【最終章開始】喜多ちゃんが知らない音楽   作:ガオーさん

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 夕方の午後5時頃。

 僕の家のチャイムが鳴った。

 

 

 ピンポーン。ピンポーン。

 

 ピポピポピポピ―――ン、ポーン

 

 

「やかましい!無駄にリズミカルなウザイチャイムの鳴らし方しないでくださいよ!」

 

 玄関の扉を開けると、制服姿のリョウ先輩がいつも通り何を考えているか分からない顔で立っていた。

 

「何の用ですか。今日はバンドの練習日じゃないでしょ?」

「……」

「ん?リョウさん?」

「ジェットストリーム*1

「なんで急に城達也なんですか」

 

 第一声がそれかよ。初っ端からマイペースが過ぎるよこの人。

 

「で、今日は何の用で――」

 

 グゥ――――――。

 

「……どうぞ」

「お邪魔します」

 

 今日もお腹空かせてきたパターンか。また金欠だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結束バンドのベーシスト兼作曲担当、山田リョウ。

 

 僕が今世の中で一番話が合う友人は誰か、と訊かれると、真っ先に名前が挙げられるのが実はリョウさんである。好みのバンドや曲が似通っており、僕に負けず劣らずのオーディオオタクなので話が抜群に合うのだ。それはリョウさんにとっても同じらしく、リョウさん曰く、僕は超親友(ブラザー)なんだとか。この話をすると喜多が物凄くいじけるのであんまり言わないのだが。リョウさん狂いの喜多にとって、推しが僕に盗られて嫉妬しているのだろう。多分。

 ダウナー気味な目つきと、ユニセックスで整った顔つき、それでいて感情をあまり表に出さない無表情はクールでミステリアスな雰囲気を醸し出していて、女の子をガチ勢へと魅了してやまないと喜多は熱弁していた。近頃の女の子はよく分からんね。

 確かにルックスが良いのは僕も同意する。身長も男の僕より少し高いし、見た目もカッコイイ系で美人だと身内から見ても唸らされてしまう程だから。男の僕でさえそう思わされてしまうのだ、きっと思春期の女の子には猛毒みたいな魅力があるのだろう。

 けれどその美点を打ち消す程のマイペースで金にだらしない所はどうにかして欲しいと言うのが、僕と虹夏先輩の目下の悩みである。最近は後藤にもこっそり金を借りようとしているみたいだし。

 まあ金欠で誰かに金を借りるのは百歩譲っていいとしよう。給料入ったら虹夏先輩経由で借金を取り立ててるし。その度に抵抗されるのは本当に面倒くさくて嫌だが、まあそれも千歩譲って良いとしよう。

 

 だけど、だけどね?いくら金欠で空腹だからって、その辺の野草を拾って食べるのだけはマジで止めて欲しいんだ。

 

 あれは確か正月が終わってすぐの1月中旬頃だった。

 何時もの様にSTARRYの練習スタジオで、後藤と僕が二人がかりで喜多にあれこれとエレキギターの弾き方を教えていた時の事。初心者の域を脱し、弾ける曲のレパートリーが増えた喜多に、色んな引き出しが増えるように様々なテクニックを教え込んでいた。

 

「3人共早いね」

「あ、リョウ先輩こんにちぎゃー!何喰ってるんですか!?」

 

 何の予兆もなくスタジオに入ってきたリョウさんは、草を食っていた。比喩とかではなく本当に草を食っていた。

 図書館で借りたらしい野草辞典を片手に、どこで拾ってきたのか名前も分からぬ草を手に、そして青臭い葉っぱを口いっぱいに頬張ってスタジオに入ってきたのだ。スタジオに草の独特な匂いが漂ってくる。こんなの驚くなと言う方が変だろ。

 

「野草。お金ないから」

「限界すぎるでしょ」

「ほ、本当に草食べてる……!えぇ、『ぼっちがお金を貸さないから飢えを凌ぐために草を食べます』って、あれ冗談じゃなかったんだ……」

「先輩……ワイルド!」

「え?」

 

 喜多のいつも通りの反応にドン引きする後藤を後目に、僕はリョウさんから草を取り上げる。

 

「いくら金がないからってその辺の名前も分からない草を食べないでくださいよ!」

「大丈夫、ちゃんと食べれる野草を調べて選んでるし、それに世の中には段ボールで飢えを凌いだ中学生もいる」

「あんたホームレスじゃないでしょ!」

 

 家が金持ちで僕もびっくりするぐらいの小遣い貰ってるくせにどうしてそんなすぐに金欠になるんだよ。

 

「リョウ先輩、今度は何を買ったんですか?」

 

 喜多が少し困った風に尋ねると、リョウさんは悔しそうに唸りながら言った。

 

「パートオフに通い過ぎた……もう生産が終わったエフェクターとかハイエンドベースが半額で転がってるのを見たらついマイニューギアしたくなって……!おのれパートオフ……!私の血と汗の結晶(バイト代と食費)をよくも!」

「ひ、ひどい責任転嫁」

「後藤の言う通りだよ……。え、リョウさん、まさか三食これじゃないですよね?」

「……」

「目を逸らさないでくださいよ。芋虫か何かになるつもりですか?」

「カズ、もしかして私が好きでこんな草を食べてると思ってる?バカにするのも大概にして欲しい」

「誰が見てもリョウさんはバカだよ」

 

 なんで逆ギレしてくるんだよ。怒りたいのはこっちの方なのに、本人はマジで生命の危機を感じているので大真面目に飢えを凌ぐ為に野草を食べているのだからもう手に負えない。そのうち公園にいるセミとかなんか虫を獲って食べ始めそうだ。おおよそ華の女子高生の食生活とはかけ離れ過ぎだろ。

 

「ぼっちぃ……タスケテ……お金がないからご飯が……栄養が……」

「あわわわわわ」

 

 外聞もへったくれもなく後輩の足に縋り付き、目をうるうるとさせて哀れみを誘うリョウさん。後藤は普段のリョウさんの様子とはギャップがかけ離れていてプチパニックを起こし始めてる。やめろよそんな風に縋り付いたら後藤は断れないだろ。

 パニくる後藤を守る為に僕は大慌てでリョウさんを引き剥がした。

 

「うぐぅ……お腹減った」

「だ、大丈夫ですか、リョウ先輩……やっぱり、私が少しでもお金を貸して――」

「喜多、約束」

「――は無理なのでこのいろはすで我慢してください!」

「い、郁代ぉ……」

 

 喜多が謎の罪悪感に襲われてつい財布を取り出そうとするので釘を刺す。金をリョウさんに貸したら喜多母にチクると言う約束だ。こうでもしないと、リョウさんにでろでろに甘い喜多は無限に金を貢ぎそうだしな。

 当てにしていた頼みの後輩2人からの援護は絶望的だと悟ったリョウさんは打ちひしがれて床に膝を突き、恨めしそうに僕を睨んだ。

 

「鬼、悪魔。もう少しでこの極貧生活から抜け出せそうだったのに……」

「隙あらば後輩から金を借りようとしないでください……。このまま無駄遣いを続けてるとマジで餓死しますよ?」

「その為にこれで腹を満たしてる」

 

 どこに隠し持っていたのか、また懐から野草を取り出して食べ始めるリョウさん。心なしか勢いよく野草を喰らうその姿はコアラに近い物を感じる。愛くるしい見た目をしているがユーカリという毒の葉を食べているせいで脳に栄養が行かず実は恐ろしく頭が悪いらしいコアラ……。

 見た目は美人だけど実はバチクソに脳みそが小さいリョウさん、見た目キュートだけど頭空っぽのコアラ。おまけに主食は草。……リョウさんは実はコアラだった可能性が?

 

「喜多、リョウさんがコアラだったらどう思う?」

「何言ってるのカズ君?そんなの、可愛過ぎて世界中の密猟ハンターに狙われちゃうじゃない!急いで総理大臣になって特別天然記念物に指定して大切に保護しなくちゃっ!リョウ先輩の可愛さを狙って心無いハンターに撃たれて死んだら世界の大損失よー!」

「えぇ……(薄々気付いてたけど、喜多さんってもしかしなくてもやべー人……?)」

 

 相変わらずリョウさんの事になると頭ハッピーハッピーハッピーな幼馴染だ。

 まぁ、リョウさんの気持ちも少し分かる。オーディオ関係の機器を集めるのは本当に楽しいのだ。けれど音楽関係の機材はとかく、金が掛かる。そりゃもうめちゃくちゃかかる。音楽の敷居が高いのも、初期費用が結構掛かるのが原因の一つだと僕はひそかに考えている。一中高生が手を出していい趣味ではないのだが、前世でのライフワークをそう簡単に止められる程、僕はオタクをやめれていない。

 

「まあ、ハイエンドは金が掛かりますからね……。名ブランドの物を選んだら猶更」

 

 ギターやベースは職人が手作業で一本一本造るから、それに釣られてコストが跳ね上がり値段も爆上がりになる。電子部品の値段も海外の市場によっては上下したり、小さなパーツ一つでも高級品と低級品によっては値段が10万以上差が出たりするのだ。

 そんなに高いの買わないで安いので我慢すればいいじゃんと思うでしょ?

 でも悲しいかな、人間と言う生物は一度贅沢(ハイエンド)を味わってしまうと下位モデルでは絶対満足できなくなってしまう生物なのだ。リョウさんも一度ハイエンドの楽器に触れてしまったのだろう。二度と抜け出せない楽器沼にハマってしまったのだ。もう手遅れです。

 

「……カズもオーディオ機器に無駄遣いしてるくせに」

「リョウさん程刹那的な買い方はしてないです」

「いやあ」

「褒めてない」

「そ、そういえばカズさんの家に前に行った時、たくさんスピーカーとかヘッドホンありましたね……あ、あれもハイエンドなんですか?」

「そうなの……ああは言ってるけど、カズ君もリョウ先輩に負けず劣らずで結構浪費家で金銭感覚がおかしいのよ。毎月たくさんCDやレコード買ってるし。だからいつも服とか買うお金ないし、美容室にも行かないで頭の髪の毛伸びっぱなしなのよ。カズ君ったら、中3にもなって床屋で適当に散髪してるし……」

「いいでしょ別に。節約の一種だ」

「30万のスピーカーを買うぐらいだったらユニクロ以外の服もたまには着てよ!一緒に出掛ける時恥ずかしいんだから!」

「さ、さんじゅっ……!?」

「後藤、そんな『うそでしょ』って目で見ないでくれる?喜多も、人聞きの悪い事を後藤に吹き込まないでよ。中学三年生が30万もするスピーカーを買う訳ないじゃないか」

「そ、そうですよね……よ、よかった」

「精々が15万前後だよ!タダだよ実際」

「うん。15万のスピーカーは実質タダ」

 

 リョウさんと意見が合ったのでハイタッチしておく。イエーイマイニューギア楽し~。

 

「え、えぇ……怖い……私が知らない世界の金銭感覚を当然の常識みたいに語ってくるのが怖い……!」

「沼は心地よくて……暖かい……ぼっちもハイエンド沼に来ない?一緒にマイニューギアしようぜぇ」

「あっあっ……わ、私も欲しいエフェクターが……でも生産中止になってプレミアが付いてて……」

「ダメよ後藤さん!そっちに入ったら二度と戻れなくなるわ!」

 

 そんな事を言っている喜多だが、彼女は知らない。自分もハイエンド沼に片足一歩入り込んで既に膝まで飲み込まれている事を。

 僕の家にあるプレイヤーやスピーカーはもっぱらミドルグレードからハイエンドモデルの物が殆ど。彼女はそんな最高級の音を聴ける環境(僕の家)に入り浸って音楽を聴き続けてる。最近のお気に入りはラルク*2の『Link』だったね。良いセンスだね(満面の笑み)。

 ついでに言うと、僕がこの間のクリスマスプレゼントであげたDENONのヘッドホンも6万以上するミドルグレードのヘッドホンだ。電気屋のポイントとSTARRYのバイト代を合わせてなんとか買ったなかなかの高級品だ。彼女はそれを毎日のように使っていると僕に嬉しそうに先日報告してくれたし、この間見せてもらったイソスタにはヘッドホンを着けた自撮り写真を何枚もアップロードしてくれていた。最近はヘッドホンと合うファッションを模索しているんだとか。

 断言できる。BoseとかDENONとかのヘッドホンを一度でも味わうと二度と1万円以下の安物イヤホンは使えない。それまで普通に使えていた5000円ぐらいのイヤホンやヘッドホンが、DENONを使った後だと耳が受け付けなくなるのだ。ソースは前世の僕。*3

 既に兆候が出てるらしく、喜多が随分昔に自分で買った安物のBluetoothイヤホンを使った時。

 

「あれ、このイヤホンこんなに音にノイズあったかしら……故障?今度買い替えなきゃ……」

 

 みたいなことを不思議そうに首を傾げながら言っていたので、もう半分手遅れになっていると思われる。沼は皆で入らないと……寂しいもんな(暗黒微笑)。

 

「……やっぱり、私がちゃんとカズ君のお財布握っておかないと!家族計画は慎重に立てなきゃ!」

「……え?き、喜多さん?」

「なんでもないわよ、後藤さん!」

「アッハイ」

 

 喜多が何か恐ろしい事を言っていた気がするが、この際スルーしておく。

 

「僕もスピーカーやイヤホンに少なくない金を注ぎ込んでいるのでアンプとかエフェクターとか新しい機材を集めるリョウさんの気持ちも分かりますけど……。最低限人間らしい食生活はできるようにしてくださいよ」

「むぅ……そう言うカズはいつもどうやってお金を調達して機材を買ってるの?バイトもしてない癖に……はっ、もしかして私が知らないお金の稼ぎ方とかマルチ商法を知っているとか?先生、わたくしめにも是非、その錬金術を伝授していただきたく……」

「してないよ。普通に節約してるだけだっての」

 

 親から貰った十万単位の小遣いとバイト代を瞬く間に浪費するリョウさんとは違い、僕はセールや電気屋で貯めたポイントを駆使してハイエンドのヘッドホンを買っている。あとは親父や母さんのお下がり。これでも結構我慢して新発売の最新プレイヤーとかスピーカーとかをスルーして資金を積み立てているのだ。他にしてる事と言えば、親から貰った生活費を出来るだけ自炊して節約したり、佐藤さんの記事の校正のバイト代を貯めたり、その末にハイエンドをじっくり吟味して買っている。欲しい物があればホイホイと湯水のように金を消費するリョウさんと一緒にしないでほしい。散財してるのは同じだろだって?違うんだよなぁ。

 

「ともかく!こんな野草、生で食べてたら死にますよ?マネージャーとして言いますけど、ちゃんと食生活を正してください。ライブとか練習中にぶっ倒れましたは笑えませんって!」

「大丈夫。ちゃんと食べれる野草選んでるし、お腹を壊すのも織り込み済み」

「いやそうじゃなくて……。ちゃんと処理していない野草には寄生虫がいて食べると死ぬらしいんですよ」

 

 僕がそう言うと、残った草を口に入れようとしたリョウさんの手がぴたりと止まった。

 

「え、え、野草ってそんなに危険なんですか?」

「らしいよ後藤。ネットで聞きかじった程度だけど、葉っぱにカタツムリやナメクジが通るとその跡に寄生虫が残るらしいんだ。その寄生虫、人間の頭に寄生して死亡させる事故があるって」

「そ、それは怖いですね……」

「でしょ?それに知らんおっさんとか犬の小便かかってそうで普通に汚いし病気になってもおかしくないんじゃない?」

「た、確かに。りょ、リョウさん、それ以上草食べるのはやめた方が……あれ?」

「……リョウ先輩?」

「…………リョウさん?おーい、大丈夫ですか?」

 

 食べる手が止まったかと思ったらぱさりと床に野草の束が落ちた。様子が変になった事に気づいた僕達は不思議に思い、三人でリョウさんの顔を覗き込むが、当の本人は何も反応せず……と思ったら指を一本ぴんと伸ばし、リョウさんはそれを自分の口元の前に置いた。

 

「リョ、リョウさん?顔を青ざめさせて人差し指をどうし――あ、まさかここでは止めてくださいスタジオの中ですよやるならトイレかどこかにぎゃあああああああああ!!」

「きゃー大変!リョウ先輩大丈夫ですか!?」

「後藤バケツ!!そこのバケツ!バケツ持ってきてくれえええ!」

「あ、は、はい!!」

 

 僕の話にビビったリョウさんが人差し指を喉の奥に突っ込んで戻そうとしたのでスタジオはプチパニックになった。幸い、フォローに回った後藤と喜多のおかげでリョウさんがゲロインに降格する事はなかったが、あと一歩遅かったらリョウさんの真正面に居た僕の服とスタジオの床が大変な事になってたかもしれない。

 そんな顛末が有ったおかげで、リョウさんが野草を拾い食いする事はめっきりなくなった。けれど野草すらも食べなくなったリョウさんはあっという間に栄養失調に陥り、数日も経たずにげっそりと頬をこけさせ始めてしまったのだ。元々食い意地が張っている人だから、野草すらも手を出さなくなればどんな空腹が彼女を襲っているかは想像に難くない。

 自業自得とは言え、このままではマジで餓死してしまう手前になったリョウさんを可哀想に思ってしまった僕は、ついつい仕方なく「じゃあうちに食べに来てください」と言ってしまったのだ。

 

 これが、リョウさんが僕の家に寄生し始めるきっかけになってしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼氏にしてはいけない3Bはベーシストベーシストベーシストだよ、というのが虹夏先輩が提唱する力説である。

 実際に統計を取ったとかちゃんとした根拠はないらしいのだが、ライブハウスで色んなバンドを見て過ごしてきた虹夏先輩にはそう映って見えたらしい。酒クズ、金クズ、女クズ……ロックバンドに色んなクズが居る中で、大半がベーシストに分類されるんだとか。

 もちろん、全てのベーシストがそうだとは言わない。歴史上に現れた偉大なロックバンドでベーシストが色々問題を起こすのは様式美みたいなところはあったとしても、必ずしもベースをする人間がクズだとは思わない。

 けれど残念な事に、恋人にするべきではないと言う虹夏先輩の言葉には同意せざるを得ないと言うのが、ここ最近僕が出した結論だった。

 リョウさんは何に当てはまるかな。金クズ?それとも飯クズ?あるいはその両方かもしれない。

 

「カズ、味噌汁ちょっと薄い。もっと濃いめにして」

「図々しいの権化かよこの人……」

「それにしても昨日は虹夏の家でパスタだったから、今日は白米を食べたい気分だった。さすがカズ、私の事をよく分かっている」

「別にリョウさんに配慮した覚えはないんですけどね!」

 

 たまたまスーパーで安かったシャケがあったのでシンプルに焼きシャケと味噌汁を作っただけだ。和風になったのは偶然である。

 

「ていうか、また虹夏先輩の所に行ったんですか?」

「うん、最近は虹夏→カズ→虹夏→カズとループさせてもらっている。これが私の飯サイクル」

「迷惑すぎる」

 

 リビングで堂々と白米と味噌汁を喰らうリョウさん。その食いっぷりは惚れ惚れすると同時に呆れもする。「食い溜め」とかほざいておかわりした回数はもう3回目だ。

 リビングに流れる『展覧会の絵』*4を聴きながら優雅に飯を食べるリョウさんは、遠目に観れば令嬢が雅に夕食をとっているように見えなくもない。僕のスマホのパスワードを勝手に開けてリビングのコンポを勝手に繋げて勝手に曲を流すのは頂けないが、この人、やっぱ育ちがいいからか箸の使い方とか上手なんだよな。

 

「ついカッコつけて『展覧会の絵』をかけたけど、白米に『展覧会の絵』は合わないか……。カズ、打首獄門同好会の『日本の米は世界一』にして」

「情緒の落差が激しすぎる」

 

 クラシック曲を聴いている途中にそんなバリバリのネタ系ロックを流すのかよ。

 まあいいんだけどさ。僕は言われた通りスマホを操作して曲を切り替えた。

 

「うむ。やはり日本の米は世界一……。カズ、明日の夕食は丼系にして。かつ丼とかだと最高」

「作りませんって!か〇家かなんかに一人で行ってください!」

 

 次の日、僕も丼系が食べたくなったので結局かつ丼作った。リョウさんも結局来た。美味しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音楽一家の僕の家の地下には、機材室がある。

 機材室と言えば聞こえはいいが、少し前まで親父と母さんが集めた楽器や道具など色んな物をただ無秩序に放り込んで置いた物置部屋だった。二階建ての僕の家の、廊下の階段を下りた地下室がその機材室。ギターやドラム、ベース……どこから集めて来たのか、トロンボーンやらバイオリンやら、中古のビンテージ物の楽器が各種揃えられており、やろうと思えば小さなオーケストラぐらいは出来そうな楽器たちが眠る部屋となっていた。

 元々は母さんがピアノを練習する為の練習室だったらしい。僕の祖父にあたる人が、ピアニストを志す子供の頃の母さんの為にわざわざ地下室を練習室として改装したんだとか。その名残として、今もこの部屋の奥にはYAMAHAの少し大きいアップライトピアノが設置されたままである。

 そこから時が経ち、母さんの練習室はバンドメンバー達の練習室兼たまり場としてサロンのような場所にリフォームされた。若かった親父達が酒を飲みつつ作曲、練習、色んな事を手軽に出来るようにドラムやアンプなどはもちろん、ソファやパソコン、オーディオ機器なんかを持ち込み、やがてバンドを解散した後は色んな機材を放り込む物置になってしまった。

 そして現在、物置だった部屋はいくらか整理され、使われないバイオリンやコントラバスは中古屋に引き取られ、あれだけ物が散乱していた部屋はスタジオへと変貌した。我ながら見事なリフォームだと思う。片付け滅茶苦茶大変だった。どれぐらい大変かと言うとまともに使えるようになるまで1ヵ月ぐらい掛かったほどで、しかしその価値は十分にあった。今は僕専用の趣味部屋だ。お気に入りのソファ、余っていたコンポ、そしてアンプとギターとピアノ。僕が好きな時にギターを弾けてピアノを弾けて、そして疲れたらCDで音楽を聴ける僕だけの趣味部屋になったのだ。

 リョウさんが僕の家に訪れるのは、半分が夕飯、そしてもう半分がこのスタジオが目当てである。本人曰く「家は親のせいで集中しにくい」らしい。ここにパソコンを持ち込んで作曲に勤しむのだ。

 夕飯を食べた後はソソクサと我が物顔でスタジオへと直行し、直ぐに作曲を始めた。

 自前で持ち込んだノートパソコンと白い譜面をテーブルに広げ、僕のアコースティックギターをいじりながら結束バンドの新曲を書き始める。

 

「んー……ここは……」

 

 リョウさんは眉間に皺を寄せながら、ギターの弦を軽く弾く。フレーズを何回か繰り返すと、少し離れたソファに座っていた僕の方を振り向いて来た。

 

「今のどう?」

「悪くないと思いますけど、今のフレーズどう聴いてみてもビートルズの『Get Back』っぽくないですか?」

「やっぱり?弾いてて自分でも思った。さっき曲流してたのがちょっと耳にこびり付いてたみたい」

 

 リョウさんは舌をぺ、と出しながら、また何も書かれていない楽譜に向き直った。

 彼女の足元には、何枚も没になってくしゃくしゃに丸められた紙の塊がいくつも転がっている。

 

「ふんふふーん……ううん、こうじゃなくて、もっと、ふーふふ……ううん……」

 

 独り言のようにメロディーを呟いてはそれを試す様にピックを弾き、そしてそれを楽譜にメモする。すらすらと線がつながったようにしばらくペンが動き続ける事もあれば、数十分動かずに止まったりなんかはしょっちゅうだ。

 創作活動は、自分の血肉を削り取って生み出す行為だと、誰かが言っていたのを思い出す。

 血管を絞るように、自身の魂の内側すらも削って、その破片を繋げて音符を組み立てる。0から1を生み出すその行いは、楽な作業ではない。少なくとも、リョウさんの後ろ姿は苦しそうに見えた。

 

「んー……詰まった」

「そろそろ休憩したらどうです?もう1時間ぐらいずっとそのままじゃないですか」

「うん。そうだね……。カズ、何かオススメの曲かけてよ」

 

 持っていたギターを降ろし、リョウさんは疲れたように肩を自分で揉みながら僕の隣に座り込んだ。ソファにどかりと座り込んだリョウさんはそのまま背もたれに身体を預けて目を閉じる。

 

「何の曲がいいです?」

「んー……暗い曲の方がいいかな。それでいて激しい曲」

 

 リョウさんは目を閉じたままそう言った。

 僕はそのリクエストに応えるべく、部屋の奥にセットして置いてあるコンポを起動し、スマートフォンを接続する。

 

「暗くて激しい曲か……」

「ぼっちの歌詞は暗いからね。私が上手く音を組み立てたいんだけど……インスピレーションが上手く動かなくて。ちょっとヒントになるような曲が欲しい。あと純粋に良い曲聴きたい」

 

 僕とリョウさんは、音の好みが結構似ている節がある。

 レッドツェッペリンやビートルズと言った古いバンドを中心に洋楽を網羅する僕に対して、リョウさんはアンダーグラウンドな曲を好んでディグる。ジャンルで言うとオルタナティブが中心だ。流行の逆張りをするひねくれたオタクのようで、それでいて王道的なPOPミュージックも幅広く聴く。

 あとはマイナーで珍妙エレクトロな曲とか。

 

「グループイノウの『HAPPENING』みたいな奴ですか?」

「ううん、そう言う気分じゃない……あれはAC部のMVで観たい……」

「分かる」

 

 ぱぁん、とハイタッチが交わる。

 

「Nothing But Thievesはどうです?『Graveyard Whistling』とかすごかったでしょ」

「うん。あのアルバム最高だった。カズが送ってくれた和訳歌詞も最高にセンス決まってたし。でもそれよりは激しい感じのがいいな」

「うーん……じゃあ洋楽?邦楽?」

「邦楽の気分」

「オッケ」

 

 僕はささっとスマホを操作して曲を検索し、再生ボタンを押した。

 

「ART-SCHOOL知ってます?」

「ううん、知らない。なんて曲?」

「『サッドマシーン』です」

 

 僕がそう言い終わるやいなや、スピーカーからイントロが流れ始めた。

 リョウさんはそれを聴いた瞬間、背もたれから身体をばっと起こして、真剣に音を聴き始めた。

 

「いいじゃん、これ。神曲の予感」

「でしょ」

 

 同級生たちに聴かせれば首を傾げられそうな曲を、リョウさんは「良い」と言ってくれる。自分のセンスが間違ってない、良い物だと他人から認めてもらえるのは、やはりとても嬉しい。

 喜多は僕のチョイスも聴いてくれるけど、やっぱり本人の性格もあってか綺麗で明るい曲調を好んでるし、グランジミュージックは布教し難いのだ(聴かせないとは言ってない)。

 こういう音を共有する時、やっぱりリョウさんが一番僕と波長が合う。言葉にして出す前に、曲を聴いて感じた事や思いついた事が、感覚として既に伝わっていたような。

 気分を良くした僕はリモコンを操作してボリュームを上げる。

 地下室はこういう時便利だ。いくらバカでかい音を流しても近所迷惑にはならない。

 深く重いアルペジオと、それに強引に割り込むドラムの音。そしてダークな歌詞。スピーカーから大音量で響く力強い音は、地下室で反響し、音が大きな塊みたいに圧縮され、僕らを包み込む。

 

 Sad machine

 You’re sad machine

 俺を救って

 Sad machine

 You’re sad machine

 精一杯の笑顔で 助けてよ

 

「なんでこれ有名じゃないの?こんな……ええ、なんで?」

「僕が聞きたいですよそんなの」

「このサビのフレーズ凄く良い……これ、ちょっと流用できないかな」

 

 曲が終わりに差し掛かると、リョウさんはソファから抜け出して元の作業椅子に座り込み、作曲の作業を再開し始める。どうやら今の曲がリョウさんのインスピレーションを搔き立てたらしい。やはりART-SCHOOLは神か……。作曲の邪魔しちゃ悪いかと思い、再生していた曲を停止する。

 しばらくフレーズを口ずさんでいたリョウさんは、やがて何か思いついたのか譜面に何かを書き込み始めた。

 1度、作業中のリョウさんに「作曲って楽しいですか」と訊いてみた事がある。

 

「楽しくない時の方が圧倒的に多いよ。正直めんどくさいし、アレンジの方が楽。元からある曲をいじるだけだしね。でも、楽な状態から書けた曲って、私自身手を抜いてるって感覚がするんだ。10分20分でささっと書いた曲より、1日中悩んでやっと書き上げた曲の方が、私自身好きな曲になる事が多いよ。愛着も湧くし。……それに最近気づいたけど、山ほど没になっても数か月後に使えるフレーズになったなんてことも多いし、今はとにかく自分の中から曲を生み出して書き溜めておきたいんだ」

 

 リョウさんが譜面から目を離さずにそう言った時の表情を、僕は今でも覚えてしまっている。

 こういう時、心底思う。リョウさんは、浪費家で、マイペースで、後輩に金を借りるクズいところがあるどうしようもない人だけど。

 この人はベーシストなんだと。0から1を生み出せる音楽家なんだと。

 僕もいつか、リョウさんのように作曲をし始めるのだろうか?

 でも、リョウさんみたいに机に噛り付いて、血を流すように譜面に魂を書き込む自分の姿を上手く想像できない。自分が書いた曲を、上手に奏でる自信もない。

 僕は0から1を生み出す創造者にはなれない。少なくとも今はまだ。

 

「できた。とりあえずイントロだけ」

「早速弾いてみます?」

「うん。私ベース弾くから、カズはエレキでこれを演ってみて。軽くでいいから」

「了解です」

 

 でも、0から1を生み出す創造者の手助けぐらいはしたい。僕はやっぱり、リョウさんが書く曲が好きだから。

 物置に置かれたままだった親父のエレキギターをアンプに繋げ、リョウさんに向き直る。リョウさんも準備が出来ていたようで、彼女の相棒であるベースが既にセットされている。

 僕は譜面を見ながら何度か試しで弾いてみて、ある程度覚えたらセッションしてみた。

 まだ曲名もつけられていない、何者でもない音を繋いでいく。前世で聴いたどのアルバムにも載っていなかったメロディーが、僕とリョウさんの手の中で行き来する。

 イントロだけの譜面だからか、演奏はすぐに終わった。

 

「…………」

「どうです?」

「うん、没」

「ですよね~……」

 

 なんだこの作曲を覚えたての中学生が書いたみたいな譜面は!難しすぎて半分ミスったわ。少なくとも初見じゃ僕には弾けない。これがバカテクのヨヨコさんとかなら弾けるかもだけど……。結果、良いとも悪いとも言えない微妙な演奏になってしまった。

 リョウさんは頭をがしがしと掻いて、ベースを降ろして溜息を吐いた。

 渾身の出来だと思っていたのだろう。リョウさんは項垂れるようにソファに顔から飛び込んだ。

 

「頭の中ではうまく行きそうだったのに……いざ音を出してみたら全然良くなかった」

「でもここのフレーズいいじゃないですか。難易度滅茶苦茶高いですけど……多分これ、ツインギターにすればいけるんじゃないです?音を二分割して重ねればなんとか……」

「ううん、仮にそうやって組み立てても、ぼっちならともかく郁代にはまだ弾けない……またお蔵入りだぁ。しくしく」

「ちょ、落ち込まないでくださいよ。それに、確かに独特でウケにくいかもしれないですけど数年経ったらまた使えるかもしれないから――」

「時代が私に追いついてないだけか……」

「なんだこいつ」

「お腹減った。カズ、夜食作って」

「あ、さてはそんなに凹んでないなこの人」

 

 僕が嫌ですと断るとリョウさんはいじけてソファの上でじたばたし始めた。埃立つからやめろっての。

 ……ん?

 

「今、チャイムの音鳴りました?」

「……ううん、私には聞こえなかった。誰か来た?」

 

 耳を澄ましてみると、上の階から物音が響いてるのが聞こえるような気がする。防音が利いてるから、この部屋はあんまり外からの音は響きにくい。

 試しに耳を澄ましてみると……なんとなく、上の階からがちゃり、という音が響いた気がした。

 

「……泥棒か?」

 

 そういえば玄関の扉の鍵は……閉め忘れてたっけ?ちゃんと鍵は閉めたはずなんだけど……。

 自分の不用心さに呆れながらも、僕は急いで扉を開けようと――した瞬間、タイミングがいいのか悪いのか、がくん、とドアノブに手を掛けた瞬間向こう側から引っ張られた。

 

「カズくーん!おじゃましまー……あれ、どうしたの?」

「ぐおお……」

 

 物凄い勢いで引っ張られた反動で肩が一瞬外れそうな感触が……。

 

「虹夏じゃん」

「あ、リョウ!やっぱりここにいた!」

「虹夏先輩?」

 

 痛みを堪えながら顔を上げると、そこには虹夏先輩がスーパーの買い物袋を持って立っていた。

 

「お、お邪魔します……」

「カズ君、お邪魔してるわよ!」

「二人も一緒だったんだ」

 

 そして先輩の後ろには、少し疲れた表情を滲ませる後藤と、いつも通りにこにこの喜多が立っていた。

 

「なんで普通に入ってきてるの?鍵は掛かってなかった?」

「チャイムしたしスマホにも連絡したんだけど、二人共でなかったから入ってきちゃったわ!合鍵で」

 

 見ると、喜多の手には可愛らしい熊のキーホルダーが着けられた見慣れた鍵が……僕の家の鍵じゃんそれ!

 

「え、なんで喜多が僕の家の合鍵を!?」

「この間、カズ君のお母様からもらったの!『これからもうちのバカ息子と仲良くしてあげてね』だって!」

「何してるんだよ母さん!!」

 

 ていうか知らない間になんで人の家の母親と仲良くなってるの!?

 

「カズ君ってば、私がお出かけに誘っても既読スルーするし居留守するって、この間ばったり会ったお母様に相談したら快くくれたの~!」

「喜多ちゃん、着々とカズ君への包囲網を立て始めてるね……」

「ていうか、カズさん居留守して立て籠ってたんですね……私の家には友達が遊びに来た事なんて一度もないのに……」

「カズ、結婚式の時はちゃんと呼んでね。美味い飯楽しみにしてる」

「好き勝手言いやがって……!」

 

 ただでさえここ最近、僕の休日は喜多のお出かけに差し押さえられて半ば無理やり付き合わされてるのに、これじゃあ居留守も出来ないじゃないか!僕の家の玄関は喜多によってもはやガバガバの穴と化した。

 後でこっそりあの鍵回収しなくちゃ……!僕の穏やかな休日の為にも……!ただでさえリョウさんに半分侵略されかけているのに、これ以上喜多に荒らされたらたまらない。

 

「それで、今日はどうしたの?バンドの練習はなかったんじゃ」

 

 僕がどうやって喜多の懐からあの鍵を盗ろうか考えていると、リョウさんは首を傾げて虹夏先輩に尋ねていた。

 

「リョウ、忘れたの?今日は喜多ちゃんとぼっちちゃんがSTARRYで研修してたんだよ!」

「ああ、今日だったんだアレ」

 

 STARRYでブッキングライブをする為には、とかく金が必要だ。特にチケットのノルマ代を稼ぐことが急務である。結束バンドのチャンネルはこの間登録者数が2000人を超す事が出来たが、まだまだ収益化には程遠い。

 なのでノルマ代を稼ぐべく、僕と喜多と後藤はSTARRYでバイトをすることになったのだ。僕はクリスマスの時からちょくちょくヘルプとして呼ばれているが、喜多と後藤は初バイト。今までは中学生と言う事でバイトはできなかったが、もう少しすれば高校生になる。

 高校生になって本格的にアルバイトとして雇う前に、体験と言う事で喜多と後藤にはSTARRYで簡単な研修を受けて来てもらったのである。

 

「初バイト、とっても楽しかったです!高校になったらあそこで働けるの、とっても楽しみです!(キターン!!)

「おーい、喜多ちゃん、楽しかったのは分かったから光量落として~……」

「後藤はどうだった?」

「し、死ぬかと思いました……」

「お、おう……」

 

 今にも息絶え絶えと言った表情で呻く後藤。人と関わるのが好きと公言している喜多は接客なんかはまさしく得意分野だろうが、後藤にとっては相当精神的負担を強いたらしい。

 最初、バイトをしようと虹夏先輩が提案した時、コミュ障の後藤は滅茶苦茶嫌がった。そりゃもう、その日一番の声が出るぐらい嫌がった。

 けれど後藤だけバイトに参加しないと言うのは体裁が悪い。必死の説得の末、後藤は「バイトして給料出れば新幹線で学校に通えるよ」と言う言葉に頷き、渋々だったがバイトをする事になったのだ。

 

「ま、まあ新幹線代の為にも頑張ってくれ……」

「あ、あい……」

 

 後藤が住んでいる神奈川から下北沢まで鈍行で片道二時間。これが新幹線になればもっと楽にSTARRYや高校に通える。元々後藤の移動時間問題は何とかしなければいけないと思ったので、渡りに船だ。

 これを機についでにコミュ障も改善されれば万々歳なのだが……まあ、希望的観測だ。

 

「それで研修が終わったから、お疲れ様会を兼ねてスーパーで飲み物とかお菓子とか買って来た!後はお弁当をちょっとね。カズ君もお腹空いてるでしょ?」

 

 時計を見ると、針は既に夜の10時に差し掛かろうとしている。

 言われてみると、確かに小腹が減っているのを感じた。

 

「虹夏ナイスタイミング。ちょうど夜食が欲しいと思ってた」

「リョウ先輩!ちょうど新発売のチョコがあったんです!一緒に食べましょう!」

「うむ、ありがたくいただく」

「カズ君はコーラでいい?ほら、ぼっちちゃん、から揚げあるよ!」

「あ、ありがとうございます……」

「とりあえず、お疲れ様。虹夏先輩何か聞きます?」

 

 僕がスマホを片手に虹夏先輩に訊いてみると、ぱっと明るく笑った。

 

「お、いいねえ!じゃあカズ君、Katy Perryの『Part Of Me』流してよ!カズ君のオーディオシステムで一度聴きたいな~って思ってたんだよね!」

「あ、虹夏先輩ずるいです!カズ君、その次はDean Lewisにしてよ!この間教えてくれた、えっと……」

「『Straight Back Down』?」

「そうそれ!私、今度これを結束バンドの皆でカバーしたいんです!カズ君、ボーカルお願いね?」

「嫌だ」

「即答!?」

「良いセンスだね、カズ。その次はBrand New Sinにしよう。この間のSIDEROSのライブでメタルも熱いんだよ最近。『Sad Wings』流して」

「はいはい。後藤は何か流したい曲ある?」

「あ、えっと……」

「ぼっちちゃん、遠慮しなくていいんだよ~?ここまで最高の音質でお気に入りの曲流せるなんてそうそうないんだから!」

「あ、じゃ、じゃあFoo Fightersの『Run』をお願いします……」

「それにしても相変らず凄い部屋だよね~ここは。喜多ちゃんとカズ君はいいよね、いつもここで最高音質で聴けるんだから」

「後藤さんのその曲、私知らない……あ、そうだカズ君、私あなたに文句言いたかったの!」

「なんだよ」

「私ずっとカズ君のヘッドホン使ってるせいで安いイヤホンを全然使えなくなっちゃったのよ!どうしてくれるのよこれからBoseとかのイヤホンしか使えなくなったら!」

「Boseのイヤホン使えばいいじゃん、たった4万だよ?」

「そうだよ、郁代。たった4万だよ」

「リョ、リョウ先輩まで……!」

「相変わらず二人の金銭感覚バグってるね……。あれ、リョウここで作曲してたの?」

「あ、うん。イマイチだったからそこにあるの全部没だけど……」

「へぇー……ね、これ後で弾いてみようよ!」

 

 僕の日常は、音楽で満たされている。

 けれど最近の僕の家は、僕が普段聴く以外の雑多な音が混ざっている。

 少し前まで嫌いだった誰かの雑音。スピーカーの音を遮るような、ヘッドホンから流れる音を曇らせるような邪魔な音。

 けれど、今はこの部屋に満ちる皆の言葉や声が、とても大切に感じられる。誰かと音楽を共有して、共に奏でるのは、本当に楽しい。

 やっぱり、音楽は凄い。僕が知らない楽しみ方が、まだまだたくさんある。

 お菓子を摘まみながら、リョウさんの新曲が綴られた譜面について言い合う皆を眺めつつ、僕はスマホの再生ボタンを押した。

*1
ラジオ音楽番組『JET STREAM』。初代パーソナリティは城達也が務めた。

*2
日本のロックバンド『L'Arc〜en〜Ciel』の略称。

*3
個人の意見です。

*4
組曲『展覧会の絵』の事。1874年にロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキーによって作曲された。元々はピアノ曲だが、多くの作曲家によって管弦楽向けにアレンジされた。曲ごとに拍子が違うのは歩きながら絵を見ているという、歩調を表しているとも言われている。




作中に登場したバンド名&曲名
L'Arc〜en〜Ciel - Link
展覧会の絵 - モデスト・ムソルグスキー
打首獄門同好会 - 日本の米は世界一 -
The Beatls - Get Back
group_inou - HAPPENING
Nothing But Thieves - Graveyard Whistling
ART-SCHOOL - サッドマシーン
Katy Perry - Part Of Me
Dean Lewis - Straight Back Down
Brand New Sin - Sad Wings
Foo Fighters - Run


 ロック好きに悪人はいねえ…(エルデンリング感)


 前回もたくさんの感想、評価、誤字、ここすき、Xでの感想ポストありがとうございます。でもちょっと前回の話の感想少なかったな……。もっと欲しいな(チラチラ)
 低評価入れた人は【不適切な表現】ck You。


 劇場版総集編後半を観たその日に書いています。
 冒頭のOPの喜多ちゃんの表情に心臓麻痺がおこり、EDの新曲に心臓麻痺を起こしました。弐撃決殺を喰らっていた……。そして気付いたらそのままの勢いで、前回の話の続きを書いていました。
 ネタバレになるのであまり詳しい事は言えません、けれど絶対、総集編後半を観た人は、ぼっち・ざ・ろっくをもっともっと好きになる。そういう力があると思います。さあ映画館に行こう。


 そして久しぶりに自分でオーディオシステムを組みました。
 Marantzのアンプを中心に組み上げたオーディオシステム。ついでに初のアナログレコードデビュー。今までCDとサブスクを中心に使っていたんですが、アナログレコードパネエってなってます。さすがMarantz。
 読者の中にアナログレコード愛好家がいて、もし「レコードで聴くならこれがオススメだよ」って人は是非ツイッターの方にDMくれると嬉しいです。今は宇多田ヒカルとColdplayのレコードを収集していますが、近い内にジャズの方にも手を出したい…。音楽は一生楽しめますね。給料が吹き飛んだのは観なかった事にしますが。

 
 ↓いつもの宣伝

Xのアカウントでのんびり呟いてます。

X(旧Twitter)

 カーラジオと言う名義で新しく作ったアカウントです。ここではその時の気分で聴く曲を垂れ流したり小説の更新予告をしたりしてます。この小説内で紹介しきれなかったロックもここに載せていくつもりなので、よければフォローとかしてくれると嬉しいです。
あと、オススメ曲とかあればぜひこのアカウントに送り付けて欲しい。DMでもリプでも、推し曲があれば良ければ教えてください。絶対に聴きますので。

 あと、活動報告にて推し曲募集中です。どうぞ、どしどし送ってください。

喜多ちゃんに推したい音楽

 ここすき、Xで宣伝、感想などで幸福度を上昇させてるので、たくさんもらえればきっとモチベーションが上がるのでください(正直)
 

 それではいつもので〆させていただきます。

 
 感想もっともっともっと欲しいんだ……!
 高評価くれ~感想くれ~!(承認欲求モンスター感)

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