♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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小百合と旅行計画(その1) 2018/7/8(Sun)

「……そうですか。玲奈の旅行は予定通り行えるのですね」

 

 芸能界に入ってお忙しい美桜様。そのお休みが確定した、と玲奈様から教えられた私──小野寺(おのでら)小百合(さゆり)はすぐにご当主様──玲奈様のお母様へと報告に向かった。

 お仕事中だったもののご当主様は報告を聞いてくださり、旧家の主から母親へと表情を戻して微笑んだ。

 

「では、全面的にバックアップしてあげなければなりませんね」

「はい。今回のご旅行は玲奈様にとっても、美桜様と恋様にとっても、大切なものになるかと」

 

 旅行先は一昨年と同じ会員制のビーチ。

 中等部の終業式が終わった後、その足で向かうところまで同じスケジュールだ。

 私は一昨年、去年に続いてお世話係を命じられている。

 皆さまの思い出づくりを間近でサポートできることは名誉であるものの、同時に責任も重い。

 

「玲奈ったら、交際を始めて最初の夏だからって随分意気込んでいるものね」

「無理もないかと。玲奈様にとっては何もかもが初めての経験ですから」

 

 行ったことのある場所。良く知っている相手。それでも美桜様、恋様との関係が変わった今──あらゆる行為が別の意味を持ってくる。

 想いを隠す必要のなくなった玲奈様はとても生き生きした表情を浮かべて日々を過ごしていらっしゃる。

 大切な方たちとの三人だけでの旅行となればなおのこと、大切に決まっている。

(私たちメイドはもちろん、こうした場合には同行者に数えない)

 

 美桜様から「旅行に行ける」と連絡を受けた玲奈様はさっそく今年の水着を再度チェックなさっていた。

 今年購入したのは一着ではなく合計三着。

 これだけあれば海に出るたびに別の水着を着用できる。当然、美桜様の目を楽しませることにも繋がる。

 

 下着やお洋服も去年、一昨年に比べて量が多くなる見込みだ。

 これはお年頃に近づいていることだけが理由ではないだろう。

 私も、もちろんご当主様もその辺りの事情は察している。

 

 普段、西園寺家の一人娘として恵まれた生活を送りながらも派手な散財はなさっていない玲奈様。

 水着を三着購入したり、下着を新調するくらいは我が儘でさえない。

 

「美桜さんと恋さん──特に美桜さんからの良い心象を勝ち取るためなら多少の出費は厭いません。必要経費と考えなさい」

「かしこまりました。……ですが、美桜様も恋様も当家の財力に甘えて無茶をなさるような方ではないかと」

「そうね。本当に、このまま玲奈と添い遂げて欲しいわ」

 

 ご当主様は目を細めて窓の外を見た後で「小百合」と私の名前を呼んだ。

 

「さすがに一人では手が足りないでしょう?」

「はい。お嬢様のためならばなにがあろうと死力を尽くすのが私の役目ですが、皆さまに快適に過ごしていただくためにはもう一人必要かと」

 

 食材の買い出しに食事の支度。

 場合によっては掃除や洗濯も必要になるかもしれないし、海で遊ぶ皆さまの傍に控えているのも立派な役目だ。有事の際にお助けするためであり、大切な思い出として記録を残しておくためでもある。

 去年と一昨年はなんとかなったもののさすがに手が足りない。

 成長期なので食事量も年々増えていらっしゃるし、行動力も増している。女性として花開き始めた容姿は人だけでなくトラブルも惹きつける。

 ご当主様は皆まで言うなとばかりに頷いて、

 

菖蒲(あやめ)を付けましょう。本人にはもう打診を済ませてあるわ」

「菖蒲を? よろしいのですか?」

「ええ。彼女なら適任でしょう?」

 

 菖蒲は私より三歳ほど若いメイドだ。

 勤務年数的にはまだまだ新人であるものの、過去に格闘技の経験がある。責任感が強く与えられた仕事をもくもくとこなす性格もあってご当主様や玲奈様が外出なさる際に同行役を命じられることが多い。

 秘書兼メイド兼護衛といった役割であり、彼女の得意分野においては私もまったく歯が立たない。

 ご当主様に仕えるのにうってつけの人材で、夏休みだからこそお傍から離すのは少し危険な気もするのだけれど、

 

「あの子なら美桜さんたちに手を出す心配もないもの」

「……なるほど」

 

 菖蒲にはもう一つ特記事項がある。

 彼女は旦那様──玲奈様のお父様のお手付き。まだ妊娠はしていないものの『予約』された状態であり、他の相手との交際や性的な関係は禁じられている。

 以前にそれとなく尋ねたところ「あまり興味がありませんので、旦那様のご要望に応じたまでです」とのこと。

 私とは別の意味で玲奈様のお世話にうってつけ、トラブルの心配がない人材というわけだ。

 

「ありがとうございます。菖蒲の協力があればなんの心配もございません」

 

 強いて言うなら私が家事、菖蒲がお目付け役兼護衛という役回りになってしまうので私が玲奈様たちの写真を撮れないことくらいだ。

 

「二人で協力して無事に役目を果たしなさい。……夜の準備は万全かしら? アロマや香水の手配は必要ない? 精のつく食材もあらかじめリストアップして必要なら手配しておいたほうがいいわ」

 

 一転、少しわくわくした様子で言うご当主様。

 期待しすぎだとは一概に言えない。交際を始めて数か月経つというのに未だ玲奈様たちはキスから先に進んでいないのだから。

 関係を先に進めるとしたらここしかないと考えるのも当然のことだ。

 

「……お嬢様もついに大人になられるのですね」

「そうね。玲奈もそんな歳になったのね。感慨深いわ」

 

 ご当主様が子供を一人しか作らなかったのは旦那様の女好きに呆れたから、というだけではなく、玲奈様一人に愛情を全て注ぐためらしい。

 

『私はあまり器用じゃないもの。二人以上の子供を平等に愛する自信がなかった。ただそれだけ』

 

 理屈で言えば西園寺家を継ぐ大事な子供。

 一人か二人「予備」を用意しておくのが当然ではあるのだけれど、ご当主様は子供への愛情を優先した。

 玲奈様に同性愛を許したのは時代の流れだけが理由ではなく、いざとなれば家の存続などできなくても良い、と考えていらっしゃるからなのかもしれない。

 

 私としても美桜様、恋様以上のお相手が簡単に見つかるとは思えない。

 玲奈様の選択はきっと間違っていない。

 

「男なんて浮気性で気まぐれなどうしようもない生き物だもの。恋愛と妊娠は分けて考えるほうが合理的だわ」

「ええ」

 

 私も男なんて必要ないと思っている。

 ついつい私情をこめて深く頷くと、ご当主様は「気が合うのね」とでも言うように私を見て微笑んだ。

 

「お願いね、小百合。あの子の恋を傍で応援してあげて」

「かしこまりました。どうかお任せくださいませ」

 

 お忙しい彼女は玲奈様にずっとついていることはできない。

 恋のあれこれに母親がついてくるというのも気づまりだろうし、こうしたことは私たちメイドの出番だ。

 菖蒲と協力して皆さまのお傍に控え、良い雰囲気が生まれるようならそれとなく二人だけ、三人だけの時間を作れるようにサポートする。

 大変だけれどやりがいのある仕事になるだろう。

 

「料理の献立も今から考えておかなくちゃ。……それから、玩具なんかもあったほうがいいのかしら?」

 

 旅先で起こりうるシチュエーションをあれこれと想像しながら、私はお嬢様のサポートに必要な品をあれこれリストアップした。

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