♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
美桜と料理 2016/12/17(Sun)
「おはよー、美桜。今日のお昼ご飯どうしよっか?」
朝起きて洗面所に向かうと、お姉ちゃんからいきなりそう言われた。
「あ、そっか。今日お母さんお仕事なんだっけ」
「そ。今日はあんたも用事ないんでしょ? だから私たち三人」
芸能関係の仕事の性で、お母さんのお休みは曜日が決まっていない。
休日に出勤することもあるし平日に休むこともある。
今日は朝早くに出かけてお昼には帰って来られないと昨日の夜に言っていた。なにか作っておこうか? とも言われたけど「適当になんとかするよ」ということで安心して仕事に行ってもらっている。
顔を洗って着替えた僕はシマエナガのエプロンを身に着けながら、
「わたしがなにか作ろうか?」
朝は食パンがあるのでトーストにして、後はサラダと目玉焼きでも作ろう。
卵を取り出してフライパンを準備しているとお姉ちゃんは何故かむっとした声で、
「適当になんとかする、で、どうして作る話になるの」
「おはよー」
「あ、おはよう美空。トースト食べる? あと目玉焼き」
「食べる―」
「おっけー」
「って、無視しないでよ!?」
いや、だって、どうしてって言われても。
「まさかお姉ちゃん、最初から宅配に頼る気だったの?」
ジト目で見ると若干気まずそうに視線を逸らしながら、
「別に、コンビニで買ってくるっていう手もあるし」
「適当にっていうのはなるべくお金を使わずに済ませるっていう意味じゃないかな?」
「……むう。ちょっと料理できるようになったからって偉そうに」
わざわざキッチンまで来てつんつん指でつついてくる。
「わたしのは料理なんてレベルじゃないよ」
サラダなんて野菜切って盛るだけだし、目玉焼きもほとんど焼くだけだ。
するとお姉ちゃんは何故か胸を張って、
「私は目玉焼きも二回に一回くらい焦がすけど?」
「それよそ見してるからだよ。火加減に気をつけてちゃんと見てれば失敗しないよ」
「お母さんみたいなこと言わないでよ、もう」
「いひゃいひゃい、ちょっと、火を使ってる時はそういうのやめてよ」
調理実習以来、僕は料理というかちょっとした調理くらいなら手を出すようになった。
それこそ朝ご飯の卵料理を自分で作るとかその程度だけど、お母さんはすごく喜んでくれる。
『美桜は料理の才能がありそうね』
なんて、あからさまに誇張だとわかる褒め言葉までくれたくらいだ。
まあ、無難に料理を終える才能、っていう意味なら確かにあるかもだけど、そんなの二人に一人くらいは持っていそうだ。
「私はお姉ちゃんの料理好きだよ?」
「ありがとう、美空はいい子だね」
料理とも言えない料理で嬉しそうにしてくれる妹は本当に良い子だ。
目玉焼きが二人分焼かれていくのをじーっと見ていたお姉ちゃんはやがて「私の分も」と言ってくる。
「いいけど、目玉焼き?」
「スクランブルエッグ」
「あ、ちょっと難しいやつだ」
ひょっとして嫌がらせなんだろうか。
いっぺんに三人分、目玉焼きを焼いてしまえばよかったと思いつつ卵をといてフライパンに流す。油の代わり兼風味づけにはバターを使う。
目玉焼きに比べれば行程が多いものの、気をつけていればそこまで変な失敗はしない。
しばらくするとそこそこ見栄えのするスクランブルエッグが完成した。
「はい、お姉ちゃん」
「……あんた本当に器用よね」
「お姉ちゃんは基礎さえ覚えちゃえば上手いと思うんだけどな」
姉妹三人で「いただきます」をして朝食をとる。
飲み物はヨーグルトだ。カルシウムの補給と腸内環境の改善。美空はもちろん僕だってまだ小学生なのでカルシウムは大事である。
お姉ちゃんは簡単な朝食をもそもそと食べつつ「あんたさ」と言って、
「どのくらいまでなら作れる自信ある?」
「え? ……うーん、野菜炒めくらいならそこそこいけるんじゃないかなあ」
「野菜炒めは料理じゃん!」
「いや、まあそうだけど。炒めるだけだし」
「いろいろあるでしょ。焦がすとか味付け失敗するとか」
だからそれはよそ見とか目分量とか火加減のせいだって。
「……美桜の裏切り者」
「美姫お姉ちゃんは仲間がいなくなって寂しいんだね」
「お姉ちゃんも覚えればいいのに。男の子にモテるよ?」
「デリバリーを気軽に頼めるくらい私が稼げばいいんでしょ? そっちのほうが楽じゃない」
そんなに料理したくないのか。
僕に、というかお母さんに似て美人のお姉ちゃんは憂鬱そうに目を細めると口元に笑みを浮かべて、
「まあ、美桜も自慢するならカレーくらい作れるようになってからにしなさい」
「わたし自慢してないよね!?」
「細かいことは気にしないの。で、お昼何がいい? ピザ? お寿司?」
なんでお祝い事があった時っぽいのを真っ先に選ぶのか。
我が家はお金に困ってないので外食や宅配の利用も比較的多いとはいえ。
「食べたいものを食べるのが一番健康にいいのよ。そうね、私としてはやっぱりピザとか」
「あ、私カレーうどんが食べたい!」
「お姉ちゃんがカレーとか言うからそういう口になっちゃった?」
「うんっ」
「……カレーうどん。ぜんぜんモデルっぽくないんだけど」
ジト目で文句を言うお姉ちゃんは「蕎麦ならグルテン控えめだし食物繊維も豊富だからいいんじゃない?」と言うと機嫌を直した。
「じゃあ私は天ぷらそばにしようかな。美桜は?」
「うーん……かつ丼?」
「がっつり行くのね。あんたも一応読モでしょうが。カロリー気にしなさいよ」
「気にせず天ぷらつけたお姉ちゃんに言われたくない」
僕たちは姉妹なのをいいことに麺類とどんぶりもののシェアという人を選ぶ荒業を用いて三つの味を堪能した。でもお姉ちゃんは海老天を断固として僕たちに譲ってはくれなかった。
そしてやっぱり蕎麦屋のカツ丼は美味しい。
カレーうどんも出汁を利かせているからか、なかなか真似できない味に仕上がっていた。確かに、せめて家庭的なカレーくらいは作れるようにならないと料理上手は名乗れないだろう。
僕の周りにいる料理上手というと恋だけど、
『カレーは美味しく作るのけっこう難しいよね』
グループチャットで話を振ってみたところ、焦点が「味」な時点で格が違った。
『カレーってルーがなんとかしてくれるから比較的美味しく作りやすいって聞いたんだけど』
『だから調節が難しいんだよ! 具によっても違ってきちゃうし』
『恋さんのお話はレベルが違いすぎますわね……』
『うん、わたしたちじゃついていけないよ』
『諦めないでよ二人とも! これくらいやればすぐできるようになるよ!』
ちょっとだけお姉ちゃんの気持ちがわかった。
ほのかにも聞いてみたところ、やっぱり料理は苦手とのこと。
『お母さんは血筋かもって言うけど、お兄ちゃんは料理できるから。教わって少し練習しようかなって』
『うん、すごくいいと思う。お兄さんも喜ぶよ』
彼女の場合、刃物や加熱調理を怖がっているのが原因のようだ。
本が好きで真面目な子なので苦手意識さえ克服すれば調理本やレシピサイトなどを参考にどんどん上手くなるんじゃないかと思う。
『私が料理できるようになったらお母さんやお兄ちゃんを楽させてあげられるよね?』
『ほのかって本当に良い子だよね』
『私なんて大したことないよ……』
忙しいのでなかなかまとまった時間は取れないけど、これからも暇をみつけてちょこちょこ練習していこうと心に決める僕だった。