♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
映画の撮影は約一か月ほどで全て終了。
撮影の最終日には打ち上げパーティが開かれ、お洒落なレストランを貸し切って食事とお酒が楽しみ放題という贅沢なひとときを過ごした。
まあ、わたしたちはお酒飲めないし、はしたない食べ方ができるような会でもなかったけど。
関わった共演者、スタッフさんにあらためて挨拶できた。
『美桜ちゃん。芸能活動をする上で打ち上げはすごく大事だからね?』
打ち上げはお疲れ様会であると同時に人脈作りの場でもある。
脚本家や監督にアピールすれば次の出演に繋がるかもしれないし、スタッフさんともまた仕事をするかもしれない。
撮影に参加してない業界人が誰かに呼ばれてふらっと来たりもする。
お話したりお礼を言ったりといった地道な好感度稼ぎが後々の成功にも繋がってくる。
わたしみたいな若い新人はこういうのが特に大事。
一人でも多く業界に知り合いを増やせるように頑張った。美桜になってからコミュ力を磨いてきて本当に良かったと思う。
その甲斐あってか、酔った監督さんから『次の映画も出たい?』と聞かれたりもした。
『出たいですっ!』
元気よく答えたけど、正直監督さんが憶えているか──憶えていたとしても本気だったかどうかはわからない。
直接次の仕事をもらえなくても十分、できることはやったのでわたしとしては満足。
打ち上げ自体は二次会、三次会と進んだみたいだけど、子供のわたしたちは一次会で終わり。
「美桜! また一緒にお仕事しようねっ?」
お店の前で子供の共演者たちとお別れ。
葉とはどうせプライベートでも事務所でも会うからと簡単な挨拶をして、なぜかヒロインの子から抱きつかれて名残を惜しまれ(酔ってないよね?)、そこそこ早い時間に家に帰った。
ちょっと食べ足りなかったのでお茶漬けを作ってお腹に入れて、SNSへの投稿ともらった名刺の整理、シャワーと肌のケアとストレッチをしてからベッドに入った。
──あれ? わたしまだ中学一年生だよね?
ふと疑問に思ってしまうけど、これがわたしの選んだ道、選んだ世界だ。
一つのお仕事が終わったからってほっとしてばかりもいられない。次のお仕事を目指して頑張らなければ。
そして、打ち上げパーティの翌日にはまた別口の用事も入っていた。
◇ ◇ ◇
「おはようございます、お兄さん。なんだか格好良くなりましたね?」
「おはよう、美桜ちゃん。そうかな? 新しく買った服、似合ってる?」
朝ご飯を食べたらすぐに橘家へ。
大学生になったお兄さんは前よりもちょっと垢抜けた格好をしていた。
「高校の時と同じってわけにはいかないだろ? これなら担当さんと会う時も着られるしさ」
「いいと思います。格好いいです」
「良かった。美桜ちゃんのお墨付きなら安心だよ」
カジュアル系だけどラフな感じではなく、オフィスカジュアルに収まる格好。
出版業界はびしっとスーツで決めるよりむしろこのくらいがちょうどいい。
ちなみにこっちの世界だと向こうよりオフィスのカジュアル化が進んでいる。
スーツでもいいけど、ただ着てるだけじゃなくて「その人に合ったお洒落」ができているかどうかで評価が変わってくる。
女性社会になって改革が進んだと言うべきか、余計にめんどくさくなったと言うべきか。
なお、男はそれだけで特大のプラス評価なので、お兄さんみたいに気を遣わなくてもわりと大丈夫。むしろモテる。
カメアシの鷹城さんとかいつもかなり適当な格好してるし。
「お兄さんって女の子にモテそうですもんね」
「はは。そんなことないよ。ここ何年かは彼女いないし」
「作らないだけでしょ。お兄ちゃん、高校一年くらいまでいろんな人と付き合ってたじゃない」
「あ、おはようほの──ほのかが可愛くなってる!」
玄関で話をしていたらほのかが顔を出した。
小学校の頃はあんまり高くなくて大人しい服ならなんでもいい、って感じだったのに今日着ているのはお洒落なコーデだ。
お洒落女子が着ててもおかしくない感じ。っていうかどこかで見たことあるような……?
「あ。もしかして雑誌に載ってたやつ?」
「う、うん。私こういうのよくわからないからアレンジとかできなくて……」
「大丈夫だよ。雑誌のコーデって見本みたいなものだし。そのまま真似てもぜんぜん間違いじゃないから」
むしろ変にアレンジするよりずっと可愛い。
雑誌の丸写しだと被りやすくなるし、それを理由に馬鹿にしてくる子もいたりするけど、そういうのは放っておけばいいと思う。
お洒落なんてしたい人はするし、したくない人はしなくていい。
清潔で見苦しくない格好ならそれでいいんじゃないか、と思うのはわたしがお洒落にそこまで興味のない男子高校生だったからかもしれない。
「ありがとう。……良かった。勇気を出して買ってみて」
「うん。叶音もそれなら褒めてくれるんじゃないかな」
「べ、別に叶音ちゃんのために買ったわけじゃ……!」
でも必要以上に口が悪い子だから悪気もなくきついこと言ったりするし、言われないに越したことはないと思う。
「っと。美桜ちゃん、タクシーが着いたみたいだから行こうか」
「あ、はい」
「美桜ちゃん。違うからね? 美桜ちゃんみたいに可愛くなりたかっただけで──」
「わたしもほのかがお洒落してくれて嬉しいよ。じゃ、またねほのか」
マンションの前に到着していたタクシーに乗って編集部へ。
男子が使うとものすごく安くなるので下手に電車とか使うより都合が良かったりする。
さすがにそれでもそこそこの値段にはなるけど、そこはプロになったお兄さんが必要経費として出してくれた。
「でも、今日はなんでしょうね? マンガの話じゃないんですよね?」
「うん。そっちの打ち合わせはこの前やったばかりだしね」
なんでも担当さんからの要望で「会って欲しい人がいる」らしい。
マンガのほうの打ち合わせはさすがにもうわたしの参加率も下がっていて、特に忙しかった先月と今月は顔を出してなかったんだけど。
わたしまで呼ばれるってことはマンガ絡み?
「あ、PVの第三弾とか?」
「この前第二弾を作ったばかりだから違うんじゃないかなあ」
第一弾PVが好評だったのを受け、マンガの二巻発売と同時に第二弾PVが作成された。
声を担当したのは引き続きわたし。
前回より画面的にもちょっと凝った感じになっていてこっちもなかなか好評だったんだけど、だからってあまり連発しても飽きられてしまう。
三巻発売記念だとまだ早いような。
「もしかしてアニメ化とか?」
「いやいや、美桜ちゃん。そういうのは止めよう。期待しすぎると後で辛くなるから」
「そうですけど、夢を見るだけならタダですよ。お兄さんも妄想することあるでしょう?」
「そりゃあるよ。グッズが出るとか外伝を別の人が描いてくれるとか」
わたしたちは編集部に着くまでああでもないこうでもない、と妄想を語り合った。
こういうのってだいたい予想は当たらないもので、聞いてみると「なんだ」とがっかりするものなんだけど、
「お休みのところ来ていただいてありがとうございます。今日はこちらの方々に会っていただきたくてお呼びしたんです」
「こんにちは。先日はお世話になりました」
「初めまして。本日は折り入ってご相談がありまして……」
紹介されたのはとあるゲーム会社の人。
彼女たちの用件は、
「我が社が現在開発を進めているスマートフォン用ゲームに協力していただけないでしょうか」
以前、意識せずに蒔いた種が芽吹いた結果だった。