♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
「まず、先月発売された弊社タイトルが好評を博しているのはご存じでしょうか」
「ああ、はい。忙しくてプレイはできてないんですけど……」
「わたしもです」
以前、わたしたちは出版社内でたまたま知り合ったゲーム会社の人に「アイデアを使わせてください!」と乞われ承諾した。
結果、アイデアの採用されたゲームのクレジットにわたしたちの名前が載ることになったのだ。
開発スタッフではなくスペシャルサンクス、協力者的な位置づけでぜんぜん目立たないポジションだけど、その知らせを受けた時はかなり驚いた。
見てる人は見てるらしくSNSで話題に出してくれてる人もいたし、わたしもつぶやいたーなんかでその話題を出したりした。
「その節はありがとうございました」
「いえ、そんな。こちらこそ感謝しております」
「何しろ急遽追加した該当部分がかなり好評を博しましたので」
早く結果が出たのは開発中だったRPGに手を加える形を取ったから。
急ぎだったので主要キャラ数名について恋愛エンドのほかに友情エンドを加えただけ(同性キャラの場合は逆)だっただけだったらしいけど「これはいい」とユーザーからの声がたくさん届いたという。
エンディング冒頭で恋愛・友情エンドを切り替える選択肢が出る形式のため手間もかからないし、どっちもいけるユーザーにとっては単純にお得。
また、女性中心とはいえユーザーの中にも「恋愛ばかりは食傷気味」という人が一定数いたらしい。
「それもありまして、現在開発中のスマートフォン向けゲームにさらに本格的な仕様を施すことが決定いたしました」
アドベンチャーからRPGにジャンルを変更。
個別の友情・恋愛イベントを盛り込みつつ、色んなキャラをゲットしたくなるような『魅せるRPG』を目指すことになったという。
「それってほとんど一から作り直しなんじゃ……?」
「ええ、まあ。ですがストーリーは流用できますし、先日のゲームが発売された段階ではまだこちらは初期も初期の状態でしたので」
「それにちょっとしたトラブルがあって進行も滞っていて──」
不幸中の幸いと言っていいのか。
「トラブルってなにがあったんですか?」
「メインビジュアルを務めるはずだったイラストレーターが他の仕事とのバッティングで降板しました」
「えー……?」
「こちらとしても頭を抱えたくなるような事態でしたが、いっそのことこれをチャンスと捉えてはどうかと」
わたしやお兄さんとアドバイザーとして正式契約。
意見をもらってばんばん新しいアイデアを取り入れると共に、お兄さんには可能ならゲームのメインビジュアルを担当して欲しいと言う。
「俺、イラストレーターじゃなくてマンガ家ですけど」
「先生はマンガ用にタッチを崩していらっしゃいますが、単行本の表紙や各話の扉絵を見る限り、一枚絵も得意でいらっしゃるでしょう? ですのでキャラデザにも向いていらっしゃるかと」
「はい。お兄さんは綺麗な絵も得意です」
「ちょっ、美桜ちゃんここでおだてないで」
「でもチャンスですよ? 絶対注目されます」
ゲームのクレジットに載った時点で「あいつらまた面白いことやらかしたのか」と一部で話題になってたし。
「それからmioさんにはCVとしても出演していただければと」
「え。それって声優としてのお仕事ってことですか? ……夢じゃないですよね?」
「美桜ちゃんはもともと声優志望ですから断るわけないですよ」
「お兄さん、ちょっと急かさないでください!」
なんか無駄な抵抗をしてしまったものの、わたしたちは結局その話を受けることにした。
もちろん事務所に確認を取ったり契約書がどうのっていうやり取りはあったのでその場で「はい決まり」とはいかなかったけど。
お兄さんのほうも月刊連載をしながら他の仕事ができるのか、担当さんと相談のうえ、ちゃんとアシスタントを雇えば大丈夫だという結論に達したうえでの話。
連載の原稿料のほかに単行本の印税も入ってくるようになったし、ゲームのお仕事でも収入があるからアシスタントの一人や二人雇ってもびくともしない。
「ボイスの収録はシナリオとビジュアルが完成した後になりますのでmioさんの出番はまだ先になりますが、担当キャラクターの設定が固まり次第お知らせします」
「それまではアドバイザーとして協力していただければと思います」
「よろしくお願いしますっ。……ああ、CV。声優のお仕事……!」
「良かったね。……って、美桜ちゃんがここまで浮かれてるのも珍しいな」
夢が叶ったんだから仕方ない。
「失敗できませんし、今のうちから練習増やさないと」
「いや、美桜ちゃん? ほどほどにね?」
お兄さんからも心配そうに釘を刺されたものの、わたしの浮かれ気分は契約がほぼ固まったあたりからしばらく続いた。
ちゃんとした企業での声のお仕事はなによりも欲しかった実績だ。
これが成功すれば他からの依頼も増えるかもしれない。
「美桜ちゃんはマルチタレントでやっていくのが向いているのかもね」
とは、マネージャーさんの談。
ここで言うタレントは「才能」の意味。他の肩書きのないふわっとした芸能人、という意味ではない。いや、芸能人的な「タレント」も元はと言えば才能の意味からだったらしいけど。
「mioって結局声優でいいの?」「モデルでしょ?」「俳優でしょ」って人によって意見が割れるくらいいろいろできるようになれたらそれはきっと楽しいと思う。
「すみません、マネージャーさん。またお仕事増えちゃいますけど……」
「気にしないで。もう覚悟はできてるし、声優のお仕事は俳優業と被っている部分も多いもの」
俳優が声優を担当するケースは昔からあるのでノウハウはある。
モデル側のマネージャーまでやらされるよりはずっとマシだと彼女は笑って言ってくれた。
「ゲームのCVかあ」
家族のみんなや友達からもお祝いしてもらってひとしきり喜んだ後、わたしは新しいお仕事に向けた対策を考え始めた。
新しいことに挑戦する時は予習が欠かせない。
映画に出たのでボーナスも出るらしいし、
「そろそろパソコンとゲーム買っちゃおっか」
わたしの知り合いの中で電化製品に詳しいのは誰だろう──と悩んだ結果、行きついたのは、
「美桜様のご要望であれば精一杯、お役に立てるよう尽くさせていただきます」
西園寺家のメイドである小百合さんだった。
前にパソコンで写真整理してるところとか見かけたことがあったし、玲奈に聞いたところインターネット関連やスマホの使い方については彼女を頼ることが多いとのこと。
「間接的にわたくしと美桜さんの時間も増えますので是非、小百合を頼ってくださいませ」
というわけで西園寺家にお邪魔してパソコン選びの相談をさせてもらった。
(空いた時間はレッスンや玲奈との歓談に消えた)
「美桜さんはどういった用途でPCをお使いになるご予定ですか?」
「声や動画の保存と簡単な編集がしたいです。あと、将来的になにか配信する機会もあるかもなのである程度性能はあったほうがいいかなって……。それから、置き場所に困らないし持ち運べるノートがいいと思ってるんですけど、どうでしょうか?」
「……なんだか、私のアドバイスはそんなに必要ない気がしてきましたね」
などと言いつつ小百合さんはいろいろと教えてくれた。
性能の見方とか漠然としか知らなかったので勉強になったし、どこのランクを落とすとどこの性能が落ちるのかわかるようになった。
「CPUはPCの頭脳に当たる部分なので重要です。メモリは当たり外れが大きいので値段で妥協するのはおススメしません。それからマザーボードは──」
「結局ぜんぶ必要なんじゃないですか……?」
FPSとかで遊ぶ予定はないので性能は一部妥協しつつ、長く使うことを考えるとある程度値の張るもので、どうせなら可愛い見た目のほうがテンションが上がる。
外装とかいう性能に関係ない部分にこだわると一気に難易度が上がるイメージだったけど、探したら可愛くてちゃんとしてるパソコンがたくさん見つかった。
そういえばこっちの世界だとパソコン買うのもほとんどが女性なんだっけ。
「あと記憶媒体はSSDがいいですよね。HDは外付けのほうが便利ですし」
「やっぱり私がいなくても美桜様ならなんとかなりそうですね……?」
最終的に大手メーカーが出している高性能PCを周辺機器ごと大手家電量販店で購入。
「通販サイトなどで買うと安く上がったりしますが、詳しくない方は量販店で買うのがおススメです。なんと言っても保証がつきます。修理する時に安心できるのは大きなメリットかと」
こうして、我が家には淡いピンク色をした可愛いパソコンが届いたのだった。