♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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第四章
湊と葉 2018/4/3(Tue)


「この制服、けっこういいな」

 

 中学校の制服は二種類から選べる仕組みになっていた。

 僕──燕条湊が選んだのは学ラン。

 母さんからは「動きにくそう」と不評だったけど、かっちりしてるのがいい。間違っても女子から「可愛い~」とか言われそうにない。

 

 地域の男子全員が通う中学校は家からだとけっこう遠い。

 

 タクシーを使わないとかなりの早起きが必要だ。

 逆に言うとタクシーを使えば今までと同じくらいの時間で大丈夫。

 朝食ものんびり食べられた。

 

「本当に一緒に行かなくていいの?」

「いいって。恥ずかしいし、時間違うだろ」

 

 入学式には母さんも出ると言って聞かなかった。

 僕たちは先にHRがあるので、母さんには後から来てもらったほうがいい。

 ……親と一緒にタクシーで学校まで、とかめちゃくちゃ恥ずかしいし。

 

「じゃ、()は行くから」

 

 食後のお茶までしっかり飲み干した僕──もとい俺は頃合いを見て立ち上がり、母さんに告げる。

 と。

 

「やっぱりそれ、似合わないんじゃない?」

「なんだよ。いいだろ、もう中学生なんだし」

 

 先輩の自慢話は話半分に聞くにしても、中学生は小学生とはぜんぜん違う。

 これからは男子だけの学校なんだし舐められるわけにもいかない。入学を機に「僕」から「俺」に変えることにした。

 あらかじめ呼んでおいたタクシーに乗って学校へ。

 ちなみに運転手さんは女だ。

 

「入学おめでとうございます」

 

 若くて綺麗なその人は笑顔と共に名刺を渡してくれる。

 人当たりの良さに嬉しくなった僕は彼女の印象を「優しい良い人」に決定──しそうになったところで、先輩からのアドバイスを思い出した。

 

『タクシーの運転手って若い女に人気の職業なんだぜ。なんでかわかるか?』

『? なんでですか?』

『若い男と知り合えるからだよ』

 

 平日の登校・下校時間はほとんどの男子中学生・高校生がタクシーを使う。

 特に帰りは「あの、これからって時間ありますか? 良かったら……」とか言って誘惑されることが多いらしい。

 

『……先輩も誘惑されたんですか?』

『ああ。もう五人くらいに相手してもらったぞ?』

 

 意味がわからない。

 いや、めちゃくちゃ羨ましいけど。めちゃくちゃ羨ましいけど。

 だからって付き合う気もない女子とほいほいそういうことするとか……。ため息をつきそうになりながら、何気なく名刺をひっくり返して、

 

「あ、裏に書いたのはプライベートの連絡先です。良かったら連絡してくださいね……?」

 

 先輩がどこかから聞いていた情報によると、中学一年生の一学期中に童貞喪失する男子の割合は九割を超えているとか。

 俺は耐えられるだろうか。

 むしろ耐える必要があるんだろうか。

 よくわからなくなりながら学校に到着して、名残惜しそうにする運転手さんに見送られながら学校の前に降り立った。

 

『こっちがその気にならなきゃ付きまとってきたりはしないから安心しろよ。セクハラされたとかクレームが入ったらすぐクビになるからな』

 

 新しい学校は見るからに今までの学校とは違った。

 中に入っていくのが男子ばっかりだ。

 俺と同じ学ランと、もう一つの制服であるブレザー。スカートを穿いている生徒は一人もいない。校門に立っている先生もなんと男だ。

 声変わりしている先輩の低い声とかめちゃくちゃテンション上がる。

 

「これが男子校かあ」

 

 この辺りにこんな数の男子がいたのか、と嬉しくなる。

 どこに行っても女に声かけられるから迂闊に外に出られなかったもんな……。他の男子もそうだからなかなか会う機会はなかった。

 ここで知り合った奴と一緒に出掛ければ強引なナンパも避けられるかもしれない。

 

「よし……っ!」

 

 俺は気合いを入れて校門へと歩きだした。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 みんなわりといい奴だな。

 

 入学式とHRがあっさり終わって放課後の教室。

 女子の声の聞こえない教室は居心地がいい。どこを見ても男子しかいない。馬鹿な話して笑いあってる奴らの顔に「そうそう、こういうのでいいんだよ」と思う。

 クラスの何人かとはもう知り合いになった。

 だいたいみんな男同士で話すのに飢えてた奴らだから気軽に声をかけてくれる。こっちから声をかけてもあっさり連絡先を交換してくれた。

 

 まあ、ちょっと困ったこととしては、

 

「初めまして。少し話せないかな?」

「ん? ああ」

 

 さっきまで話していた「話題」に苦笑したところで、空いていた前の席に一人の男子が座った。

 ブレザーを校則通りに着たイケメン。いや、美少年とでも言った方がいいか。

 俺より背は低いし力もあんまりなさそうだけど、いかにも女にモテそうな雰囲気のそいつは俺を見て笑う。

 

「えっと、花菱……だよな?」

「そうだよ。もう覚えてくれたんだね」

「そりゃ、有名人だし」

 

 花菱(はなびし)(よう)

 小学生の頃から芸能界で活動しているプロの俳優だ。俺はあんまりドラマとか見ないけど、母さんが「格好いいと思わない?」とか言ってるのを聞いたことがある。

 本格的に名前を覚えたのはとある映画の告知だ。

 

「お前、香坂と付き合ってるって本当か?」

「僕も同じことを聞いてもいいかな?」

 

 俺は肩を竦めた。

 

「んなわけないだろ」

「僕だってそうだよ。美桜ちゃんは男に興味ないんじゃないかな?」

「まさか、お前と同じクラスになるとは思わなかった」

「他の学校ないし、他に一クラスしかないからね」

 

 花菱は今度映画で香坂と共演する。その関係なのかなんなのか、たまに話をするくらいには仲がいいらしい。

 あいつも読モとかやってた(今はモデル兼俳優だ)くらいだから知り合いなのは別に不思議じゃない。

 

「お前もその話をしに来たのか?」

 

 俺は香坂と同じ学校、同じクラスだった。

 自己紹介で名前と出身校を言ってから「mioと同じ学校だったんだって?」とか「連絡先教えてくれよ、mioの」とか言ってくる奴が何人もいた。

 だからこいつも牽制かなにかかと思ったら、

 

「逆だよ。……女の子にモテる話、あんまり好きそうに見えなかったから」

 

 後半、声をひそめて言う花菱。

 顔がいいとどんなポーズでも似合うなと思いつつ、

 

「なんだよ。お前、モテそうなのにそういうの嫌いなのか?」

「まあね。今はもっと仕事を頑張りたいし、恋愛とかはいいかな」

「そうなのか、意外だな」

 

 俺の中で花菱への好感度がぐっと上がった。

 やっぱりこの年頃だと女子への興味がみんな強いらしくて「俺は何人とやった」「俺は何人」「この前やった女はめちゃくちゃ胸がでかかった」みたいな話をみんなしてしてくる。

 俺はもっと普通の話がしたいのに。

 

「お前、マンガとかゲームとかは?」

「それなりに。時間が足りなくて困ってるよ」

 

 マンガはドラマ化とか映画化されることもあるから参考になるし、ゲームも最近のは声の演技がついていたりする。

 役者としても無駄にはならないのだとか。

 

「じゃあ好きなマンガ一個ずつ言おうぜ。せーの」

「『蒼海のクリスタリア』」

 

 声がハモった。思わず握手する俺たち。

 

「花菱。お前とは仲良くなれそうな気がする」

「僕もだよ。今後ともよろしく、燕条君」

 

 こうして俺と花菱は友達になり、昼休みに一緒に飯を食ったりするようになった。

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