♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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美桜と調理実習 2016/10/19(Thu)

「次の家庭科の時間は調理実習を行います」

 

 調理実習。

 食欲の秋だからか、それともたまたまか。

 香坂美桜になった僕に料理の機会が舞い込んできた。

 

 メニューはご飯と味噌汁。

 

 シンプル。けれど、普段白米なんて炊飯器頼りが普通。味噌汁をインスタントで済ませる家庭もあるだろう。いざ「やってみろ」と言われるとなかなか難しい。

 僕の料理経験はほとんどゼロ。

 高校までの調理実習もなんとかやり過ごした、というレベルでまったく威張れる腕前じゃない。もちろんまったくできないよりはマシだと思うけど。

 

「班分けは三人から五人くらいで自由に分かれてください」

「やった。美桜ちゃん、玲奈ちゃん。一緒にやろっ?」

「恋がついていてくれるなら百人力だよ」

「ええ。勝ったようなものですね」

 

 料理のできない僕と玲奈は頼もしい戦力に笑みを浮かべる。

 自分でも極力頑張るとしても、経験者がいれば失敗を減らせる。

 

「お味噌汁の具も自由なんだって。なにがいいかな?」

「そう言われるとなかなかに難問ですね……」

 

 きのこたけのこ論争や「名前を言ってはいけない和菓子」論争ほどではないにせよ派閥が分かれそうだ。

 

「わたしは豆腐とネギが好きかな」

「私はなめこのお味噌汁が好き!」

「わたくしはにんじんや大根など具だくさんのお味噌汁が好みです」

 

 さらに言えば味噌にも種類がある。

 話が脱線して「我が家のお雑煮の具材」にまで話が飛んだところで班決め・味噌汁の具材決めをそろそろ終わらせるように先生から指示。

 

「お味噌汁だけでご飯食べるんだよね。そうだ、じゃあ豚汁にしようよ!」

「確かに豚汁もお味噌汁と言えばお味噌汁ですが」

「初心者に作れるのかな、豚汁って」

「大丈夫大丈夫! じゃあ具は豚肉と大根と人参とじゃがいもと──」

「あ、せっかくですからバターも欲しいところですね」

「あ、玲奈は洋風派なんだね」

 

 具材や調味料、道具は分担して持ち寄ることに。

 

「楽しみだねー。七味もかけて、美味しい豚汁を食べようねっ」

「わたくしは少し予習をしておきたくなってきました」

「私も。せめて作り方だけでも頭に入れておきたいかも」

「なあ」

 

 これでもう決めることはないなと話を終わらせようとしたところで、

 

「あのさ。僕も入れてくれないか」

 

 意外なやつが意外なことを言ってきた。

 

「湊くんっ? 大歓迎だけど、どうして?」

「別に、他の班に入れなかったからだよ」

 

 言われて見ると、他の班の面々が互いに牽制し合いながら「美桜ちゃんのところじゃ仕方ないか」という顔をしていた。

 なるほど、勧誘合戦が激しすぎて逆にどこも入りづらかったのか。

 ほのかはクラスの大人しい子のグループ。あそこならある意味平和だろうけど、男子一人で入っても手持ち無沙汰になりそうだ。

 

「じゃあ一緒にやろうか、燕条君」

「ああ、頼む。……って、なんで香坂が仕切るんだよ」

「うん、まあ、わたしも恋頼りなんだけど」

 

 こうして僕たちの班は四人になった。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

「調理実習かあ。美桜、大丈夫? 怪我だけはしないようにね?」

「大丈夫だよ。気をつけるし、基本くらいはわたしだってわかってるから」

 

 猫の手を作って見せたところ美空が「可愛い!」と言い出して脱線しかけたものの、いちおうある程度は信用できそうだ、と納得してもらえた。

 お母さんはふむふむとメニュー、持って行く材料などのメモを見て、

 

「可愛いエプロンあったかしら」

「エプロンなんてなんでもいいよ?」

「なに言ってんの。読モがダサいエプロンつけてたら格好付かないでしょ」

「学校の授業なんだから読モは関係ないよ」

「でもお姉ちゃん、可愛いエプロンのほうが楽しいよ?」

 

 美空の意見に「それもそうだね」と頷いたら「あんた、ほんとに美空に甘いんだから」と文句を言われた。そりゃ姉と妹じゃ対応が違って当然だ。

 

「でも、可愛いエプロンってどんなのかな?」

「まあ、まだ小学生だし、そんなに格好つけなくてもいいと思うけど。あんたの趣味だとあの白い鳥とか?」

「シマエナガかあ。エプロン、あるかなあ」

「なかったら作っちゃいましょう」

「エプロンって作れるの……!?」

「いや、家庭科で裁縫の授業もあるでしょ」

 

 図柄がわりとシンプルだから作りやすいし、今は転写系のグッズも豊富だから意外と簡単らしい。

 

「なんなら知り合いのセミプロに依頼すればいいしね」

「そこまでしなくても」

 

 した。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

「わ、美桜ちゃんそのエプロン可愛い!」

 

 僕のシマエナガエプロンは女子に大好評だった。

 先生でさえ「それ、どこで買ったの?」と興味深そうに聞いていたくらいだ。

 

「ありがとう。その、お母さんたちがちょっと張り切りすぎちゃって」

「お前な、調理実習だぞ。エプロンで遊ぶ会じゃないんだからな」

「わかってるよ。そっちもちゃんと予習してきたんだから」

「わたくしも準備は万端です。いざ参りましょう」

 

 調理実習を行うのは家庭科室だ。

 火や刃物を使う時は細心の注意を払うようにと先生からの指示。

 家庭科室の調理台もIHになっていて火は出ない仕様だったけど、それだって加熱中に触れば火傷する。

 

「ふざけたら怪我するからね? 料理の時は真面目にやらないと駄目だよっ?」

「すげえ。恋が真面目なことを言ってる」

「普段は恋さんが一番不安ですのに」

 

 料理番長? の恋のおかげでうちの班の作業はてきぱきと進んだ。

 四人いるので作業は分担できる。具材を切ったりお米を研いだりはなるべく僕たちが担当し、恋には火加減など重要な部分を監督してもらった。

 特に大きな失敗もなく着々と進んでいく工程。

 湊がぽつりと呟いて、

 

「マンガとかだとたいてい、ものすごく下手なやつがやらかすんだよな」

「ああ、あるある」

 

 こっちでもそのテンプレは健在か。

 

「味見したらあそこまでにはならないと思うんだけど」

「もはや能力だよな、あれ」

 

 片手間の会話だからか意外と話が弾んだ。

 湊とはこのくらい適当というか、気の置けない距離感のほうが上手くいくのかもしれない。

 

「お前、ほんと変わったよな。前だったら変なこと言ってきてただろ」

「変なことって?」

「……いや、えーと、ほら。『結婚したら毎日見せてあげるよ』とか」

 

 自分のエプロン姿をあらためて見下ろした僕は、自分が湊を出迎えて「おかえりなさい(以下略)」をやっているところを想像して「うわあ」と思った。

 それを見た少年がぷっと吹きだす。

 

「なんだその顔」

「うん、大丈夫。そんなこと言わないから」

「……なら、いいけど」

 

 これくらい素直でいてくれたらこっちとしても普通に話せるのに。

 と。

 

「ふーん?」

「なるほど」

 

 恋と玲奈が興味津々な様子で僕たちの会話に注目していた。

 というか、心なしか他の班からも視線が送られているような。

 

「二人とも、作業に集中して……!」

「大丈夫だよ。ちゃんとそっちも見てるから」

「わたくしは意識が逸れておりました……」

 

 そこはそれ。玲奈のほうも大した問題にはならず、僕たちの班のごはん+豚汁は無事に完成した。

 お好みで七味やバターを投入していただく。

 具だくさんかつ豚バラの旨味によっておかずとしての能力は抜群。白いご飯に合わないはずがなく、普通に大満足の食事になった。

 

「男の人と結婚して一番役に立つのは恋だよねえ」

「そうですね……」

「ほんと? 私お嫁さんに向いてる? どう思う湊くんっ?」

「知らないよ。……ああもう、香坂が静かだと思ったら恋がうるさいのか」

 

 残念ながら、僕たちは得意分野が別々で場合によって誰かが生き生きするので、それはそうなるかもしれない。

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