♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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美桜と湊(その4) 2017/10/3(Mon)

 突然、湊が話をしたいと言ってきた。

 告白? いや、そんなはずがない。

 でも、なんだか大事な話のようだったので早めに済ませようと提案。

 おかげで恋がずっとはしゃいでいた。そういうのじゃないって何度も言ったのに。

 

「でもでも、美桜ちゃん。もしかしたらもしかするかもっ」

「うーん、そうなったら困るなあ」

「え、OKしないの? 湊くんだよっ?」

 

 むしろ、湊に限っては他の相手よりもありえない。

 

「告白されてから考えるよ」

 

 とりあえずそう答えてお茶を濁した。

 食事をしながらという話だったので、湊には「どこで食べるか決めてメッセージ送っておいて」と頼んである。

 スイミングを終えて恋、叶音と一緒にアイスを食べながら「さて、どこに決まっただろう」とスマホを操作すると、

 

『悪い。母さんが晩飯作るって言って聞かないからうちに来てくれ』

「……は?」

 

 硬直。

 進展が気になって仕方なかったらしい恋がここぞとばかりに覗きこんできて、叶音までそれに便乗。

 表示されていた文面に二人はぽかんと口を開けて、直後、劇的な反応を見せた。

 

「こんなのぜったい誘われてるよ美桜ちゃん!?」

「あんた、お泊りセットの用意はある!? 下着は可愛いやつ!? 準備できてないならいったん家に帰りなさい!」

「え、恋はともかく叶音までそんな反応なの……?」

「なに言ってんのよ!? 男子から家に誘われるとか女の子の夢じゃない!」

「そうだよ、こんなチャンス人生で何回もないよ!?」

 

 だとしたらこれをスルーすれば平穏無事に暮らしやすくなるのか。

 っていうか女の子の夢って。アイドルとどっちが重要か聞いてみたら「話がぜんぜん別でしょ!?」と怒られた。アイドルになったら男の子から誘われる率も上がるんだから比べられない、と。

 いや、アイドル目指す理由に「男にモテるため」も含まれているのか。

 

「叶音ちゃん、どっちにしても下着このままとかありえなくない?」

「そうね。シャワーは浴びたばっかりだからまだいいけど、一日身に着けて汗もかいてるだろうし」

「もう十月だし匂い気になるってほどじゃないと思うけど」

「ぜったい駄目!」

 

 こういう時だけ意気投合した二人のせいで僕は一度家に帰る羽目になった。

 恋たちが「必須」とうるさいので泊りの可能性も含めて伝えると、お母さんとお姉ちゃんはもちろん、美空まで含めて大騒ぎに。

 

「おめでとう、美桜。頑張ってね」

「一番いい下着つけていきなさい。あ、香水も使う?」

「やったねお姉ちゃん。明日はお赤飯かなあ?」

 

 うん、よかった。美空はちょっとズレてるというかたぶんまだよくわかってない。

 お母さんはにこにこしながら僕に何かの薬を渡してくれる。

 

「これ、念のために持っておいてね。もったいないけど、美桜の歳だと使った方が身体のためにはいいかも」

「いやお母さん、美桜はまだ生理来てないから」

「あ、そういえば。……じゃあ、なにも気にせずできるのね」

 

 二人の会話からこの錠剤が何かはだいたい察しがついた。

 

「そういうのって男側が配慮するものじゃないの?」

「は、なに言ってるの? 妊娠したくない時は薬飲むのが普通じゃない」

「美桜。男性用の避妊具なんてほとんどアダルトグッズよ? ……あんまり人前では言わないようにね?」

 

 肉食系女子でひしめく世界でも配慮されるレベルなのか……?

 男の家に行くとか、橘家含めたら何回目かわからない。しかもお母さんいるらしいし。

 絶対そういう話にはならないだろうと思いつつ、家族が許してくれそうにないのでいちおう下着を高いやつに替えた。

 お姉ちゃんが「ぜったい白!」と言うのでその通りに。

 ブラとショーツだけを身に着けて姿見に映すと、自然にため息がこぼれた。何が悲しくて「彼氏と初めてのお泊りをする女子」みたいな準備をしないといけないのか。しかも相手はこっちの世界の僕だし。

 

「一応、スタンガン──は持ってないから防犯ブザー持っておこうかな。三つくらい」

「あんたそこまで嫌なの!?」

 

 なんとか準備を終えた後はお母さんが近くまで送ってくれた。

 

「無理にとは言わないけど、せめてその子とは仲良くね」

「うん、ありがとう」

 

 制服と明日の授業の準備まで終えた荷物を手に、送られてきた住所に向かうと、

 

「……よう」

「こんばんは。湊の母です。今日はようこそ。さあ、どうぞ中に」

 

 バツの悪そうな湊とノリノリのお母さんに出迎えられた。

 湊のお母さんは向こうの世界の僕の母さんより若くて美人だった。六年くらいズレてることもあるけど、それだけじゃなくて結婚年齢自体が早かったんだろう。

 僕の家族と同じくノリノリのお母さんになんとか余所行きの反応を返しつつ「どういうこと?」と小声で尋ねると「こんなはずじゃなかったんだ」との返答。

 

「適当にファミレスでも行こうとしたら、母さんが『夜は危ないから』って」

「でもそれでおうちにご招待って」

「僕もそう思うけど止められなかったんだよ……」

 

 気持ちはよくわかるので少年を責めるのはこれくらいにしておく。

 夕食の支度はほとんどできているらしく、キッチンからはいい匂いが漂ってくる。

 こういう時、普通ならお父さんの存在が気になるところだけど、当然のように燕条家にも父親は存在しなかった。嬉しいような残念なような。

 

「夕食はグラタンにしてみたんだけど、香坂さん嫌いじゃない?」

「はい、好物です」

「良かった。じゃあ、たくさん食べてね」

 

 燕条家のグラタンはきのこやかぼちゃが入っていて、我が家のグラタンとはまた違った味わいだった。これはこれで美味しい。

 男だった頃は「かぼちゃってご飯のおかずになるか? 煮物でギリギリじゃないか?」と思っていたけど美桜になってからは美味しく食べられている。

 他の家の食卓っていろいろ違って面白いなと思っていると、

 

「っていうか、なんでお前わざわざ着替えて来たんだよ」

「湊! 香坂さんになんて口の利き方するの!」

「気にしないでください。……着替えてきたのは燕条君からメッセージもらったからだよ。お呼ばれになるなんて思ってなかったし」

「ごめんなさい。せっかくだから香坂さんに来て欲しくて」

 

 お母さん主導だというのは確かだったようで、彼女は嬉しそうに僕に話しかけてきた。

 主に読モの仕事の話。

 女性としては(端くれとはいえ)ファッション業界に身を置いている人間の話が興味深いらしい。むしろ息子の扱いがぞんざいに思えるくらいでなんだか恐縮してしまった。

 デザートにプリンまでいただき、僕はすっかりお腹いっぱいに。

 お世話になるお礼として贈答用のクッキーを渡した(こういうのがさらっと常備されているあたり我が家もすごい)けど、お礼として足りただろうか。

 ともあれ。

 

「じゃあ、後は若い二人でごゆっくり」

 

 なんかお見合いみたいなセリフと共に僕は湊の部屋に案内された。

 

「……なんか、その。本当に悪い。母さんが本当に強引で」

「いいよ。うちの家族も似たような感じだったし」

 

 湊の部屋は「男の子」っていう感じがしてなんだかほっとした。

 シンプルな色調。ある程度片付いてればいいだろ、とばかりの散らかり方。たくさんの少年マンガ。ベッドなんか慌てて整えた感じが良く出ている。

 

「でもお前、このままだとたぶん泊まりになるぞ」

「あー。まあ、そうだよね」

 

 この時点で小学生は家に帰ったほうがいい時間。

 

「でも、燕条君の話をまだ聞いてないし」

「いいのか?」

「大事な話なんでしょ?」

「ああ。うん、まあ」

 

 微妙な歯切れの悪さを発揮しつつ、ベッドに腰かける湊。

 どうしたらいいのかといった感じで視線を彷徨わせた彼は「適当に座れよ」とまさに適当な指示を出してくる。

 床にはカーペットが敷かれているし別に構わないけど、クッションくらいは寄越せ。……ここは少し困らせてやるかと学習机の前にある椅子を引いて腰かける。

 

「っ」

 

 残念。スカートの奥を覗こうとしても無駄だ。ちゃんと隠してる。

 っていうか、男子のそういう視線って本当にわかるものなんだな……。

 

「それで、今日はなんの話だったの?」

「ああ、うん。その、マンガの話とかゆっくりしたことなかったなって」

 

 なんだそんなことか。

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