♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
文化祭から二日後──学校では片付けが行われている日、わたしは事務所へと顔を出した。
微妙にそわそわする不思議な感じ。
得したのは事実だけどわたしも片づけを手伝いたかった。芸能人だからっていいところだけ持って行った、みたいに思われていないだろうか。
とはいえお仕事なので仕方ない。文化祭の報告も兼ねているわけだし、ということで、
「文化祭お疲れ様、美桜ちゃん」
「ありがとうございます。マネージャーさんも来てくださってありがとうございました」
「ううん。私は大したことできなかったし」
既に事務所にも大方の話は行っているけど形として「終わりました」と報告して、
「それでね、美桜ちゃん。相談があるんだけど」
「? 相談ですか?」
小さな会議室で向かい合って話を聞いた。
「実はね、とある大学から依頼があったの。学園祭で歌ってくれないかって」
「学園祭で歌、ですか? わたしが?」
「ええ。あなたたちの文化祭を見たらしくて、それで特別ゲストにできないかと思ったんだって。もしかするとドタキャンがあったのかも」
マネージャーさんが微妙そうな顔をしていたのはそういうわけか。
わたしは俳優兼モデル兼声優だけど歌手ではない。そこに歌のお仕事だ。
「美桜ちゃんはマルチタレントみたいなものだからそこは心配してないんだけど」
「心配してくれないんですか……!?」
「美桜ちゃんならなんとかするでしょう? 問題はそれよりも期間と条件なの」
「?」
大学の学園祭は高校の文化祭より格段に規模が大きい。……とは言っても素人の催しには違いないので予算は限られている。
出せる謝礼が少ないのは同じ。
加えて文化祭があるのはなんと今週の金土日だという。
「急すぎますね……?」
「でしょう? 逆に言うと歌詞を忘れる心配はないけれど」
「条件っていうのは? さらに無理難題を言われたんですか?」
お仕事として折り合わないなら断ってしまっていい気もするけど。
「それがね。先方としては美桜ちゃんだけじゃなくて、あの時のライブのユニットに出て欲しいらしいの」
「え」
わたしたちの文化祭で歌ったユニット。
あれを見て依頼してきたなら当然といえば当然だけど、それは確かにいろいろと特殊だ。
まず、わたし以外は事務所の所属じゃない。
叶音たちはただの学生なので事務所から話もしづらい。
「もし引き受けるとしたら、形としては
「それ、みんながわたしのオマケみたいな扱いになっちゃいますね?」
「お仕事的にはその通りなんだけどね……。彼女たちがどう思うかはわからないでしょう?」
確かに。特に叶音はどうだろうか。
もう一回ライブができる、そのうえちょっとだけどお金も入るとなれば喜ぶかもしれないけど、逆に怒る姿も簡単に想像できる。
『馬鹿にしないで。あんたのオマケでお仕事もらわなくてもあたしは自力でアイドルになるわ!』
恋にしても自分たちの文化祭だからやったところがあるだろうし……。
「ちょっと聞いてみないとなんとも言えないです」
「美桜ちゃんとしてはどう? ライブ、やってみたい?」
「そうですね。声優としてのお仕事にも繋がるかもですし、興味はあります」
今の声優は歌って踊るのがわりと普通な感じだし。
「大学の学園祭なら注目度も高いですよね?」
「ええ、テレビが来てもおかしくないわね」
「ちなみにどこの大学なんですか?」
「えっとね……」
マネージャーさんが口にした大学名はわたしも知っているところだった。
お兄さんが所属している大学。ついでに鷹城さんもここの所属だって前に聞いたことがある。
そう言われると若干親近感が湧いてくるから不思議だ。
「もし参加するなら早く返事をしないとですよね?」
「そうね。今日中だと嬉しいんだけど、どう?」
「それなら帰りに学校へ顔を出してみます」
制服で来なかったけど……学生証は持ってるから大丈夫かな? 駄目だったら放課後の叶音たちを喫茶店かなにかに呼び出そう。
グループチャットで話がしたいと送信すると、片付け中で忙しいかと思いきや割とすぐに返信があった。
『なによあらたまって。暇だから別にいいわよ。私も話したいことあったし』
そういえば叶音たちのクラスは研究発表的な奴だから片付ける物も大してないのか。
早く終わったので部室に顔を出そうと思っていたらしい。ちょうどいいのでみんなにも声をかけておいてもらうことにした。
でも、話したいことってなんだろう?
校門で守衛さんに声をかけると「お仕事お疲れ様」とほとんど顔パスだった。アイドル研究会の部室にはみんなが揃っていて、
「あ、美桜ちゃん!」
ぱっと表情を輝かせた恋が駆け寄ってきてくれる。
「えへへ、今日は会えないと思ってたから嬉しい」
「もう、恋ってば。朝ジョギングで会ったじゃない」
「それとこれとは別なの」
そのままクラスのほうの様子とかを聞いていると叶音が「はいはい」と呆れたように言って、
「いちゃいちゃするならよそでやりなさいよ。……それより、あたしの話を聞くべきじゃない?」
「あ、そうそう。なにかあったの?」
みんなへの差し入れも兼ねて買ってきたお菓子を配りつつ尋ねると少女は胸を張って答えた。
「聞いて驚きなさい。あたし、ついにスカウトされたの! 文化祭見てくれてピンと来たんだって!」
「え、すごいじゃない。おめでとう叶音、どこの事務所?」
拍子抜けを喰らう準備をしていたので本当にいい話にびっくりした。
でも、そうなるとわたしの依頼はややこしくなるかな?
まあ、それならそれでいいかと思いつつ尋ねれば、恋が耳うちするようにして、
「あのね。今度できる新しいプロダクションの第一期メンバーにっていう話でね」
「……それ、大丈夫な会社なの?」
いきなり話が怪しくなってきた。
叶音も自覚はしているようで「うるさいわね」と拗ねたように言って。
「あたしだっていきなり飛びつく気はないわよ。……でも、けっこういい話なのよ? 名刺をくれた人もイケメンでね? 個人的なお付き合いもしたいって言ってくれたの」
「いや、それ明らかに怪しいじゃない。叶音の身体目的だよ」
「いや、そこは大丈夫でしょ。そこまでして女の子口説くイケメンがどこにいるのよ」
まあ、確かにそれはそんな気がする。
イケメンなら直で連絡先聞くだけでそのへんの女の子なんか入れ食いだ。わたしの感覚はこういうとき往々にしてズレている。
でもなあ。手口がモロに「芸能人にしてあげるよ」って言っていかがわしいビデオとかに出演させるアレなんだよね。
「叶音。気をつけたほうがいいよ。ほら、たとえばアイドル志望の子だけがターゲットとかもありえるし」
「心配しなくても受ける気はないわよ。ただイケメンだったから嬉しかっただけ」
この子も意外と男に弱いんだよね、見た目と違って。
男にかまけて練習がおろそかになるのが嫌みたいでまだ付き合ったりはしてないけど。
「っていうか同じ名刺恋ももらったじゃない。なんで美桜に言わないわけ?」
「恋。今すぐ捨てよう? ね?」
「み、美桜ちゃん。いつになく目が怖いからちょっと待って!」
恋が危ない目に遭わないようにと意気込んだら叶音に「あんた意外と過保護よね」とジト目を送られてしまった。