♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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美桜と西園寺家(その1) 2017/3/16(Thu)

 その日は珍しく、玲奈が目に見えて浮かれていた。

 教室で鼻歌を口ずさんでしまうくらい。その理由を知っている恋は頬を膨らませ、トレードマークのツインテールを指でいじって、

 

「いいなあ。美桜ちゃんだけ玲奈ちゃんのお家」

「良いではありませんか。恋さんは美桜さんと水泳を習っているのですから」

 

 そう。僕は今日、初めて西園寺家にお呼ばれをしている。

 主な名目は一緒にピアノを練習するため。だけど、どっちかというと「単に呼びたかっただけ」なのは玲奈の様子を見ていればわかった。

 授業中もこっちをちらちら見ては「約束ですよ」とばかりに視線を送ってきて、なんというか普段とのギャップに可愛らしさを覚えてしまう。

 

 そうして。

 

 放課後がやってくると、僕たちはクラスメートとの挨拶もそこそこに教室を後にした。

 

「後で感想を聞くからねっ?」

 

 と言う恋も今日は他のクラスメートと遊ぶ約束があるらしい。

 恋が寂しくないように、あるいは邪魔が入らないようにそういう日を選んだ玲奈はさすがだと思う。

 

「お待ちしておりました、玲奈様。美桜様」

「こんにちは、小百合さん」

「はい。美桜様のご活躍は私の耳にも入っております。頑張られておいでですね」

「……あはは。ありがとうございます。なんだか照れますね」

 

 小百合さんの運転する車で出迎えられて、そのまま西園寺家に直行。

 ふかふかのシートに腰を落ち着けながら僕は身支度を整える。制服だからコーデ自体はクリアしてると思うけど、乱れているところがないかはチェックしておかないと。

 なにしろ向かっているのは本物のお屋敷だ。

 

「美桜さん。緊張しなくても大丈夫です。お屋敷と言ってもわたくしの自宅ですから」

「いや、自宅と言ってもお屋敷だよ……?」

「美桜様でしたら普通にしていらっしゃれば大丈夫ですよ」

 

 と、連れていかれたのは絵に描いたようなお屋敷。

 日本風ではなく西洋風というか近代風。ものすごく広い庭があって駐車場も広い。敷地内にテニスコートまであるのが見える。

 車を降りた僕はその迫力に思わずぽかん、と立ち尽くしてしまった。

 

「……玲奈って、ほんとにお嬢様なんだね」

「恥ずかしいのでそれくらいにしていただけますか……?」

 

 僕たちの出迎えにはさらに二人のメイドさんが出てきてくれて、家の中へと導いてくれる。

 入った瞬間に空気が変わったのは気のせいだろうか。

 どこか高級感のある匂い。必要以上にきらきらしていたりはしないけど、使われている家具がそれぞれ上等な品であるのはなんとなくわかる。

 なるほど。玲奈が礼儀正しいお嬢様に育ったのはこういう環境も理由の一つなんだろう。

 

 写真に撮って──は、まずいだろうから、せめて目に焼き付けて帰りたい。

 マンガに出てくるような豪邸だ。お兄さんに教えればきっと役に立つ。

 玲奈はそんな僕を見てくすりと笑い、

 

「では、美桜さん。わたくしの部屋に参りましょうか」

「あ、うん」

 

 手ぶらでは悪いと持ってきた手土産のお菓子はメイドさんに渡して、玲奈の案内に従おうとしたところで、

 

「申し訳ありません、玲奈様。その前にご当主様と旦那様がご挨拶をしたいと」

「お母さまとお父さまが?」

 

 普段は冷静な親友はかすかに嫌そうな顔をすると、こっちへ申し訳なさそうな視線を送ってきた。

 

「美桜さん。来ていただいて早々に両親へ挨拶なんて、お嫌でしょう?」

「大丈夫だよ。お招きいただいたんだからご挨拶くらいはしないと失礼だよね」

 

 別に結婚の申し込みに来たわけじゃないし。

 僕が笑って答えると玲奈は「……仕方ありませんね」と拗ねたような表情を浮かべ、それから凛とした雰囲気に変わった。

 

「案内してくれる?」

「かしこまりました」

 

 王者の風格と言うんだろうか。

 やっぱり上に立つ人は違うなあ、と思いつつメイドさん、それから玲奈の後を続いた僕は、屋敷の応接間だという部屋に到着した。

 応接間だけで我が家のリビングぐらいはある。

 向かい合って置かれたふかふかのソファ。その片方に玲奈に似た品の良い女性と、すらりとした男性が立っていた。

 

 若い。

 

 女性のほうも三十代前半くらいだと思うけど、男性はそれよりも若そうだ。

 僕も玲奈も十一歳なのを考えればそんなものだろうか。いや、それでも下手したら在学中に玲奈が産まれていることになる。

 二人は僕たちが入室するとすぐ、手にしていたティーカップを置いて立ち上がった。

 向こうに合わせて慌てて一礼して、

 

「初めまして、香坂美桜です。玲奈さんにはいつもお世話になっています」

「初めまして、玲奈の母です。玲奈と仲良くしてくださってありがとうございます」

「父です。美桜ちゃんの活躍は僕も自分のことのように嬉しく思っているよ」

 

 物腰柔らかくて品の良い笑み。

 清潔感のある風貌だし、玲奈のお父さんはさぞかしモテた──いや、モテるんだろう。それを射止めた玲奈のお母さんもさすがだ。むしろ、これくらいレベルの違う女性じゃないと意中の男性は射止められないと言うべきか。

 僕がそんな風に少し失礼なことを考えていると、お父さんが目を細めて、

 

「雑誌で見た通り、いやそれ以上の美しさだ。……どうかな、美桜ちゃん? 僕の子を産んでみないかい?」

「ふあっ……?」

 

 変な声が出た。

 ちょっとまて、この人今なんて言った? 娘の友達をナンパするどころかそれを通り越した発言をしなかったか?

 お母さんのほうを見ると「困ったわ」とでも言いたげに頬へ手を当てるだけ。じゃあやっぱり勘違いかと思いきや、すっと跪いたお父さんに手を取られて、

 

「もちろん、すぐでなくても構わないよ。でも、悪いようにはしない。生まれてくる子と君の将来は保証しよう? 考えておいてくれるかい?」

「……ええと」

 

 なんだこいつやばいぞ。

 親友の親に挨拶しに行って口説かれる羽目になるとは思わなかった。

 いやまあ、確かに、うちのお母さんを見ても「子供だけ作らせてもらう」のはこの世界だと普通なわけで。お金までもらえる上にこれだけイケメンが相手なら玉の輿も同然なんだろうけど。残念ながら僕には通じないというか普通に怖い。

 これ断ってもいいんだよね……? と。

 

「お父さま!」

 

 僕はこれまでで一番大きな玲奈の声を聞いた。

 父親の手をつねり上げると僕たちの間に割って入る玲奈。その瞳には敵を見るような本気の怒りの色が浮かんでいる。

 

「わたくしの大切な方にそのような誘いはお止めください。見損ないました。……美桜さんや恋さんに次回、そのような真似をしたらわたくしはこの家との縁を切ります」

 

 親に養ってもらっている身分でそんなことを言っても普通なら意味がない。

 でも、玲奈ならたぶん親に頼らなくても生活はできる。というかうちでも恋のところでも普通に居候させてくれそうだし、格式にこだわらないならモデルでもアイドルでも稼ぐ方法を見つけられる。

 もちろん法的な問題はあるけれど、幸い、お父さんもそういうつまらない理屈で一蹴しようとはしなかった。

 それどころか世界の終わりのような顔をして、

 

「ごめん、玲奈。僕が悪かった。絶対にもうしないから許して欲しい」

「……本当ですか、お父さま?」

「本当だよ。僕なりに玲奈の親友に目を配ったつもりだったんだ。でも、そこまで大切な人なら話は別だ。誓ってもうしないよ」

 

 玲奈は深いため息を吐くと「……でしたら、許します」と宣言。

 ほっと息を吐くお父さんは本当に切羽詰まっていたのがわかる様子で、うん、玲奈がなんかすごく強かった。

 一部始終を見ていた玲奈のお母さんはくすくすと笑って、

 

「美桜さん。どうかこれからも、玲奈と仲良くしてあげてくださいね?」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 僕たちは応接間を後にしてようやく玲奈の部屋へと移動することができた。

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