♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
小学生の夏休みは自由がいっぱいだ。
宿題はもう全部終わってる。九月からは習い事を始めてもっと忙しくなるので今が一番余裕のある時期かもしれない。
ただ、自由時間が多いとどうしても持て余すもので、僕はベッドに寝転がりながら男子だった頃の暇つぶし方法について思考を巡らせた。
音楽鑑賞とかもあるけど、あれはどっちかというと何かしながらが多かった。
純粋な暇つぶしというとやっぱり二種類。
読書と、ゲーム。
美桜になってからも前者はよくやっている。
後者については今まで手を出してこなかった。理由はいくつかある。本なら三十分~数時間で一冊を終えられるけど、ゲームはクリアするのに何十時間とかかったりする。クリアしても終わらないゲームすらあるので止めどきがわかりづらい。
それから単価が高い。さらに専用のハードが必要になるので初期投資がきつい。
「こっちだとゲームもいろいろ変わってるんだよねえ……」
前に調べてみたところ、日本製ゲームの黎明期はこっちでも向こうと大差なかった。
差がついていったのはその後だ。男子の少なさが徐々に響いてきたのか、発展したゲームジャンルが向こうとは大きく変わっている。
人気があるのはパズルゲームや物語を追うノベルゲーム、育成ゲームなど。
RPGやSLG、シューティングなんかは時代が経つにつれて下火になっていって、今でも続いているシリーズの多くは女性人気を確保するために恋愛要素を加えたりポップなキャラクターイラストを使ったりと独特の工夫が行われている。
ゲームでさえ女の領分だなんて。
こっちの世界の男子ってやっぱり可哀想なんじゃないか。
いやまあ、声をかければOKしてくれる女子がいくらでもいるんだからゲームしてる暇なんてないのかもしれないけど。
……うん、やっぱり可哀想じゃないな。リア充は爆発しろ。
できないとわかると途端にやりたくなるものの、さっきも言ったようにコンシューマー系のゲームはいろいろと不都合が多い。
となると、
「スマホゲーならアリかなあ」
手軽にできるスマホの無料ゲームならクラスにもやっている子がけっこういる。
こっちもパズルとかが主体だ。
でも、やたらと可愛い画面を無視すればパズルはパズルである。誰でも気軽に楽しめるのはいい。
「たしか恋もやってたよね」
有名キャラクターが使われているやつだ。
ストアからダウンロードして起動してみる。最初のチュートリアルを「ちょっとめんどくさいな」と思いつつゲームをスタート。
最初はもちろん簡単で、クリアしていくと段階的に機能が増えたり報酬がもらえたりする。アバターとか壁紙とかもたまにもらえるので、こういうのでプレイヤーを釣って継続的に遊ばせるわけだ。
肝心のゲーム内容自体はシンプルで面白い。
すいすい進めていって、だんだん難しくなってきたところで詰まってライフがゼロに。こうなると時間経過でライフが溜まるまでプレイはできなくなる。
時計を見ると一時間くらい経っている。
「なかなかやるなあ」
誰目線だよ、とツッコミが入りそうな呟きを漏らしつつ、僕は「隙間時間以外ではやらないようにしよう」と心に決めた。
結局これも時間泥棒だ。もっと言えば「ライフを増やすために課金しよう」となりかねない。明らかに泥沼である。
学校の休み時間に友達と盛り上がる分にはちょうどいい。
プレイ時間が区切られていれば自然とやめられるし、授業を受けている間にライフも回復する。いろいろ緩いうちの学校もさすがに授業中にスマホゲームをしていれば怒られるし。
僕はゲームを「恋たちと競って話題の一つにする」くらいのものに留めることにした。
◇ ◇ ◇
そんなことがあってから数か月。
編集部での打ち合わせが恒例になった頃。打ち合わせの合間、自販機やソファの置かれた休憩室でお兄さんとゲームの話になった。
「お兄さんもゲームとかやるんですか?」
「ああ、まあ、たまにね。ノベルゲーとかは良い出来のやつもあるし」
「RPGとかSLGはやりませんか?」
「昔はよくやったよ。ただ、あれ系は新作がなかなか出ないからさ」
目ぼしい作品はやりつくしたというお兄さん。
「今出てる新作はお兄さん的には駄目ですか」
「駄目とは言わないけど、俺の肌には合わないな。一作二作プレイしたら十分って感じ。そういう美桜ちゃんはやるの、RPG?」
「わたしはハードも持っていないので全然。でも、恋愛ものばっかりだと飽きちゃいそうだなあ、とは思います」
「わかる」
少女マンガもほとんどの作品が恋愛をメイン要素に置いている。
女子はそういうのが好きだってことなんだろうけど、そればっかりだとどうしても似たようなものに見えてしまう。
男向けだってヒロインと恋愛するんだろうって? それはそうだけど、なんていうか男向けのは「やりたい話にヒロインを絡ませる」感じで、女向けのは「魅力的な相手役と素敵な恋愛させるためにストーリーを用意してる」感じがする。
あくまで僕の感じ方なのでこれが絶対ってわけではもちろんないけど。
「RPGとかSLGにはもっと可能性があると思うんですよね」
ここぞとばかりに愚痴るとお兄さんは笑って、
「美桜ちゃん、今度はゲーム作るつもり?」
「作れませんよ。わたしそういう知識はないですし、そもそも時間がないです」
「忙しそうだもんなあ。……それで、可能性って例えば?」
なんだかんだ言いつつ興味があるのか、ぐっと身を乗り出してくるお兄さん。
僕は「そうですね」と少し考えてから、
「主人公を男と女から選べるようにするんです。ストーリーの本筋は変わりませんが、ゲーム中に取った行動によって一番好感度の高かったキャラクターとクリア後にエンディングになります」
「好きなキャラと恋人同士になれるってこと?」
「恋愛エンドもありますし、友情エンドもあります。……同性との恋愛を許可するかオプションで選べるといいかもしれないですね」
これなら明確に付き合いだすのはクリア後なのでえんえんいちゃいちゃシーンを見せられることもない。
いちゃいちゃしたとしても好みのキャラが相手なら反応も好意的になるし、主人公の性別を選べることによって感情移入がしやすくなる。
って、向こうにあったゲームからパクッてるだけなんだけど。
同性愛のオプション選択はこっちの世界ならではの要素として今考えた。こっちだと女同士の恋愛は当たり前だから「女主人公だから女の子を落とせない」だと不満が出る可能性もある。一方で友情に近い関係性が好きな人もいるはずだし。
「なるほど。じゃあ、本筋は恋愛絡まない話になるんだ」
「はい。NPCの恋愛はあるかもしれませんけど、主人公が絡まなければ拒否反応も出にくいですよね」
「適度な恋愛は話に深みを与えてくれるからね」
「キャラが重要なアドベンチャーゲームとも相性いいと思うんですよ。続きの話を読みたかったら戦闘に勝たないといけない、とかにすれば自然に両立できます。これはスマホゲームとも相性がいいですね」
「ん? ああ、そっか。戦闘を始めるのにスタミナを使うのか」
「はい。安全に勝つには強いキャラが必要ですから課金に誘導できますし、スタミナを回復するのにも課金が必要です」
「えぐいな。えぐいけど、確かにハマりそう」
お兄さんもノってきて「さっきの恋愛オプションの話も使えないかな?」と言ってくる。
「好感度を高めるとエピソードが開放されるんだ。恋愛エピソードと友情エピソードを分けておけば『要らないものを読まされた』って言われない」
「いいですね。ついつい気になって恋愛エピソードまで読んじゃう人も増えるかもです」
しばらくそのまま二人でああでもない、こうでもないと言い合っていると、いつの間にか知らない男女が傍に立っていて、
「あの、今のアイデア、うちのゲームに使わせてもらえませんか……!?」
「え」
たまたま編集者に来ていたゲーム会社の人だった。
話はなんかとんとん拍子に進んで、僕とお兄さんは後に出た新作ゲームのクレジットに名前が載ることになった。