♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
さすが、大学の学園祭は規模が違った。
敷地の広さ。人の数。そのままの意味で桁違いで。
野外ステージにて行われたライブの客数も、体育館でやったライブとの声の通り方も全然違った。
他のグループはみんな大学生以上。
六歳以上の差は馬鹿にできない。素人がちょっと練習しただけだったとしても見た目の大人っぽさ、肺活量、人生経験から来る自信が違った。
何より彼女たちにとってはホームみたいなもの。
アウェーで歌うわたしたちには「場違いなんじゃないか」というプレッシャーが襲い掛かってきて、とても全力なんて出せなかった。
特に影響が大きかったのは叶音だ。
「……なにやってんのよ、あたしは!?」
一日目のライブが終わって企画担当さんから「良かった」と言ってもらった後、活気ある場所から離れたところで少女が声を上げた。
別に大失敗したわけじゃない。
歓声は上がったし、観客のみなさんも良かったと思ってくれただろう。ただ、きっと多くの人は「中学生だしこんなもんか」と思った。そう理解してしまったからこそ、わたしも叶音も「これは失敗だ」と判断した。
振り上げた拳を叩きつける先がないままゆっくりと下ろして、叶音はため息をつく。
「こんなところで立ち止まってなんかいられないのに」
悲痛な声が叶音の焦りを表していた。
わたしたちだって他人事じゃない。わたしだってライブ独特の熱気にあてられてパフォーマンスが低下したし、玲奈も慣れないシチュエーションに小さなミスをいくつもした。恋は興奮しすぎて先走ったところがところどころに見られた。
このままで明日、明後日を乗り切れるのか。
いや、そもそもわたしたちは「乗り切る」なんていうつもりでここに来たのか。
「皆さんはきちんと役割を果たされたと思います」
見届け役兼企画担当さんとの交渉役として来てくれたマネージャーさんが静かにそう言ってくれる。
叶音はふん、と笑って、
「mioとそのお友達、ってこと?」
「マネージャーとしての私はmioさんの知名度向上が成功したかどうかが最優先です。……でも、個人としての私はみなさんが、ううん、みんなは本当に頑張ったと思ってるよ」
「ありがとうございます、マネージャーさん」
わたしは彼女に微笑むと、叶音の肩へぽんと手を置いた。
「叶音。このまま負けっぱなしで終わったりしないよね?」
プライドが高くて向上心の強いこの子にはきっとこういう言い方が合う。
本当に自信喪失していたらもっと荒れているはずだし。
そして思ったとおり、叶音は涙を拭って、
「当たり前でしょ。同じステージで二度も同じミスはしない」
「だよね。でも、土日はもっと人が多くなるから注意しないとだよ」
「望むところよ。……今のままで足りないならもっと上手くなればいいだけでしょ」
立ちなおった叶音を見て玲奈と恋もほっと息を吐く。
「わたくしも次はもっと上手くやってみせます」
「ごめんね。私ももっと周りを見るようにするから」
「うん。わたしもちょっと天狗になってたかも。もっとガツガツ行かなくちゃ」
ライブの観客の多くは「中学校の文化祭を見に来た」わけでも「ライブを目当てに来た」わけでもない。
学園祭のついでにライブを見てみようか、程度のノリであって、その人たちを魅了するにはもっとクオリティかインパクトが必要だ。
腕は一朝一夕で上がらない。
なら、パフォーマンスがぐっと良くなったように工夫で魅せる。
「じゃあ、ちょっとだけ学園祭を見て周らない?」
「は? もう大して時間ないわよ?」
「だからだよ。明日からは余計に忙しいかもだし、今のうちに楽しんでおかないと」
「……はあ。もう、しょうがないわね」
文句を言いながらではあったものの叶音も同意してくれたので、わたしたちは終了時間までの僅かな時間を使い、屋台なんかを見てまわった。
「あはは、なんかお祭りみたいだねっ」
「ある意味ではお祭りですね。この雰囲気も近いものがあります」
狭い意味でのお祭り──縁日や例大祭なんかはこの世界だと多くが規模を縮小していて、屋台が大々的に出たりといった感じではなくなっている。
比較的向こうと同じ感覚で残っているのは花火大会とかだろうか。
あれは「綺麗だから」という理由で需要が多くて、女性の花火師さんが頑張って維持してくれている。そう考えるとじゃがバターとか焼きそばとかを食べられる機会もなかなか貴重だ。
「玲奈は地元のお祭りに顔を出したりするの?」
「ええ、母に連れられてご挨拶をすることがあります。……美桜さんも今度、ご一緒いたしますか?」
「ええ!? わ、わたしはいいよ」
「なに言ってんのよ。あんただって地元の有名人じゃない。次あたりから呼ばれてもおかしくないわよ」
それもお仕事ってことになるんだろうか。
と。
「あ。ねえ美桜、あの人格好良くない?」
「え? どの人?」
「叶音さん? 美桜さんに男性を勧めないでください」
「美桜ちゃんには私たちがいるんだからねっ!?」
「わかってるわよ。だから美桜に話振ったんじゃない」
わたしならイケメンを横取りされる心配がないからか。
ということは叶音の中では恋、玲奈はまだ「ころっと落ちるかも」枠なんだろうか。
それにしても普通の女子っぽい叶音の反応はなかなか新鮮──彼女の反応したイケメンとはどんな人か。
見るとカメラを構えたひねくれ系のイケメンが女子に群がられている。って、わたしの知り合いだった。
「鷹城さん、お疲れ様です」
「お前か。そっちこそライブご苦労だったな」
わたしが話しかけると鷹城さんに言い寄っていた女性陣が散っていく。
代わりに叶音がつんつんしてきて、
「なによ、知り合いなわけ?」
「うん。雑誌のお仕事で撮ってもらうことがあるんだ」
「なるほど。……初めましてっ! あたし、美桜の友達で相原叶音っていいます。あたしも結構被写体としてイケてると思うんですけどどうですかっ?」
この子誰だっけ。
あんまり見ない友人の豹変ぶりにわたしはドン引き。鷹城さんも「変な友達連れてくるなよ」みたいな目で見てくる。わたしのせいじゃないと思うんだけど。
「悪いが、女は間に合ってる」
「そうですか……。そうですよね。イケメン大学生なんて女の子食べ放題ですもんね」
中一女子からこんなワードが飛び出すとかほんとこの世界は。
「それにしても、子供はもう帰る時間だろ。補導されるぞ」
「言われなくても帰ります。お土産も買いましたし」
とりあえずじゃがバターとたこ焼きを堪能して焼きそばやお好み焼きを家族のために購入した。
「鷹城さんは明日明後日も学園祭に来るんですか?」
「まあな。サークルの奴らにも頼まれているし、仕方なく」
「じゃあ、わたしも撮ってくれたりしますか?」
「言われなくても撮ったし、時間があるなら近くで撮らせてもらう」
「いいですよ、じゃあまた」
軽く話して別れると、叶音が「むぅ」という顔をした。
「あの人も結局美桜のキープなわけ?」
「なにそのキープって。鷹城さんは仕事関係の知り合いで恩人なだけだよ」
「ふーん。……あーあ、あたしも早く有名になって男作りたいなあ」
そんなこんなで私たちは小百合さんたちの運転してくれる車で家まで帰った。
わたしたちがライブしている間に菖蒲さんが屋台を片っ端から食べ歩きした挙句、ナンパの仲裁(しつこい女子が男子に言い寄った件)を行って賞賛を集めていたらしいと聞いたのは帰り道でのことである。