【最終章開始】喜多ちゃんが知らない音楽   作:ガオーさん

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話し合いは最も遅いコミュニケーション手段だ。

音楽の方がずっといい。

僕たちは音楽を通じて外の世界と繋がるんだ。


The Beatles - ジョン・レノン



革命

 4月1日。誰かにとってはいつもと変わらない平日で、誰かにとってはエイプリルフールで、そして僕らにとっては高校の入学式の日だ。

 入学式に遅れない程度に行こうかなとのんびり考えながら焼いたパンを食べていると、またしても侵略型宇宙人喜多郁代が現れた。僕の家に彼女が襲撃してくるのはもう慣れたと言うべきか、諦めの境地に達した。玄関からいつもの様に合鍵で入ってきた彼女は口調も足取りも浮き上がっていて、早朝だと言うのにめちゃくちゃ上機嫌。

 

「カズ君見て見て!どうかしら、高校の制服!可愛くない?(キターン!!)

「いやもうこの間も試着で僕に何度も自撮り送ってきたじゃん……」

「何度でも見て欲しいから送ってるの!」

「勘弁してよ……いつも思ってたけど、男子に自撮り送るって恥ずかしいとか思わないの?」

「……全然?」

 

 小さな間があったけど、なんでもないように喜多は答えた。

 

「イソスタにいつも自撮り上げてるし」

「そうだった……」

 

 頭が痛くなる。現代っ子の感覚おかしいよ。若い体に引っ張られて忘れそうになるが、こういう事があると自分が人生二周目のおじさんだと言う事を頭を殴られたみたいに思い出す。これが世に訊くジェネレーションギャップかぁ。

 

「それよりほら、今日から高校生、新一年生よ!早く学校へ行って、校門の前で記念写真撮りましょうよ!(キタキターン!!)

「ぐぉお眩しい……!分かったから光量落として……!」

 

 真新しい制服に身を包んだ喜多は、いつもの数倍眩しい。

 新学期、高校進学初日の入学式、おニューの可愛い制服、新しい通学路、そして春独特の過ごしやすい気温と晴れ渡った空。

 喜多はまるで太陽が降臨してきたかのようなテンションの高さだった。彼女の周りだけ気温が夏になったような感じだ。これからはサングラスだけじゃなくて日傘も用意するべきかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~相変らず仲が良いね二人共ー」

「あ、さっつー!おはよう!」

「おはよう佐々木。今日からよろしく」

「おはよー。井上、相変らずヘッドホン付けててウケる」

 

 バスを乗り継ぎ、学校の最寄りのバス停を降りると、喜多と同じく真新しい制服に身を包んだ佐々木が僕らを待っていた。喜多が嬉しそうに駆け寄ると、スマホ片手に2人でツーショットを撮り始める。朝から元気だね。

 

「二人共、今年もよろしくね~。昼休みはまた中学の時みたいに練習するの?」

「んー……空いてる良いスペースがあったらやるつもり」

「ならまた二人の歌を聴かせてよ~。ラジオ代わりに聴いてやっからー」

 

 けらけらと笑う佐々木。そういえば僕らの昼休みのギター練習に、佐々木はいつも顔を出してくれてたっけ。僕らの弾くギターの音や歌を聴きながら弁当を喰ってはあれを弾いて欲しいとかそんなに上手くないとか、笑いながら野次を飛ばしていた。

 喜多とは腐れ縁だとかちょっとうんざり気味に言うけど、やっぱり親友なんだろう。心なしか、佐々木の表情は明るい。

 

「もー。さっつーそろそろお金取るわよ?」

「いーじゃん喜多ー。ノルマチケット?協力してやったんだからさー。今日の放課後のライブも中学の連中、みんな連れていくから覚悟しろよー」

「しょうがないわね。なら新しいクラスメイトにも結束バンドの事、宣伝しておいてよ!」

「もち任せてー」

 

 喜多のお願いに、佐々木は親指を立てて快く了承してくれる。

 佐々木はヒップホップやラップを好んでる。ていうか好んでるとかじゃなく中学ではダンス部でヒップホップを踊って歌う筋金入りのヒップホッパーだ。喜多とはまた違うベクトルでイマドキなタイプで、Creepy Nutsの『よふかしのうた』とかSALUの『LIFE STYLE』とか、STUSの『Expressions』とかを好んでよく聴くらしい。僕もDef Techの『Catch The Wave』とかSTEADY&CO.の『Stay Gold』とか好きなのでその辺の話は合った。一つ残念だったのが、僕が好きなビートルズやツェッペリンにはあまり興味を持ってくれなかった事だ。本人曰く聴いてもあんまりぴんと来なくてロックバンドに魅力を感じないらしい。仕方ないとはいえ、布教に失敗するのは少し悲しい。

 

「助かるよ佐々木。正直、あんま人にチケット売るの得意じゃなくてさ。ノルマ分だけじゃなく追加で売ってきてくれたおかげで、今日のライブは黒字確定だよ」

 

 けど友人の喜多がボーカルをやっているからか、結束バンドの宣伝とか集客には結構協力してくれている。先月課せられた結束バンドのチケットノルマを捌けたのも、佐々木が力を貸してくれたのが大きい。僕がクラスメイト達相手にチケットを買ってもらおうと悪戦苦闘をしていたら「ウチが売って来てやる」と言って僕のノルマの半分を捌くだけじゃなく、後藤のノルマと追加のチケットも捌いてきてくれたのだ。

 

「いーよいーよ。ウチら友達なんだからさ。こんなのでお礼言わなくていいって。ただ喜多目当ての男子に売っただけだし。チケット買えば喜多と握手できるかもよーって適当に言ったらすぐ売り切れたよ。別に確約した訳じゃないのにね」

「悪魔だ……」

 

 哀れな。佐々木の口八丁でチケットを買わされた男子達に思わず同情してしまう。男子ってなんて悲しい生き物なんだ。

 

「それにウチにも得があるから」

「得?」

「ウチが井上からチケットを買い取って、値段を上乗せして喜多のファンに売ってやってんの。井上達はノルマをこなせて、ウチも小遣い稼げて、Win-Winって奴?」

「転売じゃねえかふざけんな!」

「冗談だよ冗談。ちゃんと正規の値段で売ってるからさー」

「ホントか?」

「ホントホントー」

 

 転売、ダメ、絶対。

 

「売上に協力したんだから代わりにいいライブにしてよねー」

「それは僕じゃなくて喜多に言って。今回僕は裏方だから」

「そーなの?じゃあ喜多の歌がつまんなかったらキャンセル料払ってね」

「残念ながら払い戻しは効きません」

「んだとー?」

「チケット捌くの手伝ってくれたお礼にドリンクサービスするから。それで勘弁してよ」

「やったぜー」

「二人共仲良いわね……」

「「そう?」」

 

 思わず顔を見合わせて首を傾げる。佐々木とちゃんと話す様になったのは、中学の後半からだ。いつだったか、佐々木と偶々二人きりになった事があり、その時に「いつまでウチの事さん付けで呼ぶんだよー」と怒られたので、それ以来タメ口で話す間柄になった。

 今でこそ喜多を介して遊びに行ったり会話をする程度には仲が良くなったけど、中学入学当初、僕は誰とも関わらずできるだけ息を潜めて過ごしていたから、佐々木がどんなキャラだったのかあんまり記憶にない。せいぜいが喜多とよくつるんでいた事とか、クラスの催しやイベントの盛り上げ役だったなーぐらいしか印象にない。

 今にして思うと、ちょっともったいなかった。もう少し早く仲良くなれれば、喜多がイソスタ用の映える写真を撮る為に悪戦苦闘していた秘蔵動画をもっと早く観る事が出来たのに。

 

「ま、井上の音楽のセンスは良いからねー。色々オススメ曲とか教えてもらってる内に仲良くもなるよ。ウチ海外のヒップホップとか英語わっかんねーから、井上が色々オススメ貸してくれたり歌詞を翻訳してくれんの助かるんだわ。それにCD貸してくれるし。あ、そうだ井上、2Pac*1のアルバム貸してくれて助かったわー。『Changes』とか滅茶苦茶よかった!」

「お、良かった。僕もこの間教えてもらったSOUL SCREAM良かったよ。特に『蜂と蝶』が一番良かった」

「さすが井上、分かってるね!ウチもその曲好きだわー」

「むぅ……いつの間に滅茶苦茶仲良くなってる……」

「もー妬くなよ喜多ー。そんなに心配しなくても井上は喜多のだよ?」

「妬いてないっ」

「いや僕は誰の物でもないんだけど?」

「はっ、ひょっとして井上じゃなくてウチ?ごめん喜多、ウチは喜多の事、友達としてしか観れない……」

「なんで私が振られたみたいにするのよさっつー!」

 

 分かりやすく拗ねる喜多の肩を、佐々木は飛びつくように抱いてよしよしとあやし始める。これがてぇてぇって奴か?

 

「で?喜多ー?ちゃんと制服の自撮り送ったー?言っただろーあいつ喜多のイソスタ見ないんだからラインで送った方が手っ取り早いって」

「お、送ったけど……やっぱり図々しいって言うか、押しが強くなかった?自意識過剰な子だって思われてないかしら……いくら自撮りには慣れてても、さ、さすがにカズ君に見せつけるのは恥ずかしいって言うか……」

「なーに言ってんの。もっと喜多はぐいぐい行くべきだよー。男なんて脇とか首筋とか太腿見せてけば嫌でも意識するって!外堀はもう埋まってるんだから後は喜多次第。つーかもう押し倒してさっさと既成事実作ればいいのに。はよくっつけ」

「さっつー!」

 

 こそこそと喜多に余計な事を吹き込むなよ!あの自撮りの嵐はお前の入れ知恵か!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雑談もそこそこにバス停から校門へ向かって歩き始める。学校が近づくにつれて、自分達と同じ新入生達が道端に増え始めた。

 

「でもまた喜多と同じ学校に通う事になるとはねー。そろそろ喜多の顔も見飽きたなー」

「もーこっちの台詞!でもまたさっつーと同じクラスになれたら中学合わせて4年連続ね!」

「腐れ縁って言う他ないねー。でも井上とも4年連続って事になるね?ウチら、結構長い付き合いになるし」

「言われてみれば……。喜多と同じって事は佐々木と3年連続で同じクラスになってたのか」

「そゆことー。あんまつるんでなかったから全然そんな感じしないね?あ、でも喜多と井上は幼稚園の頃から一緒なんでしょ?」

「そう!カズ君とはなんと、12年連続よ!」

「小憎たらしく誇るね~」

 

 心なしかどや顔で無い胸を張る喜多。それのどこが自慢になるんだ?

 

「だって12年よ、12年!すごい確率じゃない?きっと神様が一緒になれるようにしてくれて……るんじゃないかしら……

「最後の方までちゃんと言えよ喜多ー。照れて顔真っ赤にしてないでさー」

 

 頬をトマトみたいに紅潮させた喜多が佐々木に飛び掛かった。

 言われてみると、確かに都内の学校で12年間ずっと同じクラスメイトに振り分けられる確率は滅茶苦茶低いはずだ。けれど僕と喜多は3歳児の頃からの付き合いなので、ざっと換算すると12年近く同じ学び舎の同じ教室に通っていた事になる。神様か何かが意図的に振り分けているのだとしたら、やはりあの百合の間に男を挟む事を性癖とするド畜生な神様の仕業なのだろうか。

 

「でも井上、秋には留学しちゃうんでしょ?ならその記録も今年までだねー」

「ぐぶぅ!」

 

 組みついた佐々木が放つ一言は、喜多に何故か会心の一撃を与えたらしい。唐突にライトのスイッチをオフにしたみたいに表情が真っ暗になった。それを見て僕らは呆れたようにため息が漏れ出てしまう。

 

「もー、喜多はまだ受け入れてないの?いい加減慣れなって。そんなんじゃこいつアメリカに行った後、寂しくて保たないよ?」

「だってぇ……」

 

 先ほどの太陽みたいな光を潜ませて急にじめじめとしたオーラを発し始めた喜多は、佐々木の胸に顔を押し付けてしくしくと泣き始めた。やめろよ周りの他の新入生から変な目で見られるだろ。

 

「……」

「ん、どしたの井上」

「いやなんでもない」

 

 ショックを受けている喜多を見て、クラス替えについてあの事を言うべきか少し悩んだが、僕は言わない事にした。少し後ろめたい気分もあるが、せめて学校に着いてから真実を話すべきだろう。だって今言っても後で言っても、絶対へそを曲げて機嫌を取らなきゃいけないし。面倒事は後回しにするに限る。

 ちなみに中学のクラスメイトには去年の冬頃、僕が秋にはアメリカへ発つ事を既に打ち明けているので、佐々木も僕の事情を知っている。

 それを知ったクラスメイト達は「まあ井上だしなぁ」とか「アメリカぐらい余裕で行きそう」とか「土産買って来いよ」とか「金パツボインの姉ちゃん紹介しろよ」とか雑な反応だった。もっとなんかあるだろと思わなくもない。

 

「おーよしよし……井上、早くなんとかしてよ。私の制服濡れちゃうじゃん」

「喜多ー、ほら、飴ちゃんだよ」

「大阪のおばちゃんか?何で持ってんの」

「あ、おいしい」

「それで機嫌直してる喜多も普通にウケるんだけど。さすが喜多の飼い主だね」

 

 飼い主ってなんだよ。問い質したくはあったが、面倒くさくなったので僕は無視して歩く速さをあげた。「無視すんなよー」と文句を言ってくる佐々木の声を聞こえないフリをして歩道を進んでいくと、すぐに校門へとたどり着く。

 僕らの新しい学び舎、秀華高校。設立されてからまだそんなに時間が経っていない、真新しい校舎と先鋭的な建築デザイン。校門を次々と通っていく新入生達。

 僕にとっては二度目の高校生活、半年しか通わない学び舎。それでもやっぱり、新しい環境と言うのはなんだかんだ少し心が躍る物だ。

 そして、結束バンドの文化祭ライブ。

 

「やっと着いたわね、カズ君!……カズ君?」

「ん?あ、ああ。何でもない。楽しみだね、喜多」

「うん!」

 

 前世の友人の言葉を信じるなら、結束バンドはこの学校の文化祭でライブに出演する事になる。どういう経緯でそうなるかは分からないけれど、きっと伝説的なライブになるんだろう。

 15年間、僕はそれをずっと待っていたと断言しても過言ではない。きっと素晴らしい歌を披露してくれると言う確信がある。それは、僕が彼女の歌を前世から聴き込んでいたから知っていると言うのもあるけれど、一番の理由はこの半年間、最も近くで結束バンドを、喜多を見守って聴いてきたのは僕だからだ。

 彼女達なら、きっと過去に輝いてきた偉大なアーティスト達に並ぶ、とても強いバンドになれる。僕の心だけでなく、きっと多くの人々を照らすロックンロールを響かせてくれる。

 これからの新生活に目をきらきらと輝かせる幼馴染の横顔を見ていると、僕もなんだか嬉しくなった。

 

「あ」

「どした?」

「あれ後藤さんじゃない?」

 

 喜多が僕の袖を引っ張って言うので、彼女が指を差す方を見ると、校門の直ぐ傍の電柱の影に隠れる後藤の後ろ姿があった。不安そうな表情で校門へと流れていくたくさんの新入生たちを眺めている。

 そんな後藤の背中を見つけた喜多は、嬉しそうに駆け足で向かった。

 

「後藤さーん!」

「ひゃいっ!!あ、き、喜多さん……」

「え、今口からなんか出てなかった?」

「気のせいだよ多分」

 

 唐突に声を掛けられて驚いた後藤の口から、物理的に心臓が飛び出しそうになったのが見えたが、なんとかそれを自力で押し込んで体内に戻した。

 

「おはよう!今日から同じ学校よ、これからよろしくねっ」

「ああああ、よ、よろしくお願いしますぅ……」

「後藤、おはよう」

「おおおぉお、おはようございます……」

 

 おどおどとしながらも、後藤は僕に挨拶を返してくれた。……見た感じ、昨日みたいな情緒不安定にはなっていないみたいだ。虹夏先輩と何を話したかは知らないけれど、サボリから帰って来た二人はどこか晴れやかな表情をしていたし、これなら心配はないと思う。

 それにしても……後藤が制服着てる。すげぇ珍しい。

 普段はピンクジャージか喜多セレクションの一張羅しか観た事がなかったから、なんと言うかスゴイ新鮮だ。いや新鮮と言うより違和感と言った方が正確かもしれない。女子高生のちゃんとした恰好のはずなのに、「こうあるべきじゃない」と言うか……。顔や髪型とかは後藤そのものなのに一歩引いて全体像を見るとまるで後藤じゃない別の誰かを見ている気分になる。ていうか普通に美少女じゃん。誰だこいつは。

 そんな違和感に僕が苛まれていると、佐々木は後藤へフレンドリーに声を掛けた。

 

「久しぶりー後藤ー」

「ああああ、あのあのえとえとあのえとねー……?*2

「後藤さん落ち着いて!この子は私とカズ君の中学からのクラスメイトなの!」

「あーそっか。あの時ちゃんと自己紹介してなかったもんね。ごめんごめん、いつも動画観てるから後藤の事知った気になっちゃってた。なんか馴れ馴れしかった?ほら、去年のライブで会ったじゃん。客席側で隣に居た――」

「あ、あの時の……」

 

 後藤は去年のライブの時の事を思い出したのか、はっとしたように目を見開く。そういえば佐々木と後藤はこれが初対面じゃないのか。ステージの袖からホールを覗いていた時、後藤が佐々木に一方的に絡まれていた事を思い出す。初のライブハウスでテンションが上がった我がクラスメイト達に巻き込まれた後藤には同情の念が沸いたなぁ。

 

「そ。佐々木次子。よろしくね」

「あ、は、はいよろしくお願いしますっ!!(こ、高校生になって初の友達を作るチャンス!な、何か会話を……!)さ、ささささん、せ、背ぇ伸びました?」

「親戚?」

 

 フフ……へただなあ、後藤くん。へたっぴさ……!距離のつめ方がへた……!

 

「後藤、大丈夫だよ。佐々木は変な奴だけど悪い奴じゃないから」

「おーい変な奴ってなんだよー」

「佐々木はバンドの動画の拡散とかいつも協力してくれてるんだ。今回のチケットノルマも協力してくれたし、安心して大丈夫だよ」

「あ……わ、私のノルマもひょっとして……?」

「そ~。動画いつも観てるよ。後藤さんのギター、いつもバカテクだし、去年のライブも滅茶苦茶カッコよかったから印象に残ってんだよねー」

「え……あ……(さ、ささささんスゴイ良い人だぁ……!)」

「今日のライブも期待してるよー」

「う、うぇへへへ任せてくださいこの天才ギタリスト後藤ひとりに……!良ければ何かリクエスト曲弾きましょうか?くるりの『ばらの花』とかおすすめで――」

「あ、ごめん。うちヒップホップしか聴かねーんだわ。喜多達がやってるバンドの曲みたいなのはあんま興味ない」

「ア、ハイ(終わった)」

「後藤さん融けてる、顔が融けてるわ!あとで記念写真撮るんだからせめて原型は留めて!」

 

 新生活早々後藤が水に漬けた紙粘土みたいに融け始めた。ちょっと褒められて調子に乗った所を佐々木がぶった切ったからその急降下に耐え切れなかったらしい。

 

「あ、でもこれぐらいならちょっと整えるだけで大丈夫そう。カズ君やすりある?」

「あるよ」

「さすがね!」

 

 カバンの中からやすりを取り出していると、佐々木がちょいちょいと僕の制服の袖を引っ張ってきた。その表情は困惑が滲んでいて、その目は少し引いているように見えた。

 

「ねえ井上。喜多と後藤って、ロックバンドやってんだよね?」

「え?うん。当然じゃん」

「なんで当然みたいにやすり持って……つーかロックバンドのマネージャーって何やってんの?」

「…………」

 

 その質問に僕は即答することができなかった。

 思わず自分の手の平に収まっているやすりと校門の前で融け始めてる後藤を交互に見比べてしまう。なんで僕、バンドのマネージャーなのにやすりなんて常備してるんだ?マネージャーの仕事とは……一体?

 いやおかしい。間違いなく僕はバンドのマネージャーをしていたはずだ。普段僕がやっているのはスケジュール管理とか動画編集とか、後はリョウさんの弁当を作ったり喜多のお出かけに付き合ったり失神する後藤を看病したりとか……。自分で考えてて怪しくなってきた。

 なんて答えればいいか分からずしばらく逡巡し、やがて絞り出すように出せた僕の答えは――

 

「介護みたいなもん?」

「じゃあそれはマネージャーじゃなくて介護士じゃね?」

 

 ぐうの音も出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、佐々木に結束バンドがコミックバンドではないと説明しつつ、なんとか後藤を修復。喜多のスマホで4人の集合写真を2枚、僕と喜多、佐々木と喜多、後藤と喜多のツーショットをそれぞれ何枚か校門の前で記念写真を撮り、玄関に向かった。

 

「お、クラス分けが出てるじゃん」

 

 上履きに履き替えて玄関の先を進むと、階段のすぐ脇に大きな掲示板が設置されていた。新入生達がそこに大勢群がり、祭りのような人垣が出来ている。大勢の同級生達の頭越しに、学生番号と名前がずらりと書き出されたクラス分けが張り出されているのが見えた。

 

「あ、ウチと喜多、また同じクラスだ」

「本当?やったわね!」

「これで4年連続かよー。マジでなるとは思わないじゃん」

「いいじゃない!今年も一緒!」

 

 ドライな反応をする佐々木とは対照的に、喜多は嬉しそうにはしゃいだ。

 秀華高校は学科選択があり、国際学科と普通学科と総合学科の3つの学科がある。入学時に生徒はそれぞれ学科を選択し、それに応じてクラスが分けられる。ちなみに喜多と後藤と佐々木の3人は普通科選択だ。

 

「えーっと……後藤さんの名前は……あ、2組……」

「…………オワッタ」

「だ、大丈夫よ後藤さん!昼休みお弁当持ってそっちに行くから!だから死なないで、さっき顔を治したばっかりなのよ!」

 

 死んだ目で口から魂が抜ける後藤。

 喜多と佐々木は3組で、後藤は2組だった。まあそう都合よく同じクラスにはなれないよね……。後藤がもし同じクラスなら色々とフォローが出来るんだけども。

 

「私もカズ君と同じクラスだし、一緒にお昼ご飯食べましょ!ね、カズ君!」

「あれ?井上の名前、ウチらのクラスになくね?」

「え?」

 

 掲示板をしばらくじっと見つめていた佐々木が怪訝そうに言うと、喜多がぽかんと口を開けた。

 

「僕7組だよ。国際学科だし」 

「……ホワイ?」

「だって喜多は普通科でしょ?僕は留学するから国際学科を選んだし、クラスが同じになる訳ないじゃん」

 

 僕がそうあっさりと答えると、喜多は目のハイライトを真っ暗に落とし、ぎぎぎと壊れたロボットみたいにこっちを見た。いや怖。ミーガン*3か?

 

「キイテナイ。ナンデサキニイッテクレナカッタノ」

「だって言ったら絶対『普通科にしろ』って言ってくるじゃんか。……いや怖い怖い怖い目のハイライト消したままこっち来んなって!それにどうせ昼休みとか一緒に過ごすんだしクラスが別だからって大した事は――喜多?おーい……。し、死んでる」

 

 入学早々、秀華高校の玄関先に二つの死体が出来上がってしまった。二人共魂が口から抜け始めてるよ。ウソみたいだろ。死んでるんだぜそれ。

 

「喜多はずーっと井上と同じクラスになれるの楽しみにしてたからねー。あーあー、井上は人の心とかないんか?」

 

 呆れたように溜息を吐きながら佐々木は「責任取れー」とぼやきながら僕に肩パンを繰り出してくる。痛い。

 もう面倒くさいから放置して自分の教室に行こうかなと考えたけど、このまま廊下に死体遺棄をしたら通行人の邪魔だな。しょうがないから僕は喜多を、佐々木は後藤を背負ってそれぞれの教室に届ける事になった。

 

「これじゃあ介護士じゃなくて葬儀屋だねー」

「上手い事言ったつもりかよ」

「ま、今年も退屈しないで済みそう。改めてこれからよろしくね井上ー」

 

 相変らず楽しそうに笑う佐々木と、溜息しか出ない僕。

 入学初日から先が思いやられるなこれは。徐々に冷たくなっていく喜多を背中越しに感じながら僕はそんなことを思った。あとで喜多の目が覚めた時、どうやって機嫌を取るべきかなと頭を悩ませながら。

 ちなみに、喜多を背中におんぶしながら廊下を歩いてたら当然だが他の新入生に目撃され、僕は一学期初日から色々な噂を呼び込んでしまうのだが……。それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで喜多ちゃん、ずっとご機嫌斜めなんだ?」

「斜めじゃないです!クレイジー音楽オタクのカスなんて、ほんっとうに、1ミリも気にしてませんから!」

「めっちゃ気にしてるじゃん」

 

 ぷりぷりと頬を膨らませながら喜多が異議を唱えると、とうとう虹夏先輩がこみ上げてくる笑いを堪えられずに噴き出した。

 入学式とガイダンスを終えた僕達は一足先にSTARRYに向かい、開店準備を始めていた。佐々木はヒップホップ部を見学して開店まで時間を潰してから客として来るらしい。そして案の定、機嫌を損ねた喜多は帰り道、僕と目を合わせるどころかひとっ言も喋らず、ずっとシカトしたままホールの掃除を続けている。カス君なら誤字の可能性がまだあったのにとうとう君付けで呼んでもくれなくなり、ただの悪口(カス)になってしまった。涙が出るね。

 

「同じクラスになったら隣の席になって教科書見せ合ったりとか、日直の作業を一緒にやったりとかノートの切れ端で手紙を投げ合ったり先生に当てられて分からない問題を教えてもらったりとかそういうのを密かに楽しみにしてたとか全っ然、もうまったくありませんから!」

「滅茶苦茶ウキウキだったじゃん」

 

 虹夏先輩がくすくすと困ったように笑っていると、ホールの奥からリョウさんが戻って来た。

 

「虹夏、今日の作業は終わったよ。軽く鳴らしたいから、スタジオ貸して」

「オッケー!まだ全員揃ってないから、リョウは先に喜多ちゃんと一緒にやってて。リハまで時間あるけど、本当に軽くだよ?終わったらミーティングだからね!」

「分かった。郁代、いくよ」

「りょ、リョウ先輩!名前で呼んでくれるのは嬉しいですけど、その言い方だとただのダジャレになっちゃうからやめてください!」

「やだ」

「ぐぅ……でもリョウ先輩のそう言う傍若無人な所も好き……」

 

 喜多の機嫌なんて知った事じゃないと言わんばかりにリョウさんはスタジオへ向かい、喜多もそれに着いて行った。本人はそんな気はないだろうけど、喜多を連れて行ってくれた事に僕は少しリョウさんに感謝したい。ブチキレた喜多、怖いんだもん。

 

「またやらかしたねカズ君。後でお詫びでも差し入れしたら?」

「……原宿とか新宿のケーキとか?」

「いやもう中学生じゃないんだからさ。ケーキで釣るとか思春期の娘との距離のつめ方分からないお父さんみたいだよ」

「ぐふっ」

 

 なんて的確で鋭いツッコミ。転生者の中身おじさんの僕にとってはクリティカルヒットの攻撃だった。おい、心は硝子だぞ。

 

「ちゃんと大事にしてあげなよー。もうカズ君がここに居れる時間はそんなにないんだから」

 

 我儘で言う事を聞かない子供を優しく諭すように、虹夏先輩はそう僕に諭してくる。

 僕は何とも言えずにその気まずさを誤魔化す様にがしがしと頭を掻く。そんな様子を見ていた先輩は呆れたように溜息を吐いて言った。

 

「謝り難いなら、ケーキとかじゃなくて何か物を贈れば良いんじゃない?」

「物……ですか、じゃあ――」

「消耗品はダメ!エリクサー*4とかはもってのほかだよ!それで喜ぶのはリョウだけだからね!」

 

 逃げ道を潰されてもうお手上げだった。

 

「じゃあ何を贈ればいいんですか……」

「そりゃもちろん指輪とかネックレスとか。給料3か月分!」

「虹夏先輩?」

 

 じとりと睨むと、虹夏先輩はいたずらがバレた子供みたいに舌を出して茶化した。

 

「まあ冗談はさておいて……。で、ぼっちちゃんはどうして消えちゃったの?」

 

 僕を揶揄ってひとしきり楽しそうにしていた虹夏先輩は笑みを潜めて小さく咳ばらいをし――とうとう本題に入った。

 

「あーまぁ……迎えに行ったらもういなかったというかなんというか……」

 

 どういう風に説明したらいいか判断に困って、僕は言葉を少し濁した。

 後藤が行方をくらましていた事に気付いたのは、放課後になってすぐの事だ。不機嫌になった喜多をあやしつつ、後藤が所属する2組の教室に向かったら後藤の姿はどこにもなかったのだ。昨日のグループラインで「一緒にSTARRYに行こう」って喜多とやりとりしてたはずなのに。

 すぐに校舎内を探し回ったが見つからず、電話してもメッセージを飛ばしても一向に反応はなく、後藤は完璧に姿を消失させてしまったのだ。

 

「昨日話した時はぼっちちゃん、そんな感じじゃなかったのにな……やっぱり私達と一緒に演るの、嫌だったのかな……」

 

 虹夏先輩が不安と落胆を混ぜたように悲しそうに呟いたので、僕は慌てた。

 

「ああいや、どっかに消えたのはこのバンドが嫌だとかライブに出たくないとか多分そういうんじゃないと思いますよ」

「違うの?」

「後藤のクラスメイトに聞いて知ったんですけど、朝のHRで自己紹介する時に一発芸でギター侍のモノマネをしたみたいなんですよ。ダダ滑りしたのがショックだったみたいで、ガイダンスが終わったら速攻でどこかに消えたって目撃情報が……」

「えぇ……」

 

 虹夏先輩の表情が引き攣る。

 

「すいません紛らわしくて」

 

 どうやら僕が言葉足らずに『後藤が消えた』と雑すぎる報告をしたせいでいらぬ心労を掛けたらしい。虹夏先輩は「もうっ、ほんとだよ!」と憤慨した。

 

「急にぼっちちゃんが消えたって言うからびっくりしたじゃん!なんか事故とかトラブルがあったとか、このバンドが嫌になってリードギター辞めたとか、お姉ちゃんが怖くてバイトが嫌になったとか、そういう心配しちゃったじゃん!」

 

 ガシャーン!

 

「店長!急に崩れ落ちてどうしたんですか!?」

 

 なんかバックヤードでPAさんが叫んでいるが、どうしたんだろう。

 

「なんかもっと深刻な理由があったのかと思ってた……想像の10倍しょうもない理由で肩の力抜けるよ」

 

 ほっとしたような、がっかりしたような、呆れたような表情で虹夏先輩ががくんと肩を落とした。

 ちなみに彼女がどんなネタを披露したかまでは僕は知らないが、2組の男子生徒に尋ねてみたら「ああ、うん……ま、まあ俺は面白かったと、思う、……よ?」と言う気まずい感想を頂けた。何とも言えない微妙な表情から察するに、後藤の一発ギャグは切腹案件だった模様。残念。

 

「すべったショックが抜け切れずに今は現実逃避でその辺をふらふらしてるだけなんじゃないですかね。一応念のために探しに行ってみますよ。多分下北沢からそんなに離れた所にはいないと思いますし」

「え。でも探す宛てはあるの?」

「地面に落ちた涙の跡を追えばきっと」

「ぼっちちゃんそんなに泣いてるかな!?」

「あとはナメクジとか、ドクダミとか生えてそうなじめーっとした暗い場所にいると思うんでその辺を中心に探せば……あーでも穴の中とか屋根裏に引っ込まれると面倒だな……」

「もうちょっとぼっちちゃんを人間扱いしてあげなよカズ君……」

 

 僕だってもうちょっと後藤を人間に定義したいよ。でもしょうがない、後藤って割とデタラメだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 涙の跡を追っていたらSTARRYからそう遠くない児童公園で僕は後藤を発見した。

 

「後藤、何やってんの」

「私はツチノコ……つちのこのこのこ……こしたんたん……ぬん*5

「ぬんじゃないんだよ。早く穴から出てきなさい……って重っ!」

 

 住宅街にぽっかりと出来た小さな隙間のような空間。一軒家に囲まれてお世辞にも日当たりが良いとは言えない場所だが、その穴を埋める為に造られたような小さな公園は、人気もなくしんとした静けさに満ちた、後藤が好みそうな場所だった。

 その公園の隅にある砂場、多分小学生か幼稚園児がガッツリ掘ったのであろう縦40センチほどの、犬か猫しか入れなさそうな小さな穴の中に後藤はいた。

 僕が発見した時には後藤はツチノコみたいに丸まって首だけを地面から出していて、僕はファンカデリックの『Maggot Brain』と言うアルバムのジャケット*6を連想してしまう。どうやってその中に入ったのか理解できなかったが、後藤の生態について深く考えるとこちらの脳みそがパンクするので僕はそれ以上考えるのを止めて無理やり後藤を引っ張り出す。

 

「へへ……アイムオンファイアー……」

「可哀想に泣いてる!」

 

 穴から引きずり出すと後藤は涙で頬を濡らしながら引き攣った悲愴な笑みを浮かべた。これが高校デビューに失敗した陰キャの末路……哀れすぎる。少なくとも女子がしていい顔じゃないよ。

 

「やっぱり私なんかがキラキラの青春なんかを求めたのが間違いなんだ……びっくりするぐらいあんな教室の空気が冷えるなんて……これからは芋虫を食べて生きていきます」

「過去最凶のぼっち節が来てるな。おーいしっかりしろって!」

 

 なんとか後藤をベンチに座らせるが、膝を抱えて顔を足に挟んだままぴくりとも動かない。高校デビューをしようと気合を入れて来た分、失敗してしまったそのショックは凄まじいものになっているらしい。これは立て直すのに時間がかかるな。……これ、喜多も連れて来た方が良かったかな?僕があれこれと励ますより一回喜多にキルさせてリスポンさせた方が体力も全快(リセット)するのでそっちの方が手っ取り早いかもしれない。いやでもさすがにそれは人の心が無さ過ぎるか?でも後藤は亜人みたいなもんだし……いややめとこ。虹夏先輩に怒られる気がする。

 

「落ち着くまでしばらく休んでなよ。リハまでまだ時間あるし。はい、お茶」

「はい……ありがとうございます……」

「チョコもあるからお食べ」

 

 後藤に近くの自販機で買って来たお茶のペットボトルを差し出すと、後藤はおずおずとそれを受け取って飲み始めた。ついでにおやつ代わりに買っておいたチョコも渡すと、ハムスターのように後藤はもそもそと食べ始める。

 

「おいし……」

「元気出て来た?よかった、小腹を埋める為のおやつなんだけど、それ美味しいよね」

 

 チョコはエネルギー補給として最適だとか、メンタルを回復させるのに良いと言う話をテレビか本で観た事があったので買っておいたのだが、結構効き目はあったらしい。チョコを食べ終える頃には、後藤は少し精神を持ち直し始めていた。

 

「ご、ごちそうさまでした……カズさん、い、いつもお菓子とかおにぎりとか持ってますよね……」

「本当は自分用なんだけどね。リョウさんの胃袋を満たす為でもあるんだよ。あの人放っておくと野草食べ始めるから」

 

 いつだったか寄生虫の話でビビったリョウさんはしばらくの間野草に手は出さなくなったが、最近暖かくなり春の野草が生え始めたのを狙ってまた食べるようになったのだ。

 それが原因でお腹を壊して練習に出られない事が何度かあったので、僕は仕方なくリョウさんの餌としてお菓子を常備するようになったのである。後、単純に成長期の男子高校生の身体は非常にお腹が減るので、僕のおやつも兼ねている。

 

「すいません、ここまで探しに来てもらって……。これからあと1年あのクラスで過ごさなきゃいけないと考えたら意識がなくなってふらふらとここに……。中学の私の事を知らない新しい環境を求めて東京に来たのに……黒歴史は繰り返されるってどうして私は何も学ばないんだろう……もう今日の私は何もかもが無理です……ギターもまともにできる気がしません……」

 

 ああ、また昨日みたいなネガティブモードに陥ってしまった。虹夏先輩と話してせっかく持ち直したのになぁ。白目剥くのやめろって怖いから。

 

「まだリカバリー効くって。今年は喜多も僕もいるんだから、友達作り手伝うよ。いや僕も友達作るのは得意な方じゃないけどさ。せっかくの高校生活、そんな悲観的にならなくても楽しい事なんてたくさんあるって。それに昼休みはどうせ喜多のギター練習するんだし、後藤も練習付き合ってよ。それで一緒に良いスペース見つけて弁当食べようよ」

「……喜多さんと……カズさんと……二人と一緒に、おベントウ?」

 

 ほわんほわんほわーん。

 

 

 

 カズ君!今日お弁当作ってきたの、おかず食べてくれるかしら?

 もちろんだよ。喜多の手作り、美味しいからね。

 今日のは自信作よ!はい、あーん!

 あーん。おお、これ美味しい!

 きゃ!カズ君に褒めてもらうの、本当に嬉しい!

 うん……これなら、毎日作って欲しいくらいだよ。 

 カズ君……。

 喜多……。

 

 

 

Eternal True Love*7

 

 

 

「ぼぎゃっ」

「突然の爆死!?」

 

 また何か妄想したのか、それとも僕らと弁当を食べるのが嫌すぎるのか後藤は爆発四散した。後藤って実は僕らの事嫌いなのか?そんな拒絶反応出さなくても……。

 少し悲しい気持ちになりながら、僕は散らばった破片を拾い集める事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間が掛かったが、散らばった破片を拾ってくっつけてなんとか蘇生させることに成功。

 

「すすすす、すみませんまたお手数をおかけして……!」

 

 リスポンした結果、さっきと比べると大分精神が回復したらしい。会話も通じるようになって一安心だ。意図せず後藤をキルしてしまったが結果オーライ。

 

「リハにはまだ時間あるけど、大丈夫?今日のライブ行けそう?」

「だ、大丈夫です。きょ、今日の為に皆とたくさん練習しましたから……昨日の夜から滅茶苦茶緊張して3時間ぐらいしか寝られてませんけど……」

「大丈夫じゃないじゃん」

 

 とりあえず虹夏先輩に後藤を保護した事と少し遅れてSTARRYに向かう事をLINEで報告すると、すぐに『りょうかーい』と返事が返ってきた。

 

「先輩に少し遅れるって連絡しておいたから、後藤はベンチで少し休んでなよ。僕も付き合うから」

「え、あ、それは嬉しいですけど……。か、カズさんはこっちに来てて、バイトは大丈夫なんですか?」

「店長にはちょっと抜ける事は伝えてきたし、大丈夫だよ多分」

 

 普通にサボったらマジで怒られるけど、後藤関連の事なら結構甘いしあの人。

 

「怒られても店長のゲンコツぐらいなら安いもんだし。僕の事より、バンドメンバーの後藤の方が大事だから。こっち優先。それに今日のライブは後藤のステージデビューでしょ。少しでも良い状態でライブをしてもらうのが僕の仕事だからね」

「……」

 

 僕がそう冗談めかして言うと、後藤は悲しそうに眉を潜めて俯いてしまう。その様子を見て、僕はプレッシャーをかけすぎたかな、と心配するが、しばらくすると後藤が小さく口を開いた。

 

「……あの、カズさん」

「ん?」

 

 悩まし気に、そもそも口に出していい言葉なのかどうか分からず躊躇うように、後藤は僕の顔をちらちらと見てくる。

 

「わ、私がリードギターで、本当にカズさんは良かったんですか?」

「へ?」

 

 質問の意図が分からず、僕は想わず後藤に訊き返そうと思ったその瞬間だった。

 公園の入り口付近で、突如何かが地面にどさりと落ちる音が響いたのだ。

 僕と後藤が釣られるようにそっちを見てみると、公園の入り口の前で倒れている人影があったのだ。さっきの音が誰かが倒れた音だと気付いた僕と後藤は直ぐにそっちの方へ駆け寄った。

 

「あ、あの!大丈夫ですか!」

「うぅ……」

 

 倒れた人は返事をせず、ただ苦しそうにうめき声を上げるだけで、僕は想わず少しパニックになりかける。けれど冷静にしてくれたのは後ろにいた後藤の声だった。

 

「かかかかか、カズさん、こういう時はきゅ、救急車……!」

「そ、そうだった!後藤電話頼む!あの、しっかりしてください!」

 

 近づいてみるとその人はギターケースを背負った女性だった。スカジャンとワンピースか?まだ少し冷えるのにこんな薄着で、一体どうしたんだ。

 中学の時に習った救命措置の手順を思い出しつつ、僕が揺すりながら声を掛けると女性はうめき声を上げながら返事を返した。

 

「み……水ください」

「み、水ですね!」

「それと酔い止め……」

「分かりました、酔い止め……え?酔い止め?」

「あとシジミの味噌汁……」

「え」

 

 すぐ後ろで119に電話を掛けようとしていた後藤も地面に倒れ伏したこの人が変だと気づいたらしく、手が止まった。

 

「あぁぁぁなんであんなに飲んじゃったんだろ……ふざけんな昨日の自分……調子に乗りすぎだよ……胃袋と腎臓……いや肝臓だっけ……どっちでもいいから引っ張り出して水洗いしたい……脳みそもついでに取り出して洗痛いぃぃぃ……頭が割れるぅ……死ぬぅうぷっ……一定の周期で来るこの吐き気と頭痛が私を掴んで離さない……おかしいなウコン飲んだらいくらでもアルコール飲んでもいいんじゃなかったんですか……騙したのかおのれウコン許さ……おうぇっ」

「「えぇ……」」

 

 これただの二日酔いじゃん……。

 僕らの心配を返してくれと思いつつ、僕は後藤に向き直った。

 

「後藤……悪い、近くの自販機で水買って来て」

「はい……」

 

 これが僕と、酒クズベーシスト廣井きくりとのファーストコンタクトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カズはサイケって言ったら何が好き?」

「サイケですか?」

 

 いつものように僕の家の地下室でリョウさんと音楽談義をしていた時、そんな話題が出て来た事がある。

 

「ジミーヘンドリックス?それともラヴ*8?」

「うーん……ど定番ですけど、やっぱビートルズですかね」

 

 僕の答えに、リョウさんは「おお」と嬉しそうに感嘆の声を漏らした。

 人に寄って答えは様々だろうけど、サイケと言うと僕の中から真っ先に出てくるのはやっぱりビートルズの『Tomorrow never knows』だ。喜多がサイケロックに一時期ハマったが、そのきっかけもやっぱりこの曲だった。

 僕がビートルズのアルバム『Revolver』を流していたら、12曲目まで普通に宿題をしていた喜多が突然シャープペンを止めてじっと聴き始め、曲が終わった瞬間すぐに「もう一回流して今の曲!」と興奮気味に言ってきたのを、今でもよく覚えている。「喜多にサイケを聴かせたらどうなるかな」と興味本位でその日は『Revolver』を流したのだが、僕の目論見は的中したらしい。

 

「どうやって演奏してるのかしら、この曲……すごく変な曲なのにずっと聴けちゃう……」

 

 言語化できない不思議な曲調。哲学的で宗教的な歌詞。今まで聴かせていたビートルズにはない、新しいロック。そのセッション風景をイメージしながら、喜多は不思議そうに呟いていた。

 

「これをどうやって録ったかはよく分かってない事の方が多いらしいんだ。ドラムスの中にタオルとか昔のビートルズの衣装を詰め込んだとか、レコードを逆回転で再生させたとか、エフェクターを何種類も組み込んだとか……色んな実験的な方法が試されて、スタジオで録音したみたい。生演奏のライブじゃできないような演り方ばっかりだったらしいよ」

 

 けれど、ビートルズのこの試行錯誤が後のロックンローラー達に大きな影響を与えていく。ジョン・レノンの要望に応える為にレコードエンジニアが色んな録音機材を試し、工夫が施され……それが現代のロックに繋がっていく。ビートルズは世界中に色んな影響を与えてきたけれど、この『Tomorrow never knows』もロック史に大きな影響を与えた名曲の一つ。ポップソングを歌って来たビートルズが唐突にサイケを歌ったので、当時彼等のファンだった大衆も驚いただろう。

 

「僕もこの曲、最初意味わかんなくてさ。でもなんか、また聴きたくなる中毒感があるって言うか……。ふとした拍子に聴きたくなる気持ち悪さがあるんだよね。レノンはチベットの仏教に影響されたとか幻覚剤を使ってトランスした状態をこの曲で表現したとかインタビューで答えてたし、たくさんの評論家がこの曲を解説したコラムを読んだけど、正直僕にはサイケってよく分かんなかった。でもそう言う謎とか不思議とか、正体不明を楽しめるのがサイケの魅力なんだと思うよ。それにやっぱカッコイイし、サイケロックは。なんか只者じゃない感すごいし!」

 

 僕はそんな事をドヤ顔で喜多に解説した。

 それを聞いた喜多は嬉しそうに笑ってくれたけど、振り返ると死にたくなる黒歴史だ。ホント、好きな事についてと色々とドヤ顔で語りたくなる癖をどうにかしたい。

 

「ふーん。だから郁代もサイケ知ってたんだ?ビートルズのサイケから入れたなんて、郁代はすごく贅沢だね。生まれて初めて飲んだお酒が最高級ワインみたいなもんじゃん。サイケだけに」

「上手くはないですよそれ」

 

 唯一の救いはこの曲がきっかけで喜多がサイケにはまってくれた事だが。でも布教しといてあれだけど八十八ヶ所巡礼の『攻撃的国民的音楽』とかゆらゆら帝国の『夜行性の生き物3匹』をカラオケする女子中学生ってどーなのと思わなくもない。

 

「でも、サイケは好きだって言う割には、カズの好みって偏っているって言うか……あんまり私と一緒に音楽聴いてる時はサイケ流さないよね」

「あー、まあ……知識としてサイケの曲は知っていても、あんまり自分の好みにぴったりと合うサイケの曲がないんですよ。唯一好きなのがピンクフロイドですけど、二人で聴いてる時にピンクフロイドの『夜明けの口笛吹き』*9を流すのもどうかなって。あとピンクフロイドって独りで聴くもんだと思うし」

「分かる。ピンクフロイドはヘッドホン被って大音量で流しながらどろどろに溶けるまで浸るのが一番賢い聴き方*10

 

 ぱぁん、と僕らはハイタッチを交わす。

 僕もサイケロックはメインではないけど、前世でそれなりに聴いてきた自負はあった。オールディーズのロックンローラー達は多くがドラッグの常習犯だったりアルコール依存症だったこともあり、僕が好むアーティスト達がサイケっぽい曲を演奏している事も少なくなかった。ハマった頃は色んなサイケのアルバムを探し回ってたっけ。

 けれどビートルズやピンクフロイドのような、いい意味で聴いている僕に酩酊感を与えてくれるサイケロックにはなかなか巡り合う事が出来なかった。僕が求める理想がビートルズと同等かそれ以上の物と言う基準が高すぎるのもあったんだろうけど、ポピュラー音楽のように誰もが好むキラーチューンっていうのはサイケにはあまりない。

 前世では色々なバンドのアルバムを漁ってサイケロックを聴いてみたはいいものの、結局自分が好きなサイケバンドと言えばゆらゆら帝国か八十八ヵ所巡礼、あとはピンクフロイドぐらいと言う有名処しか見つけることが出来ず、それがいつしかあまりサイケを積極的に聴かなくなった理由のひとつなんだと思う。サイケを求めるモチベーションが低くなってしまったのだ。今では偶にサイケを聴く程度だ。

 そんな事をリョウさんに話したら、一枚のアルバムを僕に差し出してきた。

 

「じゃあこれ聴いてみてよ。多分、カズも驚くから。前言ってた、インディーズのSICKHACKって言うバンドのアルバム」

「ああ、前言ってたSICKHACKの。そんなに凄いんですか?」

「うん。カズなら絶対気に入る。本当に凄いバカテクサイケバンドだから聴いてみて」

 

 リョウさんが貸してくれたのはSICKHACKのミニアルバムだった。

 促されるままにコンポのCDトレイに挿入し再生ボタンを押す。それに収録された『ワタシダケユウレイ』を聴かされた時、最初に思ったのが酔っ払いそうなメロディーだな、という陳腐な感想だった。正直に言うと何を聴かされたのか、僕はすぐに理解することができなかった。ただスピーカーからの音が鳴り止むと、「今自分何を聴いたの?」と言う困惑だけが残った。

 

「……すいません、もっかい聞いてみていいです?」

「いいよもちろん」

 

 その困惑の正体を確かめるべく、何度か意識を集中させて聴き込んで、やっとSICKHACKと言うバンドの奏でる曲には、頭を泥酔させる心地よさと酩酊感を知らぬ間に与えてくれる力がある事に気付く。音に酔わされて自分が何を聴いてるのか一瞬分からなくなるのだ。アルコールで脳が麻痺している間、口に何を入れても味が分からなくなるのと同じ。耳だけで聴いていると、このバンドの音を分からなくさせられる。

 それはまさしく、アルコールやドラッグの酩酊感を曲でぶつけてくる、サイケデリックロックの体現だ。

 ゆらゆらと見失いそうなベースとギター、複雑なメロディーとリズムを完璧に合わせるドラム。酔っ払ったように気怠く寄りかかってくるボーカルの歌声。陰湿で暗い歌詞。

 大袈裟な言い方かもしれないけど、僕が初めてビートルズの『Tomorrow never knows』を聴いた時と同じ気持ち悪さや酩酊する感覚を、日本のインディーズバンドが奏でていた。しかも、前世で僕が聞いた事がないバンドが、だ。 

 

「昔のドラッグをやりながら演奏していたバンドの曲もロックしてるけど、現代のバンドもイカれてて最高でしょ」

 

 リョウさんはそう得意げに笑った。確かに、オールディーズとか古めのロックバンドの曲を聴いている僕は、知らず知らずのうちに現代のバンドを軽んじてしまっていたのかもしれない。まだまだ新しいロックも負けてない、そう思わせてくれるアルバムだった。すっかり僕はSICKHACKに酔わされてしまったらしい。

 

「いつか一緒にライブ行こう。顔面踏んでもらうために最前列で」

「えぇ……」

 

 だからいつかリョウさんと一緒にこのバンドのライブに行ってみたいな、とか思っていたのだが……。

 

「ごきゅっごきゅっごきゅっ……ぷはー!水うめー!もーほんとに助かったよー!」

 

 ライブハウスではなくこんな小さな児童公園でSICKHACKのボーカルと出くわす事になるとは、人生何があるか分からない物だ。

 

「わざわざお水買って来てくれて、あ、そうだお金……26円しかねーやあははー!ごめんねーツケにしておいてー!」

「あ、はい……」

 

 後藤が買って来たペットボトルの水を渡したら一息で半分以上飲み干してしまった。水を飲んでいくらかすっきりしたのか、具合と機嫌が良くなった廣井さんとは対照的に、後藤は人見知りを発動させて出来るだけ関わらないよう僕を盾にするように後ろに隠れ始める。

 

「えーっと……廣井さん、ですよね。SICKHACKの」

 

 僕が恐る恐るそう尋ねると、廣井さんは目をぱちくりさせた。

 

「えー何ー?君私の事知ってんのー?」

「色んな意味で有名ですから」

 

 裸足に下駄履き、右手の甲には月を象ったようなタトゥーが彫られているし、間違いない。佐藤さんの記事に書いてあった特徴と合致する。SICKHACKのベースボーカル、廣井きくりだ。

 佐藤さんが書いた記事の中にSICKHACKをインタビューした記事があり、その中にメンバーの写真が載っていたから偶々知っていたのだ。他にもリョウさんがSICKHACKの色んな逸話を語ってくれたので、この人がどれだけヤバい人かは知っている。

 

「あとSICKHACKの歌好きです。サイケはあんまり聴いてなかったんですけど、アルバム買いました」

「へー見る目あるねー!えーっと、……そういえば君の名前はー?」

「井上和正です」

「和正……あ、もしかして包帯少年!?かずくんだよねぇー!」

「え、僕の事知ってるんですか?」

 

 そういえばこの人のバンドとヨヨコさんが所属するSIDEROSは両方とも新宿FOLTを拠点に活動するロックバンドなんだっけ。なら繋がりがあっても不思議じゃないか。

 

「もちろん知ってるよぉ大槻ちゃんから色々聞かせてもらったんだから。君の歌を聞いたわけじゃないけど、なんかSIDEROSのサポートギターしたんだって?しばらくの間ずぅーっと君の事ばっかり話してたんだよ!あの気難しい大槻ちゃんにあんな惚気られるなんて思わなかったよ!うぅ、若者の青春は胸に染みる……」

 

 一体何話したんだよヨヨコさん。

 

「で、そっちの背中に隠れてる子は?」

「あっ、ご、後藤ひとりです……」

「へー可愛い名前ー」

「あっ、ありがとうございます……あ、あの具合はもう平気なんですか?」

「うーん良いか悪いかで訊かれれば間違いなく最悪なんだけど!お酒はほどほどにしないとねーつってもまたすぐ飲んじゃうんだけど。ごっ、ごっ、ぷはー迎え酒~!ひとりちゃんはこんな風に飲んじゃダメだよ?んあ?ひとりちゃん?なんで一言も返してくれないの?ねぇーかずくーんこの子喋んなくなっちゃったー!それになんか鉄みたいにひんやり冷たいよぉー!」

「(どうしよう、帰りたい……!)」 

「廣井さん、それは後藤じゃなくて滑り台ですよ。後藤もそろそろ僕を盾にするのやめ……押すな押すな!僕をアレに押し付けて生贄にしようとするんじゃない!」

 

 どこから取り出したのか、紙パックの安酒を呑み始める廣井さん。後藤は廣井さんと関わりたくないのか必死に僕にしがみついて逃げられないようにした上でずりずりと僕を廣井さんの方に押し込もうとしてくる。なんだこの状況。まともなのは僕だけか?

 

「ひとりちゃんも飲むー?ほら、おにころー」

「う、うぅ、未成年です……」

「ダル絡みやめてください……後藤は未成年だし、後でライブやるんで酔わされると困ります」

「えぇ~?ロックンローラーたるもの、アルコールキメてステージに登るもんでしょー?おにころ~がお好きでしょ~?」

「石川さゆりを歌うならもっといい酒を奨めてくださいよ……」

「え、君、石川さゆりなんて知ってんの?良い趣味してんね~!」

「しまったついツッコミが」

「いーじゃんいーじゃん!もう少ししゃべりましょ~!」

 

 僕のツッコミに機嫌を良くした廣井さんはおにころを片手に石川さゆりの『ウィスキーが、お好きでしょ』を替え歌にして饒舌に歌ってくる。失敗した、こういうタイプの人って反応が返ってくるとテンション上げて絡んでくるんだよな。うっとおしい事この上ない。あと顔近づけないで。息が酒とゲロの匂いしかしない……。

 

「そーだ、さっきライブするって言ってたよね?打ち上げどこにするとか決めてる?私も参加する~!酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞ*11~!」

「未成年のライブの打ち上げになんであんたが参加するんですか!初対面で無関係でしょ!?」

「いーじゃん飲ませてよ~!いい居酒屋知ってるからさ~!」

 

 おっと本格的にうっとおしいダル絡みが始まって来た。そろそろ警察に通報するべきタイミングかな。

 

「…………」

「あ、ひとりちゃんどこ行くのー?」

「ふぁいっ!?あああああの、今からトイレに……」

 

 ふと横を見てみると、後藤がギターケースを背負って公園の出口の方にそろりそろりと忍び足で歩いていくのが見えた。あいつ、トイレ行くとか言ってるけど嘘だ。そのまま僕を見捨てて帰って来ないつもりだ絶対。

 

「あー!ギターケースだぁ~。ひとりちゃんギターやんのー?」

「あひっ」

 

 しかし後藤は逃げられなかった!

 

「ひとりちゃんも今日ライブに出るんだ~?何やんの~リードギター?それともベース?」

「え、あ、こ、これは今日ライブで使うはずだったんですけど実はバンドのメンバーには弾けるって嘘を吐いてて」

「えっ」

「え?」

「このギターもエレキと間違えて多弦ベースを買って来ちゃったんで実は全然弾けないんですぅ!なんかぼんぼんって音しか出なくてぇ!」

 

 おおいそれは喜多の黒歴史だろ!目を泳がせまくって流暢に嘘を吐くな!僕が口を挟む間もなく、後藤は矢継ぎ早に嘘を並べ続ける。

 

「なので今日のライブはぶっちして質屋さんに売りに行くところだったんですビビリな私はステージなんかには登れないしこのギターいくらで売れるかな今夜は焼肉だぁー!」

「あ、おいこら逃げるなぁー!」

 

 半笑いのままよく分からないテンションで逃げ出そうと踵を返して走り出そうとした後藤の手を掴んだのは、僕ではなく廣井さんだった。

 

「待って!」

「え?」

「ステージから逃げたら、後で()()()()

「っ」

 

 廣井さんの言葉に、後藤の動きが止まった。

 さっきまでのふざけた態度を潜ませて、後藤の手を掴んだまま廣井さんは静かに後藤に訴えかけた。その真摯な言葉に、後藤の胸に響く何かがあったのだろうか。後藤は逃げるのを止めて、廣井さんの言葉の続きを待った。

 

「上手に弾けなくても、きっと得られる物はあるよ。でもステージから逃げちゃったら、ただ苦しい記憶だけが残っちゃう。だから怖くても、ステージに立った方がいいよ?……って、なんか真面目な感じな事言っちゃったけど、とにかく技術がなくても――」

「……ご」

「ん?」

「ごめんなさい嘘を吐きました……」

「えっ……スゴイすらすら嘘吐くね君……」

 

 すいません、うちの後藤が。

 

「後藤」

「ア、ハイ」

「僕を置いて逃げようとしたこと、あとで説教するから」

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー!じゃあ二人共、今日から高校生なんだー!おめでとー!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 さっきの廣井さんの言葉のおかげか、後藤の緊張は少し解れたらしい。二人はベンチに並んで座って会話が出来る程になっていた。会話と言っても一方的に廣井さんが喋って後藤が相槌を打つだけだが、後藤の性格を考えると結構凄い事だ。

 

「うぅ、高校生……15歳かぁ。私もそんな若い時があったのになぁ……ちくしょーこの胸を締め付ける切なさはなんだ……ぐぅ、こういう時はこれをキメるしかない!」

 

 廣井さんは涙ぐみながらも、この公園に入ってからもう何本目かも分からないおにころを呑み始めた。足元に呑み干したおにころの空パックがそろそろ3段目になりそうだ。

 

「ぷはー!やっぱこれだねぇ。ひとりちゃんも、もし嫌な事があったり怖い事があったらお酒飲むといいよ!出来るだけアルコールが強いのがオススメ~。ウィスキーは高いから、やっぱおにころかな~!安いし持ち運びしやすいし、隠しやすいしね!」

 

 何から隠すんだよ。

 

「お、お酒好きなんですね……」

「そうだよー。お酒飲めば全部忘れられるからね!辛い記憶をぶっ飛ばすにはこれが一番だなぁ!将来の不安も、後輩のバンドに追い抜かされそうになる焦燥感も、作曲の締め切りが近くなっても全部これで吹っ飛ばせるから!私はこれを幸せスパイラルって呼んでる、真似していーよ?」

「典型的中毒者の思考じゃないですか」

「ほ、ほどほどにしておいた方が……」

「ひとりちゃんもかずくんもまだ子供だから分かんないかー」

 

 いや前世で酒の面倒臭さは嫌という程味わってるし知ってる。鼻を貫くアルコールの匂いも、胃液の酸っぱさも――とは言えないので口を噤んだ。ワインを肴にロックやクラシック曲を聴いたし、サイケを聴く為にウィスキーを泥酔するまで飲んだ事もあった。一説によると、酒を飲むと神様との距離を近づける事ができるらしい。だから酔っていないと感じ取れない音楽もある――というコラムをマジで信じた結果、翌日死ぬ程辛い目に遭ったのは忘れたくても忘れられないやらかしだ。今世では絶対酒は飲まないって誓ってる。

 

「でも大人になれば分かるよ絶対。特にひとりちゃんはそんな感じがする!」

「え」

「ひとりちゃんは入学初日から自己紹介でスベって教室で浮く顔してる!私分かるもんそういうの!」

「ミ゜ッ」

「あ、古傷が……せっかくさっき塞がったのに」

「大丈夫だよーひとりちゃん。そんなトラウマも何もかも、アルコールで溶かせば全部問題なし!だから大人になったら一緒にお酒に溺れようねーえへへ」

「いや未成年をそんな気軽に地獄へ誘おうとしないでください。……後藤?」

「お酒に溺れる私……引きこもり生活……ストゼロ1日5本……ハロワへ行けと言わなくなったお母さん……子供が出来た妹……孫に構い切りのお父さん……もう人生頑張れない゛い゛い゛い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「ああ、後藤がまた発狂してしまった……」

「あっはは!ひとりちゃんもやっぱりやべー奴だ!」

 

 腹を抱えて大笑いする廣井さんと、古傷を抉られたついでに傷口に塩を突っ込まれて発狂する後藤。あーもう滅茶苦茶だよ。

 

「それで今日、ひとりちゃんはライブデビューなんだ?」

「あ、はい。結束バンドって言うバンドなんですけど……一応今日が初ステージです……」

「いいねぇライブデビュー!私も初ライブの日の事はよく覚えて……ない。うん。ないよ。あれは」

 

 何か思い出したくない黒歴史があるらしい。廣井さんはぶつぶつと何か言ったかと思うと、それを忘れるべく再びおにころを呷った。

 

「ぷはー。まあとにかく、ライブデビューをするなら先輩としてはなくそを贈らなきゃ……あれ、はなくそ?だったっけ?」

「……(はなむけ)?」

 

 僕がそう言うと「ああ、それだった」と廣井さんは手を叩いた。

 

「水を奢ってもらった恩もあるしね!つっても、今ポケットにあるのは……」

 

 ごそごそと廣井さんがジャケットのポケットを手探ると、中から取り出したのは……くしゃくしゃのポケットティッシュ、レシート、おにころ、おにころ、ピックの破片、5円玉、1円玉、おにころ……。

 

「何本おにころ入れてるんですか!」

「あー……まあこう言う事もあるよ。ていうか私のスマホどこ?」

 

 知らないよ。

 

「あー……あ、そ、そうだー!私はSICKHACKのボーカル!こういう時こそやっぱ歌でしょ!」

 

 急に立ち上がった廣井さんはベンチに立て掛けてあったギターケースを開きながら慌てたように弁明した。

 

「昨日も無一文だったから一銭も使わずにどこまで飲めるか挑戦して、アコギで歌ってなんとかチャレンジ達成したんだ!アコギを即興で弾き語りして、居酒屋でお客さんに奢ってもらって朝まで飲めたんだぞー!」

「え、普通にスゴッ」

 

 チャレンジの内容は迷惑極まりないが、それでもアコギを弾き語りして観客から酒を奢ってもらえたのは普通に凄い。仮に僕が似たようなチャレンジをしても、ベースもドラムもリズムギターもいない独りの弾き語りで、観客達から料理や飲み物を奢ってもらえるとは到底思えない。

 この人、酔っ払いだけど、ただの酔っ払いじゃない。客にとって酒を奢る価値が、この人の歌にはあるんだ。

 どういう風に歌うんだろう。もちろん、この人のライブ映像はいくつも観たし、アルバムは何度も聴いた。

 けど、目の前にいるこの人の歌を生で聴けたらどうなるんだろう?僕がメインに使っているアコギを、どういう風に演奏して歌うんだ?僕の好奇心がくすぐられてくる。

 

「だから何か歌ってあげるよー!リクエストしてくれればなんでも!即興は得意だからね、それっぽく弾けるよっ」

「え、マジですか。じゃあJimmy Eat Worldの『23』を――」

「あ、ごめん私洋楽全然聴かないからそういうの無理。……かずくん、そんな能面みたいな真顔出来るんだね?ご、ごめんってそんな顔しないで!」

 

 急に梯子外されれば真顔にもなるよ。SICKHACKの廣井さんのヴォーカルを独り占めできるなんてそうそうある機会じゃないから、ちょっとわくわくしたのに。

 

「ひとりちゃんはー?何かリクエストあるー?」

「後藤、せっかくのチャンスだから何かリクエストしてみなよ。こんな機会なかなかないよ?」

「あ、え、この人そんなに上手なんですか?」

「うん。少なくとも、SIDEROSのヨヨコさんに引けを取らない実力派だ」

 

 後藤は息を呑んだ。

 SICKHACKは新宿FOLTでヨヨコさんと並ぶ二枚看板だ。更には数年前の未確認ライオットで優勝した経験もある。そんなバンドのボーカルに好きな曲をリクエストできる機会なんてそうそうない。仮にも一応、来年の未確認ライオットの優勝を目指しているんだから、この機会は後藤に譲ろう。廣井さんの弾き語りは未知数だけど、後藤は普段は僕や視聴者からリクエストされる立場だ。偶にはリクエストする側になってもいい。

 

「まーここ住宅街だから、そんなに何曲も弾けないけどね。演れても1曲だけかなー、暴れると通報されるし。でも今から新宿とか池袋で路上ライブの場所まで行くのも面倒だし……。本当なら小一時間歌ってあげたいけど、今日は一曲だけね!ほれほれ、ひとりちゃん、なんかリクエストしてみなよー」

「え、ええ……で、でも何リクエストしたらいいか……」

 

 リクエストを催促されて少しあたふたと慌てる後藤。そんな様子を見て廣井さんは「大丈夫だよー」と微笑んだ。

 

「別に曲名じゃなくていいよ。今の気分とか言ってくれれば、私のレパートリーから適当に選ぶから」

「き、気分ですか?」

「そー!昨日も居酒屋でお客さんにリクエストされたら全部これで乗り切ったんだから。『振られたから元気出したいー』とか、『テンションをばちばちにあげたい』とか!言ってくれれば何でも弾くよー。お気に召すかどうかはひとりちゃん次第だけど」

 

 廣井さんがそう笑いながら言うと、後藤は少しの間考え込んだ。20秒ぐらい黙っていると、やがて恐る恐る口を開いた。

 

「あ、あの……」

「んー?」

「ゆ、勇気が出る曲じゃなくて、()()()()()()()()()って、ありますか」

「勇気が欲しくなる曲?」

 

 僕は想わず問い返す。でも後藤はこっちを見ないまま、廣井さんに問い続けた。

 

「現状を肯定するとか、未来に希望がある、とか、そういうんじゃなくて……背中を強く押してくれるような……やらなきゃ、ってさせてくれる曲……。わ、私、今日ステージデビューですけど……ステージに登る、何か強い後押しが……欲しくて……」

 

 後藤がおずおずとそう呟くと、きくりさんは自信満々に笑った。

 

「あるよぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思うんだけどさ、後藤はギター弾いてて楽しい?」

「え?」

 

 いつかのバイトからの帰り道、カズさんは私にそう問いかけて来た。

 

「た、楽しいですけど……」

「そう?ならよかった」

「……な、なんで急に?」

「いやさ、結束バンドのセッションの動画、編集してるの僕じゃん。皆の顔がディスプレイに映ってるのを数時間見ながら編集する訳なんだけど……後藤ってあんま楽しそうに演奏してる所、見た事ないなーって気になってたんだ」

「あ……それは……」

 

 宅録でギターを弾く手元だけを撮影する時とは違い、STARRYのスタジオで撮っている時は顔までばっちり撮影するからカメラが気になって楽しむ処じゃないとは言えない……!

 

「あ、ごめん。別に喜多みたいにカメラ目線でキラキラに愛想振り撒けとかカメラ映りを意識しろって言う訳じゃなくてさ。あいつ常時カメラ目線で動画編集してると常に目が合ってる気がして怖いんだよな……。ああいや、そうじゃなくて、とにかく後藤には結構無理させてるから、せめて演奏ぐらいは楽しんで欲しいなーって思ってるだけ」

 

 単純に、カズさんは私の事を気に掛けてくれたんだろう。

 この人はいつもバンドメンバーの皆の事を気に掛けてくれる。お腹を空かせたリョウさんにはいつも軽食を用意するし、バンドのリーダーで何かと忙しい虹夏ちゃんの負担を減らそうと積極的にライブハウスのバイトのシフトを入れているみたいだし。喜多さんは、結構ぞんざいに扱ってる部分が目立つけど、喜多さんのお出かけやリフレッシュには付き合ってるみたいだし。喜多さんのお願いとかを嫌がっても否定している所は観た事がないような……。う、また脳裏に二人のバグった距離感が浮かび上がってくる。

 それに……ノルマチケットを売る宛てが両親以外いない私に気遣って、カズさんはチケットを私の分まで引き受けてくれた。

 その心遣いは嬉しい反面、まだ私は人として半人前なんだと言われているみたいで、心が苦しくなる。助けてもらってるのに、ありがたいはずなのに。

 

「今度のライブは今までチャンネル用に演奏していたコピー曲だけじゃなくて、後藤とリョウさんのオリジナル曲のお披露目だからねー。良いライブにして欲しいよ」

 

 カズさんがそう楽しみを隠し切れないように小さく笑って歩き始める。その後ろ姿は、おもちゃ屋に連れて行ってもらう事を楽しみにしてる妹の姿が重なる。

 私は、カズさんより音楽が好きな人を知らない。私が友達0人で他の例なんか知らない事を前提にしても、カズさん以上に音楽を楽しんでいる人を、見た事がないし、想像もできない。

 

「か、カズさん」

「ん?」

「カズさんはなんで……音楽を演ってるんですか?」

 

 私がそう問いかける。

 知りたかった。カズさんみたいに音楽を誰よりも愛して楽しんでいる人が、なんで音楽をやるようになったのか。どうしてロックを選んだのか。私みたいに誰かにちやほやされたいという承認欲求じゃない、きっと私よりずっとスゴイ理由があるんじゃないかと思えたから。

 

「んー……」

 

 カズさんは足を止めて腕を組んで考え込み始めた。私もそれに釣られて足が止まって、カズさんの言葉を待った。

 やがてぽりぽりと頭を掻いて、少し照れ臭そうに「笑わないでよ」と前置きを置いた。

 

「……最初は、さ。光だったんだ。僕にとってロックは」

「光?」

「真っ暗な部屋があって……自分がそこから出れなくて……未来に何の希望も持てなくて……何のために生きているのか分からない。でもそこから歩き出すきっかけが、ロックだったんだ」

「え、ちょ、待ってください。そ、それ本当にカズさんの話ですか?」

「そうだよ?」

 

 カズさんはなんてことないように答えたが、私は信じられなかった。抽象的な言い方だったけど、カズさんの言葉が本当なら、私がギターを始めた理由より悲しい理由を持っている。少なくとも話を聞いていた私にとってはそう受け取れる言い方だった。

 喜多さんと幼馴染のカズさん。きっと私と違って、友達がたくさんいて、毎日喜多さんと一緒に遊んで、カラオケに毎日通って、楽しいきらきらとした日々を送っている……。

 そんな、私とは対極的な、明るい人生を過ごしていたんだと、勝手に思ってた。

 

「これ、リョウさんとか虹夏先輩とか、……あと喜多とかには言わないでくれよ」

「いいいい、言いません!すいません、言いにくい事を言わせてしまって……」

「別に大丈夫。もうずっと昔の事だし。ただ、大っぴらに話す事じゃないし少し恥ずかしいから」

 

 照れ臭いのか、頬を少し赤くしながらカズさんはそう私に釘を刺した。

 

「でも、終わりのない暗い道を歩いてる中、たった一枚のアルバムに入ってる曲が、僕の生き方を変えた。その1曲があれば、またもう一度聴けるなら、明日を生きてもいいかもしれないって想えたんだ。それが僕にとっての1つ目の『(ロック)』。そこからはもう、色んな曲を毎日探す日々だった。CDを漁って、会った事もない、もうとっくに死んでいた海の向こう側のロックンローラー達の歌を聴いて。たくさん好きなロックを探して、気付いたら自分でも弾いてみたくなって……そんな感じ」

 

 私は呆気に取られた。

 やっぱりこの人の中には、私にはない……言葉にしにくいけど『絶対的な』何かがある。

 多分、この人の中には、きっと誰にも汚せない、消せない音楽がずっと鳴り響いてるんだ。それがカズさんの根幹で、強いエネルギーを生み出し続けてる源なんだろう。

 ふと、喜多さんが話していた目標を思い出す。

 

「私はね、結束バンドの曲を、カズ君の中の一番にしたいの。カズ君の中にずっと残ってる、どこの誰かも知らない歌を消して、上塗りしてやりたいの」

 

 喜多さんが言っていた曲は、多分それだ。曲名も何も分からないけど、カズさんにとってそれは、世界で一番の歌なんだ。

 喜多さんは、出来るのだろうか。何千、何万と言う音楽を聴き続けて、その中のたった一曲を信じ続けているカズさんの一番の曲を、塗り潰して奪う事なんて出来るのだろうか?

 

「後藤にはない?そういう曲」

「……」

 

 私はすぐに応えれなかった。

 好きな曲はたくさんある。そうじゃなきゃ、ギターをここまで続けてこれなかったし。

 でもカズさん程、純粋に音楽を愛し続けてきた訳じゃない。ただ自分の承認欲求と孤独な時間を慰める為にギターを弾き続けてきた。この人ほど純粋じゃない。

 

「わ、分からないです……私、二年前にギター始めて、ただ誰かに認められたいって言う理由だけでここまで来ちゃったから……」

「え、すご」

「え、す、すごいですか?」

「だって練習って、つまんないことも多いし苦しい事の方がたくさんあるじゃん。僕は、好きな曲を自分で弾きたいってモチベーションだけでやって来たけど、後藤はそれなしであそこまでの技術を身に着けたんでしょ?凄いよそれは」

「え、うぇへへ」

 

 唐突に褒められて悪い気はしない。カズさんは褒めてくれる時はストレートに真っすぐ褒めてくれるのが分かるので、私の頬も自然と緩んだ。それを見てカズさんも釣られるように静かに微笑み呟いた。

 

「君がステージに登って大勢の観客達を湧かす光景が、今から見えるよ。そう遠くない未来、結束バンドの皆が、大きなステージで日本中を湧かせる」

「え?」

「後藤のギターやリョウさんのベース、虹夏先輩のドラム、喜多の歌が、日本中に轟く。絶対だよ、賭けてもいい」

 

 それは、予感とか、信頼とかじゃない。まるで未来で観て来て、それを自分が体験してきたかのように、カズさんはそう断言した。

 

「……で、できるでしょうか。私達が、そんな風に」

「できるよ。僕が好きになったバンドは、絶対スゴイ所まで行くんだ。だから結束バンドも、絶対上を目指せる」

「……でも、私、まだコミュ障で、ギターヒーローにまだなれていないのに……」

 

 ギターヒーローのチャンネルを立ち上げて、いくつも演奏動画を上げたけど、時々感じた。私が結束バンドに加わって、動画をいくつかネットにアップロードしてからも、何度も思った。顔も見た事ない誰かが、私に聞こえない場所でナイフのように鋭い酷い言葉を吐いてるんじゃないかと。そう考えるだけでお腹の中の内臓が全部縮み上がって、手足が凍ったように動かなくなる。

 ヒーローには程遠い。結局の所私は、独りで押し入れの中で震えていた時と何も変わっていない。

 

「私は、いつになったら……ヒーローになれるんですかね……」

「え?ギター持ったら、後藤はいつだってヒーローだろ」

「えっ」

「え?」

 

 困惑を隠さず、カズさんが「何言ってんだこいつ」と言わんばかりに眉をひそめてこっちを見ている。私もカズさんが何を言ってるか分からず、目を何度もしばたかせる。

 

「か、買いかぶりですよ。わわわ、私そんな器じゃ――」

「後藤」

 

 私の謙遜を遮り、カズさんは言葉を続けた。

 

「ギター持って、演奏を始めた後藤はいつだって真剣で、最高にクールだぞ」

「――」

 

 カズさんは茶化さず、真っ直ぐに私を見て、そう言った。

 

「きっと後藤はこれから、色んな人と出会って、色んな舞台に立って、色んな音楽を奏でていくんだと思う。僕はその成長を傍で見続ける事はできないけど――」

 

 

「喜多の事を、結束バンドのリードギターを任せられるのは、後藤しかいないんだ。代わりなんてどこにもいない」

 

 

 だから、頼むよ。

 

 

「――――はい」

 

 その日、私は初めて、カズさんの顔を真っすぐに見て、どもらずに返事をすることが出来たような気がした。

 そして家に帰るまでの長い時間を掛けて、カズさんの言葉がゆっくりとしみ込んでいく。

 何か強い、手に触れられない、見えない何かを手渡されたような。私の心臓の直ぐ傍に、そっと埋め込まれたような。

 

 ――カズさんからもらったその『何か』の名前を、私はまだ識らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廣井さんのアコースティックギターは、僕のオレンジカラーのアコギとは違って夜を掬い取ったような真っ黒な色で塗装されたデザインだった。その上、特徴的なのがシールド*12を通す穴とピックアップ*13が付いていた。後付けでアンプを使えるように改造したのだろう。ライブでも弾き語りでも、両方で使える、実戦的な運用を想定したアコースティックギターだ。

 廣井さんはギターのストラップに引っ掛けられる小さなバッテリー式のアンプとアコギを繋げ、静かに、そして丁寧に弦をチューニングしていく。その動きに澱みはなく、思わず目を惹かれた。一流の職人の作業風景がそのまま美しく見えるように、ベンチの上に胡坐をかいてギターをチューニングする廣井さんの姿もまた、一流のギタリストだった。

 僕と後藤は黙ってその姿を見守っていた。そう言えば、僕は散々アコギを弾いて来たけど、他人がアコギを弾いて歌ってる姿を生で見るのはリョウさんを除けば初めてかもしれない。リョウさんも弾くけど、大抵はお遊びだったり作曲する時のフレーズ作りに触るだけだから、僕は少し新鮮な感じがあった。

 

「うん、こんな感じかな」

 

 チューニングが終わった廣井さんは満足げに頷くと、細い指ですぐに弦を弾き始めた。

 

「えっ」

 

 最初はウォーミングアップがてらの試し弾きかと思ったけど、直ぐにそれは違うと僕は気付く。

 曲はもうとっくに始まってる。

 シンプルで物悲しいフレーズ、それをひたすら繰り返すイントロは、そのままAメロ、Bメロでもリピートされていくようにこの歌は出来ている。

 でも、その歌はさすがに――

 

「あの――」

「ダメだよかずくん。ミュージシャンが弾き語りをしている最中は、観客は静かに聴くものだ」

 

 廣井さんは僕を見て口端を吊り上げながら言った。その頬はアルコールで紅く染まり、目は酔っ払い独特の眠気が映っている。さっきまで歌えるかどうかも分からない程二日酔いに苦しんで倒れていたのに、この引っ張られるような、眼を離せなくなる感覚はなんだ?いつだったか、これと似たような感覚をぶつけられた気がする。誰だ、誰を見た時に――

 

「あ」

 

 そうだ、あの時――2月の路上ライブ、ヨヨコさんを観た時と、隣でギターを弾いた時と同種の感覚だ。顔も形も身長も、何もかもが違うのに、SIDEROSのヨヨコさんと、廣井さんの姿が何故か重なる。

 

「ひとりちゃんはさ、ステージに上がるの怖い?」

 

 廣井さんは弦を弾きながら後藤に語り掛ける。曲を弾いてる最中に問いかけられるとは思っていなかったのか、後藤は慌てて「は、はい」と頷いた。

 

「分かるな~。私もそうだったから。お酒に手を出し始めたのも、ライブの緊張を誤魔化す為だったし。ライブが始まる前から、顔も知らない誰かに何を言われてどう思われてるのか、怖くて怖くてたまらなかったから。今じゃそんな事もないけど、おにころだけは手放せないんだよな~」

 

 廣井さんが静かで柔らかなトーンで語り掛ける。多分、僕じゃなくて、後藤に直接歌っている。柔らかく弾く弦の音は、静かに廣井さんの言葉と溶け合って、空気を震わせて伝わってくる。 

 

「客に受けなくて通夜みたいになった夜もあったよ。何度ギター止めようかと思ったか分からない。ライブにこだわらなくたって、今じゃスタジオだったり、家で撮ってネットで配信したりもできるから。そうしようかなーって思った事も何度もあった」

「…………」

 

 後藤は俯く。視線は地面にある自分の爪先に向いている。廣井さんの言葉は、後藤の身体を通り抜けているように見えた。

 廣井さんはそんな反応を見ても、笑みを浮かべたまま弾き続ける。多分、この語りも曲の一部。まだ序盤のイントロだ。

 

「多分だけど、ひとりちゃんは変わりたくてロック始めたんじゃないの?」

「え、な、なんで」

「あ、やっぱり~?私もそうだからさ~。高校までずっと根暗で、教室の隅でじっとしてる陰キャぼっちだったんだよ~。でも、そんな自分の将来がつまんないままなの嫌だなーってなって、普通とは真逆の人生を生きたくてロックを始めたんだ~」

「私と……一緒?」

「そー。だからひとりちゃんの気持ち分かるんだよ。怖いから逃げたい、傷つきたくないから誰とも関わりたくない……そういう考え、すごーくわかる!めちゃくちゃわかる!」

 

「でもね」

 

 メロディーを区切って、弦を弾く指が止まった。それに釣られて、後藤が顔を上げ、廣井さんが「よいしょ」とベンチの上にそのまま立ち上がる。

 

「傷つきたくないからとか、部屋から出たくないからとか、観客に罵倒されるのが怖いからとか、そういうステージに上がろうとする私を散々邪魔して、足を引っ張ってきたのは、他人じゃなくて、いつだって私自身だった」

 

 僕らは自然と、廣井さんを見上げる形になった。

 

(あ。このポジションは――)

 

 ステージの上にいるミュージシャンを、観客席側から見上げてるみたいだ。

 

「前に進まなきゃ、何も始まらない。何も変わらない。だから怖くても、ステージに登るんだ。だってね、ひとりちゃん。私達はギターを選んで、変わる為にロックを始めた。そうやって"革命"を起こして前を進む人達の事を、私達はロックンローラーって呼ぶんだから」

 

 僕達を見下ろす廣井さんは大胆不敵に笑う。

 

 だから聴いてけよ、後輩。

 背中を叩いて、火をつけてやる。

 

 大きく息を吸う、呼吸音。

 小さなタメができて、そして深く吸い込んだ空気を吐き出し、叫ぶように歌いながら、廣井さんは弦に叩きつけた。

 嘘だろ。本当にさっきまで泥酔してダル絡みしてきた人と、今目の前で歌っている人は同一人物なのか?

 ベンチの上で堂々と立ち、身体をしならせて、肺の中の空気、血液、……魂さえも絞り出すように歌ってぶつけてくる。たった二人しかいない、それも150円にも満たないペットボトルの水をただ買って来て介抱しただけの観客の為に、こんな本番でやるような歌い方を。

 いや――たった二人しかいないからこそか。

 汗を飛び散らせ、苦しそうに眉を歪ませるのが見えた。限界まで肺活量を使っている証拠だ。

 

 MOROHAの『革命』。

 

 鉛のように重い歌詞と、柔らかく鋭いギターの音色。ラップ、ヒップホップ、ロック――ジャンルに無理やり分類するならその辺りなんだろうけど、これはそのどれにも該当しない。これは魂の歌だから。

 気付けば僕の手が、じっとりと汗ばんでる事に気付いた。

 まだ肌寒い春の午後なのに、手が、身体が熱い。廣井さんの歌が凄いからか?それとも、歌詞が強いメッセージを伴っているからか?判別はできない。

 MOROHAの『革命』は、とてもじゃないけど聴いてる人に慰めや癒しとかそういう甘さは与えない。ただ等身大で問いかけてくる。聴いてる人の生き方を。それでいいのか、それで満足なのか、と。

 無遠慮に人の心を土足で踏み込んで、人の弱さや怠惰に活を入れてくる歌だ。人の中に眠っているように死なせた記憶を、目を逸らして置いたままだった真実を、そのまま見せつけて叩きつけて胸に突き刺す。

 廣井さんは見事にMOROHAの歌い方をコピーしていた。サイケバンドのボーカルなのにこんなラップの歌い方もできるとか、反則だろ。

 ああ、でも、こんなに強い言葉で説教してくるような歌なのに、どうしてこんなに心臓の音がうるさくなるんだ。

 肌を貫いて、血管の先まで震わそうとしてくる剥き出しのリリック。魂の震えをそのままぶつけてくるような廣井さんの歌声。胸の中にあるうしろめたさや、心の中にある澱みを取り払ってくれる心地よい感覚。

 生きてる音だ。

 

「あ――」

 

 不意に後藤の方を向くと、彼女の頬に涙が伝うのが見えた。後藤は涙が零れないように唇を食い縛っていたようだけど、堪えていたそれをせき止める事が出来ずに流れ落ちる。それが見えた瞬間、僕は激しく動揺していた事に気付く。

 後藤がどうして泣いてるのか分からない。なんであんなリクエストをしたのかも分からない。

 

(そっか……)

 

 ただ分かるのは、後藤の心の中に、後藤にしか分からない葛藤や苦しみがあって、僕はそれを見抜けず、廣井さんはそれを見抜いた。だからこの曲を歌って、後藤は涙を流せた。

 僕はそれを少し寂しく思いながらも廣井さんの歌に耳を委ねる。

 ……あとで後藤とちゃんと話そう。後藤が「他人と話すのが苦手だから」と、僕は無意識に後藤を遠ざけて、ちゃんと話し合う事が出来てなかった事に今更ながら気づいたから。後藤はこの物語の主人公で、僕が何もせずとも結束バンドのリードギターをしてくれると思い込んでいたから。勝手に落ち込んでも勝手に立ち直るヒーローなんだと信じていた。

 でもそんなことはなくて、僕の隣に居るのは、ギターヒーローかもしれないけど、同い年の同級生で、コミュ障の生きている女の子なのだから。そんな当たり前の事実に気付かされる。

 廣井さんは笑って更にテンポを上げた。汗の一滴まで絞りつくす様に強く、強く弦に指を這わせた。

 

 

 

 悔しさの跡地で笑え 悲しい事さえロマンでうたえ

 全ての事がうまく行くよりも 劇的じゃねぇか そっちの方が

 一回二回負けた位で折れちまう プライドならもう捨てた

 勇気や希望笑わない勇気 それだけが俺らを運ぶぜ

 真っ暗闇の未来に描き殴る

 蛍光ペンを求めて

 半径0mの世界を変える

 革命起こす幕開けの夜

 

 

 

 廣井さんが最後の歌詞を叫んだ瞬間、後藤が握りこぶしを作ったのが見えた。

 ぎゅっと、見えない何かを掴み、絶対に放さないと、力強く。

 

 

*1
アメリカのヒップホップMC、俳優。本名はトゥパック・アマル・シャクール。「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」において第86位にランクインを果たしている。1996年、突如銃で襲撃され、4発が命中。その数日後に死亡した。アメリカ東西海岸ヒップホップ抗争の被害者の一人。

*2
NICEGUY人の楽曲『Hai Irasshai』より。アニメこち亀のエンディング曲として知られる。

*3
SFホラー『M3GAN/ミーガン』に登場する人形の名前。AIを搭載された人形が持ち主の子供を守る為に様々な惨劇を引き起こすホラー映画。

*4
ギター弦のブランド名。

*5
TVアニメ『しかのこのこのここしたんたん』の主題歌『シカ色デイズ』より。

*6
検索してみよう!

*7
エターナルトルゥーラブ(永遠の真実の愛)

*8
1965年から活動していたロックバンド。フォークロックやサイケデリックなどを中心に様々な曲を発表した。三作目のアルバムである『Forever Changes』は発表当初こそ評価は低かったものの、後の現代では1960年代を代表する名盤のひとつだと言われている。

*9
原題は『The Piper at the Gates of Dawn』。ピンクフロイドのデビューアルバム。スタジオでピンクフロイドの演奏を聴いたポールマッカートニーも「彼等にはノックアウトされた」と言う逸話が残っている。なお、作曲担当のシド・バレットはこのアルバムのレコーディングの時、LSDをキメてやべー状態だった模様。

*10
個人の意見です。

*11
バラクーダの楽曲『日本全国酒飲み音頭』より。

*12
アンプとギターを繋げるコードの事。

*13
弦の振動を電気信号に変換する装置。




作中に登場したバンド名&曲名
Creepy Nuts - よふかしのうた
SALU - LIFE STYLE
STUS - Expressions
Def Tech - Catch The Wave
STEADY&CO. - Stay Gold
2Pac - Changes
SOUL SCREAM - 蜂と蝶
くるり - ばらの花
The Beatles - Tomorrow never knows
八十八ヶ所巡礼 - 攻撃的国民的音楽
ゆらゆら帝国 - 夜行性の生き物3匹
SICKHACK - ワタシダケユウレイ
石川さゆり - ウィスキーが、お好きでしょ
Jimmy Eat World - 23
MOROHA - 革命


 ここが! この戦場が、私のロックの場所よ!(AC感)


 きくりさんカッコよく描きたかったけどこんな感じか?でもきくりさんってMOROHAとか絶対嫌いそう……他の曲にするべきか……いやそもそもなんか手直し出来る所あるんじゃ…とうだうだ考えてたら12月になっちゃったのでどばーっと初投稿です。いいんだよMOROHA最高なんだから。

 前回もたくさんの感想、評価、誤字、ここすきありがとうございます。「あの流れで消えるの?」というぼっちちゃんの消失で感想欄が盛り上がってて草生えました。低評価入れた人はFU【不適切な表現】ou。

 前述にもありますが、本当は結束バンドのライブシーンまで書きたかったけど、じっくりていねていねいに書いてたらいつの間にか12月になってたので、区切りもいいしここで投稿しちゃおうという精神で投稿しました。クオリティが多少低くなってますが許して。
 ちなみに今回はヒップホップ、ラップ、サイケを中心にオススメ曲をチョイスしました。あんまメインに聴いてるジャンルじゃないので、ど定番も良い所だけどまあええかの精神で書きました。こいついつもまあええかって言ってるな。ままええわ。
 次回は、結束バンドのライブから。年末年始はドタバタするので少し遅れるかもしれませんが、できるだけ早く書き上げる……つもり……なので次回もどうぞよしなに。


 そんな訳で、今年最後の投稿です。来年こそ完結させるぞー、おー。
 来年こそぼざろ2期……来るといいなぁ。






 あ、去年も書きましたがクリスマスプレゼント待ってます(強欲な壺)



 ↓いつものコピペ宣伝

Xのアカウントでのんびり呟いてます。

X(旧Twitter)

 カーラジオと言う名義で作ったアカウントです。ここではその時の気分で聴く曲を垂れ流したり小説の更新予告をしたりぼざろのイラストを無限リポストしてます。この小説内で紹介しきれなかったロックもここに載せていくつもりなので、よければフォローとかしてくれると嬉しいです。
あと、オススメ曲とかあればぜひこのアカウントに送り付けて欲しい。DMでもリプでも、推し曲があれば良ければ教えてください。絶対に聴きますので。

 あと、活動報告にて推し曲募集中です。どうぞ、どしどし送ってください。

喜多ちゃんに推したい音楽

 ここすき、Twitterで宣伝、感想などで幸福度を上昇させてるので、たくさんもらえればきっとモチベーションが上がるのでください(正直)
 


 それではいつもので〆させていただきます。

 
 感想もっともっともっと欲しいんだ……!
 高評価くれ~感想くれ~!(承認欲求モンスター感)

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