♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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美桜とPV(その3) 2017/10/2(Sun)

 私にとって声優は夢であり憧れであり目標だった。

 

 小さい頃に見たアニメのキャラクターに憧れ、ヒロインになれないことを知ってからは演じ手になることを目標にした。

 できる限りの作品に触れ、自主トレを繰り返し、母にお願いしてレッスンにも通わせてもらった。

 

 ──何人もの仲間と出会い、そして別れた。

 

 お金の関係で続けられなくなった子。

 病気や事故で夢を諦めざるをえなかった子。

 力不足に絶望して去っていった子。

 不当な嫌がらせや圧力に屈するしかなかった子。

 

 私よりも才能のある子は何人もいた。

 私が夢を掴むことができたのは運もあったと思う。

 初めてメインキャラの役をもらえた時は泣いて喜んだし、友人とも喜び合った。

 今はまだ夢への第一歩を踏み出したばかり。

 でも、ここまでたどり着ける子だって多くはない。

 

 この世界は甘くない。

 

 簡単には成功できないし、成功できちゃいけない。

 圧倒的な才能があるなら話は別だ。

 でも、大した実力も才能もないくせにとんとん拍子に成功していく子なんて、そんなのは存在してはいけない。

 

 だから私、水上(みなかみ)舞衣(まい)は『mio』が許せない。

 

 読者モデルとして成功できるほどの容姿。

 裕福な家に生まれ、姉は中学生にしてプロのモデル。なんの不自由もしていないお嬢様。

 せめてそのままモデルになっていればいいものを、あろうことか彼女は声優志望なんて言い出した。

 SNSなどにアップしているボイスを聴く限りプロのレベルには到達していない。

 

 ただの小学生のお遊び。

 

 仲間たちが叶えられなかった夢を穢されるのが許せなかった。

 だから、ライブでたまたま出会った時──言葉と感情を抑えられなかった。

 大人げなかった。言い過ぎたとも思う。

 けれど、言ったこと自体は後悔していない。

 あの子は声優になるにはまだ早すぎる。

 せめて、もっと苦労して実力を身に着けてからにして欲しい。

 でも。

 

『泣いていたんだ、ルリは!』

 

 mioの出演したマンガPVを見て私は悔しくなった。

 がらっとイメージを変えた一人二役。

 もちろん、私ならもっと上手くやれるけど──このPVには確かに努力が感じられる。

 

「上手い、なんて私は言わない」

 

 どうだ、と嘲笑うようなタイミング。

 意地になっているのを自覚しながらも気持ちは変えられない。

 嫌いなものは嫌いだし、許せないものは許せない。

 

 でも、今の時代、SNSの使い方ひとつで将来が変わることもある。

 

『舞衣ちゃん、これ見た? この子まだ小学生なんだって。すごいよねえ。こういう子にどんどん出てきて欲しいなあ』

 

 同期や先輩の中にも評価して反応している人がいた。

 何より、新しく始まった人気マンガだ。上手く目に留まってもらえればアニメ化した際のキャストに入れるかもしれない。

 無視するのは得策じゃない──そう自分に言い訳をして、私は編集部のPV投稿を拡散した。

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

「本当、美桜ちゃんはすごいな」

 

 俺は公開されたPVを見てあらためて息を漏らした。

 いい出来だ。

 最終確認で送られてきた時も見たけど、あの時は緊張もあった。こうして世に出た上で見るとまた格別の思いがある。

 自分の作品が連載されて、こんな風に宣伝までしてもらえるなんて。

 今でも信じられないというか、俺は本当に幸せ者だと思う。

 

 俺がそう思えるのはやっぱり美桜ちゃんのおかげだろう。

 上手い下手だけで言ったらプロの声優さんのほうがもちろん上手い。

 でも、身近な子が頑張ってくれたからこそ実感が強い。

 

 もう一回息を吐いてからベッドに寝転がる。

 気持ちが昂りすぎてすぐにはなにもできそうにない。

 と。

 

「お兄ちゃん、これ見た?」

 

 部屋のドアがノックされて妹が部屋に入ってきた。

 大人しいくせに俺の扱いが適当な子だけど、最近はずいぶん明るくなったように思う。

 彼女が示したスマホの画面には俺がさっき見ていたPVがあった。

 

 ほのかも気になっていたんだろう。

 

 美桜ちゃんはもともとほのかの友達だ。

 招かれて家にやってきたあの子と偶然会って、マンガのアドバイスをしてもらって、そのままそれがデビューに繋がった。

 

「見たよ。なんか感動だよな」

「うん。……本当、美桜ちゃんはすごいよ」

 

 兄妹だからか、俺達は感性も似通っているらしい。

 目を細めて呟くほのかの姿に俺は自分自身を重ね合わせてしまう。

 

「俺も頑張らないとな、もっと」

 

 何気ない呟きだったのに、妹は敏感に反応した。

 

「美桜ちゃんに嫉妬してる?」

「……っ」

 

 すぐに返せなかった時点でどう思っているかはバレバレか。

 考えないようにしていたのに。

 俺は苦笑して、

 

「そりゃ、するよ。美桜ちゃんに絵が描けたらもっと良いマンガになったんじゃないかって、たまに思う」

 

 こんなこと他の奴には言えない。

 他に言えるとしたら担当編集さんくらいか。

 でも、ほのかはやっぱり特別だ。兄妹っていうのはそういうものだと思う。

 ほのかは「そうだね」とも「違うよ」とも言わずに、

 

「でも、美桜ちゃん絵はそんなに上手くないよ」

「だから、もしもだよ。お前だってそうだろ?」

 

 言われた妹は「そうだね」と笑った。

 寂しそうで、悔しそうな顔。そんな顔もできるのか。小さいと思っていた妹もいつの間にか成長している。

 考えてみればあと半年くらいで中学生だ。

 俺の中学時代を考えてみると「まだまだガキだろ」と思うけど、女の子っていうのは成長が早い。美桜ちゃんを見ていてもそれがわかる。

 

「美桜ちゃんに文章が書けたら、きっと、私の小説なんかよりずっとすごい物語が書けるんだろうなって」

「ああ」

 

 俺達は本当によく似ている。

 憧れて、尊敬して、それと同時にあの子に嫉妬してもいる。

 美桜ちゃんだって万能じゃないとわかってはいても。

 自分で輝きながら俺達にまで輝きを分けてくれるあの子が眩しすぎて、ときどき、正しくない気持ちを抱いてしまう時がある。

 

「小説、まだ終わらないのか?」

「うん」

 

 ほのかは苦しそうに、切なそうに、スマホを胸に抱きしめる。

 

「まだ全然足りない。書き直しても書き直しても、書きたいことが増えるの」

 

 やっぱり、妹が書いているのはあの子のことなんだろう。

 だったら、追いかけ続ける限り終わりは見えない。

 

「もう、書き直すのは止めようと思うんだ」

 

 意を決したような呟き。

 向こうは向こうで俺を相談相手として信頼してくれているのかもしれない。

 

「完成を諦めるのか?」

「ううん」

 

 今度の笑顔はどこか晴れやかなもの。

 

「完成させるの。じゃないと、続きが書けないから」

「……なるほど、な」

 

 納得のいく物語を紡ぐ。

 言うのは簡単だけど実行するのは難しい。特に、詰め込める量に限界のあるマンガと違って小説はやろうと思えば描写一つにも深い意味をこめられる。

 圧縮に次ぐ圧縮は作品の完成度を上げるかもしれないけど、やりすぎると胸やけする代物になりかねない。

 なら、どうすればいいか?

 マンガはこれが得意だ。つまり「続きを書く」。

 

 文字数やページ数が足りないなら増やせばいい。

 人生と同じで物語も続いていくものなんだから。

 

「いいんじゃないか。それで、美桜ちゃんに見せてやれよ」

 

 きっと喜んでくれる。

 ほのかも「うんっ」と頷いた。

 

 俺達は別に美桜ちゃんを邪魔だと思っているわけじゃない。

 むしろ逆だ。

 

 あの子に感謝しながら、あの子をあっと驚かせたいと思っている。

 すごいあの子を驚かせて笑顔にさせられたら、俺達のちっぽけなプライドが満たされる。それがまた新しく作る原動力になる。

 俺達はまだまだ美桜ちゃんから離れられない。

 

 この楽しさは簡単には手離せないから。

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