♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
『二次創作のガイドラインですか?』
「はい。公式が『こういう二次創作ならしてもいいですよ』ってはっきり示すんです。そうしたらみんな安心して作れるんじゃないかなって」
『なるほど。でも、さすがにそれはどうなんでしょう……?』
今回の提案には担当さんもさすがに難色を示した。
『二次創作はそもそも権利的にグレー、公式の恩情に甘えて存在しているジャンルです。それを公認するなんて──』
「だから作られると困る内容を決めるんです」
例えばえっちなのはだめとか。
例えば公式作品、公式グッズだと勘違いしそうなデザインはだめとか。
例えばBLはだめとか。
決めてしまえば逆に権利者側も「ノー」を突きつけやすくなる。
もし本当に権利を侵すような二次創作が出てきたら「だめって言いましたよね?」と訴えるなり止めてもらうように言うなりすればいい。
『でも、下手にガイドラインを作ると特定ジャンルの二次創作だけを贔屓してるって言われそうな──』
元の世界でもBL好き女子と男女の恋愛が好きな派閥とは仲が悪いみたいな話を聞いたことがある。
男はわりと「俺は巨乳派? お前は?」「俺は尻派」とか言い合えるような、巨乳が好きだけど尻も悪くはないよなみたいなアバウトさがあった気がする。
そういう派閥争いはわたしにはわからないけど、
「例えばBLじゃない作品でBLされると困るのは当たり前じゃないですか。それをBLだけ差別だ、って言われても公式が気にすることじゃないですよ」
『なるほど』
ぶっちゃけわたしもその辺は詳しくない。
そういうのがある、と聞いて「へー」と思った程度だ。
でも、この世界の二次創作が公式に遠慮して広がっていないんだったらガイドラインがあってもいいと思う。
『ガイドラインは確かに打ちだしてる出版社はあります。我が社では行っていませんでしたが、mioさんとしては「利点があるのではないか?」ということですね?』
「二次創作が盛り上がれば公式作品にも注目が集まるじゃないですか」
向こうの世界の週刊少年マンガも女性人気を集めることで爆発的ヒットになったものが多い。
ファン層の厚さはやっぱり作品人気に繋がってくるのだ。
『わかりました。この件は一度先生も交えて相談しましょう。編集長にもそれとなく話を振ってみます』
「ありがとうございます。……ただの思いつきなのにすみません」
『いいえ。この作品に関してはmioさんのおかげで本来マンガを読まない女性からも注目を集めていますから。そういった方にもわかりやすいファン活動の目安というのはあってもいいでしょう』
後日、お兄さんも交えて話をしたところ、やっぱりお兄さんとしては男性読者を大切にしたいということだった。
「ファンは大事だけど、一番は俺が読んで面白いマンガにすることなんだ。それで、俺の次はやっぱり同じ男に読んで欲しい」
「じゃあ、お兄さんは二次創作に反対ですか?」
「いや。俺だって好きな作品の絵描いたりして遊んでたし。そういうのが見られたら楽しいと思うよ。ただ、男にも配慮してやって欲しい」
「男の人に配慮……えっちなやつですね?」
端的に言ったらお兄さんがお茶でむせた。
「けほっ、けほっ……み、美桜ちゃん。もうちょっと言い方考えてくれないかな?」
「ごめんなさい。でも、男の人ってキャラの胸を大きく描いたり、えっちなことさせるの好きなんじゃないかなって」
「……ノーコメント」
目を逸らすお兄さん。
彼が手癖で描くと胸が大きくなりがちなので、担当さんと「大きすぎます」「これくらい普通じゃないですか?」ってたびたびやり取りしているのをわたしは知っている。
ともあれ。
担当さんは「ふむ……」となにやら思案したうえで、
「大きな制約を設けないということならむしろ簡単かもしれませんね」
「本当ですか?」
「ええ。当該作品に関して『作品自体および登場キャラクターを著しく貶めるような内容』の二次創作を禁止する、とかその程度の声明で収められるかと」
暗に「そういう二次創作でなければやっていいよ」ということだ。
著しく貶める、なので、えっちな作品を作る程度なら該当しない。ああいうのは基本的に好みのキャラにえっちなことしたいっていう(ある意味)プラスの欲望から来るものだからだ。
ひどい目に遭わせたり痛めつける内容のやつだけ取り締まればいい。
「二次創作か。今までもちらほら見かけたけど、これでもっと増えるかもな」
帰りのタクシー内でお兄さんは少し嬉しそうな顔をしていた。
「エゴサする時の楽しみが増えるよ」
「あはは。わたしはあんまり絵とか描いてくれる人いないので羨ましいです」
衣装も、映画もPVもゲームも、わたしじゃない誰かの作品だ。
かといってわたし自身、三次元の人物の似顔絵ってなるとけっこうハードルが高いだろうし。
「じゃあ俺が描こうか」
「ほんとですか? ……ちょっと恥ずかしいですけど、嬉しいです」
お兄さんにはもう一度SNS用のアイコンを描いてもらっている。
そこそこ長く使っているアイコンだから、もし描いてもらえたら新しいのに入れ替えてもいいかもしれない。
「同人誌が集めきれないくらい増えたりしたらきっと楽しいですよね」
「そこまで行ったらアニメ化も夢じゃないかもな。……なんて」
「いいじゃないですか。狙いましょうよ、アニメ化」
「まだまだ、もっと人気出ないと無理だって」
あのマンガはそろそろ三巻が発売される。
一クール=十二話のアニメにするにはいい頃合いなのでヒットが大きくなってくれれば本当にチャンスはあるかもしれない。
「わたしがもうちょっとお手伝いできればいいんですけど……」
「美桜ちゃんにはPVとかで十分お世話になってるって。全員分声をあてるとかはきついだろうし」
「いい訓練にはなりますけど、公開するのはちょっと勇気が要りますね」
「いっそ俺がセルフ二次創作しようか」
「その前にゲームのイラスト描きましょう」
作画の負担を減らすため、ゲームに割くリソースを得るためにお兄さんはアシスタントさんを募集し、無事(?)可愛い年上の女の子二人を雇用中。
ほのかのいる自宅が作業場なのはアシスタントから襲われる心配が少なくてちょうどいいと前にこぼしていた。
お兄さんはそれを思い出したのか「ぐぬぬ」という顔をして、
「誰か頼める奴がいればいいんだけどなあ。信用できて作品への愛があって俺と連絡とりやすい奴」
「難しいですね。お兄さんと相談するとなるとほのかと会う機会もあるでしょうし、変な人には頼めません」
「だよなあ。あいつも小説頑張ってるし変な騒ぎになって迷惑かけるのは──」
「?」
お兄さんの言葉が途中で途切れた。
どうしたのかと顔を覗き込むと、彼は「いいことを思いついた」とばかりに笑みを浮かべた。
「いるじゃないか。俺と毎日顔を合わせられて、作品への愛もあるやつ」
「まさかお兄さん、
さすがにOKしてくれないんじゃ、と思ったものの、
「まあ頼むだけ頼んでみようよ」
ということで、わたしたちは懐柔用のお菓子を買ったうえでマンションに戻り、その相手──お兄さんと一緒に住んでいる家族にして、マンガを生み出した第三のスタッフ、橘ほのかにお願いをした。
「ほのか。俺のマンガの二次創作を書いてみる気はないか?」
「お兄さんが直々に設定のすり合わせとかしてくれるんだって」
「え、えええ……!?」
当然ながらめちゃくちゃ驚いたほのかだったものの、紆余曲折あって最終的には二次創作を了承、二次創作OKな投稿サイトで「公認二次創作」として連載を開始。
これが有名になって他の二次創作、さらにマンガ本編もさらなる人気を集めることになるのは、もう少し先のことだ。