♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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美桜と少年マンガ(その1) 2016/8/19(Fri)

「旅の果てに待っている宝物がなんなのか謎にしておくのはどうでしょうか」

 

 この子、本当に小学生なの……?

 今期のマンガ賞『銀賞』受賞作。その担当になった私は連載化に向け、作者である高校生の男の子との話し合いに臨んだ。

 正直、最初はちょっと浮かれていた。

 編集者二年目。忙しくて恋愛を頑張る余力はない。そんな時に命じられたのが若い男の子の担当だ。もしかしたら手を出してもらえるかもしれないとか夢を見た。

 

 ただ、実際に会ってみると彼は女性に興味がなさそうで、しかも小学生の美少女を一人連れていた。

 

「初めまして。mio──香坂美桜です」

 

 原案者の話は聞いていた。

 本誌にも名前を載せたし、話し合いに連れてきて欲しいとも頼んだ。

 でも、まさか本当にこんな小さな子が来るなんて。

 恋人同士? いや、そんなわけないか。mioは着飾っているけど浮かれた様子はない。むしろ慣れない場所に緊張している。

 彼から話を聞いて事前チェックした通りの容姿。羨ましいくらいの美少女ぶりは読者モデルなのも納得だけど、この子が本当にマンガのアイデアを?

 疑った私は確かめようと少し意地悪な質問をした。

 

『連載化にあたって何かアイデアはありませんか?』

 

 必要な質問ではあるけれど、受賞したばかりのタイミングではたとえ作者でも「先のことはまだ……」となりかねない。

 原案を出しただけの他人ならなおさら。

 なのに、mioはまるで予想していたかのようにさらっと意見を口にした。

 

「誰も見たことがない秘宝。だからこそみんな憧れますし、読者もその正体がなんなのかいろいろ予想します。これは作品に興味を持ってもらう鍵になると思うんです」

「さすが美桜ちゃん」

 

 作者の彼も信頼しているのか特に驚いた様子はない。

 それとも二人で前々から話し合っていたのかも。

 ぽかん、としてしまった私は、はっと我に返って、

 

「mioさんは応募作にどの程度関わっていたんですか?」

「原案だけです。ストーリーは一緒に相談しましたけど、細かいキャラクターのデザインや設定はお兄さんが決めました」

「そこもいろいろ相談に乗ってもらったけどね」

「わたしじゃマンガ映えするデザインはわかりませんし。読者視点であれこれ言うことはできますけど」

 

 私は舌を巻いた。どうやらこの二人は歳の差も性別の差も関係なく言い合える間柄らしい。

 mioは作者を尊重しているし、作者も最終決定権が自分にあることを理解したうえであれこれと相談し、作品をより良くしようと努力している。

 編集部が引き合わせただけのコンビではなかなかこうはいかない。

 男性作家は特にこだわりの強い人が多いので、それに合わせられる原作者は貴重だ。mioは原作じゃなくて原案だけど。

 

 ──この子、他社の読者モデルなんだよね。

 

 期待の新人コンビの片割れが小学生の美少女。

 宣伝したら話題になるのは間違いない。初期からこの方向で打ち出すと色物扱いされるかもしれないし、最初は実力で勝負したほうがいいと思うけど、連載が始まってある程度知名度を得られたらmioへのインタビュー記事とか載せてもいいと思う。

 そうなったら他社とのすり合わせが必要だ。

 今日のところはmioも「お兄さんの付き添いできただけなので」と先方には特になにも言っていないらしい。この先、付き合いを続けていくならその辺りもきちんとしなければ。

 

 というか、

 

「旅の仲間も重要になると思いますが、どんなキャラクターがいいか思いつくものがあれば挙げてもらえますか?」

「やっぱり船ですから船長を支えるクルーでしょうか。航海士、船医、コック、切り込み隊長、参謀……あとは音楽家とか」

「それだとヒロインが航海士かな?」

「航海士でもいいですし、別にいてもいいと思います。ヒロインの役割を投稿作と変えて、秘宝を手に入れる鍵を持っていることにするとか。ベテランのおじさん航海士から最初はいろいろ教わっているけど、彼が途中で亡くなって後を引き継ぐとかでも」

 

 これはほぼ間違いなく長い付き合いになる。

 ぺらぺらとアイデアを喋り出すmioを見て、私は「次回も来てもらおう」と心に決めた。連載を始めるにあたって大事なのは決め打ちせずにいろんな可能性を話し合うことだ。パターンを絞り出せる人間は貴重だし、作者もイエスマンにならずいろいろ言える関係はもっと貴重だ。

 ひょっとすると将来、雑誌の看板になったりするかもしれない。

 思った以上に白熱する話し合い。長くなりそうなのでいったん休憩を挟むと、それを見た編集長が私を手招きして、

 

「あの女の子、読モなんでしょ? うちのファッション担当が後で名刺渡したいって」

 

 これは私、思ったよりもファインプレーだったかもしれない。

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

「わたし、好き勝手に喋っちゃいましたけど迷惑じゃなかったですか?」

「全然。美桜ちゃんに来てもらってよかったよ。おかげでいろいろ話が進んだし」

 

 出版社を午前中から訪れたのに、終わった時には日が暮れ始める直前だった。

 思った以上に話し込んでしまった。

 編集部に併設された会議室での打ち合わせ。最初は緊張していたけど、気づいたらマンガの話に夢中になっていた。

 ちなみに編集部はタバコ臭くて物が散らかっている、という勝手なイメージとは違って禁煙だったし、ほとんどが女性だからか多少散らかってはいても見栄えに気を遣われていた。花とか飾ってあったし。

 

「お礼に甘い物でも買って帰ろうか」

「いいんですか? お昼も奢ってもらっちゃったのに」

「あれは編集さんが払ってくれたんだよ」

 

 言うが早いかお兄さん──クラスメートである橘ほのかの兄で高校生、マンガ志望でこの度めでたくデビューの決まった彼は、タクシーの運転手さんにおススメのスイーツ店へ寄ってもらうよう伝えてくれる。

 

「美桜ちゃんは甘い物だと何が好きなの?」

「えっと、その……甘い物はなんでも好きです」

 

 言ってて恥ずかしい。ただ、今のところ甘味で「これはダメ」というのに当たったことがない。

 お兄さんは特に気にした様子もなく「そうなんだ」と笑って、

 

「じゃあ、もう少ししたら最高の季節かな。栗もサツマイモもあるし。モンブランとか焼き芋とか」

「栗に芋とかぜったい食べ過ぎちゃうじゃないですか」

 

 美桜になってから芋は好物の一つだ。

 食べ過ぎると太るとわかっていてもあいつらはポテンシャルが高すぎる。じゃがいもはおやつやおかずにもなるし、サツマイモは甘い分おかずには向かないもののデザートとして優秀だ。

 栗とか味的にはサツマイモの仲間、高級感では圧倒的に格上なわけで、モンブランとか出されたら年甲斐もなくはしゃいでしまいそうだ。

 

「ほのかも甘い物好きですか?」

「好きだよ。あいつは意外と和菓子が好みかな。どら焼きとか羊羹とか」

「じゃあ、わたしと合わせると栗羊羹ですね」

 

 運転手さんによるとこの時期にはまだ発売していないということで、普通に洋菓子店でケーキを買って帰ることにした。

 男子高校生だった頃はあまり縁のなかった店だ。

 甘い物好きになり、さらに美少女になった今は店内にいても変に思わないだろうし、ショーケースに並べられたケーキたちが宝の山に見える。

 

「そうだ。店員さん、ホールで買って帰れますか?」

「って、お兄さん、そんなにたくさん買うんですか……!?」

「俺やほのかも食べるし母さんもいるから大したことないって」

 

 どれにするかは選んでいい、と言うのでお言葉に甘えさせてもらう。

 前だったらノータイムでチーズケーキだったけど、ここは王道のショートケーキをチョイス。

 店員さんが箱に入れてくれるのを見るとやっぱりホールはなかなかのサイズだ。

 橘家に戻ったあとほのかとお兄さんと三人で一ピース──八分の一ずつ食べた後「俺たちは一個ずつでいいから」と半ホールもお土産にもらってしまった。

 

「なんだか悪い気がするんですけど……」

「気にしなくていいよ。むしろケーキくらいで手伝ってくれるなら安いものだって」

 

 やっぱりお兄さん、女性関係でトラウマなかったらモテモテなんじゃないだろうか。

 僕は僕で名刺とかもらってしまったので個人的にも得してるんだけど、ここは子供の特権ということでお言葉に甘えさせてもらった。

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