♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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章間・閑話
【番外編】美桜と美空(その1) 2018/7/27(Fri)


「お久しぶりです、奏先生。お元気でしたか?」

「ええ、美桜ちゃんも元気そうで良かったわ。……と言っても四か月くらいしか経ってないけどね」

「あはは、そうですね。今日はお世話になります」

 

 夏休みが始まって数日。

 玲奈、恋と旅行に行って、帰ってきたと思ったらお仕事に追われたわたし。今日はお仕事でもレッスンでもなくプライベートで研究所を訪れていた。

 奏先生も言った通り、数か月前まで定期的に訪れていた場所。

 半年も経っていないのに懐かしいのはいろんなことがあったせいだろうか。

 

 所長の神崎さんにも挨拶はしたけど、用事があるのは防音室なので奏先生と──それから妹の美空と一緒にそこへ向かった。

 妹はわたし以上に慣れているはずの研究所なのにちょっと緊張気味だ。

 

「美空、いつも通りで大丈夫だよ」

「ええ。別にお仕事でやるわけでもないんだしね」

「う、うん」

 

 わたしたちの言葉に頷いて深呼吸をする美空。

 その間にわたしと奏先生は機材のセッティングを済ませる。メインで使うのはわたしが家から持ってきたノートパソコンとウェブカメラだ。

 設定は済ませてあるので繋ぐだけで使えるはず……うん、大丈夫。ちゃんと動いてる。

 

「でも、プライベートの配信に防音室を使いたいなんてね」

「無理を言ってすみません。家だと身バレが気になって」

 

 よく聞くのが選挙演説とか町内放送みたいなのでバレるケース。

 わたしとお姉ちゃんが学生の身で芸能人やってる時点でうちの住所なんて調べようと思えばバレバレだろうけど、いちおう気をつけられる範囲で気をつけておきたい。

 これから何度も配信していくうえで毎回防音室を借りるわけにはいかないとしても、使うのと使わないのでどれくらい違うか体験しておくのも参考になるはず。

 

「わたしもこの分野はよくわからないから手探りなんですよね」

「私だって素人よ。でも、こういうのは素人がやるからこそいいんでしょう?」

「そうですね」

 

 配信者は基本プロではない。

 トップレベルになると事務所と契約して仕事としてやるケースもあるけど、それ以外は趣味あるいは副業程度で、その素人感が受けていたりする。

 なのでそもそも役者とか声優とかモデルとかとは違うアプローチが必要で、その代わり別に演技が上手い必要もないということだ。

 

「お姉ちゃん、私も準備できたよ」

 

 深呼吸の後は軽く水を飲んで落ち着いた美空からOKのサイン。

 

「うん。それじゃあ、打ち合わせっぽいことしてから始めようか」

「うんっ」

「頑張ってね、二人とも」

 

 奏先生は基本的に監督役というかギャラリー。

 主役はわたし……ではなく、隣に座った妹の美空だ。

 体力も演技力も必要なく、知力を活かしながらみんなに注目してもらえる。配信者という道はどうか、と思いついたわたしたちはお母さんたちにも相談しつついろいろ調べて、じゃあとりあえずやってみようか、とこうして今日に至った。

 研究所としても美空が才能を発揮できる場を作る、ということなら手を貸してくれる。

 おかげでこうやって余計な騒音に悩まされずにカメラの前に向かう環境が作れた。

 

 わたしも一緒に出ることになったのは美空が一人だと不安そうにしていたから。

 声優とか役者も不特定多数の人の目に晒されるのは同じだけど、違うのは配信者はリアルタイムで視られること、ネットを介して公開されるため周りには人がいないことがある。

 合唱祭とかで歌うのとも違う環境は初めてだと緊張するのも無理はない。お仕事で多少はカメラに慣れているわたしが最初は一緒にやって慣れてもらおう、ということになったのだ。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 ノートパソコンはあらかじめ運び込んでおいてもらったローテーブルの上。

 床にクッションを敷いてテーブルの前に座れば準備完了だ。

 わたしはお気に入りのシマエナガのぬいぐるみを抱き、美空はデフォルメされたワニのぬいぐるみを抱きしめる。

 配信に使うのは大手の動画配信サイト。

 

「じゃ、いくよ美空」

「う、うん」

 

 ボタンを押して配信状態に切り替えると当然、視聴人数はゼロ人から始まった。

 

「お姉ちゃん、これでもう始まったんだよね?」

「そうだよ。まあ、誰も見てないうちはのんびりやろっか」

「そうだね」

 

 これはあくまで美空の配信であってわたしのじゃないので、わたしのSNSとかで告知はまったくしていない。

 わたしやお姉ちゃんの妹ということで売れても美空も楽しくないだろうし、せっかく集めた人も定着しないかもしれない。

 だったら見てくれる人がゼロ人でも普通にやったほうがいい。

 別に収益化を狙うつもりとかは今のところないわけだし、それで特に問題なかった。

 

「とりあえずチェスでいいよね」

「うん。お姉ちゃんとチェスするの久しぶり」

「美空には三人がかりでも勝てないんだもん」

 

 お姉ちゃんと二人で勝てなかったのでお母さんにも協力してもらってそれでも負けた。

 

「よし、じゃあこうやって……」

 

 対戦のできるチェスゲームを起動して配信画面には盤面とわたしたちの顔を半分ずつを映す。

 カードゲームと違って同じ画面を見ながらプレイしてもOKなのは利点だ。

 マウスが一個しかないのは難点だけど、美空はあんまり悩まないので符号で指し手を言ってもらってわたしが操作すれば問題ない。

 むしろわたしが符合を間違えないか不安なレベル。

 案の定、悩むのはわたしばっかりでゲームが進んでいく。あっさりチェックメイトを取られたところで、

 

「やっぱり負けた。こういうのは美空が一番上手いよ、やっぱり」

「えへへ。お姉ちゃんより得意なことがあるのは嬉しいな」

「そんなこと言って、わたしより勉強も得意なくせに……って、人が来てる!? いつの間に!?」

 

 視聴人数をちらっと見たらほんの数人だけどお客さんが来ていた。

 『若い女の子同士でチェス?』『これはなにしてるの?』『よくわからないけど熱中してる』。

 ついたコメントを見て「気づかなくてごめんなさい」と謝りつつ、

 

「この配信はこの子がゲームで遊ぶだけの配信です」

「『みそら』です、よろしくお願いしますっ」

 

 自分の名前をひらがなにしたのが妹のハンドルネーム。

 お姉ちゃんがそのまま本名、わたしが「mio」なので自分の名前は使いつつ、でもちょっとアレンジした感じ。

 

「わたしは姉のmioです。わたしはあくまでオマケなので気にしないでくださいね」

 

 なんか視られてると思うと妙に緊張するけど、そこは経験者として知らん顔して「さ、もう一回やろっか」と妹を促した。

 増えては減りを繰り返す視聴人数とちらほらつくコメントに反応しつつ二戦目を終えると、コメントの中に『妹さんと対戦したい』という文字が。

 

「美空、どう? やってみない?」

「うん、やってみたい」

「よし。じゃあ、ネット対戦に切り替えますね。ID教えますので部屋に入ってきてください」

 

 冷やかしかと思ったらちゃんと入ってきてくれて、わたしはこうなると観戦するだけで楽──もとい、逆に反応で盛り上げないといけなくなって意外と神経を使った。

 将来、バラエティ番組とかに出演した時に案外この経験が役に立つかもしれない。

 視聴者さんとの対戦が一回終わる頃には他の挑戦希望者も現れて、わたしたちはせっかくなので時間が許す限り挑戦者を受け付けた。

 結果、美空は全戦全勝。

 対戦以外は姉妹で適当におしゃべりしてた感じだったけど、そのゆるふわ感と裏腹の戦績がいい感じにアンバランスで『実はこの子かなり強いんじゃ……?』という雰囲気が流れていた。

 

「見てくれてありがとうございました」

「ありがとうございましたっ」

「次もチェスか……もしかしたら将棋をやる予定なので、良かったら見てください。それではー」

 

 配信ボタンをオフにして、ちゃんとオフになってるのを確認して──ふう、と息を吐く。

 

「お疲れ様、頑張ったね、美空」

 

 小さな妹をぎゅっと抱きしめると、軽く美空からも抱きしめ返されて、

 

「お姉ちゃん、私、ちゃんとできてたかな?」

「大丈夫だよ。すっごく強かったし」

「う。そこは別に負けてもよかったんだけど……」

 

 でも、勝ちまくったおかげで数日後に家で配信した二回目は視聴者が増えていた。

 ネットでチェスを遊ぶ人がSNSでちらっと話題にしたのを目に留めた人がいたらしい。配信を始めてほどなく対戦希望者が現れて、再び全勝。

 チェスの強い小学生がゆるふわ無双してると話題になり、そのうち隣にいるのがわたしだって気づかれてそっちでもバズり、美空はなんかじわじわと知名度とファンを獲得し、一部界隈の名物にまで上りつめていくことになる。

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