♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
「見て見て! 私の彼氏可愛いでしょ?」
「美姫、恥ずかしいからやめてくれ」
「そんなこと言って。二人っきりの時は積極的なくせに」
まったく、なにやってるんだか。
僕──花菱葉は文化祭、メイド喫茶の片隅でひっそりとため息をついた。
女装した状態、美桜ちゃんが言うところの「一葉モード」なので特に注目はされていない。週に五日は顔を合わせている友人、燕条湊でさえ僕がいることに気づいていない様子だ。
もっとも、燕条君はいまそれどころじゃないみたいだけど。
例の彼女、美桜ちゃんのお姉さんと仲がいいところを周囲にこれでもかと見せつけている。まあ、積極的に見せつけているのは美姫さんのほうか。でも燕条君も満更でもない、といった感じ。
男にとってもスペックの高い彼女は自慢の種だ。
将来養ってもらえるかもしれないし、単にデートの相手としても良い。
「……美桜ちゃんのこと、ほんとに諦めたなら別にいいけど」
苛立ちを言葉に乗せて多少発散すると席を立つ。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございましたー!」
美姫さん以外の店員さんに軽く微笑んで店を後にする。
こういう何気ないコミュニケーションが僕は好きだ。男子はそういうの煩わしいって子が多いから、やっぱり変わってるんだと思う。
それにしても友人のあんな姿を見てしまうとは。
女の子の姿で来て正解だった。花菱葉として来たらあっという間に人だかりができてしまって文化祭を見てまわるどころじゃないし。
「美桜ちゃんの劇まではもうちょっと時間あるかな」
お休みをもらってお忍びで来たのは主に劇が目当てだ。
あとはアイドル部で行うというライブ。時間までもう少しほかのところを見ることにして、僕は適当な出し物にふらりと立ち寄った。
テーブルゲーム部。
囲碁や将棋、チェス、あとはドイツ製のボードゲームなんかを展示していてプレイもできるスペースらしい。意外と人で賑わっていて「こういうのもいいな」と思う。
いや、なんだか一箇所特に人だかりができてるけど。
「この子、ほんとに強くない?」
「プロとかじゃないよね?」
なんだろうと覗くと、小学校四年生か五年生くらいの女の子が高校生部員を将棋で圧倒していた。
「すご」
囲碁・将棋は年配の男性が好むので付き合いで何度か遊んだことがある。
ルールがわかる程度で上手くはない僕でもその子の実力が高いのは簡単にわかった。手に迷いがないし、適当にプレイしているわけでもないのが後のゲーム展開からわかる。
あっという間に勝利したその子は「ありがとうございました」と言って席を立つ。
「ま、待って! もう一回! 次は部長が指すから!」
「ごめんなさい。他のところも周りたいので」
「すみません。この子、身体があまり強くないので長時間のゲームも負担になるの」
病弱な天才少女か。
人だかりを割って歩いていく彼女を何気なく見つめていると、視線に気づいて振り返った。目が合う。ちょっと見つめすぎたかな……?
「………?」
首を傾げるその子。
視線が僕の身体のあちこちに向かい始めたところで僕は「まずい」と思った。
前に些細な違和感から見破られた時に近い雰囲気。
何気ない風を装ってその場を離れようとすると、天才少女に袖を引かれて隅のほうに連れていかれてしまう。
「あの、お姉さん、もしかして男の人ですか?」
バレた。
僕は自信が打ち砕かれるのを感じながら「誰にも言わないでくれる?」と彼女に囁く。
純真そうな瞳がまっすぐにこっちを見て、小さな顎がこくんと縦に揺れた。
「はい。約束します」
「ありがとう。……見破ったのはあなたが二人目だよ」
小さく手を振ってその子と別れた僕は美桜ちゃんのクラスに向かい──後から入ってきたその子とお母さんに出会った。
あれ? というか……。
さっきは女の子のほうに気を取られていて気付かなかったけど、お母さんはメイク師の香坂さんだ。僕も何度か会ったことがある美桜ちゃんのお母さん。
美空って呼ばれてたし、じゃあ美桜ちゃんの妹さんか。
姉妹揃って僕の変装を見破るなんて。美姫さんに気づかれなかったのが幸いか。
美空ちゃんのほうもすぐに気づいて寄ってくる。
「あの、
「うん。美桜ちゃんとちょっと知り合いなんだ」
「お姉ちゃんと?」
「そう。私は一葉。そう言ってくれればお姉ちゃんにも伝わると思う」
頭の良い子のようで、すぐにこくんと頷いてくれる。
「香坂美空です。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
僕はそのまま美空ちゃんと一緒に演劇を見た。
美桜ちゃんが出てるとは言っても中学生の演劇。レベル自体はそんなに高くない。美桜ちゃんも周りから浮きすぎないようにレベルを落として演じている。
でも、そんな美桜ちゃんに引っ張られるように周りの演技にも熱が入っていて見るのが楽しい。
うん。クオリティを求められるプロの演劇だけが演技のあり方じゃないんだな。
それをあらためて感じられただけでも来てよかった。
「一葉さんはこれからどうするんですか?」
「ミスコンを見に行って、それからライブかな」
「じゃあ一緒に見に行きませんか?」
「うん、いいよ」
お母さんから「迷惑じゃない?」と尋ねられたけど「全然です」と首を振る。
もういっそのこと香坂家にはまとめてバレてしまったほうが気楽かもしれない。
それから僕たちは食べ物を補充したあと屋外ステージで行われるミスコンを見た。
中高合わせて十人ほどが参加、あらかじめ行われた予選参加者は数十人にのぼるという気合いの入ったコンテストの結果──頂点に上り詰めたのは高等部所属の梟森という人だった。
美姫さんと美桜ちゃんも出てたんだけど、それぞれ二位と三位。
「惜しかったね」
「はい。お姉ちゃんはまだ一年生ですから、知名度が足りなかったのかもしれません」
文化祭での貢献度を見れば美桜ちゃんの圧勝だけど、中高合同のイベントである以上は高等部生が有利。
生徒というよりは芸能人という目線で見られている美桜ちゃんには不利だったわけか。
それをあっさり見抜くとは美空ちゃん、やっぱり恐ろしい子だ。
「美空ちゃん、マネージャーとか向いてるかもね」
「でも私、今は配信が楽しいんです」
「あ、そっか。そういえばそっちで将棋とかやってるんだよね」
「カードゲームもやってるのでよかったら見てください」
それは面白そうだ。
この後、美桜ちゃんからも勧められた僕は美空ちゃんの配信を見てスマホでデジタルカードゲームを始め、見事に少ない余暇の時間を取られることになる。
「さあ、いよいよライブね」
ライブの会場は体育館。
特に強豪でもなんでもないアイドル部が借りるには広すぎるハコじゃないかと思ったけど、意外とかなりの人数がライブに詰めかけていた。
美桜ちゃん効果もあるんだろう。
いくつかのグループの後、数名の仲間を伴って登場した美桜ちゃんはキーボード&ボーカルという驚異のパフォーマンスを武器に堂々とセンターを飾った。
小学校の頃に習っていたというピアノがしっかり活きている。
軽音バンドではなくアイドルライブなのに不動のセンターは思い切ったけど、そのお陰で他のメンバーのダンスがより映えた。
特に美桜ちゃんの両サイドを飾る一年生は動きと表情が良くてつい見入ってしまった。
「ほんと、美桜ちゃんはすごいな」
「ね。お姉ちゃん、すごいですよね」
ライブの音にかき消されるかと思った僕の呟きは美空ちゃんにしっかりと拾われて、同じく小さな呟きが僕の胸に染みるように入り込んできた。