「もちろん聴いたわ!本当に良かった、最近ずっとリピートしてる!」
喜多ちゃんの声を聴く度に、僕の中にふつふつと溜まっていく埃のような何か。それは綺麗な声だなという心地よさとも言えるし、不満とも呼べるだろう。端的に言えば、僕は彼女の声が本当にドストライクだったのだ。特に中学に上がった頃から、大人と少女の中間に入ったソプラノボイスが特に耳に心地いい。
耳が良い僕にとって、この世界は雑音に溢れている。
誰かの吐息、風の音、誰かの悪口、車の排気音、不愉快な笑い声、その他諸々。
それらがミキシングされた雑音は、僕の頭にガンガンと響き、ひっかき傷のように残っていく。その傷は直ぐに膿んで、脳の裏を搔き混ぜられたような、そんな痒みになる。
うるさい、静かにしろ、なんて心の中で念じても、世界は黙っていてくれない。今世の僕の耳は前世より何故か無駄に良くなっていて、幼少期の頃はこの聴力と付き合うのに苦労した。一時期は人の心臓の音も聞こえてきたことがあったのだ。
だから僕は世界の音が嫌で、音楽の世界に逃げ込んだ。ヘッドホンで耳を塞ぎ、ノイズキャンセリングで嫌な音をシャットアウトし、心地の良い音で自分を満たした。今は年がら年中ヘッドホンを着けた影響で耳が悪くなったのか多少耳が良い程度に済んでいるけど。
「喜多はああいう恋愛系のJ-POP、本当に好きだよね~。じゃあ今日の放課後、カラオケ行かね?」
「もちろん!」
そんな不愉快な雑音塗れの世界で、喜多ちゃんの声が僕にとって救いだったのは否定しない。
けれど塵も積もれば山となるように、僕の中に蓄積されていくストレスの原因でもあった。
前世で聴いた、あの宝物のような歌声を、大した事もない映画の主題歌で消費しないでくれ。ただ映画に合うように生み出された、量産型のどこにでもあるようなつまらない歌詞に費やさないでくれ。君の歌声は、そんなところで使っていい代物じゃないんだ。
「……いや、何考えてんだ僕は」
心の奥底から溢れ出しそうになったそれを急いで蓋をする。
誰が何を歌おうと、そんなのは人の自由だ。僕がどうこう言う資格はない。決めただろ、僕は喜多郁代には何も干渉しないって。そう心に念じて、僕の苛立ちを無理やり封じ込めた。
けれど彼女がカラオケであれがどうだったとかあの曲が良かっただとか聞く度に、もっと別の歌を歌って欲しいと言う欲求がふつふつと溜まっていく。そう遠くない内に、この欲求は零れ出てしまうかもしれない。
「それでさ、本当に最高だったんだよ結束バンド!最終話だけでもお前は観るべきだって、絶対気に入るから!あの文化祭ライブだけは、お前も絶対観た方が良い!俺が保証するよ!」
前世の親友の言葉を思い出す。変わり者だったけど、それでも自分が好きな物に嘘を吐かないタイプだった。あいつの言うことを信じるなら、僕らが高校一年生の文化祭の時に、彼女はバンドを組んでステージに登る。
中学を卒業するまで、あと3年。
僕は、いつまで我慢が出来るのだろうか?自分の魂からの欲求を、縛り続けることなんてできるのか?
転生してから15年近く、僕が音楽を聴かない日はほとんどなかった。
前世で愛したツェッペリンも、ビートルズも、クイーンも、何度も何度も聴き続けた。けれど、結束バンドの曲だけが。こんなに近くにいるのに、手に届く範囲にあのボーカルがいるのに、僕はまだ聴く事が出来ていない。彼女が歌わない限り、僕はあの曲を聴く事が出来ない。
それをずっと、我慢し続けなきゃいけない。少なくとも、あと3年は。
(……やめよう。何か別の曲を聴こう)
そんな不満を見ないフリをするように首に掛けていたヘッドホンを被り直した。無線で繋いでいたスマホをいじると、すぐに最近のお気に入りの楽曲が流れてくる。
僕の日常は、音楽で満たされてる。
手を伸ばせばいつだって好きな曲を再生できる。環境にも恵まれている。
でも、なんていうか……。
今世の人生は、ひどく退屈だった。
最初は、ただラッキーだと思った。二度目の人生、似たような現代日本の社会。
そして、僕が愛した音楽たちは、そっくりそのまま、今も世界中にある。
でもなぜだろう。最近よく思い出す。
ベッドの上でただ寝ているしかなかった、灰色の前世を。ぼやけて何も見えない暗闇の世界を。
……早く、聴きたい。
まだこの世界に生まれていないロックンロール。そして、喜多ちゃんの歌声を。
そう、できることなら――
(Elvis Presleyの今にも踊り出しそうな『Jailhouse Rock』とか歌って欲しいし、Simon & Garfunkelの『The Sound of Silence』とかも歌って欲しい。喜多ちゃん英単語の発音結構いいから、洋楽のカヴァーも練習すれば絶対上手いんだよね。Shocking Blueの『Venus』とか最高。そんなの歌ったら嫌でもファンになっちゃう。でも喜多ちゃんって絶対J-POP以外興味ないタイプだから難しいよなぁ。仮にカラオケにホイホイ着いて行ってリクエストしたら絶対知らないだろうから100%断られる。泣けるぜ。J-POPで喜多ちゃんの声に合いそうなのはやっぱり宇多田ヒカルとか?『誰にも言わない』とか名曲だよなぁ。あとはニルギリスの『SHINY SHINY』とか歌ってくれたらもう死んでもいいかもしれない。AC/DCも聴きたいけど『It's a Long Way to the Top』とかは雄味が強すぎだし。そういえば結束バンドって結局どんなバンドなんだ?歌詞だけ思い出すと結構暗いけど、メロディーが凄い明るいから清涼感があるんだよね。間違いなく喜多ちゃんが書いた歌詞ではないんだよ。誰が書いてるんだあれ、『ギターと孤独と蒼い惑星』とか『あのバンド』とか、歌詞を書いた奴のコンプレックスが如実に出てるんだよな。ちょっと微妙に暗くて、それでいて爽やかなメロディーか。所謂エモい系?うーん、やっぱりアニメ観るべきだったかぁ。でも結束バンドの曲以外もやっぱり歌って欲しいよな。例えばピアノの弾き語り、アンジェラ・アキの『たしかに』とか?そうだ、ピアノの弾き語りと言えば『Make You Feel My Love』だ!Adeleのカバー、本当にしっとりしててずっと聴いてられるんだよな。Adeleの大人の女性のカバーは本当にカッコよくて好きだけど、喜多ちゃんみたいな爽やかな10代女子の弾き語りもいつか聴いてみたい。でもそうなると原曲のBob Dylanの方でもいいかな。ああでもカバー曲でもいいとなれば『Blinded by the Light』とかも捨てがたいなぁ。Bruce SpringsteenじゃなくてManfred Mann's Earth Bandの方。ブルースなら『Born To Run』一択だけど、あの渋い男の枯れた力強い声は喜多ちゃんには、ていうか10代女子には合わん。アレンジ必須だけどあれを元気よく歌ってくれたらオリコンまったなしだとは思うけど。『走る為に生まれた』って、すんごい分かりやすいし。若い子が『Born To Run』なんて歌ったら絶対オジサンはファンになるよ。絶対そう。100点満点だよ。あとはPhoenixの『Lisztomania』は古いかなぁ。最近の方だと『Winter Solstice』か?いや渋すぎるっていうかまだ配信されてないかな。うーん、転生するって知ってたならリリース年もちゃんと覚えておくのに、この辺りは聴きこんだ訳じゃないからうろ覚えなのも多い。そうだ、暗い歌詞で明るいメロディーならリーガルリリーだ!あの幼い情動を突き詰めたような歌詞は老若男女問わず心を揺さぶってくる。うん、喜多ちゃんの透明感のある声ならこの路線が一番いい。RADWINPSの『有心論』とか絶対合う。Bank Bandのカバーでもヨシ!あとは大瀧詠一の『君は天然色』で締めくくって完璧。うむ、我ながら完璧なセットリスト。いやまてまて、肝心のビートルズがいないじゃないか!『Blackbird』とか絶対いるだろ常識的に考えて。考えれば考える程歌わせたい曲が涌き出てくる。Rita Oraの『Carry On』とか最高過ぎんだろ!あーでもここまで来たらニルヴァーナとかも入れるべき?でも『Smells Like Teen Spirit』はさすがに王道が過ぎる?歌詞は凄い良いしメロディもクールだけど、歌詞とメロディがイマイチ喜多の声と合致しないというか。結束バンドの曲だと明るいけどちょっと暗い歌詞も普通に歌ってたけど、この世界の喜多ちゃんってどう考えてもああいう曲を好むようには思えないし。阿部真央の『Believe in yourself』とかクラムボンの『Lush Life』とかの曲の方が喜多ちゃんは好んで歌いそうな気もするし。あーもうこんがらがってきた!いっそのことトーキングヘッズとかワンチャンアリ?喜多がファファファ歌ってたら……ぷぷ、笑える)
「おー、珍しい。井上がなんか笑ってる。ちょっと不気味だけど……あれ、どうしたの喜多?」
「う、ううん……なんか悪寒が……」
「へ?」
――喜多郁代が教室でトーキングヘッズをカラオケするのは、この日から約1年と5か月後の話。
――2年後。
「僕も髪を染めた方がいいのかな」
3月某日。
STARRYの練習スタジオで休憩中。僕は壁に寄り掛かって床に座りスマホの画面を見ながらぽつりとつぶやいた。
「え、急にどうしたのカズ君」
僕の言葉に首を傾げたのは、我らが結束バンドのボーカル喜多郁代。僕の隣でずっと体育座りで熱心にSNSを見ていた彼女は、画面のアプリを閉じて僕に向き直る。
「だってさ、皆髪の毛の色派手なのに、僕だけ黒じゃん。なんか、地味過ぎて逆に浮いてない?」
「そうかしら?確かにカズ君はもっとお洒落に気を遣った方がいいと思うけど、今のままでも十分良いと思うわよ?わざわざ染める必要なんてないわよ」
「いやいやいや、だってさ、観てよこれ」
僕はそう言って自分のスマホを喜多に見せた。
写っているのは、先日僕がボーカルとして歌って撮影した、Mr.Childrenの『少年』の動画だ。ひと月前、僕がSIDEROSのサポートギターとボーカルをした罰として虹夏先輩に命令され、何故か結束バンドwith包帯少年と言う名義で歌わされたのだ。もちろんばっちり撮影して今はチャンネルにアップされている。おかしいな、僕は結束バンドが新宿FOLTに出させてもらう為に頑張ったつもりなのに、なんで罰を受けさせられたんですかね?
ちなみにミスチルをチョイスしたのは喜多の選曲である。
彼女が選んだ曲を僕が熱唱し、僕の両隣にはリョウさんと喜多が、真後ろには虹夏先輩が、そして画面の右端にちょこんと後藤が写っている。
「赤レンジャイ青レンジャイ黄レンジャイ桃レンジャイに黒レンジャイが混ざると、なんかバランス悪くない?」
「カズ君……そんなひと昔前の戦隊物じゃないんだから……」
呆れたようなジト目の喜多。
いやさ、僕もSIDEROSでサポートギターして、ついでにボーカルをして、その楽しさを知った訳じゃん。それで真剣にステージに上がる為に色々練習を始めた訳よ。その成果のひとつがこの動画だ。今まで結束バンドに挙げる動画には、撮影や編集を工夫して出来るだけ僕が映り込まないようにしていた。
けれどボーカルとして参加する以上、これまで通り顔出しNGを通すのは難しかった。ていうか、結束バンドの皆は普通に顔を出して映ってるのに僕だけ映らないと言うのは、なんだか後ろ髪を引かれると言うか、「それじゃあいけない」と思えたのだ。
喜多に自分のギターを捧げると公言した以上、自分もこれまで通りではいられない。
そんな訳で気恥ずかしさはあったが、それでも覚悟してボーカルして動画に出た……のに。ボーカルやってる僕より喜多やリョウさん達の方が目立ってるのよ。黒レンジャイ地味過ぎんのよ。カラフルで見た目華やかな女子達に挟まれた僕は、文字通り日陰者と言う言葉にぴったり収まってしまった。おかしいな、ボーカルってバンドの花形じゃないんですかね?
歌っている僕について言及したコメントより喜多やリョウさん達を褒め称えるコメントの方が目に見えて多いのだ。
比率的には、結束バンドのメンバーのルックスを誉めるコメントが4、後藤やリョウさんの演奏技術を誉めるコメントが3、ミスチルの曲が良いとコメントするのが2、僕の歌についてのコメントが1。ひどい割合だ。
「結構練習したのになぁ……」
改めて、スマホの画面に映っている自分を見つめ直す。
動画の中で歌っている僕は、なんていうか、本当にぱっとしねぇ……。歌は聴けない程じゃないがエレキギターを弾きながらのボーカルはまだ不慣れさともたつきが見られる。声も裏返りそうになってるのを何度も堪えてる節が所々見られて、正直に言うとできることなら今すぐこの動画を削除したい。そしてこの動画を見た連中の記憶を永久に消し去りたい。
「もうこれ、喜多のSNSで拡散されちゃったからクラスの連中にも聞かれたんだよね?」
「あ、うん、まあ……一応ね?」
「うわぁ、死にてぇ」
こうやって黒歴史は生まれていく……。僕の黒歴史にまた1ページ……。
人生二回目で久しく味わっていなかったやらかしの羞恥心で死にそうになりながらも、僕は出来るだけ客観的にこの動画を自己分析する。
「書き込まれたコメントも喜多達のルックスや後藤やリョウさんの演奏を誉める物ばっかりだし。歌に関しては当たり障りのないと言うか見て見ぬフリをされて正直居たたまれないし、どうせなら下手だとかはっきり書いてくれたら……ああいやだ、下手糞ってコメントされたらそれはそれで傷つく……ってなんだよ、にやにや笑って」
「別にー?今まで散々私に「ギター下手」って言ってきたカズ君が、ボーカルが私よりへたっぴで悩んでるの見てると、なんというか、ちょっとした優越感みたいなー?ふふ、ドンマイカズ君!もっと精進しなさい!」
「…………」
「いひゃいいひゃい!ほっへたふねらないでカズ君!ごめぇんっへ……あうっ」
「カラオケで高得点を毎回取るほど通い詰めている陽キャと、偶にしか歌わない聴き専の僕と比べるのがおかしいんだよ。こちとらボーカル歴まだ1ヶ月も経ってないんだぞ」
溜息を吐きながら引っ張っていた喜多の頬から指を放した。いやまあ喜多の言う通りボーカルが下手糞なのは自覚してるけどさ!改めてドストレートに言われるとやっぱり腹が立つ。
ちなみに、音楽ライターのぽいずん♡やみこと佐藤さんからは「シンセとアコギは上手いけど歌はイマイチね」と言うコメントを頂いた。ふぁっく。
「まあでも、やっぱり喜多って歌が上手いんだなって改めて思い知らされた。ギターに関してはまだまだ僕が上だけど、先は長いや」
「カズ君……」
よく考えなくても、喜多が合唱コンクールやバンドのボーカルとして抜擢されたのは、カラオケで培われた歌唱力があるからだ。対して僕はカラオケなんて偶に喜多に連れて行かれる程度のど素人。ギターはともかく、喜多の歌唱力と比べたら月とすっぽんだ。
先月のSIDEROSでのライブも、どちらかと言えば僕の歌が上手かったのではなく、ヨヨコさん達の演奏に引っ張られて歌えた曲って感じだったし。あれは僕の本来の実力じゃない。
だから今度は、自分の力であそこに到達しなきゃいけない。SIDEROSの人達と同等か、それ以上に。誰に強制されたわけじゃなく、自分自身の意志で。
そうじゃないと、喜多に、結束バンドの皆に、堂々と胸を張って同じステージに立つ事なんてできやしない。
けれどこうやって自分が下手だと再生数とコメントで見せつけられるのは、なかなか心に来るものがある。ここ二週間の努力が全部喜多達のルックスに吸われたのが納得がいかないし悔しい。
果たして、僕の歌が使い物になるレベルに到達するのは一体どれぐらい先になる事やら。桜井和寿*1並の歌唱力が欲しい。
「……カズ君って、変わったよね」
「そうかな?」
「うん。今までずっと、私達のサポートしてくれたりとか、シンセとか新しい事をやってたけど……全部自分の為じゃなくて、私達の為にやってくれてたじゃない?でも最近のカズ君は自分の為にボーカルの練習して、ギターの練習も増やして……なんていうか、前よりずっと我儘になったわよね」
「……そうかな?僕ほど謙虚な人間はいないと思うけど」
「謙……虚……?」
「そんな顔して言う?」
「でも、今の方が前よりずっとカッコいいわよ、カズ君」
「カッコいい……カッコいいかぁ?」
そう言われて画面の中で歌っている僕を見直してみる。毎朝鏡で見る自分とは違う姿の僕が、そこにはいる。
歌はイマイチ、顔も普通、そんな僕を幼馴染はかっこいいと言う。いまいちピンとは来ない。我儘になったとは言うけど、下手な分練習してもっといい音を奏でたいという考えは我儘の内に入るのだろうか?
いつか幼馴染の言う通り、自分でもかっこいいと思えるようなミュージシャンになれるのだろうか。
すると喜多がわざとらしく「ごほん」と咳払いした。
「ま、まぁ?もしカズ君が、その、歌い方を教えて欲しいなら、わ、私がレクチャーしてあげなくも……普段ずっとカズ君にギター教えてもらってるし、こ、今度は、わ、私が先生役で……二人っきりで教えてあげ――」
「いやいいよ別に。歌ならヨヨコさんにアドバイスもらうし」
「…………」
「イッタイ痛いって!!全力でグーで叩くなって!!」
アドバイス貰うならバカテクのヨヨコさんから教えてもらった方が効率的で手っ取り早いだろなんで叩くんだよ!
「なになに、二人共何騒いでんのー?」
「あ、黄レンジャイ先輩」
「黄レンジャイ先輩って何カズ君!?」
「ごめんなさい口が滑りました」
ペットボトルを片手に憤慨するのは、結束バンドのツッコミ担当……ではなくドラム担当の伊地知虹夏先輩だ。このバンド唯一の常識人でもあり、このバンドのリーダーでもあり、そして大天使ニジカエルでもある。
ドラムの練習で汗を掻いた虹夏先輩は、まだ外は冷える春先だと言うのに半袖のTシャツと言うラフな格好だ。僕はまだ尻尾を踏まれた猫のように暴れる喜多を片手で押さえつつ、使っていないタオルを手渡しながら話した。
「ほら、この間僕がボーカルした動画あるじゃないですか」
「あー!あの動画ね。あれがどうかしたの?」
「僕の歌まだまだ下手だなーって喜多と話になって」
「うんうん、向上心があるのは良い事だね!」
「それでヨヨコさんにアドバイス貰うって言ったら喜多が急にキレて」
「カズ君が悪いよ。判決、有罪」
なんでや。
なんで僕が悪いんだよ、教えはどうなってんだ教えは!
「喜多ちゃんもまだまだ苦労するなぁ……。大変だねぇ、クレイジー音楽オタク君を相手にしてると」
「虹夏先輩……分かってくれますか……?このカス君本当にボケナスで……」
「言いたい放題か」
時々口が悪くなる喜多はともかく、天使のような優しさを持つ虹夏先輩にまでとうとう『クレイジー音楽オタク』と言われてしまった……。そんなにクレイジーですかね?
「カズ君は歌の勉強をする前に、もっと乙女心について勉強するべき!反省して!」
「そうよカス君!反省して!」
「ぐぬぅ……」
多勢に無勢。虹夏先輩が喜多の方に着いてしまうと2対1でこっちが圧倒的に形勢不利。このままだと休憩時間が終わるまでずっとねちねち責められそうだ。
「えっと、それでですね、歌は一旦おいておいて、動画だと絵的にあんまり僕目立ってないじゃないですか。パッとしない髪型だから、少しでもインパクトを出す為に髪の毛の色とか変えた方がいいかなーって話をしてたんですよ」
「露骨に話題逸らしたね……。あー、でもなるほどね。確かに、言っちゃうとアレだけどカズ君は少し地味目だもんね。リョウや喜多ちゃんの間に挟まれると確かに存在感薄くなってるかも」
タオルで汗を拭きながら虹夏先輩は悩まし気に「うーん」と唸った。この人やっぱり自分がカワイイと自覚してない?僕の影が薄くなってるのは虹夏先輩のせいでもあるんですよ。
さっきの動画のコメント欄を見てみると、僕の歌を誉めるコメントよりドラマーの太腿を誉めるコメントの方が多いのだ。世も末である。
「でもでも、カズ君がそうやって前に出よう、もう少し目立とうって考えてくれるのはいい傾向だよ!」
「そうですかね?」
「そうだよっ!今までのカズ君だったら、絶対に私達と一緒に演奏して動画に出ようなんてしなかったじゃん!実際、去年までは『絶対に嫌です』って断ってたし、演奏しても最低限顔は映さないようにしてたでしょ?なのにこうしてボーカルをしてくれて、私達の動画にまた出てくれることを検討してくれるのは嬉しいよ!」
「…………いやまあ、動画限定ですけど」
「あ、カズ君照れてる~!」
虹夏先輩がにやにやと笑いながら僕のほっぺたをつんつんと押してくる。
最近の虹夏先輩は僕を手が掛かる弟みたいに扱ってくる。うっとおしいんだけど、その反面この扱いが心地いいのも事実で……僕は伊地知家の弟だった……?
「こんなクールビューティーが隣でベースを弾いていれば、主役の立場を喰ってしまうのは自然の摂理……。誰もが目を奪われる完璧で究極のベーシスト*2でごめんねカズ」
部屋の片隅で僕らの会話を聞いていたのか、リョウさんがベースをマイペースにいじくりながらそう言った。
ベース担当山田リョウ。自他共に認めるダウナー系美人。バンドメンバーの中で一番美人だと唸らされてしまう程、顔立ちが整っている。ただ、見た目に反して中身がクズ。決して件のアイドル程完璧で究極ではない。
僕と虹夏先輩が呆れていると、リョウ先輩は唐突にガ〇レオのオープニングテーマをアレンジして弾きながら語り出した。
「現代のバンドの動画は再生数こそ正義。とにかくサムネイルで釣って画面を開かせればそれで勝ち。カズの歌より女子の生足や制服着た女子高生の方が需要が高いのは明らかだし。つまりカズの歌を誉めるコメントより私のルックスを褒め称えるコメントの方が多いのは当然の摂理。Q.E.D証明完了」
「相変わらず凄い自信だねリョウは……でもなんで〇リレオ?」
「実際美人だから何も言えなくて腹立ちますね……ガリレ〇上手いなこの人」
「でもなんか、ガリ〇オのオープニングテーマ弾きながら話してたからかな、リョウが凄く知的なタイプに見えたんだけど」
「騙されちゃダメですよ先輩。あの人『Q.E.D』って言いたいだけで特に何も考えちゃいないですよ」
「キャーリョウ先輩知的でカッコイイ!さすが一番星の生まれ変わり!」
「こいつはこいつでいつも通りだな……。リョウさんにアイドルは無理だよ」
喜多にとっては完璧な偶像という意味では間違ってはいないかもしれないが。きゃーきゃーと黄色い声を上げる喜多を横目に、「はぁ」と虹夏先輩と僕のため息が重なった。
リョウさんはこんなんでも演奏は上手いし実際この人のファンのおかげで再生数を大分稼げているのだから文句も言い難いのである。
すると演奏を区切ったリョウさんが「それはさておき」と僕に向き直った。
「今回のカズの『少年』は私は好きだよ。不格好だったのは確かだけど、力いっぱい歌ってるって感じが音で伝わってきて私は結構好み。全体的に観たらまだまだ粗いけど、それでも音程とリズムは外し切ってないしギターの方もしっかり形になってる。成長の余地を感じられる歌い方だったから、これからに期待だよ。ああいう歌声は、万人受けはしなくてもきっと誰かの心に刺さるから。基礎と声の出し方を練習していけばもっと伸びるよ。だからまた歌ってね」
「リョウさん……」
「おお~、リョウってば良い事言うね!」
「ふふん、ドヤ」
「そこでドヤ顔しなければ最高だったのにな~」
「ダメですよリョウ先輩!カズ君にそんな甘い評価しちゃったら!」
「郁代はもっと素直に誉めるべき。ただでさえ再生数伸びないように小細工してるんでしょ」
「……え、え?な、何のことですか?」
「すっとぼけてもダメ。カズの歌声を他の人に聴かれたくないからってSNSの宣伝サボってるでしょ、そのくせ自分はここ最近ずっとカズの『少年』をヘビロテして――むぐっ」
「わあああああああ!それ以上言わないでください!――あっ」
「あ、喜多ちゃん危なっ――……」
あ、喜多がリョウさんの口を塞ごうと飛び掛かって――もつれ込んで倒れた。あー、あれ頭打ったな。痛そうだと思いました。
「あーあー、大丈夫二人共?」
倒れ込んだ二人へ呆れたように虹夏先輩が駆け寄った。
後頭部の痛みで静かに悶絶しているリョウさんと変なぶつけ方をしながらもリョウさんの胸に飛び込めて幸せそうな喜多。二人を見てたらなんだか再生数がなんだかんだと悩んでいるのがバカバカしくなってきてしまった。
「万人受けはしないけど少数には刺さる歌声かぁ」
僕の歌も実はコメントとか高評価はされていないだけで、聴いた人の一部には刺さってたりするのかな?自分の歌声をそんな風に評価されても、イマイチぴんとは来ない。
アコギとかギターとか、シンセとかピアノとか、ここ最近色んな楽器を演奏できるように練習してきたけど、歌は何て言うか個性がくっきり出て変えられない所があるし。機械のパーツみたいに気軽に声帯を取り換える事が出来たら話は別なんだろうけど。
「……後藤~」
「あ、はい!?ななな、なんでしょうカズさん!」
手持無沙汰になった僕は、部屋の隅で切れた弦を交換している後藤に声をかけた。すると彼女は自分が呼ばれるとは思ってもいなかったのか肩をびくっとさせて挙動不審になりながらこっちを振り向いた。
後藤ひとり。結束バンドのリードギター。
撮影の時は喜多が選んだ服で華やかな演奏をする彼女も、こうやってバンドの練習をしにスタジオに来る時はピンクの芋ジャージだ。スマホに映っている後藤ひとりは、もくもくと演奏に没頭する清楚でお洒落な女の子。
でも現実は悲しいかな。今スタジオに居る芋ジャージが彼女の素で、そして結束バンドで一番ギターが上手い、登録者数5万人を抱えるチャンネル『ギターヒーロー』の主だ。
ていうかまた白目剥いてたんだけど。どしたん?
「大丈夫?具合悪い?」
「あ、いえ……ナンデモナイデス……(言えない……ナチュラルにカズさんの肩に頭を置いてスマホを観る喜多さんとそれをめんどくさりながらも自然に受け入れてるカズさんを見てたら目が焼かれそうになっただなんて……。幼馴染ってあれぐらいの距離が普通なの?友達が一人もいない私にも分かる、あの二人距離近すぎ……リア充そのもの……なんであれで付き合ってないんだろ……。あの日以来、バンドの仲が不安定になるどころかより一層結束感が強くなったのは良いけどこの二人の絡みを観てると……あぁ、ひねくれ者でド陰キャな私にとっては失明するんじゃないかと思えるぐらいアオハルで目を焼かれる光景……Eternal True Love*3……グぽッ)」
黙りこくったと思ったらなんか口から血吐いてる。また一人で色々考えこんで勝手に自爆してるな……。後藤は唐突に死んだりミイラになったり亡者になったりするのでこの程度で動揺してはいけない。
「そ、それで何の御用でしょうか……」
「あー。この間の僕がボーカルした動画あるじゃん。ギターヒーローから見て、僕の歌はどうだった?」
「え、えっと……」
僕が軽くそう問いかけると、後藤はあわあわしながらきょろきょろしてぶつくさ言ってしばらく黙り込み……。
「ふ、普通……」
「お、おう……」
後藤と僕の間にずん、と重たい空気が生まれたのは気のせいじゃないと思う。相っ変らず会話続けるの下手だなぁこの子。1分近く百面相して悩んで絞り出した言葉が一言だけとは。
僕は自分の事をコミュ障な方だと思っていたが、後藤ひとりを見ていると僕がコミュ障を名乗るのはなんだか烏滸がましいような感じがしてくるのが不思議だ。
だが、彼女と知り合ってからもう4か月以上の付き合いになるのだ、この程度で会話を止めれば後藤ひとりとは一生会話はできない。それに、今のは僕の質問の仕方もふわっとしてて悪かった。もっとちゃんとした質問に変えよう。
「じゃあさ、改善する所はなかった?」
「……か、改善、ですか?」
「一応、エレキギターはそれなりに弾けるつもりだったけど、ボーカルをしながらだとやっぱり勝手が違うからさ。次にボーカルをするときの為に課題を見つけておきたくて。後藤から見て、直すべき所とか、こうしたらいいんじゃないかーみたいなアイデアはない?」
「……」
そう問いかけると、後藤は少し考えこみ始めて、俯きながらぽつぽつと話し始めた。
「えっと……その、た、確かに、歌の方は音が合ってたと思うんですけど、ボーカルの方に意識が向きすぎて、所々ちょっとギターはズレたな、って、一緒に演奏してた時は思いました……」
「ほうほう」
「それで、その……サビの入りの時に一瞬躊躇しましたよね?」
「あ、した。ちょっとビビった」
「さ、撮影前の合わせの時からそのミスがちょっと治ってなくて……。だから、歌い出しと、ピックのストロークのタイミングを合わせる事を、意識すればいいんじゃないかって……」
「…………」
「すすすす、すみません生意気言って私なんかがそんなカズさんの歌を偉そうに指摘できるほど私も上手に演奏できてないのにっ」
「いや、滅茶苦茶参考になった。ありがと後藤」
「――へ」
「さすが後藤。頼りになる」
「う、うぇへへへ、いいんですよ良ければもっとアドバイスしましょうかぁ?」
「すぐ調子に乗っちゃうんだよなぁ~」
出来たらそれ、撮影本番前の合わせの時に言ってくれたらパーフェクトだったのに……。
まあ、以前の後藤だったら「私なんかがアドバイスとかしたら相手を不快にさせて嫌われてしまう!『お前とやるバンド息苦しいよ』とか言われてバンドから追い出されてしまう!」とか無駄にネガティブに考えて相手に自分から提案なんて出来ないだろうから、これでも大分進歩した方だ。この調子で、僕以外のメンバーにもあれこれ主張できるぐらいメンタルが強くなってくれるといいのだが。
「そういえば、後藤のリードギターも大分良くなってたじゃん。コメントでも結構後藤のギターを誉めてる人多いよ」
「あ、わ、私も観ました……。嬉しかったです」
「最初期は合わせるのも大変だったけど、最近の後藤はチームプレイも大分慣れて来た成果じゃない?」
「ま、まだまだです。カ、カズさんに『みんなの音を聴け』って言われてから、出来るだけ耳で聴いて合わせる事を意識してただけで……。み、皆の目はまだ真っすぐ見れないですけど、音だけに集中するのは私に合ってたみたいだったので」
「そうだね。後藤がしっかり音を聴いて主旋律を弾いてくれるから、皆もそれぞれの演奏に集中できてる。あとはギターソロがもっと前に出てくればいいんだけど」
「あう……」
「SIDEROSみたいにリードギターがガンガン強く弾いてくれれば、それだけでもメンバーのテンションは上がるからね。でもこの調子で行けば、ギターヒーローと遜色がないくらい、生演奏でも演れるようになるよ」
「あ、そ、そうだといいです……」
「僕もボーカルでもっと声を出せるようにしないと。後藤と同じで色々な課題が山積みだ」
「で、でも、カズさんはシンセもギターも出来るのに……無理してボーカルをする必要なんて、ないんじゃないですか?リョウさんもコーラス出来ますし……」
「まぁ、確かに後藤の言うことも一理あるけど。でも、できるに越したことはないよ。SIDEROSのライブの時は感じなかったけど、微妙な歌になっちゃったし……もっと上手くなりたいんだ」
これからミュージシャンとして色々活動していくに当たって、ボーカルは出来るに越した事はない。この業界、意外と『歌いながら楽器を弾く』事が出来る奴は多い訳じゃないのだ。シンセやアコギを弾きながら歌えれば、演奏の幅を広げる事ができるし色々なバンドのヘルプとして誘われる事もあるかもしれない。それにハモリを歌えればコーラスもできるし、結束バンドでセッションをする時曲のレパートリーもぐっと増やす事ができる。
それに。
「一回、ボーカルやっちゃったら……もうやらないって選択はできないんだよ、少なくとも僕にとっては」
「……」
成功体験って言うのは、一種の麻薬だ。
SIDEROSでのライブは、僕の人生観を引っ繰り返すには十分な刺激剤だった。
色々課題が生まれたライブだったけど……僕がやりたい事が漠然と見えたライブでもあったんだ。
「か、カズさんは……」
「ん?」
「カズさんは、本当に……凄いですね……」
「そう?」
「は、はい……私にはボーカルなんてそんなのとても……」
「そうかな?後藤も十分素質はありそうだけど……。そのうちボーカルやってみれば?喜多と一緒にツインボーカルとか」
「む、ムムムム無理です絶対!!」
「いや、後藤も――」
「ムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムム!!!」
「そんなに嫌なのか……」
そんな首がちぎれるんじゃないかと思えるぐらいぶんぶんと振らんでも……。
でも後藤は後藤で素質があるのは確かなはずなんだ。僕は諦めきれずにしつこく食い下がる。
「まあコミュ障直すついでにボーカルも出来るようになれば……」
「ムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムム!!!」
「まだ首振ってる……」
イヤイヤ期ならぬムリムリ期である。
「あ!ぼっちちゃんがムリムリ首を振ってる!」
「ホントだ。余程嫌な事を強要されない限りああはならないのに……」
「カズ君後藤さんに何したの!!まさか後藤さんが断れないからって変な事を……!」
「誤解!!……って虹夏先輩、その手に持ってるの何です?」
後藤とだべっている間、スタジオの外に何か取りに行ったのは見えてたけど。
「これ?お父さんのワックスと櫛、使ってない奴上から持ってきたの!カズ君は髪の色を変えるより、髪型をちょっと変えるぐらいでいいと思うんだよ!素材は良いから、それを活かす方向でヘアスタイルをいじってみようよ!」
「えー……マジ?さっきのは適当に言っただけなのに」
「いーじゃんいーじゃん!言い難かったけど、カズ君ずっともじゃもじゃの髪の毛で気になってたの!だからこれを機にイメチェンしよー!リョウも再生数伸ばす為にも見た目を変えるのは良いって!」
「うん。まずは動画を開いて聴いてもらわないと評価もへったくれもない。幸い、カズは髪型さえどうにかすれば顔面偏差値は悪くないし、当面は見た目で頭の緩い女子を釣って聴いてもらおう」
「また炎上しそうな事を……喜多はどう思ってんの?」
「ひっっっじょ~~~~~~に不本意だけど、しょうがなく!しょうがなくね!カズ君をコーディネートしてあげる!」
「なんで半ギレなんだよ。いつも二人で出かける時は服とかあれこれ指定してくる癖に……」
「はいはい喜多ちゃん、嫉妬する気持ちは分かるけどこれも結束バンドのチャンネル登録者数を増やしたりカズ君のボーカルをもっといろんな人に聴いてもらう為でもあるんだから」
「しし、嫉妬なんてしてないです!!」
「んー……じゃあ先輩、お願いしてもいいです?僕はヘアスタイルなんてよく分からないんで任せっきりになっちゃいますけど」
「もちろん任せてよ!」
「虹夏、せっかくだからビートルズみたいなキノコヘッドにしよう。カズの毛髪量ならヅラを使わなくてもいけるはず」
「こーら、いくらなんでもそのチョイスは……」
「あ、いいですね!ビートルズのヘアスタイル!最高にイカしてるじゃないですかさすがリョウさん!」
「今日1番の食いつき!?」
「カズはビートルズの大ファンだからね。せっかくだからスーツも着てアー写撮っちゃおう。私はポール役で写真撮ろうぜぇ」
「えー、せっかく髪をイジるのにそんなコスプレみたいな……あ、そうだ!ぼっちちゃんも髪型変えなよ絶対そっちの方がいいから!」
「ムムムムム……え?」
「そういえばぼっち、いつも髪長いよね。美容室とか行かないの?」
「あ、こ、これは美容室行けないからそのまま伸びっぱなしになってるだけで……」
「そうよ後藤さん、せっかくお洒落な服も着れるようになったから、後藤さんも髪型お洒落しましょうよ!」
「遠慮しなくていいって!私がセットしてあげる!」
「あ゜っ」
ウキウキの虹夏先輩が後藤の前髪を搔き上げた瞬間――僕らの記憶はここで途絶える。
「おーい、お前らー。そろそろスタジオのレンタル時間終了だぞー。いつまでやって……ぎゃあああああああああなんだこれっ?」
「どうしたんですか店長急に叫んで……うわ、なんですかこれ。呪いの現場?」
「いつも明るさだけで乗り越えようとしてすみません……」
「ギター上手くならなくてごめんなさい……可愛すぎてごめんなさい……」
「お金借りてばっかのクズでごめん……ベース上手すぎてごめん……」
「問題起きたらとりあえずロックすればいいとか思っててすんません……」
「……どーします店長、救急車呼びます?」
「……放っておこ」
「……そーですね」
作中に登場したバンド名&曲名
Def Tech - Irie Got 〜ありがとうの詩〜
Elvis Presley - Jailhouse Rock
Simon & Garfunkel - The Sound of Silence
Shocking Blue - Venus
宇多田ヒカル - 誰にも言わない
NIRGILIS - SHINY SHINY
AC/DC - It's a Long Way to the Top
結束バンド - ギターと孤独と蒼い惑星
- あのバンド
アンジェラ・アキ - たしかに
Adele - Make You Feel My Love
Bob Dylan - Make You Feel My Love
Bruce Springsteen - Blinded by the Light
- Born To Run
Manfred Mann's Earth Band - Blinded by the Light
Phoenix - Lisztomania
- Winter Solstice
リーガルリリー
RADWINPS - 有心論
BANK BAND - 有心論
大瀧詠一 - 君は天然色
The Beatls - Blackbird
Rita Ora - Carry On
Nirvana - Smells Like Teen Spirit
阿部真央 - Believe in yourself
クラムボン - Lush Life!
3 Doors Down - It's Not My Time
Mr.Children - 少年
ロック万歳!(ソラール感)
前回もたくさんの感想、評価、誤字、ここすき、Xでの感想ポストありがとうございます。書くエネルギーをもらってます。低評価入れた人はFU【不適切な表現】ou。
くそっ、あつがなついぜ!
皆さんいかがお過ごしでしょうか。激熱(比喩ではなく)な日々が続いて夏バテした人も元気になれるような笑える話をさっと書いて投稿してみました。あとは3部への伏線をひとつまみ。
この小説を書くにあたって一番の難敵は「何の曲をオススメするか」ってことなんですけど、第二部を書き終えてあらかた「自分の好きな曲は大体書き終えたな!ヨシ!」ってなって三部はネタギレにならないかなーって少し不安になってましたが、しばらく時間を置くともっとオススメしたい曲とかバンドとかアーティストがじゃんじゃか湧いてくるのが不思議。さすがロック、自分なんかじゃまだまだ書き切れない程名曲がたくさんあるぜ!
今回のお話は、カズ君が喜多ちゃんに積極的に関わるようになる前と後でどんな風に関係性が変わったのか書いてみました。時系列的には中二の合唱コンクール前のカズ君と、喜多ちゃんと中央線を歌った後のカズ君。こんなんでもまだ二人は親友以上恋人未満な関係です。可愛いね。
後はSIDEROS編で書けなかった結束バンドのゆるーい日常的な風景を。やっぱり胞子化バイオハザードはちゃんと書かないとね……。
3部は二人がもっと接近する話を書こうかなとふわっとしたプロットを考えていますが、その前に他のメンバーとカズ君の絡みをそれぞれ個別に書きたいなとか目論んでたり。
友人達が作品をあれこれ褒めてくれて自分の承認欲求を満たしてくれるお陰で、モチベーションも底を尽きる気配は今の所は感じられません。でも感想とか高評価とかあったらもっと増えそうだな……(チラチラ)今後もゆっくりと書いていくつもりなのでどうぞよしなに!
↓いつもの宣伝
Xのアカウントでのんびり呟いてます。
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カーラジオと言う名義で新しく作ったアカウントです。ここではその時の気分で聴く曲を垂れ流したり小説の更新予告をしたりしてます。この小説内で紹介しきれなかったロックもここに載せていくつもりなので、よければフォローとかしてくれると嬉しいです。
あと、オススメ曲とかあればぜひこのアカウントに送り付けて欲しい。DMでもリプでも、推し曲があれば良ければ教えてください。絶対に聴きますので。
あと、活動報告にて推し曲募集中です。どうぞ、どしどし送ってください。
喜多ちゃんに推したい音楽
ここすき、Xで宣伝、感想などで幸福度を上昇させてるので、たくさんもらえればきっとモチベーションが上がるのでください(正直)
それではいつもので〆させていただきます。
感想もっともっともっと欲しいんだ……!
高評価くれ~感想くれ~!(承認欲求モンスター感)