♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
私──
普段はご当主様の秘書兼ボディガードか屋敷の家事、あるいは旦那様のお世話を務めることが多いのですが、今日から三日間は玲奈お嬢様とそのご学友お二人の旅行のお伴を仰せつかっています。
同行者は日常業務では深く関わることの少ない小百合先輩。
私は彼女のサポートという形になっています。
起床から朝の身支度、朝食を済ませた私は小百合先輩がお嬢様を中学校へお送りしている間にキャンピングカーの最終確認。
燃料の補充、車内の美化、各部の故障がないことを確認し、荷物の運び込みがほとんど終わった頃には先輩が帰還、お嬢様とご学友、三人分の荷物をさらに車へと積み込みました。
「三日分にしてはかなりの量ですね」
「大切な旅行ですから張り切っておられるようです」
お嬢様はこの四月から交際を始められました。
ご当主様も承認済みということなので私に思うところはありません。
「ところで、菖蒲? 念のために言っておきますが、くれぐれもお嬢様、そして美桜様、恋様に変な気を起こさないように」
「はい、先輩。メイドの誇りにかけて誓います」
はっきりと答えると、先輩はほっとしたように息を吐いて笑顔を浮かべました。
「私とあなたで皆さまをお守りし、旅行の成功を手助けしましょう」
「かしこまりました」
完璧を求められることの多い私にとって、旅行を盛り上げるという今回の役目はどこか快いものでした。
◇ ◇ ◇
終業式を終えられたお三方を回収して、そのまま旅行へ。
ドライバーは小百合先輩が担当することになりました。
『カーチェイスを想定した場合、私の方が適任では?』
『ないでしょう、そんな事件。……いえ、有事の際の対応力を考えればあなたの手を空けておいたほうがいいんじゃないかしら?』
『なるほど、さすがは先輩です』
私なら追手の車を故障させて追尾を振り切ることもできます。
私は香坂美桜様、嬬恋恋様に挨拶をして、お三方と一緒にキャンピングカーの客室部分へと乗り込みました。
「私のことはお気になさらず、どうぞお寛ぎください」
最初にそう宣言したところ、恋様が微笑みを浮かべて、
「菖蒲さんってそんなに強いんですかっ?」
「……はい。ボディガードとして幼少期から訓練を受けております」
「カーチェイスに対応できるって、忍者かなにかみたい……」
美桜様の呟きには「忍者ではなくボディガードです」と答えます。
というか、私に関する質疑応答は必要ないと思うのですが……。
玲奈様が苦笑を浮かべて仲裁してくださいます。
「菖蒲は少し変わっているのです。表情は硬いけれど本当はとても優しい性格なので心配はいりません」
「あの、お嬢様。私はそれほど──」
「うんっ。菖蒲さんって面白い人だねっ」
「菖蒲さん。あらためて三日間、よろしくお願いします」
邪気もなく信頼を寄せてくださる恋様と、深く頭を下げてくださる美桜様。
お二人を誇らしげに、愛おしげに見つめる玲奈様を見て、私はなるほどと思いました。
これがお嬢様の選び、ご当主様の認めた方々。
◇ ◇ ◇
当初こそ会話に参加することになったものの、徐々に私は皆さまとの距離を取りお世話と護衛に専念できるようになりました。
制服から私服への着替えをお手伝いし、お飲み物やちょっとしたお茶菓子をご用意した後はただ傍に控えているのみ。
会話の内容は耳には入れますが情報として記憶するのみで情動には関わらせません。
それこそマネキンのように気配を殺すことに徹していると、
「菖蒲はお父さまの愛人の一人でもあるのです。父から他の相手との行為を禁じられていますから、美桜さんも恋さんも安心してくださいませ」
「……お嬢様、それはあまり口外することでは」
「あら、必要なことでしょう? これから三日間も行動を共にするのですから」
もちろん必要とあらば構いません。
美桜様も恋様も秘密にするべき情報は弁えていらっしゃる方だと思いますが、こうなってしまいますとまた私が会話に、
「菖蒲さんはどうして玲奈のお父さんの愛人になったんですか?」
今度は意外なことに美桜様から積極的に質問を受けた。
以前、旦那様から愛人の打診を受けたことがあるそうなので、その関係なのでしょう。
「旦那様から求められたからです」
「え、それって、好きだったからじゃなくてお仕事のつもりだったってことですかっ!?」
「いえ。公私は弁えているつもりです。ただ、特に交際している男性もおりませんでしたし、生活面のサポートもしていただけるとのことでしたので」
「……そっか。菖蒲さんは大人なんですね」
大人、なのでしょうか。
特殊な家に生まれ、特殊な教育を受けてきた。その過程で男女の営みについてもしっかりと仕込まれた。割り切っているというよりは実感が湧かないだけなのだけれど。
「小百合先輩。美桜様と恋様は不思議な方ですね」
SAでの休憩時に小さくこぼすと、小百合先輩はくすりと笑ってこう言った。
「あなたも相当変わっているわ」
それは、まあ、自覚はあったので私は何も言わなかった。
◇ ◇ ◇
ビーチに到着後、私は引き続きお三方のお傍につきました。
キャンピングカーは簡易的な更衣室としても用いられるので着替えを人目に晒す心配もありません。
──それにしても、旦那様が愛人として狙ったというのも頷けます。
恋様は中学一年生としてはかなり発育が良く、一歳か二歳は年上に見えます。
愛嬌に溢れた顔立ちと揺れるツインテールが色気をうまく中和して可愛らしい女の子、という印象で纏めているようです。
水着は動きやすさ重視なのか布面積の少なめなツーピースタイプ。胸元に開いたハートマークの穴が見る方によってはかなり目の毒になるかもしれません。
美桜様は細く色白ながらメリハリの利いた体型の持ち主。
モデルをやっていらっしゃるというのも納得のプロポーションで、少女から女性への孵化を全く恐れていないことが手に取るようにわかります。
恋様と同じく水着はツーピースタイプ。色は白で統一され、ローレグのボトムにフリルの超ミニスカートが付属、同じく胸、そして首のチョーカーと手足の飾りにもフリルが付いてとても可愛らしい印象です。
上品かつ艶を感じる黒の水着を纏った玲奈お嬢様にお二人とも一歩を引けをとっていません。
「……ああっ、美桜さんも恋さんもとっても素敵……。こんなお二人をわたくしが独り占めにしてしまって本当にいいのかしら」
「恐れながら、お嬢様以外の誰もそのような権利は持ち合わせていないかと」
「ふふっ。ありがとう、菖蒲。できればお父さまにはこのことは内緒にしてね?」
「小百合先輩と相談の上、提出写真を可能な限り絞るように調整いたします」
おそらく先輩も、そしてご当主様も同意してくださるはず。
「菖蒲さんの水着もすっごくいい!」
「うん。大人っぽくて格好いい」
「あの、どうか私のことはお気になさらず」
身体を鍛えているせいで一般的な女性のような柔らかさに欠けるのは自覚しています。
「皆さま、もしもの際は私がお助けいたしますが、あまり遠くへ行きすぎないようにご注意くださいませ」
「はーい!」
お嬢様方は日が暮れ始めるまで、きちんと節度を弁えつつも中学一年生らしくはしゃぎ回っていた。
それはまるで親しい友人のようで、恋人らしさはあまり見受けられなかったものの──時折、ごくごく自然に見つめ合い唇を触れ合わせる場面があったことも確かだった。
それから、海水浴の後の入浴が女性基準でも少し長めだったことも、また。