♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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美桜と水着(その1) 2016/6/11(Sat)

「着いたよ! 今日は頑張ろうね、美桜ちゃん、玲奈ちゃんっ」

 

 車を降りるなり気合いを入れたのは僕と仲の良い二人の少女の片割れである嬬恋(つまごい)(れん)だった。

 

「もう、恋。車でもずっとはしゃいでたのに、そんな調子じゃ疲れちゃうよ」

「大丈夫だよ、だってお買い物だもん」

 

 うん、まったく理由になってない。

 苦笑気味に応じつつ明確なコメントを避けていると、僕たちの後からゆっくりと車を降りてきた最後の一人、西園寺(さいおんじ)玲奈(れな)がお気に入りの日傘を広げながらおっとりと、

 

「恋さんが元気なのはいつものことではありませんか。美桜さん、諦めましょう?」

「あ、玲奈ちゃん、私のこと馬鹿だと思ってるでしょ?」

「そうだね」

「美桜ちゃんも、そこで頷かないでよっ!?」

 

 露骨にショックを受けた顔になる友人を見て、僕と玲奈はふっと吹き出す。

 僕たちが笑っているのを見た恋はしばらくふくれ面を作った後、ふにゃりと笑顔に戻った。

 仲がいいからこそのじゃれ合い。

 玲奈も案外、いつもよりはしゃいでいるのかもしれない。なんと言っても今日は待ちに待った(?)買い物の日だ。

 

 ──それにしても、思った以上に遠出になった。

 

 僕たちがやってきたのは地元から少し離れたところにある百貨店だ。

 電車やバスだと大変だからと玲奈が車を手配してくれた。おかげで僕たちは空調の利いた車内でお喋りしていただけ。

 持つべきものはお嬢様の友人である。

 

「ありがとう、玲奈。わたしたちまで乗せてくれて」

「いいえ。店を指定したのはわたくしなのですから、このくらいはさせていただきませんと」

 

 普段から良い服を着ている玲奈は当然、水着も良い店で買う。

 僕たちも高級店なんてこういう機会でないとなかなか来られないし、せっかくなので便乗させてもらうことにした。

 軍資金は読者モデルをして受け取った謝礼。

 加えてお母さんからもボーナスが出た。

 

「水着を買うんでしょう? はい、お小遣い」

 

 最低限必要な分のお洒落代は別途支給がうちの方針らしい。

 もちろん高いのを買う場合は自己責任なので差額は手持ちから出すわけだけど、もらえるのともらえないのじゃ全然違う。

 さすが、メイクさんをしている母とモデルの姉を擁する我が家である。

 

「まずは何から買おうか?」

「やっぱり水着からじゃない?」

 

 水着の他に夏物も見ようという話は移動中に車内で出ていた。

 あと、百貨店に入っているレストランでお昼を食べて有名なスイーツ店にも寄る計画。

 ひょっとしなくても一日がかりのプランだ。

 前途を考えると今から疲れてきそうだけれど、あらかじめ覚悟はしていたのでまだ傷は浅い。普段のお姉ちゃんや恋を見ていれば女子の買い物が「こうなる」ことくらいは想像がつく。

 

「では、水着から見て周りましょうか」

 

 玲奈の行きつけのお店と、たまに使う高級店。

 

「いらっしゃいませ」

 

 入るとファーストフード店の接客とは違う落ち着いた雰囲気の声と一礼に出迎えられた。

 内装も大人っぽくて洗練されている。

 

「……わたしたち、場違いじゃない?」

「ふふっ。子供用の商品も取り扱っていますから心配ありませんよ」

 

 いや、大人っぽさもそうだけど明らかに女性向けのお店だし。

 というか目的のお店に着くまでにちらっと見た他のお店も僕の知っている百貨店より華やかだった気がする。

 そもそもメンズの店があるのかというと、

 

「男性用と女性用、どちらも取り扱っているメーカーでもブランドや店舗を分けて販売するのが主流です。男性用のお店は特定フロアに集中していますよ」

「そうだったんだ」

 

 雑談を交わしながら水着コーナーへ到着。

 夏に向けてずらりと並べられた品々を眺めた僕はほう、と息を吐いた。

 

「思ったよりいっぱいある……」

 

 サイズを無視してデザイン違いだけで考えても数十種類。

 色とりどりの商品を見ているとあちこち目移りしてしまう。

 

「この程度でしたら普通ではないでしょうか?」

 

 慣れている玲奈は涼しい顔。恋も「いっぱいあった方が選びやすいよね」と笑った。

 たぶんこれは女子の買い物に慣れてるとかじゃなくて二人がこの世界の買い物に慣れてるからだ。

 

 この世界は圧倒的に女子が多い。

 

 人数の分だけ需要も大きいし、需要が大きいということは商品が進化したり新しいデザインが生まれやすい。この分野に疎い僕には詳しくはわからないけど、元いた世界より女性向けファッションについては先を行っている気がする。

 

「物も良い気がする」

 

 高いだけのことはあると思って値札を見てみると──あれ? 思っていたよりは安い。

 もしかするとこれも需要のせいか。いっぱい売れるから安めの値段でも経営が成り立つ。

 こっちの世界は案外、女子にとって生きやすい場所なのかもしれない。

 

「迷っちゃうねっ。どれがいいかな?」

「他の店も見るのですから焦る必要はありませんよ」

 

 ああでもない、こうでもないと言い合った末に「また来ます」と言って別の店に行くのがウィンドウショッピングでは常識らしい。

 いくら割安でもお小遣いには限りがある。気に入った品を覚えておいて比較し、いちばん気に入ったものを買うのだ。そう考えると「時間がかかりすぎる」という点以外は合理的。

 

「どうしよう。可愛い水着つけてたらナンパとかされちゃうかなあ?」

「女慣れした男性の中には悪い方もいらっしゃるようですから、軽々しくついていってはいけませんよ。……ですが、素敵な方との偶然の出会いには憧れますね」

「うん。二人とも、悪い男には絶対気をつけてね? なにかあってからじゃ遅いからね?」

 

 しばらく悩んでいると少しずつ買いたい水着の方向性は見えてきた。

 

「色は別々にしたほうがいいよね?」

「ええ。わたくしは黒にしようかと」

「黒って光を吸って熱くならない?」

「裏地に工夫が施されて熱くなりすぎないようになっていますし、泳ぎに行くのですから暑いくらいでちょうど良いかと」

「じゃあ、美桜ちゃんは白でどう?」

「恋がピンクつけてくれるならいいけど」

「いいよっ」

 

 いいんだ。

 意外にもあっさり頷かれてしまったので僕は白い水着から選ぶことにした。

 透けないか心配だったけど、黒の熱さ対策と同じで裏地が工夫されているので心配ないらしい。それならデザインは動きやすいツーピースで、咄嗟に脱げたりしないように紐がしっかりした奴がいい。

 

「これとか格好いいかも」

 

 紐が何本も使われていて交差するようなデザインになった一着を手に取る。

 

「美桜さん。下着の上から試着もできますから、着け心地を確かめてみた方が」

「お客様。よろしければ先にサイズを測られてはいかがですか?」

「え? えっと、どうしようかな」

「測ってもらおうよ美桜ちゃん。私もお願いするから」

 

 恋の説得もあって僕は店員さんに身体のサイズを測ってもらった。

 もちろん身長じゃなくてスリーサイズ。メジャーを手にした店員さんに腕を回されるとほのかに香水の匂いがしてついどきどきしてしまう。

 いけないことをしている気分。

 告げられた数字は大きい小さいの前に男子だった頃にはまったく縁のなかったもので、慌ててスマホにメモを取ると店員さんは微笑ましそうに待っていてくれた。

 

「お客様はとてもお肌が綺麗ですね。羨ましいです」

「あ、えっと、ありがとうございます」

 

 思ったよりも胸が成長している。

 

「もう少ししたらちゃんとしたブラを用意された方がいいかもしれません」

 

 ワンサイズ大きな水着を用意してもらって試着すると着け心地は快適。

 恋と玲奈からの評判も良かった。

 

「可愛い! 格好いい! モデルみたい!」

「恋さん。美桜さんは雑誌デビューするのですからモデルのようなものですよ」

「二人とも、あんまりからかわないで」

 

 玲奈の選んだ黒のワンピース水着は露出を抑えた清楚な雰囲気がありつつも大人っぽい黒という色によって小五とは思えない魅力を併せ持っていた。

 恋はピンク+水色のセパレート。三人の中だといちばん発育が良いのでちょっとエロ……じゃない、女の子っぽさが溢れている。

 

「二人も本当に似合ってる。……本当にナンパされちゃうかもね」

「えへへ、その時は美桜ちゃんが助けてね?」

「美桜さんが一番危険な気もしますけれど」

 

 恋たちの意見を聞きつつ夏用の服も購入。

 全部百貨店で買うとすごいことになるので一着だけ。

 

「……うーん。夏は薄着になるから難しいなあ」

「美桜ちゃん肌出すの嫌みたいだもんねぇ」

「美容のためにも日焼けは大敵ですよ、恋さん」

 

 なんだかんだ時間が経っていたので百貨店内のイタリアンでランチ。

 ランチと言ってもお財布に痛いなかなかの値段。その分、質のいい食材でお洒落な料理が振る舞われる。

 

「あ、そうだ。せっかくだから映え写真撮ろうかな」

 

 まさか僕がこんなことを言う日が来るとは。

 お洒落女子大生になった気分でスマホを取り出すと恋が「ばえ?」と不思議そうな顔をする。

 

「料理の写真撮るだけじゃないの?」

「写真映え、の映えですか、美桜さん?」

「そうそう。写真に撮った時に見栄えのする料理とかスイーツとか面白スポットとかをリンスタに載せるの」

「面白そう! 私もやる!」

 

 元の世界で料理の写真を撮ったのなんて盛りのすごいラーメンを食べた時とかくらいだったけど、意識して映え写真を撮ろうとしてみるとこれがなかなか難しい。

 照明の位置もあるし、料理によって綺麗に見える角度みたいなのもあるっぽい。

 下手に店内を映すと他のお客さんの顔が映ってしまって迷惑になる。試行錯誤しつつもなんとかそれっぽい写真を撮って料理も冷めないうちにいただいた。

 

「リンスタかあ。美桜ちゃん、ID交換しよ?」

「わたくしも登録しますので交換させてください」

「うん、いいよ」

 

 恋は新しいアプリに興味津々。

 情報通の玲奈もすぐにアプリをインストールして機能をチェックし始めた。本当なら先にリンスタを使い始めるのは二人のどっちかだったかもしれない。

 

「ねえ、美桜ちゃん。スイーツも撮るでしょ?」

「撮ろっか。もっと練習もしたいし」

 

 食事をしたら少し体力が回復した。午後もウインドウショッピングを楽しんだ後、お昼を食べたのとは別のお店でパンケーキを食べた。

 パンケーキと言ったらバターと蜂蜜をたっぷり、という固定観念を覆すお洒落感。

 たっぷりのクリームの他に果物も乗っていて、酸味のおかげで口の中をさっぱりさせてまた新鮮な気持ちでパンケーキに向かえるという仕組み。

 流行ったのっていつぐらいからだったんだっけ、と思いながら全部平らげた。

 

 恋たちとバリエーション違いを頼んだので女子がよくやる「そっちも少し食べさせて」もしてみたり。

 

「美桜ちゃん、私のもあげる。……はい、あーん」

「え。う、うん。……あーん」

 

 自然に「あーん」とか言われて戸惑ったのは内緒だ。

 僕は赤面しながら「今は子供だから」と自分に言い聞かせ、恋の差し出したパンケーキを口に迎え入れた。何故か「可愛い」と好評で、玲奈まで「では、わたくしも」と乗ってきて大変だった。

 

「ちょっと今日はカロリー摂りすぎかも」

「わたくしもです」

「私も。でも、動いたからいいよねっ」

 

 確かに、消費したカロリーも今日はなかなか多そうだ。

 美桜になってから食事の量は減ったけれど、スイーツに対する興味はむしろ増した。甘いものが妙に美味しく感じるのだ。なのでついつい食べ過ぎてしまいそうになる。お姉ちゃんから「程々に」と釘を刺されるけど、そのお姉ちゃんが美味しそうなアイスを自分だけ買ってきたりしていて理不尽感を覚えることも。

 男子だった頃も別に嫌いではなかったものの、たまに食べればいいくらいの感覚。今食べたパンケーキも全部食べる前に飽きてしまっていたかもしれない。

 

 だとすると、こっちの世界の僕である湊もそんな感じだろうか。

 

「で、二人ともっ。泳ぎに行くのはいつにしよっか?」

「もうその話するの? さすがにまだ早いんじゃない?」

「いえ、そうとも言い切れません。会員制のビーチは早めに予約しておいた方がいいですし、夏休み中はホテルも混みあいますから」

「あはは。さすがに会員制のビーチとか行けるのは玲奈ちゃんだけだよー」

 

 泳ぎに行く予定に関しては他の友達と一緒に行くか、海にするかプールにするかも含めてまた相談することになった。

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