♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
「うお、めっちゃ混んでるな」
俺が悲鳴を上げると、隣に立った母さんが「そうね」と笑った。
「美桜ちゃんの影響かしら?」
「割と冗談抜きでそれもあるんじゃないか、これ」
ほのかや美桜ちゃんの通う中学校の文化祭。
ほのかは「来なくていいよ」と言っていたけど、兄としては中学生になった妹を応援してやりたい。同じく好奇心を発揮した母さんと共に参加することにした。
大学生にもなって母親と一緒かよ、という気持ちはあるけど、母さんと一緒なのは結構便利だったりする。
何が便利って、
「あの! 今って時間あったり──あ」
「うちの子になにか用?」
「な、なんでもありません! 失礼しました!」
傍に立っているだけでナンパが半分以下になる。
声をかけてきた子の何割かも今みたいに諦めてくれるからすごく楽だ。母子だってバレないかって? 親子ほど歳の離れたカップルは意外と多いし、ぶっちゃけ実の親子のカップルってのもたまにいる。だからバレても効果はあるのだ。
俺がほっとしていると母さんが脇を小突いてきて、
「でも、そろそろ彼女くらい作ったら?」
「高校の時に凝りてるの知ってるだろ……」
必要以上にべたべたしないで距離感を保てる女の子とだったら考えるけど、知っている中でそんな子はたった一人だけだ。
「さて、どこから回る?」
母さんはさすがに年齢的にもそこまで食い意地は張っていない。
屋台でいくつか食べ物を見繕ったらすぐに見切りをつけた。
「そうね。ほのかが寂しがってるかもしれないし、やっぱり文芸部かしら」
「めちゃくちゃ嫌がられそうだけどな」
母さんがチョコバナナ、俺はフランクを味わいつつ移動していく。
さすが女子校、女の子の匂いでいっぱいだ。今日は男も入れるとは言っても絶対数が少ないからあまり見かけない。こんなところに来るのは「ナンパしてください」って言っているようなものだし。
と思っていたら男を発見。
二、三歳くらい年上か? 仏頂面をした男が写真を撮っては「私たちも撮ってください!」と女子に絡まれている。めちゃくちゃ嫌そうな顔しながらも応じているあたり、なんだかんだ人当たりは悪くないのかもしれない。
「でも、あのカメラ高そうだな」
「ん? あれ、なんだ鷹城君じゃない」
「知り合い?」
「カメラマンの卵よ。仕事でお世話になってる子」
「へえ」
カメラマンか。それはまた、可愛い女の子を撮り放題なんだろうと思っていると、
「あの子、美桜ちゃん担当なのよ」
「は? なんだよそれ」
わざわざ男のカメラマンを美桜ちゃんにつけたのか。
悪い虫になったらどうするんだ……と思ったら、単純に美桜ちゃんのポテンシャルをあの人が引き出せるから、という話だった。
不覚にもイラっとしてしまったのを母さんにニヤニヤされながら俺はため息をつく。
「じゃあ、美桜ちゃんに会いに来たのかな」
「かもね。二人でラーメン食べに行ったりしてるくらいには仲いいみたいだし」
「それほとんどデートじゃないか」
美桜ちゃんのことだから特にその気はないんだろう。
飯なら俺だって何回も行ってる。……うん、落ち着こう。
「あの人、鷹城さん? カメラマンだから声かけられてるってのもあるのかな」
「まあ、あんたよりは顔知られてるかもね」
「俺は顔知られてないほうが気楽でいいよ」
マンガ家は作品が売り物だから顔が有名になっても仕方ない。
男ってだけできゃーきゃー言われるんだから人を集める要素はいらないし。
文芸部の部室に向かうと人がだんだん減りだした。
文化部の出し物は一部を除けばまあこんなもんだろう。興味ない人はガチで興味ないからあまり立ち寄らない。
部屋の中も全員の顔を見渡せるくらいで、だからか、部員の人から「いらっしゃいませ!」と嬉しそうに迎えられた。俺の後から母さんが入ってきたらテンションめちゃくちゃ下がってたけど。
ちなみに隅のほうに座っていたほのかは一瞬で真っ赤になって俺たちを睨んでくる。
スマホに着信があったと思ったら『なんで来たの』。
『チケットくれただろ』と返すと『来ないでって言ったのに』。心配しなくても兄妹だってことは言わないから安心して欲しい。
まあでも、肩身の狭い思いはしてなさそうだ。
隅っこに座ってるのは単に性格だろう。今も他の部員から「どうしたの?」と優しく声をかけられている。それだけでも見に来た甲斐があった。
「あの、朗読劇がもうすぐ始まるのでもしよかったら……」
「朗読劇?」
ああ、そういえばそんな話だったっけ。
ほのかは大人しいけど声が綺麗だし、本が好きな分朗読も上手い。
「せっかくだから見ていくか?」
「そうね」
朗読劇は部室の一角で淡々と行うようだ。
普通の劇と違って衣装も舞台もいらないので手軽にできる。何人かの部員が椅子に座って台本片手に行われるのはなかなか新鮮だ。
その間、入り口のドアは閉じられ部屋は暗めに調整されるものの、人の出入りは可能で部誌の購入もできる形。
ちなみに部員の一人は脇に控えてノートパソコンを操作していて、要所でそれを操作。すると美桜ちゃんのよく通る声が流れてくる。
さすが役者であり声優、声の印象が他の人たちとは段違いだ。それを見越してかセリフは少ないけど重要な役柄に配置されている。
「これはいいもの見られたな」
「創作に役立ちそう?」
「ああ」
やっぱりパソコンに向かってるだけじゃ得られない体験もある。
静かな劇の余韻に浸りながら部屋を出た俺たちは漫研の部室を覗き、美桜ちゃんが昨日コスプレした時の写真が飾られているのを目撃。
調理部の部室に行くと美桜ちゃんからアドバイスをもらって完成したというメニューが振る舞われていたし、吹奏楽部が借りているという音楽室では「今の時間演奏会はやっていない」ということで代わりに美桜ちゃんのピアノを録音したものがBGMで流れていた。
開場直後はゲート付近で美桜ちゃんが呼び込みをしていたらしいし、自分のクラスでは劇のヒロインをやるらしい。
さらにはアイドル部のライブにクイズ研究会の司会進行にミスコン──。
「美桜ちゃん、仕事しすぎじゃない?」
裁縫部のコスプレ撮影会で出会った本人に声をかけると、美桜ちゃんは「わたしもちょっとそう思います……」と恥ずかしそうにしていた。
いや、ほんとすっかり有名人だ。
これでもかと使われていて学園祭の顔! という感じでさえある。お姉さんのほうも有名人のはずなんだけど、そっちは美桜ちゃんほど大々的に押し出されてはいないし。
「そういや俺、美桜ちゃんのお姉さんって会ったことないんだよな」
「クラスに行ってみる? 店番してるかもしれないし」
「行ってみるか」
中等部三年のメイド喫茶に寄ると「湊! 来てくれてありがとね……?」「だ、抱きつくなよ美姫」と何やらいい雰囲気を出している香坂美姫、そしてその彼氏? を発見した。
彼氏のほうもどこかで見たことがあるような。
少し考えてから、そういえばほのかが「美桜ちゃんのお姉さんの彼氏は元クラスメートの燕条君」と言っていたのを思い出す。
ああ、なるほど。こいつが美桜ちゃんに告白して振られた奴か。
で、腹いせに姉の方に手を出したと。なるほど。
別に悪いことをしてるわけじゃないんだけど、俺はついつい彼を厳しい目で見てしまった。おかげで「俺なんかしたか?」という顔で見つめ返されてしまった。うん、ごめん。でもこれくらいは許して欲しい。