♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
ライブ当日までは本当にあっという間だった。
一度完成まで持って行った演目とはいえ、ハコの大きさが違う。ほんの一週間でも期間が空くと「もうちょっと完成度を上げられるんじゃないか」ってそわそわしてきちゃうのもあって、わたし含めメンバーはみんな落ち着かない日々を過ごした。
金曜日は学校をお休み。
仕事で慣れているわたしとたまに家の用事で休む玲奈はともかく、今回は恋と叶音まで一緒である。
ライブ本番は午後三時くらいの予定ではあるものの、中途半端に授業に出るのも落ち着かないので朝一からカラオケで練習することに。
朝ご飯を食べてしばらくゆっくりしたわたしは「じゃ、行ってくるね」とお母さんたちに挨拶をした。
「行ってらっしゃい。今のうちにキャンパスを見てまわっておくのもいいかもね」
「お姉ちゃん。日曜日に私たちも見に行くからね」
「さすがに学校見学はまだ気が早いけど、頑張って来るね」
お姉ちゃんはお仕事で朝早くから出かけていて不在。
我が家はみんな特殊なのでこういうこともけっこう多い。
集合場所は駅前だ。
「お待ちしておりました、美桜様」
「今日はよろしくお願いします、小百合さん。菖蒲さんも」
「ボディガードと送迎はお任せください」
移動については西園寺家で車を出してもらえることになった。
叶音いわく「玲奈を誘って正解だったわ」とのこと。まあ、うちのマネージャーさんも分身はできないし、会社の車は軽なので全員はなかなか運べない。こういう時に助けてもらえるのは本当に助かる。
「ありがとね、玲奈。電車だと目立っちゃっただろうし」
「お気になさらず。小百合はむしろ撮影ができると喜んでおりましたし」
「あはは、小百合さんらしいね」
恋も既に来ていて「今日は頑張ろうねっ」と気合い十分。
最後の叶音も待ち合わせ時間ギリギリに慌ただしくやってきた。
「セーフ? セーフよね? 遅れてないわよね?」
「大丈夫だよ、叶音ちゃん。どうしたの、寝坊?」
「まあね……。初日の前日くらいは早めに寝ようと思ったら逆にぐっすり眠りすぎたわ」
「それくらいのほうがいいよ。これから練習もするんだし」
むしろ今から張り切っていたら疲れてしまう。
「さあ、どのように車に乗りましょうか。わたくしと美桜さんと恋さんと──」
「待ちなさい。あたしをあんたのメイドさんと二人っきりにするつもり?」
「それもそうですね。では、じゃんけんいたしましょうか」
じゃんけんの結果、わたしと叶音、恋と玲奈ということになった。
わたしたちは菖蒲さんの運転する車だ。
「大学周辺のカラオケボックスまで少し時間がかかりますので、寝ていてくださっても構いませんよ」
「ありがとうございます、菖蒲さん」
「ねえ美桜、この人ってどういう人なの? メイドさんなのはわかるけど」
「菖蒲さんはメイドさんでボディガードで、玲奈のお父さんの愛人らしいよ」
「なによその勝ち組」
勝ち組かあ。この世界の子の主観だとそうなるのか。まあ、お金持ちに雇われていて将来の生活の心配もなくて子供も産めるわけだし、そう言われるとそうかも。
「わたしは菖蒲さんのこと尊敬しちゃうな。メイドとボディガードなんてぜったい激務だもん」
「マルチタレントがなに言ってるのよ」
「叶音だって売れっ子になったらレッスンとお仕事で休む暇もないかもよ」
「いいじゃない、それ。望むところよ」
こういうやる気も野心もある子が将来生き残る──とも限らないのが芸能界の怖いところだ。
売れたければとにかくできることを一つずつやっていくしかない。もちろんわたしも含めて。
「ねえ、美桜は移動時間ってどうしてるわけ?」
「そうだなあ。イメトレとか、台本読んだりとか、疲れが溜まってる時はもちろん寝かせてもらうこともあるよ」
「なるほどね。やっぱり時間は有効活用しないとか」
「難しいよね。息抜きの時間も必要だけど『これって無駄じゃない?』とかつい考えちゃうし」
「わかる」
なんだかんだ話をしているうちに現地についてしまった。
でも、適度にリラックスできたのでかえって良かったかもしれない。
「さ、それじゃカラオケでグループリハね」
「ライブ開始の一時間前には事前打ち合わせで入らないとだから、そんなに時間はないね」
「どんな状況であろうとやるべきことをやるだけです。臆することはありません」
「な、なんで玲奈ちゃんが一番落ち着いてるの……っ!?」
「玲奈は発表会とか慣れてるもんね」
わたしは未だに緊張する。
一人のお仕事だと意識を切り替えて乗り切れるけど、業界人じゃない玲奈たちと一緒だからちょっとそわそわが抜けきらない。
親と一緒のときに友達と会った状態に近いというか。
でも、みんなと一緒だからこその楽しさもある。
わたしたちは広い部屋を一室借りると入室して、
「ワンドリンク制だからそれは頼むとして、なにか食べる?」
「時間的にお昼を跨ぎますものね。お腹に入れておくのも悪くないかと」
「私考えてなかったよ。どうしよっか?」
「そうね。……正直、あまり食欲はないのよね」
危険なことを言う叶音には三人で「駄目!」とごり押し。
「食べられる時間がなかった時のために小さなサンドイッチを用意しております。よろしければこちらを」
「わたしは栄養ドリンクとゼリーを買ってきたから、少しでもお腹にいれたほうがいいよ」
「うわ。やるわねあんたたち」
ちなみにノープランだった恋はあっさりと山盛りポテトやフレンチトーストを注文、元気にぱくぱく食べた。
「やっぱり恋みたいなタイプがアイドルには向いてるんじゃないかしら」
「恋さんは天性のアイドルのようなものですものね」
「えー。それを言うなら美桜ちゃんだよ!」
「わたしはアイドルには向いてないんじゃないかなあ……」
与えられた役を全うするタイプだからカリスマにはなれない。
後から振り返ってみたらモデル一本のお姉ちゃんに生涯年収で負けてました、とか普通にありそうだ。
「芸能界に入ってる奴は余裕でいいわね」
「わたしアイドルはまだ齧ってないもん」
「わかってるわよ。……ああもう、恋、あたしにもポテト寄越しなさい」
「もちろん、みんなで食べる用だもん」
言いつつ三分の一くらい減ってる気もするけど。
「炭水化物はダイエットで目の敵にされがちですが、カロリーの源ですから元気は出るのですよね」
「成長期だしね。カロリー制限するよりは栄養バランス考えるほうがいいと思う」
「ねえ、あんたたちってあたしと同い年よね? 何年かサバ読んでないわよね?」
わたしはともかく玲奈は学年通りの年齢のはずである。
もしかしたら彼女もTSした成人男性だったりとかあるかもしれないけど……うん、まあ、それはそれで別にいいかなと思う。
本当の玲奈となり替わった方法とか、なり替わった時期によっては追及しないとだけど、それは「男なのにわたしを騙していた罪」ではない。
「叶音。時間あんまりないけど通しでやる? それとも──」
「立ち位置と振付の確認をメインにしましょ。玲奈はキーボードだけに専念してもらっても大丈夫だし、あたしたちが三人用の振り付けで踊れるかどうかよ」
「センターは美桜ちゃんでいいんだよね?」
「わたしは恋か叶音がセンターでもいいと思うな」
なんだかんだでわいわいとやっているうちに時間が来て、わたしたちはカラオケ店を後にすることに。
そうして意気揚々と向かった大学のキャンパスは中学・高校の敷地とはまったく違う広さと洗練具合を持っていて、わたしたちはその迫力に圧倒されてしまった。