♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
僕は無事(?)美桜となってから二度目の夏を迎えた。
今年は恋、玲奈と三人で高原へ。
小百合さんに保護者役になってもらって牧場を見学したり季節の花を撮影して回ったり、緑に囲まれた神社にお参りに行ったり。
もちろん新鮮な牛乳にご当地の牛や豚を使ったバーベキューなど食べるほうも堪能して大満足。
授業がなくなって暇になった分、読モの仕事やマンガの件で編集部にお邪魔する機会、声優を目指してのレッスンなどが多くなって別の意味で忙しい日々。
先生に手伝ってもらってオーディション用への応募作業も進める中、僕は珍しい用事で早起きして出かけることになった。
身に着けるのは可愛くも動きやすい格好。
制汗スプレーと日焼け止めも忘れず、必要最低限のアイテムだけが入った小さなバッグには折り畳んだトートバッグを忍ばせておく。
お母さんやお姉ちゃんからも口を酸っぱくして言われたので、念のために防犯ブザーもしっかり装備。
「じゃ、くれぐれも危ないことはしないようにね?」
「なにかあったら電話しなさい。警察の電話番号も覚えているわよね?」
「うん。ちゃんと暗くなる前に帰ってくるから」
「行ってらっしゃい、お姉ちゃん。楽しんできてね」
家族に見送られて出発すると、小学校の最寄り駅へ。
駅前広場では既に今回の同行者二名が待っていた。
お馴染みの恋と玲奈、ではなく、
「遅かったじゃない、待ちくたびれるかと思ったわ!」
一人は相変わらず会うなり素直じゃない台詞(僕がついたのも約束の五分前だ)を吐いてくる友人? 同士? の
僕と同様、動きやすくも可愛らしいコーデで纏めた彼女の隣には相原さんを肉体的にも精神的にも大人にして目のキツさを緩和したような女性。
「初めまして、叶音の姉です。妹がいつもお世話になっています」
「初めまして、香坂美桜です。こちらこそ、相原さんにはいつもお世話になっています」
頭を下げて挨拶をしあうと、相原さんはふんと鼻を鳴らして、
「別にお世話なんかしてないじゃない。大して会う機会もないし」
「そんなことないよ。何回も話してるし、カラオケとかファミレスも行ったし。相原さんには精神的な刺激ももらってるんだから」
「あ、そう。……だったらその『相原さん』っていうのそろそろ止めなさいよ」
「ふふっ。美桜ちゃん、叶音は美桜ちゃんに名前で呼んで欲しいみたいなの」
「姉さん! べ、別にそんなこと言ってないじゃない!」
うん。家族の親切心って本人からすると恥ずかしかったりするよね、わかる。
でも、だいたいの場合、ここで信用すべきは家族の話のほうで。
「わかった。相原さんじゃお姉さんとも紛らわしいしね」
そう言うと目に見えてほっとしたような表情で「そう?」と返してくる。
「じゃあ別にそれでもいいけど」
「うん。じゃあ、これからもよろしくね、叶音」
「っ!」
ほら、そこで嬉しそうに目を輝かせるからお姉さんもからかい+お世話をしたくなるんだと思う。
お姉さんは目だけで「ありがとね」と僕に伝えながら、
「それじゃあ、出発しましょうか? 忘れ物はない?」
今日はこの三人でとあるアイドル声優のライブに行く。
◇ ◇ ◇
ライブに誘ってきたのは相原さん、もとい叶音のほうだった。
いきなり電話がかかってきて、
『ねえあんた。ライブとか興味ある?』
要は一緒に行かないかという話。
「面白そうだね。でも、どうしたの急に?」
『声優目指してるんでしょ? なら勉強しなさいよ』
本当、口は悪いけど中身はいい子だ。
僕は「もう少し愛想よくすればいいのに」と思いつつ「行きたい」と答えた。
子供だけで大丈夫か、という心配にはお姉さんがついてきてくれると言う。
『言っておくけど、あいつら誘うんじゃないわよ?』
「あいつらって、恋たちのこと?」
『そ。興味ないものに連れていかれても困るでしょ』
恋ならなんでも楽しみそうだし玲奈は行きたくない時は来ない気がする。
でもまあ、叶音のも一理あるしそこは言う通りにしておいた。ずっと一緒にいると誓った僕たちだけど、もちろん一緒に行動しない時もある。
で。
「予習はしてきたんでしょうね?」
「一応ね。代表作も見てきた」
「そ。まあ当然よね」
「叶音? お友達にその態度は失礼じゃない?」
もっと言ってあげてくださいお姉さん。
叶音のツンツンぶりは電車内でも健在だった。
この世界の特殊性にもいい加減慣れてきたけれど、電車とかバスとかも例によって男が全くといいほど乗っていない。
お兄さんなんか移動の時にほいほいタクシーを使ってるし、公共交通機関はほぼ女性専用なんだろう。
そのせいか夏でも冷房は最低限。
お兄さんは「あれだと俺たちは暑いんだよね」って言っていた。女の子のほうが冷えやすいというのは本当らしい。
あと、こっちだと電車もバスも比較的空いてる。
「でも、声優のライブなんだよね。どうして?」
「どうしてって、声優でもアイドルはアイドルじゃない。私にとっても目標よ」
「二人で見られるライブを探してくれたんだ」
「そ、そんなこと誰も言ってないでしょ!?」
「この子ったら一人じゃこういうの行きづらかったみたいで。ありがとね、美桜ちゃん」
「お姉ちゃんも!」
一周回ってこれが叶音の芸風な気がしてきた。
「叶音もアニメとか見るの?」
「気になってるグループの出演作くらいはね」
今日観に行くライブに出るのはアイドル声優のユニットだ。
アイドルもののアニメと連動していて、半分くらいキャラと声優が繋がっている系の作品(&グループ)。
僕が目指す先にいる人たちだと言っても過言じゃない。
「見たんなら答えられるわよね。あんた、誰が一番好き?」
「難しいなあ。うーん、でも、やっぱりマネージャーさんかな」
「なんでそこでサブキャラ答えるのよ! そこはリーダーでしょ!?」
「え、マネージャーさんすごく可愛いよ。ドジだけど一生懸命だし」
胸も大きいし、とはここでは言わない。
男子高校生としてはそういう目線も当然ある。ただ、中高生設定のメインキャラたちを邪な目で見るのは(今現在女子小学生なのもあって)気が引ける。なので好みが成人設定のサブキャラに向きがちだ。
「あんた変わってるわね本当。……でもまあ、そっか。サブキャラはメインキャストに比べたら経験のある声優だし」
「そうそう。締めるところ締めてくれるから話が盛り上がるのもあるよね」
僕たちはそうやってキャラやストーリーの話をしたり、
「歌はどうだった? どれが好き?」
「一番印象に残ったのは主題歌かな。何回も聞いたからっていうのがあると思うけど」
「そうね。曲単体で聞くとまた印象が違うと思うわ。ライブで聞くのはまた別ね」
「そっか。楽しみだなあ」
「目に焼き付けておきなさい。こういうのは基本、撮影禁止だし」
公式のライブ映像でも利用しない限り見返すことはできない。
「あ。そういえばチケット代。いくらだった? わたしの分くらいは払わせてよ」
「別にいいわよ。誘ったのは私なんだし」
「そうはいかないよ。ここは譲らないからね」
「面倒くさいわねあんた……」
結局、チケット代の代わりに今日の食事代と飲み物代を立て替えるということで落ち着いた。
叶音みたいな変わった子でも女子の話好きは発動するらしく、電車内では話題に困らない。
お姉さんも交えていろいろ話しているうちに僕たちは目的の駅に到着していた。