♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
本編につながらない夢オチです。
わたし、香坂美桜。
お姉ちゃんと妹とママがすごいだけの普通の女の子……の、はずだったんだけど、なんだか最近男の人と縁があるような気がするの。
クラスメートで喧嘩ばかりだけどときどき気の合う男の子。
マンガ家志望の友達のお兄さん。
カメラマン志望の大学生。
役者をやってるかっこいい男の子。
もしかしてこれって、恋のはじまりなのかな?
でもでも、わたしなんかを男の人が好きになってくれるわけないよね?
でも、もしかしたら?
わたしがもっと立派になったら振り向いてくれるかも?
ごく普通だった女の子が将来のために頑張りながら意中の人を振り向かせる!
恋とお仕事の恋愛ADV『桜の花が咲く頃に』好評製作中!
◇ ◇ ◇
「あの、これ冗談ですよね? 作ってるわけじゃないんですよね?」
「あはは、もちろんです。ただのジョーク映像ですよ」
前に偶然出会ったゲーム会社の製作スタッフさん。
あれから再度会う機会があってゲームのアイデアなんかをいろいろ喋った。その時に作品の参考として「身の回りにいる男性」について聞かれたりしたんだけど。
その時の話を元に偽ゲームのPVが製作されていた。
「ジョークにしては手が込んでませんか? キャラの立ち絵までありますよ?」
「これは過去製品の流用なんですよ。新規で発注したわけじゃないので安心してください」
「ああ、それなら……。背景とか音楽もそうなんですよね?」
「いえ、音楽はせっかくなので知り合いの方に作っていただきました」
なんて無駄なことを!
先方の会議室でがっくりうなだれるわたし。
わたしの妄言を元に「作ってみました」とやるだけのために開発費が使われるなんて。
「これ、ほんとにジョークなんですよね? 嘘告知として流したうえで反響が大きかったら『ほんとに作ります』ってやるつもりじゃないですよね?」
「……どうしてわかったんですか?」
その手のエイプリルフールネタを何回か見たことがあるからです。
「ちょっと待ってください。わたしのプライベートがみんなにだだ漏れになっちゃうじゃないですか」
「大丈夫です。ちゃんと『この物語はフィクションです』と入れますから」
「わたし、その手の文言をしっかり読んだ記憶がありません」
スタッフさんが目を逸らした。
「まあ、書いておけば言い逃れできますからね」
「生活に実害が出るのはほんとに困るんですけど……」
「実際、設定には脚色を加えているので美桜さんの実生活と結び付けられることはないと思いますよ」
まあ、それはそうか。
実際のわたしは湊ともお兄さんとも鷹城さんとも葉とも恋愛関係にはなっていない。
お兄さんと葉は優しいからともかく、湊や鷹城さんがゲームみたいなセリフとか吐くわけないし。
ゲーム内のわたしはどういう将来の夢を持つかによって誰と仲良くなるかが変わるけど、わたしは中学生やりながらモデルとマンガの原案と役者をやっているわけだし──うん、なんか現実のほうがおかしなことになっているのはともかく。
「実際にゲームを製作するのであれば先生にお願いするべきでしょうね」
「なんだかほんとにわたしに似せて描かれそうですね……?」
なにしろお兄さんは前科一犯だ。
「いいじゃないですか。mioさんがモデルなのは明らかなわけですし」
「そうですよねえ……」
「もちろんヒロインのCVはmioさんにお願いします。ゲームとはいえ主演ですよ。いかがですか?」
「是非やらせてください」
気づいた時にはスタッフさんに頭を下げていた。
しまった。声優で主演という言葉につられてつい……。
スタッフさんは「勝った」とでも言いたげな表情でにやりとして、
「では嘘告知として流すスケジュールなんですが」
「スケジュールまで決まってるんですね……?」
これは来年の四月一日ということになった。
やっぱり嘘告知と言えばこの日である。ということは主演は早くても一年以上先かあ……。
いや、そもそもゲーム化されるかどうかがわからないんだけど。
「PVの拡散まで時間があるのでその間に実製作も進めておきますね?」
「え、あれ?」
なんかこのスタッフさん妙にやり手じゃない?
見た感じけっこう若そうなんだけど……。もらった名刺をあらためて確認すると『代表取締役社長 篠崎』──。
「社長さんだったんですか!?」
「申し遅れました。さらっとお渡しすれば気づかれないかと思ったのですが、大成功ですね」
「どうして社長さんがわたしなんかとお話を」
「面白そうでしたので。あ、ちなみにこの手の悪戯は学生時代の後輩の真似です」
その後輩さんはずいぶんと余計なことをしてくれたものだ。
「覚悟を決めましょう、香坂さん」
社長さんはにこにこと微笑み、それから急にふっと遠い目をして、
「私もけっこう社員にいじられているので死なばもろともです」
「道連れにしないでください……!?」
なんでもこの人もマスコットキャラにされたりゲームの主題歌を歌わされたりゲーム内に隠しキャラとして実装されたりいろいろと苦労しているらしい。
それを聞くとちょっと同情してくるけど……お茶を淹れに来てくれた他のスタッフさんがこっそりわたしに耳うちして、
「騙されないでくださいね。社長、こう見えてユーザー大会にお忍びで参加して上位入賞したり、率先して攻めた企画を匿名で出しては却下されて残念がったり、社員にお菓子で餌付けされたり、けっこうお茶目なことしてるんですから」
あ、なるほど。類が友を呼んでるだけなんだ。
同情して損したかもしれない。
「余計なことを言わないでください! ……もう、この際、mioさんを広告塔に定着させて私はフェードアウトしようと思っていたのに」
とんでもないことを企んでいたなこの人!?
「お仕事ならやりますけど、わたしここの社員じゃありませんからね!?」
「外部委託ということでなんとかなるでしょう。もし、どうしても嫌だと仰るのであれば」
「どうしても嫌だと言うなら?」
「私にゲームで勝ってください!」
さっとスマホを取り出してデジタルカードゲームのアプリを起動する社長さん。
うん、わかった。
これぜったい夢だ。
◇ ◇ ◇
「……うん、よかった。夢だった」
自室のベッドで目を覚ましたわたしは心底ほっとして息を吐いた。
それにしてもひどい夢だった。
終わってみれば最初からありえない。わたしが女性向け恋愛ADVの主人公のモデルにされたうえに主人公のCVまでやらせてもらえるなんて。
お兄さんはキャラデザできるからともかく、湊と鷹城さん、葉にはモデル料くらい払わないとまずいんじゃないか。ああ、ついでだから葉にも声優として仕事を依頼すればいいのか。
湊は「女の子にモテるかも」とか言えば安くこき使えそうだし、鷹城さんには写真素材の作成協力をお願いして背景イラストの製作費を抑える方向で──。
って、なんでわたしは本当に作るための妄想をしているのか。
「夢としては面白かったから誰かに伝えたいなあ」
恋や玲奈に話すと嫉妬されそうだし、湊はありえない。鷹城さんは「夢の話なんですけど」って言った時点で嫌な顔しそうだし、葉に話すには脈絡がなさすぎる。
「うん。お兄さんなら笑ってくれそうな気がする」
ゲーム関係はお兄さんも一枚かんでるし。
というわけでグループチャットで夢の内容を送りつけると、お兄さんは面白がっている風なスタンプを貼りつけたあと、
『わかった。先方にも伝えておくよ』
『正夢になったらどうするんですか』
念のためにネットで調べてみたけど、ゲームで勝負を挑んできそうな愉快な社長さんは世界のどこにもいなかった。