♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
「もうすぐ夏休みだよっ。夏休みっ」
通学路。
後ろから僕に追いついてきた恋が挨拶を済ませるなり「夏休み」を連呼してきた。
確かに、夏休みまでは後二週間もない。
授業もだんだん消化試合というか、きりのいいところまで終わればいいか、みたいなノリになってきているけれど、
「どうしたの急に?」
「ほら、昨日夏休みの話してたでしょ。それで気分が上がっちゃって」
えへへ、と舌を出す恋。可愛い。
「泳ぎに行く予定も決まったもんね。わたしも楽しみ」
このところ気温も上がってきて本格的に夏って感じになってきた。
熱い日差しの中、水に入るのはさぞかし気持ちいいだろう。
ちなみに今のところ水着を使う予定は二回。クラスの女子半分くらいが集まってのプールと、恋・玲奈と三人で行く海水浴だ。
玲奈のツテで予約した海水浴場は「特に親しい方以外は望ましくありませんので」と僕たちだけということになった。代わりに地域で有名な大公園内にある大型プールにみんなで行くことに。
結果的に二回泳げることになったのはせっかくの水着を活用するうえでも好ましい。
と、恋は「それもあるけどっ」と声を弾ませて、
「夏は恋の季節だよっ。彼氏とかできちゃうかもっ」
「恋は秋とか冬になっても同じこと言ってそう」
夏は海でロマンチックな恋の予感。秋は紅葉の中でロマンチックな恋の予感。冬は雪の降る中、ロマンチックな恋の予感、みたいな。
「もう、テンション低いよ美桜ちゃん! 男子だってこの時期は勝負なんだよっ?」
「勝負?」
「夏休み中にデートをするためには、今のうちに恋人を作らなくてはならない……ということではないかと」
「あ、玲奈。おはよう」
「おはようございます。お二人でなにやら楽しそうなお話ですね?」
お気に入りの日傘片手に歩く玲奈と校門前で合流。
恋は友人の好意的な反応に気を良くしたのか「でしょ?」と笑って、
「男子から告白とかあるかもしれないよ。俺と付き合ってくれ、みたいな!」
「そういうのって中学生くらいからじゃないの?」
「美桜さん。恋をするのに年齢は関係ありませんよ?」
どうやら玲奈は恋の味方らしい。
僕としては「そうかなあ」という見解。
確かに女子はそうかもだし、男だった頃の高校にも長期休みの前とかバレンタインの前になるたびに「なんとか彼女を作ろう!」としている奴はいた。
でも、小学生男子なんて半分動物みたいなものだ。遊ぶことに夢中で恋なんて眼中にもないのが普通、恋愛に熱を入れている方が珍しいと思う。
「っていうか美桜ちゃんが一番チャンスあるんだからね? 読者モデルとかできちゃうくらい可愛いんだから」
「でも、わたしが男子だったら恋に告白するけどなあ」
「えっ、わ、私!? 本当、美桜ちゃんそれ本当?」
「もちろん本当だよ。恋は可愛いから」
対して恋には「私、可愛いです」と宣言して歩いているような明るさがある。誰とでも分け隔てなく付き合えるタイプなので声をかけやすい=告白もしやすい。
「美桜さん。わたくしでは駄目ですか?」
「もちろん玲奈は可愛いけど、どっちかっていうと美人タイプじゃない? お嬢様だし、告白するのはちょっと勇気がいるかなって」
「美桜さんでしたらいつでもOKいたしますけれど……」
「玲奈、わたしがもし男の子だったらの話だからね?」
などと言っている間に下駄箱に到着。
上履きに履き替えるため自分のところを開いて──。
「あれ?」
中には上履きと一緒に見覚えのないものが入っていた。
薄くて四角いもの。端をつまんで取り出すと、それはなんだか妙にファンシーなくまさん柄の洋封筒。
表面には男子っぽい角ばったところのある字で「香坂美桜様」と宛名が書かれている。
「これって……」
果たし状。罵倒。苦情。人違い。行ってみたら別の子に対する恋の相談をされる。
マンガやアニメで見た各種パターンをついつい思い浮かべた僕は、手元を覗き込んできた恋の歓声に耳をやられそうになった。
「ラブレターだ!」
◇ ◇ ◇
「絶対男の子からだよ」
「絶対に男の子からですね」
恋が大きな声を出したせいで登校してきた他のクラスメートにも聞かれてしまった。
結果、僕は教室に着いて湊へ挨拶をするなりクラスの女子たちに囲まれ身動きが取れなくなってしまう。
湊はと言えば、興味なさそうに自席に座ったままスマホをいじっている。今、この時ばかりはみんな男子よりも僕が優先らしい。
もしラブレターだとして、差出人が湊だって可能性は……ないか。ないな。
「でも二人とも。男子がこんな可愛いの使うかな?」
僕は、僕から一番近いところで「わくわく」している恋と玲奈へ反論する。
封筒はさっきも言った通りファンシーなくまさん柄だ。
普通に考えて男子が好むとは思えないんだけど、
「甘いよ美桜ちゃん。女の子だったらこんないかにも可愛いやつは使わないんだよっ!」
「そうです。この手の柄は三、四年生くらいまでで卒業するもの。友達同士の手紙ならともかく、ラブレターにこんな柄を選ぶのはむしろ男子のセンが濃厚です」
「じゃあラブレターじゃなくて下の学年の女の子からなんじゃない?」
「もちろんその可能性はありますが……。正解は開けてみればわかるのではないかと」
確かにその通りだ。
みんなも期待しているようなので、さっそくラブレターを開封することに。
……こういうのって一応、差出人からしたらけっこう手間をかけているわけで、無造作にぺりぺり開けるわけにもいかないはず。
ペーパーナイフなんて気の利いたものはさすがに持っていないのでカッターナイフで代用し、慎重に封を開けた。
中には便箋が一枚。
封筒とセットになっていたものなのか、柄は同じくまさんだ。
「美桜ちゃん、誰から? ねえ、誰から?」
「えっと……」
子供ながらに一生懸命書いたのが伝わる文字列に僕は目を落とそうとして──二つ折りになっていた便箋をもう一度閉じる。
「ねえ、恋? 恋がラブレターを出したとして、それを友達同士で回し読みされたらどう思う?」
これは僕一人で読まないといけないんじゃないか。
尋ねると親友は「……そうかも」と不本意そうに、本当に不本意そうにしながら頷いた。
「でもそれだと私が楽しくないよ!」
いっそ潔い主張。
食い下がろうとする恋の肩に玲奈が手を置いて、
「諦めましょう、恋さん。美桜さんの言うことももっともです」
「玲奈ちゃん……」
これにはさすがの恋も「しょうがないなあ」と折れた。
恋愛大好きな親友を説得してくれたもう一人の親友に「ありがとう」と微笑むと、彼女は「お気になさらず」と微笑を返してきて、
「代わりに概要だけでも後で教えてくださいね?」
「……はい」
残念ながら、他の女子に見つかってしまった時点で噂が広まるのは確定だったらしい。
まあ、本文をそのまま回し読みされるよりはマシ。
僕は差出人に申し訳ない気持ちと「仕方ないから諦めてくれ」という気持ちを抱きながら、手紙と鞄を持って一人になれる場所──女子トイレの個室に向かった。
ラブレターを読む場所がトイレっていうのもアレかもだけど、他の場所だと人が多いから仕方ない。鞄を持ってきたのは読んだ後でしまえるようにだ。
さて。
「ラブレターじゃない方がむしろ安心なんだけど……」
便箋に綴られていたのは一学年下の男の子の、僕への素直な想いだった。