♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
お仕事一発目はなんとテレビの取材である。
今日の夕方のニュース番組で紹介されるらしくそのための撮影という話だ。せいぜい2、3分のコーナーのために半日くらいかけるっていうのがすごい。
わたしはお姉ちゃんと一緒に短いコメントするのが役目。
短いと言っても収録自体は長めに行われる。そのうち使われるのは半分以下、下手したら十分の一くらいだ。短い尺に収めるのも大変だ。
学園祭っぽい雰囲気が欲しいということで撮影は校門付近のゲート前で。
今日は内部だけの日だから邪魔にもならない。
「お待たせしましたー!」
「って、お姉ちゃん
「文化祭っぽくていいでしょ?」
身内の恥ずかしい姿が全国ネットに晒されてしまう。
まあ、雑誌に下着姿載せてるわたしが言うことでもないか……。
「撮影入りまーす」
「よろしくお願いしますっ」
わたしは制服のまま。
服や髪が乱れていないかだけチェックしてもらって撮影に臨んだ。
聞かれたのは主に文化祭に関する当たり障りのないことだ。
「今日までみんな一生懸命に準備をしてきました。明日は一般公開なので是非遊びに来てください」
「私とmioはいろんなところでお手伝いすることになっているのでどこかで会えるかも?」
こういうインタビューなら特に問題はないなと思っていると、
「mioさんは交際相手の方とさっそく文化祭を周ったそうですが?」
そんなこと聞くの!? と思いながらポーカーフェイス。
「はい。お付き合いしてる女の子二人と楽しみました。おかげでお腹いっぱいです」
「美味しそうに食べてましたもんね」
「撮ってたんですか!?」
わりと素で声を上げたらスタッフさんにくすくす笑われた。
放送ではさすがに「撮ってたんですか!?」の部分は使われなかったものの、わたしが恋たちと買い食いしてるシーンはしっかり流れた。
もちろん恋たちの顔は隠れてたし、わたしも見られて困る顔はしてなかったけど……もうめちゃくちゃ恥ずかしい。
ちなみにお姉ちゃんは「明日彼氏が来てくれる予定です」とインタビューに答えていた。
「ふーん。燕条君来るんだ」
「あれ、美桜も会いたい?」
「ううん、別に」
当然ここは撮影終わってからの会話。
インタビューの様子を見守っていた実行委員長さんはわたしとお姉ちゃんの手を握って、
「ありがとう。これで明日の一般公開はきっとたくさんお客さん来るよ!」
「そうだといいんですけど、そんなに変わらないんじゃないですか?」
「なに言ってるのよ。ならもっとお客さんを呼べばいいじゃない」
ニュースの放送に合わせてわたしたちのSNSでも情報を発信することになった。
わたしとお姉ちゃんがそれぞれ撮った写真をアップすれば、ニュース番組の公式アカウントもそれを拡散してくれる。
PV数は普段よりもぐっと伸びて、
「これはひょっとして、わたしたちの宣伝にもなってる?」
「当たり前でしょ。事務所がなんで受けたと思ってるのよ」
取材の後はクラスの出し物である演劇に参加。
準備込みで一時間、劇自体は正味四十分から四十五分といったところ。
題材は定番、ロミオとジュリエットだ。
ただしロミオも女の子で名前はロメーヌ。この世界だと同性婚は普通なので「女同士だから」とはならないんだけど、お互いの家が仇敵同士ということでやっぱり結婚はできない。実質的に百合である。
ちなみにわたしがジュリエットでロミオ──ロメーヌが恋。
どっちかっていうと配役逆じゃない? と思ったものの、わたしがロメーヌだと格好良くなりすぎるのでヒロイン役にしたとのこと。なるほど、確かに恋のロメーヌは可愛らしさが溢れていて少女劇らしい感じに仕上がった。
なお、わたしはある程度慣れているものの、恋はセリフを覚えるのにすごく苦労していた。
『美桜ちゃんいつもこういうの憶えてるの……?』
『あはは。いつもっていうほどお芝居のお仕事もらえてないけどね』
悲鳴を上げながら頑張る恋にわたしも何度か付き合った。
おかげで本番はけっこう様になっていたと思う。
「終わったー! 私セリフ間違いまくってたよね!?」
「お疲れ様、恋。大丈夫、忘れるよりぜんぜんマシだよ」
次のセリフなんだっけ? って棒立ちされちゃうとリカバリーがほんと難しい。
やり直しのきかない舞台劇ならではの難しさだ。
「うん。舞台でやるお芝居も面白いなあ」
「私はこんなのもう二度とやりたくないよ! セリフ覚えるだけでも大変だもん!」
「でも恋、あと三回上演するんだよ?」
「ああもう、なんで劇なんかにしたんだっけ?」
わりと恋もノリノリじゃなかったっけ。
「劇やるくらいならライブのほうがずっと楽だよ……!」
「まあまあ恋、ライブの宣伝にもなったと思うから」
恋人を宥めつつ着替えたわたしはさらに別のお手伝いに。
「こんにちはー。店番交代しに来まし──」
「美桜ちゃん来た!」
「さあ美桜ちゃん、まずはこっちでコスプレしてくれる?」
「え? コスプレ?」
言われるがままに着たのは日曜朝にやってる変身ヒロインの衣装。
もうこれを着るような歳じゃ、って、わたしまだ中学一年生だっけ。現役で見ててもまあ、趣味としてなら……ってスルーされる歳か。
それにしてもさすが文化祭、着替えが多い。
「じゃあ、しばらくお客さんの相手してますね」
「お願いね」
「ってもうちの部員も残るけど」
漫研は部誌の配布(一冊三百円)がメインのこじんまりした活動。
これだけだと店番が一人いればいいレベルだけど、その他に絵の上手い人がイラスト色紙描いたりとかしててちまちま人が来ているみたいだ。
で、上級生が休憩がてらご飯に行っている間、場をもたせるのがわたしの役目。
まあ座って部誌を売ってればいいだけだから簡単──。
「あ、美桜ちゃんがコスプレしてる!」
「写真撮っても大丈夫?」
数分のうちに見つかって人が増え始めた。
部員の人がすかさず「部誌を買ったら撮影OK」のルールを決めたことでばんばん売れていく部誌。
多少はけたらいいなー、で一緒に売っていた過去の売れ残り、もといバックナンバーも少しずつ売れて部員の人が嬉しい悲鳴を上げていた。
わたしは笑顔で写真を撮られるのと売り子を交互にやることになって大変だったものの、
「美桜ちゃんのサイン色紙は売ってないの?」
そういうお店じゃないんですけど。
っていうかサインくらいタダでするし。でもここでやると邪魔になるし。
「じゃあ、あのマンガのヒロインを描くから美桜ちゃんのサインを一緒にしてもらうっていうのは?」
「あ、それならいいかもしれません」
なんかわたしがモデルの一人らしいし。わたしも関わってる作品だから罪悪感も少ない。
「美桜ちゃん、これが終わったらどこでお手伝いするの?」
「えっと、この後はクイズ大会の司会進行をして、うちのクラスの劇をやって、それからアイドル研究会のライブに出て──」
指折り数えていくとマジな顔で「大変だね。頑張って!」と言われてしまった。
「ありがとうございます。頑張ります」
あらためて気合いを入れて取り組んだわたしだけど、やっぱりその日は普通のお仕事なみにハードな一日になったのだった。