♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
届いたパソコンのセッティングはお休みの日にリビングですることにした。
お母さんがパソコンを使ってるのでネット回線やwi-fiはある。
前もって調べたけどセットアップの仕方もそんなに難しくなかった。念のために傍についていてくれたお母さんも「大丈夫そうね」と安心顔だ。
最低限のセットアップが終わった後はとりあえず軽量のWebブラウザをインストールして標準に設定しておく。お世話になっている事務所と出版社のHP、投げ銭支援サイトなどはお気に入りに放り込んだ。
美空は興味深そうに、お姉ちゃんは「ふーん?」という感じでそれを眺めていて、
「パソコンって必要ある? スマホで十分じゃない?」
「必要だよ! 長い文章打つ時とか細かい操作する時とかスマホじゃ大変だし」
「私、キーボード使うよりスマホの方が早いけど」
「わたしそんな新人類じゃないもん」
「あんたのほうが若い癖になに言ってるのよ」
いや、女子の文字打つ速度はちょっと異次元過ぎてたまについていけない時がある。
ほのかはその点、親近感のわくスピードでほっとする。代わりにあの子はキーボードの時「カタカタカタカタ」ってやるけど。
「私、パソコン得意だよ!」
我が家にも得意な子がいた。
試しに触ってみてもらうと、美空は慣れた手つきでマウスを操作したり文字を入力して見せてくれる。
表計算ソフトとかまである程度使えると聞いたわたしは「この子、人生二周目だったりしない?」と妹の優秀さをあらためて実感。
「そっか、美空は研究所で触ってるんだ」
「うんっ」
「じゃあ、わたしが使ってない時は好きに触っていいからね」
「いいの? ありがとうお姉ちゃんっ」
抱きついてお礼を言ってくれる美空を撫でていると、
「美桜。子供にほいほい触らせるものじゃないんじゃない?」
「美空なら大丈夫だよ。っていうかそれ言ったらわたしも子供だし」
能力開発にチェスとかやってるなら自宅でもできたほうがいいだろう。
ちなみに最近は将棋がメインになってきているらしい。持ち駒など複雑な概念がある分、チェスよりパターンが多くて難しいのだとか。
お姉ちゃんは「むう」という顔をすると手をひらひら振って、
「買うとしても私はゲーム機が先ね」
「私のゲームお姉ちゃんのほうが使ってるもんね」
「いいじゃない。あんた忙しいんだから」
そのせいで充電切れてたりするのは勘弁してほしいけど。
ゲーム機とソフトのほうは取り寄せるまでもなくお店でぱぱっと買えたのですでに家族で愛用している。
買ったのは携帯ゲーム機にもなる便利なやつ。わたしは例の会社のRPGをちまちま進めていて、とりあえず一緒に買ってきたいくつかの他のソフトは主にお姉ちゃんが、あとたまに美空も遊んでいる。
「これで録音がやりやすくなるなあ」
スマホでも十分と言えば十分だけど、パソコンのほうがマイクなんかの周辺機器と繋ぎやすい。
立体的な音を収録できるバイノーラルマイクも安くて良さそうなやつを買った(これはどういうわけか小百合さんより玲奈のほうが詳しかった)。
前に投げ銭サイトでやったASMRは普通に録音しただけで、それはそれで「一緒の部屋にいるみたい」だって好評だったものの、ちゃんとしたマイクがあればもっとちゃんとした声が録れる。例えば右耳と左耳からそれぞれ話しかけるみたいなやつとか。
画像とか音声を保存しておけるのも便利だ。
わたしは写真を撮ったり声を録ったりとなにかとスマホを酷使しているので残り容量が厳しい。パソコンに移せるようになれば古いのを削除しなければならない悩みも解消だ。空き容量が増えたらスマホゲームもインストールしやすくなる。
「もっと早く買えばよかったかなあ、パソコン」
「便利よね。でも、夜更かしはほどほどにしなさいね?」
「うん。早寝早起きは美容のためだからね」
「だって、美姫」
「わかってるってば。私だってそれなりに気を遣ってるわよ」
さすがにその日の夜は夜更かしにならないギリギリまでお気に入りサイトの整理が忙しかった。
アニメ、マンガ、ゲームの情報もある程度集めておきたいし、芸能関係のニュースも抑えないといけないし、誰でも受けられるオーディション情報をまとめたサイトとかも見たいし、演技の勉強のためにはサブスクの動画サイトとかも便利だし……。
巡回したいサイトだけでけっこうな数になるうえ、効率よくフォルダ分けするのにちょっと悩んでしまった。
そんなことがあった次の日。
わたしはちょっと思うところがあって美空を部屋に呼んだ。
もちろん家族なので呼ぶと言っても「ちょっと来て」で済むんだけど。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「うん。美空ってFPSとかはどうなのかなって」
「あ、銃で撃ったりするやつだよね?」
美空は頭が良く、チェスや将棋が上手い。
つまりルールを理解して応用する力に優れているということで、なら他のゲームだって得意なはず。実際、パズルゲームとかも操作に慣れるとめちゃくちゃ高得点を出す。
その能力がどんなゲームでも適用できるのかと思って聞いてみたんだけど、残念ながら妹は浮かない顔で首を振った。
「私、忙しいゲームは慌てちゃうから苦手なの」
「そっか」
「うん。それに人を撃つのとかやっぱり怖いから……」
FPSは思考力や判断力の他に反射神経や度胸も求められる。
落ち着いた環境でこそ真価を発揮できる美空には向いていなかったようだ。
「じゃあTCGとかのほうが相性いいかなあ」
「てぃーしーじー?」
「カードを使って遊ぶんだけどね。使える駒が人によって違う対戦ゲームみたいな感じ?」
せっかくパソコンがあるので検索して見てもらう。
向こうの世界ほどメジャーではないものの、こっちの世界にもTCGは存在していた。
どっちかっていうとコレクション要素が強くて美麗なカードやレアカードを取引するのがメインって感じだけどプレイ人口はけっこう多い。
TCGをネット上で遊ぶDCG(デジタルカードゲーム)もある。
「持ち時間があるんだね」
「でも、チェスとか将棋と同じようなものじゃない?」
「そうかも」
可愛いカードも多いせいかちょっと興味を持ってくれたみたいだ。
と言っても妹をTCGの沼に嵌めて散財させるのが目的じゃなくて。
「お姉ちゃん、急にどうしたの?」
「ほら。前に美空に向いているお仕事はどんなのかなって話したでしょ? それでわたしなりに考えてみたの」
「そうだったんだ」
わたしが美空に向いていそうだと思ったのは配信者だ。
ネットを使って部屋にいながら情報発信したりゲーム対戦する人たち。一部の有名な層は事務所に所属して正式に仕事としてやっているのでこれも立派に芸能人だ。
アバターを使ったAチューバーも既に出てきていて、わたしのいた世界と同じなら少なくともあと数年は流行が続く。
「家から出なくてもできるから体力も使わないし、どうかなって」
そう言うと、美空はわたしの顔をじっと見つめてきた。
「あ、ごめんなさい。勝手に話をしすぎだよね」
「ううん。嬉しいの。……あのね、私も自分でいろいろ調べてみたの。でも、なかなか勇気が出なくて」
芸能の世界は恐ろしい。
良い人ばかりとは限らないし、足を止めたらすぐに呑み込まれてしまう。
始めたら頑張り続けないといけない。
でも。
「別に止めたくなったら止めてもいいんだよ。そういう意味でも配信者は向いてるんじゃないかと思う」
妹の肩に手を置いて微笑む。
「もちろん、ぜんぜん別のでもわたしは応援するよ。美空はどんなことがしてみたい?」
すると、妹は笑って答えた。
「私も、お姉ちゃんと同じことを考えてたの」
妹の夢もちょっと進展したみたいだ。