♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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第三章
美桜と湊(その3) 2017/10/3(Mon)


『先輩、この動画もう見ましたか?』

 

 朝起きると、後輩からメッセージが届いていた。

 貼りつけられていたのは、僕が第一話からずっと追っているマンガのPV。要するに動画を使った宣伝だ。しかも公式が出したやつらしい。

 担当編集の手作り、と書かれているのに不安を覚えながら再生すると──聞き覚えのある、けど僕の知らない声が流れてきた。

 

 視界に広がるのはマンガのワンシーンや雑誌の表紙を飾った時の絵。

 

 短い動画だし、そんなに凝った造りでもないのに気づくと見入ってしまって。

 はあ、と息を吐いてから終わった動画をもう一回再生。

 

「香坂だよな、これ」

「やっぱりそうですよね?」

 

 居ても立ってもいられなくなった僕は後輩と待ち合わせをした。

 マンガはもちろん、本全般が好きなそいつは当然のように目を輝かせる。

 

「『声の出演:mio』ってありますし間違いないと思います。香坂先輩ですよ」

「そんなこと書いてあったか?」

 

 あらためて確認すると確かに書いてあった。

 

「……いったいなんなんだよ、あいつ」

 

 マンガの原案にmioの名前を見つけたのはもう一年以上も前のことだ。

 あの時はmio=読モのmio=香坂なんて本気で信じていなかったけど、さすがに今はもう確信している。

 まだ小学生の癖にファッション雑誌に出て、プロと組んでマンガを作って、さらには声の仕事まで始めている。

 

 教室で恋と馬鹿やってるあいつと本当に同一人物なのか?

 

 ため息をついたのは僕だけじゃなくて、

 

「すごいですよね、香坂先輩。もう手の届かない人になっちゃいました」

「お前、あいつに何回告白したんだっけ」

「三回です」

 

 諦めずにまた告白してみろとは言ったけど、本当にまた告白するとは。

 全部断る香坂も香坂だ。

 先輩が頼まなくても教えてくれる「女と付き合った感想」を聞く限り、男から誘われて断る女は珍しい。何回も同じ男から告白されて断る女はもっと珍しい。

 周りの女から恨まれてもおかしくないくらいだけど、香坂の場合は「美桜ちゃんだから」とか言われて許されている。

 

 あいつがそれだけ偉いって話じゃなくて、それくらい奥手だってみんなに知られてるってこと。

 

 今時珍しい本物のお嬢様──玲奈と話が合うレベルだ。

 一生添い遂げるくらい好きな相手じゃないと付き合う気はないんだろう。

 お試しという概念は存在しない。そう考えるとまあ、断られても仕方ないというか、誰に告白されても同じ返事をするんだし仕方ないかという気にもなる。

 

 本当に、どうしてこうなったんだか。

 

 毎日のように僕に告白してきていた頃からは考えられない。

 考えてみるとあいつが才能を発揮しだしたのもしばらく学校を休んで、記憶喪失になって帰ってきてから。

 夢を叶える代わりに真面目になったってことなのか。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

「すごいよ美桜ちゃん! 私感動して三回も視ちゃったよ!」

「わたくしも動画を保存いたしました。バックアップも完璧です」

「ありがとう二人とも。でも、大袈裟だよ」

「そんなことないよ。これ、世界中に配信されてるんだよ?」

「すっかり有名人だよね、美桜ちゃん」

 

 教室でもマンガのPVは評判になっていた。

 香坂が広めたのか。広めなくても誰かが見つけてグループチャットに流せばあっという間にみんなに知られる。少年マンガ自体には大して興味がなくても香坂が出ていると言われればみんな見るだろう。

 何人ものクラスメートに囲まれるあいつはもうすっかりお馴染みの光景だ。

 

 手の届かない存在。

 前に香坂が言っていた『高嶺の花』作戦は見事に成功した。

 こうなると並の男じゃそう簡単に手を出せない。

 香坂は女だっていうのに「男を選ぶ立場」を手に入れたんだ。

 

 それを「男に気軽に声をかけられないため」に使ってるのがなんていうか勿体ないけど。

 僕も「香坂美桜と同じクラスにいられる」というだけで他の男から羨ましがられる。

 何しろあいつは時間が経つほど可愛くなっている。恋たちと話しているのを聞く限りは「努力の賜物」らしい。肌の白さや髪の艶を維持したままどんどん女っぽくなって、可愛いの中に「美人」を入り込ませてきている。

 

 さすがに僕でももうわかる。

 香坂は可愛い。それも並の可愛さじゃない。

 

『お前、本当に勿体ないよな。香坂と付き合っときゃよかったのに』

 

 先輩がそう言う意味もわかるようになってしまった。

 

「本当、香坂さんすごいよねー」

「でも、私たちだって頑張ってるんだよ? その、湊君に可愛いって思ってもらえるように」

「うん。ありがとう」

 

 いつものように女子と話しながらもつい、その子たちの胸とか首、唇に目が行ってしまう。

 触ったらどんな感じがするんだろう。

 先輩から「実際に触った感想」はこれでもかと聞いている。もう一人の六年生はもう何人もの女子と関係を持ったらしい。

 僕が頼めばこの子たちだってたぶん、簡単にOKしてくれる。

 一回気になりだしたら止まらない。妄想が止まらなくなってなかなか夜に眠れなくなる。それもこれも、香坂の水着姿が去年より刺激的になったせいかもしれない。

 

 あいつは今年、撮影でも水着を着た。

 

 撮影でもらった水着を着て恋たちとプールにも行ったらしい。

 香坂の水着姿が載った雑誌は先輩も後輩も大切に保管することに決めたそうだ。

 先輩は好きなだけ女を触れるんだからいらないんじゃないかと思ったけど「それとこれとは別」らしい。

 

「……ほんと、ずるいよなあいつ」

 

 僕がこんなにもやもやしているのは誰のせいだと思ってるのか。

 あいつが誰とも付き合わないのに僕だけ誰かと付き合うのはなんか負けた気分になる。

 その上、あいつはマンガまで作ってる。

 僕はただ話の続きを楽しみにすることしかできないのに。

 

 話したいな、あいつと。

 

 聞きたいことは山ほどある。

 プライドとか気にしなかったら、の話だけど。

 別にそういうのはもう気にしなくてもいいのかもしれない。

 

 去年の調理実習とか、普通に話せた時だってある。

 気にし過ぎると余計に話せなくなる。そうなったらずるずる行ってしまうのはもうわかっている。

 こうやって同じクラスでいられるのもあと何か月かしかないわけだし。

 

「なあ、香坂」

 

 だから、僕はあいつに自分から話しかけた。

 三回目の休み時間。

 

「少し話せないか、二人で」

 

 途端、教室中が大騒ぎになった。

 なんでみんな人の話を聞いているのか。……なんて、今更文句を言っても仕方ないか。

 女子は噂話が好きで恋愛の話も大好きだ。僕が立って香坂の席に行っただけで何人もの女子が注目して、僕たちの言うことに耳を澄ませる。

 本当に面倒くさい。そう思っているのは僕だけじゃないようで、香坂が少し困ったような表情を浮かべる。

 親近感を覚えた僕はつい笑ってしまった。

 

「話すって、今?」

 

 席に座ったままこっちを見上げてくる香坂は何気ない表情。

 

『美人の無表情ってすごく怖くないですか?』

 

 後輩が言っていたことを強く実感する。

 可愛い女子が素の顔でいると「めちゃくちゃ興味なさそう」に見える。本当にこのまま話していいのか、なんて、どうでもいいことを考えてしまう。

 女子なんてそんなに気を遣う相手じゃないはずなのに。

 

「いや。できれば、ご飯食べながら、とか」

 

 でも、ここまで来たら後には退けない。

 きっかけを逃したら二度と同じようなことはできない気がする。

 それに、今更香坂相手にこんなに気おくれするとか馬鹿馬鹿しい。

 気合いを入れ直して香坂の目を見ると、

 

 くすり。

 

 綺麗な目の奥に小さくだけど興味の色が浮かんだ。

 

「いいよ」

 

 短い返答に心が大きく動いてしまう。

 それから香坂は小さく首を傾げて、

 

「でも、お昼は恋たちと食べる約束をしてるの。……ね?」

「うんっ。湊くんも一緒でもいいけど」

 

 当たり前のように傍にいる恋にそう言われた僕は咄嗟に「いや、二人きりがいい」と言ってしまった。

 当然、またクラス中が湧いた。

 ああもう、こうなったらどうにでもなれ。

 少し考えるようにした香坂は、そしてこう言った。

 

「早い方がいい? なら、スイミングが終わった後、どこかで晩ご飯を食べながらでどう?」

 

 嫌だ、という気力はもう僕には残っていなかった。

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