♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
「便利だよね、カラオケのサブスクなんて」
「何回も行くなら絶対お得だもんねっ?」
「ええ。手続きも楽になりますし、もっと早く利用しても良かったかもしれません」
「私は前から使ってたけどね。よく来るし」
「私は叶音ちゃんに誘われなかったら絶対使わなかったよ……」
中学生になり、大きな顔で寄り道や買い食いをしやすくなったわたしたち。
みんなそれぞれに忙しいので全員揃って遊びに行く機会もあまり多くないけど、寄り道する時にいろいろ便利なのはやっぱりカラオケだ。
歌えるし個室でお喋りもできるしドリンクバーもあるし軽食やスイーツも注文できる。
そこで、新たに「カラオケ店で利用できるサブスク」を利用することにした。決められた月額を支払うと系列店で一日一回、三時間まで無料で利用できる。
追加注文が必要とか時間帯の制限とか細かい注意事項もいろいろあるけど、これがあれば学校帰りにふらっと気軽に寄りやすい。
「私たちは部活でも使うんだよね、叶音ちゃんっ?」
「え。部活でカラオケに来るの?」
「アイドル部だもの。カラオケに行くのも活動のうちよ」
あれから結局、叶音と恋はアイドル部に入部した。
それぞれが好きなように活動している部なので活動は厳しくない。今日は友達と遊ぶからパス、とか言っても怒られないし、部室には顔を出すけどただお菓子を食べて駄弁ってるだけ、なんていう部員もいるそうだ。
やると決めたら全力でやる叶音は当然ガチ勢。
恋も「楽しいから」と今のところ叶音に付き合っていて、同じくアイドルになりたい勢の部員と共に歌ったり踊ったりしているらしい。
入室するとすぐにマイクを握った叶音はふふん、といった笑みを浮かべて、
「今なら
「わたしだって歌の練習してるもん。簡単には負けないよ」
発声練習は役者や声優とも共通するし、舞台度胸や表現力も身に着いた自信がある。
「じゃあ私も一緒に勝負してもいい?」
恋はにこにこしながら、わたしたちの無駄な張り合いに介入を表明。
これを見た五人目──インドア派で読書が趣味のほのかは「私、やっぱり場違いなんじゃ……?」と困惑気味の表情を浮かべる。
玲奈がこれに微笑んで、
「お気になさらず。わたくしたちはプロを目指しているわけではありませんから、ただ楽しく歌えばいいのです」
「そうだよほのか。それに、一人で来てもけっこう楽しいんじゃない?」
「? どういうこと、美桜ちゃん?」
「ドリンクバーがついてる上に防音だから意外と集中できるんじゃないかなって」
照明はデフォルトだと暗めだけど調節できるし。
これには玲奈も「なるほど」と頷いて、
「読書や勉強に利用しても構わないのですね。それは盲点でした」
「わざわざお金払って歌わないとか私はもったいないと思うけど」
カラオケ店側から禁止されない限り、それから公序良俗に反しない限り使い方は自由だ。
カードゲームとか、サイコロ振るようなボードゲームやる場合は賭け事と勘違いされたりする危険もあるので注意が必要だけど。
騒がしさはファミレスや喫茶店と似たようなもの。周りの人の目を気にしなくていい分、ほのかみたいに文章を書く人とか、お兄さんみたいなマンガ家には案外向いているかも?
「さ。いつまでも喋ってても仕方ないし曲入れるわよ。ほのかも好きなの歌いなさいよね?」
「う、うん」
「大丈夫だよ、ほのか。わたしもアニソン入れるし」
「あ、うん。ありがとう美桜ちゃん」
声優を目指すと表明しているので恋たちに隠す意味もない。
叶音も基本アイドルソングばっかり歌うし、玲奈は洋楽とか入れたりするし、このメンバーなら本当に各々好きな曲を歌う感じでOK。
ノリが悪いとか言って強制する子もいないので気楽だ。
玲奈の言った通り、わたしと叶音はそれぞれ練習のために歌うし、恋はマイペースに楽しそうに歌う。玲奈は玲奈で嗜みとして真剣に歌う。
最初は遠慮していたほのかもだんだんと普通に歌ってくれるようになった。
性格的に激しい曲は向いてないけど歌い方が丁寧だし声が優しいので聞いていて心地いい。
「……ほのかもアイドルいけるんじゃないかしら」
「あ、いいかも」
叶音の呟きに乗っかるとほのかは「ま、待ってよ!」と慌てた。
「私なんかじゃ絶対無理だよ。というか無理だよ。恥ずかしいし」
「は? アイドルが恥ずかしいって言った?」
「もう、相原さん。そういう絡み方は良くありませんよ」
「……ごめんなさい」
玲奈に窘められると叶音も素直に謝ってくれる。
「私、ちょっと焦ってるのかも。どこかにどんどん先に行っちゃう子がいるから」
誰のことだろう、ととぼけるのはさすがに無理がある。
「叶音、行き詰ってるの?」
「別にそこまで言わないけど……オーディションで落ち続けてるとさすがにへこむわよ。ああもう、何がいけないのかしら」
そういうのはせめて二人の時にやって欲しい、と思ったけど、玲奈たちもそれぞれいい感じに歌うので焦りとコンプレックスを刺激されたのかもしれない。
ほのかが眉を寄せながら飲み物のグラスを差し出す。
なんだかんだ、二人も友達としてやれているみたいだ。
「オーディションですか。選考のどの段階で落ちているのです?」
「書類はだいたい通るから、実技ね。歌とかダンス。やっぱり実力不足ってこと?」
玲奈が詳しい話をするのに少し驚いたものの「わたくしも少し調べましたので」とのこと。
考えてみればわたしも声優関係でオーディションの話はしている。それを考えればネットで検索してみるくらいはしていてもおかしくない。
玲奈は「そうですね」と少し思案してから、
「もちろん実力不足という可能性もありますが、別に問題があるかもしれません」
「別って?」
「主催側の欲しい人材と適合していない、とか」
玲奈は帝王学を教えられ、将来経営にも携わる立場。
挑戦する側じゃなくて採用する側からの視点を今の時点でもある程度持っている。
「相原さんが主催の求める『アイドル像』に合致していなければ勝負は厳しいものになるでしょう。実力が同じならより好みなほうを選ぶのは当然です」
「そっか。小説のコンテストにも応募要項があるけど、それと同じなんだ」
お兄さんがマンガを応募する際にも「雑誌の色とマンガの内容が合っているか」はもちろん気にした。
「うーん。でもさ、そんなのどうやったらわかるの? ずるくない?」
「ほのかも言ってたけど、応募要項見たらなんとなくはわかるんじゃないかな?」
担当者が適当な仕事をしていたり、オーディションが出来レースだったりといった駄目なやつじゃなければ、それとなく欲しい人材を示唆しているものだ。
その会社の既存作品や既存アイドルを見てみるのもいいかもしれない。
すると叶音はぶすっとした顔をして、
「私に演技しろってこと? そんなので受かっても私じゃないじゃない」
「試験勉強でも受験対策はするでしょ? それと同じだよ」
最大でも中学受験しか経験していない叶音にはいまいちピンとこなかったのか「ふーん……?」と微妙な顔をされてしまったものの、
「確かに、そこはあんまり本気で考えてなかったわね。上手くなることのほうが大事だと思ってたし」
「もちろんそれも大事だけど、色んな顔を見せられるようにして芸風を広げるのもアリじゃないかな」
「それはあんたが役者やってるからじゃないの?」
言いつつ少女は笑って、
「考えてみるわ。でも、実力も上げる。美桜、あんたも練習に付き合いなさいよ?」
「うん。用事がない時ならもちろん付き合うよ」
別に部員でもないわたしだけど、後日訪れたアイドル研究会はちゃんと歓迎してくれた。