最終話でぼっちちゃん目線の話を書いてましたが、あまり合わなかったので没になった奴を書いて投稿。
サブタイトル『飛遊人』は山下達郎の『飛遊人 -Human-』から。
飛遊人
後藤ひとりは、自他共に認めるぼっちである。名は体を表すとは言うが、ここまで表さなくてもいいだろうと自分でも乾いた自虐が滲み出てくる。
生まれてから15年、友達と言える友達はひとりもなし。誰かと一緒に遊びに出た経験もない。体育で二人組を組む時、必ずと言っていいほど自分が余って先生と準備体操をした日々。昼休みはいつも一人でお弁当。学校で喋る事もほとんどなく、強いて言えばプリントを渡された時に「アッハイ」と返事をするぐらいしか喋る機会がない。
孤独が好きと言う訳ではない。そもそも愛した覚えもない。ただ気付いたら孤独でいる事が当たり前のようになっていた。世の中には孤独にグルメを楽しみたいおじさんもいるらしいが、後藤ひとりは共に過ごす誰かが欲しかった。ちやほやされたかった。自分はここにいるんだと叫びたかった。いない者のように、透明人間のように扱われる日々が嫌だった。何も成し遂げられないまま時間が過ぎるのを待つことに恐怖した。一人の方が落ち着くし安心はするが、だからと言って孤独を許容し続けられない、し続けたくない人間だった。
しかし、気付いた時には自分は能動的に動くことができない根っからの孤独体質に染まっており。
祖母の隔世遺伝であるらしいネガティブ思考も癖になり。
自発的に行動することができない、典型的な根暗ぼっちが誕生してしまった。
それが、ピンクジャージ妖怪こと、後藤ひとりの経緯である。
……大袈裟な話し方になってしまったが、ともかく後藤ひとりは一人ぼっちだった。幼稚園から小学校に掛けて、ずっと。
中学に進んでもそれは変わらず、帰宅部で学校から真っすぐ家に帰る日々。
このままでいいのだろうか。
そう思い悩みながらも自分を変えられず、日々を過ごしていた中学一年のある時、一つのきっかけがやってきた。
それが、ギターである。
家で流し見していたテレビの音楽番組。そこに映っていた、若者たちの人気のバンドマン達。
そのうちの一人がインタビューで、自分も根暗な人間だったと語った。
それを聞いた後藤ひとりに、天啓が舞い降りた。
「ギターを練習してバンドを組めば、私みたいな人間でも……」
そんな一縷の望みを持って、後藤ひとりは父から借りたギターで練習を始めた。
メジャーコードとマイナーコードに苦戦しながらもギターの練習に毎日打ち込む。幸い、ひとりにギターと言う楽器は合っていた。
天賦の才があった訳じゃない。最初から滅茶苦茶上手に弾けたと言う訳ではなく、むしろ何度も心が折れそうになった。独学で、誰に教えてもらう訳でなく試行錯誤しながらの練習だったから、それも当たり前だった。
けれど彼女の鬱屈したエネルギーを打ち込む方向に、ギターと言う楽器はひとりの性に合っていたのだ。現実逃避の行き先がたまたまギターだったという意味もあるが、とにかく後藤ひとりにギターは合っていた。
動画サイトにあるギターの弾き方を何本も何本も観て練習して。
本屋の教本を何冊も買って読んで練習してを繰り返して。
ようやく自分でもバンドを組めるんじゃないかと思えるぐらいの実力を手にしたと思った、中学二年生のある日。
動画に「演奏してみた」のチャンネル「ギターヒーロー」の動画も少しずつ視聴者が増え始めて軌道に乗り始めたある日の事。
スマホの隅っこに並んだ、オススメ動画が後藤ひとりの運命を変えた。
「合唱……『Somebody To Love』?」
後藤ひとりは、学校行事と言う物が大嫌いだった。とりわけ、体育祭文化祭そして合唱コンクールが大嫌いだった。いや嫌いな物を上げればキリがないが、上位5つの中に合唱コンクールが食い込むぐらいには合唱コンクールが嫌いだった。
そもそも、人前で声を出すのが嫌い。大声で歌うのが嫌い。音程を外すと「なんか音痴いるんじゃね?」と思われるのが嫌い。それで輪を乱したで賞で死刑にされる……。
そんな恐怖が後藤ひとりの中でこびり付いた頑固なカビのように生えてしまっている。だから、合唱コンクールの日は大体仮病して逃げていた。それぐらい、合唱コンクールが大嫌いだった。そもそも自分が欠席したところでクラスは問題なく合唱できてた。泣いた。
だから高校に上がる時は絶対に合唱コンクールなんてない学校に行ってやる、と中二の時点で決意した。その決意はもっと別の方向へ向けろ。
けれど自分が音楽系のアカウントを持っているからか、スマホのアプリ君は「ロックを演奏してるなら合唱コンクールも好きでしょう」とお節介にもオススメしてくる。冗談じゃないこんなキラキラした陽キャの陽キャによる陽キャの為の動画なんて観れるか、と思いながらその動画をオススメ欄から除外しようとした時、動画のサムネイルが目に留まった。
「合唱コンクールなのに……ギターがいるの?」
サムネイルに写る、壇上へと並ぶ少年少女。その壇上の一歩前に、指揮者の横にそっと置いてあるマイクの前に、一人の赤毛の少女が立っていた。ウェーブが掛かった赤毛の女の子。やる気や楽しみ――プラスの感情を滲ませた少女がマイクを掴んでいる。
そして壇上の横には、ピアノ、そして自分が慣れ親しんだ楽器を持つ同年代の男の子と女の子。
アンプが繋がれたエレキギター、ベース。そしてドラムセット。そしてもちろん、楽譜を持ったピアニストがピアノの椅子にそっと座っていた。
そして彼等をまとめ上げるように指揮台に立つ、モジャ毛の少年。
いつかテレビで見かけた事がある、まるでオーケストラのような布陣がサムネイルに焼き付いている。
後藤ひとりは、その見た事もない光景に目を惹かれた。
合唱コンクールにギター?
それにドラムとベースが混ざる合唱なんて聞いた事ない。
流されるままに、好奇心が赴くままに、普段だったら絶対に合唱コンクールの動画なんて観ないのに、後藤ひとりはそっとその動画のサムネイルをタップした。
小さなスマホの画面には、マイクを持って一生懸命に歌う赤毛の可愛いきらきらした女の子。
自分とは真逆な、絶対友達になれない縁遠いタイプの女の子がボーカルをしている。マイクを持って歌っている。
隣で指揮をする男の子のタクトに合わせて、他の子達も一緒に演奏していた。
何十人ものバックコーラス、ギターとベースとドラムとピアノの音。そして自分と同い年の子達の手拍子で紡ぎ出される。
ばらばらの音を束ねた一つの音楽。
それは自分が知っている合唱とはまったくの別物だった。
動画は、観客達が拍手喝采をするシーンで終わった。
気付いた時には飲み込まれていた。あの子が歌う英語の歌詞が頭に焼き付いて離れない。理解できない言語なのに、あの子のメロディーは自分の奥底の何かを揺さぶっていた。
それはまるで、自分がいつか組みたいと思っている
皆に認められて、大勢の前で楽しそうに演奏して、たくさんの人に拍手をもらう。
「――私も」
私も、ああなりたい。
「おお……ついにひとりが洋楽を、しかもQUEENを弾いてみたいだなんて!父さん嬉しいなぁ!やっぱギタリストは最終的にJ-POPなんかじゃなくて王道の洋楽に辿り着くもんなんだな……。やっぱりギタリストは皆ジミヘンを目指すもんなんだよ! なぁひとり、もっとオススメの曲があるんだけど……あれ、ひとり?どこ行くのひとり?もっと父さんの話を聞いておくれよぉ!」
洋楽好きの父親に尋ねてみたらたまたま楽譜を持っていたのでひとりは飛びつく様にこれを借りた。
父は娘が自分の趣味である洋楽を弾くと騒いで涙を流していたがそんなことはどうでもよかった。
あんな演奏がしたい! あんな、誰かを湧かせるようなすごい演奏を!
けれど。
何度も何度も弾いても。
自分なりのアレンジをしても、原曲通りに弾いても。
自分の中の理想には、程遠い音に成り果てていた。今自分が弾いた曲が、とてもつまらない無価値なものに思えてしまった。
それどころか、今まで自分がカバーしてきた演奏動画も、全部。
つまらない、つまらない、つまらない。
あの歌に比べたら、お前のギターなんてちっぽけだ。
「――私の、ギターって、何のために」
己惚れていたのかもしれない。
父に「上手だから」と勧められて始めたギターヒーローの演いてみたチャンネル。登録者数も増えて、コメントや高評価ももらえて。
自分は上手いと、信じていたのに。
後藤ひとりはこの時、心の底から自分が「負けた」と思わされた。
自分にとってのたったひとつの武器。たったひとつの拠り所。たったひとつの自信。
それを完璧なまでに、木端微塵に破壊されてしまって、絶望した。
それこそ、自分がなんでギターをやっていたのか分からなくさせられてしまう程には。
けれど、忘れてはいけない。彼女は後藤ひとりだ。
挫折や失敗談なんて両手で数えきれないぐらい黒歴史を生産してきた根暗なぼっちだ。
今でも十分に根暗でぼっちな自分が嫌いだけど、ここで退いたら本当に負け犬以下になる。
このまま大好きなギターを止めて終わるなんて、嫌だ。
「自分に降参なんて、したくない!」
彼女が再びギターを手にして演奏をし始めるのに、時間はそうかからなかった。
そしてこれまで以上にギターにのめり込み、熱中し、弾き続けるようになる。それこそ、寝る間も惜しんで心血を注いでギターに魂を注いでいく。
それまではヒットチャートを中心に動画で演奏する曲を選んでいたが、難易度の高い曲を選ぶようになった。
メタル、ハードロック、バラード……ジャンルは特に選り好みはしない。自分の琴線に触れた曲を、自分の解釈を通して表現する。世間一般的には流行りをとうに過ぎた、あるいは知名度が低い曲を探し出し、自分なりに演奏する。
特に、自分が孤独体質だからか、孤独を訴える曲と自分のギターは相性が良かったように思える。
水槽の『はやく夜へ』。
BOOM BOOM SATELLITESの『LAY YOUR HANDS ON ME』。
Two Door Cinema Clubの『Undercover Martyn』。
サカナクションの『ミュージック』。
サリバーンの『透明人間』。
途中までは洋楽をカバーした曲も投稿していたが、あまり再生数は伸びなかった為いつからかJ-POPのヒットチャートを中心に動画投稿をするようになった。洋楽は洋楽で練習曲としてカバーし、動画は撮り続けていたのだが、ひとり自身が英語が得意じゃなかったという理由もあり、現在は非公開の状態でチャンネルの中に眠っているのがほとんどだ。
古い曲も新しい曲も、J-POPもK-POPも洋楽も、ジャンル問わずに曲を探して演奏する。
たまにコメントのリクエスト曲に応えながら、動画投稿をほとんど毎日のように続けて行った。
けれど自分のチャンネルはヒットチャートを多くカバーしていたせいか視聴者のほとんどが若い中高生で、偶に青春コンプレックスに
CLIFF EDGEの『終わりなき旅』とか曲名からミスチルの曲と見せかけてラブソングだったとか詐欺でしょ。自室で死体となって母親に見つかった後藤ひとりは蘇生された後にそう語った。
しかし、たとえ自分が嫌いな曲だとしても、リクエストされたのならカバーしなきゃいけない。それが動画投稿者。それが承認欲求モンスター後藤ひとりだった。
たとえ血反吐を吐く羽目になろうとも登録者数を増やしたい。それが悲しき動画投稿者の習性であり、運命である。
最初期の彼女の動画は試行錯誤と撮影の不慣れさが見え隠れしていて、お世辞にも上手な演者とは言い難かった。元ギタリストの父の影響から教えられた古い曲と、いつでもバンドを組めるようにと流行りの曲を中心にカバーしていた無名のチャンネル。だがある日から突如再生数を伸ばし始めた。
それまで、一日6時間と言う常人ならすぐに止めてしまいそうなハードな練習は、最初ただひたすらにヒットチャートをコピーし繰り返し演奏すると言うシンプルな練習だった。
けれど合唱コンクールの動画に強い影響を受けた後藤ひとりは、自分なりにどうすればあの歌を越えられるのか考えながらギターを弾くようになった。
ただテクニックを身に着けるのではなく、どうすれば人の心に響く演奏になるのか自分で思考して練習するようになった。録画した映像を観返し、聴き返し、改善点や粗を見つけては修正。元ギタリストの父親にもアドバイスを求める程、貪欲に後藤ひとりは演奏技術を求めた。
一番になりたいのではない。ただあの赤毛のボーカルの子のように、誰かの心を掴む演奏をしてみたい。もっともっと上手になりたい。その一心で。
元々感受性だけは人の倍以上はあった後藤ひとりは、ギターの演奏技術をメキメキと上達させていく。膨大な練習時間で培われたテクニックは、更に深みを増していく。練習の質が向上していく。
けれどそれでも後藤ひとりは満足しない。まだまだ、自分は上手くない。もっともっと練習する。
ただ漠然とコードを追うのではなく、指の力加減、ピックの持ち方。一つ一つを考えて、変えて、音を研ぎ澄ませていく。
彼女は無自覚に誰に教わる訳でもなく、上達する方法を自分で編み出してそれを実践していった。その過程で歯ギターとか余計な芸を身に着けたのはご愛敬だ。
けれどそれは確かに、目に見える形で現れた。ギターヒーローの再生数、高評価数は以前とは比べ物にならないぐらい勢いで増えていった。
そして中学三年のある日。何時もの様に友達ができない中学校からの帰り道。たまたま動画サイトを確認していた時に、ひとりはそれを見つけた。
「結束バンド……?なんだろう、洋楽かな……え、嘘、このボーカルの人って……!」
ひとりぼっちだったギタリストの、物語が始まった。
「……ていうのが私がここに入るまでにギターを始めた経緯なんですけど、どうですかね?えへへ、自伝で私のサクセスストーリー……序章で読者の心は鷲掴み。夢の印税生活……ベストセラーノミネートうぇへへへへ」
「いやごめん長いわ」
駅まで迎えに行って、ちょっと雑談気分で「なんで後藤さんってギター始めたの」って聞くんじゃなかった。思ったより長いし所々闇が滲んでてきっちぃのよ。
これからは結束バンドでちゃんとした思い出作って行こうな……。
――彼女がSTARRYのスタジオでプランクトン後藤になるまで、あと1時間。
ぼざろ映画の総集編は前編後編で分けられるらしいので幕間として初投稿。
没ネタをリサイクルしただけなので短めです。
以下、オリ主君のプロフィール。色々書いてたんですが使われない設定があるのでここで供養。もったいないお化けとも言う。
名前 井上 和正
身長 160cm
見た目 前髪長め。イメージとしてはブルーロックの二子一揮。髪型に頓着しない為ぼさぼさヘアーだが、意外と顔立ちは整っている。
同い年のクラスメイトや喜多ちゃん達をロックで脳を焼いた大罪人。
▼以下、考えたけど活かされないであろう設定集。
・前世は小学生ぐらいまで目があまり見えない弱視だった。当時の友人がそれを不憫に思い、一緒に楽しめる趣味としてCDをプレゼントした。それがきっかけで音楽沼に落ちる。その後治療のおかげで視力を取り戻したが、それ以降もずっと音楽に浸り続けていた。
・後にその友人は真正のアニメオタクとなり、生涯付き合う事になる親友となる。
・死因は老衰。本人の記憶は40代ぐらいまでで途絶えているが、実際は70歳ぐらいまで生きていた。脱サラしてからはCDショップを開いている。
・転生させた神様は弁財天様。百合に男を挟む事に目覚めてしまったド畜生。和正の音楽を真摯に愛する姿勢から、もっともっと音楽を楽しんで欲しいと考えてぼざろの世界に転生させた。今度は聴き専としてではなく、演者として。しかしそれはそれとして百合の間に挟まって欲しい。
・チートとして和正に超人的な聴力を与えている。その気になれば心臓の音からその人間が考えている事が分かる。鬼滅の刃の我妻善逸と同じ能力。
・しかし本人は前世で弱視だった事もあり、耳が良いのは前世からの特徴を引き継いだだけだと考えてる為、その能力に気付いていない。それどころか年がら年中ヘッドホンを使っていたせいで耳が悪くなってる為、音から人の心を聴く事はできなくなっている。ただ耳が普通の人より良いのは確かで、そのおかげで雑音の中でも人の声を聴き分けられる。喜多や虹夏達のぼそぼそ声も実は全部聞こえているが聞こえないフリをしてスルーしている。
・前世の親友の「いつか異世界転生した時の為にちゃんとネットとアニメは観るべし」という忠告を言われた事を思い出し、今世に入ってからはちゃんとアニメを観るようにしている。その為ある程度のネットミームは理解している。