♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
「これは美桜ちゃんが凄いの? それとも、この子の指示のおかげ?」
出来上がった写真を眺めながら呟くと、メインのカメラマンが「両方ですね」と笑った。
「いいですね、この子。写真映えしますしオーラがあります」
彼女はそこで「最初はどうなることかと思いましたけど」と付け加える。
そう。美桜ちゃんは最初かなり戸惑っていた。可愛いけど借りてきた猫みたいで他の子と合わせられていない。なのに、指示になっているのかいないのかよくわからない彼の言葉に従うようになってからぐっと良くなった。
その場で撮影に適応して成長した。
そんな風に錯覚してしまうくらいの成長ぶり。
写真には美桜ちゃんの「自然な笑顔」が映っている。
「ねえ。いったいどうやって美桜ちゃんをその気にさせたの?」
子供たちにはもう帰ってもらった。
ぶっちゃけた話をしても大丈夫な状況。私は彼に真面目な質問を向ける。だいぶ年下だし、もう二人も子供がいるし、仕事も忙しいので私は色恋沙汰には興味がない。これは純粋に仕事上の興味だ。
するとアシスタントの彼は。
「あいつはたぶん、他の奴と違うんですよ」
「違う?」
凄い子なのはわかる。初めてなのに自然とセンターを取っていたくらいだし、美姫ちゃんと同様、読モで終わる器じゃないんだろうけど。
「なんて言うんですかね。自分が無いっていうか……違うな。
「なに言ってんのあんた?」
と、これは上司であるカメラマンの台詞。
まあ、何言ってんのは言い過ぎにしても、
「演技なんて誰でも少しはしてるでしょ?」
「そうなんですけど。あいつの場合はなんかの理由で
「そこで自信をなくすなら言うな」
うん、やっぱりよくわからない。
私にはあの礼儀正しい美桜ちゃんの姿が彼の評価と重ならない。ただ言えることは、
「君と美桜ちゃんは相性がいいのかしらね?」
すると彼はぼうっとした表情で「そうかもしれないっすね」と答えて、
「面白い奴だと思いました。できればもっと撮ってみたい」
珍しく彼が表立った熱意を見せる姿。
私は頼もしく思いながら微笑んで、言った。
「小学五年生に手を出したらさすがに犯罪だからね?」
物凄い仏頂面が返ってきた。
◆ ◆ ◆
「頑張ったね。お疲れ様、美桜」
スタジオを出て家に帰る途中、お姉ちゃんはそう言って褒めてくれた。
頭まで撫でられたのは子供扱いされている気分。と言っても今の僕は実際子供で、お姉ちゃんから見たら三つも年下の妹なわけで。
抗議してもしょうがないと、代わりにため息をついた。
「……ほんとに疲れた。こんなの何回もやるの無理だよ」
「次も絶対誘われると思うよ? 橘さん『またよろしくね』って言ってたじゃない」
「あれって社交辞令じゃないの?」
「あの感じは違うかなあ」
芸能関係でいろいろ経験してるお姉ちゃんが言うと説得力がある。
「初めてであれだけできたら上出来。橘さんが使いたくなるのもわかる」
「ほんと? 上手くできてた?」
「初めてにしてはね。プロとしてやっていくなら今のままじゃダメダメ」
「別にプロになる気ないし」
「才能あるのにもったいない」
今度はぷにっ、と頬をつつかれた。
「とりあえず読モの依頼が来たら受けときなさい。一つ一つこなしてるうちに気づいたらプロになってるかもだし」
「わかった。来たらね」
来た。
後日、僕は橘さんから送られてきたメールを見て「ほんとに来ちゃった……」と呆然とすることになる。
ひとまずそれはまだ先の話として、
「あと、最近本ばっかりでファッション誌あんまりチェックしてないでしょ? 流行はちゃんと追わないとダメだよ?」
「流行なんて業界が服を売るために作ってるんでしょ?」
お姉ちゃんは「どこで聞いたのそんな話」と目を丸くして、
「別にいいじゃない。可愛い服がたくさん出れば、その中からお気に入りの服を探せるんだから」
「なるほど」
ちょっと納得してしまった。
ラノベだって異世界転生ものとか異能学園ものとか流行がある。服も同じで、そのジャンルの新作がたくさん出るからお得、と考えればいいのか。
「美桜の場合、これからどんどん成長するんだから今の服もそんなに長く着られないよ」
「けっこう気に入ってるのに」
またお小遣いのやりくりに悩まなければ。
服を買うならセンスも重要だ。僕は小学生女子の服装なんてまったくわからないので勉強しないといけない。そうするとやっぱりファッション誌で予習は必要か。
部屋に転がっていた既刊から主なタイトルを思い出しつつスマホにメモを取っていると、
「……ほんと。一回やるって決めたら向上心あるよね」
「お姉ちゃん、なにか言った?」
「なんでもない」
首を振ったお姉ちゃんはしばらく僕の様子を見つめた後、さらに別のことを言ってくる。
「つぶやいたーも最近動かしてないんじゃない? ちゃんと使いなさいよ?」
「つぶやいたー?」
「まさかそれも忘れてるの?」
「さすがにそれは覚えてるよ」
笑って誤魔化しつつ「そっちなんだ」と思う。
この頃だとまだ『Link Studio』──通称リンスタはあんまり流行してなかったっけ? 電子マネーの普及は早かったし流行っててもいい気がするんだけど。
探してみたらアプリ自体は存在した。
せっかくなのでそっちもストアからダウンロードしておく。
「個人特定に気をつけないとなあ」
「本当にどこから覚えてくるのそういうの? うん、でも、プロとしての心構えができてるみたいで頼もしい」
「だからプロじゃないってば」
◇ ◇ ◇
読者モデルをして以来、一緒に撮影を受けた子たちからもグループチャットやつぶやいたーで連絡が来るようになった。一緒に仕事をした仲ということで連絡先を交換したのだ。
次の日学校で撮影の話をすると「いいなあ」とみんなから羨ましがられる。
特に食いついてきたのは恋で、
「私もやりたいなあ。どこかからスカウトとかされないかなあ」
「恋は読モよりアイドルっぽい方が似合いそう。水着とか」
「グラビアかあ。それもいいかも」
ちなみに後で調べたところ、この世界のグラビアは女子も見る健全(?)なものだった。
胸やお尻を過度に強調しないだけで露出は多い。えっちと言えばえっちだし、この程度で大騒ぎしてたら海に泳ぎになんていけないじゃん、とも言える。
「玲奈はスカウトされたこととかないの?」
「ありますが、お断りしました。家柄上、下手な会社とはお付き合いできませんので」
「ああ、お嬢様だもんね」
「美桜ちゃんと恋ちゃんも十分お嬢様だからね?」
周りの子からそんなツッコミが入る。そう言えばそうだった。単に玲奈が頭一つ飛びぬけているだけだ。
「水着と言えば泳ぎにも行きたいよねっ。新しい水着買いに行かないとなあ」
「あ、じゃあ一緒に行く?」
友達の意見が聞ければ失敗する確率が減るかもしれない。
若干邪な考えを抱きつつ言うと、恋と玲奈が顔を見合わせてにやにやした。
「え、なに? どうしたの?」
「ううん。美桜ちゃんから誘ってくれたのが嬉しいなあって」
「最近、家に直帰されることが多かったですからね」
「うう」
用事があると言ってほのかの家に遊びに行ったり、本に夢中になってグループチャットの連絡がおろそかになったり。十分身に覚えがある。
埋め合わせ、というわけではないけれど恋たちとも買い物に行く約束をした。
週休二日制なので一週間に休みは二日ある。授業も短めなので放課後ものんびりだ。こういうところは小学生万歳である。