【最終章開始】喜多ちゃんが知らない音楽   作:ガオーさん

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すべての美しいものの陰には、何らかの痛みがある。


ボブ・ディラン



Rock and Roll Thugs

 

 

 

 

 

 春休みのある日。

 その日はバイトも練習もない、珍しく私とカズ君二人揃ってオフの日だった。私は朝からカズ君の家に向かい、一緒にお出かけをしようと誘ったのだが「勉強があるから無理」と彼に素っ気なく断られた。

 せっかくお洒落もばっちりしてきたのに!

 もちろん、ほっぺたを膨らませながらカズ君に文句を言いまくったけど。

 

「最近は練習ばっかりやってたし、喜多もたまにはのんびりしたら?ちょうど、昨日届いたアルバムを聴こうと思ってたんだ。一緒に聴こうよ」

「……聴く」

 

 カズ君から誘われて断れるわけもなく。

 結局流されるがまま、カズ君の部屋でくつろぐことになった。せっかく春のコーデで揃えて来たのに、カズ君は「可愛い」の一言も言ってくれないんだから。私はそう心の中でぶつくさと不満を呟きながら、カズ君の部屋に向かった。

 オーディオ機材とCD、それにアナログレコードが隙間なく並ぶその部屋には、彼にしては珍しく、ジャズが流れていた。最近のカズ君はジャズブームになっているみたいだ。

 ベッドに腰かけた私は、机で英語の勉強をしているカズ君の背中をぼんやりと眺めていた。最初の10分はスマホでSNSを開いていたけれど、やがて飽きてしまって、スピーカーから流れる音に耳を傾けながら勉強を続けているカズ君を観察する。

 ……前に比べて、少し背が大きくなった気がする。ぼさっとした髪の毛とか、緩い灰色のパーカーとかはいつも通りだけど。でもこうしてじっくり見ると、女の子と言うよりは男の子だと分かるぐらい、肩幅が広い。

 

「……」

 

 ぼすん、と頭からカズ君の枕に頭を押し付ける。

 カズ君の匂いと、ジャズの音がする。

 サックス、コントラバス、ドラム、そしてピアノ。濃密で複雑な音階が絡みあうそのコードは、ロックばかり聴いてきた私には少し難しく感じられた。けれど、ときおり胸を打つフレーズが確かにあった。

 

 あ、このフレーズ良い。

 

 思わずばっと顔を上げると、ちょうどカズ君の手も止まって、ジャズを流しているコンポの方に意識を向けていた。

 普段ロックばっかり聴いているカズ君は、勉強とか料理とか、何か作業をしている最中はクラシックを流している事が多い。本人曰く「ロックだと思考が邪魔されて勉強できない」らしい。

 ――とか言いつつ、クラシックやジャズを流していても、彼の手はちょいちょい止まる。本人の意思に関係なく、意識がアンプやスピーカーに吸い寄せられてしまっているみたい。そんなときの彼の表情は、まるで音に魂を奪われたみたいに、目を閉じて音に浸っていて。心の底から幸せそうだ。

 

「……いけないいけない」

 

 しばらくして自分に言い聞かせながら勉強に戻っていくその声が、なんだか可笑しくて、私はつい微笑んでしまう。

 ……カズ君と一緒に音楽を聴くと、時間がすごくゆっくりになっているのを感じる。ずっと身を委ねて、静かに眠りたくなるような安心感がある。暖かくて、落ち着くことができて、ずっとここにいたくなる。

 少し前まで、私がせわしなくイソスタの動画や流行りのメイクや服を追いかけていたからだろうか。それとも、私が生まれるよりずっと昔に歌われた曲が、奏でられた音楽が、この部屋にたくさん置いてあるからだろうか。

 ロック、ジャズ、クラシック……時代を築いた名曲達が眠るCDやレコードが、何枚も、何十枚もここにある。

 物凄い速度で流れていく時間の中で、『新しい』から、『過去』になっていったレコードやCD達。その時代に確かに奏でられた曲が、その瞬間だけを切り取るように録音され、レコードに刻まれ、たくさんの人達の人生を通り過ぎた末にこの部屋に辿り着いた。

 目に見えないはずなのに、触ることすらもできないはずなのに。国も人種も時代も言語も、何もかもを乗り越えた時間そのものが、この部屋の壁に沁み込んで、レコードの山みたいに蓄積して、香りみたいに空気で滞留しているみたい……。

 目を閉じて耳を澄ます。不思議と眠くはならない。

 スピーカーから響くサックスの暖かくそして優しい音。カズ君がシャープペンを動かす音。どちらも心地よくて、私は静かにその音に心を委ねた。

 1時間ぐらい勉強をしていたカズ君の手が止まるのと、アルバムの最後の曲が終わるのはほとんど同時だった。

 

「んー……良かった~!」

 

 カズ君が大きく伸びをしながら満足そうに息を吐いた。それはおおよそ、1時間も勉強をしていた男の子の感想とは思えない。どう聞いてみても流れていたジャズの感想で、私は思わずくすくすと笑ってしまった。

 

「お疲れ様、カズ君。今のジャズ、誰のアルバムだったの?」

「誰だったと思う?」

「えっと……ジョン・コルトレーン*1?」

「正解!やるじゃん喜多」

 

 頭の中にあったいくつかのジャズプレイヤーの名前の中で、一番カズ君が好きそうだと思っていた名前を出すと、カズ君は椅子に座ったまま、自分のことのように嬉しそうに笑った。釣られて笑ってしまいそうになるが、照れ臭くなって私は少し突っぱねた。

 

「ここに来る度にいろんな知らない音楽を聴かされるんだもの。名前だって覚えちゃうわよ」

「それもそうだ」

 

 嘘。私もジャズがちょっと好きになったからって言うのもあるけど、ホントはカズ君とおしゃべりがしたくて、自分で色々調べてたのだ。

 でも恥ずかしいから絶対言わない。

 

「じゃあ、次は何のアルバム流そっか。喜多、なんか聴きたいアルバムある?」

「うーん……じゃあ宇多田ヒカルでいい?」

「いいね!」

 

 カズ君はワクワク顔でラックに飛びつくと、すぐにいくつかアルバムを取り出してきた。

 私はその中の一枚を選んで、カズ君のコンポに入れて操作すると、宇多田ヒカルの――彼女を体現するような曲が流れて来た。

 

 宇多田ヒカルの『光』。

 

「あぁ~いいなぁ~ヒッキー*2は……もうちょっと音あげるね」

 

 十分音は大きかったけれど、それでも物足りないのか、カズ君はボリュームのつまみを摘まんで音量を一気に上げた。そんなカズ君の我儘に応えるように、スピーカーからの音圧が一気に広がって私を丸ごと包み込む。

 冷たい水のように澄んだシンセのエレクトリックピアノの音が、部屋いっぱいに満ち溢れ、私はその音に溺れるように沈んでいく。水底に射し込む陽の光のような宇多田ヒカルの淡く優しい歌声が、透明で柔らかい水の中を乱反射した。

 私の心の表面を割って、そこに出来た隙間に切なさとか哀しさとか愛情とか、人間の心に必要な物を全部注ぎ込むような、そんな圧倒的な歌声。

 そんな優しいメロディーと、愛する人への切なさを綴った詩。「愛してる」なんて単語はどこにも入ってないのに、それでも宇多田ヒカルがどんな想いでこれを歌っているか伝わってくる。

 

「……やっぱり、何度聴いても好き」

 

 色々な人の歌を聴いた。

 ジョン・レノン、ロバート・プラント、ポール・マッカートニー、ジョーン・バエズ、ロジャー・ダルトリー、フレディ・マーキュリー、アリエル・ブルーマー、スカイラー・グレイ、カレン・カーペンター、アリシア・キーズ。

 たくさんの人の歌を聴いた。聴いて、歌った。

 その人達の曲が大好きだから――ってだけじゃない。結束バンドのボーカルとして、私が目指すべきボーカルの方向性を決める為だ。

 もちろん、外国の名のあるボーカルだけじゃなくて、日本のボーカルもたくさん聴き比べた。平原綾香、松任谷由実、miwa、藤原基央、後藤正文、野田洋次郎、山下達郎、Lisa……。カズ君やリョウ先輩にオススメしてもらったバンドや歌手だけじゃなく、自分でCDショップやカズ君の倉庫をあちこち回って、色んな歌手の歌い方を調べて、自分なりに練習した。ううん、練習をすると言うよりは、模索と研究に近い。

 さっつーにカラオケに誘われた時は、ここぞとばかりに色んな人の歌い方を真似した。

 最終的に私が目指すべき理想像として選んだのは、宇多田ヒカルだった。

 

「すごいね……」

 

 私はカズ君のベッドに座り込みながら、ぽつりとそう零した。

 でも、改めて思う。

 とても凄い。とても綺麗。ずっと聴いていたい。

 そういう感動が胸から湧き出てくると同時に、心のどこか冷静な部分で感じる――自分との大きな差。 

 2002年。私はまだ生まれてもいない。

 けれど宇多田ヒカルがデビューしたのは、今の私と同い年の――15歳。そしてこの時、これを歌った宇多田ヒカルは、まだ当時19歳。私と同じ十代の内に、この人はあっという間に世界の歌姫としての階段を駆け上がって行った。

 あと1ヵ月で16歳になる自分との、途轍もない隔たり。彼女の歌を聴く度に、私はその差を感じずにはいられなかった。

 

「ねぇ、カズ君」

「ん?」

「私もこの人みたいに、歌えるようになれるかな?」

「喜多が宇多田ヒカルになれるわけないでしょ――ぶえっ!!」

 

 カズ君の顔面めがけて枕を思いっきりぶん投げた。

 期待はしていなかったけど、本当にカス君はクレイジー音楽オタクだ。ちょっとぐらい「喜多ならいつかなれるよ」ぐらい優しいことを言ってくれてもいいのに。

 

 カズ君と音楽の話をするのは楽しい。

 でも、ほんのちょっとでもいいから、私のことだけ見てほしいって思う時がある。できるなら、そのままずっと……目をそらさずに見て欲しいって。スピーカーから流れる音じゃなくて、私自身を見て欲しいと言う願いは……ただの、私の我儘なんだろうか。

 

 スピーカーから流れる、宇多田ヒカルの、心を切り詰めて限界寸前まで追い詰められたような、切ない歌声が響く。

 前にカズ君が話してくれた。この歌は彼女が結婚を控えていた頃のもので、もしかしたらマリッジブルーの心境を歌ったのかもしれないと解釈している人が居たって。

 

「まあ、僕は宇多田ヒカルの心を覗いた訳じゃないし。直接本人に尋ねた訳でもないから、実際どうだったかは分からないけど。でも、自分の芸名をこの歌に付ける程だったんだから――きっと、宇多田ヒカルにとっても、特別な曲だったんじゃないかな」

 

 カズ君は、そう最後に締めくくった。その口調はどこか他人事で、私の心にちくりと刺さる。

 もしこの曲が、誰かを愛した末に書かれた悲しい祈りの結晶のようなものだとしても。もしそれが、どこか孤独を苦しんでいた彼女の心からの叫びだったとしても。

 カズ君にとっては、歌っている人が何を想っているかより、「自分にとって良い曲かどうか」の方が大事なんじゃないかって思えてしまった。

 

 ――そんな訳ない。

 

 カズ君ほど、音楽を大事にしている人を私は知らない。カズ君ほど、ミュージシャンや音楽に関わる人達に敬意を払う人を私は知らない。でも元から、歌手やアーティストの背景に興味を持たないタイプで。だからこそ、そんな風に言えちゃうんだろう。

 ふと怖くなる。

 私がもし『光』を歌っても、カズ君の心に私の想いは1ミリも伝わらないような気がして、恐ろしかった。 

 

 ――私だけを見て。私だけを聴いて。

 

 そんな風にカズ君に言えたら、どんなに気持ちが良いんだろう。

 この、血液まで音楽で出来ているような幼馴染に真正面から言ってやれたら。

 少しは私のことを見てくれるようになるんだろうか。

 

 でも、それは無理だって分かってる。

 

 だってカズ君は――歌わない私に、興味なんか持たない。

 もし私が歌うことをやめたら、カズ君はすぐに次の音楽に心を奪われてしまう。そんな、確信とも言えるような予感だけが胸の奥にあった。

 

 それだけは、絶対に嫌だった。

 

 私は、カズ君の記憶に残るボーカルになりたい。

 何百、何千とアルバムを聴いてきた中で、一番に思い出すくらいの。

 他の誰でもなく、「あの時の喜多はすごかった」って、いつまでも覚えていてもらえるような。毎日私の、結束バンドの歌をリピートしたくなるような。そんな歌を歌いたい。

 

 だから、私は歌う。忘れられたくないから。

 

 カズ君がアメリカに行くまで、あと半年。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高校の入学式と、結束バンドのライブから、もう3日が経った日の夜。

 私はベッドに寝転がりながらうめき声をあげて、初給料と初ギャラを使って買った本を床の上に置いた。

『響く声、伝わる心 ボーカル実践メソッド』と題された教本。2000円近くする本にしては、それなりに分かりやすくて参考になったけど、自分が求めている内容とは合致していなくて、私が欲しかった答えを見つける事はできなかった。

 

「どうしようかしら……」

 

 ベッドで仰向けになって、いつもの天井を見上げながらぼんやりと思う。どうやったら先に進めるかのかと。私に足りない『何か』は、どうやったら埋められるのかと。

 リョウ先輩は、英語が得意でしっかりと発音できる私の歌声を『武器』と呼んでくれた。カズ君や後藤さんが練習を付き合ってくれて、ギターを弾きながら歌うことにもだいぶ慣れたと思う。このまま磨き続ければそれなりのボーカルになれるような気がする。

 ライブでは、たくさんの人から拍手をもらった。

 結束バンドの演奏は大成功だったと胸を張って言える。

 

 ――でも、それなりじゃダメ。

 

 まだ何かが足りないと感じる。でも、何が足りないのかが分からない。今までよりもっともっと上手くなるには、どうすればいいのか。最近はずっとそればっかり考えている。

 今日、後藤さんが新しくギターを買ったカズ君とセッションをした。上級者同士のギターの音のぶつかり合い。ただ聞いているだけだったのに、私は大きな焦りを感じた。

 これまで人見知りでなかなか本領を発揮できなかった後藤さんが、一昨日のライブでは堂々と『Somebody To Love』を演りきった。あの瞬間、誰よりも前に立っていたのは、間違いなく後藤さんだった。後藤さんのギターソロは、ボーカルをしている最中だった私の目も奪うぐらい、強烈でとても熱い音を奏でていたからだ。

 きっとこれから、後藤さんはもっと強くなっていく。演奏も、音も、心も。

 私も、結束バンドのボーカルとして、もっと強くならなきゃいけない。

 でもどんな練習をすればいい?

 どんなことを意識して歌えばもっと前に進める?

 後藤さんは、私が持っていない『何か』を持っている。カズ君も。でも、それがどんなものかは分からない。けれど、それが二人の演奏に出ている。『これが自分の音楽だ』と、言っているような気がするのだ。

 頭を悩ませて考えてきたけど、答えは出てこない。完全に私は行き詰っていた。

 リョウ先輩にアドバイスを聞いてみたけど、「私は感覚派だからボーカルについてはアドバイスはできない」と断られてしまった。

 

「結局、数を熟すしかないのかしら……」

 

 ベッドから起き上がり、机に立て掛けて置いてあったギターケースを開いて、肩に掛ける。

 カズ君の、アコースティックギター。

 エレキギターと違って電子部品とかのパーツがなくて、中が空洞で出来ているから、とても軽い。

 でも、ずっとカズ君が演奏し続けているのを傍で見てきたからだろうか。それとも、長い間使われてギターのボディに刻まれたたくさんの小さな傷が、カズ君の汗や見えない努力を物語っているみたいで、とても重く感じられる。

 

「アコギ?いいよ、喜多も弾き語りしたいの?」

 

 カズ君にアコギを貸して欲しい――と頼んだら、思ったよりあっさりと了承をしてもらえて少しびっくりした。

 

「弾き語りがしたいと言うか……カズ君のギター、使ってみたかったって言うか……」

「僕のギターを?結構安物のアコギだけど……親父のお古だし」

「カズ君のがいいの」

 

 改めて言葉に出してみると、少し照れくさかった。けど、紛れもなくそれが本心だった。

 私にとってカズ君のアコースティックギターはただの楽器じゃない。

 それは、カズ君がずっと大切に弾いてきたギターで、私の憧れで、私の原点のひとつだから。

 

「ふーん……喜多なら大丈夫だと思うけど……貸すだけだからね」

「分かってるよ!」

「ずっと前に貸したヘッドホンを借りパクしたこと。忘れたわけじゃないからな?」

「うっ」

「あそこまで使い込んでくれたのなら、僕としても悪い気分じゃないからいいけど。でも、このアコギは僕の相棒だから。大事にしてよ?」

 

 そう念を押したカズ君は次の日、ギターケースごとアコースティックギターを私に貸してくれた。

 私がギタリストに憧れた最初の理由は、リョウ先輩だったけど。初めて誰かの音に自分の歌を重ねたのは、カズ君のアコースティックギターだ。

 喜多郁代と言うボーカルの、最初の原点がカズ君のアコギだ。 

 それが今、私の手の中にある。

 カズ君は安物だとか言ってたけど、それでも私にとっては特別で。大した理由がなくても、なんだか嬉しくなってしまうのだ。

 

「――♪」

 

 試しに、小さく音を響かせながら鼻歌を載せてみた。

 THE BOOMの『中央線』。私のお気に入りの曲。

 大きな音で弾くとご近所さんに迷惑だし、お母さんに怒られるけど――アコギの音は小さくても、心に染み入る良い音が出る。アンプを通したエレキとは全く違う、温かい音色。

 少し奏でるだけでも思い出せる、あの日の、カズ君と私のデュエットを。

 

 また、あんな演奏をしたい。もっともっと、あの時以上の歌を歌いたい。

 

「郁代ー、もう夜の10時よー?」

 

 歌に意識が埋没しそうになった瞬間、ドアがノックもなしにいきなり開いた。

 顔を覗き込ませたのは、お母さんだった。

 

「そろそろ寝なさい、郁代。近所迷惑よ?」

「うん」

 

 私はギターをそっと抱き直しながら、ちょっとだけ視線を逸らした。するとお母さんは目を細めて、小さくため息を吐いた。

 

「……何か悩んでるの?」

「え、なんで」

「何年、あなたの母親をやってると思うのよ」

 

 ただ頷いただけで何も言っていないはずなのに、お母さんは私が悩んでいることを察したのかそのまま部屋に入ってきて、ベッドに座っていた私の隣に腰かけた。

 

「良いギターじゃない。いつの間に買ったの?」

「ううん、カズ君が貸してくれて……」

「あら、ホント。よく見たらあの時のギターね」

 

 どこか懐かしそうにお母さんは笑って、ギターのボディをそっと撫でた。夕焼けのオレンジ色をそのまま写したような、赤と黄色の暖かい色のアコースティックギター。お母さんもすぐに気付いたみたいだ。

 これは、虹夏先輩にもリョウ先輩にも後藤さんにも話してないことだけど。

 私は一度、ギターを辞めさせられそうになった。

 12月の頃、お母さんに進路を訊かれた事があって。さり気なく「ミュージシャンになりたい」と答えたらお母さんに猛反発されて、大喧嘩になってしまったことがあった。

 

「音楽で食べていける人なんてほんの一握りよ」「それにもうすぐ高校受験でしょギターを練習している場合じゃないでしょ!」「やりたいことと現実は違うの」「そんな夢みたいな話に現を抜かさないで、ちゃんと真面目に将来の夢を考えなさい!」

 

 お母さんの言い分は正しい。ミュージシャンという仕事は安定しないし、例え真面目に頑張ったとしてもその努力が報われるとは限らない。ミュージシャンという仕事を目指してそのまま叶わず挫折する、なんて話も少なくない。

 勉強をして、ちゃんと大学に出て、公務員を目指しなさい。

 お母さんは昔からよく私にそう言い聞かせて来た。

 でも、正しいからって私が受け入れられるかは別の話で。大喧嘩になった末に、リョウ先輩から譲ってもらった宝物のギターは、お母さんに没収されてしまったのだ。

 ギターを没収された私は泣きながら家を飛び出してしまった。人生初の家出だった。半泣きのまま暗いコンクリートの道を歩き続けて、逃げ込むようにカズ君の家に転がり込んで、困惑するカズ君に事情を説明した。

 

「カズ君、どうしよう……私、ギターやめさせられちゃう」

 

 私が泣きながらそうカズ君に縋りついたら、カズ君は「なんだそんなことか」と言わんばかりに笑って言った。

 

「試しに喜多の歌を久留代さんに聴かせてみたら?喜多がギターを続けていいかどうか、答えを出してもらうのはそれからでも遅くないでしょ」

 

 まるで私が歌えば全部解決すると確信してるような。そんな根拠はないのに自信満々で……不安だった私を安心させてくれた。

 

「びっくりしたものよ。急に和正君を連れて来たと思ったら、『喜多の歌を聴いてみてやってください』って言ってきて。そのままここで演奏するんだもの。それにまさかあのミーハーな郁代が、ジョーン・バエズを歌うんだからもっとびっくりしちゃった。知ってる郁代。あの曲、この前調べてみたらもう80年以上前の曲みたいよ?」

「そ、それは言わないでよっ」

「今時のポップソングを歌うかと思ったら……まさか、ね、ふふっ」

「お母さんっ」

 

 顔を真っ赤にしながら私が抗議すると、お母さんは笑いながら「ごめんごめん」と言って、私の肩を軽く叩いた。

 確かに、お父さん譲りのミーハーな私が、カズ君のギターに合わせてジョーン・バエズを歌うなんて。お母さんからすれば、まさに青天の霹靂だったに違いない。

 

「和正君もほんと変わってるわよね。郁代にどうしてあの曲を歌わせたのかって訊いたら、『本当にただ聴かせてあげたかっただけです』って言うんだもの。説得のための選曲かと思ったのに、あの子、郁代が言う通り本気で音楽バカなのね」

「いやもう、本当にまったく」

 

 カズ君曰く、「フォークロックは気持ちがそのまま出るから、お母さんに本気を伝えるにはジョーン・バエズが一番いい」とかなんとか適当なことを言ってた。

 もちろん、私のお母さんを説得させる為というのもあったんだろうけど、でも本当は、ただ私に歌ってもらってそれを一番近くで聴きたかっただけ。つまりいつも通りってこと。

 ……今思い返すと、ちょっと頭にくるわね。私がバンドを続けられるかの瀬戸際だったのに。でもそんな無茶ぶりに乗っかって、ちゃっかり楽しんで歌っちゃう私もどうかしてると思う。

 結局、私の歌が本当に良かったのかは、わからない。けどあの時の歌で、お母さんに私の本気が伝わったことだけは確かだった。

 それからお母さんは、いくつかの条件付きで、ギターを続けることを許してくれた。

 一つ目は門限。10時には家に帰ること。もし遅くなる場合は必ず連絡をすること。

 二つ目は勉強。最低でも高校と大学は必ず卒業すること。

 これをちゃんとするなら、ギターを続けても良いと、お母さんは仕方なさそうに頷いてくれて。

 

「もし、本気で打ち込みたいことが……あなたがやりたい夢があるなら……」

「え?」

「本気で応援してくれて、心から信頼できる人に、手伝ってもらいなさい。あなたは独りで走れるようには、出来ていないから」

 

 そう言って、私の宝物のエレキギターをちゃんと返してくれた。その時のお母さんの表情は印象的で……寂しそうなのに、どこか誇らし気な表情で……それで、ずっと私を心配しているような、そんな顔だった。

 

「それで、何を悩んでいるの?」

「……実はね」

 

 カズ君や虹夏先輩には言い出せなかった悩みを、私はお母さんに打ち明けた。

 もっともっと、カズ君が忘れられないような歌を歌いたい――というのは、さすがに恥ずかしいのでその辺りは抽象的な言葉でぼやかしながら、もっと上手くなりたいけれどその方法が分からなくて困っていることをお母さんに話す。その間、お母さんは黙って私の話を聞いて、何度も頷いてくれた。拙くて曖昧な言葉が多く混ざった話だったのに。お父さんや私みたいに音楽にはあまり興味がないお母さんだけど、それでも真剣に耳を傾けて、きちんと向き合ってくれているのが、その横顔から伝わってくる。

 

「歌をもっと、ねえ……ごめんね郁代。お母さんはそこまで音楽については詳しくないから……」

「ううん。聞いてくれてありがと、お母さん」

「そういうの、ちゃんと教えてくれる人はいないの?」

「先輩に訊いてみたんだけど、あまり……」

「そうじゃなくて。先生とか」

「先生?」

「ほら、テレビのコマーシャルとかでやってるじゃない。音楽教室の先生とか」

「……ああ、そっか!お母さんナイスアイデア!」

 

 専門分野の教師に歌を教えてもらう。盲点だと思った。

 ギターの弾き方はリョウ先輩やカズ君、後藤さんからたくさん教わった。メジャーコードからマイナー、ストロークやコードの読み方、歯ギターのやり方――は、後藤さんに教わったけど「絶対やんなくていいから」とカズ君に止められたっけ。

 でも、歌だけはずっと独学だった。発声や滑舌のトレーニングはネットで調べて自主的にやってきたけど、基本はカラオケで覚えたフィーリング頼りに歌っていた。ちゃんとした「歌の勉強」は、まだ一度もしたことがない。

 だったらこれを機に、ちゃんとした知識を持っている人から教わるのもいいかもしれない。教本で勉強していくと言う手もあるけど、本で読むより直接教わった方が自分に合っているはず。

 私はさっそくスマホを取り出して、歌い方を教えてくれる音楽教室を検索してみる。

 けれど――

 

「うわ、レッスン料高い……」

「あらま。これはちょっと勇気いるわね。ここなんか、月じゃなくて1回ごとに5000円……」

 

 検索してみたら、思ったより音楽教室はたくさんあった。けれど、レッスン料や月謝が想像していたよりずっと高い。それに、ネットに載っているレビューはまちまちで、どの教室を選べばいいのか基準も分からない。

 

「……」

「ダメよ郁代」

「ケチ」

 

 ちらりとお母さんに上目遣いをしてみたけど、お母さんはそっぽを向くだけだった。

 無理をすれば、払えない金額じゃない。けれど高いお金を払って何も得られなかったら最悪だし。色んな所に通って比べてみるってことも難しいし。学校やバンドの練習、バイトのことを考えると、遠い場所に通うのも現実的じゃない。

 

「いいアイデアだと思ったのに」

「うーん、さすがにこればっかりはねぇ……。知り合いで、知識があって、それでレッスン料も安くしてくれそうな人が居れば――」

「「…………あ」」

 

 お母さんが悩まし気に呟いた時、私の脳裏にある人の顔が思い浮かんだ。多分、お母さんも同じ人を思い浮かべたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京音楽大学。日本で最も歴史が古い、由緒ある音楽大学。

 キャンパスの中は、私より少し年上の、大人に近い若者達が行き交っている。みんな、ギターやバイオリン、クラリネットやサックス、中にはコントラバスのような大きな楽器ケースを背負って歩いていた。

 日本で一番、音楽に真剣な人達が集まる場所。

 建物の雰囲気も、ここに通っている大学生や教授たちも、時々どこかの練習室から漏れて聞こえるピアノやバイオリン、ラッパの音も――何もかもが格式張っているように思えて、自分がとんでもない場所に迷い込んでしまったような気分になる。少なくとも、音楽を始めてまだ一年未満の私が足を踏み入れて良い場所じゃないように思えてしまった。

 

「久しぶりね、郁代ちゃん」

 

 時計の針が4時を過ぎる頃、スタバにも負けないぐらいお洒落で硬質的なカフェに入る。すると、カズ君のお母さんが私を見つけるなり出迎えてくれた。

 

「郁代ちゃんコーヒー飲める?ここのコーヒーはなかなか美味しいわよ」

「あ、じゃあ……いただきます」

 

 小さな丸テーブルにこそこそと座る。自意識過剰かもしれないけど、制服姿の私が目立つのか周囲の大学生たちの視線がやけに気になる。それに加えて、背中にはカズ君のアコギが入ったギターケース。これも目立つ原因のひとつかもしれない。

 私が椅子に縮こまっていると、カズ君のお母さんはコーヒーが入ったカップを二人分持って、私と向かい合うように座った。

 

「久留代さんから連絡が来た時は驚いたわ。用件は一応聞いてるけど、改めてあなたの口から聞かせてくれる?」

 

 コーヒーを一口飲んだカズ君のお母さんは、静かに私の目を見ていた。

 

「……私に、歌を教えて欲しいんです」

 

 私は自分の不安とか緊張とか、そう言うのが出ないように必死に抑えながら、できるだけ丁寧に頭を下げて頼んだ。

 今、目の前にいるのはカズ君のお母さんであり、日本で一番の音大の講師であり、何より私の先生になるかもしれない人だ。

 薄めの化粧に清潔な白を基調としたシャツとスカート。カズ君の家で偶然出くわした時は、気の良いお姉さんって感じで、いつも優しく私と接してくれた。けれど今日はそういう気配はまったくなくて……こちらを静かに威圧するような、怖いくらいに真剣な大人の顔をしている。

 私を、子供じゃなくて、一人の音楽家として見てきているような。私のことを見定めているような。そんな強い目だった。

 

「一応、あたしは外部からの雇われだけど、ここの教師だってこと。郁代ちゃん、その意味分かってる?」

「……」

 

 日本一の大学の、音楽の教授に歌を教えてもらう。改めて自分はとても厚かましいことをしているんじゃないかと思えてきて、恥ずかしくなる。

 でも、お母さんに頼んでわざわざ時間を作ってもらって、そしてこうやって頼みに来ておいて、やっぱり帰るなんて絶対に出来ない。

 

「それでも、教えてください。私もっと上手く歌えるようになりたいんです」

 

 声が震えないように気を張りながら、私は改めて頭を下げた。

 それを見たカズ君のお母さんは小さくため息を吐いて、コーヒーを一口飲んで言った。

 

「郁代ちゃん、何時から空いてる?」

「え?」

「平日は何時から空いてる?和正から聞いてるけど、確かバンドの練習とバイトもあるのよね。何時からここの大学に来れる?」

「えっと……」

 

 頭の中でタイムスケジュールを思い出す。学校が終わって、下北沢のSTARRYからここまでの交通時間をざっくり計算して……。

 

「シフトとか、日にもよりますけど……大体夕方の5時か、夜の8時ぐらいからなら」

「そう。じゃあ、空いてる日は出来るだけここに来なさい。連絡先は久留代さんから聞いてね。それじゃあ、今からレッスン室に行きましょう」

「え、えっ?いきなりですかっ?」

 

 てっきり「なぜ上手くなりたいのか」とか「なぜ私に教わりたいのか」とか、面接みたいな質問攻めが始まると思っていた。頭の中で色々自分なりの答えを出そうと、私を育てさせる理由を見つけさせようと思っていたのに。

 

「何言ってんのギターまで持って来ておいて。郁代ちゃん、上手くなりたいなら時間を無駄にしちゃダメ。あたし、面談とかそういうの嫌いなのよ。まどろっこしくて。そんなことに時間を使うくらいなら、ピアノ弾いてた方がよっぽど有意義よ」

 

 コーヒーを飲み干したカズ君のお母さんは、現状をまだ飲み込めなくて混乱している私の目を真っ直ぐ見て言った。

 

「あたしのレッスンを受けるルールは二つ。まず一つ目は、私のことは先生と呼びなさい」

「は、はい。えっと……先生?」

「よろしい」

 

 カズ君のお母さん――もとい、先生は私が呼ぶと嬉しそうににかっと白い歯を見せて笑った。その笑顔は、私が知っている表情で少し安心する。

 

「二つ目は、レッスンは3か月。7月までね。そこまでは教えてあげる。ただし、一度でも根を上げたら、レッスンはおしまい」

「おしまい?」

「ええ。おしまい。それ以上、あたしはあなたに何も教えない。ちなみに和正が幼稚園の頃、ピアノのレッスンを半年で逃げ出したことがあるのよ。それぐらい厳しいわよ?」

「え、嘘」

 

 カズ君が、逃げた?あのクレイジー音楽オタクが、レッスンから逃げるという姿が想像できなくて――それほど厳しいのかと、私の血の気が一気に下がった。

 

「それでもいいなら、あなたに歌を――ううん、この言い方はちょっとイカしてないわね」

 

 その時の先生は、まだクラシックの先生だったけど――

 

「それでもいいなら、あなたにロックを教えてあげる。3か月で一流に育ててあげるわよ」

 

 不敵に笑ったその瞬間、一気にロックの先生になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スポーツを教えるコーチには、いろんなタイプがいる。

 中学の頃、スポーツが得意だった私は人数合わせの為にいろんな部活から助っ人として声をかけられていた。うちの中学は校則も緩めだったから、帰宅部だった私も自由にあちこちの部活に混ざって、放課後の体育館やグラウンドを転々としていた。

 そんな風にいろんな部活動を渡り歩いていたら、コーチや顧問にも、いろいろ特徴があることに気が付いた。

「根性が足りん!」と怒鳴り散らす、昭和風味の野球部の顧問。

 どこが悪かったかを冷静に言語化して、選手自身に気づかせるバレー部のコーチ。

 黙々と基礎練習を繰り返させるバスケ部の顧問。

 いろんな先生がいる。学校で勉強を教えている時とは違って、厳しく技術を教えるコーチ達。その指示に従って練習を黙々とこなす選手達。時に陰でコーチの愚痴を言いながらも、それでも「やめる」なんて一言も言わない。

 私はあくまで、助っ人という立場だったから、部員たちと同じように本格的な指導を受けることはほとんどなかった。けれど、ああいう風に誰かに技術を教えられて、コーチングされて、信頼を築いていく師弟関係に憧れみたいなものがあったのかもしれない。スポコンのドラマっぽくて、ちょっとかっこよくて。

 

「今の、ジョーン・バエズ?」

「は、はい」

 

 さすが、音楽大学の先生……というより、カズ君のお母さんだ。曲名も言ってないのに、私が弾いた曲をすぐに言い当てた。

 

「そ、それでどうでした?」

「ううん、やっぱりダメダメね。動画観てたから知ってたけど、メジャーコード下手すぎ」

「結構自信あったのに……!」

 

 私のささやかな自信と憧れの妄想は、わずか数秒で見事に砕け散った。

 案内された音楽大学の練習室は、壁一面が防音パネルで覆われていて、部屋の中央には大きなグランドピアノ。たった一人の学生の練習の為に用意されるには、あまりにも豪華すぎる空間に私はすでにビビり気味だったけど……それ以上に怖かったのは、今目の前にいる先生だった。

 お母さんを説得させる時にも歌ったジョーン・バエズの『Diamonds and Rust』を先生に弾いて聴かせた直後の感想がそれだった。

 

「あ、あの……そんなに下手ですか?」

「うん、下手。よくそんなのでステージに上がれたわね?和正の左もなかなかひどかったけど、郁代ちゃんはその更に上を行くわね」

 

 先生は全く遠慮なくズバッと言い切られ、私は膝を床につきたくなった。

 後藤さんとリョウ先輩に鍛えられてそれなりに自信はあったのに。

 カズ君が半年でレッスンから逃げ出した理由がなんとなく分かった気がする。この人、心を殺す厳しい言葉を息をするようにぽんぽんと投げつけてくる。これを当時、幼稚園生だったカズ君が受けたら心が折れるのは当たり前だ。私が公園の砂場で遊んでいる時、カズ君はこんな苦しみを味わってたのね……。

 

「コード進行が不安定なのはギタリストとしては致命的ね。無駄に力んでいるから、指をまだ完璧に独立できてない」

「えっと……つまり?」

「キレがないのよ。左手をまだ上手く使えていないの。郁代ちゃん、ストレッチやってる?」

「い、一応……」

「なら、これからは左指のトレーニングも追加すること。あとでメールでメニューを送っておくわ。あと、箸や鉛筆を持つ時も出来るだけ左手を使うようにしなさい」

「それって、両利きになる練習?」

 

 テレビか何かで見た記憶がある。野球選手やバスケ選手が試合で有利になるように、小さい頃から利き手じゃない方で鉛筆や箸を使い続けて、最終的に両手とも同じくらい器用に動かせるようになるっていう話。

 

「さすがに両利きになれとまでは言わないわ。でも郁代ちゃんはまだまだギター歴が浅い。少しでも早く左の指が上手く動くよう、もっと左指を使い込まないと」

「……」

「ギターを触っていない時でも、常に意識しなさい。ご飯を食べている時も、学校の授業を聴いている時も、空いた時間はイメージトレーニングに費やしなさい。自由自在に左指を動かす自分の姿を。滑らかに、思い通りに音をコントロールする自分の姿を」

 

 先生の声が、淡々としてるのに妙に刺さる。

 

「そうしないと、小さい頃から楽器に触れてる子たちには、追いつけないわよ」

 

 思わず自分の左手に目を落とす。もどかしかった。こういう時、いつも同じことを想う。

 もっと早く、ロックと出会って、ギターを始めていればって。

 何度も何度も思った。

 

「じゃ、次は歌の方に行きましょう。結束バンドのオリジナル曲……は、まだあたし楽譜知らないや。そうね、郁代ちゃん、何か歌える曲ある?」

「え?えっと……じゃあ、宇多田ヒカルの『About Me』で……」

「あら、渋いチョイス……。和正に教えてもらったの?」

 

 私は首を振る。この曲はカズ君に教えてもらった訳じゃない。自分で見つけて、好きになった曲だ。私自身の手で探し出した、大好きな曲だ。

 

「歌えるの?あれ、全部英語詞だったでしょ」

「は、はいっ。私、宇多田ヒカルの大ファンで……!」

「へー……。じゃあ試しに歌ってみなさい。アカペラで」

「はいっ」

 

 私は部屋の真ん中――グランドピアノの椅子に座って腕を組んでいる先生の真正面に立って、深呼吸をひとつ。咳ばらいをひとつ。そしてやっと息を吸い込んで、歌い始めた。

 ギターがない私の歌声は、細くて、壁の防音パネルに音が吸い込まれるように融けて消えていく。なのに、外からの雑音はほとんどしなくて、私の呼吸音がはっきりと耳に響いた。

 歌い終えた後、先生はしばらく考え込んで、言った。

 

「悪くない」

「えっ、ほんとですか?」

「歌としては全然よ」

「うぐっ」

「……でも、声は悪くなかったわ」

 

 それは、さっきまでぼろくそに酷評されたギターよりは少しマシな評価だった。

 

「……なるほど、和正が気に入る訳ね」

「え?」

「なんでもないわよ」

 

 ぼそりと呟いた先生の囁き声は、無音の練習室なのに上手く聴き取れなかった。

 

「郁代ちゃん、音程を合わせるのは得意なのね。発声も良かったし、やっぱり英語の発音も悪くはなかった。けど、抑揚のつけ方が単調すぎる。自覚してる?」

「……はい。言われてみれば」

「あと、喉だけで声を出してるわ。ずっと音程と音量を喉で調整してきたでしょ?腹式でやろうとしていた意志は見えたけど、途中から雑になってた」

「……はい……」

 

 次々と指摘される、私の歌声の粗。先生は私の欠点をひとつも聞き逃さず、それを全て言ってくれて、ひとつひとつがナイフみたいに鋭くて胸に突き刺さっていく。

 でも、全部正しい。

 まだ30分も経ってない。けれど、この人の教えは正しいと、直感で分かる。

 この人は、私に足りない技術を知っている。私に足りない何かを知っている。私の可能性を、伸ばそうとしてくれている。

 カズ君とそっくりな、真剣な目だ。

 先生は私を一人の人間として、私の挑戦を真っ直ぐに受け止めてくれている。

 この時、私は確信していたんだと思う。この人の下で教えてもらえれば、もっともっと上手くなれるって。

 

「だから、今日からあなたの歌を一から叩き直す。いい?」

「――はいっ。あ、でも、レッスン料とかはどうすれば」

「未来の義娘からわざわざ取んないわよ。安心しなさい」

「――っ!?あ、いや、先生!?」

 

 出来ないことは出来るようになるまで何度でも挑戦する。今までだってずっとそうしてきた。

 初めてギターに触って、『Stand By Me』を練習した時のように。

 カズ君をバンドに引き入れる為に『Hey Jude』を夜通し練習した時のように。

 

「じゃあまずは腹式。息の吸い方から吐き方まで、全部教えるわよ」

「――はい、お願いします!」

 

 私は、諦めの悪さだけなら、誰にも負けないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一ヵ月、秀華高校と、STARRYと、東京音楽大学と、自分の家をぐるぐると回る日々が始まった。

 学校が終わったら放課後、STARRYでバイトかバンドの練習。それが終わったら大学へ向かって、夜の10時まで先生のレッスンを受けて、先生の車で家まで送ってもらう。門限は10時までだけど、先生とお母さんは顔見知りということもあって、最近家に帰れるのは夜の11時か日付が変わる直前になる事が多い。家に帰りつくと、お風呂に入ってそのままベッドで気絶するように熟睡する。バイトが無い日はそのまま大学へ直行して、大学の学食で夕飯を食べて、夜の10時までみっちりレッスンを受けてから先生に送ってもらって……そんなサイクルが出来上がりつつあった。

 結束バンドに入ってから、時間の流れが加速し続けてた。けれど、先生のレッスンが始まってからは更に時間が濃密になって、更に加速が早くなった気がする。

 

「喜多ー、今日はどうするー?」

「ごめーん無理!今日はレッスンの日なの!」

「え、また?昨日はバイトで、今日もダメなの?」

「ごめんさっつー、また明日ー!」

「おー……」

「喜多ちゃん、最近忙しそうだねー……」

 

 前までだったら、カラオケに誘われたら絶対に行ってた。でも、今はとてもじゃないけどそんな余裕がない。私は急いで鞄に教科書を詰め込んでいく。早くしないと、バスに乗り遅れちゃう。

 

「そだねー。喜多ー!」

「なーにー!?」

「ほれアクエリ!差し入れもってけー!」 

「……ありがとさっつー!またカラオケ一緒にいこー!」

「おー。頑張ってこーい」

 

 腐れ縁だけど、こうやって見送ってくれる友達がいてくれることが嬉しい。

 さっつーの優しさにちょっとだけ胸がチクッとしながら、私は急ぎ足で教室を飛び出した。

 カズ君は留学の為の補講とかで忙しそうで、放課後一緒に過ごせる時間はめっきり減ってしまった。後藤さんや先輩達とも、昼休みとバイトと練習の時以外あまり顔を合わせなくなった。それを少し寂しく思いながら、駅へ向かった。

 バスや電車で揺られながら、今日のレッスンを頭の中で予習する。

 放課後の街歩きも、もうしばらくしていない。

 友達との会話ネタにしていたドラマも、最近はまったく観れていない。

 録り溜めたバラエティやドラマは、ただただレコーダーの中に積もる様に溜まっていく。

 何かに熱中できるものに打ち込むことができるのは、とても楽しい。でも、その為に犠牲にしたり、諦めなきゃいけないこともある。こういう寂しさとも付き合っていかなければいけないんだと思う。

 

「ん?」

 

 ふと、貰った差し入れのアクエリに黒い何かが……。

 ラベルにマジックで何か書いてある。さっつーの字だった。

 

『ちゃんとライブで聴かせろよ』

 

「……ふふっ。がんばろ」

 

 私は心の中で今日も決意を新たにしながら、スポドリの蓋を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生が、割と傍若無人で我が道をゆくタイプの人だと気付いたのは、2回目のレッスンの時。

 

「困るよ!部外者の高校生に練習室を使わせるだけじゃなく、講師の君が個人的にレッスンを受け持つと言うのは……他の生徒や保護者になんと説明するんだね?」

 

 待ち合わせの練習室の扉を開くと、先生と、50代ぐらいの男の人が口論しているのが聞こえて来た。思わず私は扉を反射的に閉めてしまう。

 練習室の扉は一部分が分厚い窓ガラスがはめ込まれていて、部屋の様子を見ることができた。グレーの高そうなスーツと私でも知っている高級そうな腕時計を身につけたその人は、困り顔で頭を掻きながらグランドピアノの椅子に座っている先生に詰め寄っている。

 防音が効いた扉越しだとはっきりと言葉を聞き取れない。一体何を話しているのかしら?

 

「確かに、私は外部の雇われ講師ではありますが、身内にレッスンを着けるのはそこまで悪い事ですか?希望した学生の個別指導はこれまでも何人も受け持ってきましたし、今さら一人二人増えたところで大差ないでしょう」

 

 先生は毅然とした態度で、一歩も退かずに何か話している。礼儀を体に染み付くまで叩きこまれた、礼節と気品さを纏っていて、扉の外にいる私も圧されるような雰囲気があった。

 

「君の実力は私もよく知っているし、指導にも特に力を入れていることは知っている!けれどね、いくらなんでも3か月も高校生を出入りさせるというのは……」

「あら。なら、生徒を教授室に呼び出すのは許されるのですか?」

「へ?」

「知っているんですよ、ヴァイオリンの、金色の髪の可愛い子。昼間からわざわざ呼び出して……随分激しいレッスンをしていらっしゃるようですね?合意の上での関係なら私は特に口を出しませんが、確か教授は、ご家庭を既にお持ちでしたような……」

「あ、あはは!一体何のことやら……」

「では、私が誰にレッスンをつけようと自由ってことで。手続きとか後始末とか、その辺り全部お任せしてもよろしいですわね?」

「…………ハイ」

 

 何を話してたかまでは聞き取れなかったけど、にっこりと冷たく笑う先生に耳元でぼそぼそと何かを言われた男の人は、疲れ切ったように肩を落としてとぼとぼと廊下から出て来た。練習室の扉の前にいた私に気付く事なく、大きな疲れ切った溜息を吐いてそのまま立ち去ってしまった。

 思わず固まったまま哀愁漂うその人の背中を見送っていると、先生は練習室の扉から顔を出して私に声を掛けて来た。

 

「あら郁代ちゃん、いらっしゃい」

「せ、先生。こんにちは。あの、今の人は……」

「この大学の教授よ」

「え……あの人、教授?」

「まああたしに言わせればスケベ親父。郁代ちゃんが気にすることじゃないわ」

 

 容赦のない先生の物言いに、私は苦笑いを返すしかなかった。

 

「何の話をしていたんですか?」

「ただの大人の事情よ。郁代ちゃんにここを使わせる手続きがちょっと面倒でね。でも、もう解決したから大丈夫。安心しなさい」

 

 先生はそう笑って私の肩をぱんぱんと叩いた。

 

「それじゃあ、さっそくレッスンを始めましょう。準備はいい?」

「――はい!」

 

 先生のレッスンは、基本的に基礎が中心だった。

 ダイナミクス、チェストボイス、ブレスコントロール。フェードアウトやシャウトのやり方。

 学校の音楽では絶対に習わらないような、本格的な歌い方を、ギターと併行して教えてもらう。

 

「せ、先生……?これ全部私が弾くんですか?私リズムギターなのに……」

「リズムギターだからって弾けるのと弾けないのとじゃ天と地ほど差があるでしょ?安心して。これは曲じゃなくて、ただ指に動き方をしみ込ませるだけの基礎トレだから」

「き、基礎?で、でも、この譜面おたまじゃくしで真っ黒……」

「や・り・な・さ・い」

 

 先生は厳しい。

 やってること自体は基礎から大きくはみ出ていないはずなのに、初っ端から負荷をかけた練習を私に課してくる。筋トレ初心者に、いきなり百キロのバーベルを持ち上げることを強要するようなスパルタ指導。終わる頃には指と頭がくたくたになるぐらいの重いレッスン。

 それだけなら、まだ体力と根気があれば耐えられるのでよかったんだけど。

 以下、個人的に心にヒビが入った先生の煽りベスト3。

 

3位「声出てない、音も取れてない、リズムもズレてる、何一つ合ってない」

2位「雑音と音楽の違いも分からないの?」

1位「郁代ちゃんって、疲れてるフリだけは上手なのね~上手上手。それでいつ本気出すの?」

 

 先生の指導の真骨頂は、的確に相手の急所を狙う罵声の数々。どれもが一級品で私の心を容赦なく削って、煽ってくる。

 頭と喉、そして心に負荷をかけまくる。それが先生の指導だった。

 去年の夏、店長さんにギターを教えられた時も余りの厳しさに根をあげそうになったけど、あの時の比じゃないぐらい厳しい。

 それでいて、私が限界ぎりぎりでへこたれそうになると決まっていう台詞があった。

 

「やめたら楽になれるわよ?」

 

 やめたら――。

 

 やめたら、カラオケに行ける。放課後、さっつーや友達の遊びの誘いを断らずに、一緒にカラオケして、帰りにケーキを食べて……。

 喉ががらがらになるまで歌わなくても大丈夫になる。指に出来る豆がこれ以上増えない。疲れで授業中眠らなくても済む。

 STARRYのバイトをもう少し増やせる。スタジオで、後藤さんと一緒にギターの練習が出来る。虹夏先輩と、リョウ先輩に会える。

 カズ君に会える。カズ君と一緒にお出かけして、一緒に宿題を片付けて、ご飯を一緒に食べて、音楽を一緒に聴ける。あの、微睡みたいに優しい時間に行ける。

 楽に――楽になれる。

 

 本当に?

 

「……もう一回、お願いします」

 

 そんな風に煽られては、黙ってへこたれてなんかいられなくなる。先生は煽って人の限界を越えさせるのが、絶妙に上手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、喜多って左利きだっけ?」

「右利きだけど……今、特訓中なの」

「えー?」

 

 学校の休み時間。私は先生に言われた通り、左手でシャーペンを持って板書を写していた。

 でも、当然のようにうまくいかない。今まで一度も左で字なんか書いたことなかったから、字はガタガタで読みにくいし、一文字書くのにもやたら時間がかかる。

 結局、ノートは間に合わなくて、休み時間にさっつーから借りて書き写している状態。

 

「本当に真面目だな喜多は~……」

 

 前の席の椅子にひょいっと座って、さっつーが呆れたように顔を覗き込んでくる。

 でも、あんまり気の利いた返しもできない。ちょっとでも気を抜くと、もう自分でも読めないくらい文字が崩れちゃうから。

 私はノートとにらめっこしながら、ひたすら歪な文字を書き続ける。だんだん、周りのことなんて気にしていられなくなっていった。

 

「…………喜多~」

「な、なに、さっつー?」

「ロック、楽しい?」

「うん」

「……そっか~」

「佐々木さーん!」

「ん、どーしたー?」

「今日の放課後、カラオケ行くけどどうする?隣のクラスの男子も何人か誘えたんだけど!」

「おー、やるじゃん。ちょうど今日部活休みだし行くわ~」

「あ、喜多ちゃん!せっかくだから喜多ちゃんも一緒に――」

「あーダメダメ」

「へ?」

「こいつ今、ロックしてっから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生の下でレッスンを受け始めて2週間が過ぎた頃。

 

「うん。基礎も固まってきたわね。じゃあそろそろ、次のステップに行ってみましょうか」

「次のステップ?」

「今、あたしがここで教えてる子達と合わせをするの。元々、声楽科の子がボーカルでやるはずだったんだけど、少し前にプロデビューしてね。代役が決まるまで、郁代ちゃんが穴埋めしてあげて」

「は、はい!」

 

 私と先生が練習に使っている棟には他の学生も普通に出入りしているので、時々、隣の部屋からギターやドラムの音がすることがあった。だから今回の練習は、大学生のロックバンドのボーカルをすることになるんだと思っていた。

 けれど。私はこの日、先生が真のスパルタ教師なんだと悟る。

 

「無茶ですって先生!私、ロックバンドのボーカルなのにソリスト*3をするなんて!」

 

 私が先生に連れられてボーカルをすることになったのは、ギターやドラムと言ったロックバンドじゃなく、れっきとしたオーケストラだったのだ。

 ヴァイオリンやティンパニやコントラバス――クラシックのコンサートでは当たり前のように使われる楽器達が、約20体、私を待ち構えていた。普段着で練習している先輩方は、顔つきや雰囲気が私の知っている吹奏楽の人達とまったく違うぐらい異質で、息が詰まるように重苦しい。音符一つ間違えるだけで叱られる、楽器で戦ってきた人達の、圧。

 

「私、ソプラノ歌手みたいな歌い方なんて、やったことありません!」

 

 先輩方が練習している楽曲は久石譲の『Stand Alone』だった。6月の定期公演で演る曲らしい。私もカズ君に聴かされたことはあるし、楽譜があるから歌詞は分かるけれど、それでもとてつもなく難易度が高い曲だ。ロックのボーカルが歌えるようなポピュラーミュージックではなく、オペラやクラシックで活躍する声楽家の人が独唱する為の曲だ。『You Raise Me Up』よりはまだマシーーとかそういうレベルじゃない。

 ステージにあがって、マイクに歌声を注ぐのではなく。自分の声を、ひとつの楽器として成り立たせる技量が必要なことぐらい、クラシックにわかの私でも分かる。そして、自分がそんな領域に立つ立たない以前の問題であることも。少なくとも私はカラオケで歌っても70点……いや、60点以上を取れる自信もない。

 それに、私はまだ音楽を始めてから1年も経っていないルーキーだ。それに比べて、何年も前からコンサートやコンクールで腕を競ってきた先輩たちと、いきなり一緒に演奏するなんて。

 目に見えない大きなコンクリートが、私の肩の上に伸し掛かってくるような緊張感が、私を圧し潰そうとしてきた。ライブや合唱コンクールみたいな緊張とはまったく違う、しいて言うなら――クラシックそのものの、荘厳な圧があった。

 古から続く長い歴史と伝統を持つクラシックと、まだ生まれてから100年も経ってないロック。

 ピアノやヴァイオリンを構える先輩達それぞれの目が、怖い。なまじ、クラシックを半端に知ってて聴いているから、それが余計に怖かった。

 

「ロックのボーカルしかやったことないのに、クラシックの歌なんて……」

「何言ってるの。ロックとかクラシックとか、そういうのはただ分かりやすく分けるためのラベルにすぎないの。それとも何?ロックはクラシックなんかに合わせるものじゃないとか思ってる?」

「そ、そんなことないですっ。ただ畏れ多くて……」

 

 私がそう言うと、先生はずんずんと近付いてきて逃げられないように私の肩をがっしりと掴んで、真っ直ぐに目を見て言い聞かせた。

 

「あなたの、そういう真っ直ぐに音楽に敬意を払ってくれるのは嬉しい。でも違う。まず、ロックとかクラシックとか、そういうあなたの歌を邪魔する固定観念を崩しなさい。頭の中の意識を書き換えるの」

「崩す……?書き換える……?」

「せんせーい、まだっすかー?時間かかるなら、俺らだけで勝手に合わせてますけど」

 

 ヴァイオリンの――多分パートリーダーの男の人が、先生に気安くそう進言すると、先生は厳しい声音でそれを制した。

 

「ちょっと待ってなさい。今この子に大事なことを教えてる最中だから」

「……うす」

 

 先輩が静かにそう頷くと、先生は改めて私に向き直った。

 

「どっちが優れているとか、どっちが格が上とか関係ない。確かに、音楽の源流は西洋芸術音楽(クラシック)の長い歴史にある。ジャズもポップもロックも、元を辿れば必ずクラシックに辿り着く。けれどね、所詮どちらもただの音の振動に過ぎない」

 

 先生は私の肩をがっちりと掴んだまま、離さない。私の心の芯に響かせるような力強い声音で、私に叩き込むように言い聞かせてくる。

 

「リスペクトは必要よ?でも、だからって恐れちゃダメ。クラシックとロックは、必ずしも相反する別々の物じゃない。二つは融和できる。ELOやMoody Bluesみたいにね。クラシックの技術は、ロックに活かせるように、ロックの技術もクラシックに活かせるの。郁代ちゃんも1人ぐらい好きな歌手でいるんじゃない?ソプラノ歌手ばりに歌うボーカルとか」

「……KOKIA」

「よく知ってるわね。和正から教わったの?」

「『Il mare dei suoni』とか好きで……」

「私もその歌は好きよ」

 

 先生はそう言って笑いながら、私の肩から手を放した。肩にはまだ置かれていた手の熱が残っている。

 

「最初は誰でも未経験なのは当然。でも、ここは練習の場。どれだけ失敗しても許される。自分の世界を新しく識るチャンスなの。ここにいるオーケストラとの練習が、あなたの身になるかならないかは、郁代ちゃん次第。でもね。どんな場所でも、自分の技術を磨くことを止めたミュージシャンに先はない。狭い世界に閉じこもった人間に未来はない。クラシックだろうがロックだろうが、ギタリストだろうがヴァイオリニストだろうがそれは同じ。新しく挑戦しない人間は、どんどん凡庸になり下がる」

 

「常にインスピレーションを刺激し続けること。それが音楽家の、生涯の命題だと思いなさい」

 

 それは、先生の目の前にいる私に言ったというより、この練習室にいる全員に言い聞かしているような言葉だった。

 私含めて、練習室にいた人達が口を一切開かずに聞いていたからだろうか。そんなに大きな声で言っていないはずなのに、先生のはっきりとした言葉は、反響して、私達の身体を震わせているような。そんな感覚を得る。

 

「わ、私……先生の言う通りにしてれば――」

 

 本当にもっと上手くなれるのか、という問いかけは、最後まで続かなかった。先生が私の口に人差し指を当てたからだ。

 先生はいたずらっぽく笑って、私に言った。

 

「ここにいるオーケストラもまだまだ下手糞だから。高校生で初心者の郁代ちゃんがいるぐらいでちょうどバランスいいのよ!」

 

 仮にも東京音楽大学の狭き門を通って来た人達にそんなことを言えるのはこの人位しかいないと思う。

 先生がそうかっかと笑いながら言うと、それまでずっと黙って椅子に座っていた先輩達がヴァイオリンの弓を振り回して猛抗議した。

 

「ひっでー先生!」

「こちとら10年ヴァイオリンでやってきてるのに!」

「モラハラで訴えるぞ鬼教師ー!」

「ぶーたら言わない。悔しかったらあたしに『下手糞』って言えるぐらい上手くなってみなさい!ほら、練習始めるわよ!」

 

 畏れはある。怖さもまだある。

 でも、先生の言葉は、私の中の意識をひとつ、書き換えてくれた気がした。

 私は楽譜を手に握り絞め、オーケストラの中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっちのクラスはどう?」

 

 カズ君が手作りの焼きそばパン(食パンに焼きそばを挟んだだけ)を齧りながら、椅子にちょこんと座ってお弁当を食べていた後藤さんに話しかけた。

 

「え、えっと、け、今朝はなんとか、隣の席の人に挨拶が出来ましたっ」

「おお、やるじゃん後藤」

 

 私とカズ君でぱちぱちと拍手を送ると、後藤さんは「でへへ」と嬉しそうに顔を蕩かしている。入学初日、高校デビューに失敗して「いつか絶対学校やめてやる」と打ち上げで騒いでいた後藤さんが、クラスメイトに挨拶できるようになったのね……。目覚ましい成長……。

 

「挨拶の次は雑談だね。なんかきっかけがあればいいんだけど」

「あ、えっと……休み時間に、前の席の人達がBUMPとかアジカンの話してて……」

「お、BUMP OF CHIKENか。いいね。『飴玉の唄』とか好きだよ。それで、話しかけれた?」

「……最初はアジカンの『ライフ イズ ビューティフル』をネタに話しかけようとしたんですけど……緊張しすぎて話そうとしたこと全部飛んじゃって……」

「あらま……」

 

 後藤さんが分かりやすく肩を落として溜息を吐いているのを、カズ君が「大丈夫大丈夫頑張ってる」と声を掛け続けてる。

 後藤さんはすごく面白くて、喋るとたまに挙動不審だけど、ギター持ったら別人みたいにかっこいい。引っ込み思案が邪魔して、なかなかクラスの人達と溶け込めていないみたいだけど……みんな後藤さんのことを知ったら、きっと向こうから友達になってくれると思うんだけどな。

 

「そういうカズ君こそどうなの?」

「どうなのって、何が?」

「友達!カズ君、新しいクラスでもヘッドホン着けっぱなしで孤立してるんじゃないの?」

「いや、そんなことないよ?さっきだってここに来る前、一緒に昼飯食べようって誘われたし」

「え゛っ」

 

 カズ君のその言葉に、左手で不器用に卵焼きを摘まんでいた私の箸が止まる。

 

「……女子?」

「え、あ、うん。なんか、Youtubeで結束バンドのチャンネルを観てたらしくて、僕の事を知ってたみたいなんだよ。ほら、この間の、僕がボーカルで撮ったミスチルの『花言葉』」

「あ、ああ……あの失恋ソングの……」

「そう。後藤が撮影中、何度も死にまくってリテイク地獄になった奴」

「う、そ、その節はすいません……」

「いいよ別に。僕の歌も結構いい出来だったし、それに後藤のアレンジめっちゃ映えてたし」

「う、うぇへへへ……」

「それを聞いて、僕のファンになったーとか言っててさ。カラオケとかクラス会に誘われたりしたけど――あれ、喜多。どうしたの?」

「ううん、なんでもないわよ?新しいクラスでも楽しそうでよかったわね、カズ君!」

「言葉に棘があるんだけど……」

(き、喜多さん……目が笑ってない)

 

 不覚だった。まさか私達のチャンネルを見ているファンが同級生にいるなんて……嬉しいけどめっちゃ複雑!私達のファンが同級生にいるという嬉しさと、私が居ない間にカズ君との距離を詰めようとしている悔しさが私の中で渦巻いてる!

 やっぱり、カズ君と同じクラスになれなかったのは痛い。カズ君のにわかファン達が私の手の届かない場所ですり寄ってるなんて……!近い内にさっつーか他のクラスの子に手伝ってもらって、その子に牽制しておかなきゃ……。

 

「じゃ、雑談は置いといてそろそろ練習しよ。昨日は『月並みに輝け』だったけど、今日は動画撮る曲の方を浚っておこっか。確か今週撮るのは、後藤が選んだ……」

「あ、『Fighter』です。KANA-BOONの……」

「いいわよね、KANA-BOON!でも私は『シルエット』の方が好きだからそっちの方が歌いたかったなぁ……」

「すすす、すみません!」

「ふふ、冗談よ、後藤さん!私、しっかり練習しておくから、一発撮りでやっちゃいましょ!」

「は、はい!」

「じゃ、僕はピアノでリズム取るから、二人は本番のつもりで演ってね」

 

 昼休みの喧噪が校舎中に響いてるけど、どこか遠くに聞こえる。この音楽室だけ、別の世界になったみたいだった。

 普段は音楽の授業か、吹奏楽部が独占している教室だけど、昼休みは先生も生徒も誰も訪れない。それに気付いたカズ君が先生と交渉して、家から小型のアンプを持ち込んで、自主練習に使わせてもらっている。

 中学の頃、昼休みは私とカズ君二人で練習していたけど、高校が一緒になって後藤さんも練習に加わってくれるようになったのが少し嬉しかった。

 

「後藤!また顔がずっと下がってる!一瞬でもいいから、僕と喜多の方を見て!顔を上げる癖を着けるんでしょ!」

「ひゃ、ひゃいっ」

「喜多ももう少しテンポ上げれるでしょ……って、なんで泣いてんの?」

「……カズ君のコーチングって、優しかったんだなぁって」

「急にどうした?」

 

 先生に比べると、カズ君の教え方は10倍優しく思えて、なんだか涙が出てきた。「明日からのレッスンはもっと厳しくいくわね」とか言われたけど、今日の放課後のレッスンはどうなってしまうんだろう。今からもう怖い。

 

「ねえ、後藤さん」

「は、はい?」

「左のフィンガリングのコツって、何かある?」

 

 でも、昨日よりもうちょっとは上手になったら、先生をびっくりさせれるだろうか。

 そしたらいつか自慢できるかもしれない。私のギターの先生は、誰よりも凄いギターヒーローなんだって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ高校生なのに東音に乗り込んで来て、あの先生に師事を乞うなんて!喜多ちゃんってロックすぎない?」

 

 そうからかうように言ったのは、大学生のヴィオラ奏者の人だった。最初は恐る恐る話しかけてくれていたこの人も、今ではすっかり気軽な知り合いになった。

 先生の指示でオーケストラの練習に混ざるようになって、自然と何人かの学生と顔見知りになった。通い詰めるうちに、演奏の合間にちょっとした会話を交わす仲にまでなっていた。

 ギターを担いで制服姿でキャンパスにしょっちゅう通ってくる高校生が珍しかったらしく、興味本位で話しかけてくれたのがきっかけだった。みんな気さくで年下の私に優しく、今ではSNSでフォローし合うぐらいには仲がいい。

 

「喜多ちゃんって軽音部でやってんの?」

「あ、いえ、私は軽音部じゃなくて、ロックバンドで……下北沢のライブハウスを拠点に活動してるんです」

「えー!すご!その年でライブハウス?」

「いえ、私はまだまだで……」

 

 演奏するメンバーは、日によって変わった。ヴァイオリンだけの日もあれば、ピアノやハープが入る日もある。みんなそれぞれ、別のオーケストラやバンドに所属していて、固定メンバーなんて存在しない。

 でも、ソリストなんて初めての拙い私に合わせて演奏してくれた。叱ったりもせず、「気楽に行こう」と声を掛けて練習に付き合ってくれる。

 こんな未熟な私の練習に時間を割いてくれるのが、最初はただただ嬉しかった。

 そんな訳で、「いつも練習に付き合ってくれてありがとうございます」とお礼を言ったら――

 

「別に喜多ちゃんの為にやってるわけじゃないよ?」

 

 そう淡々と返されて、私は目を丸くしてしまった。

 

「先生の指導下で合わせができる機会なんてなかなかないし。それに、あの人とコネ作れるチャンスなんだよ」

「雑誌とかライブハウスとか、音楽業界のコネクションすごいらしいしね。つーかあたし、今年先生の授業取れなかったから、ここで見てもらえてラッキーだよ」

「先生のレッスンって倍率すげーからなー。俺も去年の授業、抽選漏れて取れなかったわ」

「そうそう。ここで顔を覚えてもらえれば次のオケで使ってもらえるかもしれない。そう思ったら、手を抜く理由ないでしょ」

「正直言うと、最初は『なんでこの子がソリスト?』って思ったけどね。穴埋めとはいえ高校生の初心者なんて。でも先生が連れて来た子だし、決まった以上こっちは本気でやる。だから別に、喜多ちゃんの為なんかじゃないからそんなふうにお礼言わなくていいよ?」

 

 私はその時、初めて自分と一緒に演奏している人達が、日本一の音楽大学で戦う人達なんだと知った。音楽で食べてくために技術を磨き、戦い続ける人達。

 私はいつの間にか、無意識に唇を噛んでいた。

 東京音楽大学に入学することの難しさは知っている。私よりずっと幼い頃から、ピアノやバイオリンの練習を何年も続けて、コンクールに何度も出て入賞して、それでやっと入学できる。

 でも、そこがゴールじゃない。ずっとずっと先を見ている。自分の腕を売り込む場として、あるいは次のチャンスへと繋げる為に、この“合わせ”に挑んでいる。

 最初は、この人達に混ざって歌うのが怖かった。自分がまともに歌えなくて、それで自分の粗をまざまざと見せつけられているような気がして。

 でも「怖い」とか「自分のレベルが低いから」と、及び腰になっている自分が恥ずかしくなった。東音に乗り込んでまで練習に混ぜてもらっているのに、未だに中途半端だった自分が、『練習に付き合ってもらってる』と勘違いしていた自分が、情けなくて恥ずかしくなった。

 こんな真剣に音楽に生涯をかけている人達と練習をさせてもらっているのに、勝手に壁や距離を感じてビビっている自分がもったいなかった。

 その日を境に、私は自分の歌声が磨かれていくのを感じた。自分の喉の奥底から涌き出てくる歌声は、徐々に力強く、暖かな響きを持つ物へと変質していった。

 

 そしてその瞬間がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生のレッスンを受け始めて、もう少しで1ヵ月が経とうとした頃。

 偶然揃った、コントラバス、ヴァイオリン、ピアノ、そしてハープ。人数は少ない簡易的なオーケストラ編成だったけど、その日の響きは本物だった。

 

 久石譲の『Stand Alone』。

 

 自分のまだまだ拙い歌声が、古くから続くオーケストラの壮大な音に彩られていく。

 音と音が、まるで導かれるように繋がっていき、自分の声すらオーケストラの一部になった――そんな錯覚すら覚えた。

 あの時、ほんの一瞬――自分の喉が奥から開いて、自分の声だなんて信じられないくらい綺麗な響き方を出すことができた。確かにあの時、私が普段やっているロックンロールとは別の世界で奏でられる音楽が、自分の中に響いたんだと思う。

 とても綺麗で、とても楽しかった。

 いつかこの人達は、プロのオーケストラに入って、海外で活躍するんだろうか。それとも、音楽教師になってどこかで誰かに楽器を教えたりするのかな。

 でも、今。この一瞬に奏でられた音楽は、私達全員の、長い人生の中でふっとできた小さな接点から生まれた、本当に特別な歌。

 ロックを歌う私、オーケストラを奏でる先輩達。本来交わる事がなかった私達がこれを歌えたのが――本当に、誇らしく思う。

 

「はい、お疲れ様」

 

 すると、ぱんぱん、と手を打つ音が響いた。練習室でただ一人、私達の演奏を聴いていた先生だった。

 先生はにっこりと笑って――でもどこか底冷えするような表情を私達に向ける。

 

「じゃ、今の演奏の反省会しよっか」

 

 その一言を聞いた瞬間、私含めて全員が引き攣った笑顔を浮かべたのは、気のせいじゃないと思う。

 増長しかかって思い上がった私の自信はすぐに叩き落とされた。

 

「喜多ちゃん、よくあの人を先生に選んだね……普通に尊敬する」

 

 反省会で私含めて全員がけちょんけちょんにされた後、クラシックのピアニストを目指している、モデルみたいに綺麗な女子学生のお姉さんが苦笑いを浮かべて言った。

 それを聞いた、他の人達も同意するように「うんうん」と力強く頷いた。

 

「私も……去年、個別レッスンを受けたけど、あの人の罵声に何度心を折られかけたか。バイオリンやめようかと何度も思った」

「そーそー。『あの人のレッスン受けると絶対伸びる』って前評判に釣られるとボコボコにされて逃げるか根性出して最後まで食らいつくかのどっちかになるのよね」

「一回生が泣きながらレッスン室を飛び出していく光景は最早うちの大学の風物詩だよね」

 

 あの先生が普段どんな指導をしているのか、現在進行形で私も身をもって味わっている真っ最中なので、苦笑いを返すことしかできなかった。

 

「基本鬼なのよあの先生。それか人の心をどこかに置いてきてるわよ絶対」

「それでいて悔しいのが、あの人の下で練習してると自分でも分かるぐらい滅茶苦茶伸びることなんだよな」

「自分の欠点や粗をまざまざと叩きつけてくるからねー」

「しかも手本を見せるときは、こっちが口をつぐむしかないくらい圧倒的な技量を叩きつけてきてくるから黙るしかないんだよな……なんでピアノだけじゃなくドラムもバイオリンも完璧なんだよ!」

「なんか、昔は指揮者を目指してたらしいよ。それで大体の楽器をマスターするぐらい練習してたんだって噂」

「へー」「道理で」「でも厳しすぎて結婚とか出来なさそうよね」「え?あの人既婚者だよ?息子さんいるって自慢された」「うっそ!?」「マジ!?」「うん。この間息子自慢された。最近ピアノ始めて上手くなってるって」「え、先生って息子の演奏ほめるの?子煩悩過ぎない?」「全然イメージできねぇ」「でも先生の息子さんかぁ」「すごい癖が強そう」

 

 けれど、先生への愚痴の裏には先生へのリスペクトとかが籠っている気がした。反骨的でそれぞれ悪態をつきながらも、先生のことを慕っているのがなんとなく分かって、私も共感出来て少し嬉しかった。

 でも、音楽のエキスパートと言っても過言ではない東京音楽大学の生徒にここまで言わしめる先生って……改めて私は、とんでもない人にロックを教わってるんだなとちょっと怖くなってきてしまった。

 

「喜多ちゃんも、もっと上手になっていつかあっと驚かせてやりましょ」

「そうよ。あの人に『チケット買わせてください』って言わせるのが今の目標だから」

「うちもー。グラミー賞取ってあの人に『あの子は私が育てました』ってインタビューとかスピーチで言わせてやる」 

「頑張ろうな喜多ちゃん!あの鬼教師に目にもの見せてやろうぜ!」

「――はいっ」

 

 私もいつか、あの人を私の、結束バンドのライブに呼んで聴かせたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、あの特別な時間は長くは続かなかった。

 4月の末頃に代役のソリストが決まり、私は役目を終えた形で練習メンバーから外れることになった。

 本当ならこのまま先輩達の定期公演に出演したいと少し思ったけど、私がソリストを張れるほどの実力があるとは思ってない。でも、不思議と悲しくはなかった。どちらかと言えば、納得の方が大きい。

 自分の実力不足を自覚しているのはあるけど、やっぱり私は、結束バンドのボーカルでありたいと改めて思えたから。だから私の役目はここでおしまいなんだと、そうやって自分で区切りを付けれたからだと思う。

 先輩達に「絶対公演聴きに行きますね」と約束して、私は先輩達のオーケストラから抜けた。

 それからは、また先生と二人きりのマンツーマンのレッスンに戻った。

 

「あたし、基礎を蔑ろにする子、嫌いなのよ」

 

 ある時、休憩中にタンブラーのコーヒーを啜っていた先生が、唐突にそう私に言ったのをよく覚えてる。

 

「ロックンローラーは勢いだけでステージに飛び乗って、感情のままに叫ぶもんだと思ってる。基礎とか練習をすること自体をダサイと決めつけて、才能と勢いで歌うもんだと勘違いしてるボーカルが一番嫌い。声量と元から持ってる声の質だけがあればそれで通じると思ってる。“ありのままの自分でいい”とか、“下手でも気持ちがこもっていれば”とか。基礎や技術は二の次にするのが当然だとでも言いたげに。基礎や技術から逃げた奴が、最後には自分が売れない理由を才能が『ある』か『ない』かに押し付ける。技術にこだわんないミュージシャンがいっちばんダサいわ」

「え……でも、そういうスタイルで有名になったボーカルも、結構いますよね」

 

 私知る有名なバンドも、歌い方が少し雑だと思えちゃうボーカルは何人もいる。でも、そんなボーカルにも一定のファンがいたり、渋くて味があって良いとちゃんと評価をされている。私がそう言うと、先生は「確かにいるわ」と頷いた。

 

「あえて素人風な歌い方を貫いて有名になった人もいる。歌声よりも歌詞に強いメッセージを込めて成功した人もいる。メロディーを誰よりも強烈に磨き上げて輝いた人もいる。そういうのはね、基礎から逃げたとか蔑ろにしたんじゃなく、自らその道を選んだからこそ、大衆に受けて成功したの。『自分』と言うスタイルを貫き通して、その道を進んで……突き抜けた」

「自分というスタイル……」

「基礎とは真逆の、別の道はある。でも、あたしが好きなのは、自分で歌い方を煮詰めて、誰も見てないところで苦しんでもがいて……そうやって不格好でも続けて、飛び抜けたボーカル……『自分』を持ったボーカルが一番美しくて、カッコイイと思う」

 

 先生は、何かを思い出したのか懐かしそうに眼を細めて、嬉しそうに言った。

 なんとなくだけど、先生のその言葉は核心を突いていると思った。

 後藤さんやカズ君にはあって、私にはない物。私がこれから見つけなきゃいけない物。ただ漠然と歌っているだけでは――手に入らない物。

 後藤さんは、中学の時からずっと独りで、毎日6時間はギターの練習をし続けたと言っていた。そうやって地道な練習を積み重ねて、飛び抜けて――その先にある何かを掴んだ。だからあんなに心惹かれる演奏を――勇気を貰えるような音を出すことができるんだと思う。

 私も、いつか見つけられるのかな。

 

「はい、今日のレッスンはここまで。お疲れ様。着替えたら先に駐車場に行ってなさい。あたしは戸締りしてから郁代ちゃんを送っていくから」

「……お疲れ様でした」

 

 窓の外を見ると、もう真っ暗だった。汗を拭いながら、私は先生に深く頭を下げる。

 その日の練習も、まだ『自分の歌』というものを手に捉えられた感覚はない。掴みかけたと思った瞬間、手の中で焼失してしまった。曖昧で儚くて、それでいて鮮烈な――私と言う証。

 でも、それとは別に着実に基礎は身についている感覚はある。

 早くライブで確かめてみたい。

 

「……にしても。郁代ちゃん、和正とは最近どうなの?」

「へっ? ど、どうって……?」

 

 いきなりの話題転換に、疲れた頭が一瞬追いつかなかった。

 

「いやーね、最近、あいつも結構変わってきてるっていうか。あれだけ嫌がってたピアノも私に教えを乞うぐらい練習に熱を入れてるし。この間なんかエレキまで買って、本気でミュージシャンを目指し始めてたし。あたしには口に出して言わないけどね。……何があったか知らないけど、郁代ちゃんが何かしたんでしょ?」

 

 先生は口元に意地の悪い笑みを浮かべながら、好奇心を抑えきれないようにぐっと身を乗り出してくる。

 

「ほらほら、何したの? 春休みはしょっちゅう一緒に出掛けてたみたいだし。この間渡した合鍵はちゃんとうまく使えてる?」

「ま、待ってください先生、なんでそんな取り調べみたいに……!」

「だって気になるじゃない。息子と将来義娘になる二人の関係は。もうとっくにセックスはしたんでしょ」

「せ、せっ!?」

 

 自分でも分かるぐらい、顔に熱が籠る。センシティブな言葉に動揺する私を見た先生は、呆れたように大きな溜息を吐いた。

 

「やだ。まだキスもしてないの?はぁー……和正ったら、一回親としてシバいておかなきゃダメかしら……こんないい子をまだ押し倒していないなんて。てっきり、もうそういう関係になってると思ってた」

「なってません!」

「はー。これも時代かしらねえ。あたしの若い頃とは全然違うわ。けど、郁代ちゃんはそういうのに興味ないの?」

「きょ、興味って……」

「年が近くて若い男女が一つ屋根の下にいるんだから。そういう雰囲気になったりしない?」

「しないですっ」

「ほんとにー?」

 

 た、確かに、カズ君とそういうことをする想像を、まったくしなかったと言えば嘘になるけど!でもまだ私もカズ君も高校生だし、カズ君にちゃんと告白した訳じゃないのに、い、いきなりそういうのは……で、でもクラスメイトがもうそういうことをしただなんて話はよく聞く話で……。

 頭の中がくらくらと沸騰するように熱くなる。

 キスを想像するだけでも頭が真っ赤になっちゃうのに、カズ君といつかなんて、そんな、まだ付き合ってもいないのに、こんなふしだらなことを考えちゃうなんて……!

 

「あうぅ……」

「ま、ヤるならちゃんと避妊はしておきなさい。郁代ちゃんも、いつ襲われてもいいようにゴムは準備しておいて損はないわよ?」

「先生っ!」

 

 けらけらと意地悪く笑う先生は――息子の恋バナに興味津々な、どこにでもいるお母さんの顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結束バンドの二回目のライブは、池袋の箱で行われた。最初、リョウ先輩は出ることを渋っていたけど、虹夏先輩の強い説得で出ることに決まった。

 集められたバンドはジャンルも年齢層もバラバラな、ちょっとどころではないカオスなブッキングライブ。

 途中、他のバンドがトラブルを起こしてブーイングの嵐になったり、お客さんが投げた飲み物のせいでアンプが壊れて、ライブ自体が中止寸前になったり――ハプニングもあったけど、結果的には大成功!

 

「もう本当に凄かったんですよ、私達のライブ!先生も来てくれればよかったのにっ」

「告知の翌日にライブされても行けるわけないでしょ。社会人舐めるな」

 

 ライブが終わった次の日。放課後になっても、私の興奮は冷めなかった。

 ずっと心がどきどきして、そわそわして、今なら何でもできるって気持ちが胸いっぱいに広がっていた。

 ばらばらだったファンたちが、皆そろって喜びの声をあげてくれた。

 リョウ先輩が「今日のボーカルすごく良かったよ、郁代」って、演奏のあとに笑いながら褒めてくれた。

 箱を出ると、たくさんの人たちがノートや手帳を差し出して、「サインください」って次々に声をかけてきてくれた。

 それがなんだか、私も少しは成長できたんだという実感と自信を与えてくれて。緊張はあったけれど、それよりもしっかり先生に教わった通りに歌えたと思う。

 あの日の私は、いつもよりも、少しだけ音楽の中にいられた気がする。

 

「これも、先生に教えてもらったおかげです!ありがとうございます!(キターン!)

「その眩しいのしまいなさい……」

 

 先生は蓋が閉まったグランドピアノの上に頬杖を突いて、浮かれる私を呆れたように見ていた。でも無理だった。あんなライブを経験しちゃったら、落ち着いてなんかいられない。

 特にカズ君のピアノと虹夏先輩のドラム、そしてリョウ先輩の『命にふさわしい』は、それまでのどの演奏よりもすごかった。言葉にしにくいけど……一緒に歌っていた私も驚くぐらい、なんというか、3人共突き抜けていた気がする。

 私もこうやってみんなに隠れてレッスンを受けているけど、私以外の皆も、私の知らない所で努力しているんだなと思えてうれしかった。

 

「それにしても、あなた達のバンド、随分順調みたいね。チャンネル登録者数ももうすぐ一万……その辺のインディーズバンドよりよっぽど売れて来てるじゃない。まだアルバム一枚も作ってないのに」

「はいっ、おかげさまで凄く順調です!」

「ふーん……」

 

 先生は不思議そうに私の顔をじっと見つめたあと、ふっと目を細めて、ぽつりと口を開いた。

 

「郁代ちゃんって、何か部活とか習い事とか、したことあった?」

「へ?え、えっと……ちょっとだけ」

「スポーツ?」

「はい、バスケ部とか、バレーとか……でも今まで助っ人ぐらいしかしてなくて」

 

 ちょっと照れくさくなって、頬を指でかきながら答えると、先生は神妙な目つきで間を置いて、小さくつぶやいた。

 

「郁代ちゃんは、いつか負ける必要があるわね」

「へ?」

 

 その言葉の意味を問い返そうとしたけれど、先生はそれに応えず、静かにピアノの蓋を開けて、白と黒の鍵盤に指を置いた。

 

「さ、レッスン始めるわよ。そのライブで演った曲、今からおさらいするから」

「えー!?」

「ぶーたれない。ほら、さっさと準備する」

 

 先生のその言葉の意味を、私がちゃんと知るのは――もっとずっと、先のことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月の放課後。その日はSTARRYでスタジオ練習だったけど、開口一番に段ボール箱を抱えてきた虹夏先輩は、勢いよく蓋を開けてなにかを取り出して、私達の前に広げてきた。

 

「じゃじゃーん、ライブTシャツできました!」

 

 黒いTシャツに結束バンドのロゴマークがプリントされた、ライブTシャツだった。シンプルなデザインだけど、良いかも!今までずっと制服でライブに出ていたから、なおさらそう思う。

 

「素敵です!これを着て今度のライブに出れるんですか?」

 

 池袋のライブで得たギャラは、オリジナルTシャツを作るには十分すぎる金額だったらしい。

 それを資金にして、デザインも、ほとんど虹夏先輩が一人で考えてくれたみたい。

 デザインを舐めまわすように見ていたリョウ先輩が満更でもなさそうに顎に手を当てながら言った。

 

「虹夏のデザインにしては悪くないね」

「にしてはって失礼だなー。リョウはまともな案を出さなかったくせに!」

「わ、私はけつばんちゃんを生み出したし……」

「あんなグロテスクなマスコットキャラがいてたまるか」

 

 ちなみに、リョウ先輩は結束バンドを首に巻いたゆるふわっぽいキャラを描いていたけど、一瞬でカズ君に却下されていた。

 

「出来ればプロのデザイナーとかに頼めたら良かったんですけど、そこまでの予算はなかったですしね」

「ね。でも、一応ぼっちちゃんも一緒に考えてくれてたんだよ?」

「へ、へへへ、せっかく一生懸命考えたのに……もう最初から虹夏ちゃんが考えれば良かったのでは……?」

「ご、ごめんねぼっちちゃん!あのセンスはまた別の機会に活かして!」

 

 後藤さんが静かに涙を流して悲しみを訴えていた。

 

「あんな鎖とかファスナーとかポッケとか大量に着けたら簡単に予算オーバーするし。大体あれ、ハードロックなバンドのTシャツじゃん?正直、結束バンドにはあんま合わないよ。アイデアとセンス自体はいいとは思うけど」

 

 カズ君が現実的にコメントする。でも「アイデアとセンスはいい」とさりげなく褒められた後藤さんは嬉しそうに顔を綻ばしていた。

 

「少なくとも、喜多が考えた体育祭のクラスTシャツみたいなやつよりは全然いいし」

「え、えへへ、そ、そうですかぁ?き、喜多さんにファッションデザインで勝てるなんて……」

「な、何よそれ!私のデザインが悪いっていうのっ?」

「だってあれ毎年作ってるシャツじゃん。学年が変わるたびに色違いで似たようなの作って何が楽しいの?」

「可愛いし、クラス一致団結して楽しいでしょ!」

「楽しくはないよ。あんなのに毎年Tシャツ代を徴収される身にもなってよ」

 

 げんなりしたみたいに舌を出すカズ君に私は呆れる。これだからインドアオタクは!

 文化祭や体育祭で心をひとつにするノリがまったく分かってないんだから!

 

「どーどー、落ち着いて喜多ちゃん。ともかく、次のライブからはこれを着てライブをするから、皆忘れないようにね!」

「あ、それじゃあ今日はこれを着ながら練習してもいいですか!」

「喜多ちゃんナイスアイデア!さっそくみんな着てみよっか!」

「えー、めんどい」

「そこ、面倒くさがらない!はい、喜多ちゃん!」

「ありがとうございますっ」

 

 そうやって笑い合いながらTシャツを受け取った時、私はふと、胸の奥があたたかくなるのを感じていた。嬉しさとか、誇らしさとか、そういうのがごった交ぜになった熱さが、このシャツから指に伝わって自分の中に融けていくみたいだ。これはきっと、私たちが一緒にバンドとして過ごしてきた、形ある証明だ。

 制服でも、私服でもない、私達の為のユニフォームだ!

 

「ん~~~!なんだか嬉しいです!虹夏先輩!」

「えへへ。そんなに嬉しそうにしてもらえるとこっちも嬉しくなるなぁ。よしよし、今日はこれ着て、はりきっていこー!」

「はいっ!」

「暑苦しいなー……。それで、カズ。今日は連絡事項があるって言ってたけど、どうしたの?」

「あー、それなんですけどね。結構たくさんあります」

 

 カズ君がスマホを取り出し、カレンダーのアプリを開きながら私達全員を見渡して言った。

 

「まず、次のライブについて。前回の池袋のライブで入った報酬、今回のTシャツ代を差し引いても少し残ったので、STARRYのライブ代に充てることができました」

「お、次のライブ決まったの?」

「2週間後の日曜日です。なんかたまたま空いてるって店長さんに言われたんで、そこに入れさせてもらうことにしました」

 

 多分だけど、店長さんまた気を遣って空けておいてくれたんだろうな。

 

「あと、前回のライブの評判がよかったみたいで、他の箱からも2件ほど、空いてたら自分達の箱も使って欲しいと言う連絡をもらえました。キャパは小さな箱ですがその分ノルマも少なめなんで、今の結束バンドにはちょうどいいと思います」

「カズ、また地雷案件じゃないよね?」

「大丈夫ですって。それと、路上ライブの許可も取れたんで、来週の水曜日と木曜日は池袋駅でライブが出来ます」

「え、本当!?」

 

 カズ君の報告に一番うれしそうに飛びついたのは虹夏先輩だった。

 

「前から申請してたのが通ったの?」

「本当はGW中に一回は路上ライブしたかったんですけどね。さすがに連休中は無理って却下されたんですけど、休み明けの夜ならと許可をもらえました。かなり条件厳しめでしたけど」

「やった!私達もいよいよ路上ライブデビューだね!」

「今月は忙しくなりそうだね。交渉お疲れ様。誉めて遣わす」

「や、やりましたね、喜多さん……」

「そうね!頑張っていきましょう!」

「あ、ああ、で、でも池袋の路上ライブ……人がたくさんいる中でやるのかぁ……」

「ご、後藤さん!今からその調子じゃライブまで持たないわよ!しっかりしてー!」

「――あと、これが最後の連絡なんですけど。SIDEROSを覚えてます?」

 

 私達が次のライブへの期待と気合を高めていると、カズ君が少し真剣な表情でスマホから顔を上げた。

 

「そのSIDEROSに、前に僕はサポートギターとして出る代わりに前座で出してもらうよう交換条件を出させてもらって。2か月先の話になるんですけど、そのオファーが正式に来ました」

「え……まさか、新宿FOLTから?」

 

 虹夏先輩が聞き返すと、カズ君が頷いた。

 

「7月の最初の土曜日に、新宿FOLTでオープニングアクトをやります」

 

 SIDEROSが未確認ライオットのライブ審査を一位通過し、本選のフェスに出場することが決まったというニュースが流れたのは、この日から一週間後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結束バンドの3回目のライブは、池袋駅の東口の路上で行われることになった。

 既に太陽は落ちて、道を走るトラックや自動車のヘッドライトがやけに眩しく見えた。すっかり暖かくなって夜でも半袖で歩けるようになった池袋の夜は、排気ガス混じりの風もどこか冷たくて心地が良かった。

 カズ君が見つけて来た路上ライブのスポットは、池袋駅東口から少し離れた、テナント募集の貼り紙が出ている閉鎖ビルの前。上から見たら人と車とビルの隙間の中にちょうどぽっかりと出来た穴のような場所だった。

 

「いいじゃんカズ君!もうここしかないって場所を良く見つけて来たね!」

 

 虹夏先輩が嬉しそうにカズ君の肩をばしばしと叩いた。

 

「いやあ、司馬さんと佐藤さんに色々訊けたおかげでなんとかなったというか……」

 

 警察だけじゃなく、ビルの持ち主の人にわざわざ連絡して許可を取ってきてくれたらしい。私もよく「行動力あるね」って言われるけど、今回ばかりはカズ君の方がすごかったと思う。

 

「よしよし。よくやったカズ。誉めて遣わす」

「りょ、リョウ先輩!私も!私も頭撫でてください!」

「今日のライブの投げ銭が1万越えたら頭撫でてあげる」

「え゛っ」

「無茶言うな」

 

 GW明けの、帰宅ラッシュの時間帯を避けた路上でも池袋駅前の人通りはやっぱり人が溢れかえっている。人の波が絶えず続いていて、通行人の頭がまるで川のように流れていくのが見えた。遊びにきた池袋の高校生、スーツ姿の疲れ切った社会人、派手な格好をしているギャルのお姉さん、遊んでいたカップル、肌の色も服装もさまざまな、どこから来たのか分からない外国人……。

 そして酔っ払いのダメ人間も。

 

「あー君達がけっしょくばんどらねうぇーい!この間のライブ大丈夫だったぁー?私あのあと交番に連れていかれて説教受けちゃってさぁー。身分証なかったから留置所入れられる一歩手前だったよあっはっはー!ぼっちちゃんがんばりぇー!」

 

 ライブの準備をしていたらどこから湧いて出て来たのか酔っ払いのお姉さんが日本酒の紙パックを片手に後藤さんに絡み始めた。どうやらカズ君と後藤さんの知り合いみたいだけど……。大丈夫かしら?

 

「ほらこんなところでミノムシみたいになってるんじゃなーい!私の弟子ならもっと胸はらんかーい!」

「あわわわわお姉さん路上ライブに来てくれるのは嬉しいんですがここでは御堪忍を……御堪忍を……!」

「はーいきくりさんは少し離れた特等席で応援してましょうねー」

「あーんカズ君いけずー!」

 

 人混みが嫌でキャリーケースの中に隠れていた後藤さんが容赦なく酔っ払いのお姉さんに引きずり出され、街灯の下に引きずり出されて徐々に融け始めたのをみかねたカズ君が羽交い絞めにしてどこかへと連れて行ってしまった。

 

「か、カズ、いつのまにSICK HACKのベースボーカルと知り合いに……!? しかも親し気……一体いつの間に……!?」

「珍しくリョウがうろたえてる。ほーら、ぼっちちゃんもいつまでもキャリーケースの中に隠れないの!」 

「怖い……帰りたい……」

「ここまで来ておいて何言ってるの!」

「はいはい、準備してください。ここを借りれる時間はそんなにないんですから」

 

 カズ君の一声で、弛緩していた私達の空気が少し引き締まり、それぞれ準備に取り掛かった。それぞれがキャリーケースやリュックに入れて来た機材を取り出しては、シールドやコードを繋げて路上ライブの準備を整えていく。

 通行人の邪魔にならないよう、ビル側に寄って準備を進めていたら、自然と大通りに向かって歌うようなポジションになっていた。たくさんの車やトラックが私達にわき目も振らずに物凄いスピードで過ぎ去っていく。

 

「久しぶりに路上でやるけど、やっぱ屋外だと音が散るね。雑音も多いし」

「アンプの音大丈夫ですか?」

「もう少し音を強くしよ。郁代、マイクテストやって」

「……あ、あー。マイクテスト!結束バンドでーす!よろしくお願いしまーす!」

 

 持ってきたアンプやマイクをバッテリーに繋いで電気を通していく。

 テストがてらマイクに声を通すと、音は震えることもなく夜の空にぱらぱらと撒き散らされるように消えていくのを感じた。初めて屋外で音を出してみたけど、不思議な感じだ。

 自分の声が遠くまで響いて拡散していく感覚はあるけど、池袋の車の排気音や足音の群、遠くから響く救急車の音の中に取り込まれて消えていくような。放り投げたボールが投げたままどこかへ消えていってしまったみたい。

 

「喜多ちゃん、緊張してない?」虹夏先輩がドラムをセットしながら私の方を見て訊いてきた。

「大丈夫です!緊張するって言うよりはどうやって歌おうか悩んでる感じで……え?」

 

 自分で言っていて、途中で驚いてしまった。自分が想ったよりも緊張していないことに。自分がどう歌おうか悩んでいたことに。

 少し前までは、ステージに立つ時は声を出す事に必死だったのに。

 虹夏先輩はそんな私の戸惑いとは裏腹に、嬉しそうに歯を見せて笑った。私の肩に掛けられた、オレンジ色のアコースティックギターを見つめて。

 

「頼もしいねー!今日は喜多ちゃんのアコギデビューだし、期待してるよ!」

「……はいっ」

 

 準備は着々と進み、ギターのチューニングが始まると、私達に興味を示した通行人達が結束バンドを取り囲み始めた。

 

「お、路上ライブ?」「若いねー」「許可取ってんのか?」「バンドやってた頃を思い出すね~!」

 

 訝し気に観る人、私達に自分の過去を重ねる人、単純にストリートミュージックに興味がある人、道を占拠している私達を邪魔くさそうに見ている人。色んな人が私達に視線を向けている。でも、不安な感じはない。もちろん、心臓の音が少し加速してるし、大きくなっている感覚はあるけど……頭の中心部分が冷たくて、冷静になっている自分がいる。

 

「準備オッケー。じゃあ僕は少し離れた場所で見てますね」

「カズ君っ」

 

 準備を終えて、離れた場所に移動しようとしたカズ君を私は呼び止める。

 

「ちゃんと聴いてね」

 

 私がそう言うと、カズ君は「もちろん」と親指を立てて、観客側の、ガードレールの方へ腰かける。真っ直ぐに私の方を見てくれていた。

 

「準備できた。いつでもいけるよ」

「き、喜多さんっ、いつでも大丈夫ですっ」

 

 左右を見ると、ギターを構えた後藤さんとリョウ先輩が私を見てくれていた。

 いつもより小さなアンプとスピーカー。普段より少し質素なドラムセット。けれど、『結束バンド』と言うロゴが刻まれた、お揃いのTシャツに身を包んだ他の3人が私の後ろに居てくれることが、物凄く心強い。

 ピックを握りしめ、カズ君から預かったアコギのネックに左指を添えた。

 ……今日も、忘れられないような歌にしよう。

 

 夢にまで見たような世界で争いもなく平和に暮らしたい

 

 弦にピックを切りつけるように叩きながら声を吐き出すと、喉が灼けるようにひりつくのを感じた。私の歌に合わせて、後藤さんの高速リフが絡み、リョウ先輩のベースが深くうねる。虹夏先輩のドラムが、路上の喧騒を塗り潰す。

 

 YUIの『Rolling Star』。

 

 福岡の路上から這い上がり、日本のJ-ROCKを牽引したシンガーソングライター。その彼女が上京する時の心情を描いた詩は、力強く困難と戦う意志そのものだった。

 マイクに注ぎ込まれた声は、普段のライブハウスの音響より質素だ。でも、舌がはっきりと動く。排気ガス混じりの空気が私の中を循環して、歌声になって吐き出されていく。

 サラリーマンの人の足が止まって、歌う私達の方を見た。通りがかったOLが、私達を二度見直してきた。

 音も観客も切り裂くような後藤さんのカッティング。いつもより少ないドラムのタムを力強く叩き、バスドラム代わりになったキャリーケースは壊れるんじゃないかと思えるぐらいキックされ、本物と遜色ないリズムを刻みつける。心臓の鼓動のようにビートを響かすベースは、途切れることなく心地よい熱を私達に伝播させた。

 この冷たい風とネオンの灯りが溢れる東京の街で、YUIは一体どんな想いでこの空を見上げたんだろう?

 歌の練習は、ギターの練習は、孤独で、辛くて、楽しい何かを犠牲にして積み上げないと磨かれない。

 でも、やりたい何かがあるなら。成し遂げたい何かがあるなら、本気で戦わなきゃいけない時がある。

 左指はいつにも増して滑らかに動いた。接着剤で固められた指が、温かい熱で融けて、解かれたように淀みなく動いてくれる。先生のレッスンの成果なのかな。そうだったらいい。

 マイクに微弱な電気信号として変換された私の歌声は、後藤さん達の演奏に押し上げられるようにスピーカーから放たれる。

 声がいつもより張りがあるように思える。柔らかく実体がないそれに、何か一本、硬い芯が通ったような。池袋の容赦ない雑踏に潰されない。どれだけ硬い靴や車のタイヤに押しつぶされて削られて擦り減っても、その音が通りがかる人の中へと響くまでは決して消えない。そんな地面に根を張ったような歌声が、私の身体にある空洞から鳴り響いてる。

 不意に、ガードレールの方に寄り掛かっているカズ君の方に視線を向けると、彼は嬉しそうに目を閉じて、腕を組んで顔を空へ向けていた。

 まるで私達の演奏の音だけを、この雑音塗れの世界から掬い取って聞こうとしてるみたい。

 

 ああ――やっぱり嬉しいな。

 

 私の中のスイッチが押され、右手が勝手にマイクを掴み、握り締めた。燃え盛る炎にニトログリセリンが注がれ爆ぜたように、私の足が飛び上がるような錯覚が起きる。

 火照った熱は車が巻き起こす風じゃ鎮まらない。私はただこの熱に身を任せるように、内側から涌き出る衝動のままに、歌声を解き放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Rolling Star』でエンジンを温めた私達は、そのままオリジナル曲を演奏し始めた。

『今、僕、アンダーグラウンドから』や『ギターと孤独と蒼い惑星』が終わる頃には「投げ銭はどこにしたらいいですか」と声をかけてくれるお客さんがいたので、試しに私のギターケースを開いてマイクスタンドの前に置くと、たくさんの人が小銭や千円札を投げ込んでくれた!リョウ先輩と後藤さんはお金がどんどん入るのを見るたびにテンションがあがるのかどんどんリフを加速させていくので、私と虹夏先輩はついていくのに必死だった。

 

「今日はありがとうございました!私達は下北沢のSTARRYと言うライブハウスでライブをしているので、良ければ是非見に来てください!イソスタとツイッター、あとYoutubeにチャンネルがあるので登録お願いします!」

 

 最後に、結束バンドとSTARRYの宣伝を終えると、たくさんの拍手を私達にくれて、そのまま人垣を作っていたお客さん達は名残惜しそうに散っていった。

 

「いやー上手くいったねぇ!」

「うん。投げ銭も1万いった。初めての路上ライブにしては上出来」

「こらこら、自分の財布に入れない!」

「りょ、リョウ先輩?私、今日頑張りましたよ……?」

「うん。今日は郁代の活躍のおかげで1万いったし、約束通り撫でて遣わす」

「えへへへへへへへへ」

「カズ君、いいのあれで」

「嬉しそうなんだからいいんじゃないですか。おーい後藤。そろそろ固形になったかい?」

「あ、もう少し……緊張から解放されたショックで足がまだクラゲみたいにぐにゃぐにゃで……」

「もうそろそろ撤収しなきゃいけないから、早く固形化してくれよ……」

 

 路上ライブで7曲ほどやり切る頃には、卸したばかりの新品のライブTシャツが汗ですっかり重たくなっていた。時計の針はもうすぐ8時を越えようとしていて、ライブの余韻に浸る間もなく、持ってきたタオルで汗を乱暴に拭いながら撤収の準備を進めていく。

 

「それじゃあ、今日はこのまま解散かな?」

「お腹空いた。なんか食べに行こうよ」

「いいですね!」

「あ、わ、私も何か食べたいです……」

「マック食べようマック。今日の投げ銭で打ち上げしよ」

「もー。ちゃっかりご飯代を浮かせようとするんだから……ん、カズ君どうしたの?」

「あー。今スマホにLINEが来てることに気付いて」

 

 カズ君が少し悩まし気にぽりぽりと頭を掻きながら、スマホの画面を私達に向けて来た。

 LINEのトーク画面が開いていて、そこには見覚えのないアイコンと名前――『大槻ヨヨコ』と表示されていた。

 

『今日、私達も新宿で路上ライブするの。時間があったら見に来なさい』

 

「このまま打ち上げに行くのもいいですけど、せっかくなんで敵情視察してみませんか」

 

 敵情視察――なんて言い方をしていたけど。カズ君はどう見てもSIDEROSの――大槻さんの歌を聴きたがっているのは丸わかりで。

 私は心臓をきゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……私、門限があるので……」

「私は興味ないからパス」

 

 後藤さんは終電があるからと先に帰り、リョウ先輩もSIDEROSには興味がないらしく、そのまま一緒に駅へと向かって行ってしまった。

 結局、新宿駅に向かったのは、私とカズ君、それに虹夏先輩の三人だけになった。

 

「すいません、付き合わせちゃって」

「んーん、大丈夫。私も、SIDEROSの音は生でもう一度聞いておきたいなって思ってたから。オープニングアクトだからって、私達も負けられないしね!ね、喜多ちゃん。……喜多ちゃん?」

「喜多?どしたの?」

「う、ううん。なんでもないわよ!」

 

 カズ君が、SIDEROSを観に行くって聞いた時――胸の奥が、きゅっと締め付けられた。

 今もその感覚は消えてくれない。

 カズ君が、私たち以外のアーティストやバンドに夢中になることなんて、これまでだって何度もあったのに。SIDEROSの名前を聞いた瞬間、いつもとは違う種類の焦りと切なさが、私の心臓に絡みついてくる。

 正直に言うと――私は、SIDEROSのライブを観に行きたくはなかった。それ以前に、出来るだけSIDEROSと言う存在から目を逸らしていた。SNSでライブの告知があっても、Youtubeの動画で新曲のMVが上がっても、できるだけ視界に入れないようにしていた。

 だからカズ君に新宿に誘われても、すぐに「うん」とは頷けなかった。けれどカズ君と虹夏先輩二人だけを行かせるのも、なんだか申し訳なくて。結局私もついてきてしまった。

 

 SIDEROS――大槻ヨヨコさん。

 3ヶ月前、カズ君がサポートギターとして加わったバンド。彼が変わるきっかけをくれた人たち。

 新宿で活動する、10代最強とも言われるガールズメタルバンド。

 

 一度だけ、新宿FOLTで彼女たちの演奏を聴いた。あの時は、ただただ実力差を突きつけられて、息もできなかった。

 でも、あれから3ヶ月。未確認ライオット本選出場を決めた彼女たちは、新しいリードギターを加え、止まることなく加速してる。知名度も勢いも、まるで台風みたいに広がっていく。

 新宿駅を降りて出口に向かって歩いていくと、まだ駅の構内なのに遠くから歓声とギターの音が響いてきた。

 音の方を見ると、遠くの方に人垣が見えて、私達は少し早歩きでその人垣の方へ向かって行く。

 

「うわ、凄い人……」

 

 大通りとガードレールを背にしたその場所を、何重もの人垣が取り囲んでいた。音の発生源は、その輪の中心。広めに作られた歩道は、通行ができないほど人で埋め尽くされていた。

 こんなに人を集めちゃったら通行の邪魔になって警察に注意されそう――そう心配した矢先、青い制服を着たお巡りさんが二人、人垣の中に混ざって歓声と拳を挙げているのを見つけてしまった。なんだか見てはいけない物を見てしまった気分だ。

 

『じゃあ次、最後の曲ね』

 

 人垣の隙間を透り抜けるように、スピーカーから忘れたくても忘れられないあの声が吹き付けてきた。鋭く研ぎ澄まされたナイフのように、肉食獣が警告するような攻撃的な声。

 観客達の隙間から、黒を基調とした衣装に身を包んだ大槻ヨヨコさん、SIDEROSのベースとドラム、そして前のライブの時にはいなかった、私達と同い年ぐらいのリードギターが汗を拭っているのが見えた。

 

「どうしましょ。もっと前行きます?」

「いや無理でしょこんな人じゃ」

 

 虹夏先輩とカズ君が何か言い合っている最中、突然ギターのリフが響いた。

 

 音楽は私の血液なんだ あんたには分かんないだろうけど

 

 大槻さんの囁くように、それでも蠱惑的で綺麗な歌声が、あっという間に集まっている人達を吞み込んだ。新宿の喧噪も、電車が線路を踏みつける轟音も呑み込み、かき消すような――()()()()()

 

「これ……お姉ちゃんがバンドやってた時に歌ってた曲……」

 

 虹夏先輩が何かを思い出したようにぽつりと呟くのと同時に、ドラムとベース、そしてリードギターが一斉に動き出した。

 火花が散るようなシンバル、地を這うように響くベース、そして主旋律を担うリードギターは華やかな見た目とは裏腹に、暴力的で暴風雨のような高速リフを響かせ、バンドのサウンドを一か所にまとめ上げて私達の身体に叩きつけた。音の一粒一粒が、まるで暴風に乗って落ちて来た雨粒のように、私達の肌に小さな痛みを残す様に突き刺さった。

 音の刃は私達の皮膚を貫き、血管を震わせ、血の一滴までもを浸食しようと暴れまわる。

 

 Icon For Hireの『Rock and Roll Thugs』。

 

 息もできなかった。

 この人達の歌以外何も聞こえない。

 ここから半径10mより外の音はまるで存在する事すら許されないような。

 ふと隣を見ると、虹夏先輩が静かに立ちすくんで、涙を流していた。どうして涙を流しているかは分からないけど、涙を流してしまう気持ちは理解できた。

 音楽は、こうやって全身で浴びて、自分でも気づかない内に心の奥底で眠らせたままの記憶や感情を掘り起こす。

 きっと、SIDEROSの歌は虹夏先輩の奥底にある何かを揺り動かしていたんだろう。

 

 あんた達は知らないでしょ――音楽は血液なのよ

 

 大槻さんが叫ぶ。私はつい反射的に、右隣にいるカズ君の表情に目をやった。

 

 カズ君は――真剣に、観ていた。

 

 その目には、驚きとか羨望とか、全部入り混じったような光が宿っていて――何より真剣に聴き入っていた。

 まるで、何かを必死に自分の心に焼き付けるような。真剣な、男の子の表情で。

 あの時、Woundedを歌った時のような。私達と一緒にいる時には見せなかった、本気の――ギタリストの表情だった。

 

 胸が、焼けるみたいに痛い。

 

 なんでこんなに痛いのか、分からない。悔しいのか、悲しいのか、羨ましいのか。

 それとも、これはもっと別の、名前も付けられない、どす黒いなにか?

 わかんない。わかりたくもない。でも、身体が私の意志に反して勝手にざわついてる。こんなこと、思いたくないのに。

 足元がグラグラして、何か大事なものが抜け落ちていくみたいな感覚。

 胸の中で暴れている感情に、自分の言葉が追いつかない。追いつかせたくない。

 輪の中心でギターを爆ぜさせる大槻さんは、観客なんて見ていなかった。

 誰にも媚びないし、誰にも笑わない。ただ自分のままに、夜の新宿に自分の歌を響かせている。

 どこか遠く、私たちの誰も届かない場所を見ていた。

 

 やっぱり私の歌じゃ、カズ君をこんなふうにはできないんだ。

 

 その考えが胸をかすめた瞬間、心のどこかがガリガリと音を立てて崩れた気がした。

 さっきまで、あんな幸せな気持ちでライブが出来たのに。こんな冷たくて暗闇みたいな感情が、私の空洞を埋め尽くしている。

 

「やっぱこの人凄いな!喜多もそう思わな――喜多?どうしたの?大丈夫?」

「大丈夫、カズ君……なんでも、ないから……」

 

 こんなこと、思いたくなかった。こんな汚い気持ちを抱きたくなかった。

 だから、この人の歌を聴きたくなかったのに……。

 

 

 

*1
1950〜60年代に活躍したアメリカの伝説的なジャズサックス奏者。力強くスピリチュアルな音色が特徴で、即興演奏の表現力と情熱において、今も世界中のミュージシャンに影響を与え続けている。

*2
宇多田ヒカルの愛称

*3
オーケストラの中で独唱する人。もしくは、オーケストラや合唱団などのグループの一部ではなく、独りでヴァイオリンやピアノを演奏する人のことを指す。




作中に登場したバンド名&曲名
 宇多田ヒカル - 光
- About Me
 Joan Baez - Diamonds and Rust
久石譲 - Stand Alone
 KOKIA - Il mare dei suoni
 BUMP OF CHIKEN - 飴玉の唄
 ASIAN KUNG-FU GENERATION - ライフ イズ ビューティフル
 Mr.Children - 花言葉
 KANA-BOON - Fighter
        - シルエット
 結束バンド - 月並みに輝け
       - 今、僕、アンダーグラウンドから
       - ギターと孤独と蒼い惑星
 YUI - Rolling Star
 Icon For Hire - Rock and Roll Thugs



 透明だ。気分がいい…あとは…ロックだけだ(AC感)



 前回もたくさんの感想、評価、誤字報告、ここすき、Xでの感想ポストありがとうございます。低評価入れた人はFU【不適切な表現】ou。

 そして喜多ちゃん…ハッピーバースデー。
 いやこんな話書いててハッピーもへったくれもないけど、ちゃんと曇ったら晴らすからね…。 

 最強チワワの話を入れようとしたら7万字を越えかけたのでぶった切りました。
 誕生日に合わせる為に今回はちょっと速度を重視して書いたので、次回はじっくりことことと煮込んで書き上げたいと思います。ちょっと遅れると思いますが、どうぞよしなに。
 

 東京音楽大学の風景は自分のイメージです。
 なので、ここで魔法の文を書いておきます。

 この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません!



 つい先日、下北沢に行って、2025年の目標にしていた雪国のバンドをライブで見てきました。片道3時間掛けてライブハウスで。
 想像通りなところもあったし、想像以上なライブでもありました。
 この小説を読んでいる人はお察しの通り、書いている人の趣味はオールディーズだったり昔の洋楽や平成初期のロックをこする古のオタクです。
 とっくに故人になっていたり、解散してしまったバンドのアルバムばかりを聴いていた自分が、生きている若者のバンドの音を好きになるのは本当に久しぶりで、実際に観に行って、ライブハウスで体験して、生きた音を聴いてきました。
 画面やヘッドホン越しではなく、目の前のステージに立つバンドメンバーが生きて、ギターを弾いて、歌ってくれていることに、なんだか嬉しさを感じました。

 やっぱ生で聴く事も大事よな。そんな風に思わせてくれた貴重な経験でした。

 ライブハウスや生のステージで聴く事が全てだとは思いません。やっぱ部屋で落ち着いて聴いたり、仕事場でラジオを流しながら落ち着いて聴けるのが自分は一番好きです。
 でも、もし推しているバンドの生演奏を聴ける機会があるなら、恐れずに飛び込んで聞いてみてください。現場からは以上です。





 
 ↓いつものコピペ宣伝

Xのアカウントでのんびり呟いてます。

X(旧Twitter)

 カーラジオと言う名義で作ったアカウントです。ここではその時の気分で聴く曲を垂れ流したり小説の更新予告をしたりぼざろのイラストを無限リポストしてます。この小説内で紹介しきれなかったロックもここに載せていくつもりなので、よければフォローとかしてくれると嬉しいです。
あと、オススメ曲とかあればぜひこのアカウントに送り付けて欲しい。DMでもリプでも、推し曲があれば良ければ教えてください。絶対に聴きますので。

 あと、活動報告にて推し曲募集中です。どうぞ、どしどし送ってください。

喜多ちゃんに推したい音楽

 ここすき、Twitterで宣伝、感想などで幸福度を上昇させてるので、たくさんもらえればきっとモチベーションが上がるのでください(正直)
 


 それではいつもので〆させていただきます。

 
 感想もっともっともっと欲しいんだ……!
 高評価くれ~感想くれ~!(承認欲求モンスター感)


 

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