♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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美桜と運動会(その1) 2016/9/26(Mon)

 香坂と一緒に走ることになるなんて。

 運動会は嫌いじゃない。活躍するとみんなが褒めてくれるし、こういう時は男も女も関係ないからだ。

 だから、うるさい奴に邪魔されたくない。

 運動会が二週間後に迫った月曜日の放課後、僕はメンバーと一緒にリレーの練習で居残りをさせられることになった。

 

 もちろん香坂も一緒だ。

 

 恋はギリギリでメンバーに入れなかった。西園寺はあまり足が速くないから、あいつはいつも一緒な二人と分かれたことになる。

 どうするのかと思ったら他の女子に「頑張ろうね」と話しかけられて普通に笑顔で応じていた。

 僕も女子も体操着姿。

 香坂は髪をひとつにまとめて、ポニーテール? にしている。まだ少し暑いから半袖で、肌が出ているところには日焼け止めを塗ったとか話しているようだ。

 女子っていうのは本当に面倒くさい。

 

「?」

「っ。なんだよ?」

「ううん、別に」

 

 じっと見ていたら目が合ってしまった。

 なにか言われるかと思ったらすぐにふっと目を逸らしてしまう。

 やっぱり、調子が狂う。

 大人しい分には問題ないんだけど。

 

「とりあえず、バトンを渡すところだけ練習してみましょうか」

 

 先生の指示でいろんな組み合わせを試してみる。

 僕が香坂に渡す番もあった。そこまで香坂は真面目に練習していて、特に変なことをしてきていない。この調子なら意外と普通に進められるかと思ったら、バトンを渡す直前でまた目が合って、何故か手元が狂った。

 何度か試してみたけど結果は同じ。

 一回目で失敗したのがよくなかった。なんか妙に意識してしまって上手くいかない。

 

「逆だったらどうかしら」

 

 と、今度は香坂から受け取るほうを試す。

 あいつは僕から少し離れてバトンを持つと、なにか考えるようにしてから、

 

「行くよ、燕条君」

 

 バトンはあっさり僕の手に収まった。

 失敗すると思っていたからうまく走り出せなかったけど、二回目に試したら普通に成功。

 

「さすが香坂さん」

「湊くんと相性いいんじゃない?」

 

 僕もこっちのほうが気が楽だ。

 待っている方が相手が誰か意識しなくて済む。案山子が近づいてくる、くらいに思っておけばいい。

 練習をもとに仮の順番が決められて通しで練習してみる。けっこういい感じだ。

 

「このままの順番で決定しましょうか?」

 

 先生が言うと、クラスで一番足の速い女子が異を唱える。

 

「ちょっとだけ物足りないっていうか、もっと速くできないかな。香坂さんはどう思う?」

 

 香坂も足が速い。クラスだとたぶん二番目だ。あいつは「そうだね」と悩む様子もなく答えて、

 

「燕条君が最初に走る方がいいかも」

「どうして?」

「差がついた時点で諦める子もいるでしょ?」

 

 一番速い奴が最初に走ればプレッシャーで他のチームを遅らせられる。

 理屈は確かにそうだけど、えぐい。

 前の香坂なら「湊くんの前か後ろがいい!」くらいしか言わなかったと思う。思ったよりのガチの発言に戸惑った様子の女子もいる。

 

 ──でも、けっこういいじゃないか。

 

 真面目に頑張る気があるなら別に香坂がいても構わない。

 

「僕もそれでいいと思う。……勝てるかはわからないけど」

「じゃあそうしようか。でも、アンカーも重要だよね?」

「そうだね。逆に勝てると思って油断する子もいるかもだし」

 

 逆転するなら最後が狙い目。

 話し合った結果、女子で一番速い奴がアンカー、僕が最初で香坂が二番目ということに、

 

「って、これ駄目だろ。また失敗するって」

「燕条。最初から失敗するつもりでやらないでよ」

「だって。さっきの見てただろ?」

「じゃあ、わたしが一番で燕条君が二番目にする?」

 

 香坂がそう言ってくれたおかげで話は落ち着いて、僕は少しだけほっとした。

 欲を言えば、そりゃきっちり離れたかったけど。

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 なんというか、湊はわりと世話が焼ける。

 僕にバトンを渡そうとするとあいつは何故か失敗するらしい。リードでミスしているわけじゃないので向こうのミスだと思うんだけど、僕にはどうしようもない。

 逆に湊が受け取りやすいように渡し方や走るスピードを工夫するのはうまくいった。

 別にどっちだって大して変わらないと思うんだけど、そこは女子ばっかりのところに交ざることになった男子の辛いところか。息を合わせるだけでも一苦労なんだろう。

 

 初日の練習を終えて、次の練習は二日後ということに。

 

 毎日練習があるわけじゃない。今時、習い事をしている子も多いし放課後に居残りなんて流行らない。校庭を使いたいクラスが多いのもあって、放課後の活動は無理のない範囲で、ということになっている。

 僕も二学期から習い事を始めたので正直助かる。

 読者モデルのほうは休日に撮影を入れてくれるので今のところ問題ないけど。

 

「香坂さん」

 

 練習を終えてひと息ついていると、普段あまり話す機会のないクラスメートから声をかけられた。

 お洒落とか恋愛より身体を動かすほうが好きな子。

 女子における運動能力ナンバーワン、水泳の時も僕と勝負をした彼女が傍に立っていて、

 

「香坂さん、本当に変わったよね」

「そうかな?」

「そうだよ」

 

 中身が別人だということに気づかれるわけにはいかない。

 なるべく平然と答えると彼女はふっと笑って、

 

「もっと体育でも頑張ればいいのに。その方が私も楽しいし」

「わたしは十分頑張ってるよ?」

「そうかなあ。まあでも、香坂さんは忙しいもんね」

 

 ちょっと挑発的な口調。

 彼女は本当に僕に立ちはだかって欲しいのかもしれない。でも、彼女の言う通り僕にはやりたいことがたくさんある。

 一つのことだけに力を注ぐのももちろんすごいけど、どうせならいろんなことをやってみたい。

 

「それとも、燕条のことが気になってそれどころじゃない?」

「それはないから安心して」

「だよね」

 

 意外にも彼女はあっさりと信じてくれた。

 

「見てればわかるよ。今の香坂さんは本当に興味なさそうだから」

「そう見える?」

「私にはね」

 

 あんまり話さないけど、案外悪い子じゃないのかもしれない。

 単に僕──というか美桜とは性格が違うだけ。なにかきっかけがあれば普通に話せる。

 僕たちはその後、なぜかお正月の駅伝の話(こっちだと女子選手が頑張ってるらしい)をしつつ一緒に更衣室に戻った。

 

 運動会まではあっという間に時間が経って、

 

「はい、美桜。美空。お弁当、忘れずに入れてね」

「美桜、応援してるからね!」

 

 僕は運動会当日を迎えた。

 今日は妹も登校するので二人一緒に学校へ行く。一緒に行くときは手を繋いでいくのが定番になっていた。妹は僕と一緒なのが嬉しいのか朝から上機嫌だった。

 お母さんが早起きして作ってくれたお弁当はしっかり鞄に入れた。お昼休憩では残念ながら家族と一緒には食べられない。なので味の感想は帰ってからゆっくり言うことにする。

 

「お姉ちゃんは手伝わなかったんだ、お弁当」

「あんただって料理ぜんぜんできない癖に」

「そうね。美桜もそろそろ練習してみる? 美姫はぜんぜん上達しないから諦めようかと思っているけど」

「うん、考えておくね」

 

 お母さんにはひとまずそう答えて、僕は妹の手を取り家を出た。

 危なくないよういつもよりゆっくりと。

 夏場重宝した日傘を差して歩くと、美空は「大袈裟だよ」と少し恥ずかしそうにしつつも逃げ出したりはせず、僕の手をずっと掴んでいた。

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