♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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湊と新学期 2017/4/3(Mon)

 なんだかあっという間に時間が経った気がする。

 短い春休みが終わって、今日からまた制服を着て学校に通う。

 

 今日から違う教室なんだな。

 

 家を出ながら思ったのはそんなことだった。

 六年生の教室。

 僕が六年生になったってことは、仲の良かった先輩がもう学校にはいないってことだ。

 うちの学校は中等部からは女子校になる。

 男子も女子もデリケートな時期に入るから、共学だといろいろと大変……っていうことらしい。春休み中に会った先輩は「学校に女子がいないとかつまんないよなー」とぼやいていた。

 エロいことを企んでいるらしい先輩を見たら「なるほど、だから女子校になるのか」と納得だ。

 

『で、どうだ?』

『どうって?』

『香坂だよ。さすがにもうわかるだろ。あいつが可愛いって』

 

 告白すればよかったかなー、とか言っている先輩に、ものすごく癪ではあるけど素直に答えた。

 

『……まあ、そりゃ、可愛いとは思いますけど』

『どのへんが?』

『どのへんって』

 

 髪、目、肌、唇、首筋、背中、腕、足。

 どこだって答えたら普通っぽいかと少し悩んでから、それじゃまるで「全部」ってことみたいじゃないかと恥ずかしくなった。

 

『顔ですよ、顔』

『顔な。めちゃくちゃ顔いいよなー、あいつ』

 

 なんとか誤魔化せたらしい。

 僕はほっと息を吐いて、次の先輩の言葉に息が詰まりそうになる。

 

『なあ、俺さ、中学生になったしそろそろ女と付き合うよ』

 

 同級生だった女子とはだいたい連絡先交換してるから会おうと思えばいくらでも会える、と彼は笑っていた。

 

「女と付き合う、かあ」

「あ、湊くん、やっと女の子に興味持ってくれたのっ?」

「なっ。恋、いつからそこにいたんだよ……!?」

 

 独り言のつもりだったのに、いつの間にか隣に女子がいた。

 恋はトレードマークのポニーテールを揺らしながら「さっきだよ」と笑って、

 

「それで、誰が好きなの?」

 

 僕は「そんなんじゃないって」と答えた。

 

「ただ、付き合って何するんだろうなって」

「もちろんデートでしょ」

「だからデートって何するんだって話」

 

 恋は女子の中では比較的話しやすい。

 男子相手でも女子相手でもテンションが変わらないからだ。

 香坂がアホだった頃はあいつと一緒に俺の傍にいることが多かったけど、今思うとこいつ、俺のことが特別好きなわけじゃなかったんじゃないかと思う。

 その証拠に今も平然とした様子で「んー」と首を傾げて、

 

「じゃあ試しに私とデートしてみる?」

「しない」

「えー。楽しいと思うのに。じゃあ美桜ちゃんならどう?」

 

 なんでそこであいつの名前が出るんだ。

 どきっとしてしまったのを誤魔化すようにため息をついて、

 

「そもそもあいつは僕とデートなんかしないって」

「え? 美桜ちゃん、湊くんのこと好きでしょ?」

「なら、あんなに僕のこと避けないだろ」

「避けてるのは湊くんもじゃない?」

 

 それはまあ、昔のあいつを考えたら避けるのは当たり前だ。

 じゃあ、今のあいつを避ける理由はないんじゃないかって話になるけど、だってそれは、別にわざわざ態度を変える必要もなかったからで。

 

「っていうかなんで今日に限ってお前と会うんだよ」

「今日はいつもと違う道で来たからかなー」

 

 気分で道を変えるとかまた面倒くさいことを。

 僕たち男子はなるべく広い道を歩くように小さい頃から言われて育つ。広いところは広いところで誰かに声をかけられやすいけど、狭いところを通って誘拐とかされるよりはマシだ。

 

「ところで、今日から六年生だねっ」

「そうだな。っても教室くらいしか変わらないけど」

「うちはクラス替えないもんねー」

 

 中等部からはあるらしいけど、僕は外部の学校に進学するから関係ない。

 

「お前らは来年、中等部に行くんだろ?」

「うんっ。……あ、でもどうだろ。違うかも」

「どっちだよ」

 

 すると恋はなんだかすごく綺麗な笑い方をして、

 

「美桜ちゃんにちゃんと聞いてみないと」

 

 本当にこいつ、香坂のこと大好きだな。

 僕は苦笑して「そっか」と答えた。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 六年生になって教室までの距離が少し遠くなった。

 学年が上のほうが体力あるからって理由なんだろうけどちょっと理不尽というか、年上を敬えって言うなら楽をさせろよって思う。

 少し前まで先輩が使っていた教室だけど特に思うところはなかった。先輩がいるわけじゃないし掃除だってしてるし。

 匂いって言うなら女子の匂いのほうが圧倒的に残っているはずだ。

 

 始業式をあっという間に終えて、先生から話を聞いた。

 

 担当の先生も変わらないので本当に前とほとんど変わらない。

 新しい教科書を渡されたりいろいろ注意されたりしたらそれで終わりだった。

 

「ね、湊君。帰りに一緒にご飯食べて行こうよ」

「あー、ごめん。男子で行く約束してるから」

「そっかー。じゃあ、少しお話していこ? ね?」

 

 終わったと思ったら女子に話しかけられるのもいつものこと。

 適当に話をしながらなんとなく香坂たちのほうを見ると、

 

「ね、美桜ちゃんは進学どうするの? 中等部に行く?」

 

 恋のやつ、さっそく聞きに行ったのか。

 席替えの結果、香坂の席は真ん中の列の一番後ろになった。前は強制で先生の前だったりしたこともあるけど、もうすっかり「手がかからない子」扱いだ。

 あいつの様子も今までと変わらない。

 っていうか、どんどん可愛くなっているような気がする。最近は水泳にピアノに、それから別に音楽のレッスン? まで受けているらしくて忙しいだろうにそんな様子はあまり見せない。予定がない日は恋たちや他の奴らとよく遊びに行っているし。

 雑誌に載るようになって学校の外のやつらからも「可愛い」って言われるようになった顔が小さく横に傾いて、

 

「うん。たぶん内部進学かな。出席日数もいろいろ相談できるみたいだし」

「え、美桜ちゃん学校休むの? お仕事?」

「読モの仕事、中学生になっても続けるならそういうことも増えるかなって。だんだん子供優先のスケジュールじゃなくなるみたい」

「先方としてもお仕事ですからね。スタジオを借りるにしても外で行うにしても、休日より平日のほうが予定を押さえやすいはずです」

 

 相変わらずレベルの高い話してるなあいつら。

 学校休んでまで仕事するとかなんなんだ、プロなのか。そういえばあのマンガの先生も高校生だったはずだ。学校通いながらマンガ描くとかすごすぎる。尊敬する。

 

「たぶん、ということは芸能関係に強い学校を選ぶことも考えていらっしゃるのですか?」

「一応ね。でも、わたしの場合はただの読モだし。夢のほうは叶うかどうかわからないから、偏差値低い学校はちょっと」

「偏差値って学校の頭の良さだっけ?」

「おおむねその通りです。高い方が難しい学校ということになります。この学校は平均よりもかなり上にあたりますが、芸能系の学校は偏差値が低い傾向にあったはずです」

「芸能人ってバカが多いってこと?」

 

 おい馬鹿やめろもうちょっと言い方考えろ。

 芸能でもスポーツでも、なにかに打ち込んでいる奴は勉強にまで手が回らないってだけだ。勉強頑張る気力と時間があったらそのぶん練習したほうが良かったりするだろうし。

 それでも勉強と両立できるのは一部のすごい奴、というかやばい奴だけだ。

 でもまあ。

 

「あいつもこのまま中等部か」

 

 じゃあ、来年からはもう会わなくなるんだな、と、僕は思った。

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