♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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美桜と運動会(その2) 2016/10/9(Sun)

 その日、私は朝から張り切っていた。

 仕事のために早起きするのは慣れっこだけれど、この日の早起きはちょっと違う。あらかじめ買っておいた具材や調理道具と共にキッチンで大勝負だ。

 

「母さん、張り切りすぎてまた失敗するなよ」

 

 音につられたのか息子が起きてきて半目のまま言った。

 眠そうだ。昨夜もまた夜更かししていたんだろう。誰に似たのかと言えば、まあ、間違いなく私だと思う。

 服作りも文章も、自分には才能がないと見切って編集の道に進んだ私としては、夢を諦めずマンガ家としての第一歩を踏み出した息子を素直に誇りに思う。

 万年反抗期というか、男の子らしく素直じゃないこの子は褒められても「やめろよ」と言うだけだけれど。

 

「ほのかは?」

「寝てるよ。まだ寝かせておいてやらないとな」

 

 妹思いのいい兄だ。

 女性関係でいろいろあったらしいこの子もほのかに対してだけは優しい。本当、いい子に育ってくれてよかったと思う。

 いや、もう一人、この子が普通に相手できる子がいたか。

 美桜ちゃんも今日はほのかと同じで勝負の日だ。私としてはほのかの分と一緒に彼女のお弁当も作ってあげたいくらいだ。

 

「母さん料理下手なんだから無理するなって」

「じゃあ、失敗しないように手伝ってくれる?」

「まあいいけど」

 

 息子は私の帰りが遅い日などに自主的に料理をすることがある。

 本人曰く「将来食べるものに困らないため」。

 男の子なんだから料理の上手い彼女を作れば解決するのに、こういうところは少し困ったものだと思う。

 

「で、何作るんだよ?」

「トンカツとタコさんウィンナーとニラレバと、あと卵焼き?」

「女子小学生は喜ばないぞ、それ」

「どうして!?」

 

 トンカツは勝負事の定番だし、足の多いタコや足の速いニラはゲン担ぎにいいと思ったのに。

 息子は「だから母さんは料理下手なんだよ」とため息をついて、

 

「弁当は彩りが重要なんだ。赤や黄色、緑なんかをバランス良く配置すればそれだけで楽しいし、栄養バランスもある程度取れる」

「勉強になります」

 

 結局、匂いの強いニラやレバーはナシに。トンカツも止めて肉はタコさんウィンナーに担当してもらうことになった。

 タコさんは茶色枠なので赤色としてプチトマト、オレンジ色としてニンジンのグラッセ、緑色に茹でたブロッコリーを入れ、海苔をトラックの線に見立ててご飯の上へ敷く。黄色は卵焼きの担当だ。

 

「母さん、昔から卵焼きだけは天才的だからな」

「失礼な。他の料理だってできます」

 

 お弁当が完成する頃にはほのかも起きてきた。

 仲良く厨房に立っている私たちを見て「そんなに頑張らなくてもいいのに」と微妙な顔をする愛娘。運動が得意じゃないので運動会は憂鬱らしい。

 でも、結果がどうこうじゃなくて子供の頑張りを応援したいのが親心。

 兄心も似たようなものなのか、息子は笑って、

 

「別に一番なんて目指さなくていいって。怪我しないように頑張って、後は友達の応援してろ」

「友達……」

「美桜ちゃん、リレーに出るんだろ?」

 

 美桜ちゃんの名前を聞くと娘の表情がふっと緩んだ。

 

「うん。ありがとう、お兄ちゃん。お母さん」

 

 息子と娘の両方から気にかけられているとは、美桜ちゃんも罪作りな子だ。

 

「私たちも応援に行くからね」

「え、来なくていいよ」

「そう言うなって。たまにはいいだろ」

 

 女の子の多いところにこの子が自分から行きたがるなんて。

 私はついニヤニヤしながら、ほのかが「しょうがないなあ」と折れるのを見守った。

 

「でも、私に話しかけないでね? 後で困るのはお兄ちゃんだよ?」

「わかってる」

「私はこっそりほのかと美桜ちゃんの写真撮ってるから」

 

 美桜ちゃんの晴れ姿を見られるのも楽しみの一つだ。

 笑顔で言うと、ほのかは「本当はそっちが目当てなんじゃないの?」と微妙な顔をした。

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 運動会。

 美桜ちゃんは間違いなくクラスのエースの一人だった。

 徒競走では惜しくも二位だったけど、全員参加の玉入れでもたくさん玉を入れて大活躍。種目に出ていない時も盛り上げ役になってみんなを助けていた。

 

「美桜ちゃん美桜ちゃん。なんかいっぱい撮られてるねっ?」

「わたしなんか撮ってもしょうがないのにね」

 

 しょうがないなんてことはない。

 生徒はスマホ禁止だから撮れないけど、そうじゃなかったら私だって撮りたい。たぶんクラスのみんなだってそうだと思う。

 美桜ちゃんは体操服姿でも可愛い。

 日焼け防止のために日傘をさしているのも、お嬢様の玲奈ちゃんとはまた違う良さがある。私じゃこんなに可愛くはならないと思う。

 ……って言うと、美桜ちゃんは必ず「そのうちみんな恋の良さがわかるようになるよ」なんて言って褒めてくれるんだけど。

 

 美桜ちゃんが撮られてるのは間違いなく読モ効果だ。

 雑誌が発売されるたびにつぶやいたーやリンスタで「可愛い」って話題になって、じわじわ人気が上がってきている。

 さすがにテレビの人とかは来てないっぽいけど、応援に来たついでに美桜ちゃんの写真も撮っておこう、っていうお母さんやお姉さんはけっこういた。

 特に熱心な女の人はやけに立派なカメラを持っていて「変な人じゃないよね?」って思ったら「わたしがお世話になってる編集さん」だって。

 

「じゃあ、運動会の写真も使われるのかなっ?」

「さすがにないんじゃないかな。学校にも許可取らないといけないだろうし」

 

 お昼休みにお弁当を食べながら、後は種目の間にいろんなお喋りをした。

 美桜ちゃんのお弁当はお母さんが作ってくれたらしい綺麗でお洒落なお弁当、玲奈ちゃんのはプロの料理人が作ったどこかで売ってそうなやつ。

 私がお母さんと作ったお弁当じゃ普通過ぎだかと思ったけど、二人は嬉しそうに、それから楽しそうにおかずを交換してくれた。

 

 美桜ちゃん関係と言えば、美人なお母さんとお姉さんも応援に来ていた。

 モデルをしているお姉さんももちろん大人気で「サインください!」と何人もの人に囲まれていた。嫌だと思っても仕方ないのに笑顔で対応していて「プロってすごい」と感心する。

 

「私もサインもらえないかなあ……」

「恋は今日じゃなくてもいいんじゃないかな。うちに来ればお姉ちゃんに会えるし」

「そんなことしていいの……!?」

「美桜さん、わたくしもご一緒しても……?」

 

 美桜ちゃんが「もちろん」と頷くので、この機会はぜったい逃がしちゃいけないと遊びに行く約束をしっかりとしておいた。

 今までは意外と美桜ちゃんの家に遊びに行ったことがなかった。でも、美桜ちゃんのほうから誘ってくれたんだし遠慮しなくてもいいはず。私は今からその時が楽しみになった。

 

 運動会には高校生くらいの格好いいお兄さんも来ていた。

 当然、いろんな女の子人からきゃーきゃー言われて囲まれている。男子は鬱陶しそうにそれを見ていて、女子の一部も恨みがましそうな顔をしていた。

 クラスの橘さんとか、大人しい子なのに顔をしかめてて──実は年上好きだったりするのかな?

 

「ねえ、美桜ちゃん。あのお兄さん誰だか知ってる?」

「ううん、ぜんぜん。格好いいとは思うけど」

 

 美桜ちゃんは意外と年上好きなのかな。

 そう言えば前に告白された時も「好きな人がいる」って断ってたっけ。あれ、これは怪しい?

 

「ねえ美桜ちゃん。他に仕事関係で会った男の人とか──」

「あ、ごめん恋。そろそろリレーの準備だから行くね」

 

 残念、逃げられてしまった。

 美桜ちゃんに続けて湊くんたちも立ち上がる。リレーは運動会の目玉だ。

 私たちの赤組はちょっと負け気味。リレーの結果によっては勝敗に関わるかもしれない。

 

「頑張れ、美桜ちゃん!」

「美桜さん、ご武運を」

 

 私や玲奈ちゃんも必死に応援する中、美桜ちゃんは五年生と六年生でのレース、一人目の走者として出場した。

 速い。

 六年生も交ざっている中、二位をキープする大健闘。次の走者の湊くんとも息ぴったりで、

 

「後はお願いね、燕条君!」

「……ああ、任せろ!」

 

 綺麗な音がここまで聞こえてきそうないいバトンパス。

 湊くんが前の人を抜いて一位に。三人目で二位に戻って、アンカーにバトンが渡る頃には三位にまで落ちちゃってたけど、クラスで一番速いアンカーの子が頑張って順位を二位に戻した。

 一位も赤組だったので、ここで点数が逆転。

 

「お疲れ様」

「ありがとう。……香坂さんが最初に頑張ってくれたお陰だよ」

 

 美桜ちゃんとアンカーの子は終わった後で握手していた。

 じゃあ湊くんとも、と思ったら二人はお互いにちらっと目配せをして、

 

「お疲れ」

「燕条君もね」

 

 もっといろいろ話せばいいのに。

 でも、こういうのが二人には合っているような気もする。

 私は美桜ちゃんの好きな人を聞きだそうとしていたのも忘れて「やっぱり美桜ちゃんには湊くんなのかな」と思った。

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