♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
「本日は本当にお疲れ様でした。今後のご活躍も期待しております」
「なんだか生徒会長さんに言われると変な気分ですね」
学園祭終了後、わたしは生徒会・文化祭実行委員の皆さんからお礼を言われた。
裏方サイドのささやかな打ち上げの場でのことである。
別途、クラスや部活動での打ち上げも個々に行われているけどそっちは不参加。ちょっと寂しいものの「どれに参加すればいいの?」ってなるし、ここからファミレスに行って騒いでいるとけっこう遅くなってしまう。そんな暇があったら帰って寝ろという話。
日曜日挟んで明後日の片付け日もわたしは出席扱いで休んでいいとのお達しが校長先生から出ているので、火曜日の振り替え休日も含めてのんびりさせてもらおうと思う(なお事務所に行く予定は普通にある)。
みなさんに挨拶をしてからお姉ちゃんと二人で帰宅。
「それにしても大活躍だったわね、あんた」
「お姉ちゃんもね」
モデルとしての実力・経験値の差、学校に通っている年数などいろいろあるとはいえミスコンで負けたのはちょっと悔しい。
姉妹揃って梟森先輩に負けたのはもっと悔しい。あの人、ほんと女の子に人気ありすぎじゃないか。ほいほい女の子に手を出す変態なのに。
「あー、なんか中途半端に小腹空いてるわね」
「うちでご飯食べようよ」
そうやって家に帰りつくと、
「お帰りなさい、お姉ちゃんっ」
「お、お帰りなさい、美桜ちゃん……」
「一葉? なんでいるの?」
どういうわけか仕事仲間の花菱葉が女の子モードでわたしを出迎えてくれた。
さすがに恥ずかしそうにしている彼女、もとい彼は「実は……」と口を開いて、
「美空ちゃんと偶然会って、美桜ちゃんの話で盛り上がってたら『泊まっていって』って強請られちゃって」
「なるほど……?」
ライブの時に美空と一緒にいるのは気づいてたけど、まさか家に連れ帰られていたとは。
「美空、一葉おねえちゃんに無理言ったんじゃないの?」
「無理じゃないよ。ね?」
「う、うん。ぼ──私も明日は予定はないし大丈夫なんだけど」
もっと重大な問題があると思う。
モデルをしているだけだって観察眼の鋭いお姉ちゃん。まだ小学生だけど人並み外れた知性を持つ美空。
わたしは一葉を引っ張り寄せると耳うち。
「……バレるよ?」
「あはは。それが、美空ちゃんにはバレちゃったんだよね……」
「なにそれ!?」
驚いて妹を見ると、話が聞こえていなかったはずの彼女は全てお見通しというふうに「えへん」と胸を張った。
うん、やっぱりこの子もたいがいすごい才能を持っている。
一方のお姉ちゃんはというと、
「うわ、可愛い子。美桜、この子どんな知り合いなの? 愛人?」
「違うよ。前にたまたま映画館で知り合った子なんだ」
「ふーん。じゃあモデルとかじゃないのか。もったいない」
うん、意外にぜんぜん気づかなかった。
「あはは。私、肌の出る格好とか苦手なので」
「そっか。それだけ可愛かったら気にする必要ないのになー」
「はいはい。美桜も美姫も立ち話してないでゆっくりしたら?」
「はーい」
なんかなし崩しに泊まることになってしまった一葉。
「わたしの部屋で一緒に寝るでいいかな?」
「う、うん」
ぎこちなく頷いた彼は「よくないけどそう言える空気じゃないよ!」と目で訴えてきた。
うん。わたしの女友達ならわたしの部屋に来てもらうのが自然だし。客間を断固主張するほどの言い訳も思いつかない。
「一葉お姉ちゃん、私の部屋でもいいよ?」
「さすがに美空ちゃんのお邪魔はできないよ」
というわけで今日は一葉とお泊まりになった。
急遽だったけど、急な来客があってもいいように食材多めにストックしている我が家はびくともせず。
お母さんの料理(手伝おうと思ったけど「ゆっくりしてなさい」と言われてしまった)に舌鼓を打った一葉は目を丸くして、
「美味しい」
「それはよかった」
どうやら口にあったみたいだ。
彼はにこりと笑顔を浮かべて、
「なんだか美桜ちゃんの家は賑やかでいいですね」
「一葉ちゃんの家は姉妹いないの?」
「はい。私は母と二人暮らしなんです」
一人目で男の子産んじゃうと満足しちゃう家、けっこうあるみたいだよね。湊の家もそんな感じだし。
「美桜。お風呂も一葉ちゃんと一緒でいい?」
「いいよ。人数多いから大変だもんね」
「じゃあ私も一緒に入ろうかな」
「い、いやいやいや!」
真っ赤になって手を振る一葉だけど、ここで恥ずかしがると逆に不自然だ。
美空はお姉ちゃんと入ってもらうことにして私と一緒は我慢してもらう。
脱衣所で二人っきりになると彼は「うう……」とため息。
「なんかごめんね、強引で」
「ううん。いいけど、美桜ちゃんこそいいの?」
「うん。まあ、見たことないわけじゃないし」
女の子になったとはいえ男だった頃の記憶はある。
中一男子の股間ごときで恥ずかしがる気はない……と思っていたら「どこで?」と胡乱な顔をされてしまい、
「えーっと、ほら、あれだよ。小学校の頃は共学だったから」
「……なにやってんだあいつ」
思わず、という感じで呟く一葉。
ごめん湊。女子ばっかりのプール授業で股間を露出した奴ってことになったけど許して欲しい。
湊と言えば、あいつとお風呂に入るのは絶対無理だ。
葉でもたぶん無理。でも一葉モードを維持してくれてれば女友達みたいなノリであまり気にならない。たとえアレが見えてもだ。
……うん、わたし、ちょっと同性に気安くなりすぎてるかも。でもこれ半分くらい恋と玲奈のせいだと思う。
「着替えは私ので我慢してね。下着もおろしてないのがあったからそれ使って」
「し、下着はさすがに悪いよ!?」
「いいよいいよ。なんなら新しいの買って返してくれれば」
さすがに見せつけるのもアレなので自分の身体は隠すようにしたけど、お互い何も身に着けていない状態でバスルームに入ることに。
「み、美桜ちゃん。私が先に入るから!」
「そう? じゃあそうしよっか」
中に入ってシャワーを出すと会話は外に聞こえづらくなる。
「あの、美桜ちゃん。私だって思春期なんだからね?」
「でも、一葉はそういうこと無理やりしないでしょ?」
「それはまあ、しないけど」
「大丈夫だよ。変なことされたら大きな声出すから」
これには一葉もくすりと笑って「それは困るなあ」と言った。
ちなみにそうなった場合、まずいのは一葉の女装がバレることであって、女装していたこと自体でもわたしを押し倒したことでもない。
男の子が女の子を押し倒そうとしました! だけだと「当たり前じゃない?」で流されかねないのがこの世界だ。女装もまあ似合ってればわりとスルーされる。
「じゃあ背中流してあげるよ」
「ち、ちょっと目を閉じてていいかな」
「どうぞどうぞ」
こうして見ると一葉、というか葉の身体はほんとに綺麗だ。
肌もすべすべだし肉のつき方もバランスがいい。
「羨ましいくらい綺麗だよ」
「そうかな。私は美桜ちゃんが羨ましい」
女装の似合う男の子なんてある意味美少女より貴重な存在なんだけど。
「……美桜ちゃんのライブを見てて思ったよ。声変わりするの嫌だなあ、って」
「ああ」
わたしも男子だった頃、あれには戸惑った。
自分が別の存在に変わっていくような気がして。無理やり「男」という枠に当て嵌められるような気がして猛烈な違和感があった。
そうは言っても声は変わっていくのでそのうち慣れたんだけど、今思うと昔のわたしには多少、性別の違和感があったのかもしれない。
「ホルモンとかやるなら早いほうがいいかもね」
突然女の子になってしまって結果戻りたくなくなったわたしはいろいろ条件が違うけど、これで元の身体に戻されたらたぶん「心と身体の性別が違う状態」になると思う。
葉は心まで女の子っていう子じゃないはずだけど、彼の抱えている違和感はある程度わかる。
私ならもっと大きくなってから後悔するかもしれない。子供のうちから決断するのってすごく勇気が要るだろうけど、そうじゃないと得られないものもある。
すると、彼は前を向いたまま、ほう、と息を吐いて、
「本当に、美桜ちゃんには敵わないなあ」
「そんなことないよ」
人生二週目ってわけじゃないけど七年分くらいボーナスモードのわたしより一週目の葉たちのほうがよっぽどすごい。