♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
「……もう、小百合ったら。本当にデリカシーがないのですから。ああ、何度も歯を磨いたのにまだ不十分な気がします」
待ちに待った恋、玲奈との海水浴。
小百合さんと新しく出会ったもう一人のメイドさん──菖蒲さんのサポートのおかげでなんの不自由もなく一日目を過ごして夜になったんだけど、なんだか玲奈がご機嫌斜めだった。
夕食を終えて寝室にはわたしたち三人だけ。
せっかくの歓談の時間だというのに小さく文句を呟き続けているのは、夕食のメインがにんにくたっぷりのペペロンチーノだったせいらしい。
にんにくと言えばデートの敵。
息がくさいって女の子としては気になるところだし、ペペロンチーノ以外のメニューもアヒージョや白身魚の香味揚げなど香りの強いものばっかりだったのは「さすがにやりすぎじゃない?」って思うけど。
料理自体はとても美味しかったので文句を言うのはちょっと小百合さんたちが可哀想だ。
「玲奈、機嫌直そうよ。みんな食べたんだからにおいなんてわからないよ」
「そうだよ玲奈ちゃん。歯もしっかり磨いたし!」
クッションを抱きしめて顔を真っ赤にしている彼女(正直ものすごく可愛い)を恋と二人でなんとか説得すると、「もう!」という拗ねたような声と共にフルーツ味のキャンディが飛んできた。
「お二人とも、せめてこれを食べてくださいませ!」
「わ、これ美味しそう。ありがと玲奈ちゃん」
「あはは。……玲奈ってば、そんなに気になる?」
わたしのはレモン味で恋のはイチゴ味だった。
あまり見かけない商品なので実はけっこうお高いやつかもしれない。舐めるとフルーツの香りがしっかりするほど味がしっかりしていて一個でも満足感がある。
ちなみに玲奈が口に放り込んだのはピーチ味。
「まだまだたくさんありますのでよかったらどうぞ」
「ほんと? やったあっ」
無邪気な恋の気をキャンディで引いたうえでわたしに身を寄せてきた玲奈は囁くように、
「だって。これでは今晩はキス、できないではありませんか」
「っ」
可愛い彼女の直接的な誘惑に真っ赤になってしまうわたし。
だというのに当の玲奈ははっと口を押さえてこちらをちらり、
「あの。今の吐息は大丈夫でしたでしょうか……?」
「うん。桃の香りしかしなかったよ」
「……それは、良かったです」
ほっと胸を撫でおろした少女は将来、西園寺家を継ぐ重責を担っているようにはとても見えない。
玲奈はわたしたちとは住んでいる世界も見ているものも違う。そんな彼女が少しでも歳相応の顔に戻ってはしゃげるようにしたい。少しずつだけど成長していくにつれて「先」のことが気になるようになってきたわたしは最近特にそう思う。
じっと見つめていると視線を感じたのか玲奈と目が合ってしまう。
わたしたちはなにも言わず、ただしばらく見つめ合って、
「あ、二人だけでずるい!」
二個目のイチゴキャンディを口に放り込んだ恋に抱きつかれた。
パジャマ越しに腕に当たる感触がなんだか妙に柔らかい。
恋が中一とは思えない胸のサイズしてるのは知ってるけど、それにしても。
「恋、ブラつけてる?」
「つけてるよー、ほらっ」
「わ。何も見せてくれなくても」
ボタンを二つ外したパジャマの隙間から覗いたのはレースをたっぷり使ったピンクのブラ。
色がピンクだから「これでもか!」って可愛さがあるけど、デザインだけ見るとかなり大人向けっていうか、高校生でも着ける人を選びそうな高級感だ。
ひょっとしなくてもこれ、勝負下着ってやつじゃ……?
まあ、別に「勝負下着」って「絶対えっちしたいときの下着」ってわけじゃない。広い意味での勝負であって例えば試験とか何かの大会でもいい。後は単に気分を上げたい時につけることだってあるはずだけど。
「これおススメしたの玲奈でしょ?」
「おわかりになりますか? お値段はかなり張るのですが、着け心地が最高と評判でして──。思った通り、恋さんにはぴったりだったようです」
誇らしげに答えてくれる玲奈。
確かに恋のプロポーションならしっかり着こなせる。わたしたちの体型だとまだ合うサイズがなさそうだけど……。
さっきの感触からしてワイヤーが入ってないうえに生地を必要最低限の厚さにしているんだろう。
レースのたっぷり感と両立するのは職人技としか言いようがないし、カップにフィットする仕組みになっているんだとしたらいったいどんな縫製が行われているのか。
「恋、もうちょっとよく見てもいい?」
「うん、いいよ……? ちょっと恥ずかしいけど美桜ちゃんになら……」
モデルをやっているせいかついつい下着の出来に気を取られてしまっていたら、いつの間にか恋が真っ赤になってしまっていた。
うん、考えてみると下着の中には恋の胸があるわけで。
海水浴の後、一昨年と同じように三人で一緒に入った時に確認した「それ」は一昨年とは段違いのボリュームを誇っていて、
「ご、ごめん恋。わたし、つい」
「もう、別にいいのに」
素直にパジャマを直してはもらえたものの、恋の表情はあまり戻らず。
同じく頬を染めたままの玲奈がさりげなくわたしの傍、恋とは逆方向の腕を狙ってきていて逃げ場がなくなってしまう。
無理やり立ち上がれば雰囲気を振り払えるだろうけど、そんなことをしないといけないほどわたしたちの関係は浅くないし、なによりわたし自身がこの雰囲気を壊したくないと思ってしまっている。
ぎゅっ、と、腕と背中に恋の柔らかさが押し付けられて、
「ね、美桜ちゃん? 前に私がえっちな話しようとした時、止めたよね?」
「う、うん」
「今は、どう? 私たち、あの時より大きくなったし、ここなら他に誰もいないよ……?」
どきどきしすぎてどうにかなりそうだった。
助けを求めるように玲奈を見れば、彼女もまた控えめながらしっかりとわたしの腕をホールド。
「美桜さん。あの時は協力いたしましたが、今回はわたくし、恋さんに協力させていただこうかと」
本当に逃げ場がなくなってしまった。
三人だけ、って言っても同じ建物には小百合さんと菖蒲さんがいるわけだけど、二人は西園寺家のメイド。何度も「私たちのことはお気になさらず」と言っていたのを思い出すまでもなく玲奈の味方に決まっている。わざわざ選んだみたいに口の堅そうな人たちだし。
声がもし漏れ聞こえたとしても聞かなかったことにしてもらえる。
他のヴィラとの間隔はかなり離れていて多少の騒音じゃまったく届かない。潮騒の音もあるのでここはかなりのプライベート空間だ。
明日は一日ゆっくりできるから、少しくらい疲れても大丈夫。
思いっきり泳ぐ予定がキャンセルになってしまうかもだけど、三人でだらだら過ごすのもそれはそれで楽しいかもしれない。
「……二人とも、こうなるの狙ってたでしょ?」
「ええ、まあ。その、恋さんとこっそり作戦会議をしたのは事実です」
「だって美桜ちゃんともっと仲良くなりたかったんだもんっ。だめ?」
「ううん、だめじゃないよ」
言ってくれればいいのに、という気持ちもあるけど、言われていたら逃げてしまっていたような気もする。
美桜として生きると決めた今でもどこかに負い目のような気持ちがあるんだと思う。
でも。
「恋、玲奈。……わたしだって、えっちな気分になること、あるんだよ?」
二人のことが大切なのは本当。
もっと触れ合いたいと思うのも本当。
だから、この旅行の間は余分な理性は捨ててしまうことにした。
……次の日、わたしたちは揃って盛大に寝坊したことだけは明言しておこうと思う。